先送り
ただ、聞き流すだけのつまらない授業。
それは毎日続いて聞かないといけない。
毎回、時計の針がもっと早く動いて欲しいといつも思うけど時計は寸分狂わず、一秒一秒動いていく。それが一般的……いやみんなの流れ。
もう、高2の夏になるけど、あまり頭が良くなく、もう授業についていけず、形式的に教科書を開いている。
そして、いつもの様に時計を見ながら、針がもっと早く動く事を願っていた。
その行いは無駄だと分かっている。けれど、私にはこの授業には苦痛以外に何でも無かった。
けれど、今日は違った。私の視界が、黒い布を目に覆い被られたように真っ黒になり、そして数コンマが経った時、黒い布は取れ、いきなり入ってくる眩しい光に目が驚いた。
徐々に視界がクリアになっていき、そこには、いつものように教室の風景が広がっている。でも、先とは少し違う。クラスの皆が自由に立ち歩き、そして、先まで授業をしていた先生がいなくなっていた。
私はふっと、時計を見た。
時計の針はかなり進んでおり、もう、授業が終わっている時間だった。そして、今は休憩の時間になっていた。
こんなに時計が早く動いている事はありえない。時計というのは寸分狂わず、正確に刻むはず、なのになんで進んでいるんだろう。寝ていたのかな?
きっと、目が閉じて眠くなり、そしていきなり起きたんだろう。だから、暗くなって急に視界が明るくなったんだろう。
でも、おかしいな。今の授業の先生、居眠りにうるさいから注意してくるはずなのに、運が良かったのかな……まあ、気にしないとこ。今は休憩時間を楽しもう。
そう思い私は隣の席にいる友達に声を掛ける。
「こよみ、何してるの?」
隣の席に座っているのはこよみ。高1から友達になった子。少し厚いレンズのめがねを付け、黒髪にみつあみ。本ばかり読んでいるおとなしい女の子。人と話すのが苦手なので友達が少ない。そして面白い本をけっこう持っている。
こよみは少しもじもじしながら口を開いた。
「うん。新しい小説を読んでいるの」
「どれどれ」
私はこよみが持っている本に目をやったそれはピンク色をメインに着飾った可愛らしい表紙とタイトルを見て、読んでいるのは恋愛小説だということが分かった。
「こよみは好きだな。本を読むくらいなら、実際の彼氏を作りなさいよ」
私はそう言ってからかうと、こよみは顔を赤くする。
「だって、無理だよ。男の人なんか恐いもん。那美ちゃんみたいに話し掛けられないよ」
「大丈夫。恐くないよ。怖い時は、男女が密室になった時だけだよ……」
そう言い終えると頭に何か衝撃を受けた。多分、誰かが後ろから私を叩いたみたい。痛いな、と文句を言いつつ、後ろを振り向くとそこには見知った顔の子がいた。
「那美!! 教室で変な事は言わない。そして、純粋にこよみには変な事を教え込ま無い」
その後ろに言った女の子は重苦しそうなストレートの黒髪ロングヘアー。そして背はとても高く、モデルようなスタイル。
「良いじゃん美津枝。こよみはもう高2だよ。彼氏の1人や2人作らないといけない年だよ。だから、男について少しくらいは知識はないといけないよ」
「その意見には考える余地はあるけど、こよみは変わらなくて良いのよ」
今、話しているのは私の友達、美津枝。大人ぽく、白い肌の持ち主のうえ、モデル体型の女の子。それで黒髪のロングだから男にかなりモテる。でも、男嫌いのため、彼氏はいない。そして、同じ学年なのに、こよみを実の妹の様に可愛がる。まあ、こよみの場合は、危なっかしくて世間ずれした女の子は中々いないから変えたくないのも分かる気がする。むしろ、変えないままの方がいつもの様にからかう事が出来ておもしろいし。
こう言う会話をするのが私達の日常。けれど、今日は少し違った。
「そういや、あんた今日はスラスラと答えられたはね。何で?」
「何の事?」
私は美津枝が何の事を言っているか分からず、聞き返した。それを聞いたこよみは美津枝に説明する。
「私がノートに答えを書いて教えたから答えられたの」
「ふーん。だから、苦手な数学も答えられたのね」
私は2人が何を言っているのかが分からず質問した。
「ねえ、2人とも何の話?」
2人は一緒に首を傾げた。そして、美津枝が話し始める。
「さっきの授業であんたが当てられたでしょ。いつもなら、間違った答えを言って、怒られて席に座るのに、今日は答えられたから気になっただけよ」
さっきの授業? 先の授業は最初から寝ていたはずじゃなかったけ? そう、急に視界が暗くなって眠ったはず……
私の疑問が頭の中で迷走している中、こよみは先の話の補足する。
「いつも、那美ちゃん。当てられても答えられないで席に座る事が多くて、可哀想だから、今日は助けてあげようと思って答えを教えたの」
2人とも、何を言っているのだろう。私はさっきの授業を眠っていたはず、なのに、2人は私が起きていて、その後、当てられたけど、ちゃんと答えれたのと言っている。そんなはずはない。私は眠っていたはず、
私はもしかしたら勘違いをしているかもしれないと思い、確認を取ってみた。
「ねぇ、先の授業。私、起きてたの?」
私の疑問に2人は答える。
「私が知っている限りだと、開始から10分は起きてたわよ。ちゃんと当てられた答えてたんだから」
「うん。那美ちゃんは最初から最後までちゃんと起きてたよ。いつもの様にノートは取っていなかったけど……」
2人の会話に頭が混乱した。
暑い8月。学校の放課後、私達3人は一緒に駅まで歩いて帰っていた。
私達3人はいつも仲良く話していると、時々、3人の性格がそれぞれ違うのにこんなに馬が会うのかたまに不思議に思う事がある。
私はアクセサリーやカラオケが好きな、今時、女子高生な感じの女の子。あ、でも、ガン黒とかしない。今時、ガン黒ははやらないから、軽めに茶髪をする程度。美津枝は物静か? いや、クールで冷たい感じ女の子。雰囲気的に厳しい風紀委員と言う感じ。
こよみはおどおどしていている文学少女と言うのが適切かな。でも、困っている人を助ける優しい女の子。性格はこんなに違うのに仲良く出来るのは何故だろう?
