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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百二十一話 行程の確認はしっかりと

お疲れ様です。


本日の投稿なります。




 世界に蔓延る闇は音も無く全てのものを飲み込もうとして機を窺い続けている。


 それに唯一対抗する手段は光。


 人々は互いに身を寄せ合い闇から逃れる為に火を灯して心と世界に蔓延る闇を打ち払おうとする。


 暗き夜空の中に無数に散らばる星達の瞬きが見下ろす地上には本日も数多多くの光が存在し、俺達はその光の一部となって闇の中で存在し続けていた。



「はぁ――……。今日も美しい満点の星空だぜ。シューちゃんも眺めて見ろよ!!」



 鼠の姿のフウタが後ろ足で立ち上がり夜空に広がる星達へ向かって小さな鼻をヒクヒクと動かしながら叫ぶ。



「某は明日に備えて早く寝る。邪魔をするな」



 この静かな環境に少々不釣り合いな声を受けた彼は鼠の姿へと変わり、荷物の片隅置かれている毛布の中へと潜り込んでしまった。



「おい――!! 折角だから見ておけって!! 今日で見納めかも知れねぇんだぞ!?」



 フウタが毛布の端から覗くシュレンの可愛いお尻の先に生えた尻尾を小さな前足で掴み、火の側へ引きずり出そうと画策。



「フウタ、縁起が悪い言葉を使用するな」


 その力に拮抗してその場に留まろうとする彼が可愛いお尻を左右に振りつつ尤もらしい台詞を吐いた。


「そうだぞ、シュレンの言う通りだ。俺達はこれから何度もこの美しい空を拝める為に必ず帰ってくるんだよ」



 えっと……。俺の下着は何処に仕舞ったっけ??


 一塊に置いてある荷物の中からお目当ての品を探しているが一向に件の品が見付からないでいる。



「その為に砂嵐が渦巻き砂虫サンドワームの住処でもある危険地帯を通らなきゃいけないんだろ?? それにぃ、古代遺跡だっけか。その奥に逃げ込んだ大罪人を救出しなきゃいけねぇ。命が幾つあっても足りない作戦ですな――!!」



 フウタが敢えて聞き易い様に大声を出してハンナの左肩に留まる小鳥へと視線を送る。



「うっさいわね。そんな大声出さなくても聞こえているわよ」


「あっそう。俺様達は重要事項を伏せられたまま作戦に参加しちゃったからなぁ――。危険なのは承知だったけど、最低限の事は知りたかったなぁ――!!」


「だから、さっき二人に頭を下げて謝っただろう?? 大事な話を秘密にしていて悪かったって。それに伏せておかなければならない話だったし」



 おぉ!! こんな場所に隠れていたのか!!


 誰だよ……。カッチカチに乾いたパンの袋の中に俺の下着を入れた馬鹿野郎は。



「頭を下げるのは当然だろうが。まぁ――……、でもよ。例えその話を聞かされていたとしても俺様達はこの作戦に参加しただろうな。あの時、この依頼を断ればそのまま監獄にぶち込まれていた事だし??」



 だったらチクチクと嫌味を言う必要も無いのでは??


