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第十話 深夜の審訊

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


週の始まり。


沈んだ皆様の気持ちを少しでも和らげる事が出来れば幸いです。


それでは、どうぞ!!




 人は伝えたい言葉の意味を理解して言葉を発し、それを受け取った者は相手の意思又は真意を咀嚼し理解する。



 会話という名の一連の動作には口から零れ続ける多種多様な単語に連なる、意味の連鎖を理解する必要があると考えています。



 人の頭は理解し、考える力を持っているから会話という高度な行為を行えるのですが……。



 腹を満たして集中力の欠片も見出せない精神状態、且疲労困憊で睡眠不足の状態の体には大変難しい行為であり。


 しかも、食後に提供された心の芯まで溶け落ちてしまいそうな紅茶が登場してしまったから。さぁ大変。



 美しい紅玉色の液体から放たれる馨しい香りが。



『これで、止めだ!!』



 そう言わんばかりに鼻腔と頭蓋内に侵入して体を半ば強制的に弛緩させてしまう。



 流石に他人様の家で二度も眠りコケる訳にはいかず。


 正面と右隣りから寄せられる会話の連鎖を理解しようと。


 そして、此方の首元に恐ろしい巨大な鎌の刃先を引っ掛ける睡魔と人知れず必死になって戦っていた。




「――――。そういった経緯で私は馬術を覚え、空いた時間があれば乗馬に興じているのですよ」


「シエル様の乗馬の技術は……。習い始めた時は、それはもう目を覆いたくなる惨状でしたが。努力の甲斐あってか。今では人前で披露出来る程に成長したのです」



 乗馬ねぇ。


 暇を持て余した貴族のお遊び程度のものでしょう。


 俺とウマ子の阿吽の呼吸に比べれば、天と地ほどの差がある筈さ。



「そう、なのですか」



 欠伸を噛み殺し、粉々に砕いてから飲み込み。


 それを悟られまいと話す。



 やばい……。猛烈に眠たい……。


 気を緩めたら直ぐにでも眠っちまいそうだ……。



 俺の意思は起き続けてこの日常会話に花を添えろと叫ぶのだが。


 体は馬鹿正直に長い瞬きを繰り返し、いい加減に眠れと命令を放つ。



 そろそろ解放してくれないかしら??


 皆が待っている事だし。


 合流時間が遅くなればなる程、要らぬ攻撃を受ける可能性が高くなるのです。


 つまり。


 此処での会話時間と、骨を砕かれる攻撃を受ける可能性には比例関係が存在する。


 強制的に立ち上がって話の腰を折るのは失礼に値するので、どうしたものか……。



「人前で話す内容では無いですよ?? エアリア」


「存じておりますが……。レイドさんの前なら構いませんよね??」


「それは……。まぁ、許容範囲ですね」



 許容範囲。


 つまり、乗馬の技術を得る間に人前では言えぬ失態、失敗が繰り返されたのだろう。


 大変興味を引かれる内容ですが、生憎。時間が無いのですよ。


 明日から始まる新しい任務に備えて早めに就寝したいのです。




 あははと乾いた笑みを浮かべつつ、壁際の柱時計に何気なく視線を送ると。



 もう十時か……。



 体調面を考慮した結果。


 これ以上此処に留まる理由が無いと判断し、会話の合間を縫って声を発した。



「そろそろお暇させて頂きますね。時間も時間ですので」


「あら……。もうこんな時間なのですか」



 シエルさんが時計へと視線を送り、一切取り繕わない自然な表情で驚きの感情を表す。



「楽しい時間は瞬く間に過ぎるものですね」


「お世辞だとしても、有難く頂戴しましょう」



 夕焼けに染まった空の下。


 そろそろ夕食だから家に帰らなければならないが、それでもまだもう少し遊びに興じていたい子供の表情を浮かべるシエルさんに向かってそう話す。



「ふふっ。お世辞ではありませんよ。――――。深夜の道は危険ですので、宜しければ宿泊されていかれては?? 幸い、部屋も空いていますので」



 彼女が背後の窓の外に浮かぶ暗き闇を一度捉え、此方に振り返って話す。



「大変嬉しいお誘いですが、明日から任務が始まりますので」



 本日二回目のお誘いをやんわりとお断りし、静かに席を立つ。



「そう、ですか。では、宿泊はまたの機会という事で」


「えぇ、宜しくお願いします」



 ――――――――。



 ん??