こういうのは出会い方で性格とかは関係ないのかな。
そう思いながら歩いると、人通りが多い事に気づく。見ると、もうすぐ駅前に着くところだった。私は駅で2人を見送り、別れた。
そして私は家に向かって歩いていると、景気の良い明るい音楽が聞こえ、音が鳴るほうに顔を向けた。そこは美津枝と仲良くなったきっかけのゲームセンターだった。
私と美津枝が出会ったのは高1の春の時にたまたま街を歩いてたら、ゲームセンターのクレーンゲームに釘付けになっていた美津枝に見つけて、話し掛けたのがきっかけだった。実を言うと美津枝と話したのがここが初めてだった。なんか、教室の美津枝はクールで冷たいオーラを出していて話しづらく、きっかけもなかった。
けれど、休日の時に、たまたまクレーンゲームをやっている美津枝を見てイメージが崩れた。
クールな美津枝の事だから、アクセサリーや、お菓子など遊び程度だと思っていた。けれど、美津枝が狙っていたのはペンギンのぬいぐるみ。それも、最近、流行りだした。『ペン太君』のぬいぐるみだった。しかも、抱き枕にサイズのぬいぐるみに挑んでおり、いくらなんでも素人には絶対にとれない景品だった。
最初は遊びかな、思っていたけど、美津枝はものすごい形相と、時折、八の字のまゆをゆるませてうっとりした顔をしている。私は面白そうと思いながらばれないように近づき見ていた。
美津枝はサイフから500円玉を入れて挑戦を始めた。
クレーンを目で追いながら体を動している。そして、一度止めて次のボタンを左手で押すとまた体もクレーンに合わせて体を動かしている。そしてボタンを放す。クレーンは落ちた。けれど、ターゲットが大きすぎて捕らえきれず、基地へ撤退。その撤退姿に悔しがる美津枝だった。
私はその様子を見て楽しんでいた。
またやっては、落ちる。やっては落ちるの繰り返し。教室ではあんなにクールな美津枝が、人目をはばからず、悔しがる姿のギャップに少し可愛くて面白かった。
そのまま、私は様子見ていた。相変わらず、美津枝は執念で取ろうとしている。多分、サイフを気にしていない。少なくとも5000千円は使っていた。
そして美津枝はまた失敗してUFO戻って来た。美津枝はサイフを開けて、またやろうと小銭入れを探していた。けれど、中々、小銭が出て来ない。今度はお札入れを探し始めた。覗き込むようにサイフの中を見ていたが、サイフを閉じてガラス越しにある景品を見ながらため息をついていた。
そのまま、何もせず、ただ美津枝はクレーンゲームを見ていた。後ろ姿で顔は見えないけど、物欲しそうな顔をしているがよく分かった。
私は美津枝に気づかれないように近づき、肩を叩いた。叩いた瞬間。美津枝は体全体に電流が流れたかのような驚き、俊敏な早さでこちらを向いた。
「こんにちは私が誰か分かる?」
美津枝は口をパクパクしていた。けれど、驚いているのを悟られたくないのか、
「同じクラスの那美さんよね」
と涼やかな声で言った。
「美津枝ちゃんは何やっているの?」
と私は白々しく、クレーンゲームの台を覗き込み、
「うわー、これ、最近流行っているペンタ君のぬいぐるみだ。欲しいの?」
「いや、ただ単に暇つぶしだから」
「5000円を使って暇つぶし?」
わざと、首を傾げた私。これほど、自分が白々しい人間だと思った事は無い。人をからかうのが好きだからこれは止められない。ほら、美津枝ちゃんの顔がタコみたいに真っ赤になってきた。
「どこから見てたの」
「えーと、お金を入れて悔しがる姿を何十回見た後、物欲しそうな後ろ姿を見ながら肩を叩くまでかな?」
「全部じゃない」
「だって面白かったからずっと見てたんだもん」
それを聞いた。美津枝は無言でどこかに行こうとした。怒らしちゃたかな? とりあえず、いなくなる前に肩を掴む。
「那美さんまだ何か?」
美津枝はやっぱり怒っていた。このまま、怒らして帰らすのも悪いからぬいぐるみを取ってあげよう。
「待って、私がぬいぐるみを取ってあげるから」
「いいわよ。ただ単に暇だからやっただけなんだから」
「まあ、そう言わずに」
私は美津枝の手を引っ張り、再び、クレーンゲームの前に立たせた。そして、ぬいぐるみを取るために店内と台の中を確認した。
「見ていて私が取ってあげるから、美津枝ちゃんは止めればいいから」
「止める、て?」
と小さい声で聞いた美津枝を、私は無視してお金を入れた。
1回目。持ち上がりもせず、戻る。2回目、ちょっと持ち上がって落ちる。3回目、態勢が変わっただけでまた落ちる。
美津枝ちゃんはその姿を見て落胆した顔をした。やっぱり期待してみたい。私は気にせず、続ける。
4回目、ちょっと持ち上がって落ちる。そして5回目は……落ちる。
「むきー壊してでも取ってやる」
私は取れない台にこぶしでガラスを破ってぬいぐるみを奪い取ろうとした。
「ちょっと止めなさいよ」
美津枝はその姿を見て後ろから羽交い絞めをしながら止めに入った。
「だって、3万使って取れないんだよ。こうなったら、壊してでも取ってやる」
「3万も!! って、駄目だってば」
周りの人達は騒ぎになっている私達をぼーぜんと見ていた。その騒ぎに男の店員さんがやって来た。
「どうかしましたか?」
美津枝は私を羽交い絞めにしながら、
「知り合いがぬいぐるみが取れなかったという理由で壊そうとしているんです」
「だって、3万も使ったんだよ。どうしても欲しいんだもん」
押さえつけらたまま、私は殴ってでも取ろうとしたが、店員さんも止めに入る。相手は男のため、むやみに私の体を触ろうとぜず、言葉だけで止めに入る。
「お客様。申し訳ございませんが、台を叩こうとしないで下さい。壊れてしまいますから」
私はその言葉に、
「だって昨日、今日もやって3万使ったんだよ。それでも取れないんだよ。どうしてもペンタ君が欲しいんだもん」
店員さんは何度も言葉で止めるが、私はそれを気にせず、台を壊そうとした。店員さんも困まり果て、いつまでも押さえつけている美津枝はこの状況が恥ずかしさか、
「早く帰るよ」
と言い続けていた。けれど、私は諦めず、騒いでいだ。すると、店員さんはため息をついて、
