第百十六話 新たなる出会い その二
お疲れ様です。
後半部分の投稿になります。
「ほぉ――……。犯罪者を逃さない為の立派な塀ですなぁ」
正面門の前に到着すると素直な感想を漏らし、首を長くして塀の終点を探したのだが正面からではその終わりが余裕で見えないな。
一体何処まで続いているのやら……。
「これはこれは……。高貴なる王都守備隊の総隊長がこんな辺鄙な所に一体何の御用ですかな??」
殺傷能力の高い鉄製の槍を装備した大蜥蜴が兜の奥から鋭い視線を俺達に向けてそう話す。
「我々は先日此処へ護送された二名の犯罪者との接見を望む。これが王都守備隊の責任者であるゼェイラ長官の接見許可が記された書状だ。確認してくれ」
グレイオス隊長が右肩から掛けている鞄の中に手を入れて中々お高そうな紙を取り出すと門番の兵に渡す。
「ふむ……。確かに正式な書類の様ですな。不備もありませんし」
「当り前だろ。我々が書類を偽造すると考えているのか??」
「いえいえ、滅相もありません。貴方の様な高貴な血筋の方が足を踏み入れる場所では無い為、少々懸念していたのですよ」
「ふんっ、確認出来たのならさっさと開けろ」
「仰せのままに。おい、開けてくれ」
門番の兵が重厚な扉の向こう側に声を掛けると鉄製の扉が仰々しい音を奏でて開かれた。
「行くぞ。俺について来い」
「お、おう。分かった」
普段の温厚な声では無く、クソ真面目丸出しの口調を放つ彼に従い敷地に足を踏み入れた。
「よぉ、隊長。もしかすると王都守備隊の連中って他の部署の奴等と仲が悪いのかい??」
正面門から拘置所まで続く石畳の上に足を乗せると彼の立派な背に問う。
先程の会話からして恐らく……、いいや。確実に仲は宜しく無いでしょうなぁ。
仲違いとまではいかぬが自分達の縄張りに勝手に足を踏み入れられて面白く無いって感じでしたもの。
「恐らくダンが考えている通りだ。俺達は俺達の任務を、彼等は彼等の任務を全うしている。どの部署の仕事も全て国の為なのだが……。蓋を開ければ縄張り争いや下らない権力争いが蔓延っているのさ」
ほらね?? 思った通りだ。
「各部署が仲違いをすれば軋轢を生み、それは修復不可能な高さの壁を生む恐れがある。真に国を想うのであれば協力するのが当たり前だろう」
「よぉ、相棒。それは絵空事の様な理想論だ。一つの大陸を纏める強大な力を持つ行政に携わる者なら上を目指す。つまり出世って奴だな。強力な力を持つ国の内部でその権力を高めていけば自ずと力と名声と富が手に入る。そして……、内部から牛耳る事が出来る様になれば自分の思った通りの政策や法律を施行出来る。その覇道を進んでいるのに横槍されたら誰だって面白く無いだろう?? だから他の部署からの干渉を嫌うのさ」
面白くないだけならまだしもその存在自体を煙たがれる様になるかも知れない。
恐らくゼェイラさんは俺達が此処に来る事を望んでいなかった筈だ。
護送した犯罪者の尋問を中止してその身柄を渡せという横柄処か無理矢理な強制執行をしようとしているのだから。
他所の部署が管轄する縄張りを荒らそうとしているのだからアイツらが難色を示すのも理解出来るぜ。
「面倒なものだな」
「まぁそう言うなって。これは他ならぬレシーヌ王女様から直接受け賜った依頼だ。嫌な顔をされたら一国を従える国王の血筋からの依頼だと伝えれば誰だってヘコヘコと頭を下げるさ」
彼等の家族からの依頼だと知ったら目ん玉ひん剥いて驚くんじゃねぇの??
