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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百二十話 利害の一致

お疲れ様です。


週末の夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。




 軽快に晴れ渡った青き空から燦々と降り注ぐ光に照らされれば人の心はその刺激を受けて少なからず何らかの反応を見せてくれる。


 例えば、良く晴れた日に子供と一緒に出掛ければ自ずと口角がキュウっと上がり心穏やかに一日を過ごせるかも知れない。


 大好きな彼女に振られて落ち込んでいる時に土砂降りの雨が襲い掛かって来れば心が更に落ち込み、心と密接な関係にある体は酷い風邪を罹患するかも知れない。


 これから急を要する仕事だってのに髪の毛が後方に引っ張られる程の強風に煽られればヤル気が削がれ、上司からもっと励めとお叱りの声を受けるかも知れない等々。



 人の心と気候及び環境は俺が考えている以上に密接な関係性を構築している。



 この通説に例えると、本日は大変お日柄も良く絶好のお出掛け日和なのでミツアナグマの里で暮らす人々はニッコニコの笑みを浮かべている筈なのだが……。



「「「……っ」」」



 どういう訳か、皆の表情は頭上で光り輝く太陽の明るさとは反比例する様に暗くなる一方でありその瞳は複雑な感情が含まれている。


 その複雑な感情の中でも際立って目立つのは、不審者を捉えた時に芽生える警戒心だな。


 里の中央を走る野道を進み、皆の警戒心に満ちた視線を方々から浴びせられると特段悪い事をしていないのに罪の意識が首を擡げて出て来てしまう。


 まぁ彼等が俺達に対して向ける瞳の色は大正解でしょうね。


 今日という何の変哲もない平和な日を謳歌している所に巨大な白頭鷲が飛来。


 それから直ぐに見ず知らずの四名の男と青き鳥が里に訪れたのだから。



「やっぱり俺様達は歓迎されないみたいだな」


 俺の直ぐ後ろを歩くフウタがいつもより硬い口調で話す。


「ここは閉鎖的な社会だからね。余所者は異様に目立つし、排他的になるのも致し方ないって」


 彼にそう話して警戒心全開で俺を見つめていた里の男性と目が合うと軽く会釈するが。


「……」


 彼は俺から目を離すと特に挨拶を交わす事も無く無言を貫いたまま己の家の中へと姿を消してしまった。



 んもぅ、挨拶の一つや二つ返しても罰は当たらないわよ??


 お母さんは挨拶も出来ない子に育てた覚えはありませんっ。


 里の方々に居る彼等に対して溜息混じりにそう言い放ってやりたいが、それをグッと堪えて俺達の前を堂々とした姿で歩み続けているグルーガーさんの御立派な背に視線を送った。


「……」


 只歩いているだけでも周囲に威圧感を放つ姿勢は正に圧巻であり、その姿を捉え続けているハンナは御馳走を目の前にして涎を垂れ流す駄犬の様に組手を申し込みそうな勢いだ。



 今は彼との交渉を続けるべきであり、力と力を交わすのは交渉を終えた後にしてくれよ??


 これ以上の厄介事に巻き込まれるのは願い下げだぜ。



「ダン、傷はどうだ」


 フウタの隣で静かに歩むシュレンが俺の傷口を見つめる。


「ん?? 別に大丈夫だぞ」


 本当はまだジィんとした痛みが残るけども、相棒の本気の攻撃に比べれば温い方だ。


「無防備な状態で真面に食らって何ともないとか……。ダン、テメェの体は一体どんな構造してんだよ」


 これは恐らくルクトから頂いた抵抗力の御業だろうさ。


 日々相棒から恐ろしい攻撃を受けているのでそれが実を結んだ。しかし、痛覚自体はどうにも出来ない。


 これだけがこの能力の欠点だよね。


「日々精進しているから耐えられたのさ。次からはもっと優しく叩いてくれよ?? リモンさん」


 列の最後方で俺達を監視している彼にそう言ってやるが。


「ふん……」



 彼はどこ吹く風といった感じでそっぽを向いてしまった。


 冷たい反応だ事……。この里の皆さんは彼と同じ様に口よりも先に手が出てしまう質なのでしょうか??