「分かりました。3万円も使うほど、この景品が欲しいという熱意が伝わりました。このペンタ君というぬいぐるみをあげます。ですから、これ以上、騒がないで下さい」
「本当!!」
「本当です。だから騒がないで下さいね。今、カギを取ってきますから少々お待ちください」
そう言って店員さんは奥へと行った。そして、数分後、店員さんは戻って来て、クレーンゲームのガラスを開けて一番、大きなペンタ君のぬいぐるみを抱き、私にくれた。
私は笑顔をしつつ、少し上目遣いで、ありがとうございます、とお礼を言った。
店員さんは
「次はこういう事はしませんからね」
と注意を受けたが、私は気にせず、ペンタ君を抱いたまま、美津枝と一緒にゲームセンターを後にした。
私達はゲームセンターを後にした後、近くの公園のペンチで休んでいた。と言ってもブランコや鉄棒がない。ただペンチしかない。これを公園をというのは少し疑問に思うけど、
隣にいる、美津枝はゲームセンターを出てから黙っていた。とりあえず私は景品を渡す。
「はい、美津枝ちゃん、ペンタ君だよ。約束通り上げるね」
「え、あ……ありがとう」
不意に話し掛けたから驚いたみたいだった。そしてペンタ君がもらった時、美津枝は一瞬顔が緩んだが、すぐに顔を直し、私に突き返した。
「やっぱり駄目」
私はなぜ返されたから分からず、理由を聞くと、美津枝は言う。
「だって、そのぬいぐるみ、3万も掛けて手に入れたんでしょ。私は5千円しか使っていないし、それに店員さん那美さんにあげたんだから受け取れないよ」
それを聞いて私は少し笑った。私みたいにがっつかないんだなあ。それにまだ美津枝は私の嘘に気づいてない。
「大丈夫。実際には500円しか掛けてないから、ぬいぐるみが欲しいがための、うそ、あそこの店員さん女の子には弱いから利用したんだ」
「きたない」
「良いじゃん。実際5000円掛けたんだからもらう価値はあるよ」
それでも、納得しようとしなかった美津枝だが、最終的に私が言いくるめて納得した。そして、自分のペンタ君になった美津枝は幸せそうな笑顔になっていた。その笑顔なら男は瞬殺出来る。
その後、美津枝は私が「家に可愛いのが沢山あるよ」と言ったら、一度渋ったものの結局私の家に付いて行った。
最初はお互い話した事ない同士。最初は気まずかったけど、同じクラスだったのと、大きなペンタ君のおかげで徐々に打ち解けていた。
しかし、あの時の美津枝はとても可愛いかった。普段、クールでまゆを逆八の字にしているのにペンタ君を渡した瞬間。頬が緩み方、さらに私の部屋に付くと、完全にきつくて冷たい雰囲気が完全になくなり、目を輝かせていた。3回目の訪問には、私の許可なく、勝手にぬいぐるみを頬ずりする位まで馴染んでいた。この姿は中々見れないと思い、自分の携帯のカメラでぬいぐるみを頬擦り美津枝を撮った。
その写真を撮った瞬間。いつもの鋭い目に変わり、ムチで取られたかのように私の携帯を素早く取り上げられた。そして、無機質な電子音を鳴らさした後、美津枝の笑顔写真を消された。ああ、あの写真もう一回撮りたい。ちょっと前に出来た美津枝のファンクラブの人間にその写真を売ったら良い小遣い稼ぎになるのに、いや、イメージが崩れると言って売れないかも。まあ、男嫌いの美津枝にとってファンの存在はとても迷惑しているみたいだけど、
昔の事を思いながら私は家路に着いた。
夜、私は自分の部屋でこよみに借りた漫画の本を読んでいた。こよみが好きなジャンルは、少女漫画とホラー漫画が中心で一番好きなのは『フルーツバスケット』と言う漫画が好きだと言っており、特に主人公の女の子のひたむきな純真さが好きだと言っていた。純真さで言えば、ある意味こよみも負けていないと思う。あと、天然なところも漫画の主人公に負けていない気がする。
こよみに彼氏が出来たらどうなるんだろう。うーん……想像付かない。とりあえず、男に襲われそれて余計に恐くなる。いや、逆に羊みたいにおとなしいから守ってあげたいと庇護欲に駆られる男がいるかもしれない。
そんな、馬鹿な事を考えていると携帯におとなしい曲が流れた。
私は携帯を取って中を開く。そこには、メールが一通が届いていた。
こよみからだ。うわさをすれば何とか言うけど、まさにこの状況を言うんだなあと思い、私はメールの内容を見た。
『明日の10時に服を買いに行こう』と一言書いてあった。
私はすぐに「いいよ」とメールを送り返し、また、漫画に目を戻した。
すると、数分後、また、メールが届いた。私は携帯を開き、内容見る。
『美津枝ちゃんは明日用事があるから来れないて、残念(悲)』
こよみは淋しがり屋だから仲の良い私と美津枝が居て欲しいんだと思う。1人でも欠けると淋しいわけか、とりあえず、励ましのメールを送ろう。
『仕方ないよ。月曜日になったら会えるから我慢、我慢。私がいるから大丈夫』
と送るとすぐにメールの返事が帰ってきた。
『ありがとう。明日お願いします』
あいからわず、丁寧な文章だなと思いながらふたたび漫画に目を落とした。
暑い陽射しにあたりながら、私は人込みで騒がしい駅前でこよみと待ち合わせしていた。
時間的にもうそろそろ来るはず、私は携帯を開けたり閉めたりして待っていた。すると、携帯の待ち受け画面から手紙の画面に変わった。
『ごめん。電車を乗り間違えちゃた。30分くらいちこくしちゃう。本当にごめん』
ああ、こよみは方向音痴だから変な所に行くけど、今日はすぐに電車を乗り間違えに気づいただけでもまだましかな。いつもなら、気づかないでどこかに行ってしまう事があるから、
とりあえず、私は『分かったよ。待ってる』と送り、そのまま待つ事にした。
しかし、暇だなあ。
何でこんな可愛い女の子が立っているのに男は声を掛けないの。
せっかく、男が好きな肩ひものノースリーブを着てフリフリのフレアスカートをはいているのに、なぜ、誰も声を掛けない。
美津枝はモデル並みのスラーとした体型でモテて、こよみはひつじのような守って欲しいオーラでモテて、何で私だけ声を掛からないの!
