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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百十一話 差し詰めの帰還 その一

お疲れ様です。


年末のお忙しいところに前半部分の投稿をさせて頂きます。




 何度か足を踏み入れた事のある大層御立派な城内は素敵な静謐が漂っておりその好環境の中。


『も、もう少しゆっくり歩いて下さいよ!!』


『これでもかなり譲歩している方だ』


 政府高官であられる一人の女性に有無を言わさず誘拐紛いの連行をされて、半ば引きずられる様に執務室に到着した。


 夜が訪れたばかりの執務室は大変暗く、蝋燭の淡い明かりを頼りに互いの表情を見ながら静かな報告会が始まった。


 突入時点での奈落の遺産の様子、携帯した装備と物資の種類と数、そして次々と襲い掛かって来る罠。


 以前の履行期からかなりの年数が経過しており、俺達が死に物狂いで抜け出した罠の数々はどれも新鮮に映ったのか。俺達がこの目で、身で感じて得た真実を伝えるとゼェイラさんの険しい瞳が縦に見開かれ更に急角度な瞳となって矢継ぎ早に質問をぶつけて来た。


 やれキマイラの人の形態の時の姿は?? やれ四体が集合した時の様子をもっと詳しく話せ。やれ貴様達が戦闘に使用した技と魔法の種類を細かく説明しろ等々。


 その種類は数え始めたら枚挙に暇がない。


 ジェイド達の様子、キマイラの姿の詳細、そして戦闘に使用した技と魔法の種類を要望通りに事細かく説明した後。



『いや、実はですね……。倒したのはいいんですけど彼等と新たなる契約を結んだのですよ』



 俺達がキマイラ達と新たな契約を結んだ事を告げた。



 そして俺はあの時の彼女の顔を恐らく二度と忘れる事が無いだろう。



『ッ!!』



 心に湧く怒りからか美しい黒き髪がふわぁっと逆上がり、月も欠伸を放つ深夜にも関わらず顔は太陽も驚く程に真っ赤。更に激昂した彼女が放つ怒号は星の女神達も顔を顰めてしまう程の声量であったのだから。



『激昂するのは御尤もです!! ですがこれにはふかぁい訳がありまして!!』



 俺が新たな契約を結んだ経緯、そして契約の内容の詳細を伝えると此方の真意を汲んでくれたのか怒りが一旦収まってくれた。


 そこでホッと胸を撫で下ろして、続け様に何で俺が怒られにゃならんのだと心の中で湧く憤りを誤魔化していると俺達の帰還を聞きつけた政府高官達が雪崩の様に狭い執務室に押し寄せて来た。




『お前が王都守備隊と共に出立した者か!!』


『戦闘の詳細を話せ!!!!』


『ゼェイラ長官!! ここでは狭い!! 会議室へ移動するぞ!!』


『イヤァ!! 怪我をしているのですからもう少し優しく扱って下さい!!!!』




 深夜にも関わらず元気一杯な彼等に腕を、髪を、そして喧嘩腰みたいに胸倉を掴まれ揉みくちゃにされながら城内の右翼側にある広い会議室へと拉致されて本日二度目の報告会を開始した。


 乱れた髪の毛、戦闘の余韻で薄汚れて所々破れた衣服、そして疲労に塗れて今にもぶっ倒れてしまいそうなやつれた顔。


 酷いナリで説明する姿は多分に人に笑いを誘うのだろうが、彼等の目は真剣そのもの。


 円卓の椅子に腰掛けて深い思考を繰り広げている政府高官達に新たなる契約の内容を説明すると彼等は意外や意外、陽性な吐息を漏らすではありませんか。


 その理由を聞けば。



『国王様は人身御供を送る事に難色を示しており奴等と形は多少違ってもいいが、邂逅を遂げようと考えておられたのだ』



 思慮深い国王様の理に適った契約が交わされた事に安堵、若しくは陽性な感情を抱いたそうな。


 しかし、彼等はあくまでも行政を担う高官達である。


 頼みもしないのに勝手に結んでしまった新たなる契約を実現させる為の費用の概算の計算を始めてしまい、東の空が白み始めたのにも関わらず彼等は元気一杯に意見の交換を始めてしまった。