 その場合、これから望むであろう交渉も丹田に力を入れたままで臨んだ方が得策だな。


 いきなりぶん殴られても失神しない様に気を引き締めるべき。


 体はそう理解しているのですけども、冷静な頭ちゃんは何故話し合いの席なのに殴られる事を想定しなければならないのかと。


 この世の叡智を司る賢者も全会一致で同意してくれるであろう冷静な答えを導き出してしまった。



 チュルが話した通りミツアナグマ一族は好戦的であり野蛮でもあるので、彼等の機嫌を損ねて里から尻を蹴られて叩き出されない様に細心の注意を払って入山許可の交渉に臨みましょうかね。



 微かな熱と痛みを帯びた左頬を優しく撫でていると列の先頭を行くグルーガーさんが立派な土造りの家屋の前で歩みを止めた。



「ここが俺の家だ。入れ」



 此方に振り返りもせず慣れた手付きで扉を開けるとそのまま大変涼しそうな影が待ち構えている家の中へ入って行く。



「あ、はい。皆入ろうか」



 俺達は彼のぶっきらぼうな許可を得ておずおずとミツアナグマさんのお家にお邪魔させて頂いた。



 ほぅっ!! ただ日陰に入っただけでも物凄く涼しく感じるじゃあありませんか!!


 良く晴れた空から降り注ぐ光から逃れると肌がこの地に降り立ってから初めて大変ご満悦な笑みを浮かべてくれる。


 湿度自体は低いので恐らくこの馬鹿げた暑さの主な原因は日射だな。それから逃れるだけでここまで涼しくなるとは……。


 少しだけ強張っていた双肩の力をフっと抜くと改めてグルーガーさんの家の中を拝見させてもらった。



 ちょいと傷付いた木製の扉を潜り抜けると大変広い室内が俺達を迎えてくれる。


 剥き出しの土の上には獣の皮を使用した絨毯が敷かれており、グルーガーさんはその上を堂々とした歩みで部屋の奥の扉へと向かって行く。


 壁には鹿の頭蓋骨やら見た事の無い動物の頭蓋等々。狩猟で得た獲物達の勲章が飾られていた。



「入れ」



 俺達も彼の足跡を追う様に奥の扉へと進んで行き、そして彼の指示に従い冷涼な影が漂う廊下に出るとその足で最奥の扉へ目指す。


 道中に確認出来た幾つかの扉の前をやや速足で通過。



「ようこそ、我々の里へ。歓迎とまではいかないがお前達の話を聞こうじゃないか」



 グルーガーさんが最奥の部屋に入り一段高くなった位置に設置されている椅子に腰かけると重厚感溢れる低い声で迎えの言葉を送ってくれた。



「え、えっと……。初めまして、私の名前はダンと申します。改めて御伺いしますがグルーガーさんはこの里を治める族長であられますか??」


「如何にも。俺の名はグルーガー=カークヒル。ミツアナグマの里を治める者だ」



 ふむ、この人にローレンス山脈の入山許可を得れば大手を振って南へ進んで行けるのですね。


 彼の機嫌を損なわぬ様、細心の注意を払ってぇ……。



「よぉ、おっちゃん。俺様の同士ダチがそこの野郎にぶん殴られたんだけど。その落とし前はどう付けるつもりなんだよ」



 細心の注意を払おうとして交渉しようとしているのに何で君はいきなり喧嘩腰なのだい!?



「あ、い、いや――!! 怪我の事は一切合切気にしなくて結構です!!!! あれは挨拶みたいなものですよね?? ねっ!!」


 グルーガーさんの方へ進もうとしているフウタの右肩をグイっと掴んでその場に留めてやった。


「何するんだよ!! 俺様はダンの仇を取ろうとしてだなぁ!!」


「フウタ、下がっていろ。交渉はダンに任せるのだ」


「某もハンナに同意だ」


「そ――そ――。あんたの場合、要らぬ火種を起こしそうだからねぇ――」


「はぁっ!? そんな訳あるかっ!!」



 俺の身を案じてくれた。そして一矢報いろうとしてくれたフウタの温かな心意気が心を温めてくれるが、それは後でしっかりと受け取りますので今は彼との交渉に専念しましょう!!!!