ううーけっこう自信あるのに、茶毛だから駄目なの、黒髪がそんなに人気なの、今の時代ヤマトナデシコみたいな女はそうそういないことに気づけ、男共。
私はこの30分。どうやって時間を潰せばいいか考えていた。けれど、移動するのにも中途半端な時間になるから動きたくない。ああ、この前みたいに簡単に時間が流れないかな。
そう思いながら目を瞑った。また、時間が進まないかと思って……
すると、ちょんちょんと誰かが私の肩を叩いた。
男だ。きっと、私の価値が分かる男だ。
私は最高の笑顔で振り向く。
「初めまして那美です」
すると、立っているのは男ではなく、薄い青のワンピースを来た女の子。しかも……
「えーと……初めましてこよみです」
……だった。
待ち合わせの後、私達はすぐ近くにあるマックでご飯を食べていた。
友達同士なら、ここで会話を楽しむはずなんだけど、今は終始無言。そんな気まずい雰囲気の中で先にこよみは口を開いた。
「ね、那美ちゃん。先の言葉はどういう……」
「言わないでこよみ。あれは事故よ。そう、事故なのよ」
思い出すだけで恥ずかしい。男だと思って笑顔で振り向けば、そこにいたのは女の子。しかも友達がいたなんて、どれだけ、恥ずかしい事か、美津枝が聞いたら絶対腹を抱えて笑われてしまう。話題を変えよう。
「けれど、こよみ。メールで遅れると書いてたけど、時間大丈夫だったね」
そうだ。こよみが遅れるてメールが来たけど、たった数分で来たせいでこんな恥ずかしい事が起きたんだ。恨めしい。
するとこよみは首をかしげ、小さい口で食べているハンバーガーを置いて口を開く。
「そんな事無いよ。30分くらい遅れたよ」
「え……でも、メールが来てから数分で付いたと思ったけど……」
「でも、ほら」
こよみは指を指してアピールした。私はその方向に顔を向けた。そこには壁掛け時計があった。
「待ち合わせが12時でしょ。けれど、もう、12時半だよ」
確かに時計は12時半を指していた。待ち合わせ場所から目の前にあるこの店に移動したとしても数分程度、30分も経つわけがない。でも、こよみはメールが来てから数分で来たはず、う〜ん。時計の進み方が異常。
そして、食事を終えた私たちはマックを出た。そして騒がしい交差点を渡り、10分ほど歩き、なじみの服屋に入る。
「うわ、いつもながら色々揃ってる」
キャミソールに、リボンの付いたワンピース。あ、新しいスカートもある。ここの服屋は種類が豊富でセンスがとても良い。ただ、奥の方に巫女服、メイド服のようなマニアックな服があるのはとても疑問に残るけど……店主の趣味かな?
そう思いながら、私は今日の目的であるこよみの服選びを始める。
「何にしようかな」
鼻歌交じりで服を探す。素材の良いこよみだ。服のセンスさえ良ければ男受けするのは必至。胸も小さくはないから開いた服を着せるのもあり。
「という訳でこれ」
私はこよみに服を渡した。こよみは少し青ざめて「恥ずかしくて着れない」と言う。
「ち、駄目か」
着ないと分かりつつも、いつも最初に過激な服を渡す。普段、地味な服を着ているこよみが、こんな過激な服を着るとどうなるか、見てみたくてやっているんだけど、そう簡単に無理か、でも、着せてみたい。今日は美津枝がいないから無理矢理でも服を着せるチャンス。美津枝がいたら服を渡した後、すぐに私を叩かれて商品棚を戻される。そして、
『そんな服をこよみに着せるな』と怒る。けれど、今日は番犬が居ないチャンス。
「そんな事をないよ。こよみ。 こよみなら、この服を着こなせる。胸もあるほうだから大丈夫」
私はとにかく誉めまくる。
「いっその事、めがねを外して、髪をみつあみじゃなく、サラサラのロングに変えて、そこで胸をガバーと開いた服を着れば男は振り向くよ」
最初は嫌がっていたこよみも徐々に納得し始め、最終的には、
「分かった。着てみるよ」
と、言って試着室に入っていた。
にやにやしながら私こよみが着替えが終わるのを待った。
試着室の中でごそごそしてから数分後。こよみが出てきた。
「あの、とても恥ずかしいんですけど」
「大丈夫。大丈夫。とても似合っているよ。ついでにめがねを外してみて」
その言葉を聞いてこよみはめがねを外して姿勢を正した。
胸の谷間が開いた服を着せて、さらに、単パン程度の長さのジーンズを着せる事により、白い太ももと長い足をアピールする。これで男が振り向かない訳が無い。我ながら、中々の出来。
「うんー。最高。可愛いよ。男が絶対に振り向くよ」
「男は苦手なんですけど」
「何を言ってるの、高2なんだから多少なり、慣れとかないと」
胸を大胆に開いて色気を出しているのに、この恥ずかしがる姿、こう言う、ギャップが好きなんだよなあ。
「よーし。せっかくだから美津枝を呼ぼう」
「え……でも、美津枝ちゃんは家の用事で来れないはずだよ」
「大丈夫。100%上手く行くから」
私は携帯を取り出し、カメラモードでこよみに指示する。
「こよみ、左手を軽く腰に当てて、右手を頭の後ろを押さえるように手を添えて」
こよみは恥ずかしがりながらも私の指示に従い、腰に手を当て頭を手で添えた。簡単なモデルポーズが出来上がり。
私は手ぶれをしないように気を付けながら写真を取り、少しメッセージを入れて、美津枝に添付メールを送った。
「ねぇ、本当にこれで来るの?」
心配そうにこよみが言ったが、私は、
「大丈夫。大丈夫。自転車ですぐに駆けつけてくれるよう。」
もう、こよみの改造を始めちゃったから、もう止められないもん。第一目標の大胆な服を着せるが終わったから、今度はこよみに化粧をしよう。その前に、
「こよみ、この服、気に入った?」
