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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百九話 影の英雄達 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 数分前まで死闘が繰り広げられていた戦場には戦士達の微かな闘志と戦火の残り香が漂いその熱気を受けた空気は未だ冷めやらず、僅かな熱を帯びて戦士達の体温を温め続けている。


 死力を尽くした戦士達は特に何をする、何を言う訳でも無く戦意を喪失した混成獣の前で立ち尽くして彼等の様子を窺い続けていた。


 体中に刻まれた傷跡、煤に塗れた肌、そして残火が残る瞳。


 その姿は正に歴戦の勇士を越える物であり、俺達を捉えたキマイラは抗う事を諦めたのか。己自身にこれから降りかかるであろう結末を受け止める態勢を整えた。



「――――。最後に何か言い残す事は無いか??」


 双肩から闘志漲る圧を放つグレイオス隊長が眼前の獣に向かってそう問う。


「貴様等は俺の……。いいや、俺達の心を満たしてくれた。これ程までに充実した戦いはシェリダンとの激闘以来だ。満足を越えて今は感無量の気持ちを抱いているぞ」


 ジェイドが満足そうな声色で話す。


「私は不満よ!! だってハンナと会えなくなっちゃうもん!!」


「その意見には同感だ。俺はまだダンの肉と血の味を覚えていないから」


「駄目だよシェイム!! ダンは僕と一つになるんだから!! そうだよね!? ダンっ」



 君達は戦いが終わった後だというのにどうしても俺の体を食らおうとするのだい??


 ここは別れを惜しむ場面でしょう??



「あのねぇ……。もう戦いは終わったんだから潔く敗北を受け入れなさいよね」


 巨大な獅子の体の後方からぬぅっと此方側に伸びて来た蛇の頭を押し返して話す。


「敗北は仕方ないけどさぁ。折角ダンと知り合えたのにこれでさようならってのは寂しいかなって!!」


「それは関係無い。俺達の使命は貴様を屠る事なのだから。さぁ、首を出せ。ジェイド」



 グレイオス隊長の両手が微かに光るとその光が剣に伝わり、鉄の塊が微かに明滅し始めた。



「あぁ、貴様の雄を受け入れよう。俺の首を断てばこの体は分離して深い眠りに就く。再び目覚めたのなら至高の戦いを所望しよう」


「共に戦った時間は短かったが濃縮された濃密な雄同士の激闘は決して忘れはしない。ジェイド、お前の雄は俺の中で輝き続けるであろう」


「ふっ、嬉しい事を言ってくれる……。貴様達との戦いは輝かしい記憶となってこの胸の中で生き続ける。さぁ、別れの時間だ。一思いにやってくれ」



 巨大な獅子の頭が静かに瞳を閉じるとグレイオス隊長に向かって己の首を差し出した。



「ふぅ――……。あぁ、分かった。一瞬で楽にしてやる!!」


 彼が上段に構えた剣を勢い良く振り下ろそうとした刹那。




























「―――――。ちょぉぉっと待ってくれるかい??」


 グレイオス隊長の両腕に手を触れて一刀両断の所作を停止させてやった。


「ダン!! 何をする!!!!」


 グレイオス隊長が振り上げた剣を元の位置に戻して俺を睨みつける。


「まぁまぁ、そう憤るなって。生殺与奪の権利がこっちにある以上、いつでも処刑は出来るだろう?? その前にちょっと聞きたい事があるんだよね」


「聞きたい事?? それは何だ」


 ハンナが特に表情を変えずにそう話す。


「よぉ、ジェイド。お前さんはこれからも深い眠りから目覚めたのなら王都に住む人々達を人質に取って生贄を送らせるのかい??」


「あぁ、そのつもりだ。シェリダンとの契約ではそう決まっているからな」



 ふぅむ……。成程ねぇ。己の気持ちを変えるつもりは毛頭ないのか。


 それならちょっと話し合いに興じてみましょうか。



「むかぁし昔この大陸では各地で戦いが勃発しており、それに引き寄せられる様におまえさん達はやって来た。しかし、闘争が収まった現代では各地に穏やかな平和が根付いている。ジェイド達が求めていた闘争は俺達現代人にとって過去の遺物なんだよ」


