第百六話 覚醒の胎動
お疲れ様です。
週末の深夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。
生の輝きが一切消失した闇の中に突如として幸運の女神が舞い降り絶望に打ちひしがれる戦士に栄えある勝利を齎す。
架空の物語ではこうした都合の良い話をよく耳にするが……、現実は非情であると言われている様に幾ら嘆いても現状は好転しない。
大切な物を紛失した、円熟した文明社会の中で金を落とす、頼りにしていた友人に裏切られた。
これら現実社会の問題程度なら膨大な時間や金が解決してくれるかも知れないが、世界の理から外れた超生命体と相対している非常事態はそれが解決してくれるとは到底思えない。ましてや都合の良い展開も起こり得る筈も無い。
それにも関わらず俺の友人の一人である大馬鹿者が時折、こう呟いている。
『偶には幸運の女神様が振り向いてくれてもいいんじゃないの??』
彼は都合の良い展開、若しくは願望を祈って訪れもしない幸運を嘆いているのであろう。
己の命が危機に晒される状況から救われたい気持ちは十二分に理解出来るが所詮は他力本願。
つまり、非情と恐怖が我が物顔で跋扈する恐ろしい戦場では自部自身の力で問題を解決せざるを得ないのだ。
それを重々承知しているが故に厳しい訓練を己に課して技の鍛錬に励んで来た。
しかし……。それでもこの状況下では奴が言う幸運の女神とやらに願掛けを唱えたい気分だ。
「ハンナ。奴の所在を捉えたか??」
俺の背中側からグレイオス殿の慎重な声が届く。
「いや、先程から一歩も動いてはいない。それ処か生の鼓動さえ掴めないのが現状だ」
あれだけの巨体だというのに髪の先程の鼓動すらも捉える事が出来ない。
シェイムの幻術は奴単体の時は不完全で、四体が集合して初めて完成するのだろうか??
「不用意に動いたら負け、か。全く……難儀な戦闘を強いられたわね」
トニア殿が正面を捉えたまま嘆く。
武の道に身を置く者ですら難儀な戦闘であると位置付ける戦闘だが、不思議な事に心の中には微かな喜びを得ている自分が居る。
これは恐らく、俺の人生で経験して来た戦闘の中でも上位に位置する危険な戦闘だからであろう。
死と隣り合わせの戦闘に喜びを覚えてしまう。
普遍的な人生を歩んで来た者なら大多数の者が首を傾げてしまうが、武の道を歩む者にとってはこれ以上無い糧となるのだ。
相手の強さが戦闘経験値を底上げし、背中に張り付いた死という概念が強さの純度を高めてくれる。
最も、この戦闘で命を落としてしまえば得られた経験は何の役にも立たないのだがな……。
更なる強さを得て遥かなる高みへ昇る為に、そして大勢の命を守る為に俺達は負けられんのだ。
キマイラの鼓動を捉える為、より一層集中力を高めて周囲に鋭い鷲の目を向けていると視界の端に見飽きた顔が唐突に出現した。
「むっ?? ダンの奴……。何をしているのだ??」
俺と同じく奴の顔を捉えたグレイオス殿が不思議そうな声色で話す。
「分からん。だが、奴が顔を覗かせたという事は恐らくモルトラーニをあの石柱群の中で拘束。若しくは無力化したのだろう」
追われている身ならあそこまで落ち着いた……、いいや。悪巧みを思いついた顔付きはしないだろうし。
「お、おいおい。嘘だろう?? あの巨大な蛇を単騎でどうにかしたと言うのか??」
「奴は阿保で馬鹿だがその実力は俺もある程度認めている」
「信頼しているのね。貴方達の関係が少しだけ羨ましいわ」
信頼、か。
「ふっ、俺の背を守らせてやる程には信頼している」
出会った当初はただの人間であったが類稀なる吸収力と学習能力の高さを生かして成長を遂げ、今では俺の強さに迫る位置まで昇って来ている。
奴の機転が無ければ生まれ故郷は死が蔓延る大地へと変わり、奴と出会わなければこうして違う大陸で危険な冒険をする事も無かった。
偶に本当に腹が立つ台詞や所作を見せるがそれを全て含めて俺は奴に全幅までとはいかないがある程度の信頼を寄せている。
嫌おうとしても嫌えない、本当に不思議な奴さ。
「ハハ、素直じゃない奴め。むっ!? お、おい。ダンの奴……。急に弓を構えたぞ」
グレイオス殿の声を受けて奴に視線を送ると。
「……ッ」
確かにアイツは何も無い場所へ向かって弓を構えていた。
虚空へ向かって矢を射り、その反応を窺って反撃を開始しようとしているのだろうか??