 先ずは此方の素性を明かして警戒心を解き、そしてそれから本題へ入るべきだな。



「里の者から大体の話は聞いている、突然の無礼を許してくれ」


 おや?? グルーガーさんはリモンさんと違って血気盛んな性格じゃないのかしらね。


「あ、いえ。ミツアナグマの方々は好戦的であると伺っていましたのである程度の負傷は覚悟の上で訪れました」


「誰からその話を聞いた」



 グルーガーさんの右側で静かに佇む無頼漢が俺をジロリと睨む。



「そこに居る青き鳥、名はチュルと申しますが彼女から伺いました。そして我々は……」


 此処に来た本当の理由、俺達の素性、そしてローレンス山脈の入山許可。


 ミツアナグマの里に訪れてから二度目の事情説明を端的に終え。


「――――。貴方達が大切にしている土地へ土足で踏み入れるのは面白く無いかと思われます。ですが……、今にも消えてしまいそうになっている儚い命を救う為にどうか入山許可を頂けないでしょうか??」


 これ以上無い角度でお辞儀を放った。


「ふぅむ……。お前がリモンに殴られた理由はそれか。リモン、どの程度の力で殴り付けた??」


「七割程度かと」


 あ、あれで七割!? まだまだ肌と肉がズキズキと痛むんですけど!?


「ふっ、ふふっ。わはは!! そうかそうか!!」



 リモンさんの態度、若しくは台詞が彼の笑いのツボを刺激してしまったのか。


 グルーガーさんが大きく口を開けて豪快な笑い声を放つ。



「えっと、如何なされました??」


「里の一番の力自慢の攻撃を受けても立ち上がり、しかも俺と普通に話している事が面白くてな。オホン、話が逸れたな。お前達がローレンス山脈に行く理由は要救助者の確保。それに相違は無いな??」


「えぇ、その通りです」


「山脈の深い位置に居ると言っていたが……。具体的な場所は何処か分かるか??」


 俺では無く、ハンナの左肩に留まるチュルへ視線を送る。


「え、っと……。確か酷い砂嵐を抜けてから山に入って。それから奥へ奥へ進んで行くと山の中腹辺りに洞窟みたいな穴から入ったら、その先に古代遺跡みたいな場所が確認出来たの」


「「ッ」」


『古代遺跡』



 その単語を捉えた刹那に二人の顔が強張る。



「彼女はこの数か月の逃亡生活で疲れ切っていたのか、遺跡の入り口から少し奥に踏み入れた所で倒れてしまった。それで私が……」


 居ても立っても居られず王都まで飛翔して来たのね。


「逃亡生活と言っていたが、貴様の主人は何の罪を犯して逃亡しているのだ」


「それは……」


「俺が説明します。フウタ、シュレンもしっかりと聞いてくれ」



 チュルの意味深な視線を受けて説明を開始した。



「彼女の主人は行政に携わる仕事をしていまして、それ相応の地位に就く者でしたがレシーヌ王女様にある種の呪いを掛けてしまい執行部に追われる者となってしまいました」


「その呪いとは??」


「今から御話する内容はくれぐれも内密に願います。宜しいでしょうか」


 相変わらず厳しい瞳を浮かべているグルーガーさんにそう話すと。


「……」



 彼は肯定の意味を含めて長く縦に頷いてくれた。



「呪いは認識阻害と呼ばれる魔法で、一定の範囲内に居る者の認識を捻じ曲げてしまう恐ろしい効力が認められます。彼女に掛けられた認識阻害は他者に己の姿が醜く映るというものでした。レシーヌ王女様と此度の要救助者であるティスロの仲は他者が羨む程の仲睦まじく。王女曰く、何故彼女がこの様な凶行に及んだのか。その理由が分からないそうです。我々はその理由と彼女の命を求めにローレンス山脈へ向かうのです」