 またの機会??


 と、言う事はですよ?? 再びこのような事情聴取が行われる可能性がある訳だ。



 末端の兵士には拒否権もありませんし、何より。彼女の逆鱗に触れて援助を断られたらそれこそ除隊処分だけじゃ足りない恐れもある。



 お国の為に、働き蟻も勘弁して下さいよと許しを請う程に働かされてしまうだろうなぁ。



 己の変わり果てた姿を想像しつつ肩から鞄を掛け、巨大な食堂を後にして随分と暗い廊下へと躍り出た。




「――――。暗いですね」



 右隣り。


 態々見送りの申し出を買ってくれたシエルさんがそう話す。



「もう間も無く深夜ですからね。いつもは何時頃に就寝されているのですか??」


「普段は日付が変わる零時前後ですかね。仕事が溜まっている時はそれこそ明け方まで書類と睨めっこをしている時もあります」


「はは。その気持は痛い程良く分かりますよ」



 本日、既に体験済みですので。



「レイドさんみたいに頑丈では無いですからね。その日はずぅっと寝不足で苛々しています」



 少しだけむっと唇を尖らせてそう話す。


 こういう感情も面に出すんだ。


 冷酷な一面あると思いきや……。ちょっと意外だな。



「私も体を鍛えたら寝不足に負けない体力が尽きますかね??」



 白のローブの袖を捲り、見ていて心配になる細腕で力瘤を作る。



「その時は是非お呼び下さい。体中の水分が出尽くし、心が真っ白になる程の指導内容を引っ提げて参りますから」


「まぁっ。ふふ……。怖いですね??」



 お上品な笑みを浮かべつつ、黒の瞳で此方を見上げた。



 年相応の明るい笑みが良く似合う。


 この笑みがシエルさんに対して思い抱いている印象をガラリと変化させようとするのですが……。これはあくまでも表の顔。



 裏の顔を直視すべきですね。



「それ位しないと頑丈な体は構築されませんから」



 当たり障りの無い笑みを浮かべ、壁に掛けられた燭台の炎が照らす入り口の扉の前に到着した。



「本日は美味しい食事を頂き、有難う御座いました。貴重な経験でした」


「いえいえ。宜しければいつでもお立ち寄りください。本日以上のおもてなしでお迎えしますので」



 それは胃袋が大変喜ぶ知らせですね。


 ですが、二回、三回ともなるとうちの腹ペコ龍が怒り心頭となり。この街が消失してしまう恐れがありますのでご遠慮させて頂きます。



「それでは、失礼しますね」



 別れに相応しい笑みと会釈を交わし、扉へと手を掛けた。



「レイドさん。御体、御自愛下さいませ」



 シエルさんの美しいお辞儀に倣って此方も頭を下げ。


 随分と冷えた空気の中へと出た。



「ふぅ……。疲れた、な」



 首の筋を解し、大きな溜息を夜空へと向けて放つ。



「まだ此処で気を抜いちゃ駄目だな。宿に帰るまで後少し!! 頑張って歩きましょう!!」



 両頬にパチン!! と手の平を当て。


 此方が放った軽快な音に驚き目を覚ましてしまい。



『貴様!! 何時だと思っているのだ!!』 と。



 顰め面を浮かべる星々の下で移動を開始した。













 ――――――――――。



「――――。宜しかったのですか?? あのまま彼を返して」



 彼が居なくなった虚無の空間の中、エアリアの声が静かに響く。



「えぇ、構いませんよ」


「本当は留めておきたかったのでは?? シエル様のお力があれば、彼をこの屋敷に拘束する事も可能ですのに」


「安心しなさい。彼は……。必ず私の下へと戻って来ます」


「確証が無いのに??」



