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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百二十三話 吹き荒ぶ嵐 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




 視界の全てを覆い尽くす砂の嵐が荒れ狂うこの場所はどんな小さな命の生存さえも許さない劣悪な環境が跋扈している。


 砂や小石が含まれた烈風は縦横無尽に荒れ狂って生命体を攻撃し続けており、例え完璧な防護服を身に纏っていたとしても微かな開いた空間を見付けたのならその隙間から侵入して亡き者にしようと画策する。


 分厚い布で口回りを覆っているのにも関わらず口の中にはいつの間にか砂が入り込み、ジャリっとした異物感を与えて心を辟易させる。


 目を傷付けまいとして瞼を細めて何んとか視界を確保しつつグルーガーさんとハンナの朧な後ろ姿を捉えて進み続けてはいるが……。


 日が傾き始めた所為か。それが徐々に困難になり始めていた。



「グルーガーさん!! 出口はまだ見えて来ないですか――!!!!」


 こんな危険な場所で夜を迎えたら不味い。


 そう考えて周囲の風の音に負けじと彼の背に向かって大声で叫んだ。


「後三十分程度で抜ける予定だ!! 先の事を考えるよりも今の事を考えろ!!」


「了解しました――!!!!」



 本当に三十分程度でこのクソッタレな環境から脱出出来るのかしらね??


 だがまぁ、地形及びローレンス山脈の麓までの距離を頭の中に叩き込んだ彼がそう叫んだのだ。今は信じるしかないだろうさ。



「シテナ!! もう直ぐ抜けるらしいけど体力は大丈夫かな!!」


 俺達の様な雄臭い男ならまだしも彼女は齢十二の少女。


 ミツアナグマさん達の体は頑丈らしいけども一応、様子を伺っておきましょうかね。


「まだまだ大丈夫だよ――!!」



 ほう!! それは朗報だ。こんな場所で誰かに手を差し伸べる余裕はありませんからね!!



 酷い嵐の中をひぃひぃと情けない声を漏らしながら突き進んでいると、昔に聞いた話が頭の中をふと過って行く。


 べらぼうに標高の高い山の上で動けなくなった者に手を差し伸べてはいけない、と。


 これは恐らく誰かの命を救おうとすれば自分の命までも失ってしまうという登山家の教訓だろうさ。


 自分の身は自分で守る。


 そう言われている通り自分自身の命は自分で管理すべき。登山家はそれを心に刻んで未だ踏破されていない険しい山へ登って行くのだ。


 俺達は山じゃなくてひょっとしたらそこよりも恐ろしい場所に踏み込んでいるんですけどね……。


 右に首を回して様子を窺うと随分遠い場所で強烈な風が逆巻く音が天へと昇って行き、今度は左方向に首を曲げると正体不明の黒き物体が空へ向かって舞い上がって行く様を捉えてしまった。



 今の黒い物体は一体何だろう??



 出る所を間違えた砂虫か、将又着陸する所を間違えた大きな鳥か。


 いずれにせよ俺達を先導している両名の指示に従わない限り俺達もあぁして強烈な風に攫われてしまう恐れがあるって事さ。


 心を強く持ち、再び真正面に顔を戻すと普段は物静かに話す相棒が強烈な怒号を放った。



「右翼側に竜巻が向かって来る!! 避けるんだぁぁああ―――――ッ!!!!」


 は、はひ?? た、竜巻ですか!?


「「ッ!!!!」」



 彼の叫び声を捉えた刹那に俺とフウタの体が一瞬だけ強張り、その正体を捉えようとして身構えた。



 そしてその数秒後。



 横着で不躾な白頭鷲ちゃんが叫んだ通り、周囲に荒れ狂う風なんかメじゃない強力な風を伴った竜巻が襲い掛かって来やがった!!


 うっそだろ!? 今までこんな激しい竜巻が襲って来る事は無かったじゃん!!!!



「クソッタレがぁぁああああ――――!!」



 自分の頭が判断するよりも先に反応した体がフウタとシテナを左翼側へと勢い良く突き飛ばした。



「うぉっ!?!?」


「キャアッ!?」



 よし!! これで二人は直撃を免れるだろうさ!!


