第百話 第二の試練
お疲れ様です。
本日の投稿なります。
二十年以上熟成させた人肉をグッチャグチャに圧し潰して煎餅擬きを制作する悪魔の様な部屋から新たなる通路に侵入すると今まで閉塞感を覚えなかった広さの通路に変化が現れた。
二人並んで進めば隣で歩く人物の衣服が体の側面で擦れ合い、運動によって生じる小さな呼吸音が確実に鼓膜の奥へと届く。
触れ合う衣服から伝わる相手の生の温もりと心の温かさ。
そんな絶妙な距離感が実に心地良い。
この通路の狭さを大袈裟に言うなれば恋人同士が雰囲気を盛り上げるのに適した横幅って奴だな。
物は試しって訳じゃないけども、左隣を歩いている相棒の肩に向かってさり気なく左肩をピタりくっつけてやると。
「……」
彼はさも面倒くさそうな表情を浮かべて歩みを早めてしまった。
折角俺が雰囲気を盛り上げてやろうとしてやったのに……。全く、これだから四角四面の白頭鷲ちゃんは困るぜ。
「……っ」
念願叶って恋人同士になれた男女。
初めてのお出掛けで自分の気分が盛り上がるも、どうしたらいいのか分からない女子の心情を醸し出して彼の後を追い。
そして今度は先程よりも強力に体の側面を密着させて手を繋ごうとしたのだが……。
どうやら初心な彼は人前でイチャイチャするのは苦手な様ですね。
「それ以上俺に近付いてみろ。この剣で貴様の肩口を切り落とすぞ」
左の腰からスゥ――っと剣を抜剣すると剣身をぎらつかせ、殺意の籠った瞳で俺を睨みつけやがった。
「も、もぅっ!! 初恋が成就した女の子が頑張って手を繋ごうとしているんだよ!? その気持を汲んでやるのが男の子の責務なのにっ!!」
敵ならまだしも味方に命を断たれてしまうという情けない逸話が後の世に伝えられる前に彼から距離を置いて叫んでやった。
「この非常時にふざけた思考を持つ貴様の頭の中が俺には理解出来ん」
「例え心を分かち合った夫婦同士でも相手を完全に理解出来るのは不可能さ。だけど、この不可能が面白いんだな。相手の心を、考えを理解しようと努力するその力が糧となり肉となる。つまり、究極的に言えば人生は人の心を理解し続ける道なのさ」
自分自身を鍛え抜く為に俗世界から離れた修行者や仙人等々、よっぽど酔狂な者で無ければ他者と関わり合わないのは不可能に等しい。
裏切り、差別、婚姻。
人生の中で起こり得る他者との間に生じる出来事によって人は時に苦しみ、時に落胆し、時に歓喜する。
他者を完全なまでに理解していれば負の出来事のみを回避して自分に都合の良い出来事ばかりを享受出来るのだが、そうは問屋が卸さない。
他者との僅かなすれ違いが悲劇を生む場合もあれば思いもせぬ僥倖に出会う可能性もあるのだから。
この相互理解という難題を自由自在に操れれば人生はより豊かになるのだが……。
自分は自分であり、他人は他人であるという一種の境界線を取り外さなければならない限りそれは永遠に解決出来ない課題だ。
しかしそれでも僅かな可能性は残されている。
人は他者を知ろうとして藻掻き苦しみ、他者は相手を知ろうとして努力を惜しまない。その双方向性の力が衝突すると小さな光が生まれる。
そう、相互理解の可能性という輝かしい光だ。それを人は懸命に輝かせて今日も生きて行く。
だから面白くて止められねぇんだよな、人生って奴はさ。
「貴様と俺の考えは交じり合う事は無いから永遠に理解出来なさそうだぞ」
「それでいいんだよ。大切なのは相互理解の努力を絶やさぬ事だって」
ぽっかりと空いている彼の右手をさり気なぁく掴もうとしたのだが。
「ふん。そんな下らん努力に労力を割くのなら俺は自分自身の力を更なる高みに昇らせる為に使用するぞ」
俺の考えを完全に見切ったハンナの右手が空を舞う燕もビックリ仰天する速度で躱してしまった。
うふふ、ほぉら。口では辛辣は事を言っていますけど俺の考えを理解しているじゃあありませんかっ。
