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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百二十六話 蠢く障害物

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 人に容易く不穏という暗い感情を与える深い闇の中を己に課された責務を果たす為、心に湧く死に対する恐怖心を拙い冒険心で上書きしながらひた進む。


 耳に届くのは誰かの呼吸音と七名の人が奏でる乾いた足音。そして何処からともなく聞こえて来る風の甲高い音だ。


 普段はお喋りな小鼠君も周囲の環境に合わせて口を閉じ、緊張感を丸出しにした様子で……。



「んぉっ。ここにも壁画かぁ……。でも、入り口付近に比べたら大したものじゃねぇよなぁ」



 基、彼は普段よりも少――しだけ声量を落として微かな緊張感を醸し出す程度に留めていた。


 歴史的発見を求めて喜び勇んで進もうとする学者でさえもこの場面は緊張するってのに……。


 肝が据わっていると言うか怖いもの知らずと言うか。いずれにせよ、小柄な体なのにその心には大器が宿ると断定出来ようさ。



「「「……」」」



 他の皆は俺と同じく必要最低限の会話に留めて遺跡の一本道を進み続けている。



 一本道といっても時折湾曲したり、右方向に曲がったりと決して素直な直線では無い。


 分かれ道があればその分だけ隊に迷いが生じるので此方側としては有難いですけども、冒険心を追い求めている俺は少し位迷った方が面白いじゃんと。まるで他人事みたいな感じで語っていた。


 そりゃ直接この雰囲気を感じ無いのなら他人事みたいに話すだろう。


 体に纏わり付くマナの濃度は進むに連れて濃くなり、周囲に漂う空気は少しだけ砂埃を含み。そこかしこに蔓延る闇が心の不安を悪戯に膨れさせていた。


 歩くという運動によって体温が上昇するが後方から吹く風がそれを和らげてくれる事がせめてもの救いさ。



「ねぇ、ダン。さっきの壁画なんだけどさ」


 むさ苦しい男達に囲まれて歩んでいるシテナが緊張の色が滲む瞳で此方を見つめる。


「どうした??」


「あの壁画に描かれていた神器がこの先にあったとしたらどうする??」


「どうしたもこうしたも……。そういう類のモノに人が触れてはいけないんだよ。それがきっかけとなって世界の理が崩れてしまうかも知れないし。何処かの国のお偉いさんが一生遊んで暮らせるお金を渡すから持って帰って来いと言われようが、俺はそれをそこから決して動かそうと思わないね」



 神器にはこの素敵な世界の法則を捻じ曲げてしまう力が秘められているのは目に見えており、更にそれがきっかけとなって九祖が一体の亜人が目覚めてしまう可能性があるのだ。



「亜人だっけ。その魔物が中に閉じ込められているんでしょ?? 可哀想じゃん」


「よぉ――、お嬢ちゃん。その考えはちょいとばかしヤベェぜ??」


「何よ、フウタ。私が的外れみたいな意見を言ったみたいじゃん」


「その通りさ。ダン、後の説明は宜しく――」



 はいはい、承りますよっと。



「亜人達と戦いを繰り広げていた残り八体の九祖が制作した神器によって亜人は封印されてしまった。長きに亘る戦いの末に敗れた亜人の心は心底穏やかじゃ無かっただろう。憎しみ、妬み、敗北感。様々な負の感情を抱いたまま封印された奴が現世で甦ったらどうなるのか……。想像するだけで背筋が寒くなるぞ」


「だから何で背筋が寒くなるの」


「よぉぉく考えて御覧なさい?? 勝利者である九祖の末裔達は今もこの星の何処かに生存しているのですよ?? それを探し求めて殺戮の限りを働き、星の環境そのものを作り上げてしまった力を持つ亜人の影響の余波を受けた大地は海の底に沈んでしまうだろうさ」