矢の無駄遣いは止せと叫んでやりたいが今動けばキマイラの鋭い爪の餌食になってしまうので微動だにせず彼の一挙手一投足を見守り続けていた。
そして、彼が虚無の空間に狙いを定めて矢を放った刹那。
「「「ぐぅっ!?」」」
美しい軌道を描いていた矢が宙で急停止、その数秒後にあの巨躯が姿を現した。
全く……。貴様という奴は極々稀に役に立つ男だな!!!!
「そこに居たのか!!」
「ぬうっ!?」
キマイラがその正体を現すとグレイオス殿が自ら飛び出してキマイラの右前足に襲い掛かり。
「隊長!! 続きます!!」
「こ、このアバスレがぁぁああ――!!!!」
「遅い!!!!」
ランレルの頭から放射された氷の息よりも早くトニア副長がキマイラの懐へと侵入して左前足を鋭い剣技で切り刻むと、特大の隙が奴等の頭部に生まれた。
王都守備隊最強の二人が作ってくれた隙を見逃す手は無いな!!!!
三つある獅子の頭。
その中央に位置する大層立派な鬣を誇る獅子の頭の直上へと飛翔。
「これが……。鍛え抜かれた戦士の一撃だ!!!!」
「ぐぁぁああああ――――ッ!?!?」
天界に住まう神々が感嘆の吐息を漏らすであろう強烈な一撃を直撃させてやった。
地面と同時に態勢を整え相手の反撃を予想して刹那に距離を取る。
切っ先に確かに感じた肉を裂く手応え……。奴等の装甲は強固だが血が出る以上、俺達は勝てる!!
「ぐうっ……」
「はぁっ!!!!」
顔面への雷撃を受け取り踏鞴を踏む巨体へ向かって追撃を試みるが。
「クソ!!!! 俺の魔力が残る限り幾らでも幻術は使用出来る!!」
シェイムが雄叫びを放つと再び奴等の体から閃光が迸り追撃を阻止してしまった。
クソ!! また隠れるつもりか!?
折角掴みかけた勝利が濃霧の向こう側へ霞んでしまうかと思われたが。
「うふふ、だ――めっ。そうは問屋が卸さないゾっ」
「キャハハ!!」
あの馬鹿が頭上に存在する蛇の胴体を擽ると微かに光りが弱まり、漆黒の体毛に覆われた巨躯が完全に消える事無く霞に紛れる程度の姿を保った。
「ぬぅぅうう!! ダン!! 邪魔をするな!!」
「邪魔ぁ?? 俺はぁ、ただモルトラーニと戯れているだけだよぉ??」
「ダン!! いいぞ!! そのままこちらを援護してくれ!!」
グレイオス殿が勢い良くダンへ向かって叫ぶ。
「了解!! 大分弱まって来ているし、後少しの辛抱だぞ――――!! 俺もここから矢で援護するから!!!!」
そして、ダンが再び矢を射ると巨体に鏃が突き刺さりその姿が鮮明となった。
ふっ、貴様という奴は……。
あの馬鹿の登場で劣勢へと傾いていた戦況が一気に優勢へと盛り返し、負の感情が渦巻き静まり返っていた戦場が熱き戦士達の魂によって燃え上がる。
たった一人の加勢により膠着状態であった戦況が覆る処か、優勢に傾くとは思いもしないだろう。
だが、アイツはそれを容易くやってのけた。そして、この好機を使わない手は無い!!!!