「喧しいぞ、ダン。ここは敵地の真っ只中だ。緊張感を持て」
少し後ろからグレイオス隊長のお叱りの声が届く。
「私は相互理解という言葉に興味を持ったわ。これからの長い人生、私達には数えきれない程の出会いがある。その出会いの中で途轍もない数の相互理解を繰り返して相手を理解しようと努力する。それでも他者を理解出来る事は不可能なのだけれども……、理解しようとしただけ素敵な光を生み出すのよ」
トニア副長がいつもとは真逆の柔らかい口調でそう話すと。
「……」
「ふぅむ……。今の所問題は無いな」
周囲を警戒し続けている鉄の兜へ向かって口調と同じく柔らかい視線を向けた。
ははぁん?? 成程ねぇ……。
「よぉ、隊長。副長が理解しようとして努力しているんだけどお前さんはどう応えるつもりだい??」
普通の生活を送り続けているのならまだしも今俺達は死と隣り合わせな非日常生活の中を生きている。
こういうのは要らぬお節介かも知れないけどさ、想いを伝え終えるまでに命を枯らしてしまったら悔やもうにも悔み切れないだろうし。
「は?? あぁ、さっきの話か。長い間隣に居てソイツを見続けていると朧な真理が見えて来る気がするが、それはあくまでも分かった気がするだけ。所詮俺達は別個の生き物だから相手を理解するのは無理ってものさ。それに時間を割くのなら俺は己自身を鍛える事に時間を割くぞ!!」
残念ですね、副長。彼は俺の相棒と同じく女性という生き物を理解する気は無いようだ。
そんな下らんものよりも俺にはこっちの方が大事と言わんばかりにムンっと胸を張って両腕に力瘤を作る所作を見せてしまった。
「そうですか。それは何よりですねっ」
「むっ?? どうしたトニア副長。少し口調が尖っているぞ」
「隊長の頭の中身が空洞だから理解出来ないのですよ。あ、失礼しました。出来ないじゃなくてする気が無かったのですよね」
「う、うん……。分かったから睨むの止めよ??」
「あはは!! 由緒正しき王都守備隊の隊長が一人の女性にたじろいでどうしたんだよ!!」
一人の女性に問い詰められている一人の男性の姿を捉えると思わず陽性な笑い声が口から溢れ出てしまった。
「や、喧しいぞ!! お前だって副長の怖さを知っているだろう!?」
そりゃあ勿論。あの大食堂での大立ち回りを見たら容易に理解出来るさ。
「怖さの本質に目を向ければ……。多少は怖く無くなるんだけどなぁ??」
ケラケラと笑いながら副長の想いに援護を送ってやる。
「怖さの本質?? つ、つまり漆黒の闇の深淵を覗き込めというのか!? そんなの無理に決まっているだろう!? 覗いた瞬間、俺に恐ろしい刃が向けられるかも知れないのに!!」
ば――か、その深淵に本当に温かい光が存在するんだよ。俺達はその光を追い求めているんじゃないか。
お節介ついでにもう少し意味深な言葉を投げ掛けてあげましょうかね。
「お前さんは本当に……」
隊長と副隊長の心の障壁を取り除こうとした刹那。
『――――。楽しそうな会話はそこまでにして貰いましょうかね』
「「「ッ!?」」」
再び頭の中に直接言葉を叩き込まれた感覚が広がった。
「っと!! 今度はあんたが試練を担当するのかい??」
狭い通路の中で互いの死角を消す陣形を取ると宙へ向かって言葉を放つ。
『そういう事。あんた達はここで死んじゃうかも知れないし、無駄かも知れないけど一応自己紹介をしておくわ。私の名前はランレルよ』
野太い声のジェイド、中性的な声色のモルトラーニ、そして万人が女性の声色だと判断するランレル。
聞いた話の通りキマイラという滅魔は複数の人物の集合体のようだな。
「宜しくぅ!! それで?? 俺達は一体何をすればいいんだよ」
『今からそれを説明する所だったのよ。微妙な顔立ちで今一パッとしない顔の男』