こ、これは失礼しました――!! って。
「俺達はあくまでも王都守備隊の一員として任務を全うする。それは最終手段にしておけ」
「う――っす、了解しやした」
グレイオス隊長に釘を差されるとのんびりとした口調で返答。
「先日此処に護送された二名と接見を求めたい。これがゼェイラ長官の指示が記された書状だ」
「確認するからそこで待て」
拘置所の入り口の木製の扉の前で警備の任に就いている彼が美味しそうに文字を咀嚼している間に興味本位で敷地内をぐるりと見渡した。
遠くに見える塀の側で歩哨の任務に就く者達がゆるりとした速度で歩みを継続させてその任務を全うしており、この石作りの拘置所の側にも彼等と同じ所作で巡回を続けている者も居る。
鼠一匹逃さぬその強力な姿勢は見事なものであり、恐らくこの施設に留置されている犯罪者達はそれ相応の罪を犯した者であると推測出来るな。
軽犯罪者にしては仰々しい警備ですもの。
「うむ、確認出来た。貴様達が接見を求める二名の犯罪者は現在地下室で尋問官が尋問を続けている。中に入ったら地下へ続く階段へと進め。それ以外の場所の立ち入りは一切禁じる」
「あぁ、分かった」
「では私の後に着いて来るように」
「承知しやした」
ゼェイラさんの書状を受け取ったグレイオス隊長の背に続き頑丈な石作りの拘置所へと記念すべき第一歩を踏み入れた。
へぇ、中はこんな風になっているのか。
ちょいと古ぼけた正面の扉を潜り抜けると建物の奥へ真っ直ぐに続く長い廊下が御目見えする。
その通路の脇には屈強な鉄製の扉が幾つも確認出来、外から中の様子を確認出来る様に扉の上部には開閉可能な小窓が備え付けられている。
所々に設置された椅子に看守が腰掛けており、各部屋に異常が無いか鋭い視線を方々へと向けていたが。俺達が拘置所に足を踏み入れるとその瞳を此方に向けた。
「「……」」
恐らくあの目は、よそ者が一体此処に何の用だ?? といった意味でしょうねぇ。
規律と法を重んじる彼等の厳しい視線を浴びながら約束通りに廊下を奥へと進んで行く。
剥き出しの地面の上に刻まれた看守の足跡に土埃が少しだけ含まれた乾いた空気、そして看守達が放つ重苦しい圧。
この場所には陽性な感情が足を踏み入れる隙は一部も見当たらない四角四面な場所であると速攻で理解出来てしまった。
「へへ、よぉっ兄ちゃん達。今から何処へ向かうんだい??」
「お前さんには関係の無い事さ」
犯罪者が拘留されている部屋の小窓から一人の大蜥蜴が目元だけを此方に覗かせて問うて来るが。
「おい!!!! 誰が勝手に話していいと言った!!」
その近くの看守が瞬き一つの内に小窓を閉めてしまい彼の姿は頑丈な鉄の扉によって隔たれてしまった。
「貴様、収監されている犯罪者との会話は禁止されている。さっさと貴様達が求めている場所へと向かえ」
へいへい、了解しましたよ――っと。
目くじらを立てて怒りを露わにする看守さんに了承の意味を籠めて一つ頷くと、地下へ続く階段の前に到着した。
「話を聞いた分にはこの先に居るんだよな??」
グレイオス隊長の背をちょいちょいと突いて話す。
「貴様が話す通り尋問を続けている二名はその階段を下りた先に居る。私の先導は此処までだ。用件が済んだら拘置所から速やかに退出する様に」
「了承した」
グレイオス隊長が地下へと続く階段に一歩踏み出した刹那。
『ウ、ウォォォォオオオオ――――…………ッ!!!!』
地下から男の重苦しい叫び声が轟いた。
まるで地獄の底から湧き上がって来る様な亡者の声に一瞬だけ体が硬直してしまう。
「今の叫び声……。もしかして尋問官が拷問をしているんじゃないの??」
少々痛みが目立つ階段を下りながら誰とも無しに話す。
今の声量と声色からしてそれはもう恐ろしい程の拷問だろうさ。
「犯罪者への拷問は法によって規制されているが……。ここは超法規的な場所だからな」
「超法規的??」
「軽、中犯罪者達は此処とは違う場所に留置する。ここに送られて来るのは大罪を犯した者達のみ」
後は言わなくても分かるよな??