『当面の問題は闘技場関連に絞られるな。先ずは大勢の観客を収容出来る闘技場の建築費と建築場所か。どうだ?? 目星は付いているか??』


『いや、どうだと申されましても私は財務副長官でありまして。長官でないと流石に許可は出来ませんよ』


『それなら長官を叩き起こして此処に連れて来い!!』


『建築費の概算は財務部が担当しますが、契約書の作成はどこの部署が担当するので??』


『我々法務部が担当するのが妥当か??』


『遺憾ながら執行部も助成させて頂こう。我々の人員が血を流して得て来た契約だからな』


『はは、それなら魔法科学部も一枚噛ませて貰おうか』


『何故汚点を残した貴様達が介入するのだ!!!!』


『それを挽回する為に今も血反吐を吐いて働いているじゃないですか』




 俺という存在を無視して話を進めて深夜にも関わらず仕事に勤しむ彼等には申し訳無いが円卓の上で交わされる意見交換が何だか子守唄の様に聞こえ始め、窓の外の白み始めた空をボゥっとした表情で眺めていたらとんでもねぇ痛みが太腿に走りやがった。




『誰が寝ていいと言った』


『ギィェッ!! ね、寝ていませんよ!! 只、俺が意見を放つ場面じゃないから待機していたんです!!』


 白頭鷲なんかメじゃない程に鋭い視線のゼェイラさんにそう叫んでやった。


『そうか。それならこれまで交わされた意見の中で気になる箇所はあったか??』



 ここで適当に相槌を打てばいいのに俺の何でも首を突っ込みたくなる悪い性格からか。


 とある提案が頭の中に浮かび上がりそれを興味津々といった感じで俺の顔を見つめている大蜥蜴ちゃん達に説明してあげた。




『気になる箇所ですか?? ん――……。皆さんは闘技場の建築や周辺の街の建築。収入と支出に躍起になられていますけど……。奴等が持つ力の恐ろしさを忘れてはいませんか?? 闘技場を建築する場所は今、議題で出た通り王都から離れた位置で構いませんけどその街に万が一奴等が暴れた時の為の沈静部隊を常駐させるのが妥当な案でしょう。更に、王都とその街の間に奴等の進行を妨げる為に軍を置いて備えておく。有り得ないかも知れませんが、闘技場運営によって得られる金に目が眩んだ沈静部隊がキマイラと結託して王制に謀反を起こす可能性も捨てられません。ですから、沈静部隊は定期的な変更をお薦めしますよ』




 気になっていた箇所を一気に話し終えると。




『クソ!! 一から練り直しだな!!』


『あぁ、畜生。折角纏まりそうだったのに……』


『おい!! 腹が減って頭が回らん!! 軽食を用意させろ!!』



 再び卓上の上で熱論が交わされ始め、それは朝日が昇り蝋燭の火が不必要になる時間まで繰り広げられた。


 途轍もない疲労感から襲い来る睡魔と眼前で大粒の唾を放ちながら意見を問うてくる大蜥蜴ちゃんとの戦いを継続させていると朝も早い時間だというのに調理室から嬉しい援軍がやって来てくれた。



『お待たせしました。軽食の御用意が出来ました』


 やっと一息付ける。そう考えた俺が馬鹿だった。


『やっと来たか!!』


『おい!! それは俺の肉だぞ!!』


『退け!!!!』


『きゃぁぁああっ!?』



 深夜から仕事に徹している大蜥蜴ちゃんの食欲は凄まじく、武に携わって居ないのにも関わらずその膂力足るや……。



『ダン、どうした?? 食べないのか??』


『食べようにも何も……。料理が無ければ食べれませんよね!?』



 素知らぬ顔で美味しそうにおにぎりを食むゼェイラさんを一睨みしたまま席に着くと、壁際まで吹き飛ばされ体に付着した小さな埃を払ってやった。



『それは残念だったな。では、先程の話の続きをしよう。貴様は軍を常駐させるべきだと言っていたが……』


『えぇ、ですからあまり地位の高い者を置くべきでは無いでしょう。一定以上の権力を持つ者ですとその者の配下にも気を配らなければなりませんので』




『闘技場の収容人数を増やせば収入の増加を見込めるが……。そうなると建築費がかさむな』


『建築の設計は何処に委託すればいい!?』


『それは王妃様の家系で宜しいでしょう。この城を建築した実績もある事ですし』


『それなら闘技場の街の建築も委託すべきか??』


『いや、それは民間委託で構わないでしょう。此方から事業を委託すれば経済の活性化も見込めますので』



 早朝が過ぎるとお偉いさん達が会議室に怒涛の様に押し寄せ、いつの間にか会議室は大蜥蜴ちゃん達のぎゅうぎゅうの高密度の状態へと変化。


 只の一般人が椅子に座ったままなのもアレなのでさり気なく見ず知らずのお偉いさんに席を譲り、壁際に立ったまま時折投げかけられる質問に答えていると二度目の援軍が訪れてくれた。