 神と等しき力を持つ超生命体に俺達は抗う術を持たない。


 そんな超ヤベェ奴が現代に解き放たれたら世界の理は崩れ落ち、人々は苦しみ藻掻きながらその命を消失させてしまうだろう。



「そ、そっか。私の主観で亜人は人間と魔物を守った良い人だと決めつけていたのかも……」


「そういう事。物事は主観では無く、客観的に見る様にするといいよ」


「そうする――。と言うかさ、ダンって子供っぽい時もあるけどちゃんと大人っぽい時もあるよね」



 それは褒め言葉として受け取るべきなのか、将又皮肉として受け取るべきなのか。その判断に迷うが今回の場合は前者として受け取りましょうかね。


 下らない日常に埋もれて残された人生に波風を立たせない様に努めるつまらない大人よりも、冒険心を忘れない立派な大人になる為にこの旅に出たのだから。



 強い警戒心を保ったまま左方向に微かに湾曲している通路を進んで行くと、この一本道に足を踏み入れてから初めての変化が現れた。



「ん?? 部屋の入り口かな」


 経年劣化によって崩れかけている部屋の入り口と思しき箇所を捉えつつ口を開く。


「恐らくそうだろう。チュル、貴様の主人の魔力はこの先から感じるか??」


 相変わらず強い気を纏っているハンナが己の右肩に留まる青き鳥へと尋ねた。


「ううん、まだまだ感じ無い。恐らくもっと奥に居るはずよ」


「そうか。グルーガー殿、細心の注意を払って進もう」


「あぁ、分かった。互いの死角を補助しつつ、強固な陣形を維持して進むぞ」



 隊の先頭に立つグルーガーさんが緊張感を含めた口調でそう話すと、大きな口を開いて俺達を待ち構えている部屋の入り口へと足を踏み入れた。



「うっ!! 何だ、この臭い……」



 上下左右に広がる大変広い部屋にお邪魔させて頂いてある程度進んだ刹那。


 鼻腔ちゃんが勘弁して下さいよと顔を顰めてしまう強烈な饐えた匂いを捉えてしまった。



「生物臭、とでも言えばいいのか。これまで俺達を包み込んでいた臭いとは真逆の位置に存在するものだな」


 ハンナが此処に足を踏み入れて初めて超警戒した台詞を吐くと静かに左の腰から抜剣する。


「シューちゃん。もう少し明かりを強くしてくれよ」


 周囲の闇の先に存在する何かに対抗する為に隊全体が足を止めて臨戦態勢を整えると、フウタが右翼側に視線を向けたまま問う。


「それは可能だが……。悪戯に刺激しても良いのか??」



 彼は恐らく闇の中で蠢く生物らしきモノに対して不必要な刺激を与えるべきでは無いと判断したのだろう。


 闇の中で刻一刻と膨れ上がって行く生物の足音は、最初は壁付近から奏でられていたのだが今は隊全体を覆い尽くす様に鳴り響き。


 更に最悪な事に天井付近からも聞こえて来やがる。


 その正体を知りたい反面、俺達に突き付けられた危険から目を逸らしたいと考えている臆病な自分も居る。


 そりゃ誰だって死に直面したら目を逸らしたくなるでしょう??


 もう少し心構えをしてから部屋に足を踏み入れるべきだったぜ。



「構わん。やってくれ」


「承知」



 隊を纏めるグルーガーさんの指示が出ると彼の右手に浮かぶ光球が光量を増し、広い室内の全体像を照らしてくれた。



「「「……ッ」」」



 俺達の周囲に蠢いていたのは大小様々な昆虫さん達だ。



 俺の真正面の先には大変硬そうな漆黒の甲殻を身に纏う昆虫さんがゴッツゴツの切れ味の鋭そうな顎を無意味に開いたり閉じたりしている。


 大型犬と同程度の大変御立派な胴体には六つ節足が備わり体を支え、大きな頭部の前にある二つの複眼の表面がフウタの光球の明かりを怪しく反射させている。


 頭部の先端に備わる触角が獲物を探す様に怪しく蠢き、恐らく口の左右に備わるあの鋭い顎で獲物の肉を切り裂き食らうのだろうさ。



 そしてその奥には手前の蟻擬きと似た昆虫が群れを成して俺達の様子を窺い続けている。



 深い黒の胴体の背に一筋の線が走り、太い胴体を支えるのはこれまた立派な六つの足。


 蟻擬きよりも更に強力な顎が頭部の先端に備わり、複眼は鋭くそして怪しく光りながら俺の体をじぃっと見つめている。


 頭部の先から前方に向かって長く生える触角は俺達の動きを察知しようとして微かに上下に動いていた。



 幼い頃、俺は生物の多種多様さに魅入られ時間が許す限り野原を駆け回って探していたもんさ。


 漸く見付けた小さな虫を手の平に収めると、その小さな体からは到底想像も付かない力強さを感じた。


 この個体が俺と若しくは犬と同程度の大きさを持ったのなら一体どうなってしまうのだろうか??


