表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
974/1225

第百十一話 差し詰めの帰還 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




「なぁ、相棒」


「何だ」


「すっげぇ平和だよな」


「あぁ、そうだな」



 俺の言葉を受け取ったハンナが心静かに周囲の景色に視線を送りながら答えてくれる。



「この景色を守る為に俺達は人知れず南へと発ち、そして誰にも知られる事無くこの平和を守った。決して表舞台に立つ事の無い影の英雄達は歴史に埋もれその存在はいつか儚く消えてしまう。でも、何んと言うか……。俺達が死に物狂いで戦った事は誰かに知られて欲しいとは思わないんだよなぁ」



 何も知らず平穏な日々を暮らしている彼等の前で皆さんの平和を守ったのは俺達です!! ですから崇め奉りなさい!! と。


 新興宗教の勧誘らしからぬ大声で注目を浴びるのは何だかお門違いだと思うのですよ。


 彼等には平和に暮らす権利があり、俺達は只それを守っただけの話。


 勿論、知って欲しいとは思うよ?? でも大多数の人が知る必要は無い。俺達の苦労を労ってくれるほんの少しの人達だけが知ってくれれば十分なのさ。



「表舞台に立つのは英雄王シェリダンで十分だ。俺は目立つ行為は好まん」


「でしょうねぇ。お前さんの場合、私達を守って下さって有難う御座いますぅ!! って。たぁくさんの美女が群がって来て四苦八苦するのが目に見えているからな」


 相棒の右肩を優しくポンっと叩いて話す。


「ふんっ、群がる前に退散してやる」



 どうかしらねぇ……。女性を傷付けてはいけないとして魔物の姿になって飛び立つとは思えないし、力任せに柔肉の群れから脱出するとは到底考えられない。


 とどのつまり、お前さんは泣きべそ掻いて俺に助けを求めるのだろうさ。


 本日のこれからの予定、そしてキマイラ達に送達すべき意見書並びに契約書の受け取りの日時について話し合っていると街の中央へと到着。



 本日も王都は活気に溢れており英雄王シェリダンの石像は民の営みを只静かに見守っていた。



 お前さんの所為で俺達はひっでぇ目に遭ったぜ……。


 もう少し考えてから契約を交わしなさいよ。



 決して何も語らない石像に心の中で悪態を付き、家路へ又は職場へと向かって行く大勢の人の波へ視線を向けた。



「うっはぁ……。超久々に見たけど相変わらず馬鹿みたいな人口密度だよなぁ」


「騒々しいのは好かん。シンフォニアに寄って挨拶をしてから休むぞ」


「今は……、丁度営業時間終了って感じか」



 数えるのも億劫になる人の数の人波から空へ視線を送ると茜色はいつしか漆黒へと移り変わろうとしていた。


 もう夜かよ……。早く床に就いて眠らないと今直ぐでもぶっ倒れてしまいそうだぜ。



「久々に顔を出していきなり殴られないだろうね??」



 俺達には守秘義務が与えられており、機密情報の漏洩を防ぐ為に身柄を拘束されていた。彼女達はそれを重々承知しているのですが……。


 今回の依頼についてあまり乗る気では無かった彼女が一体どういった反応を見せるのか気が気じゃないのですよ。



 もう少し早く帰って来れたでしょ?? 何で顔を見せなかった!! あんたには私達に報告する義務があるっ!! 等々。



 快活活発受付嬢の怒髪冠を衝く勢いの怒号をある程度予想して覚悟を決めると……。



「し、し、失礼しま――っす……」



 恐ろしい妻が与えし鋼の鉄則の一つである門限を守らなかったいつまでもうだつが上がらない夫よりも更にか細い声を上げてシンフォニアの扉を開いた。



「申し訳ありません。本日は営業を……。ッ!!!!」


 丁度受付所の掃除をしていたドナが俺とハンナの顔を捉えるとそんなに目を見開いて疲れないのかと、思わず声掛けしてしまう程に大きく縦に見開かれた。


「えっと……。本日を以て依頼を完了させ、不承不承ながら死地から帰還しました」


 驚きの余りに掃除の手を止め、あわあわと口を開く驚愕の表情を浮かべながら俺の顔を只々見つめている彼女に近付いて簡易的な報告を告げた。



 さ、さぁ歯を食いしばれぇぇ……。


 鋭い平手や無頼漢を容易にブチのめす鉄の拳骨を想像して丹田に力を籠めてその時を待っていたが……。


 俺の予想とは真逆の言葉と表情が訪れた。





「ダン、お帰りなさい」





「え?? あ、う、うん。ただいま……」



 微かに口角を上げて柔和な笑みを浮かべ、相手を真に労わる声色を放ち、そしてたった一言に数百数千の意味を籠めた迎えの言葉に一つ頷く。



「本当にお疲れ様だったね」


「まだ何も話していないぜ??」


 手を伸ばせば直ぐ届く距離に身を置いたドナにそう話してやる。


「その顔色を見れば分かるわよ。死人よりも酷い顔色だもん」


「墓場から甦り、地を這って此処に来た本当の死人かもよ??」


「あはは。それなら嬉しいな。だってそれだけこの店に思入れがあるって事でしょ??」



 大勢の請負人達が残していった熱気と微かな饐えた匂いが残る受付所を見渡す。


 木の床の上にはまだまだ塵と埃が残り、依頼の数々を示す右手奥の看板には目を疑いたくなる沢山の依頼書が張り付けられ、彼女達の仕事場である受付所には書類の山が幾つも確認出来た。