こよみは少し赤くなりながらも値段も安いのとせっかく選んでくれたからと言う理由でこの服を買う事に決めた。
「よし、なら、会計を済ませよう」
私は手を引っ張り、こよみをレジに案内して、そしてお金を払った事を確認して、今度は試着室ではなく、、店内の奥に入った。
店内の一角には怪しい服のコーナー以外にも、4つほど、化粧台置いてある部屋があった。店主が知り合いのギャバ嬢のために休憩所として用意したらしい。夜になると、ギャバ嬢達が化粧崩れた時や不意に空いてしまった時間つぶしにけっこう利用されているらしい。たまに服も預かる事もしばしばだあるみたいだ。けれど、昼はだれも使っておらず、その間は一般客が利用が出来るになっていた。私はその中の回転させる事が出来るイスにこよみを座らせる。
「さーて、こよみちゃん。この服が似合うようにお化粧をしようね」
「い……いいよ。恥ずかしいから」
明らかに拒んでいる。しかし、もう無理です。
「大丈夫。可愛くするから、ここで最初に会ったこよみより、さらに可愛くするから」
「あ、そうか、友達として話すようになったきっかけがここだもんね」
「そうだよ。そうだよ。今日みたいに、こよみ自身が似合う服に全然分からず、どんな服が悩んでいるところを私が決めたんだよ。忘れたの?」
こよみは首を振って否定した。全力で否定するところが可愛らしく見えた。
「冗談だよ。覚えている事は分かっているから、それでは、さっそく始めます。テーマは清純な女の子の冒険」
「冒険!!」
「それでは行きます」
そう言って、不安がるこよみの化粧を始めた。
化粧が終わり、鏡でチェックをしている時、服売り場の方から、さわがしい声が私の名前を呼び、ものすごい足音でこの部屋に近づいてきた。
爆発音のような音と同時にドアを勢い良く開けられ、私とこよみの存在を確認した訪問者は私達に近づき、私の頭をこづく。
「痛い……美津枝、何するの」
「何て、こよみに何を着せるの」
「何って、胸をガバーと開いた服に、長く綺麗な足を強調するために短パンサイズのジーンズを着せてるのよ、駄目?」
わざと、疑問符を出してみる。
「こんな格好したら男が寄って来るでしょ」
ものすごい勢いで怒る美津枝。そんな事は知らない。
「良いじゃない。あえて、こういう可愛い格好させて男が来た時の、こよみの対処法を見てみたいじゃない」
「わざわざ、そんな事しなくて良いの、男が寄った時、私が追い払う」
「うわー、美津枝そっち方面だったんだ。大丈夫頑張って理解していくつもりだから」
「ありません」
きっぱり断った美津枝。ありそうな気がするんだけどな。まいいや
「ねえねえ、とりあえず、化粧をしたこよみを見てよ。テーマは高嶺の花」
「那美ちゃん。さっきのテーマと変わっているよ」と小さくつっこまれだが、そんなの気にしない。私はイスを回転させてこよみが美津枝と真正面になるように向ける。
こよみは少し、手を膝のところに置き、せわしなく動かしていた。そして、美津枝は少し愕然として黙っていた。
「どうでしょう。この変身ぶり、可愛いお嬢さんが、綺麗系の高嶺の花に変わった瞬間です」
と私の作品を自慢した。こよみは美津枝に、
「美津枝ちゃん……似合う?」
と聞いた。呼ばれた美津枝は意識を戻して口を開く。
「うん、普通に可愛いよ」
驚いてた割に対して面白みの無い回答。まあ女子は、自分より可愛い子が気に入らない心理が働くから、美津枝も例外でじゃなかったようだ。そしてさらに美津枝は口を開く。
「とりあえず、こよみ。元の服に着替えましょう」
「分かった」
と、言ってこよみは元の服に着替えようとする。しかし、止める。
「駄目よ。今日だけはこの姿で帰りなさい。せっかく買ったんだから、着ないと服が悲しむよ」
「こよみ、着替えなさない。ケダモノが寄って来るだけだから」
流されやすいこよみは二人の意見に悩んでいる。
このまま、着せて歩かせたい私と、普通の服に着替えさせたい美津枝。こうなったらこよみの美しさを強調して納得させるしかない。
「いい。これは芸術作品よ。芸術を壊したら駄目よ。この白い肌をファンデーションを付けて血行の良い肌に変え、まゆげを控えめに伸ばす。そして口ピルをピンク色ベージュを塗ることにより、可愛らしさをアピール。みつあみはストレートに変える事により、重苦しさが出るけど、ストレートの黒髪は昔あったヤマトナデシコ思い出させて男心をがっちりつかみ、さらに胸を背中と腹の肉をできる限りよせてDカップまであげる事が出来たおかげで大きな谷間を作る事ができ、そして最後に綺麗な脚美を見せれば色気が120パーセント。結果、男はこよみを見て目がゆるんで鼻が伸びる。ただ、残念なことが美しすぎて声が掛けにくい高嶺の花になること。だから、大丈夫」
私の熱弁をしたが、美津枝は一切聞かない。
「そんなことないわよ。こんな大きな胸の谷間を見せたら軽い男が寄ってくるに決まっているでしょう。中学まで女子校にいたこよみには男の免疫が無いから誘われたら断るのは無理よ」
「ああ、すっかり忘れていた」
「あんたは、こよみを何だと思っているの」
少し考える。そして答える。
「えーと、着せ替え人形」
その瞬間。体が浮いた。美津枝は綺麗に私のあごにアッパーを入れる。そのまま私は重力にしたがって床に倒れこむ。こよみは心配そうに私を見るが、美津枝に連れられて更衣室に出ていた。ここでも男性が来る事が無いから、着替える事は可能だけど、私が何か言ってこよみを惑わさせないための対策だろう。
そのまま、私は数分、美津枝のパンチで動けなかった。
そして帰るときはこよみは最初に見たワンピースに変わっている。
今日は日曜日快晴。私は気分良く、電車に乗った。