 恐らく俺が予想だにしない力を発揮するんだろうなぁ――っと。子供の豊かな想像力を発揮して現実では決して有り得ない絵空事を妄想していたもんさ。


 そ、それがよもや現実の下になるとは考えてもいなかったぜ……。



「こっちには蟻擬きとカミキリムシ擬きがたぁくさん居るわねっ」


 フウタと共に右翼側に視線を送りつつ話す。


「こっちも同じ個体だぞ」



 ハンナの声を受け、腰から静かに短剣を抜きつつ左翼側に視線を送るとその先には此方と同じく黒き絨毯が敷き詰められていた。



「ど、どうするよ。完全に囲まれたぜ??」



 右翼側に視線を戻して薄っすらと見える壁の穴に視線を送りつつ誰とも無しに問う。



「「「「……ッ」」」」



 岩肌に空いた穴からは今もうじゃうじゃと巨大な昆虫が湧き続けており、その勢いはこの部屋を覆い尽くす程だ。


 壁際には大量の虫の死骸が横たわりそれに群がる虫の群れも確認出来た。


 コイツ等は此処で互いを貪り続けて生態系を維持している。そして俺達はその縄張りに足を踏み入れてしまった憐れな生贄って感じですかね……。



「どうするも何も……。まだ我々は要救助者を見付けていない。先に進むしか選択肢は残されていない」


 グルーガーさんが腰に装備している殺傷能力の高い曲刀を右手に持ち、この先にあるであろう出口へと視線を送る。


「どの道退路は既に塞がれてしまいましたからね。私も長の意見に賛成ですよ」



 リモンさんもグルーガーさんと同じ曲刀を手に持ち今にも襲い掛かって来そうな虫の群れに対峙した。



「すぅ――……。ふぅ――……。それじゃあ全方位から襲い来るこの無駄にデカイ虫ちゃん達を各個撃破しつつ陣形を維持して移動を開始。全滅する恐れがある全方位の迎撃では無く、一方向から対処する為に通路におびき寄せますか」



 これだけの猛者が居れば数十分、或いは数時間以上の猛攻に耐えられるかも知れないが……。


 俺達の体力は有限であり尚且つコイツ等が一体どれだけの数を有しているのか不明だ。


 岩肌に空く穴から続々と増援が到着している為恐らくその数は余裕で数百、千を超えるものであろう。


 そんな数を相手に、馬鹿正直に真正面から対処していたらいつか隊の陣形が綻びそこから一気に崩れてしまう蓋然性がある。



 このままでは分が悪過ぎるぜ……。


 広い部屋で戦うよりも狭い通路で戦った方がまだ生存確率はグっと上がる。


 この黒き包囲網を突破しない限り、俺達はあの壁際で食い散らかされている虫の死骸みたいに美味しく頂かれてしまうだろうさ。



「了承した。では某がこの先の通路を確保する為、力添えをしよう」


 シュレンが小太刀を右手に持ったまま体の前で両手を静かに合わせると、彼の体の前に深紅の魔法陣が浮かび上がった。


「古の時代より伝わりし魔力の波動……。今、此処に解き放つ!!!!」



 そして詠唱を終えると、深紅の魔法陣が周囲の闇を打ち払う様に一際強く光り輝き腹の奥にズンっと重く響く魔力の鼓動が迸った。



螺旋炎昇らせんえんしょう!!!!」



「「「ギギィィッ!!!!」」」


「どわぁっ!?」



 俺達が本来進むべきであった進行方向に巨大な炎柱が立ち昇り、それは螺旋を描いて背の高い天井に突き刺さる勢いだ。


 凄まじい炎の熱が周囲の空気を竜巻の様に巻き込み虫の群れを続々と吸い上げ滅却していく。


 そして、正面奥から届く呆れた熱波に対して思わず腕を翳して防御態勢を取ってしまった。



 す、すっげぇ……。何て威力の火炎なんだ。


 これでまだまだ忍ノ者になりたてって言うのだから、中ノ段や上ノ段の奴等は一体どれだけヤベェ力を備えている事やら。



「よし!! シュレンが活路を開いた!! 俺達はあの先へ向かって駆けて行くぞ!!」


 グルーガーさんが開戦の雄叫びを放つと数十メートル先に突如として出現した炎の柱に対して呆気に取られている虫達の隙を窺い、この絶死の包囲網の突破を開始した。


「よっしゃああああ――――!! 派手に蹴散らして行くぜ――ッ!!!!」


「ギッ!?」



 フウタが右足に火の力を籠めて巨大蟻擬きの顔を蹴飛ばすとその威力に耐えられなかった蟻の頭部が弾け飛び、焼け焦げた頭部の断面から黄緑色の粘度の高い液体が噴出して絶命に至った。