 年末年始の忙しさが過ぎたってのにまだまだこの街には人の手を必要としている人達が大勢いるんだな。



「相変わらず馬鹿みたいに忙しそうだな」


 沢山の大蜥蜴ちゃん達が残していったちょいと饐えた匂いが漂う室内の空気を吸い込み、ふぅっと柔らかく吐息を漏らす。


「ダン達が居ない間も本当に忙しくてさぁ……。ミミュンなんか泣きながら仕事してたし。でも!! ダン達が帰って来てくれたから多少は楽になりそうかな??」


「あのねぇ……。激務から帰って来たのにいきなり仕事を押し付ける気かよ」


「その通りっ!! それと御飯も奢ってよ!? 私、すっごくお腹空いているんだから!!」



 俺が求めていたいつもの快活な笑みを浮かべて明るい雰囲気を周囲に振り撒く。


 そうそう、この笑顔だよ……。俺が真に守りたかったのは……。



「そ、うか……。じゃ、じゃあ今日はゆっくり休んで……。明日の朝一番に……」



 家に帰って来た安心感とでも呼ぶべきか。


 彼女の明るい笑みを捉えると張り詰めていた気が立ちどころに霧散してしまい、意識が白み始め足元から徐々に力が消失。



「ちょ、ちょっと!!」


「へ、へへ……。少しだけ休ませてくれ……」


 倒れそうになった俺の体を己の体で支えてくれた彼女に最後の気力を振り絞って真の願いを唱えてやった。


「自分の限界まで頑張って……。本当に無茶をするんだから……」


「そ、そうしないといけなかったんだ。わりぃ、このままちょっとだけ……」


「うん、いいよ。ゆっくりお休み」



 その言葉を最後に俺の意識は現実の世界から消失して白む景色の中へと吸い込まれて行ってしまった。



「――――。ねぇ、ハンナさん。ダンがここまで無理をした理由って話せる??」


 彼の体を大事に抱き留めながらその様子を見守っていた男性に問う。


「俺達には守秘義務が課せられており話せる範囲は絞られている」


「そっか。でも何となく理解出来るよ。ダンが無理をしたって事はそういう事なんでしょ??」


「まぁな。この後、リフォルサ殿に報告をする予定だったのだが……。今日は無理そうだな」


「う、うぅん……」



 女性に抱き留められながら苦悶の表情を浮かべる彼の顔色を捉えながら話す。



「そうみたい。あはっ!! 眠っているのに辛そうな顔しちゃって」


 ドナが軽快な笑みを浮かべて彼の寝顔を見上げる。


「夢の中でも色んな事に追われているんだろうなぁ。お疲れ様、今日は何も考えないで眠りなさいっ」


 彼女が優しく彼の体を床の上に横たわらせると受付所の奥にある扉が開かれ、二人の女性が現れた。


「あら!! ハンナさん!! 帰って来たのですか!?」


「あ――!! ダンが眠ってる――!!!!」


「し――っ!!」



 勢い良く駆けつけて来たレストとミミュンに対してドナが己の唇に人差し指を当てて静かにする様にと軽い所作を送る。



「うわぁ……。ダンの顔色、物凄く悪いじゃん」


「え、えぇ。まるで三日徹夜したみたいに真っ青よね。こうなった訳は話せますか??」



 レストがハンナに近寄り、蝶の羽音よりも微かな声量で問う。



「う、む……。リフォルサ殿から話を聞くだろうし、話せる範囲でなら説明しよう」


「そうですか。では、後片付けが済んでからダンを私達の家にまで運びましょう。ハンナさん、夕食はまだですよね??」


「あぁ、その通りだ」


「良かった。じゃあ皆!! ダンとハンナさんの帰還を祝う為、パパっと後片付けを済ませちゃいましょう!!」


「「おぉ――――ッ!!!!」」



 大勢の人々が暮らす王都の由緒正しき職業斡旋所の受付嬢三名が軽快に右手を上げて明るい声を放つと手慣れた所作で清掃業務を進めて行く。