 そう言いたいのをグっと堪えて明日の支度の準備を継続させた。



「ダン、明日は何時出発するのだ??」


 ハンナが淡い橙の明かりを放つ焚火を見つめながら小さく呟く。


「グルーガーさんの予定が決まり次第って感じだよ。色々と調べる事があるって言っていたし……。何時でも出発出来る様にこうして準備を整えているのさ」



 整然と並べた荷物の前で腰をトントンと叩き、凝り固まった背の筋肉を解す為に背伸びをして夜空を見上げた。



 ほぅっ、フウタが感嘆の声を漏らしていた通り。今宵の星空は美しく見えますなぁ。


 漆黒の夜空を横切る様に星の河が流れ、時折美しい光の尾が暗き闇の中を駆けて行く。


 こんな素敵な夜空の下で美女の肩を優しく抱いて愛を語り合いたいが……。


 生憎今宵は美女不在ですのでね。ちょいと硬い毛触りの毛布をヒシと抱いて眠りに就きましょうかね。


 俺の体臭が毛の芯まで染み付いた毛布を荷物の塊の中から取り出して寝心地が良い平らな地面を探していると、ミツアナグマさん達の里の方角から軽快な足音が聞こえて来た。



「良かった!! まだ起きていたんだね!!」



 この元気過ぎる声は……。



『子供は早く寝る時間だからお家に帰りなさい』

「シテナさんか。どうしたんだい?? こんな夜更けに」



 前歯の裏側に到達した言葉をゴクリと飲み込み、別の言葉に変換して話す。



「明日の予定を伝えに来たんだよ!! ふぅ――っ、ちょっと走ったから暑くなっちゃった!!」



 くすんだ灰色の長袖の襟元を摘まむとパタパタと扇ぎ胸元へ新鮮な空気を送り込む。


 その所作、そして健康的に焼けた肌に良く似合う明るい笑み。


 シンフォニアの活発受付嬢さんといい勝負をしそうな快活さですよねぇ。



「あぁ!! ダン、私の胸元をじぃっと見て!! 厭らしいんだっ」


「お嬢さん。そういう台詞はもう少し大人になってから話そうか」


「十二歳だから大人だもんっ。足借りるね――」


「あ、おい!!」



 シテナさんが胡坐をかいて座る俺の太腿の上に何の遠慮も無しに腰掛けてしまう。



「さぁ皆さん!! 私が今から明日の予定を伝えますからごせいちょ――しますようにっ」



 はいはい、分かりましたからさっさと伝えて微妙に硬いお尻を退けてくれませんかね。



「明日の朝八時に里を出発して、砂嵐の前に到着したのなら私達三名とダン達四名と一羽の鳥の八名で砂嵐の中に突入するよ。私達の先導で古代遺跡がある場所まで徒歩で向かうんだけどぉ……。道中にちょっとした問題が発生したんだ」



「よぉ、ガキんちょ。その問題って何だよ」


 フウタが木箱の上で寛いだ姿勢のままで問う。


「次、私の事をガキって呼んだら置いて行くからね。それでは危険性について順次説明していきますっ!!」


「あいたっ」



 シテナさんが勢い良く両手を上げた勢いで彼女の手の甲が顔面に触れてしまった。



「この里の南一帯に広がる森を抜けると山々に囲まれた広大な盆地があるんだけどね?? そこには小型の砂虫がうようよと生息しているの。小型の砂虫は自分と同程度の大きさしか襲わないから人の姿なら大丈夫だよ。続きましてぇ、ローレンス山脈の麓の砂嵐の中は暴風吹き荒れる地帯で呼吸するのも困難な場所なの。七名が強固な陣形を維持したまま進行していくよ!!」