「確証……。ふ、ふふ……。えぇ、それはもう確固たる確証があるのですよ。私と彼の間には……。誰にも断つ事の出来ない確証が」




 不敵な笑みを浮かべ、無味乾燥な笑い声を放つ。


 その笑みは暗い室内に酷く誂えた様にも聞こえ、見えた。




「確証がある。それはつまり…………。彼が……。運命の子」


「さぁ、それはどうでしょうかねぇ??」



 彼女がそう話すと、上品な足取りで静かな廊下を進む。



「所、で。さり気なく、そして何気なく私と彼との食事に同席していましたけど……。その点に付いての釈明を受け賜わりましょうか??」


「ふふふっ。申し訳ありません。彼の姿を見ているとどうにも自分を抑えられなくなってしまいぃ……。あぁっ。早く部屋に帰って着替えを済ませませんと……」



 頬を染めて下腹部を抑え、何やら形容し難い動きを見せる彼女に対し。



「人前では控える様に。いいですね??」



 呆れ果て、冷酷な顔で彼女を一睨みして己の執務室へと姿を消した。



「畏まりました、シエル様」



 補佐役として相応しい所作で教団の最高指導者を見送ると。



「あぁ、駄目ぇっ。動くと……。不味いですぅ……」



 しんっと、静まり返った廊下の中で途端に表情と姿勢を崩し。


 傍から見れば常軌を逸した量の酒を摂取したのだろうと想像させる足取りで廊下の奥の暗闇へと歩き始めた。















 ◇













 枯れ果て萎んだ体力の種へと本当に最後の火を灯し、そこから得られる活力を得て硬い……。のかな??


 兎に角。地面らしき場所を踏みつつ目的地へと向かう。



 レフ准尉から仰せつかりました情報入手の任は果たして成功と呼べたのだろうか??



 随分と騒がしい音を溢れ出し続けている飲み屋さんが立ち並ぶ道を進みながら、彼女の屋敷で得た情報を整理していると。



「よう!! 兄ちゃん!! お勤めご苦労様っ!!」


「あ、はい。有難うございます」



 飲み屋の明かりの中から陽性な表情の男女数名が出て来た所で声を掛けられたので、丁寧に言葉を返す。



 酔っ払っていますね。


 離れた距離で挨拶を交わしたのに此処迄お酒の香りが届いて来ますから。



「あはっ。おにい――さんっ。軍人さんなんでしょう?? 私達と飲みましょうよっ」



 その男女の中から一人の女性が此方に向かって手招きをする。



「申し訳ありません。もう間も無く任務が始まりますのでまたの機会にお誘い下さい」


「え――。いいじゃん。のも――よ――」



 むむぅっと唇を尖らせる彼女に一つ頭を下げ、再び暗き道を進む。




 いかんな。


 酔っ払いの強襲によって記憶が薄まってしまったぞ……。



 えぇっと。


 得た情報と言えば。


 高価な造りの屋敷、豪華な食事、シエルさんが着用している服装は昨今の女性と変わらぬ服装で。


 白のローブにも特にコレといって可笑しな点は見つからなかった。


 外観はそんな感じで、問題は彼女自身の内面か。



 ん――……。



 光を与える事で人を救う。



 信仰心で世界を救える訳では無いので、恐らく資金面での助力で牛耳ろうとしているのでしょう。


 後は……。そう!! 養子!!


 マリーチア家に養子として迎えられたと言っていたぞ。いかん、猛烈な眠気の所為で頭が働かない。



「…………」


「どうも」



 宿屋の戸を潜り、無言で此方をジロリと睨みつけて来た受付のおじ様へと一瞥を交わし。



 恐ろしい力を持つ者達が使用する大部屋へと向かった。



 皆、起きているかな??