 深夜から何も口にしていないので流石にこのままでは不味いと考え、誰よりも先に円卓の上に置かれた御馳走に手を伸ばしたのですが……。



『お待たせしました。此方が昼食になります』


『や、やった!! 漸く御飯に……』


『退け!! それは俺が取る肉だぞ!!』


『そのパンは俺が取った奴だ!!』


『イヤァァアア――――ッ!!!!』



 どこかの誰かさんの尻尾によって再び壁際まで吹き飛ばされ、命辛々立ち上がり円卓の上に置かれた巨大な盆を捉えるとそこには絶望的な光景が広がっていた。



『あ、あの……。俺の昼食は??』


 大変美味そうな鳥の腿肉を頬張るゼェイラさんに問う。


『む?? 取らなかったのか??』


『無駄に御立派な尻尾に吹き飛ばされたら取りようがないですよね!?』


『ふぉうか……。んんっ!! もう少しの辛抱だから我慢しろ』



 それはあんまりだ!! そう叫ぶものの。会議室で交わされる怒号によって瞬く間に俺の意見は霧散。


 午後からは更に苛烈な意見交換が行われある程度の方向性を見出したとして、俺は漸くお役御免となったとさ。







「――――。御苦労だったな、ダン。我々は纏めた意見を基に明日の朝一番に国王様に報告をする。国王様の返答は一日後。そしてキマイラ達へ送る意見書並びに契約書はそれから二日後に出来上がる予定だ」


「左様で御座いますか。では俺とハンナは四日後に再び訪れれば宜しいので??」



 日が傾き始めた空の下。


 誰がどう見ても俺は憤りを感じているであろうと判断出来る表情のままでそう話す。



「そうだな。四日後の正午頃に私の下へ受け取りに来てくれ」


「了解しましたよっと。では、本当に限界なのでお暇させて頂きますねっ!!」


「ふふ、あぁ本当に助かったよ。リフォルサに会ったのなら宜しく伝えておいてくれ」


「勿論ですよ。政府高官殿達は俺達庶民の疲労度も気にせず、仕事に没頭する仕事人間でしたよってね!!」



 まかり間違えば過労死寸前だったのに……。人の事も考えずにアレコレと意見を求めて更に!! 栄養を与える義務があるのにその義務を履行しないときたもんだ。


 憤りを感じずにはいられねぇよ。



「そう不貞腐れるな。お前の働きには感謝している」


「へいへい。それでは相棒を迎えに行くので失礼しますねっ」


 ブスっと唇を尖らせ、兵舎へと続くなだらかに下る坂道へと向かうが。



「ふっ、折角私の寝所に招いてやろうと思ったのに……。残念だ」



 彼女が放った意味深な言葉が俺の両足ちゃんを瞬く間に停止させてしまった。


 な、な、何ですと!?



「い、今の言葉忘れないで下さいよ!?」


「あぁ、私は約束を反故しない。早くハンナを迎えに行って休め。それがお前達に与えられた仕事だ」


「勿論ですよ!! イヤッホォォオオ――イ!! ハンナちゅわぁぁああん!! 今から迎えに行きますからね――!!」



 女性の寝床への侵入許可を頂くと枯れ果てた心と体に活力が漲りやがる!!


 全く、男ってのはどうしてこうも欲求に素直なのでしょうかねっ!!


 これから愛しの女性とのお出掛けをする浮かれた男性の足取りでなだらかな坂を下って行くと、ちょいと疲れ気味の顔を浮かべた相棒が丁度坂を上って来る様を捉えた。



「あっれ?? 迎えに行こうとしてたのに」


「貴様が昼過ぎに帰って来るだろうと報告を受けた。それに少し寝過ぎたから運動も兼ねている」


「はい?? 寝過ぎた??」



 此処に持ち込んだ荷物を彼から受け取り、共に王門へと向かいながら会話を継続する。



「あぁ、間も無く会議が終わるであろうと起こされたのが今から約十分前だ。朝食を摂って眠り、昼食を摂って眠る。人生の中でこれ程眠ったのは初めてかも知れんな」


 こ、この野郎……。俺が死ぬ思いで起きて仕事をしていたってのにぃぃいい!!