「ティスロに認識阻害を解く方法は問わないのか」



 んっ、流石に一族を纏めるだけであって鋭いですね。



「その方法は既に入手しています。認識阻害を掛けた時以上の魔力で効力を相殺させる、術者の命が消失する、解除の魔法を詠唱する。この三通りが認識阻害を解く方法です」


「術者の命が失われればその呪いは解けるのだろう?? それなら態々死地へ赴かなくても良いではないか」


 それは御尤もです。


「私自身もそう考えていましたが、此度の救出作戦の提唱者は呪いを受けたレシーヌ王女様なのです。彼女はその理由が知りたいが為にティスロ救出を我々に依頼しました」


「ふっ、王女の我儘に付き合いこんな僻地まで訪れたのか。同情するぞ」


「有難う御座います。つきましては、どうか憐れな我々に入山許可を与えて頂けないでしょうか?? 勿論、物資及び報酬が必要というのであれば救出作戦後に再び御持ちします」



 さぁ、此方の情報を包み隠さず伝えたぞ。


 今度は其方の番です。


 そんな意味を籠めて俺の姿を捉え続け微動だにしないグルーガーさんへ視線を送った。



「報酬は必要ないが物資は有難く頂戴しよう」


「それなら!!」



 おぉ!! 漸く俺の交渉術が実を結びましたね!!


 入山許可が得られるのなら殴られた甲斐があるってもんさ。



「そう急くな。先ずはお前達が足を踏み入れようとしている危険地帯を説明してやる。この里から南へ向かうと山に囲まれた砂の盆地に出る。そこは砂虫の住処であり、我々は己の縄張りから出て来た奴等を退治する為にこの地に留まっている」


「それは承知しています」


「ふっ、我々の武功は来たに轟くのか。それは喜ばしい事だな。では、ティスロといったか。王制に歯向かった勇気ある者が迷い込んだ古代遺跡の危険性についてはどうだ??」



 それは全く伺い知れませんね。


 彼の問いに対して素早く顔を左右に振る。



「古代遺跡には恐ろしいモノが封印されていると噂され、不必要に刺激するなと代々言い伝えられている。その獣が一度目を覚ませば地が裂け、空が割れ、大陸が沈むとも言われているのだ」



 お、おいおい。どれだけやべぇ生物がそこにいるんだよ。


 話を聞いた分にはキマイラちゃんが横着な子犬に見える程だぞ。



「それは国食いの事かしら」



 チュルが周囲の硬い雰囲気に沿った声量でグルーガーさんに問う。


 国食いって確かべらぼうにやばい滅魔の一体じゃなかったっけ?? 五つ首と並ぶその狂暴さが脳裏に過ると、ふと此度の冒険に出立するきっかけとなった地図が思い浮かんだ。


 地図に記されていたバツ印はもしかしてヤベェ滅魔が封印されている場所を示しているのでは無いだろうか??


 五つ首と今回の国食いの位置はぴったりと当て嵌まっているし……。まあでも、残す所のガイノス大陸南東部と俺の生まれ故郷であるアイリス大陸南西部を確認するまでは確信しちゃ駄目だよな。




「恐らくそうだろう。その遺跡に辿り着く為には砂の盆地を抜け、砂嵐を抜け、更に険しい山を登らなければならない。人の命等塵屑以下の価値しかない危険地帯を抜ける馬鹿者はこれまで現れなかったが……。傍迷惑な来訪者が遺跡に迷い込んでしまった。その者が今現在そこで何をしているのか理解に及ばぬが先代からの言伝を守る為にも我々は一刻も早くその者を引きずり出さなければならない」



「そ、それはつまり??」



「我々の行動とお前達の行動が今回偶々重なった。ダン、お前達がローレンス山脈に足を踏み入れる事を許そう」


「ほ、本当ですか!? 有難う御座います!!」



 やったぜ!! これで漸く前へ進む事が出来るな!!