「好機到来だ!! 一気苛烈に敵を殲滅するぞ!!!!」
剣を握る手に力を籠め、胸に闘志と勇気を宿してキマイラの懐へと侵入。
「グォォオオオオッ!!!!」
「はぁぁああッ!!」
俺の接近を嫌がった左前足の攻撃を咄嗟に回避すると微かな隙を突いて左後ろ足に雷撃を叩き込む。
「グゥッ!?」
「勝機!!」
「えぇ!! 隊長!! このまま攻め続けましょう!!」
苛烈な斬撃によりキマイラの巨体の軸が左側へと傾き、体勢を崩した隙を突きグレイオス殿とトニア殿の斬撃が襲い掛かった。
鋭くそして的確な剣筋が体毛を、そして肉を切り裂き深紅の血液が宙を舞う。
戦地に降り注ぐ朱の雨を受け取った戦士達の血が湧き上がりそれに呼応した体が隆起する。
「「「グォォオオオオッ!!!!」」」
「はぁぁ――ッ!!」
「俺達は負けられんのだ!!」
獣の雄叫びが空気を揺らし、美しい剣技がそれを断ち切り。戦士達の咆哮が獣の雄叫びを掻き消した。
四名の戦士と一体の獣が地上で織りなす戦闘の協奏曲は天まで轟き戦の神の心を潤す。
まるで神話に出て来る様な大それた激闘が現実に目の前で繰り広げられている。
これで心躍らない戦士は居ないだろうさ。
「おっしゃあ!! 相棒!! 隙が出来たぜ!!」
ダンが放った矢がキマイラの後頭部に着弾すると巨体が微かに揺らぐ。
「言われずとも理解している!! せぁぁああっ!!!!」
その隙に乗じてキマイラの背に飛び乗り、巨大な背の中央へ向かって力の限りに剣を突き立ててやった。
「「「ギィィアアアアアッ!?」」」
俺の一撃が余程堪えたのか。
キマイラが断末魔の叫び声を放つとこの戦いが始まって初めて後ろ足の膝を地面に着けた。
此処だ!! この千載一遇の好機を見逃す訳にはいかんぞ!!!!
「勝機到来!! 死力を尽くして止めを刺すんだ!!」
グレイオス殿が両腕に魔力を籠めて乾坤一擲を打ち込む所作を見せる。
「了承だ!! ここで奴を断つ!!!!」
「勝利をこの手に収めましょう!!」
彼の姿を捉えるとほぼ同時に俺とトニア殿がキマイラの両側から攻め立て。
「了解っ!! さっさと倒して帰ろうぜ!!」
後方からダンの矢がキマイラの背に向かって放たれた。
異なる三方向からの攻撃、更にグレイオス殿が放つ苛烈な一撃。貴様に耐えられるか!?
強烈な闘志と想いが籠められた三撃がキマイラの体に到達しようとした正にその時。
「嘘だろ!? ぐぇっ!!」
俺の背後から聞き捨てならない呻き声が響いた。
「一体どうしたという……。ッ!?」
攻撃の態勢を強制解除してキマイラから距離を取り背後を確認すると、そこには絶望という名の光景が広がっていた。
「う……。うぁぁ……」
巨大な黒蛇の胴体が一人の男に巻き付き締め上げ、その体の殆どが艶を帯びた漆黒の鱗に覆われてしまっている。
大蛇に積載された筋力によって拘束された肉体の骨が軋む生々しい音と、常軌を逸した痛みから生じる男の呻き声が戦場に響く。
大の大人の動きを見事に殺す蛇の拘束力、俺達の背後を容易く取る狡猾さに思わず目が行ってしまいそうになるが俺の視界は只一点だけを捉えて離さなかった。
「シィィ……」
そう、鋭い牙が生えた口を一杯に広げてダンの首元に毒牙を突き立てている様だ。
今も彼の体に毒液を注入しているのかそれとも己の唾液とダンの血液が混ざり合った液体を飲んでいるのか、喉元と口元が同調する様に怪しく蠢き。
三日月型に湾曲した目元がその光景をより一層厭らしく装飾していた。
「こ、こ、この野郎……」
唯一蛇の胴体の拘束を逃れた右手で己の首元に穿たれた毒牙を外そうとして懸命に巨大な蛇の頭を退かそうとするがそれは叶わず。