 使い古された箒を使用して塵芥を集め、汚れた床を雑巾で拭き、人や大蜥蜴が放つ皮脂で汚れた受付所を綺麗に磨く。


 その間、ハンナは広い受付所の片隅に置かれている椅子に腰掛け彼女達の清掃作業を静かに見守っていたのだが。



「う、うぅぅん……」



 しつこい汚れが残る床に放置された彼は舞い上がる埃や汚れを吸い込み、苦悶の表情を浮かべながら睡眠を貪っていた。


 ハンナは椅子から立ち上がり、彼の体を部屋の隅に寄せてやろうかと考えたのだが。



「あはは!! ダンの顔面白――い!!」


「本当ねぇ。夢の中でも誰かに追われているのかしら??」


「ちょっと!! 手が止まっているわよ!!」



 彼女達の清掃業務を止めてはいけないと考え、埃舞う床の上で眠る彼を放置しようと決断した。



「ふぅ……。まだまだなすべき事は山積されているが、これで一応は一件落着か」



 ハンナが椅子に腰かけたまま窓の外の夜空に浮かぶ星達へ向かって小さく呟く。


 その言葉を受け取った星達は床の上で苦しむ彼を救助する様に助言したのだが、彼もまた疲れ切っているのでその言葉を華麗に受け流してしまった。



「雑巾の水を絞ってぇ……。あ、ごめんねダン。ちょっと掛かっちゃった」


「うっわ。このはたきそろそろ変え時かなぁ??」


「ちょ、ちょっとドナ。ダンの体の上で埃を巻き散らかさないの」


「あは!! 気にしないの!!」



 空には美しい星達が本格的に瞬き始め、夜空を華麗に横切って行ったほうき星が夜空を彩る。


 文明の明かりが灯る大通りにはその明かりを頼りに移動を続けている大勢の人々が夜にも関わらず明るい笑い声を放ち各々の目的地へと向かう。


 文化と自然が融合した素敵な一夜。


 それに相応しいのか、若しくは相応しくないのか。


 いずれにせよ彼は床の上で眠る友人が刻一刻と埃塗れになっていくものの。着実に美しく清潔感溢れる空間になっていく至極平穏且平和な様を柔らかな吐息を吐きつつ、時間が許す限り柔和な光を瞳に灯して只々静かに眺めていたのだった。




お疲れ様でした。


本話をもちましてキマイラ討伐編の終了となります。そして、次話からは砂と大蜥蜴の王国編の最終長編が始まります。


年内に終わらせる事が出来て一安心しているのですが彼等の冒険はまだまだ続きますので予断を許さない状況が続きますね。



今日は午前の投稿を終えるとそのまま大掃除に取り掛かり、冬真っ只中だというのに大粒の汗を流しながら部屋を掃除して不要な物の処分を終えると愛馬の洗車に出掛けました。


全ての作業を終えたのが……。そうですね、午後四時位でしょうか。


昼ご飯も食べないまま続けていたので大掃除を終えるとピカピカの愛馬に跨りチキンカツカレーを食べに行きましたよ!!


少し早めの夕食時なのにまぁまぁな混み具合でしたが待ち時間はなく、いつもはライス四百グラムなのですが猛烈な空腹感に襲われていたので六百グラムに挑戦。


運ばれて来た皿の大きさと御米の量に一瞬だけ躊躇という文字が頭の中を過りましたが、スプーンは止まる事無く完食しました。それから帰宅して先程漸く書き終えて投稿した次第であります。



今日は馬鹿みたいに眠り、ゆっくり起きてプロットを執筆しようかなと考えております。


先日の後書きで申したのですが新しい長編は元日の深夜に投稿させて頂きますのでそれまでどうかお待ち下さいませ。



そしてブックマークをして頂き有難う御座いました!!


洒落にならない位に疲れている体に嬉しい知らせとなり、執筆活動の嬉しい励みとなりました!!!!



それでは皆様、良いお年をお迎えくださいね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