確かに俺の顔は上でも下でも無く、びみょ――な位置に属する御顔ちゃんだけども。もう少し言い方ってのがあるんじゃないのかな。
優しいダンちゃんでも傷付いちゃうゾ。
「言い過ぎだぞ!!」
取り敢えず抗議の声を宙に出しておいた。
「まぁそれは一理あるわね」
「イカツイ訳でも無く、凛々しくも無く。優しそうな顔だけが取り柄だもんなぁ」
「ふっ、的を射た発言だな」
本来であるのなら庇ってくれる筈の仲間達からも辛辣な言葉が出て来る始末。
「うっせぇ!! 生まれつき美男子で育って来たお前さんには俺の苦労が分からねぇんだよ!!」
俺の右隣りで警戒を続けている相棒の肩をまぁまぁ強い力で叩いてやった。
「貴様……。今の一撃覚えていろよ」
「残念でした――。直ぐ忘れますぅ――」
『はぁっ……。顔も良ければ声もイイッ。私好みの美男子よねぇ……』
相棒といつも通りのやり取りを行っているとランレルの悦に入った声が頭の中に響く。
「お――い、姉ちゃん。相棒の顔をじっくり眺めたいのは分かるけどさ――。早い所次の試練とやらの説明をしてくれるかな――」
『あ、あぁ、そうね。では今から第二の試練の説明をしてやるわ』
そりゃどうも。
時間が出来ましたのなら相棒の顔を飽きるまで眺めていても構いませんからね。
『今から及第点の顔立ちの男と、筋肉だけしか取り柄の無い男……』
「「おい!!!!」」
今度はグレイオス隊長と一緒にランレルの言葉に噛みついてやる。
『そして微妙な大きさの胸の女の三人は装備と荷物を置いて通路の奥へと進みなさい』
『微妙な大きさ』
その言葉を受け取った刹那に狭い通路に物凄い殺気が溢れ出てしまった。
彼女が生み出す殺気は物理の力を帯びている様で??
「ひゃぁっ!?」
肩口からピリっとした痛みが全身を駆け抜けて行き再び女々しい声を出してしまった。
「ふ、副長。落ち着け。敵は我々から離れた位置に居るのだから」
「私は落ち着いていますよ」
いや、何処からどう見ても殺気ムンムンじゃん。人を殺す目を浮かべているじゃんか。
『あはは!! 御免なさいね――。私ぃ、思った事を素直に言葉に出す質だからさぁ』
「そう、気が合いそうね。私も思った事を素直に言う方だし」
『あんた何かと気が合っても嬉しくないわよ。私はぁ……、ハンナと気が合いたいな――』
ほぅ?? これはひょっとしたら好機なのかも。
彼女を口説き落とせば第二の試練とやらを受けずに済みそうだし。
『ハンナ。今から彼女を口説いてくれよ』
ランレルの指示通り足元に荷物と装備を置き終えると相棒にそっと耳打ちをしてやる。
「はぁ?? 何故俺がそんな下らん事をせねばならないのだ」
『馬鹿だな、よく考えてみろよ。お前さんが口説き落とせば俺達は試練を受けなくても済むだろう??』
「それは貴様の主観だろう」
『頼むって!! 一度だけ!! この通りだ!!』
体の前でパチンと両手を合わせて相棒に深々と頭を下げてやると。
「コホン……。あ、あ――。ランレルといったか。少しだけ話をしないか??」
ハンナが本当に渋々といった感じで光明の第一歩となる声掛けをしてくれた。
『エ゛ッ!? いいの!?』
「無論だ。貴様はこの地で生まれたのか??」
『ううん!! 生まれた地は全然違う所だけどさ、大昔にこの大陸で戦が起きていてね?? その怨嗟につられる様にやって来たのよ!!』
「ほぅ。英雄王シェリダンが活躍していた時代か」
『そうそう!! 他の連中は彼との戦いを楽しんでいたけどさぁ、私は全然楽しく無かったのよ』
「それは何故だ??」
『だって全然好みの顔じゃ無いもん。契約の履行とやらで向かって来る連中はどいつもこいつも顔よりも筋肉に心血注いでいる連中ばかりだったし……。でも!! 今回は違ったのよ!!』
おひょ――!! 良い感じに会話が進んでいるではありませんか!!
