第百一話 第三の試練 その二 ~読者様達に送る細やかな問い掛け~
お疲れ様です。
後半部分の投稿になります。
今回は趣向を変えて読者様達にも参加して頂けるような形となっておりますので、お時間がある読者様は是非とも彼等に提示された問題を解いてみて下さいね。
「ご、ごめんなさい」
周囲に漂う冷たい空気の中、グレイオス隊長の大変たどたどしい声色が虚しく響く。
「謝罪は不要です。有無を言わさずに叩き込みますので」
『時代は変わっても女性の力は健在だな。では続いて三問目を問うぞ』
「えぇ、いつでもどうぞ」
トニア副長が死んだ魚の目を浮かべると宙に向かって一つ小さく頷いた。
『三問目には時間制限を加える。問題文を聞き終えてから十秒以内に答えよ』
ここに来て制限時間?? 今し方行われた夫婦の絡みがシェイムの機嫌を損ねてしまったのかしらね。
『では問うぞ。人が一時間歩けば凡そ四ジュルツ程度進む。それを鳥の歩行速度に置き換えるとほぼ半数の二ジュルツとなる。ある街に巣を作っていた鳥が九ジュルツ離れた街に新たなる巣を作ろうと画策して移動しようとしている。さて、その鳥が隣町に移動する時間はどれくらい掛かるだろうか。貴様が凡そ考え得る範囲で答えろ』
何だ、超簡単な問題ぃ……。
「ッ!?」
簡単な数字の問題かと思いきや、最後の最後にとんでもねぇ罠が仕掛けられている事に気が付いてしまった。
ち、畜生!! だから時間制限を加えやがったのね!!
頼むぜ!? 副長!! 引っ掛かってくれるなよ!?
「欠伸が出る問題じゃない」
ほっ、良かった。巧妙な罠に気が付いてくれたのね。
「答えは四時間と三十分よ」
「ちが――うっ!!!!」
思いっきり罠を踏んだ答えが彼女の口から出た刹那についつい叫んでしまった。
『はは、ダンが叫んだ通り不正解だ』
「そんな馬鹿な!! その九ジュルツの単位は知らんが、鳥が一時間歩いたのなら二ジュルツ進んで……。四時間と三十分歩けば丁度九ジュルツじゃないか!!」
グレイオス隊長が辛抱堪らんといった感じで宙に向かって叫ぶ。
『ククッ……。貴様も同じ考えに至った様だな。ダン、正解を述べてみろ』
「いいか?? これは問題文の中に罠が隠されているんだよ。数字に着目するんじゃなくて、最後の文。つまり 『貴様が凡そ考え得る範囲で答えろ』 に着目すべきだった。考え得るって事はその鳥がどのようにして移動するのかを想像しろって意味だ。鳥の姿をよ――く考えると……」
「――――。ちっ、鬱陶しい問題だな」
俺の考えを汲んだハンナが舌打ちを放ちそこに居る筈の無い幻影を睨みつけてしまった。
「そういう事さ。ジュルツは現代で言えばキロに当て嵌められるだろうから。答えは鳥の飛ぶ速度をジュルツに換算して……。凡そ十三分程度って所か」
『ふむ、まぁ妥当な線だな。さぁこれで貴様等には後が無くなったぞ』
思わず背の肌が泡立ってしまう恐ろしい声色が頭の中に響く。
「ダン、申し訳無い」
「謝らなくてもいいって。次の問題を答えれば良いんだからさ」
親犬に叱られた子犬みたいにシュンっと落ち込んでいる彼女の右肩をポンと軽快に叩いてあげる。
『ほぅ?? 気負ってはいないようだな??』
「外見上はそう見えるかも知れねぇけどよ。実は心臓ちゃんがキャアキャア叫んでて五月蠅いんだよ」
俺が不正解を導き出したのならこの四名は仲良く揃って向こうの世界に旅立っちまうし。
責任の重さが双肩に圧し掛かり今にも圧し潰されてしまいそうですもの。
『ここに至るまで貴様等の様子を窺っていたが……。ダン、貴様は他の者と違って中々に頭が切れるようだ』
「褒めてくれて有難うよ。それで?? 最終問題とやらを聞かせてくれるかい??」
『俺は賢い奴が好みなのだ。貴様がこの試練を通過する事を願うぞ』
お前さんは好みかも知れないけど、俺は普通に女の子ちゃんが好きだからあしからずっと。
『これが最終問題だ。ここに十個の容器がある。容器の中には十粒の薬が入っており、その重さは十ムラン』
「よぉ、シェイムちゃん。そのムランって単位は現代で言えばグラムに当て嵌まるのかい??」
問題を提示されている途中に聞き覚えの無い単位が含まれていたのですかさず問うてみる。
