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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百四話 王都の命運を握る激闘の開始 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




 不動の大地を揺らす巨体の背後に蠢く黒蛇の注意を引き付ける為に大馬鹿者が石柱群へ突入。


 馬鹿者の背を見送り改めて超生命体と対峙すると微かな恐れを抱いた体が硬直するが、心に湧く闘志で恐怖を塗り替え正の力に変えて己を奮い立たせた。


 あの生命体に対して刹那にでも隙を見せれば俺の体は消滅してしまうだろう。


 俺自身が敗北を喫するのは構わん。しかし、この双肩に大勢の輝かしい命が乗っている事は決して忘れてはならぬ。


 俺達が守ろうとしている人々は地獄の炎すら生温く感じてしまう苛烈な激闘の存在を知る由も無い……。


 我々はそんな何も知らず平和な日々を享受している人々を守り通そうとしている。


 傍から見ればこの行動は滑稽に映るかも知れないがそれでも使命を貫く事に喜びを感じている自分に驚いてしまう。


 いや、使命では無く。強敵と対峙出来る事に対して喜んでいるのだろう。


 俺はその為に生まれ故郷を発ち此処に立っているのだから。



「ダン――!! 逃げないでよ――!! さっさと僕と一つになろうよ!!」


「ヒィィヤァァアア――!! それ以上近付くんじゃねぇ!! 新鮮な肉を食べたいのなら肉屋さんにでも向かいなさいよね!!!!」



 ふっ、あの大馬鹿者が。


 戦闘中に情けない声を上げるなと何度言えば理解するのだ。


 真の闇からあの阿保の情けない悲鳴が響くと口角が僅かに上がってしまう。



「ダンの奴、上手く誘導出来ている様だな」


 グレイオス殿が巨躯の臀部から石柱群に伸び行く蛇の胴体を捉えながら言葉を漏らす。


「その御蔭で我々は猛毒の脅威に晒される事無く戦闘に臨めます」


「あぁ、副長の言う通りだ。自ら危険を買ったダンの心意気に応える為にも我々は死力を尽くして敵を討つぞ!!」


「了承した!!」



 グレイオス殿の覇気ある声を受け取ると剣を握る力を強め、改めて対峙する巨躯を見上げた。



「グレイオス!! さぁ先の戦闘の続きだ!! 互いの雄を衝突させて煌めこうでは無いか!!」


「おぉう!! 掛かって来い!! 俺は今日此処で本物の雄となるのだ!!」


 ジェイドの心意気に応える為にグレイオス殿が大蜥蜴の姿に変わると素早く前に駆け出す。


「隊長!! 前に出過ぎです!!」


 その姿を捉えたトニア殿が注意喚起を促すが、彼の体はもう既に奴の広大な間合いの中に収まっていた。


「ガァァアアアア――――ッ!!!!」



 キマイラの右前足が素早く上がると足先に備わった漆黒の爪が彼の体を引き裂こうとして上空から襲い掛かる。


 あれだけの巨体を誇るというのにその素早さは我々の太刀筋と何ら変わりない。


 空気を鋭く撫で斬る甲高い音が響き渡り、その音を捉えたグレイオス殿が男らしく上段の位置に剣を構えた。



「はぁぁああ!!」


 四本の爪と鉄の塊が触れた刹那。


「「ッ!?」」



 暗闇の中に眩い火花が飛び散り周囲を照らし、力と力が反発し合った両者の体が微かに硬直した。


 回避という選択肢を捨ててあの巨躯から繰り出される一撃を耐え切るその膂力は見事の一言に尽きる。



「まだまだぁぁああ!!」


 素早く態勢を整えたグレイオス殿が微かに生じた隙に乗じて己の間合いに突入するが……。


 奴はあくまでも一個体では無く四つの生命体が重なった複合体なのだ。


「鬱陶しい筋肉の塊ね!!」


「俺の稲妻の吐息で滅却させる!!」



 ランレルの頭から氷結の息が、そしてシェイムの頭から稲妻の息が放射され鋭い一撃をその巨躯に叩き込もうとしている彼の体を捉えてしまった。



 猛吹雪の中に吹き荒れる幾つもの氷塊が含まれた凍える烈風、真夏の空に浮かぶ黒雲から放たれる稲光。


 二つの異なる属性の攻撃は離れた位置からでもそれ相応の威力を備えていると看破出来てしまった。


 あの攻撃が直撃すれば恐らくタダでは済まないだろう。


 しかし……。我々の存在を忘れて貰っては困るな!!!!



「ハンナ!!」


「分かっている!!」



 深く腰を落として敵に己の背を見せるまで捻ると刹那に魔力を高めた。


 俺の武を此処で解き放つ!!!!



「迸れ我が剣!! 舞え、氷結の刃よ。そして敵を討て!! 第三の刃。氷旋斬ひょうせんざん!!!!


