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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百三話 己の命を賭けた契約の履行期 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿なります。




 体力をほぼ使い果たし、すっからかんになった胃袋を満たしたら果たして体は一体どんな反応を見せてくれるのか。


 それは多くの人々が体験して来た事だから分かり易い筈だ。


 そう……。仕事の完遂までもう一踏ん張りの所まで来たんだから少し眠っちゃえよと。体が欠伸を通して頭にあまぁく問いかけて来るのさ。



「ふわぁぁああ――……。あ゛ぁ、ねっみい……」



 大蛇もドン引きする角度で顎を大きく開き、新鮮な空気を取り込んで目玉から零れ落ちて来る雫を拭う。



「此処は戦地だぞ。気を緩めるな」


 俺のだらしない姿を捉えたハンナが素早く咎めて来る。


「そういうお前さんだってさっき隠れて欠伸をしていたじゃないか。それが移ったんだよ」


 全く……。俺だけが悪い風に言わないでくれるかしら。


「あれは深呼吸だ。貴様と同じにするな」


「あ――はいはい、そういう事にしておくよ。よぉ、隊長。トニア副長の様子はどうだい??」


 ちょいと苦しい言い訳を放った相棒を他所に隊員の面倒を見続けている彼に問う。


「呼吸も安定しているし顔色も戻って来た。この調子なら大丈夫そうだ」



 おおっ、薬草がしっかり効いたんだな。


 だらしない姿を解除してグレイオス隊長の右太腿を枕代わりにして安眠を享受しているトニア副長の顔色をじぃっと見つめると。



「すぅ……」


 確かに彼の言う通り顔色は完全完璧に元通りとなり、まるで母親と同じベッドで安眠し続ける子供みたいな無邪気な顔で眠り続けていた。


「全く……。ハンナが言った通りここは戦地なのだ。無防備にも程があるぞ」



 グレイオス隊長がそう話すと副長の頭を本当に優しく一つ撫でた。


 その感触がトニア副長の意識を夢の世界から現実の世界に引き戻したのか、彼女が遅々足る速度で瞼を開く。



「グレイオス隊長……??」


「気が付いたか。どうだ?? 傷の具合は」


「傷の具合……?? し、し、失礼しました!!」



 夢現の状態で彼の顔を見上げているがグレイオス隊長の言葉を受け取ると大きな瞳がキュっと縦に見開かれ、飛蝗も参った!! と降参する速度で跳ね起きてしまう。



「も、もう大丈夫です!! 御蔭様で回復する事が……。って、あれ?? 酷い矢傷だったのに回復しているわね」


「俺達が持ち込んだ薬草を患部に塗り込んだんだよ。それから小休憩して今に至るって訳さ」



 不思議そうに己の体を動かして見下ろしているトニア副長にそう話す。



「もう駄目だと思った傷だったのに……。礼を言わせて貰うわ。有難う」


「礼は俺じゃなくて隊長に言いなさいよ。トニア副長が起きるまでずぅっとその場から動かなかったのだから」



 揶揄い気味に言ってやると。



「あ、あ、有難う御座います」


「う、うむっ。隊員の面倒を見るのが隊長の務めだからなっ」



 思春期真っ盛りの初心な若人らしく共に頬をぽぅっと朱に染めてしまった。



「見せつけてくれるぜ。トニア副長、そろそろ最終試練とやらに向かうんだけど……。もう少し休憩は必要かい??」


 部屋のずぅっと奥に見える通路へ向かってクイっと顎で差してやる。