「それがどうした。俺は血沸き肉躍る闘争を求めているのだ」


「僕はダンの体だよ――っ」


「ふぅむ……。そうか、それならぁ……」



 俺達が生まれるずっと前に起こった各地での戦いは既に歴史という分類に収まり、現代を生きる者にとってそれは遠い過去の話だ。


 そんな大昔の時代に交わされた契約を履行するのは正に寝耳に水という感覚を覚えざるを得ない。ましてや現代には時効という概念が存在する。


 現代人の感覚に当て嵌めればこの契約は既に時効を迎えているのだが、彼等にとっては現在進行形の形となって現代人に死の履行を求める。


 この互いの感覚の相違を解消する為。



「えへへ。良い匂い――」



 俺の体に絡みつこうする大蛇の頭をそっと押し退けつつある提案を持ちかけてみた。



「俺達と新たな契約を結ばないかい??」



「ダン達と?? それは一体どのような契約なのだ」


「現代を生きる人々にとって大昔の契約を履行しろと言われても首を傾げるだけ。実際、俺達もそんな感覚に囚われたし。だから現代を生きる者と新たな契約を結ぶのが賢い選択であり、現代の流れに沿った考えなんだ。そして俺が提案するのはぁ……」


「「「するのは??」」」



 この場に居る全員が仲良く口を揃えて俺の顔を見た。



「闘技場。なんてどうだい??」



「闘技場?? そんな物を作ってどうするんだ」


 ハンナが微かに首を傾げて話す。


「今回は偶々俺達が此処まで辿り着いたけど、次に訪れた平和ボケした現代人が此処まで辿り着けるとは保証されていない。それじゃあお前さん達も不満だろ??」


 俺がそう話すと。


「「「「……っ」」」」


 キマイラ達の四つの頭が微かに上下に動いた。



「平和ボケした現代人の中にもグレイオス隊長やトニア副長、そして傍若無人な俺の相棒みたいな純粋な強さを追い求めている無頼漢が一定数存在する。闘争や強さを求めている奴等を一挙に集めて戦わせ、その頂点に立った者と戦えばお前さん達もきっと満足するだろうよ」



 俺達の次の、若しくは次の次の代がどうなっているかは理解出来ないが平和が継続しているのなら恐らく今よりも弱体化していると考えられる。実際、王都守備隊の連中は体ばかり鍛えて肝心要の実戦経験を積んでいなかった。


 平穏な時が心に余裕を持たせ、平和な時代が剣を鈍らせる。


 そんな時代の奴等に死闘を要求してもどうせ満足を得られる結果は得られないだろうし。更にそれで機嫌を損ねたキマイラ達が王都に侵攻してしまう恐れもある。


 それを未然に防ぐ為にもこれは理に適った考えなのさ。



「ほぅ……。それは悪く無い考えだな」


 ジェイドが深く考える仕草を取って話す。


「細かい取り決めを説明する前に絶対に遵守して貰う事項を話すよ。それは……。決して相手を殺さぬ事だ。相手を無慈悲に殺戮してしまえば参加者は次から激減してしまうだろうし、何より現代人は殺害を好まないし、法律という概念でそれは禁止されているからね」


「食べるのも駄目なのかな!?」


 蛇の瞳がキュっと縦に伸びる。


「あのねぇ……。殺害は駄目って言ったでしょ??」


「そっかぁ。ちょっと残念だなぁ……」


 モルトラーニの漆黒の頭がシュンっと垂れて分かり易く凹む様を表す。


「コホン、では新たなる契約の細かい取り決めについて説明しようか。先ず、闘争を求めている者達を闘技場に召集するのは数年に一度だ。毎年集めて居たらそいつらの体がもたないからね。そして戦いを勝ち抜いた者には褒美を与える。例えばぁ……。最も簡単な褒美は金だな。それも数十年程度働かなくても済む額で」