 あ、あ、後は俺がコイツの直撃を耐えればいいだけの話だ!!



「え、えっとぉ……。私、初めてだからお手柔らかにお願いしますね??」


 これから初夜を迎える女性が鼻息荒くする男性に優しく語りかける様、此方に向かって来る竜巻殿に対して嫋やかに話したのだが。


『はは、それは出来ないさ』


 彼は俺の体を滅茶苦茶にする事しか頭にないようだ。



「ギィィェェエエエエ――――ッ!!!!」



 竜巻の激しい抱擁を受け取ると体が地面から吸い上げられ、四肢が千切れてしまうのでは無いかと有り得ない妄想を連想させる猛烈な風が体を襲いやがった!!!!



「アババババ!?!?」


 激しく回り続ける体に頭が追い付かず支離滅裂な言葉が喉の奥から飛び出て。


「ウギィィイイイイ――――――ッ!!!!」



 四肢処では無く体が綺麗さっぱり消失してしまうだろうと確知出来てしまう風の刃が四方八方から襲い掛かる。


 竜巻の外側か若しくは内側か。


 視界が目まぐるしく回転するのでそれは定かでは無いが、間違いなく天高く上って行く事は確かだ。



「だ、誰か……。助けて……。マ、マジで洒落にならん……」



 上半身と下半身が永遠の別れを告げてしまいそうになる風の吸引力を全身で受け取ると素直な言葉が口から漏れてしまった。


 このまま俺の人生は竜巻の中で消失してしまうのだろうか??


 朦朧としていく意識の中で今まで出会った美女達の微笑みが代わる代わる浮かんでは消えて行くと……。



 馬鹿げた風の勢いと上昇気流がふと止んだ。



 あっれ?? もしかして此処が天国なのかしら??


 ほらっ、さっきまで一切感じ無かったお日様の明かりが見えますものっ。


 苦痛も死も存在しない安寧の地に到着したと考え恐る恐る目を開くとそこには西の地平線へ向かってトコトコとのろまな歩みで進んで行く太陽の後ろ姿を捉えた。



「あ――、はいはい。成程ぉ…………。地上付近から上昇気流に乗って砂嵐から抜け出ちゃったんだね!!」


『ふわぁぁ――……。御明察、衝撃に備えておけよ――』



 太陽ちゃんが大きな欠伸混じりに有難い忠告を放つと俺の体は天然自然の法則に従い地上へ向かって落下を開始。



「う、嘘だろう!? こ、こんな高さから落下しなきゃいけないのかよ――!!」


『よっしゃ!! こっち来――――い!!!!』



 男性の大切な二つの玉がヒュっと萎んでしまう感覚が始まると再び竜巻がニッコニコの笑みを浮かべて俺を受け止めようとしてしまった。



 ま、またあの中に突入しなきゃいけないの!?


 幾らこの体は頑丈だとしても流石に限度ってものがあるんだからね!!!!



「もうイヤァァアアアア――――!!」



 恥も外聞もかなぐり捨てて女々しい叫び声を放つ。


 そして、この金切り声が気に食わなかったのかそれとも幸運の女神様の気紛れなのか。



「ウゴベッ!?」



 北方向から強烈に吹いた風が俺の体を南方向に弾いてしまった。



 お、おぉ!? 何だかよく分からないけど竜巻の中に再突入の危険性はなくなったのかしらね!?


 吹き飛ばされた進行方向に視線を送ると砂のカーテンで遮られて良く見えないが、どうやらローレンス山脈の麓に軌道が向いているようだ。



「ふぅ――、良かった。これなら楽チンに砂嵐を抜ける事が出来そうねっ」



 砂嵐の中を微かに横切り、そして山の麓に到着するであろう軌道を捉えると安堵の息を漏らす。


 しかし、その安堵は秒で霧散。



「で、でもさぁ。この吹き飛ばされた勢いは相殺される事は無いんだよね!?!?」



 そう、俺の背に相棒の様な大層御立派な翼が生えているのなら速さを相殺して超かっこよく着地出来るのですが……。


 生憎人体には翼という器官は備わっていないのだ。



「あ――……。うん、控え目に言ってもこりゃやっべぇや……」



 酷い風が吹き荒れる砂嵐の中へ向かってほぼ水平の角度で再突入。


 そこで風の洗礼を受け取った後にまたまた砂嵐を抜け出ると大変硬そうな地面を捉えてしまった。


 どうかお願いします!! 俺の体!! もってくれよ!?!?