『そのグラムという単位を知らないが……。重さの単位だと捉えて貰って構わん』
「そっか有難うね!! それじゃあ続きをどうぞ」
『十個の容器の中にはそれぞれ十粒の薬が入っておりその重さは一粒十ムラン。十個の容器は丁寧に保存されていたのだが、薬師の不注意によって十個の容器のいずれかにたった一つの猛毒の薬の粒が混入。 容器の薬が全て汚染されてしまい、薬の粒の重さが全て一ムラン減ってしまった。秤を使用して十個の容器の中から猛毒の薬が混入されて汚染された一つの容器を探せ。秤を使用して良い回数は一回のみ。これが最終問題だ』
ほほぅ、こりゃまた頭を使いそうな問題ですなぁ。
「ん――……。猛毒の薬が混入されていない容器の重さは百ムランで、猛毒が混入された容器の重さは九十ムランでいいんだよね??」
『その通りだ』
「続いての質問です。猛毒が含まれた薬の粒は九ムランでぇ、正常な薬の粒は十ムラン。これで変わり無いよね??」
『ダンの話す通りだ』
「これが最後の質問!! 容器を開けて薬の粒だけを量る事も可能なのか。そしてその秤の形は天秤型みたいに左右に皿が付いている奴なのか、それとも一つの受け皿の秤なのかを教えて!!」
『容器は自由に開けても構わん。そして秤は一つの受け皿で重さを量る形だ』
よっしゃ!! これで解答に必要な素材は全て揃った訳ですね!!
後は間違いを起こさない様、慎重に複雑に絡み合った糸を解いて行きましょうか……。
「い、いやいや。たった一つの秤でしかも一回しか測れないのにどうやって毒薬が混入された容器を見付ければいいのだ……」
グレイオス隊長の諦めかけた重い声色が耳に届く。
「それを答えるのが俺の仕事なのさ。ん――……。薬の容器は十個でぇ、その中に入っている薬の粒は合計で百個だろ??」
この問題で重要なのは恐らく薬の粒を一纏めにした容器に着目するのでは無くて、薬の粒の個数に着目すべき所だよな。
秤を使用して良い回数は一回。
秤に容器を乗せて重さを量ったらとてもじゃないけど一度だけじゃ毒入りの瓶を発見出来ないし……。この一度切りの好機がそれを如実に表している。
さぁって……。十個の容器の中から毒入りの容器を見付ける方法を考えるとしますかね!!
静かに目を瞑ると石畳の上に座り込み、一人静かに集中力を高めて目まぐるしい勢いで頭を回転させ始めた。
~この先に解答が書かれていますので御自身の力で解きたい方はここで止まって下さいね。~
たった一回だけ許された秤の使用。
これを無駄にしない為にも容器では無くて。薬の粒を丁寧に分けて量る必要があるんだよな??
『問題はその分け方だ』
百個の薬の粒を全て秤に乗せると、秤は九百九十の値を示してくれる。では適当に選んだ容器の中から薬の粒を集めて秤に乗せるとどうなるのか??
それは不明だ。
何故ならどの容器に一ムランの質量を減らした毒の粒が混入しているのか分からないのだから……。
『さぁどうした?? ダン。降参か??』
「ば――か、今懸命に考えている最中なんだよ」
頭の中に響いた声に対して目を瞑ったまま答えてやる。
「ダン!! 頼むぞ!! お前の答えに俺達の命が掛かっているのだから!!」
グレイオス隊長の悲壮感溢れる声が鼓膜を揺らす。
それは重々承知していますよっと。俺はこんな所で死ぬ訳にはいきませんので。
先程も仮定した通り、要は薬の粒の分け方に着目しなきゃいけない。
「……っ」
静かに目を開くと石畳の上に無造作に転がっている小石を目の前に並べて行き、これを薬の容器として仮定していく。
十個の容器から薬の粒を一つずつ取り出して重さを量ると……。九十九ムランになるよね??
正常な薬は重さが十ムランで、毒薬は九ムランなのだから。
この数を増減させたらどうなる??
物は試しじゃないけども、並べている小石よりも更に小さな小石を集めてその下に並べて行くと…………。
「――――。にしっ!! へへ、やったぜ!!」
目の前に漂っていた特濃の濃い霧がパァァっと晴れ渡り、その先に待ち構えているであろう正答ちゃんが満面の笑みを浮かべて俺の答えを祝福してくれた。
ふぅ――、時間は掛かったけど何んとか正解にこぎつけましたね!!