 もう日が変わる変わらない時間だからきっと眠っていると思うけど……。



 千鳥足よりも弱々しい足取りで廊下を進み、扉を開けると。






「よぉっ!! お帰りぃっ!!」



 大変楽な格好でベッドの上に横たわるユウが満面の笑みで迎えてくれた。


 もう間も無く果てる体に大変嬉しい笑みですよ。



 ですが、もう少し布面積の広い服装を着用して下さい。


 視線の置き場に困りますからね……。



「た、只今…………」



 その辺りへ荷物を乱雑に放り。


 ベッドの上へと力無く倒れ込んだ。



 あぁ……。


 此れだよ、此れ。


 硬くも無く、柔らかくも無い。丁度良い塩梅のベッド。


 そして、無臭な枕に顔を埋め……。いや、無臭じゃないな。ちょっとだけいい匂いがする。


 誰の香りだろう。


 匂いの記憶を辿って行くと、左隣りで静かに座っていた彼女が音も無く立ち上がり。



「今から皆さんで情報の共有を開始します。シエル皇聖との謁見で得た情報を全て事細かく教えて下さい」



 人差し指で俺の背を、ツンツンと突きながら眠らせないぞと行動で示した。



「えぇ――……。明日じゃ駄目??」


「駄目です。時間が立てば物が朽ち果てる様に、記憶も劣化してしまいます。新鮮な記憶である今こそ行うべきなのです」



 悪辣ですねぇ。



「辛辣ですわねぇ」



 おっと。


 ほぼ同時に似た意味の言葉を発しましたね??



「レイド様は大変お疲れなのです。休息こそが最善ですわ。そうですわよねぇ?? レイド様っ」



 その通りです。


 もう限界なんですよ。こちとら、数十時間も起き続け、馬鹿みたいに標高の高い紙の山を踏破し、お偉いさんに事情説明を果たして体力がすっからかんなの。


 皆様みたいに心地良い休日を享受した訳ではないの。



 俺は此処から決して動かないぞ!!



 そう言わんばかりに枕に顔を全部を埋め、不退転の姿勢を貫いていると。



「――――――――。ふぅぅ……。起きて下さい」



 あ、これは不味い奴だ。



 長い溜息の後の丁寧語。そして、語尾に含まれている微妙な怒気。


 カエデの声色一つで心情を察する事が出来るのは果たして、幸か不幸なのか。


 いずれにせよ、己の身を守る為に得た処世術とでも呼びましょうかね。



 墓場の中から起き上がる屍の様に、ヨレヨレとした腕の力で上体を起こすと。



「きゃっ」



 背に乗る蜘蛛が嬉しそうな声を放ちつつベッドの上へと滑り落ちて行った。




『さぁ、どうぞ。御話しください』



 まるで夫の粗相による釈明を心静かに待つ恐妻の風貌を醸し出す彼女に対し。



「さて、何処から話したものか」



 垂れ下がろうとする重い頭を首の筋力で必死に支え、拙い記憶を絞り出す様に腕を組みつつ事情説明を開始した。




「最初から話せや」



 俺もそうしようと考えていたのですけども。も――少し、言い方ってもんがあるでしょう??



 重い瞼を必死開けて、彼女の方へ振り向くと。



「あん?? 何見てんのよ」



 もう寝る前だってのに深紅の龍は、美しい丸みが目立つパンをクッチャクッチャと咀嚼していた。



「いや、別に……。そう言えばさ、屋敷に来た??」



 窓硝子に映ったあの恐ろしい姿。


 恐らく幻影だと思われますが一応、ね??