「フウタ!! やるな!!」


「おうよ!! 俺様がどんどんぶっ飛ばして行くからよぉ!!!! ダン達は必死に着いて来やがれ!!」


 卓越した体捌きで異なる三方向から襲い来た三体の昆虫の攻撃を回避。


「せぁぁああああっ!!!!」


「「「ギギィッ!?!?」」」



 右手に持つ小太刀に淡い橙の明かりが宿り、まるで舞台の上を華麗に舞う踊り子の様な軽やかな足取りで昆虫の懐に潜り込む。


 堅牢な甲殻では無く、切れやすそうな各関節に鋭い一閃を叩き込んで行く。


 体の小さなフウタが得意な素早い体捌きと遠目でやっと追いつける鋭くも素早い太刀筋に思わず唸ってしまった。


 アイツは俺に似て、普段はお茶らけているけどヤル時はヤル奴だよなぁ……。



「活路は前だ!! 奴に続け!!!!」


「「「おおうっ!!!!」」」



 グルーガーさんの覇気ある声に続き、小さくも巨大な戦士が懸命に開いてくれた活路の中を駆け続ける。



「はは、普段は馬鹿ばっかりやってる奴だけどさ。いざ戦いになると頼りになるぜ!!」


「そうだね――!! ダ、ダン!! そっちから襲い掛かって来たよ!?」


 勿論、分かっているさ!!


「ギシィッ!!!!」


 シテナの危険を知らせる声よりも早く上体を屈めて立派な顎の攻撃を回避。


「ふんっ!!」


「ギャッ!?!?」



 相手が俺の頭上を飛び越えて行く最中に腹のド真ん中へ黒蠍の甲殻で出来た短剣の切っ先を突き刺してやった。



 ふぅむ……。装甲は硬いのは硬いんだけど黒蠍までには及ばず。目を見張る速さも無い。


 最も注意すべきなのは各個体に備わった鋭い顎とぉ……。この馬鹿げた数、だよなぁ。


 幾ら叩き切っても無限に湧いて来やがるし!!



「そりゃそりゃそりゃぁぁああああ――――!! フウタ様のお通りだぁぁい!! 道を開けやがれ!! クソ虫野郎共がぁぁああああ――――!!!!」


「「「ギィィッ!?!?」」」



 続々と襲い掛かって来る虫の群れをフウタが蹴散らして俺達の進むべき進路を確保。



「はぁっ!!!!」


「ふんっ!!」


「「ギィェッ!?!?」」



 その進路が虫の群れに圧し潰されそうになるのをグルーガーさんとリモンさんの腕力で無理矢理押し開き更に。



「さぁ掛かって来やがれ虫野郎が!!」


「遅い……!!」


「これで仕舞か!? 生温いぞ!!」


「「「ギギギィィッ!!!!」」」



 武力大好きの白頭鷲ちゃんと普段は物静かだけど戦闘の時は意外とお喋りなお尻が可愛い小鼠ちゃんの奮闘で隊の中央を進むシテナを守りつつ部屋の奥へと進んで行った。



「よぉ相棒!! まだまだ行けそうか!?」


「これしきの戦い等苦戦の内に入らん」



 またまた無理しちゃって。その割にはかなり息が上がり始めていますわよ??


 体力と腕力に自信のある彼を疲弊させる物量作戦は正に圧巻の一言に尽きますな……。



「「「……ッ!!!!」」」



 俺達が十屠れば奥の壁から二十の新たなる増援が現れ、新たな活路を求めて十歩進めば天井から数えるのも嫌になる虫共がうじゃうじゃと湧いて来やがる。


 俺も相棒程では無いがそれ相応に体力に自信がある方なのだが……。


 短剣を持つ右腕がもうそろそろ休ませてくれよと苦い顔を浮かべていた。


 出口までこの陣形がもつか?? それ以前に本当に出口が存在しているのかさえ分からないでいる。



「ギッ!!」


「しまった!!」



 やっべ!! 一体取りこぼしちゃったよ!!