そんな感じでグレイオス隊長が振り返りながら俺の顔を見つめる。
「じゃあ俺達が接見しようとしている者達は……。公務執行妨害と傷害、それに加えて器物破損に私有地への不法侵入をした訳だからかなり重い罪に問われる可能性があるって事ね」
「その通りだ。監獄に収監される事は確実でその年数は数十年以上だろうな」
あらあら……。王都守備隊の隊員達に手を出すのはかなり重い罪なのねぇ。
俺もこれからは気を付けてラゴス達を虐めよ――っと。
『や、止めてくれぇぇええ――――ッ!!!!』
「「「……」」」
重苦しい空気が俺達の口をほぼ強制的に閉ざしている間にも断末魔の叫び声が階段の先に続く廊下の奥から届く。
その声が俺達の緊張感を否応なしに高め、階段を下りきると新たに現れた廊下を進みそして遂に件の部屋へと到着した。
「うん?? 王都守備隊の隊長がこの様な場所に一体何の用だ」
暗き闇を打ち払おうとしている蝋燭の淡い明かりに照らされた看守が椅子から立ち上がり、警戒心を全開にした面持ちで尋ねて来る。
「ゼェイラ長官からの指令により今現在尋問している者達に用がある為に訪れた。これがその書状だ」
「受け賜ろう」
此処に至るまで何度も行って来た確認作業を終えると彼は例に漏れず驚いた表情を浮かべ。
「用件は理解した。尋問官に許可を頂いて来るから少し待っていろ」
さも面倒な表情を浮かべて尋問室の扉を開いて中に姿を消してしまった。
「何処に行っても俺達は厄介者扱いかよ」
「そう不貞腐れるな。万が一問題が起きた場合の責任を取りたくないのが大人の心情さ」
俺の言葉を拾ったグレイオス隊長が少しだけ緊張感が解れた声色で言う。
それは理解しているけどさぁ……。もうちょっとあるじゃん?? ほら、態々御苦労様です――とか。色々大変ですねぇ、とか。
相手の苦労を労うのが大人の処世術って奴じゃないの??
「待たせたな。入っていいぞ」
深海に住まう蛸が太鼓判を押す勢いで唇を尖らせていると先程の看守が素早い所作で扉から現れ入室の許可を出してくれた。
「うむ、では失礼するぞ」
さぁっていよいよ王都守備隊の隊員達を手玉に取った謎の不審者との出会いだ。
一体どんな凶悪な面構えをしているのやら……。
期待感と緊張感がせめぎ合う複雑な心の空模様のまま尋問室の木製の扉を開いてお邪魔させて頂いた。
室内は地下通路と同じく暗闇が空間を占拠しており、壁に掛けられた蝋燭の小さな火が室内全体を淡く照らしている。
一辺約十メートルの室内には俺達以外に二名の尋問官が確認出来、二名の大蜥蜴は黒を基調とした清楚な制服に身を包んでいる。
一名の尋問官は書記官役だろうか??
部屋の片隅に設置されている机の前の椅子に腰掛けて右手に筆を手に取り何やら書き記しており。もう一名は俺達が入室すると驚いた顔で迎えてくれた。
「おぉ!! グレイオス!! 久し振りじゃないか!!」
「ジレ!! お前の担当だったのか」
尋問官役のジレさんとグレイオス隊長が硬い握手を交わす様を捉えようと俺は努力したのだが……。
目が、気が、どうしてもアッチの方へ向かいっぱなしになっている為それは不可能であった。
「ウォォオオオオ――――!! だ、誰か俺様を止めてくれぇぇええええ――!!」
一辺約三十センチの木製の箱の中に設置されている滑車の中を懸命に駆け続けている鼠が俺の鼓膜の奥を大いに震わす声量で叫んでいる。
俺の手の平の中にすっぽりと収まってしまうであろう大きさの小鼠は声を枯らしながらも滑車を回し続けており。
「ぜぇっ……。ぜぇっ!!」
体力が尽き果てている体に鞭を打ちながらも決して止まる事は無かった。
そしてもう一体の鼠はというと。
「……っ」
あの滑車を見たくないのかそれとももう一匹の鼠の叫び声を聞きたくないのか、ぷっくりと膨らんだ真ん丸お尻を俺達の方へ向けたまま小さな前足を器用に扱って耳を塞いでいた。
アイツ等が王都守備隊の連中を打ち倒したのか……。
人間の姿を想像したままだったのでちょいと意表を突かれてしまい言葉が出て来ねぇぜ。