20分くらい掛かる距離も少し目を瞑れば数分でついちゃう。寝つきが良いな最近。
そして、電車を降りて駅前で待っているけど……
「遅い」
汗がじっとり衣服にまとわりつきながらも気持ち悪くも外で待っているけど、中々来ない。
今日は予定がないから違う学校の男子に、デートの約束をした。そして今日の一時に駅前の南口で約束したんだけど、もう、一時半。30分は過ぎている。
何かあったのかなと思って、さっきから携帯を開いたり、閉じたりしているけど、全然連絡が来ない。せめて、メールくらいほしい。
ぶつくさと文句言いながら待っていると、、アラーム音が鳴った。
「はい、もしもし」
苛立ちながら私は電話に出た。
「ああ、俺だ。さっきから駅前に待っているんだけど、お前どこよ」
「私も駅前で待っているわよ」
「駅前のどこよ」
「どこって南口よ」
「俺は北口だぞ」
「なんでそこにいるの。昨日、南口で待ち合わせって言ったじゃない」
「はあー、何言ってるんだ。12時半頃に電話で待ち合わせを変更したろう。お前も、うん、って答えただろうが」
「そんな事聞いてないわよ」
その後、私たちはお互い罵りあい。なすりつけあった。そして最後は。
「ああ、もういい。これから遊ぶ気にならん。帰る」
「とっとと帰れ」
激高しながら私は電話を切った。
まったく電話をしていないくせにあんな言い訳して最低。第一、私は電車の中で寝てたのよ。電話に出れる訳ないじゃない。あんな、チャラ男と付き合うとした私が馬鹿みたいじゃない。まったく腹が立つわ。
そう思いながら私はこのまま帰るのがもったいなく行く宛てもないまま街中を歩いた。だってこのまま帰ったらあのチャラ男のせいで一日が潰れると思うと腹が立つもん。
ため息がつくような人が多い横断歩道を渡ると、一際目立つ列を見つけた。
なんだろうと思い、私はそこへ近づく。
「クレープ屋?」
よく見ると、車に大きな看板が飾っており、宇宙一おいしいクレープ屋、と書かれていた。宇宙人が食べた事あるのかな?
馬鹿みたいな誇大広告だけど、車の前にはお客さんがかなり並んでおり、あながち嘘じゃないかもしれない。ちょうど腹が立っていたし、せっかくだから甘い物を食べて気分を直そう。
私は長蛇の列を並ぶ。
人はだいたい30人くらいかな。結構、掛かりそう。
暑い陽射しの中、私は順番を待った。ああ、他のみんなは家族と美味しい物を食べに行ったり、新しい服を買いに行っているのに私だけ一人。淋しいな。せめて、早く私の番が来ないかな。電車の中みたいに数分で私の番にならないかな。
そう思いながら私は電車の中のように目を瞑った。すると……
「ありがとうございました」
明るい女性の声が聞こえ、慌てて目を開けた。すると、車に背を向け、右手には紙に巻かれたクレープを持っていた。
おかしい。私は車の方を見た。やっぱり、車の前には長蛇の列が並んでいる。
人がいなくなったわけじゃない。私は並んで買ったんだ。けれど、私は買った記憶がない。そうだ。時間。慌てて携帯を取り出す。
「時間が進んでる」
ケンカして電話を切った時間と、お店に並んだ時間は対して変わらない。けれど、携帯の時計ではそれから30分以上進んでいた。
寝ていた? そんな訳ない。寝ていたらクレープ買えないもん。それに立ちながら寝るなんて器用な事はできない。おかしい……
私はその場を離れて近くにある公園に向かった。
3時ごろ、私は公園で木陰のあるペンチに座り、クレープを頬張りながらも今日の事を考えていた。
「時間が……進んでいる」
自然と声に出た。
そんなことがあるのだろうか? んな事、起きる訳がない。もしかしたらボケーとしていて時間が進んでいただけかもしれない。だけど、さすがに30分もポケーとする自信は無いな。それに、並んでいたら前に進むからそんなにボケーとしてられない。それに店員さんに声掛けられたら正気に戻って注文すると思う。けれど、クレープを買った記憶が無い……
う〜ん。考えても堂々巡りになり、空いた手で私は携帯をいじっていた。すると、着信履歴に目が止まる。
12時半に着信あり、名前は……ああ、あのチャラ男からか、けど、おかしい。
その時間、私は電話に出たことになってる。その時間は電車の中で寝ていたはず、だから電話に出ているはずがない。それとも誰かが変わりに電話に出た?そんなことはない。バックの中にしまっていたし、わざわざ、私の携帯に出る人なんていない。
私は色々考えているとあることを思い出す。
そういえばチャラ男が、
『はあー、何言ってるんだ。一時間くらい前に電話で待ち合わせ場所変更したろう。お前も、うん、って答えただろうが』て、言ってた。
どういうことだろう寝ぼけてて覚えてなかった。でも、なんか釈然しない。それにクレープ屋の事が説明できてない……う〜ん。待てよ。そういえば似たような事、最近起きたような……
頭の片隅にある記憶を掘り出す。さっきから頭を使って白いもやがかかるけど、無理やり頭を使い、思い出す。
そうだ。あった。昨日のこよみと待ち合わせのときもメールが来た後、30分くらい掛かると書いてあったのに数分でこよみが来た。その後、マックで時計を見ると時間がかなり進んでいた。
それからつまらない授業も勝手に時間が流れていて居眠りしていたのになぜか授業を答えていたという事があった。これって寝ていたのにちゃんと行動できたということ? いやいや、こよみが『授業の時、ちゃんと起きてた』と言ってたから、無意識の割にはちゃんと行動してたと言ってた。もしかして……
私は手に持っているクレープを一気に口の中に入れた。
そんなことがあるはずがないと思いながらも私は立ち上がり、公園を後にする。
街中を歩きながら行列を探す。