 移動しながら襲い来る無数の敵を返り討ちにしていると、体力に陰りが見え始めた俺の隙を突いて一体の蟻擬きが隊の中央へ侵入してしまった。



「シテナ!! 迎撃だ!!」


「ギギギィィッ!!」



 齢十二の子に果たして倒す事が出来ぃ……。



「はぁぁああっ!!」


「ギシィッ!?」



 あ、うん。何の問題もありませんでしたねっ。


 大人に見られようとして背伸びする子供にはちょいと不釣り合いな大きさの剣を素早く上段に構えると、中々の太刀筋で一気苛烈に振り下ろして蟻擬きの頭を容易く刎ねてしまった。



「ふぅっ!! ダン!! 私は全然疲れていないからもっと油断してもいいからねっ!!」


「嬉しい事言っちゃってくれて!! 取りこぼしが無い様に気を付けるぜ!!」



 流石は強面一族であるミツアナグマ一族を纏める族長の娘なだけはある。


 今の正直な太刀筋は常日頃から鍛えている者しか打ち込めないモノだったし。


 そして、彼女が披露した太刀筋は大人達から感嘆の吐息を勝ち取った。



「ほぅ……。見事な太刀筋だな」


「某もそう思っていた所だ」


「シテナお嬢様も御立派になって……」


「ちょ、ちょっと!! たった一匹倒しただけなんだし!! そこまで褒めなくていいからね!!」



 うふふ、認められたら認められたで恥ずかしがっちゃって。そういう垢抜けていない所が子供っぽいって言われるんだぞ。



「うぉぉおおおお――い!! こっちに新しい通路が見えるぞ――!!」


 その言葉を待っていましたよ!? フウタちゃん!!


「野郎共!! 包囲戦も残り僅かだ!! 死ぬ気で戦い続けろよ――!!!!」



 俺達よりも先に新たなる通路に到着した彼の言葉を受け取ると枯れ始めていた体に活力が生まれ、腕に力が漲って来やがる!!


 しかし、俺達を取り囲む無数の虫共は漸く見えて来た通路の先へいかせまいとして苛烈な勢いで襲い掛かって来た。



「うぉぉおおおおおお!!!! こんな所で食われて堪るかってんだ!!」


「「アギィッ!?」」



 地面から飛び上がって来た蟻擬きを火の力を籠めた右の拳で打ち崩し、上方から飛び掛かって来たカミキリムシ擬きを短剣で両断すると黄緑色の体液が周囲に飛び散る。



「「「ッ!!」」」



 上半身が吹き飛んだ蟻擬きと黄緑色の体液を垂れ流す死体に虫共があっと言う間に群がり、恐るべき速度で死体が奴等の胃袋へと収まって行く。



 コイツ等……。餌を見付けると無我夢中で突っ込んで行くな。


 周囲に存在する個体は仲間では無く、餌を奪う競争相手って感じか。仲間意識の無い群体ってのも滅茶苦茶厄介だよなぁ……。


 と、言いますかもう少し行儀よく食べなさいよ。


 飢えた野良犬よりもきったねぇ食い方で仲間の死体を食らって行く様を捉えると思わずげんなりしてしまった。



「よし!! 到着したぞ!! 先ずはシテナ殿が通路の中へ!!」


「こっちだ!!」


「うん有難う!!」


 シテナがハンナの的確な指示を受け取るとフウタが待つ通路の中へと姿を消した。


「さぁって、これからは気が遠くなる程の消耗戦の開幕だな……。覚悟は出来ているかい?? 相棒」



 通路の出口を背に捉え、刻一刻と膨れ上がって行く虫の群体へと視線を送った。


 う、うぉぉ……。すっげぇ数だな。


 俺達が通って来た道は既に黒い絨毯に覆われて見えなくなり、更にその数は増え続け今となっては俺の視界をほぼ覆い尽くす程までに成長してしまう。



「無論だ。隊の殿が敵の襲来をせき止め、隊の先頭が進路を確保する」


 俺の左隣りで剣を構えている彼が静かにこれからの行程を告げ。


「チュル、ティスロの魔力はまだ捉えられないのか??」


 右肩に留まる青き鳥に問うた。


「ごめんなさい、まだ範囲外に……。ッ!?」


 おっ!? その驚いた顔は漸く御主人様の尻尾を掴んだのかい!?