「砂虫は砂嵐の中で襲い掛かって来ないのか??」


 ハンナがいつも通りの静かな口調で話す。


「砂虫は音を頼りに襲い掛かって来るから砂嵐の中はまず大丈夫かな??」


「音を頼りに?? いつも地面の中で暮らしているから目が退化したのかな??」


 シテナさんの撫で易そうな頭をポンっと一つ叩く。


「多分そうじゃないかな。歩く音とか喋り声とか、動物が生活していく上で必要な音に反応するから移動中は極力静かにする様にね」


「ははっ、フウタ。お前さんのお喋りは御法度だってよ」



 ちょいと不機嫌そうに鼻を動かしている小鼠にそう言ってやる。



「ちっ、しゃあねぇな。お嬢ちゃん砂嵐を抜けた先の話をしてくれ」


「私達の御先祖様は滅多な事がなければローレンス山脈に訪れようとはしなかった。そしてそこに足を踏み入れた者で帰って来られた人は極僅か」


「チュル、帰還する際にそこに何が住み着いているのか見なかったか??」


 ハンナが左肩に留まる小鳥の頭を小突く。


「早急に向かう必要があったからそんな余裕は無かったし、それに結界を展開しながら砂嵐の中を飛翔したから何が棲んでいるのか分からなかったわ」



「シテナさん達も分からないんだよな??」


「うん、ごめんね?? それで砂嵐を抜けたら酷い風の中、山を少し登って……。そこで漸く古代遺跡が見えて来るらしいよ!!!!」



 らしい、ね。


 この地に長く住む彼等が窺い知れぬ土地には危険と死が跋扈しており、それを抜けてから漸く古代遺跡に到着するのか……。


 これは俺が考えている以上に危険な救出作戦になりそうだな。



「古代遺跡の内部はどうなっているか私達でも分からないから、先導役はそこまで。そこからはそこの青い小鳥さんの出番だね!!」


「任せなさい!! 古代遺跡の内部が入り組んでいようが主人であるティスロの魔力を辿って進むんで行くから問題無いわ!!」


 小さな両翼を勢い良く羽ばたかせる。


「遺跡内部はどうなっている」


 シュレンが毛布の中から此方の様子を窺いつつ問う。


「入り口付近の地面は剥き出しの地面じゃなくて石畳で覆われていて壁も天井も屈強な石が敷き詰められていたわね。内部が崩れない様に立派な石柱で天井を支えているから進む分には何も問題無いんだけど……」



 だけど??


 そこでも化け物が襲い掛かって来るとか勘弁してくれよ??



「マナの濃度が異常に濃いのよ。魔物はマナを取り込む事によって生存出来るけど、あそこのマナを吸収していたらいつかは体の何処かに異常をきたしちゃうわね」


「ふむ……、承知した。遺跡内部はどうなっているのか分からないので慎重に歩みを進めて行こう」



 可愛いお尻の鼠ちゃんがそう話すと毛布の中に引っ込んでしまった。


 あのモゾモゾとした動き具合、もう寝床の準備をしているのかしらね。



「ダン達が助けようとしている人を見付けたら即刻脱出。再び砂嵐を抜けて此処に帰って来ます!!」


「素朴な疑問なんだけどさ……。山の何処かに着陸出来ないのか??」


「無理だと思うわよ。あそこら一体は馬鹿みたいに風が強いから強風に煽られて着陸処か何処かに体をぶつけて怪我をしてしまうかもしれないし。私が愛しの彼を包める大きさの結界を展開出来ればいいんだけど……」



 俺の問いにチュルが即刻それは無理難題であると確定付けてくれた。


 ふぅむ、成程ね。


 山の近くまでは飛んで行けるけどそこからはどうしても徒歩で移動しなきゃいけない訳だ。



「救出作戦の行程は決まったけどさ。こんな危険な作戦なのにシテナさんはどうしても着いて来る気なのかい??」


 俺達大人でさえも危険を、死を覚悟せざるを得ない作戦なのだ。


 まだ齢十二の子が参加する作戦じゃないでしょうに。


「さん付けはしなくていいよ。う――ん……、何て言えばいいのかな。私は族長の娘だからね。妹弟が生まれない限り族長の跡を継ぐのは私だし。いつか継ぐ事になったその時に何も知らない様じゃ里の皆は認めてくれない、それにそれ相応の強さを身に着けなきゃいけないからさ!!」



 ミツアナグマの族長の座は世襲であり、ある程度の強さという資格が無ければ認められないのね。一つ勉強になりました。



「それは何となく分かるけどさ。もう少し大人になってからの方が色々と身に着くと思うよ??」



 作戦に参加する大人達が面倒を見れば生還するのは容易いけど……。彼女を救う刹那の隙が救出部隊全体を危険に晒す恐れがある。


 レシーヌ王女様の願いを完全完璧に履行する為、俺達に失敗は許されないのだから。



「私はもう大人だもん!! それに危険が襲い掛かって来てもちゃんと対処するから!!」


 ん――む……。大人達の言う事を聞かない横着な子には何んと教えればいいのやら。


「シテナ殿。大人であるというのは周囲の者が認める事。自分を大人だと認めている内はまだまだ子供である証拠だ」


「うふふ、不愛想な所も素敵っ」


 何とかして顔面に貼り着こうとする小鳥の横着を跳ね除けながらハンナが話す。


「ハンナ、だっけ。難しい事を言うね」


「奴は厳しい環境で生きざるを得ない状況で育ったからあぁしていつも怖い顔を浮かべているんだよ。でも、相棒が言っている事は事実だ」



 自分の犯した責任を取る、与えられた責務を全うする、誰かの人生を背負う等々。大人の舞台に立っている者は皆すべからずこれらを履行している。


 大人に認められようとして背伸びをしている内は誰しもが大人とは認めず、それ処か見向きもしないだろう。


 只……、大人と認められる為に究極的な選択肢が彼女には残されている。



「だから!! この作戦に参加して成功すれば大人に認められるじゃん!!」



 そう、最も危惧すべき状況が露呈してしまいましたね。



「まぁ言うと思ったよ。はぁ――……、分かった。危険だと思ったら俺達の後ろに隠れる事。それとお父さん達の言う事は確実に守る事。この条件を飲むのなら作戦に参加してもいいよ」