「その予算はどうするの?? それに闘技場を建築するのにも莫大な資金が掛かるじゃない」



 深く考える姿勢を取ったままトニア副長が尤もらしい意見を放つ。



「予算は闘技場に集まる人達の参加費、及び闘技場で戦いを観戦する観客達の入場料から徴収すればいい。闘技場の付近に小さな街を作れば各地から怖いもの見たさで押し寄せて来る観客や参加者達で溢れ返り、想像以上の経済効果が得られるだろうからその利益で闘技場の建築費及び維持費を賄えばいいさ」



「莫大な賞金を求めて大勢の参加者が押し寄せて来たらどうするのだ??」



「それは簡単な話さ、ふるいに掛けて落とせばいいんだよ。そうだなぁ……。例えば本戦の前に予選を行うんだ。予選の方式は大会運営の者達に一存させるか、こっそり運営に参加しているジェイド達に一任させればいい」



 腕を組みつつ低い声で唸っているグレイオス隊長に話す。



「大勢の参加者を一気に集めて戦わせ、その中で残った者達を本戦に出場させるのもいいし。シェイムが俺達に問いかけて来た様に趣向を凝らした問題を与え、それを解いた者を本戦に出場させてもいい。観客が居る以上、彼等を楽しませるのも大会運営の手腕の見せ所だ。観客が満足したのなら次の大会にもまた来ようと思えるし、知力体力時の運に賭けた参加者も増える。 そして……。膨大な優勝賞金を手中に収めた優勝者か若しくは本選の中で興味を惹かれた参加者達とお前さん達が誰も居ない闘技場の中で戦うんだ」



「個人参加だと満足のいく結果を得られない可能性もあるぞ??」



「それを未然に防ぐ為にも大会に参加するのは五名以上とか、四名以上とか複数人を義務付けるんだよ。大会の途中で負傷して戦いに参加出来なくなる事を仮定して予備員も認めればいい。そうすれば優勝した組にも余裕が出来るだろ??」



 険しい瞳を浮かべている相棒にそう言う。



「優勝者とキマイラとの死闘は闘技場で無観客の中で行われ、その戦いでも本選と同じく殺害は御法度。勝敗に関係無く優勝者達にはキマイラの存在を口外しない様に守秘義務を与える。まぁ恐らく時を経る毎にその存在は徐々に明らかになって行くだろうし。数十回後の大会ではお前さん達は大勢の観客の前で戦うかも知れないけどね」



 時間という概念が真実を白日の下に晒す可能性がある以上、情報漏洩を完璧に防ぐのはほぼ不可能に近い。


 彼等の存在が露見されてもこれまでの大会実績から殺意を持たぬ者として周知されているので観客達は一種の娯楽として優勝者との激闘を観戦出来るだろうさ。



「大会運営の資金は観客と参加者の費用で賄い、闘技場周囲の街の宿泊費や食事代で利益を得る。その規模を考えると必然的に行政が運営を担う事になるわね」


「その通り。しかし、甘い汁を吸おうとする民間業者との癒着には細心の注意を払うべきだ。不祥事を起こせば行政側に不信感を募らせ大会に足を運ばなくなる可能性があるからな」



 何処にでもいるんだよねぇ……。そういう輩は。


 そしてその結末は破綻に繋がるのさ。



「しかし……。我々の前に命を賭して戦った先輩方に示しがつかないというか……」


「だから、その悲劇を繰り返さない為にも俺達の後輩の為にも新しい契約が必要なんだよ。ここの近くに墓標を建てて先に逝った者達の魂を鎮める。その前で此度の報告を済ましなさい」


 グレイオス隊長が渋る理由もよぉく理解出来るが、怨嗟が怨嗟を呼び未来永劫解けぬ呪いとして降りかかって来る可能性もある。


 それを断つ為にも新しい風を吹かせる必要があるのさ。



お疲れ様でした。


起床後に休日のルーティーンを済ませ、取り敢えず完成した部分を投稿させて頂きました。


これから出掛けて昼食を摂った後、後半部分の執筆作業に取り掛かりますので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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