「やっとダンと一つになれるんだから。絶対に放さないよ……」
「ぐぁぁああ!!!!」
それ処かその健気な抵抗が奴の嗜虐心を高めてしまう結果となり肉の奥深くへと毒牙が強烈に打ち込まれてしまった。
「ダ――――ンッ!!!! 貴様ぁ!! 王都守備隊の者に触れるな!!!!」
「ダン!! しっかりしなさい!!」
グレイオス殿とトニア殿がダンを救助する為に持ち場を離れるが。
「ククク……。ここは通さんぞ」
「あんた達は指を咥えて仲間が食われる様を見ていなさい」
キマイラが彼等の前に立ち塞がり、ダンの体は巨躯の背後へと連れ去られてしまった。
「ジェイド!! 貴様は戦いの最中に敵の肉を食らう事を恥だとは思わないのか!?」
「思わん。強敵の肉を食らう事によって俺はまた一つ強くなれるのだからな。それに……、コイツの存在は中々に厄介だ。最も早く排除すべき存在を片付けられて安心しているぞ」
激昂するグレイオス殿に対し、冷徹な声色でジェイドが答えた。
「クソが!! ダン!! 今から助けてやるからそれまで耐えろよ!!!!」
「ハンナ!! 黙って見ていないで貴方もダンを救助する算段を考えなさい!!」
「案ずるな。誰よりも深く奴を救助する算段を考えている」
何故俺はこうも奴が食われ行く様を冷静に眺めて居られるのだ?? いや、眺めるというよりかは傍観に近いかも知れない。
その違和感の正体を探る為。
「このぉぉおおおお!! 退かぬのなら此方から押し通る!!!!」
「隊長!! 加勢します!!」
キマイラの左右から突貫を開始した彼等の背を見つめながら深い思考へと身を落とした。
生物が死に至る間際に放つ強烈な死臭。
恐らく、それを奴の体から一切感じ取れないという事が俺に余裕を齎しているのだろう。猛毒を受けても死臭を放たない理由。
それは……。
「――――。そうか、そういう事か!!」
成程、それなら合点がいくな!!
「ハンナ!! どうした!!」
「二人共、一旦下がれ」
「どうして!? 仲間を見捨てるなんて私には出来ないわよ!!!!」
「いいから俺の言う事を聞くのだ!!」
無策で突撃を開始しようとする二人の背に向けて苛烈な声を掛けてその動きを制止させる。
「ちぃっ!! ダンを見殺しにしたら俺は貴様を一生許さないからな!!」
「安心しろ……。もう直ぐ奴は己の内から燃え上がる闘志に呼応して目覚めるであろう」
一旦下がった両者にしか聞こえない小さな声量で話す。
「目覚める!? そんな馬鹿な!! ダンは蛇の猛毒で既に意識が……。ッ!?」
トニア殿がキマイラの後方で一切身動きを取らないダンの体に視線を送り続けていると俺の予想通りにある変化が現れた。
「さぁ……。ダン、一つになろうね……」
巨大な蛇の顎が大きく開かれ、ダンの頭を愛しむ様に遅々足る所作で飲み込んで行くと彼の右手が微かに揺れ動いた。
毒による痙攣では無く、己の意思で動かしたであろう動きが俺の考えを確信へと変えた。
「お、おい。今の動き……」
「あぁ、奴の体の中には『抵抗力』 という能力が備わっている。以前、俺とダンは生の森へと突入し。奴は黒蠍の毒を受けて九死に一生を得た」
「つ、つまりそれでダンの体には毒に対する抵抗力が備わっていると??」
「あぁ恐らくな。蠍の毒と蛇の毒。どちらの威力が勝るのかは窺い知れぬが、奴は必ずあそこから奮い立つ。俺達はその隙に乗じてキマイラを討つぞ」
トニア殿の声にそう答えるといつでも突貫出来る様に深く腰を落とした。
さぁ、ダン。貴様の力を解き放ってみせろ!!!!