どこでも良い。混んでる所ならどこでも良い。そう思いながら私は街中歩いていた。そして、目に止まる。
「ケーキ屋さん」
私は店内に入る。
店内はとても広く、食事のスペースもあり、私は10人ほどの列を並ぶ。
時間的には10分掛かるか、掛からないくらいかな? ちょっと試すには時間の量が少ない気がする。でも、他に目当たらないし、試してみよう。
私は軽く目を瞑り、そして、目を開けた。しかし、何も起こらなかった。やっぱり、寝ぼけてたのかな。そして、何度か、目を開けたり、閉じたりしてみたけど、何も変わらず、普通にレジに着いた。
ショーウィンドには美味しそうなケーキが並んでおり、このまま帰るのも悪いと思った私は、シュークリームを頼み、店をあとにした。
もう、並ぶのも面倒だし、お金もあまりないし、それに最近、女子高生を狙う変質者が歩き回っているようだから早く帰ろう。ボーとしていて車とかで連れて行かれたら笑えない。
ああ、あのチャラ男のせいで予定が狂ったな。
そして、駅の方に歩き、数分の後、駅に着く。改札口を通った後、時刻表を見て次の電車を確認する。
うわ、犬山駅行きが来るのに20分以上電車を待ったないといけない。やだな。けれど仕方ない。
周りを見渡し、近くのペンチに座る。ああ、今日はせっかくの日曜日だったのに何も良い事なかった。こういう時こそ、時間が進めば良いのに……
疲れた私は瞼が重くなり、それに従った。すると……
『ただいま特急、犬山線の電車が入ります。白線までお下がりください』
うそ。私は電子掲示板を見た。すると、電子掲示板には私の行きたい電車を指していた。私は慌ててバックの中にある携帯を取り出し、時計を確認する。
すると時計は……20分進んでいた。
どういうことだろう。なんでケーキ屋で動かなかったのに電車なら動くんだろう。待てよ。もしかして……
電車がホームに着き、扉が開いた。私は人の波に任されながら中に入ってく。そして、席に座り、少し深呼吸をしてから落ち着きながら、もう一度、試す。
目を閉じて祈る。それも強く。早く、目的の駅に着きたい。そしてまた目を開けると……
『次は犬山駅、犬山駅』
やっぱりだ。
目を瞑るだけじゃ、駄目なんだ。目を瞑って強く念じれば自分の行きたい時間に行ける。なんて便利なんだろう。これがあれば面倒な授業も数秒で終わるし、長蛇の列も待ち時間もすぐに順番が来る。きっと神様が私の可愛さにくれたんだ。
意気揚揚と電車を降りた私は、家路へと歩いた。
この能力を気づいてから色々と試した。
学校の授業はもちろん、行列店に並んだ時やちょっとした待ち時間、何十分も待たないといけない時間も目を瞑れば数秒で終わっている。とても便利で使える能力。周りから少しボーとしているみたいだけど普段の私、特に困らない。けれど、イレギュラーなことが起きると困る。例えば、授業の終わりに先生が、
「次の授業までに宿題を提出」
と、言われる事があるけど、私は毎回忘れる。それは仕方ない。時間を流している間は記憶がない。だから、毎回先生に説教を受け、美津枝には笑われたりした。
けれど、その問題も解決した。何度も時間を先送りにする事で無意識だけど、ある程度は好きなように行動できることがわかった。
そして、今日もつまらない授業が終わった。
私たちは特に用事がないため、今日は一緒に帰ることにした。
外に出ると熱気が来る。じっとりした暑さはなくなってきたけどまだまだ暑い。
それでも私たちは暑さに負けず、仲良く話している。けれど、今日はつまらなかった。
明日、英語の小テストがあり、二人はその対策について話し合ってた。授業の遅れた私にはとてもついていけず、無理やり、昨日見たドラマやアイドルの話をしようとしたけど、すぐに小テストの話に戻り、自分は浮いていた。
ああ、つまらないな。しょせん小テストなんて対して成績に関係するわけじゃないんだから気にしなくてもいいじゃない。さっさと話し終わらないかな……あ、そうだ。
私は目を瞑った。そして頭の中で話が終わるところまで時間が流れるように願った。すると、目の中に光が広がる。いつもとは違う。けれど、時間が流れる感覚があった……
いつもと違う感覚、重い瞼を開けた。すると、周りの雰囲気が違った。
上を見上げるとさっきまで見えた青々した空ではなく、無機質で人工的な灰色の空。周りを振り向けばダンボールが山積みになって地面は固く冷たいコンクリート。窓はなく、小さな電球が部屋を照らしていた。
おかしい。まるでここは倉庫だ。いつもなら、道を歩いているか、駅前に着いているはず、こんな倉庫に着くわけがない。私は立ち上がり、周りを歩いた。
すると、硬いコンクリートに、横になっている制服の女の子を見つけた。
私はその姿に見覚えがあり、肩をゆする。
「こよみ」
すると、人形のように力無く、体がこちらに振り向く。
「こ、こよみ!!」
私はこよみの体全体をゆする。すると、体が冷たく、首はダラーと倒れ、苦悶の顔をしながら口からよだれが流れている。
「し、しんでるの?」
私は何度も体をゆすり、声を掛ける。けれど、反応がなく、魂の抜けた人形でしかなかった。こよみに顔の一部分……耳がなかった。
こよみはどこか体が悪いわけじゃない。耳は生まれた時からあるはず、いや、毎日、耳があるのは見てるなのに今は……なかった。
なんで、こんなことになったの、さっきまで私達は道を歩いていただけなのに、どうしてこよみが死んでいるの!! ありえない。人が死んでるわけがない。私はこよみだったものから後ずさりする。すると、足になにか引っ掛かり、尻餅をつくように倒れる。
尻を押さえながら引っ掛かった物を見ると、また、制服の女のこ子。
