ロボゲー整備士を下に見る奴は、こうなってしまえば良い
お客様の態度に苦痛を感じましたら、自衛の為にブラウザバック等の検討をお願いします。
それとゲームタイトルが他作品と被っていて(著作権とか権利関係とかで)問題が有るよ、と思われましたら、ぜひ感想に報告をお願いします。
検討いたしますので。
「装甲は厚く、それでいて高い機動性を持たせるなんて無茶ですよ! しかもこんな予算じゃ、ご要望された水準以上の高性能な新品パーツでまともな機体を組み上げるなんて、夢のまた夢ですって!!」
「うるせぇ!! お前は整備士なんだよ! 整備士はパイロットの指示通りに作業をすれば良いんだ!! 口答えなんてしてんじゃねえっ!!」
「金銭面でも、物理的な面でも、無理なご要望には応えられません!!」
「だまれ!! お客様は神様なんだろ? さっさと仕事しろやっ!!」
「っ!!? ………………分かりました。 ただし値引きの代償として、アフターサービスを含めた責任を持たない仕事になりますが、それを了承の上でなら仕事に取りかかります。
良いですね? よろしければ、その旨を書いたこの契約書にサインして下さい」
「あー、分かった分かった。 だからさっさと仕事をしろ、良いな?」
地球の近未来。
人類はついに、仮想現実の世界へ安全に没入する技術を手に入れた。
その技術はやがて普及し、娯楽の業界にも……いや娯楽の業界だからこそ積極的に取り入れられ、フルダイブVRゲームが世に溢れるまでになった。
Metal Smoke Field。
そんなタイトルのVRゲームも、その溢れたものの内のひとつ。
これはMMORPGの一種で、いわゆるロボットゲームだ。
プレイヤー達は世界をロボットに乗って暴れまわり、プレイヤーが操作するキャラクターをスキルで成長させ、それと一緒に各地で集めた資材でロボットのパーツを造り、ロボットを強化して行く。
最初はプレイヤーキャラクターはただのコミュニケーション用の存在だったのか、ロボットで戦う殺伐とした世界に相応しくない変なキャラクターも作れる自由度が、このゲームのある種の魅力となっている。
プレイヤーの大まかな遊び方はいくつもある。
パイロットとして遊ぶ正統な遊び方。
ロボットをまるで戦車みたいに改造する、戦車乗りプレイ。
ロボットをキャンピングカー代わりに使い、戦闘は己の肉体で行うソルジャープレイ。
採掘重機として使う、鉱夫プレイ。
トラックとして使う、運び屋プレイ。
タクシーやバスとして使う、ドライバープレイ。
移動するステージとして使う、パフォーマープレイ。
そして、ロボット関係の整備や製造スキルをメインにした整備士プレイ。
「ふう……最近はああ言うのが増えたなぁ」
額の汗を手の甲で拭いながら呟くのは[マス(ラ)オ]と言うプレイヤーネームを持つ整備士。
姿は作業帽を乗せた140㎝サイズの生鰹に、機械式の義手・義足をブッ挿した用な外見(義足により実質的な身長は170㎝以上となる)を持つ、珍妙な魚介類。
こう見えても彼(?)は、このゲーム界隈で凄腕として有名な整備士である。
「先輩、あんな無茶な注文を受けちゃって、大丈夫なんスか?」
そして、元々あのプレイヤーの応対をしていたが、手に余ると[マス(ラ)オ]に助けを求めた同僚の整備士プレイヤーである[深谷@ワニ王国](以降は[フカ]と表記)だ。
姿は頭に作業帽を乗せた2mサイズの鮫で、手足と背鰭と尾も鮫の頭と言う、七頭鮫。 おそらくチェーンソーが弱点。
彼(?)の腕もかなり良く、大抵の客なら満足出来るほど。
なお、彼ら(?)は【おさかなモータース】というギルドのメンバーで、その拠点でこうして店を営んでいる。
グループメンバーは他にもおり、メンバーは魚の外見以外のキャラクターも在籍して、全員が各々気ままに活動している。
ちなみにあの態度が悪くオラつきながら無茶振りをしていった、プレイヤー名は[KOU]とか表示される、ローマ字系プレイヤー。
普通の人間の形で、腕や目に多少の機械化を施した、良く見かける外見のキャラクター。
「大丈夫大丈夫。 ああいう輩に相応しい機体を、組み上げてやるだけだから」
「う~ん、それで先輩が良いって言うんなら、それで良いんスけど……」
魚介類に詰め寄る鮫だが、当の魚介類はとても軽い調子だ。
もちろんこんな軽さに不安を覚える鮫だが、助けを求めた相手である為に、あまり強く出られなかった。
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[KOU]が注文した機体の、引き渡しが行われる時間になった。
が、それからしばらく経ってから。
「よお、完成したんだって?」
「ええ、なんとか。 高度な注文でしたので、苦労しましたよ」