「いいえ、この状態なら満足に動けるでしょう。体内の失われたマナもふざけた濃度のマナの御蔭で全回復しているわ」


「よっしゃ!! それなら首を長――くして俺達の到着を待ち構えているキマイラちゃん達の下に向かいましょうか!!!!」



 景気よく柏手を打つと己の荷物を背負い敢えて明るい声を出してやった。


 この先に恐ろしい怪物が待ち構えており、鋭い牙の一撃によって己の命が絶たれてしまう。そう考えて委縮してしまうのが普通の思考を持つ人間の心理状態だ。


 恐怖、畏怖、絶望。


 負の感情を胸に抱いたまま最終試練に臨めば恐らく俺達はこの世界からその存在を消失させてしまうだろう。


 自分達だけが任務を全う出来ずにくたばるのならまだしも奴等の恐ろしい牙が王都に向かう恐れもある。


 輝かしい命の光を放つ数十万人が住まう王都に響き渡る阿鼻叫喚の地獄絵図を想像すると背筋に嫌な汗が流れてしまう。


 その中にはドナ達の存在も当然含まれているのだ。


 彼女達の生活を守る為、そして俺達を信用して送り出してくれた王都守備隊の連中やゼェイラ長官の期待に応える為にも敗北の二文字は許されない。


 俺と同じ考えに至ったのか。



「「「……」」」



 俺達は新たなる通路に足を踏み入れてから一切言葉を交わす事無く、只々集中力を高め続けていた。


 皆の顔色は程良い緊張感が含まれその目には燃える闘志が宿る。


 気負ってはいない。されど本人も確知出来ない微かな恐怖と不安が残っているという感じか。



「よぉ、相棒。良い集中力だな」


 右隣りを静かに歩く彼の肩をポンっと叩く。


「俺達が負ければ王都に被害が及ぶのだ。否応なしに集中力は高まる」


「ハンナの言う通りよ。ダンも無駄口を叩いていないで集中しなさい」


 俺達の帰りを待っている者達がいる以上、こんな辺鄙な場所で死ぬわけにもいかねぇし。それと何より俺はこの世から去る時は女の子に抱かれたままと決めているんでね。


「仰せのままにっと」


 少しの緊張感と恐怖を溜息と共に吐き出すと、新たに現れた部屋に突入した。



 俺達がこれまで足を踏み入れた部屋は此処に比べれば……。そうだな、大型犬が使用する犬小屋って感じか。


 最終試練が課されるであろう部屋の奥行は相当な距離を有しているのか、入り口付近からは全く見えない。


 大部屋の左右には広大な天井を支える石柱が確認出来、真正面の広い空間には等間隔に灯篭の役割を果たしている松明の明かりが周囲を淡く照らす。


 最終試練に相応しい広さを有する部屋の中で周囲の様子を注意深く窺い続けていると正面奥の暗闇の中から一つの光球が複雑な軌道を描きつつ俺達の下へやって来た。



「あはっ!! ダン!! いらっしゃい!! 待っていたよ!!!!」


 この中性的な声色の光球はモルトラーニか。


「よっ、ちょっと到着が遅れちまった」


「別に構わないよ!! 僕達も色々と準備が必要だったし」


「準備?? 一体なんの事だい??」


 俺の体の周りを忙しなく飛び回る光球に問う。


「それは勿論……。ダン達を迎える準備さ」



 モルトラーニが一際低い声を出すと真の闇が蔓延る天井から三つの光球が俺達の前に舞い降りた。



「ハンナぁ!! 漸く会えたわね!!」


「ダン、貴様はモルトラーニでは無く俺に食われるべきなのだ」


「シェイム!! さっきも言ったけどダンは僕が食べるの!!」



 俺の体を食べる食べない云々よりも、先ずは何をすべきか伝えるべきだと思うのは俺だけでしょうか??