 降参だ。


 そんな感じで肩を竦めて言ってやった。



「本当!? あはっ!! 有難うダン!!」


 シテナが俺の膝元から飛び上がるとその勢いを保ったまま抱き着いて軽快な笑い声を上げる。


「こら苦しいぞ」


「えへっ、ごめんね??」



 彼女が零距離から体を放して端整に整った鼻頭を此方の鼻にちょこんとくっ付ける。


 これが大人の女性なら性欲ちゃんが大喜びする香りが舞い込んで来るのですが、生憎シテナはまだ俺の我儘な性欲を起こすのには至らなかった様だ。


 だが、紛いなりにもシテナは女性。異性に好かれて悪い気はしないね。



「何だか恋人みたいな距離感だねっ」


「こういう事は大事な時に取っておきなさい」


「今がその時じゃないの??」


 鼻頭をちょこんとくっ付けたまま可愛らしく首を傾げる。


「いいえ、違います。大人の金言は素直に受け取るもんだぞ」


「あいたっ」



 距離感を大いに間違えた彼女の額を一指し指でピンと突き、己の寝床へと向かう。


 ふわぁぁ……。ねっみぃ……。


 昨日の野営地での馬鹿騒ぎと朝一番からの長距離移動、そしてミツアナグマさん達との交渉。


 自分でも気付かぬ内に疲労が蓄積されているのかもねぇ。


 乱雑に敷かれている毛布をキチンと敷き直して己の荷物を枕代わりにして夜空を仰ぐ。



 ふむっ、眠る前に持って来いの夜空だな。


 これなら星の女神様達に見守られながら眠る事が出来そうだ。



「よっと!! ダン!! 私も此処で眠って良い!?」



 シテナの体から眩い光が放たれると魔物の姿へと変化。


 黒色と灰色の二色の体毛を備えた獣が俺の胸元に飛び乗り高揚した声を放つ。


 体に纏う微かな獣臭が野性味を醸し出し、背に生える灰色の毛を試しに一つ撫でると犬の体毛に比べてちょいと硬い事が知れた。


 お腹側の皮膚は何だか硬いのか柔らかいのかその判断に迷う硬度を持ち、口から覗く鋭い牙は獲物の肉を容易に裂き砕く事を可能としている。



 これがミツアナグマの姿、ねぇ……。


 間近で初めて見たけど足の短い獰猛な犬って感じだよな。



「駄目です。お家に帰りなさい」


「嫌だ!! 駄目だと言われてもこのまま眠るからね!! それじゃおやすみ――」


「ダン、お子ちゃまの世話をちゃんとしろよ。俺様は絶対見ねぇからな――」


「へいへい。それじゃあおやすみね……」



 全く、この里の女性は皆強引なのだろうか??


 いやこの里じゃなくて大陸全土にも同じ事が言えよう。皆が皆、俺の言葉を無視して自分の予定を無理矢理押し付けてきますもの……。


 胸の上で安らかな吐息を放って夢の世界へ旅立とうとする獣の毛を撫でながら行き場の無い憂いを誤魔化して、早く俺の下にも夢の世界の水先案内人さんが訪れてくれる事を願っていた。





お疲れ様でした。


急な予定が入ってしまった為、本日の投稿はここまでとなってしまいました。大変申し訳ありません。


次の御話では、彼等は予定通りに南の大地に降り立つ予定ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。


そのプロットを現在執筆しているのですが……。どう見積もっても一万文字を超えてしまうので前後半分けて投稿させて頂きますね。



いいねをして頂き、更に評価もして頂いて有難う御座いました!!!!


少々萎れかけていた体に嬉しい知らせとなり、執筆活動の励みとなります!!!!



それでは皆様、お休みなさいませ。


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