「グレイオス、その者達は??」
「彼等は俺達と共に……」
グレイオス隊長がジレと呼ばれた男にそっと耳打ちをする。
「ほぅ……。彼等が件の者達か。態々御苦労だったな」
「あ、いえ。ゼェイラさんの指令でしたので」
此処に来て初めて受けた労いの言葉に心が温まる。
他の連中と違ってジレさんは心優しき御方なのだろうか?? それとも俺と同じく生粋のお人好しなのか……。
「コイツ等が俺の部下を傷付けたのか??」
「その通り。此処に運ばれた時、あの個体はどうしようも無く暴れ回っていて俺の頭を悩ませていてな?? 守備隊の連中の証言を下にして職人にあの籠を作らせて試しに入れてみた所……」
効果は覿面。
憑りつかれた様に滑車を回し始めて大人しくなったとさ。
「おかしな趣味の奴だな。おい、お前。少し質問したいからその滑車から下りろ」
グレイオス隊長が奥の机の上の籠の中で滑車を回し続けている鼠に話し掛けるが。
「俺様もそうしたいんだけどこ、この悪魔的装置がそれを許してくれねぇんだよ!!!!」
灰色が掛かった黒の体毛が覆う小さな鼠は彼の要望を受け止める事はしなかった。
「この大陸に住まう者達は俺様達を根絶やしにする為にこの装置を作ったに違いない!! これが生まれ故郷に持ち込まれたらと想像すると寒気がするぜ!!」
「そうか。そっちの鼠、どうして貴様は耳を塞いでいるのだ??」
「……」
グレイオス隊長に話し掛けられても耳を塞いでいる鼠は応える事無く、只々耳を塞いだままでいた。
「俺様の言葉とこの滑車の音を聞きたくねぇんだってよ!!」
「よぉ、鼠ちゃん。先ずは名前を聞かせてくれるかい??」
腕を組んだまま滑車の中を駆け続けている元気一杯な鼠に問う。
「俺の名前はキャッシュ!! んで、超絶可愛いお尻をこっちに向けているのがタンゴな!!!!」
「へぇ、良い名前じゃん。じゃあ……」
「ギャハハ!! 残念でしたぁぁああ――!! 偽名ですぅ――!!!!」
このクソ鼠が……。小さな口から覗く前歯をへし折るぞ。
「訳も分からん理由で拘束されれば誰だって偽名の一つや二つ使うだろう!? そこの姉ちゃんも大変だよなぁ!! 噓八百の証言をその紙に書かなきゃいけないんだからよぉ!!」
駆けながらもケラケラと笑い続ける鼠が書記官役の彼女を煽ると。
「……ッ」
彼女は無言のまま体内から迸る怒りに任せて右手に持つ筆をへし折ってしまった。
ふぅ――……。どうやらコイツ等は、あいや。コイツだけかも。
兎に角自分達が置かれているヤバイ状況を教えてやるとしますか。
「ジレ、悪いが……」
俺の気持ちを汲んでくれたグレイオス隊長がジレにそう話すと。
「別に構わんよ。おい、少しだけ外すぞ」
「畏まりました」
尋問官と書記官役の彼女が部屋から静かに退出。
俺達だけになった部屋にはカラカラカと滑車が回り続ける音だけが虚しく響いていた。
「さてと……。これでお目付け役は排除出来た訳だ。俺の名前はダン、宜しくな」
格子状となっている籠の中に小指を差し入れて挨拶代わりの握手を求めると。
「宜しくぅ!!」
俺の小指を右前足で軽く触れてくれた。
話が全く通じない訳じゃないのね。
「俺達が此処に来た訳を知りたいよな??」
「街中に病気を蔓延させる為だろ!? 俺様たちゃ病気には滅法強いからな!! その手のものは得意分野だぜ!?」
「全然違うよ。俺達が此処に来た理由それは……」
危険地帯に居る者を救助する為にお前さん達を引き抜きに来た事を端的に伝えてやる。
勿論、ティスロや認識阻害等々。超重要事項は伏せたままでだ。
「――――。と、言う訳で。俺達は腕が立つ者を探している所なのさ」
「ほほぅ!! 超危険地帯に居る女性を救助する任務か!! よぉ!! 俺様達にぴったりだとは思わないかい!?」
滑車の中の駆け続けている鼠が可愛いお尻の鼠に問う。
「――――。理に適っているが何でも鵜呑みにするのは良くない」
ちっ、コイツは軽く落とせるかと思ったけど奥に居る奴はどうやら慎重な性格の様だな。