 腰溜の位置から素早く抜剣させて振り抜くと氷の刃を稲妻の息へ穿ち。


「我が一撃……。虚空を穿ち大地を切り裂け!!!! 奥義、風破斬ふうはざん!!!!」



 トニア殿は上段の位置から長剣を素早く振り下ろして思わず惚れ惚れしてしまう風の刃を氷結の息へと解き放った。



「ぐぅっ!?」


「何ッ!?」


 二人の剣技が異なる属性の息を断ち、そしてキマイラの巨躯に着弾すると微かに芯が揺らいだ。


「流石だな!! 二人共!! 礼を言うぞ!!」



 流石、武の道に身を置き切磋琢磨を続けて来た者なだけはある。


 キマイラが見せた隙に乗じ、素早く己の間合いに相手を置き強力な一撃を加える絶好の位置に身を置いた。



「ふっ、礼など不要だ。雄ならば言葉ではなく今日まで鍛え続けて来た武で応えてみせろ」


「おぉう!!!! これが高純度に濃縮された雄の一撃だぁぁああ――――ッ!!!!」



 王都守備隊隊長の魂が籠った一撃がキマイラの右足に着弾すると皮膚を切り裂いて現れた鮮血が宙を舞い。



「「「ギィィアアアア――――ッ!?」」」


 キマイラが猛烈な痛みで大きく仰け反り血の雨が辺り一面に降り注ぐ。


「ふぅ――……。まだまだぁぁああ!!!!」



 戦地に降り注ぐ深紅。


 それを浴びた戦士が雄叫びを放ち、類稀なる膂力を生かした斬撃の雨を漆黒の巨躯に叩き込む。



「「「グォォオオオオッ!?!?」



 彼が放つ斬撃と同調する様に巨躯が揺らぎ、その隙が徐々に拡大していく。そして断末魔の叫び声が戦場に響き渡りこれを好機と捉えた二名の武士が続いた。



「ぜぁぁああっ!!」


「うぐっ!?」


 トニア殿が左前足の裏側を切り裂き。


「隙だらけだぞ!!!!」


 俺はこの戦いが始まって初めて相手が見せた大きな隙に乗じて大地を蹴って飛び上がり、中央の頭に天からの雷撃を見舞った。


「グァッ!?!?」



 手応えアリだ!!!!


 剣の切っ先が生肉を切り裂く確かな感触が微かに勝利を予感させる。


 着地と同時に態勢を整え追撃を試みようとするが。



「ふんっ!!」



 かろうじで意識と闘志を繋ぎ止めた右頭部のシェイムの頭の牙がこの体に襲い掛かって来た!!


 回避は不可能か。ならばこの剣で受け止めてみせる!!



「ガァァアアッ!!!!」


「くっ!!」


 何んという一撃の重さだ。


 ただ防御しただけでなのに千載一遇の追撃を可能とする位置からかなり押し戻されてしまった。


「ククッ。どうした?? ハンナ。御自慢の剣技は使用しないのか??」


 俺の体を噛み砕こうとする口を器用に動かしてシェイムがそう話す。


「や、喧しいぞ。今、それを見せてやる!!!!」



 獣の香りに包まれたまま器用に体を捻り口撃の範囲から逃れると体の流れを利用して側頭部に向かって剣を振り下ろす。



「フフッ、外れだ」


 ちぃっ!! 読まれたか!!


 鋭い剣筋は肉を捉える事無く空を切り、泳いだ態勢を整え元の位置に戻って行く頭部の目玉を穿とうとするが。


「消え失せろ!!!!」


「ッ!?」



 中央の頭部。


 ジェイドの口から炎の息が俺の軌道上に吐かれ、追撃を試みようとする俺の攻撃を断ち切ってしまった。


 ただ攻撃を加えるだけじゃなく、俺の追撃そして己の攻撃態勢を整える準備の時間を稼ぐ狡猾で聡明な攻撃。


 見た目は獰猛な獣なのにその攻撃方法は武の道に身を置く者のソレそのものだ。



「クククッ……。惜しかったなぁ、ハンナ。もう少しで俺の目玉を穿てたのに」


 此方から距離を置いた位置からシェイムの厭らしい声色が届く。


「安心しろ。確実に貴様の頭部を叩き切ってやるから」


「ほぅ、それは楽しみだ。だが……。これを見ても同じ台詞が吐けるのか!?」



 シェイムの頭部から力強い魔力の鼓動が迸ると眩い閃光が辺り一面に放射される。


 刹那に瞼を閉じ、そして再び瞼を開くとそこには絶望的な光景が広がっていた。



「う、嘘だろ!? 奴の巨体が消えた!?」


 グレイオス殿が狼狽えた声を放ち。


「隊長!! ハンナ!! 陣形を整えて迎撃態勢を!!!!」


 微かに気の迷いが見える所作でトニア殿が俺達に集合の号令を掛けた。


「お、おい。ハンナ……。これって……」


 俺の背後を守るグレイオス殿が上擦った声で話す。


「あぁ、俺とシェイムが対峙した状況と酷似している。奴の能力は集合体となった今も使用出来るのだろう」



 気配を纏った絶無、実体を纏った虚像、そして絶無を纏った実体。


 この三者が代わる代わる俺達に向かって襲い掛かって来るのだ。


 シェイム単騎ならまだしもあの馬鹿げた膂力を持つ巨体から放たれる一撃を想像すると背筋に本当に冷たい汗が流れ始めてしまう。



「いいか、そのまま良く聞け。強力な殺意に反応したい気持ちは分かるがそれを無視しろ。そして恐ろしい牙を向けて襲い掛かって来るのも虚像だ。絶無を纏った本体を探る為には……。五感を最大限にまで発動させて奴の本体が放つ生の鼓動を捉えろ。それがこの幻術の看破方法だ」