「漸く捉えたわよ!! 彼女は……。えっ!?」


「お、おい!! 早く行き先を教えてくれよ!!」



 ハンナと共に肩を並べつつ通路へと後退を開始。



「「「ギギギギィィイイイッ!!!!」」」



 節足同士の擦れ合う音と無意味に動く強靭な顎の音に負けない様に叫んでやった。



「ティスロは私達の左下方に居るわ!!」


 はぁっ!? 下方!?


「そうか、それなら安心した」


「よう相棒!! 何で安心……。あっぶねぇな!!」


「イギィッ!?」



 俺の首を噛み切ろうとした横着な蟻の顎に鋭い剣の切っ先を突き刺して叫ぶ。



「気付かなかったのか?? この通路は徐々に下っていると」


「へっ!? そうなの!?」


「そして通路は常に左方向へと湾曲している。これが指し示す事は只一つ……」


「――――。山の中央を支点にしてグルグルと螺旋を描きながら下っているのか!!」


「その通りだ。恐らくティスロは通路の終点に居るのだろう」



 このまま通路にそって下って行けばいつかティスロの下へ到着するのは理解出来た。


 だ、だけどぉ……。



「ぜぇっ……。ぜぇっ……!! 俺達の体力がもたねぇって!!」


「ギシャッ!!」



 コイツ等は諦めるって事を知らないのかよ!!


 俺の血肉を求めて天井付近から襲い掛かって来た個体の頭部の中央に短剣を突き刺し、素早く抜き去るついでに火の力を宿した足撃をぶちかましてやった。



「よぅ!! ダン!! 交代だ!!」


 待っていましたよ!! その台詞ッ!!


「助かるぜ!!」


「ハンナ、殿の役目を代わろう」


「まだまだ戦えるが……。先は長いからその言葉に甘えよう」



 後方からの援軍に殿の役割を引き継ぎ、隊の先頭へ向かって軽い駆け足で向かって行く。



「お――い!! そっちはどうだ――!!」


「うん!! 大丈夫そうだよ!!」



 隊の先頭を歩くシテナが右手に持つ松明を大きく振って俺の言葉に応えてくれた。


 シュレンが戦闘中でも光を絶やさぬ様、グルーガーさんが火を灯してくれたんだな。


 有難いぜ。



「チュルが話すには俺達の左下方に要救助者であるティスロが居るそうです」


「下方?? 何処かで道を下るのか??」


「あぁ、それなのですが……」



 先程相棒と交わされた会話の内容をそのままグルーガーさんに伝えてあげる。



「――――。つまり、この通路は山肌を沿う様にして螺旋を描いて下っているのです」


「成程、了解した。では、俺達は次の殿の役割を果たす為に後方へ移動しよう。ダンとハンナは先導役であるシテナの補助を務めてくれ。リモン、行くぞ」


「はっ!! 分かりました!!」



 うはぁ……。虫さん達も可哀想に……。


 鍛え抜かれた戦士でさえも億劫になるあぁんな筋骨隆々の肉達磨ちゃんの肉弾戦を受け止めなければなりませんからね。



「よぉしっ!! 私が隊の安全を確保するんだからねっ!! 頑張るぞ――!!」


「もう少し静かに話なさい。この先に何が居るのかまだ分からないんだぞ」



 右手に松明を持ち、左手に持つ剣を勢い良く掲げるお嬢さんにそう言ってやった。


 あの部屋と同じ様な場所に出たら挟撃を食らっちまう恐れがあるし……。ここからは慎重に行動せざるを得ない。俺達は要救助者の場所を特定しただけであり、安心安全が確保された訳では無いのだから。




お疲れ様でした。


先日の後書きにも記載した通り、連休中の中日はチキンカツカレーをがっつり食べて来ましたよ!!


あのサクサクっとした衣とスパイシーなカレーのルーに合わせて食べる御飯ときたら……。思い出すだけで涎が止まりません。


腹を満たして久し振りにゆっくり出来た所為か体調はほぼ完璧にまで回復する事が出来ました。


間も無くやって来る花粉の季節に備えて体調を万全にしておかないといけませんからね。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座いました!!


読者様達の温かい応援が執筆活動の励みとなります!! これからも温かな目で見守り続けて頂いたら幸いです!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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