「お前なぁ!! 俺が頑張って起きていたのにぐぅすか眠りやがって!!」


「それが貴様に与えられた任務であろう?? 俺は休む事が任務なのだ。それにグレイオス殿達も疲れ切っているのか。医務室に様子を見に行ったら二人共仲良くベッドの上で眠りこけていたぞ」


 はい、あの二人にも後で罰を与えまぁぁああ――す!!


「畜生……。どいつもこいつもノウノウと何も知らずに眠りやがって……」


「そう腐るな。会議とやらはどうなったのだ」


「あん!? あぁ、俺予想通りというか概ね想像した通りの方向性を見出して解散したよ」



 王門へと続く庭園に足を乗せ、疲労が色濃く残る体と心に渦巻く憤怒が霧散してしまう心地良い香りを放つ花達に囲まれながら数十分前まで交わされていた会議の内容を相棒に伝えてやる。



「ほぅ、では我々は王国側の使者とキマイラ側の代理人を兼ねる為に何度も此処へ足を踏み入れる事になりそうだな」


「その通――り。今日からお役御免かと思いきや、まだまだ仕事が山の様に積み重なっているのさ」



 意見書と契約書の送付役だけじゃなくてレシーヌ王女に掛けられた呪いって奴も未解決だし……。


 解放されそうでその実、俺達の身柄はまだまだ拘束されそうだよなぁ。前途多難過ぎて精神がヤられてしまいそうだぜ。



「よぉ!! お疲れさん!! 取り敢えず数日間ゆっくり過ごして来いよ!!」


「テメェ等の鼾の所為でゆっくり休めねぇからこうして移動するんだろうが!!」



 背の高い門の上で警備の任務に就く守備隊の者へと叫んでやる。


 宿舎で過ごしても良いが、あのふざけた鼾の所為で確実な安寧は求められないとして移動を余儀なくされたのですよ。



「はは、そりゃ災難だったなぁ――」


 俺達の話を聞いていたのか、王門の脇を潜り抜けるとその脇で警備を続ける者が揶揄って来る。


「災難だとぉ?? そっか、せ――っかくお前さん達が気に入りそうな本を持って来てあげようと思ったんだけどなぁ――。辛辣な言葉を投げ掛けて来る奴等には差し入れは無しにしようかなぁっと」


「ダン!! 俺達が悪かった!!」


「あぁその通りだ!! 謝るから是非ともアレを越える内容の本を持って来てくれ!!」


 コイツ等……。あれだけトニア副長にボッコボコにされてもまだ懲りないのかよ。


「へいへい。本屋に立ち寄る時間があれば御持ちしますわねぇ――」


「頼んだぞ!!」



 はいはい、そう鼻息を荒げなさんな。


 友人同士の別れに相応しい所作で素早く右手を上げると、大勢の民が暮らす王都へ続く無駄に長い階段を下り始めた。


 普段は何も感じず下がって行けるのだけども、疲労困憊のこの体にはかなり堪えるな……。


 俺の所作が余程辛そうに見えたのだろう。



「大丈夫か??」


 あの強面白頭鷲ちゃんから労わりの声を頂けた。


「何んとかね。それにしても……。ふぅっ!! 超久々に王都に帰って来た気がするよ!!!!」



 階段の途中で警護の任務に就く守備隊の連中に挨拶を交わし、無駄に長い階段を下りきると大袈裟に叫んでやった。



 もう間も無く一日が終わる時間に差し掛かり、西の空から朱に染まった光が王都全体を照らす。


 柔らかな茜色の光に照らされた人々の顔は何処か朗らかであり、その表情からして今日一日を中々に有意義に過ごせたのだろうと推測出来る。


 北大通りを南へ向かって進んで行くと街を行き交う人々の数が増えて雑踏の音量が増し、大通りを進む馬車の車輪が大地を食む軽快な音と大勢の人々が鳴らす足音や会話の数々が俺の荒んだ心を潤してくれた。




お疲れ様でした。


投稿が少し遅れてしまい申し訳ありません。部屋の片づけや模様替え等に色々手間取っていまして……。


これから大掃除の続き、更に愛馬の洗車等々を済ませてから執筆作業に入りますので次の投稿は恐らく夜か深夜になるかと思われます。


今暫く間、お待ち下さいませ。

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