 戦闘態勢を継続させながら先の戦闘で得た教訓を両者に伝える。



「それは分かっているが……。いざ実践ともなると上手く出来るかどうか……」


「それに今回の場合は一体では無く四体が重なりあった一撃。一度の失敗で隊が総崩れになってしまう可能性もあるわ」


「それは重々承知している。グレイオス殿とトニア殿は引き続き警戒態勢を取って索敵を続けてくれ。俺は奴の生の鼓動を捉えてみせる……」



 あれだけの巨体が放つ生の鼓動だ。先の戦闘よりかは楽に捉える事が出来るだろう。


 問題は死が直ぐそこにあるという恐怖に飲まれずに捉えられるかどうか、その一点に尽きる。



「ふぅ――……。すぅ――……」



 戦闘の香が含まれて熱量を増した戦場の空気を吸い込み、体内に籠る微かな恐怖を吐き出すと集中力が高まって来る。


 いいぞ、このまま集中力を高めていけば必ずや奴の生の鼓動を捉える事が出来る筈。


 剣に握る力を弛ませ、強張る双肩の筋肉を鎮めていると。



「ギィィヤアアアア――――!!!! な、何でお前さんは透明になっちゃったんだよ――!?!?」



 静謐な環境が広がる戦地に大馬鹿者の大絶叫がこだました。



「は、はは。ダンの奴、一人で大丈夫か??」


 グレイオス殿が横目で石柱群へと視線を送る。


「彼一人では心細いし……。私が増援に向かいましょうか??」


「いや、あの阿保には先程の休憩中に対処方法を伝えてある。それにこの陣形を崩した時点で奴は直ぐに襲い掛かって来るだろう」



 俺達が聞こえたという事は当然奴等の耳にもあの阿保の声は届いているのだ。


 堅固な陣形を崩す理由が見当たらん。



「そうは言うけど目に見えない毒牙に狙われているんだぞ?? 流石にダン一人じゃ手に負えない……」



 グレイオス殿が石柱群に一歩踏み出そうとした刹那。



「――――。そこから離れろ!!」


 彼の腕を苛烈な勢いで引っ張り此方側に引き寄せてやった。


「急に何を……。うぉぉおおっ!?」



 何も無い虚空から甲高い音が響くと同時に石畳の上に四本の線が見事に刻まれた。


 あのまま踏み出していたら今頃強力な爪の餌食となり重傷を負っていただろう。



「す、すまん!! 恩に着るぞ!!」


「礼は不要。引き続き索敵を続けるぞ」


「お、おおう!!!!」



 三名が口を横一文字に紡ぎ、只々集中力を高め続けていると。



「イヤァァアア――!!!! 頼むからどっか行ってくれって――!!!!」


「アハハ!! ダン、待ってよ――!! 物理的に食べながら性的にも食べてあげるから安心してね!!」


「安心の意味をもう一度勉強し直して来い!! 俺は野郎に物理的にも性的にも食われる趣味は無いの!!!!」


「「「はぁ――――……」」」



 折角高まった三名の集中力が大馬鹿者の悲壮感丸出しの絶叫によって霧散されてしまった。



「ふっ、まぁこういうのが俺達らしいのかもな」


「えぇ、王都守備隊の隊員達の前では決して言えませんけどね」


「全く……。あの阿保には後で耳が痛くなる程の説教を与えてやらねばならんな」



 だが、結果的には奴のふざけた絶叫は効果があったのかも知れない。


 強張っていた全身の筋が程よく抜け、戦場の景色がより鮮明に見えてきたのだから。


 さぁ……。俺達はここに居るぞ。勝利を掴みたければ掛かって来い。


 俺達は強固な陣形を維持しつつ。人生で一、二を争う程の集中力を発揮させて姿形の見えない化け物の襲来に備え続けていた。




お疲れ様でした。


帰宅後にあ――でも無い、こ――でも無いと迷いながら執筆していたらこんな夜更けまで掛かってしまいました。


この先の展開もまだ微妙に決め切れていないので大変申し訳ありませんが次話の投稿は少し遅れてしまいます。


本日は物凄く体力を使ってしまったので今日はこのまま眠ります。昼間は温かくても夜は寒いので風邪を引かない様に気を付けて下さいね。



それでは皆様、お休みなさいませ。



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