奴の上半身全てが蛇の頭の中に飲み込まれてしまったその刹那。
「……ッ」
ダンが腰から黒蠍の甲殻で制作された短剣を素早く引き抜くと蛇の首元を勢い良く切り裂いた。
「イギィアアアア――――ッ!?!?」
反撃を予想せず完璧に油断していたモルトラーニが大絶叫を放つとダンの体の拘束が解除され、奴は重力に引かれて地面へと落下。
落下して行く途中に態勢を整え、着地とほぼ同時にキマイラの懐へと侵入した。
「コイツ!! モルトラーニの毒で絶命したのじゃないのか!?」
「シェイム!! 迎撃を!!!!」
「あぁ!! 分かっている!!」
毒で身動き一つ取れなかった個体が突如として息を吹き返し、剰え大蛇の皮膚を切り裂くという予想だにしていなかった出来事に面食らった三つの獅子が狼狽える。
「息を吹き返したとしてもまだ体内に毒が残っている筈よ!!」
「ガァァアアア――――ッ!!」
ダンの体に向かって強固な石畳を容易く切り裂く事を可能とした爪の一撃が上空から降り注ぐ。
「……」
しかし彼はその反撃を予想していたのか、まるで風にたなびく柳の枝の様に剛腕の一撃を回避。
そして流れる水を彷彿とさせる滑らかな動きでキマイラの胴体下へと移動を果たし、右手に持つ漆黒の刃で右足を切り裂いた。
「ぐぁっ!?」
「な、何よ!! 今の動き!! 死に体で見せる動きじゃない!!」
奴等が狼狽えるのも頷ける。
今の動きは俺も驚いたからな……。
「お、おい。ダンの奴……。気を失っているんじゃないのか??」
ダンの見事な動きの一挙手一投足を捉え続けているグレイオス殿が驚嘆の声色を漏らす。
「いや、微かに意識を保っているぞ。覚醒と微睡。その狭間で意識が漂っている感じであろう」
問題は意識の有無では無く、疲労困憊の状態で武の道に携わる者共を驚愕させたあの研ぎ澄まされた動きだ。
襲い掛かって来る攻撃を受け止めるのでは無く後方へと受け流し、攻撃の終わりの隙を狙い一気苛烈に己の間合いへと移動。
そして相手の弱点へと向かって的確な攻撃を叩き込む。
奴が常日頃から言っていた水の心、そして俺が追い求めている烈火の一撃。
水と火は対となる存在で決して交わる事は無いが……。奴は今それを戦いの中で実践しているのだ。
「こ、この死にぞこないがぁぁあああ!!!!」
「ダン!! そこに居たんだね!! もう一度捕まえてあげるから動いちゃ駄目だよ!!」
ランレルの口から氷結の吐息が放射され、更にモルトラーニの顎が最大限にまで開かれると無色透明な毒液が吐かれた。
相手の両足を狙った地を這う氷と動きを奪う毒液の放射。
異なる方向から放射された攻撃の範囲は広大であり一見回避不可能かと思われるが、集中力を最大限にまで引き上げている彼にとって奴等の攻撃は余程遅く見えるのか。
「……ッ!!」
極少の針の穴に糸を通す様に、人一人分が漸く通れるほんの微かな攻撃の隙間を見付けるとその間に体を器用に通して恐ろしい威力を持った攻撃を躱してしまった。
「う、嘘でしょ!? グェッ!?」
驚きの色を隠せないモルトラーニの顎先へ火の力を纏った足撃を放ち。
「着地で潰……。グォッ!?」
着地の隙を狙ったシェイムの牙を再び空へ逃れて回避すると右手に持つ刃で奴の目元へ鋭い雷撃を放った。
この隙に乗じて攻撃を加えるのが定石なのだが……。俺達はその場から全く動けず、只々彼の動きに魅入っていた。
そりゃそうだろう。
最小の動きで最大の戦果を得る。
絵空事の様に頭の中で思い描いていた動きが現実の下となったのだから。
たった一人でキマイラを追い詰めて行く彼の動きを注視していると全身に鳥肌が立ち、心にある感情が生まれてしまった。
ふっ、よもや貴様に嫉妬する日が来るとは思わなかったぞ。
これも全て貴様が今日この日まで積み上げて来た戦闘経験の賜物だ。今は思いのままに動き、目の前に立ち塞がる強敵を屠れ。
それが貴様の心が真に求めている闘争なのだから。
お疲れ様でした。
帰宅時間が遅くなった為、深夜の投稿になってしまい申し訳ありませんでした。
キマイラとの死闘はこれから佳境に入り、残り二、三話を予定しているのですがそのプロット執筆が難航している次第であります。
この休日で何んとか書き上げたいと考えておりますが果たして上手く書けるかどうか……。不安で仕方がありません。今日はこの後、もう少しだけ執筆して起床後は味噌ラーメンでも食べて気分を変えて来ますね。
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難航しているプロット執筆に嬉しい励みとなりました!!
それでは皆様、引き続き良い休日を過ごして下さいね。