「まぁそりゃそうか。何処の誰かと分からん奴について行くよりも数日間、この狭い籠の中で過ごせば解放されるだろうし」
「よぉ、お前さん達。今からあそこでこわぁい顔を浮かべて腕を組んでいる大蜥蜴ちゃんがこれからお前さん達が監獄で過ごすであろう年数をキッチリと教えてくれるぜ??」
今も険しい瞳を浮かべているグレイオス隊長へ視線を送る。
「王都守備隊員に対する暴行、公務執行妨害、器物破損、私有地への不法侵入。これらを加味すると恐らく数十年はカタイな」
「げ、げぇっ!? うっそだろ!? ちょっとじゃれ合っただけなのにそんなに入っていなきゃいけないのかよ!?」
漆黒の円らな瞳をキュウっと縦に伸ばして素直な驚きを示す。
「嘘では無い。この拘置所は大罪を犯した者が連れて来られる場所だからな」
「いやいやいやいや!! 大罪じゃなくて軽犯罪だから!! それにあの大蜥蜴ちゃんには致命傷を与えていないだろう??」
「そこだよ、俺が気になったのは」
大慌ての状態でも健気に滑車の中を駆け続けている鼠に指を差してやる。
「日々鍛えている隊員達を容易く打ち倒せる実力があるのにその場から逃げなかった。まぁそれはその場所に水車があったのも理由かも知れないけど。それに、武器を持つ敵に対して手心を加えるのは相当な実力差が無ければ出来ない芸当だ。お前さん達は一体何者なんだ??」
「へぇ、傷跡を見ただけで看破したのか。そっちも中々の実力を持っているのは纏う空気で理解出来るぞ。特に……。そこの青い髪の野郎は特にやべぇな」
それ、大正解です。
彼の機嫌を損なわせる真似だけは決して取らない事を勧めますよ??
「アイツの名前はハンナだ。俺と一緒に冒険を続けている唯一無二の相棒さ」
「んっ?? って事はダンとハンナはここの所属じゃないって事か??」
「訳あってこの危険な任務に帯同させられた憐れな子羊ちゃんなの。さて、こっちも正体を明かした訳だし?? 話せる範囲で良いからお前さん達が此処に来た理由を教えてくれるかい??」
相手を警戒させない柔らかい声色でそう問うと、滑車の中で駆け続けている鼠が暫しの沈黙の後に口を開いた。
「まぁ――、お前さん達は何となく信用出来るっぽいし、話してもいいかな。俺様達はこの大陸の北東にある島国からやって来た鼠一族だ。此処に来た理由は武者修行の為だよ」
「武者修行??」
「そうさ。俺様達の島国は此処の大陸の大蜥蜴と同じ様に鼠一族が治めている。一族の代表でもある頭領を守る為に忍ノ者と呼ばれる連中が存在しているのさ」
忍ノ者??
初めて聞いた単語に首を傾げる。
「下ノ段、中ノ段、上の段と。忍ノ者達は位が上がって行くに連れて与えられる任務が重要になって来るんだ。勿論、島国に暮らす者達全員が忍ノ者って訳じゃないぜ?? 俺様達は今、下ノ段で。中ノ段に上がる為には国外での数年間の修行が必要になってくる。その為に俺様達は此処に訪れたって訳さ!!」
ははぁん、何となく理解出来て来たぞ。
「昇進試験に必要な行動が国外修行なのね。それでお前さん達はそれに則って行動している……。けど、何で二人で来たんだよ」
別に単独行動で鍛えても良いのだろうし。
「それはちゃあんと修行しているかどうか互いに監視する為さ。アイツは俺様と違う里の生まれだからね。互いに互いを監視し、技を磨き体を鍛える。二人一組が基本行動だと教えられたのさ」
「成程ねぇ……。だったらその武者修行に一役買わせてくれよ。俺達が向かおうとしている場所は経験を積むのに、そして技と体を鍛えるのに持って来いの場所だぜ??」
「俺様はクサイ飯を食って数十年間を無駄にするよりもダン達が向かう場所に行きたいけどよぉ……」
滑車を回す足を漸く止めて可愛らしいお尻に向かって視線を向けると。
「――――。はぁっ、分かった。牢獄に繋がれるよりかはマシだな。その依頼、了承しよう」
可愛いお尻の鼠が極力滑車を見ない様に振り向き、乗り気じゃない感じで首を縦に振ってくれた。
よっしゃ!! これで人員の確保は出来たな!!