嫌な予感がした。そしてこれもおかしい。制服はスカートをはいていて女性だと思う。けれど、頭に髪がない。ぼうずだ。まるで学校の野球部みたいな頭をしている。
私は恐る恐るそれに触れる。やっぱり冷たいぬくもりが感じない。不安が徐々に広がる。
大丈夫。ここにあるものは違う。もうひとりは髪が長いもん。こんなぼうずじゃないもん。
そう思いながら、私はそれをこちらに向けさせる。
でも、それは間違いだった。
いたのは知っている顔、いつも綺麗な黒髪をなびかせている友達が冷たく眠っている。
「美津枝!!」
声を張り上げて叫んだ。けれど、反応ない。ああ、嫌だ。嫌だ。こんなの現実じゃない。これは夢よ。
恐怖に体を震えながら私は部屋の隅に逃げる。
分からない。こんなの分からない。いったい何が起きたの、あ、そうだ。あれを見れば分かるかも、
私は胸ポケットからメモ帳を取り出し、ページを開く。
手が震えて上手く開かない。でも、見ないと分からない。そして今日の日付のページを見つけた。
『帰る途中、道を歩いていると、前を走っている車が急に止まって男達が私たちに何か口に当てた。そして、目が覚めると知らない場所に連れていかれていた。目が覚めると頭が痛いながらも縄に縛られてなく、立ち上がることができた。そして、こよみと美津枝たちを見つけて声を掛けようとしたとき、足音が聞こえ、私は慌てて横になり、眠っているふりをする。すると、すぐに誰かがこの部屋に入ってきた。足音から2人いるみたい。男達から私は背を向けていたけど、足音でがなんとなく行動がわかった』
字がかすれかすれて書いてある。よっぽど怖いことがあったみたい。いやこれ以上、怖いことが起きているわけがない。私は次のページを開く。
『まず、男たちは美津枝のほうに行った。そして、ごぞごぞとなにかしたと思ったら急に美津枝が吐いた。何をされたかわからない。けれど吐いた。まるでおぼれた人が水を吐きような感じだった。
そして、何か切るような音が聞こえた。あとから分かった事だけど、男たちは髪を切っていた。理由は分からない。けれど、彼らは笑いながら楽しむように切っていた。まるで蜻蛉の羽をむしる残酷で無邪気な子供のように笑いだった。そして今度は自分の番かもしれないという恐怖を感じていた』
恐怖で体が凍りつく。このメモは時間を先送りにしている間に何があったかをメモした物、最初は上手く出来なかったけど、何度も繰り返す事によって出来るようになった。このメモを見れば記憶がない間の事がすぐに分かり、宿題を忘れる事がなくなった。けれど、今日だけはメモを取らなければ良かったと思った。そして日記は震えた字ながらも淡々と事実が綴っている。
『次はこよみの方に歩いていた。内心はほっとしたけど、こよみの殺され方は酷かった。
こよみの断末魔が聞こえ、まるでこの世の終わりのような地獄の声。そして「苦しい苦しい」とうめき声が後ろから聞こえた。その声に男たちはげらげらと笑っている。私は恐くて後ろを振り向くことさえできなかった。そして、徐々にこよみの声が聞こえなくなり、最後は男達の笑い声しか聞こえなくなった。
次は私の番と息を殺して体を縮こませ、覚悟を決めた。けれど、男たちは私には寄らず、部屋を出ていてしまった。私は足音が聞こえなくなるのを確認して二人の様子を見たけど、駄目だった……』
メモはここから途切れてる。でも、早く出ないと、
私はドアの方に向けて歩きだした。すると、向こうから、
『カタ、カタ』、と音が聞こえた。
まずい。私は慌ててドアを開けようとした。けれど、カギ掛かって開かない。ギシギシと音を立てながらも押しても引いても開かない。もう音がすぐそこまで来ている。けれど動かない。
そして、ドアの向こうで音が……止まった。
かちゃり、音を立てた後、静かにドアが開く。向こうから人が立っていた。そこにはがたいの良い男が二人、立っており、その1人は斧を持っていた。
「なんだ、起きてたんだ」
斧を持った男は言う。
私は後ずさりしてする。男たちはそれを見て一歩。また一歩と私を追い詰めていく。そして壁につき、もう逃げられなくなった。
斧を持っていない男は私を捕まえ、床に倒し、仰向けになった私に体を乗せ、手首を捕まえた。
私は必死に体を動かしたりしたけど、何も出来ず、声もうわずっていた。
そして、斧を持った男が冷たい鉄をきらりと光らせ、私の横に立ち、振り上げる。このまま落とされたら確実に首が飛ぶ。死ぬ。
体をばたつかせ、必死に抵抗する。けれど、完全に体が押さえつけられ、身動きが取れない。
「なんで私が殺されないといけないのよ」
すると、押さえつけている男はにやりと口角を上げ、無気味に笑いながら
「ボーとして歩いているお前らが悪いんだよ」
と、言った。そして、
「これで理想の彼女のパーツがすべて揃うな」と言い、斧の男は、
「そうだな。今日集めた体のパーツを今まで殺した女達とくっつければ完成だな」笑いながら答えた。
そして、男は斧を……振り下ろした。
年間、日本では10万人の人間が行方不明になっております。これを日で直すと約270人がどこかへこつぜんと消えている計算となります。さて、10万人の行方不明者たちはどこへ消えたのでしょう。きっかけは単なる事故なのことかもしれません。もしかしたら悪意のある第三者の仕業かもしれません。けれど、一つ間違えればあなたもその10万人に入るかもしれません。道を歩く時はぐれぐれもお気を付けて下さい。
最後までお読みいただきありがとうございます。
そして、不安です。女性物服はむずかしい。
ああ、それにこれにホラーになっているのかな。まあ、なったものは仕方ないか、気楽にいこう。
それでは読者の皆様読んでいただきありがとうございました。