「やっぱり出来んじゃねーか。 無茶な頼みでも、してみるモンだな」
時間からおよそ1時間はたっぷり遅れてやって来た[KOU]が、なんの恥も外聞もなくオラつく。
そんな奴に営業スマイルでサラッと毒を吐く魚介類。
そしてそれに気づかぬまま、素でクズ発言を返す[KOU]だった。
魚介類の視界の端には、遅刻への怒りとこんな奴の注文を真面目にこなさなければならない仕事を、魚介類にさせる流れを作ってしまった悔しさと申し訳なさが混ざった、何とも言えない顔をした鮫がいる。
が、それを見ないふりでスルーする。
「それで、こちらがスペック表と、この機体の注意事項となります」
「おっと、そんな面倒な話はいらねーよ。 使っている内に、そんなのは分かるだろ」
ゲームの取引システムで精算が終わり、機体情報の解説を始めようとする魚介類に、待ったがかかる。
「そうですか? 知っておかないといけない情報も有るのですが」
「いらね。 知りたくなったら、こっちのステータス画面で確認すりゃー良いんだ。 チマチマ聞くなんてメンドいからな」
食い下がる魚介類だが、聞く耳を持たない。
それどころか早くロボットに乗って暴れたいらしく、ロボットをチラチラと見ながら少しイライラを混ぜて、話を終わらせようとしてくる。
「…………そうですか。 でしたらどうぞ、お乗りになって下さい」
「おう! 買うモンも買ったし、もう用はねーよ。 じゃあなっ!」
「はい。 ご来店ありがとうございました」
[KOU]は頭を下げる魚介類を尻目に、ロボットにさっと乗り込み、荒々しい操縦でガレージから去って行った。
「先輩先輩! あんな奴になんで、そこまで丁寧な接客をしたんスか!? それほどの価値なんて無いっスよ、あんなのに!!」
客が完全に視界から消えるまで最敬礼し続けた魚介類に、批難をぶつけてしまう鮫。
だが、その魚介類はなんとも思っていない様子。
返事をしたのも、グループのメニューを開いて何か操作をしてからだ。
「アレで良いんだよ。 仕込む為に必要だったんだから」
「……仕込む? 何かやったんスか?」
「実際は何もしてない」
「先輩~……」
なんとも矛盾すると言うか、全然理解できないと言うか。
そんな言動に恨みさえ抱いてしまう鮫だが、魚介類の目はギラついていた。
「いや本当に。 注文通りにロボットを組んで、こんな客に特殊契約で売りましたよ~って、ゲーム公式の掲示板に報告しただけだから」
「…………特殊契約の部分以外は、本当にいつも通りなんスね」
目のギラつきにちょっと期待があった鮫だが、いつもと変わらぬ魚介類にガッカリする。
「で[フカ]としては、このパーツ構成をどう見る?」
そのガッカリする様子を他所に、さっき売った機体情報を鮫へ見せようとする。
これに応じた鮫だが、スペックを見ている内に「あっ」と気付いた。
「これらのパーツは全部、罠パーツじゃないスか!?」
「そう言うことだな」
罠パーツ。
基本的に敵を倒すと落ちる、ドロップ品として入手するのが主なパーツだ。
それは一見すると、改造する余地はないが、十分に高性能なパーツだ。
しかもパーツにリミッターが付いていて、それを外すと超が付くほど高性能化する。
罠パーツと呼ばれる類はリミッターを外すのに必要な物も少なく、容易に外せるのだ。
だが、それこそが罠である。
重いマイナス効果が発生するのだ。
効果はパーツ毎にまちまちで、耐久値の損傷が激しくなったり、燃費が極端に悪化したり、発熱量が恐ろしく増加したり、制御不能になるほど暴走したり。
そして一度外すと、このパーツ群だけ再びリミッターを付けられない。
だからこそ、プレイヤー達の間で罠パーツと言われる。
拡張性が無いパーツ群で、普通に高性能程度では需要の限界は低い。
更にマイナス要因が潜んでいるパーツなんて、愛機に組み込みたい連中も少ない。
更に更に、リミッターを外さなければ一応高性能だからと、外さないで運用し続けられない。
ゲームのマスクデータを見つけようとする、知りたがりの検証班と呼ばれる者達でさえ特定できない条件で、勝手に簡単にリミッターが外れるのだ。
こんな制御不可能な爆弾を、好き好んで持ち歩く者など、そうそう居ない。
つまり安いのだ。
その安物ばかりを買い付けて、組み上げた。
高性能なのに低予算なら、これで組まないと予算オーバーになるだろう。
それを使い、少ない改造箇所のひとつである外装変更により、パッと見では罠パーツだと見抜けないようにしたのだ。
「本来なら直線が多い見た目のパーツが、曲線を多用したパーツになってるっスね」
「これだけでも印象がガラッと変わって、悪名が高かろうがすぐには分からんだろ?」
「そうっスね」
なおガワを変えたと言っても、スペックに変更は無い。