「は?? 何で私がそんな所に行かなきゃいけないのよ」



 ほら、やっぱり。


 疲れ過ぎると人は幻影を見る。うむ、一つ勉強になりましたね。




「おい!! マイ!! それ、あたしの朝飯!!」


「へっ?? 渡されたもんだからてっきり私の物かと……」



 眠い頭に大変宜しく無い喧噪を放つ二人を尻目に。



「……」



 俺の言葉を待ち、ベッドの上でキチンと背筋を正し。寝る前でも藍色の髪が美しい彼女に対して体の正面を向けた。



 もうちょっと優しい表情を浮かべて下さい。


 これじゃあ、俺が悪い事をしたみたいじゃないか。



「ふぅ。じゃあ端的に話していこうかな」


「端的では困ります。詳細に話して下さい」



 口調、こっわ。



「――――――。はい、了解しました。本日、シエル皇聖の屋敷にお邪魔しましたのは午後五時五分前です。そこから……」



 重苦しい鉛色に染まり包まれた記憶の海の中へと腕を突っ込み。


 本日の記憶を手繰り寄せつつ、真剣な面持ちで此方をじぃっと睨む隊長殿へと報告を開始した。



 言葉に、記憶に詰まりそうになると。



「…………」



 ぎゅぅぅっと眉を顰め。



 シエル皇聖の外見、並びに屋敷内で出会った女性達の詳細を話すと更に顔が恐ろしい物へと変化。


 食事の内容に至っては。



「お――お――。一人だけ美味そうなもん食ってぇ。随分と偉くなったもんですなぁ――??」



 外野からずんぐりむっくり太った雀の要らぬ横槍が脳天に直撃した。



 あるがままの内容を話しているだけなのに、どうして様々な角度から睨まれなければならないのだろう。


 甚だ疑問が残りますね。



「――――。そして、宿泊の誘いを丁寧に御断りし。今に至ります」



 右の首筋にチクチクした痛みを与える蜘蛛の攻撃を指先で防御しつつ話し終えた。



「ふむ。成程……」



 隊長殿が細い顎に指を当て、何やら考える仕草を取る。



「レイドは、現実主義的な考えであると理解出来ました。しかし、誰しもが強くない事を覚えて下さい」



「つまり??」



「人は時に何かに縋りたい思いがあるのですよ。それは、宗教、娯楽、異性。様々ですがね」



「まぁ、分からないでも無いけど。宗教に縋っても良くない事ばかりだって」



 枕に後頭部を乗せ、仰向けの状態になってそう話す。



 祈り続けようが、神からのありがたぁい御言葉を待とうが。


 何も得られないのですよっと。無駄な時間を過ごす位なら外に出て、道端に偶々落ちている金でも探した方がよっぽど有意義だよ。



 ――――。



 勿論、拾得物は届けないといけませんからね??


 世の常識です。



「彼女は何に対して信仰心を捧げよと言っていました?? 例えば、シエル皇聖自身なのか。それとも、生物の存在を超越した者なのか」



「あ――。それは聞いていないな。でも、イル教は聖書信仰って聞いた事があるよ」



 あぁ、眠いぃ……。


 頼むからそろそろ寝かせて下さい……。



「聖書信仰…………。その本、図書館に置いてありますかね??」


「さぁ?? 生憎、そういった事は一切興味がないんでね。後、アオイ」


「は、はいっ!! 何でございましょうか!?」


「さっきから無言でお腹を擦り付けて来るけど……。少々痛いので勘弁して下さいっ!!」



 顔面に張り付いていた蜘蛛のお腹をむんずっと掴み、カエデの方へと投擲してやった。



「あ――れ――」


「明日から任務が始まるのですよね??」


「そうだよ。七時前に起床して、ウマ子を迎えに行くから……」



 あぁ、最高。


 もう眠れる……。宙に浮かぶ様な。あの嬉しい感覚が体中を包み、夢の世界へと続く扉に手を掛けた。



「では、任務から帰還後に調査開始させて頂きます。後、アオイ。お尻が当たって痛い」


「んふふ。これが癖になるのですわよ??」



「あぁぁあぁぁああ!! あ、あたしが楽しみにしていたパンも無いじゃん!!!!」


「え、えぇっとぉ……。ほ、ほら!! これなら食べられるでしょう!?」


「食えるか!! お前さんの食い掛けなんて!!!!」



 どうかお願いします、神様。


 祈る神は居ませんけど、静寂を司る神様が居るのなら。是非とも彼女達に裁きの雷を降らせ、罰して下さい。



 眠りを妨げる要因から逃れる様にシーツを頭からすっぽりと被り、いつ何処から襲い掛かって来るやも知れぬ攻撃に備え体を丸める。


 すると、どうだろう。


 あっと言う間に眠気が襲い掛かってくるではありませんか。



 これで、やっと…………。



 体全体を弛緩させると、チクチクした矮小な痛みが頬に発生するものの。



「アオイ、駄目」



 海竜様の有難い御手手が彼女の体を掴んで引っこ抜いてくれた。



「な、何をするのですか!? レイド様は私と共に夜を過ごしたいと考えている筈なのです!! 私の匂いを枕に譲渡しましたし!! 女の香により孟狂った御体で今晩、私のお腹に命を注ぎ……」



 そして、この大変馨しい香りはアオイのだったのか。


 優しくて女性らしい良い匂いだ……。




 ふと湧いてしまった煩悩を地の果てへと葬り去り。


 肺へと新鮮な空気を大量に送り込み、体の奥底から湧き起こる疲労を滲ませて吐き尽くすと。漸く夢の世界へと旅立つ事が出来たのだった。



最後まで御覧頂き、有難う御座いました!!



第二章の『起』 の部分が終了し、次の話でやっと王都から出発します。


次なる任務地での活動を是非とも御覧下さいませ。

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