「あ――、御取込み中申し訳無いけど。俺達は一体何をすればいいのかな??」


 俺の体の周りを飛び交う二つの光球では無く、正面奥の宙で佇む一際強烈な輝きを放つ光球に問うた。



「貴様等は最終試練に臨む資格を得て俺達の前に立っている。今は亡き英雄王シェリダンと交わした契約の履行……。そう、貴様等は我々を満足させる為に存在しているのだ」



 ジェイドの冷たい声色が静かな部屋に響くと彼の光球を中心として三つの光球が回り始める。



「満足ねぇ……。それは恐らく無慈悲に与えられる死に抗い、輝かしい生を求めて藻掻き苦しめって事かな」


「その通りだ。さぁ……、狂気と闘志に満ちた饗宴を始めようじゃないか!!!!」



 ジェイドと思しき光球に三つの光球が取り込まれると目を開けていられない程の光が迸り、その光から逃れる為に思わず腕を翳してしまう。


 刻一刻と光が輝きを増して最終試練の間に広がる闇を打ち払い、その光が収まると右腕を元の位置に戻した。



「「「「グルル……ッ」」」」



 両目が暗闇に慣れて来ると俺達の前に思わず首を傾げてしまう巨躯を誇る化け物が静かに佇んでいた。


 全身黒の体毛に覆われ見上げんばかりの体躯を誇り、その巨体を支えるのは常軌を逸した筋力が備えられている四つの足。


 四つ足の獣の体には三つの獅子の頭が生えており、二つは立派な鬣を備え一つは鬣に代わり毛艶の良い体毛に覆われている。


 四つの足の爪先には大地を切り裂く漆黒の爪、三つの頭には神々を砕く牙が生え、更に臀部には尻尾に取って代わって恐ろしい黒蛇の存在が確認出来た。



 これは何かの冗談だ。世界広しといえどあぁんな化け物が存在して良い訳が無い。



「―――――。あ、あぁ――……。うん、申し訳無いけど急用を思い出したから帰ってもいいかな??」



 生命の危機に瀕した生命体が必ず取るであろう危機回避能力を発動しようとするが。



「「「グォォオオオオ――――ッ!!!!」」


「「「ッ!?」」」



 混成獣が雄叫びを放つと体全身が固まり、更に最悪な事に入り口がこの世から消失してしまった。


 こちとらこれまで幾つもの危険な罠と試練を潜り抜けて来たってのにか、勘弁して下さいよ……。何でよりにもよって最後の最後であんな化け物と対峙しなきゃいけないんだよ!!


 分かり切っていた事だけどいざ実物を目の前にすると引き腰になっちまうって……。



「これが俺達の本当の姿だ!!!! 憐れな生贄共よ!! 俺達を心の底から満足させろ!!!!」


 三つの頭の中央。


 ジェイドが真っ赤に染まった瞳で俺達を見下ろして雄叫びを放つ。


「おぉう!! そのつもりだ!! 副長!! ダン、ハンナ!! これが最終試練だ!! 俺達の魂を燃え上がらせ敵を討つぞ!!!!」


「勿論です!! この魂、極限にまで高めてみせます!!」


「ダン!! 集中しろ!! 気圧されれば直ぐに死が訪れるぞ!!!!」


「言わずもがな!! ちゃあんとヤル事はヤリますよ!!!!」


 その姿を捉えた俺達の心は恐怖に染まるが、それを直ぐに解除すると己の武器を手に持ち目の前に聳え立つ恐怖の壁に備えた。


 俺の想像の上を遥かに超える化け物が放つ圧に圧倒されない様、そして恐怖に飲まれようとする心に喝を入れる為にも喉が張り裂ける勢いで戦士の雄叫びを放ち。勝利の光が全く見えてこない絶望的な戦いが今此処に幕を開いたのだった。




お疲れ様でした。


次の御話から混成獣との戦いが始まるのですが……。そのプロット執筆が大変難航している為、投稿が少々遅れてしまう恐れがあります。戦いの全容は勿論頭の中に浮かんでいるのですがそれを文字で表すのに少々苦戦しておりまして……。


一番の難所に四苦八苦している次第であります。


それに加えてしつこい風邪がまだまだ元気良く体の中で暴れ回っているのですよ。倦怠感は取れたのですが喉の痛みが取れなくて……。今日はこのまま眠って体を休息させる事に専念させます。



それでは皆様、お休みなさいませ。

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