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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百四話 王都の命運を握る激闘の開始 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 天界に住まう神々の足元まで続く聳え立つ壁が進路上に突如として現れたのなら人々はどの様な反応を見せてくれるのか。


 ある者は迂回路を探す為にその道から外れ、ある者は進む事を諦めて踵を返し、またある者は絶望に塗れた瞳で途方に暮れたまま雲の先にあると思しき壁の天井を只々見上げる。


 意思と感情を持つ大多数の者はその問題に直面した場合、解決を優先するよりもその問題から離れるという選択肢を取るであろう。


 中には舌なめずりをして聳え立つ壁に向かって行く酔狂な者はいるであろうがこれはあくまでも例外中の例外である。


 俺もこの例に倣ってさり気なぁく撤退という選択肢を選択したいが、どうやら俺以外の三名は例外中の例外の者らしいですねっ。



「「「……ッ」」」



 闘志漲る瞳を浮かべ、早く開戦の狼煙を上げてくれと。前へ前へ進もうとする両足を必死に御している様子だし。



 どうして君達はあぁんな化け物に向かって行こうと考えるのだい?? 普通は脱兎もこりゃ参った!! と頷く程の脚力で逃げ出すというのに。


 三名の臨戦態勢の姿を捉えると思わず首を傾げたくなってしまうが……。俺達に課せられている使命の重さを考慮すれば大いに理解出来る。


 もしも撤退の選択肢を選んだのならあの常軌を逸した化け物が地上へと現れ、大多数の尊い命が煌めく王都に侵入。


 阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されてしまう事が目に見えているのだから。



 はぁ……、ったく。改めて考えるとただの一冒険者が請け負う依頼じゃないぜ。


 だがまぁ――……。俺はこの世の不思議と危険を求めて退屈な田舎町から出て来たのだ。己の命を危険に晒しながら超危険な化け物と対峙する。これこそ冒険の醍醐味じゃないのかい??


 もう一人の俺が心の中で本音をポロっと漏らすと決意を改めて弓を持つ手に力を籠めた。



「さてと……。これからあの化け物とり合うんだけど。何か良い案はあるかい??」



 全長凡そ二十メートルを超え、足元から頭頂部までの高さは凡そ十五メートルの巨躯から一切目を離さずに声を出す。



「奴等は一見、一体の生命体に見えるが四人の命が重なった集合体だ。ルクト殿の進言通り連携の隙を狙って戦うべきだ」


 俺の言葉を汲んだハンナが誰とも無しに言葉を漏らす。


「その意見には賛成だ。だが……。奴等は火炎、稲妻、氷結の息を吐くと聞いた。そして厄介な事に尻尾の蛇には猛毒の牙が備わっている。一筋縄ではいかぬ生命体だぞ」


「何の策も無く、真正面から向かって行けばあっと言う間に御先祖様達が住む世界に旅立っちまう訳か……。難儀な相手だよなぁ」



 グレイオス隊長の言葉を受け取ると今にも俺達に襲い掛かって来そうな巨躯を改めて注意深く見つめた。



 先の尖った黒き体毛に覆われた巨躯の筋力は斬撃や矢を容易く弾いてしまうであろうと一見看取出来てしまう程に分厚く、それを支える四つ足の先に生えている黒爪は今も獲物を求める様に怪しく蠢き石畳を荒々しく食む。