見た目を変えられるとしてもサイズ等も含めて限界があり、無茶が過ぎる改造は出来なくなっている。
曲面だからって実弾が滑りやすくなる等は発生しない。
いわゆるスキン変更みたいな扱いで、プレイヤーの個性を出すための、一種の香り付け要素なのだ。
「ヒトの話を聞かないヤンチャ坊主が、ステータス画面で機体パーツのリミッターを見るだろ? そしたら何をする?」
「全部外してみたくなるっスね。 間違いなく」
「外したら?」
「ドカーンっスね。 大抵は」
魚介類の所業に理解が追い付き、表情が明るくなってくる鮫。
「ドカーンっとなったら、どうなる?」
「ここに怒鳴り込んでくるっス」
「あいつはさっきブラックリストに入れて、ガレージへの出禁状態にした」
「そしたら、ゲームの掲示板にグチるっス」
「そこには既に、こっちからどんな機体を組み上げたか報告済み。 しかも、こちらはアフターサービス不要で向こうが全責任を負う契約もしたと添えてある」
「ただの掲示板の笑い者っスね。 それ」
「笑い者にされて怒って、掲示板で暴れたらどうなる?」
「運営から注意や警告。 程度次第でアカウント凍結、場合によっては、いきなりアカウント停止で追放もあり得るっスね」
「なるだろ?」
「なるっスね?」
「もし暴れない、分別あるプレイヤーだったとしても、機体を修理するか組み直しで更なる出費だ」
「リミッターを外したなら、間違いなく組み直しっスね」
「ウチは出禁になったし、別の所に頼もうとすれば、こっちが掲示板にバラまいた情報から、罠パーツ機体オーナーだと知られる可能性があるね」
「知られてたらメッチャ恥ずかしいっスね」
「それを避けるのには、NPCのガレージを使うだろうね」
「NPCのは基本的な初心者用パーツしか取り扱わないから、良い機体は組めないっスね」
「どうだ、イヤな客への報復になってるだろ?」
「十分、なってるっスね」
このやり取りの間、魚介類と鮫はとても悪い顔をしていて、おまけに背景に禍々しいオーラを背負っていたと言う。
この[マス(ラ)オ]達の手法が整備士間で勢い良く伝わり実行され、態度の悪いプレイヤー達は肩身の狭い思いを味わったとか。
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NPCのガレージでもパーツ製造を素材持ち込みで依頼できますが、完成品の品質は必ず標準だし、そこらのガレージより製造に失敗する率も高いので損しかありません。
ロボットもので整備士を時々、下僕かなんかみたいな扱いをする場面とか有るじゃないですか。
アレって悪手ですよね。
命を預ける機体を手入れしてくれているのに、そのヒト達を無下に扱うって。
重要パーツの部品を抜かれたり、わざと整備不良にしたり。
ここぞって時に、機体に裏切られて御陀仏する可能性がね。
整備士としては、自分の整備ミスでヒトの命が左右されるなんて、悪夢みたいな話だって聞きます。
でも本当にイヤな相手なら、それを意図的にされるかも知れない。
そんなのは本当にイヤですわ。
そう言った方々とは、良好な関係を持ち続けたいものですね。
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蛇足
メタスモのゲーム設定
ほぼ未設定。
荒廃した世界でも良いし、荒廃しかかっている世界でも良いし、世界大戦真っ最中の世界でも良いし、宇宙からの侵略者に抵抗する世界でも良い。
特に決まっていないが、ロボットに乗って戦う要素が主軸のゲームである。
メタスモのキャラクタークリエイト事情
とても自由なのは書いた通り。
普通の人間型から、動物耳や尻尾を着けたタイプから、メカメカしいタイプから。
作中に出た魚型とか、精霊馬とか言われるキュウリやナスに細い棒を挿したモノとか、機動する戦士に出てくるハ□みたいなコミュニケーション用オモチャみたいなのとか。
ただの犬や猫な外見のもいれば、妖精みたいなファンタジーチックなのもいる。
もちろんそれらは基準に用意された物で、そこからさらにカスタム可能。
なんとも摩訶不思議な、統一性も無いプレイヤーが操作して街やダンジョン等を闊歩するキャラクター達。
なお、4足獣のキャラクターでも、普通に2足歩行可能。
ソルジャープレイだって出来ちゃう。
……どこまでも狂気に染まったゲームだが、原因はプレイヤーの、生身で戦いたいとか言う狂った要望に答えてしまったから。
元来はキャラクターなんて、街や格納庫や通信で、歩き回ったり会話したりする程度に使われるだけだったから。
なのにソルジャープレイ要素を足してしまったので、カオスに。
鉄と煙に煙る世界なのに。
殺伐とした世界観にちょっとした癒し要素として混ぜた、キャラクタークリエイトのトンチキっぷりが。
カオスをより加速させる。