「ははっ!! 有難うよ!! 助かったぜ!!」
陽性な感情を全面に出して格子越しに指を突き出してやった。
「なぁに!! 良いって事よ!!」
「利害の一致って事で宜しく頼む」
二匹の鼠の姿はハンナの目にも適ったのか、彼は普段の表情と然程変わらぬ顔色を浮かべたまま一つ大きく頷いた。
「任せろ!! 俺様の名前はフウタ=ライゾウ!! 寿山の麓の里で生を受け、不思議な縁で故郷に草鞋を脱いだ、瘋癲のフウタとは俺様の事でい!!」
格好良く口上をしたのだろうが、小さな鼠の姿で胸を張られても滑稽に見えるだけですよ??
「そっちの鼠の名は??」
ハンナが籠の中で堂々と後ろ足で立つ鼠の姿に一切触れずに後方の鼠へと問う。
「某の名はシュレン=ハガクレ。霧漂う湖畔の里で生まれ落ち、故合って忍ノ者となった」
「「「ッ!?」」」
そ、そ、某!?
古風な一人称を聞くとこの場に居る全員がシュレンに驚きの視線を送った。
「な、何だ……。その目は」
「あぁ、こいつは両親とじゃなくてお爺ちゃん達と一緒に育ったからその口癖が移っちゃったんだ」
「そういう事ね。それじゃ今から身柄の移動やら所定の手続きを踏んで来るからそこで待っててくれ」
「言わずもがな!! ちょっと休憩したらモリモリ元気が出て来やがったぜ!!!!」
フウタが勢い良く滑車の中に突入して再びあの耳障りな音を奏で始めると。
「はぁ――……。一体いつになったら某はこの苦痛から解放されるのだろう……。これも修行の一環として受け止めるべきか。大いなる疑問が残る次第だ」
シュレンが小さな前足で耳を塞ぎ、滑車に可愛いお尻を向けてしまった。
「はは、もう少しの辛抱だから待ってろよ――」
「早く俺様を解放しやがれ!! もう狭い檻の中はうんざりなんだよ!!」
その割には楽しそうに滑車を回していますけどね……。後であの籠をこっそり持ち出そう。
アイツが不貞行為を働こうとした時にあの籠を見せれば大人しくしてくれるだろうし。
俺達は大声を喚き散らしながら滑車を回す鼠、それから拒絶を図ろうとして耳を塞ぐ可愛いお尻の鼠を部屋に残して身柄の移動の要求をする為に静かに退出したのだった。
お疲れ様でした。
この御話を持ちまして南方へ向かう憐れな生贄さん四名が漸く揃いました。一応、これからどんな展開になっていくのかの構想は出来ているのですがまだまだ細かい所に気を配らなきゃいけないのでかなり苦戦していますね……。
さて、新しい年が始まりそろそろ慌ただしさが落ち着いて来たので今年の抱負を少々御話しようかなと。
今年の一年は投稿は勿論の事、何か新しい事をしてみたいと考えていた所。頭の中にピコンとある目標が思い浮かびました。それは……。
富士登山です!!!!
日本人なら殆どの方が御存知だと思われるあの山の頂に両足を乗せたいと思い、今年はそれを成し遂げようと考えています!!
登山はド素人なので先ずは標高の低い山に登って感覚を掴み、そして今年の夏に富士登山に挑戦します!!!!
それに合わせて無理のない計画を立てて、体作りをしなきゃいけませんよね……。
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それでは皆様、お休みなさいませ。