 三つの頭と一つの蛇に備わる八つの目は獲物を求めて鋭く尖り、計四つの口には肉を切り裂く牙が生える。


 あれだけの巨体なのだから何処かに死角はあるだろうと思われるが、各部それぞれの目が互いの死角を補う。


 それに加えて属性の異なる息を吐き敵対する生物を滅却する。


 キマイラと対峙して心に浮かんだ素直な感想は……。厄介極まり無い生命体だ。


 完全無欠の生命体はこの世に存在しない。


 この言葉を信じていつでも行動出来る様に集中力を高め続けているとキマイラ達に動きが現れた。



「ヤッホ――!! ダン、これが僕の本当の姿だよ!! どう思った!?」


 尻尾に取って代わる黒蛇が獅子の胴体の後方から生え伸びて俺の目の前に現れたので。


「うぅむ……。物凄く危険そうな牙に獲物を絞殺出来る様に発達した胴体の筋力。それに加えてある程度伸縮出来る体。控え目に言ってもすっげぇ怖い蛇の姿だな」



 今も口からチロチロと舌を覗かせている黒蛇に向かって素直な感想を述べてあげた。



「あはっ、嬉しい事言ってくれたね!! ダンの体は僕が貰う予定だからぁ……。ほらっ、この御口から丸呑みしてあげるね!!」


 モルトラーニが嬉しそうにキュキュっと喉を鳴らすと顎を最大稼働させて口内の唾液に塗れた生々しい肉をこれ見よがしに見せて来た。


 新鮮な桜色のお肉にべったりと付着した唾液、その奥には暗闇がぽっかりと口を開いて俺の到着を待ち侘びている。


「お、俺の肉は少なくて満足出来ないと思うよ?? この肉体よりほら、そっちの筋骨隆々の肉体を食った方が満足するんじゃないのかな」



 さり気なくグレイオス隊長の体に向かって顎をクイっと指す。



「ダンじゃなきゃ嫌だもん!!」


「モルトラーニ、それは聞き捨てならない台詞だな。ダンの肉体を食らうのは俺だ」


「駄目――!! 僕が食べるのっ!!!!」



 人の体をたまぁに食卓に並ぶ高級肉みたいに扱うんじゃないの。



「ハンナぁ!! 貴方の肉体は私が管理して調教してあげるからねっ!!」


「グレイオス!! 貴様は俺と煌めきを語り合う為に存在しているのだ!! 他の者にヤられるのは許さんぞ!!」


「駄目だ、ダンの体は俺が貰う。譲れ」


「い――や――だ――ッ!!!!」



 やれ食う、やれ調教だ。どこぞの分隊と同じく全く以て喧しい限りですなぁ。戦いの前なんだから集中しなさいよ。


 だがこの時間を有意義に使用させて頂きますよっと。



「よぉ、今の内に作戦を考えておこうぜ」



 三つの獅子の頭と一体の蛇が己の主義主張を言い合う中、この時間を利用して此方も簡易的な作戦会議を開始した。



「さっきも話題に出たけどアイツ等は強力な力を有しているが、四つの生命体が重なった一体の生物だ。意思疎通の隙に乗じて攻撃を加える。これが基本的な作戦だ」


 俺がそう話すと三名が静かに首を縦に振る。


「シェイムとモルトラーニは俺の体を食らおうとして躍起になるだろう。そこで!! 開戦と同時に俺が此方から見て右翼側の石柱群に向かって突入を開始する」


「単騎で行動するのか?? それは余りにも危険だろう」



 グレイオス隊長が俺の身を気遣う瞳を浮かべて話す。



「危険だけどそれが一番理に適った作戦なのさ。これまでの行動を見る限りモルトラーニはある程度体を伸縮させる事が可能であり、石柱群に突入した俺を求めて追いかけてくるだろう。それにシェイムの頭は此方見て左側に生えている。尻尾と左の頭。この両者の意識が俺に向かって動けばどうなるか……」



 後は言わなくても分かるだろう??


 そんな意味を籠めた瞳を浮かべる。



「ふむ……。尻尾と一つの頭が巨躯の動きを鈍らせ、俺達はその隙に乗じて攻撃を加える。悪くないな」


 ハンナが静かに一つ頷く。


「それにハンナ達は毒牙の攻撃を気にしなくても済むだろう?? それぞれに備わる攻撃で最も厄介な攻撃の一つである毒の攻撃に注意を割く事無く、思いのままに全力を尽くす。攻撃大好きっ子なお前さん達の大好物じゃあないか」


「我々は三つの異なる属性の息に注意を払いつつ適宜攻撃を加える。これ以上無い最良の作戦だな」


「えぇ、隊長の仰る通りです。ダン、貴方はやはり見た目より賢いわね」


 見た目より、って言葉を付け加える必要はありました?? 普通に褒めてもいいんだよ??


「お褒め頂き光栄ですよっと。さぁって……、奴さん達もそろそろ準備完了の様子ですし?? 俺達も作戦開始といこうじゃあありませんか!!!!」



 俺が景気良く柏手を打つと。



「シェイムは我慢して!!」


「断る」


「彼の体を縛って、拘束して……。あぁ、今から滾って来るわぁ」


「喧しいぞ!! 俺達は今から戦闘を行うのだから相談は後にしろ!!」


「はぁ――い」


 此方と同じく丁度相談を終えた様で?? 八つの恐ろしい目が俺達に向けられてしまった。



「ククク……。さぁ、戦いを司る神々が恍惚の表情を浮かべる激闘を繰り広げようでは無いか!!」


「おぉう!! さぁ、行くぞ武士共!! 己の武を極限にまで高め死に抗い、絶望を克服しろ!!!!」



 言わずもがな!! ここで死ぬのは真っ平御免だからな!!!!