「喜ぶのは早計だぞ。そちらの救出作戦には俺とリモンが帯同する。遺跡に突入したのなら何も触れず、何も痕跡を残さず。ティスロを救出したのなら速やかに脱出する。これが入山許可を与える条件だ」


「その条件なのですが……。ティスロを殺めるという行為は含まれていませんよね??」


「俺達が治める地に不法侵入した不届き者は本来即刻首を刎ねてやるのだが、国王の娘に対して行った行為は賞賛に値するので今回は見逃してやる」



 あ、あはは。


 大陸中を逃げ回って逃げ込んだ先は救助が望めない絶望の地だったが……。その原因となった行為が褒められ、骨折り損のくたびれ儲けって奴にならなくて良かったじゃないか。



「作戦決行はいつだ」


「今直ぐにでも出発出来る準備は出来ています。彼の背に乗り盆地を飛び越え、酷い砂嵐の手前で着陸。その後にローレンス山脈へ突入する算段です」


「大体の行程はそれで構わんが一晩待て。山の詳しい地形や古代遺跡について色々調べる事がある」


「それはつまり先導役を担ってくれると??」


「俺はあくまでも古代遺跡に何があるのかを確認するだけ。お前達は偶々それに帯同する者として選ばれただけの話だ」



 うふふ、照れ隠ししちゃって。


 本当はその古代遺跡に興味津々って感じで黒き瞳がキラキラと輝いていますよ??



「畏まりました。それでは里の外で一晩を過ごしますね」


「それで頼む。日が落ちるまでこの家の部屋を使うがいい。準備が整い次第、リモンが呼びに行くのでそれまで待機していろ」



 日が出ている間は無茶苦茶暑いけど、日が落ちたら落ちたらで結構寒いんですよねぇ……。風邪を罹患しない様に毛布にくるまって寝ないといけないな。


 グルーガーさんとこれからの日程について相談しているとこの部屋の扉が大変苦い顔を浮かべてしまう勢いで開かれた。



「お父さん!! そいつらが余所者!?」


 ん?? 誰だ??


「シテナ……。俺は今現在彼等と話し合いをしている最中なのだ。終わるまで外で待っていろ」


「え――!! 生まれて初めて里の外の者を見るのよ!? それ位いいじゃん!!」


 十代前半の女の子が俺達の顔を物珍しそうな表情を浮かべてじぃっと見つめて来る。



 藍色がかった黒の長髪を後頭部で綺麗に纏めており、彼女の活発な動きによって可愛らしく後ろで纏めた髪が左右に揺れ動く。


 クリクリの丸い瞳に顔の中央を真っ直ぐに走る鼻筋に、健康的に焼けた地肌。


 この子は将来必ず美人に育つであろうと思われる外観を備えており、その姿を捉えた性欲ちゃんが椅子から微かに腰を浮かそうとするのだが……。


 はぁっ……。何だ、まだまだガキじゃないか。


 収穫には時期尚早だと即刻判断して椅子に腰掛けて大きく口を開けて欠伸を放ってしまった。



「えっと、グルーガーさんの娘さんで??」


「そう!! 私の名前はシテナ=カークヒル!! 元気が専売特許の活発長女で――す!!」



 この里に訪れてもう既にワンパクな元気は受け取りましたのでね。その明るさが眩し過ぎてもうお腹一杯なんですよ。


 専売特許と話した通り、まるで明るい太陽の申し子みたいな感じの子だな。



「シテナお嬢様。貴女は族長の娘なのですからそれ相応の態度を醸し出して下さい」


「あはっ!! リモンも人の事言えないんじゃない?? いきなり彼の……。えっと」


「ダンですよ」


「ダンの顔面を殴ったってリモンの奥さんから聞いたよ!? 後、この蜂蜜バカ美味!! 北の花粉が使われてて絶品だもん!!」



 彼女の登場で場が一気に和むが、堅苦しい話をしなければならないのにちょいと邪魔かな。


 そして贈答用に購入した蜂蜜は一体誰が開封したのだろう??