「フゥッ!! フゥゥ!! フゥゥウウウウ――――!!!!」



 刻一刻と近付いて来る地面を捉えると全身から嫌な脂汗が大量に湧き、死を予感した心臓ちゃんが有り得ない速度でバックンバックンと拍動を鳴らす。



 た、多分受け身を取れば生き残れる筈ッ!!


 そう受け身だよ、受け身!! 相棒が口を酸っぱくして教えてくれたじゃないか!!


 確かぁ吹き飛ばされた勢いを人体の各箇所で受け止める様にするんだっけ??


 この場合は先ず足から?? それとも肩口から??



「すぅ――……。うん、良く分からん!!」



 だってこんな予想だにしない事態を想定して訓練をする訳じゃないもん!!


 ええい!! こうなったら自棄だ!!!! 取り敢えず転がる様に受け身を取ってやらぁぁああ――!!


 徐々に迫り来る死神の笑顔を捉えると腹を決め、猛烈な勢いで迫り来る地面に脱力した爪先付近を向けたその刹那。



「ウッボァッ!?」


 その受け身は間違いじゃない?? と。


 地面からお叱りの声を受け取ると呆れた衝撃を吸収しきれなかった体が大きく跳ね飛び。


「イグェッ!!!!」


 肩口から再び着地するがそれでも飛翔速度は収まらず。


「ゴハバァッ!?」



 笑える回転速度で宙を舞いながら三度目の着地を果たして地面の上を転がり続けて行くと、泣きたくなる痛みが全身に襲い掛かって来やがった。



 痛みがある内は大丈夫だ。


 何処かの大馬鹿野郎はそう言っていたが……。



「い、いてて……。馬鹿野郎が、何にでも程度ってのがあるんだよ!!!!」



 常軌を逸した痛みによって頭の命令を全く受け付けなくなった体の各部位の中で唯一動かせる口を動かして憤りを叫んでやった。



「だがまぁ……。生きているだけでも幸運と捉えるべきだな……」



 幸いな事に痛みを感じ無い箇所は無いし、それに感覚も日常通りに機能していてくれる。


 日常通りとは当然痛みも普段と変わらぬ痛みを有しており、その痛みは少しでも気を抜けば意識が向こう側に旅立ってしまう相当なものであった。


 俯せのまま目玉を動かすと俺が吹き飛ばされた場所の全体像が朧に見えて来る。


 どうやら砂嵐は無事に抜け、ローレンス山脈の麓に到達した様だな。


 強風は相変わらずだが地面に微かな砂が散らばり、こんな劣悪な環境にも関わらず大地には本当に背の低い草が生え揃っていた。



「へ、へへっ。いつか俺にガキが出来たのなら自慢してやろう。お父さんは竜巻から生還したんだぞ――ってな……」



 頭がもういい加減眠りやがれと命令するので俺はその指示に素直に従いゆるりとした速度で瞼を閉じた。


 次に目覚めた時は美女の膝枕を所望します……。ゴッツゴツでゴリゴリのむさ苦しい男の抱擁で目覚めるのだけはどうか御勘弁下さいまし。


 誰に願いを請う訳でも無く素敵な目覚め方を心の中で唱えると俺の意識はそのまま向こう側の世界へ旅立って行ったのだった。




お疲れ様でした。


先日の後書きにも掲載したのですが、相変わらず体調不良が継続しております……。今日の投稿分は何んとか掲載出来たのですが今週はいつもより更新ペースが落ちるかも知れません。


楽しみにして頂いている方には大変ご迷惑をお掛けしますが何卒ご了承下さいませ。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!!


体調不良で萎んでいる体に嬉しい知らせとなり、執筆活動の嬉しい励みとなりました!!!!



それでは皆様、まだまだ寒い日が続きますので体調管理に気を付けてお過ごし下さいませ。

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