「俺達の魂が震え喜ぶ力を見せてくれ!!!! グォォオオオオオ――――ッ!!!!」


 獅子の中央の頭が咆哮すると。


「「ゴァァアアアアアッ!!!!」」



 右の頭から稲妻が迸り、左の頭から氷結の息が地を這いながら俺達の方へ向かって来やがった!!


 真夏の雷鳴を彷彿とさせる轟きの音と視界を明滅させる強力な稲光、真冬の全てを凍てつかせる猛烈な寒波。


 現実では決して起こり得ない異なる季節の最大の脅威が同時に襲来。



「あっぶねぇ!! モルトラーニ!! シェイム!! 俺の肉体を食いたければこっちに来やがれ!!」



 俺の方に向かって来た氷結の息を命辛々回避すると作戦通り此方から見て右側の石柱群へ向かって突撃を開始した。


 頼むぜぇ……。俺の予想通りにいってくれよ!?



「あぁ!! そっちに逃げちゃ駄目だよ!!」


「むっ!? モルトラーニ!! 抜け駆けはさせんぞ!!」



 よっしゃああああ!! 食い付いたぁ!!!!


 俺が石柱の影に突入すると二体の意識が俺の方へと向き、巨躯に微かな隙が生じた。


 そして、三名の攻撃大好きっ子がその隙を見逃す訳も無く??



「風よ、迸り逆巻け。そして立ち塞がる敵を屠れ!! 第一の刃……。太刀風たちかぜ!!!!」


「ぬぅっ!?」


 ハンナの風の刃が宙を切り裂きジェイドの顔面に直撃すると巨躯が揺らぎ。


「隙だらけよ!!」


「うぉぉおおおお――――ッ!! 俺の一撃は岩よりも重いぞ!!」


「ぐぅっ!?」



 王都守備隊最強の二人の剣技が前足に叩き込まれると獅子の体が痛みから逃れる様に大きく仰け反った。



 すっげぇ……。あの化け物に一切動じない闘志の強さも然ることながら。あの巨躯を仰け反らせるその攻撃力の強さに舌を巻いちまうよ。


 俺も彼等の心意気に応える為に精一杯生贄役を務めましょうかね!!



「ダン――!! 待ってよ――!! 美味しく食べてあげるから逃げないで――!!」


「だから!! 人の体を食うとお腹を壊しちゃうって言ったでしょう!?」



 石柱の合間を器用に縫って逃げ続ける俺を執拗に追いかけ回して来る黒蛇に対してそう叫んでやった。


 全力疾走で駆ける俺を余裕を持って追い続けて来るって事はまだまだ速くなる可能性がある。体力には自信がある方だけど、体力の概念は有限であり無限では無い。


 だから俺の体力が尽きる前に勝負を付けてくれよ!?



「ハムッ!! おぉ!! 今のは惜しかったね!!」


「ドッヒィッ!?」


 うなじの直ぐ後ろで大きな口が勢い良く閉じられる生々しい音が奏でられると心臓ちゃんが可愛い声でキャアっと泣いてしまう。


「あっぶねぇな!! お前さんの牙が直撃したら洒落にならないからもう少し手加減してくれよ!!」


「手加減?? そっか!! 優しく丸呑みして欲しいって事だね!! 容易く窒息出来ない様に喉を大きく開いて丸呑みしてあげるから――!!!!」


「お、お母さんんはそういう事を言っているんじゃないんですぅ!! 遊びたいのなら他所で遊んで来なさい!!」



 遊び盛りのやんちゃな子供の相手を嫌々努める母親の口調で叫ぶと、恐ろしい毒牙から逃れる為に両足の筋力がブチ切れても構わない勢いで石柱群の中を縦横無尽に駆け続けていた。



お疲れ様でした。


本日は起床後から執筆を始め、取り敢えず完成した御話を投稿させて頂きました。


これから休日のルーティーを済ませて後半部分を執筆する予定ですので、次の投稿は夜になる予定です。


それまで暫くの間お待ち下さいませ。

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