「何!? 本当か!?」
「あぁ、安心しなって。完全完璧に答えを見つけたからよ」
静かに立ち上がりお尻ちゃんに頑張ってしがみ付いている土埃を払うと、誰も居ない宙を見つめてこう答えてやった。
「十個の容器の中に紛れた毒入りの容器。それを見付ける為には、容器から取り出す薬の個数に着目しなきゃいけないんだ。十個の容器に数字を振り分けると仮定する。一の容器からは一粒、二の容器からは二粒、三の容器からは三粒……、そして十の数字の容器からは十粒取り出してその全てを秤の上に乗せる。そうするとぉ??」
「――――。成程!!!! 薬の粒が全て正常な場合、取り出した薬の粒の総数は五百五十ムランだけど、毒入りの容器に入っていた薬の粒は一ムラン減っているからその数に変化が現れるのね!!」
俺の答えを聞いた刹那にトニア副長が明るい声色を発す。
「その通りさ。一の容器が毒入りなら一ムラン減って五百四十九。二番の容器が毒入りなら五百四十八、三番の容器が毒瓶なら五百四十七。ちゅまり、毒が入っている容器の数字の数だけ重さの総量が減っちまうのさ。そうだろ!? シェイムとやら!!!!」
これが完璧な答えだ!!
そう言わんばかりに宙へ向かって人差し指をビシッ!! と指してやった。
『ふ、正解だ』
「よしゃぁぁああ!! やったぜ相棒――!!!!」
嬉しさの余り未だ難しい表情を浮かべている彼の背に抱き着いてしまった。
「止めろ!! 気色悪い!!」
速攻で俺の腕の拘束を外して俺の間合いから距離を取ってしまう。
んもぅ……。こういう時位は大目に見てよねっ。
『やはり貴様は俺が思った通り素晴らしい思考の持ち主の様だ』
「お褒めに預かり光栄で御座います。んで?? 二問正解したけどこれからどうすればいいんだい??」
『貴様達は第四の試練に挑む資格を得た。第四の試練は今まで以上に苛烈となるが故、心して挑むがいい』
シェイムの声が頭の中に響くと俺達の真正面に新たなる入り口が出現。
『さぁ進むが良い。我々はこの先で待っているぞ……』
意味深な声色を最後に彼の声はぷっつりと途絶えてしまった。
「よし!! 行くぞ!!」
「ふぅ――。お次が第四の試練、ね。一体どんな課題が待ち構えているのやら……」
興奮冷めやらぬ歩調で進んで行くグレイオス隊長の背にふぅっと溜息混じりにそう言ってやる。
「今まで以上に苛烈となると言っていたからこれまで通りに課題を提示する様な試練では無い可能性があるわね」
「あぁ、恐らく単純な力を示せという形だろうな」
げぇっ、そっち方面は苦手なのでちょっと御遠慮願いたいのが本音だ。
意気揚々とする二人に対し……。
「何だ!! それは俺が得意とする形では無いか!!」
基。
意気揚々としているのは三名でしたね。
「脳まで筋肉に染まったお前さんの出番じゃないか。期待しているぜ?? グレイオス隊長っ」
「ダン!! 一言余分だ!! 俺の頭は筋肉で出来ている訳じゃない!!!!」
あらそうぉ?? 傍から見ても全身筋肉で形勢されている様に見えますけどもっ。
「はいはい、聞こえていますから叫ばなくても結構ですよ――っと……」
意気揚々と進んで行く三名に対し、若干俺一人だけ大変重たい足を引きずりながら新たに現れた通路に向かって進んで行ったのだった。
お疲れ様でした。
先日の後書き通り、四川ラーメンを食しに行ったのですが……。まぁ人が多いのなんの。
どういう訳か普段の数倍以上のお客さん達が並んでおり、食券を買うまでに三十分以上待ってしまいました。
ですが、スマホをポチポチと弄りながら待機したお陰か将又空腹の所為なのか。四川ラーメンを口にした瞬間いつもよりも数倍以上の効用を得られました。
豚骨ベースのピリ辛のスープに良く絡む麺を啜れば脳が蕩け、しっかりと味が染み込んだチャーシューを口に含み。その肉汁をおかずに米を食す!!
最高の昼食を摂った後、生活必需品を購入して帰って来た次第であります。
本日も気分良くお出掛けをしたいのですが……。また風邪をぶり返したので大人しく過ごそうかなぁっと考えていますね。読者様達も風邪を罹患しない様に気を付けて下さいね。
後半部分の投稿をする時、ふと総合評価ポイントを確認しました所……。な、なんと!!
総合評価が千ポイントを越えているではりませんか!?!?
余りの衝撃に思わず。
「――――。え??」 と。
変な声が口から零れてしまいました。
皆様の温かな応援のお陰で連載が続けられている事を再認識した瞬間でありました。
そして、ブックマーク並びに評価をして頂き有難う御座います!!
読者様達の温かな応援が執筆活動の励みとなり嬉しい知らせとなりました!! これからも連載を続けさせて頂きますのでどうか温かな目で見守って頂ければ幸いです!!!!
それでは皆様、お休みなさいませ。