 まぁ恐らく里の人だろうさ。



「それとぉ……。えへへっ、扉越しに盗み聞きしていたけどさぁ。これから存在するかどうか怪しい古代遺跡に行くんでしょ?? 私も着いて行っていいかなっ!?」


「餓鬼が足を踏み入れる場所じゃねぇんだよ。大人しくお留守番してな」


 フウタが堪らず声を出す。


「そこの派手過ぎる真っ赤な装束を来ているおちびちゃん。だ――れが餓鬼だって??」


「お前さん以外に居ないだろう。後、次チビって言ったらぶっ飛ばすからな??」


「あっそう。じゃあもう一回行ってあげる。お、ち、び、さんっ」


「この野郎!! 衣服ひん剥いてお尻ぺんぺんしてやるからなぁ!!!!」


 フウタが鼠の姿に変わるとシテナさんを追い始める。


「キャァァアア――!! 無駄に動きの速い鼠に襲われるぅ――!!」



 話が纏まりそうだったのに太陽の申し子みたいな明るい彼女の登場でそれは粉々に砕け散ってしまった。



「はぁぁ――……。まぁいつかは話すべき事であり、貴重な経験にもなり得る。それにこれだけの手練れが居れば安心だろう」


 え゛っ!? もしかしてその口調って……。


「シテナ、俺達の指示に従い。大人しくしていると約束すれば連れて行ってやるぞ」


「本当!? あはっ!! やった――!! お父さん大好き!! 今からお母さんにも言って来るね!! 後、色々用意する事あるからそれが終わるまで絶対行っちゃ駄目だからね!!」



 嵐が過ぎ去ると本当に心地良い静けさが俺達の間に漂う。



「はぁ――。五月蠅かったぜ」


「某の気持ちが理解出来たか??」


「俺様はあそこまで酷くねぇぞ!!!!」



 いや、ほぼ同じ位の声量でギャアギャアと騒いでいますよ??



「それでは私達は荷物をこの家にまで運んできますので一旦失礼しますね」


「里の者がちょっかいを出して来たら受けても構わんぞ。礼には礼を、武には武を。そして死に死を。これが我々の里の方針だからな」


「あ、あはは。えぇ、それ相応に対応させて頂きます……」



 愛想笑いを浮かべるとグルーガーさんの部屋から静かに退出した。



 これで一応入山許可を得る事が出来たけど……。ゴッリゴリに鍛えた人の帯同と元気過ぎる少女の世話の条件付きだ。


 それに加えて人の命が塵屑以下の危険地帯を突破して、更に!! 超危険な何者かが眠る古代遺跡に突入してレシーヌ王女様に上等をブチかました大馬鹿野郎を救出せねばならない。


 これだけの大仕事だってのに政府非公式の任務な為、増援や物資の補給は望めず。任務成功の暁に貰える報酬はレシーヌ王女様が丹精込めて練り上げている彼女の自叙伝のみ。


 世の中に広く存在するお人好しさん達も俺の立場を捉えたら思わず憐憫の眼差しを向ける事だろうさ。


 まっ、報酬については俺が所望した訳だし。文句はいいませんよ。それと何より彼女の生い立ちやら価値基準やらは気になる所なので話如何によっては金銀財宝よりも貴重かも知れないからね。



「ダン!! さっきの応接室で休もうぜ――!!」


「別にそれで構わないけど頼むから家具や柱を齧るなよ」


 俺の前を軽快に駆けて行く小鼠のお尻に向かってそう話す。


「わ――ってるって!!」



 どうだか……。お前さん達は気を抜くとす――ぐに硬い物を齧ろうとする癖がありますからねぇ。


 族長の機嫌を損なわぬ様、決して監視の目は緩めんぞ。いつもより三十度増した急角度の目付きを維持してそう強く決心した。




お疲れ様でした。


さて、これで南の遺跡へ突入する準備が整いましたが……。この先の御話のプロット作業が難航しております。


この週末で何んとか掴み程度は書きたいと考えておりますが進捗状況は芳しくない感じですかね。温かい味噌ラーメンでも食べに行って気合を入れようかと考えております!!



そして、ブックマークをして頂き有難う御座いました!!


本話を投稿する前にチラっとPVを確認させて頂いたのですが、意外と沢山の読者様がこの作品を読んでくれている事に驚いてしまいました。


連載を続けていられるのはひとえに読者様達の温かい応援のお陰であると考え、これからも皆様の期待に応えられる様に精進させて頂きますね!!



それでは皆様、引き続き良い週末をお過ごし下さいませ。

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