このままいけば俺の狙い通り試練を受けずに済むかも!?
『スっと流れる鋭い眉に整った顎先。鼻の中央を真っ直ぐに通る鼻と背筋がゾクっとしちゃう切れ味鋭い目線っ。はぁっ、見れば見る程美男子よねぇ……』
「人は見た目では無いと俺は教わったぞ」
『そりゃそうだけどぉ。私はぁ、美男子に弱いのっ。ねぇ!! 良かったら私のモノにならない!? そうしたら今回の件は履行した事にしてあげるから!!』
おっしゃ!! 来た来たぁ!!
相棒!! 嘘でもいいから今は取り敢えず頷いておけ!!
意味深な視線をハンナに送ってやる。
「それは……。貴様と共に過ごすという事か??」
『そうよ!! 生殖機能は無いけど男を喜ばす術は知っているから!!』
「それは無理な話だな。俺にはこれから共に生きて行こうと誓った女性が居る。その者を裏切る事は出来ん」
ば、ば、馬鹿野郎が!! 何で馬鹿正直に答えるんだよ!!
「テメェ!! 据え膳食わぬは男の恥って言葉を知らねぇのか!!」
思わず声を荒げて大馬鹿野郎の尻を蹴飛ばしてやった。
『へぇ……。じゃあ私しか目に入らない様に調教してあげなくちゃ。そこの有象無象の三人。これから第二の試練を与えるからさっさと前に進みなさい』
先程の陽性な声とは打って変わってドスの利いた女性の重い声色が頭の中に響く。
おっかない口調な事で……。
直接頭の中に言葉をぶち込まれているので彼女の表情は窺えぬが、恐らく悪鬼羅刹も一歩たじろいでしまう程に醜く歪んでいる事だろうさ。
「へ、へいっ!! 了解しやした!! 隊長、副長。言われた通りに進もうぜ」
「あぁ分かった」
荷物と装備を地面に置いた二人と共に一応の警戒心を持ったまま進んでいると。
『そこで止まりなさい』
相も変わらず恐ろしい声色が頭の中で響いたのでその指示に従い慎重な足取りを止めた。
こんな何も無い所で足を止めて何をするのだろう??
特に変わった様子が見受けられない普遍的な狭い通路を見渡していると俺と同じ考えに至ったのか。
「「……」」
グレイオス隊長とトニア副長も周囲の様子を静かに窺っていた。
『では今から第二の試練の内容を伝えるわ。ハンナ、ずぅっと先の壁の突き当りの壁の上方にある的が見える??』
的??
ランレルの言葉を受け取り、淡い橙の光に照らされた壁の上方に視線を送ると。
「あぁ、見えるぞ」
小指の爪程度の本当に小さな円形の的と思しき物体が確認出来た。
『ハンナはそこから一歩も動かずにあの的を射貫きなさい。そして残る三名は……』
俺達は??
恐らく矢を射る彼を応援してあげなさいという優しい指示を下すのでしょうね。
「ハンナ!! よぉく狙って撃てよ!!」
相棒から俺達を離した理由はそういう事なのだろうから。
意思と感情を持つ生物は自分に都合の良い結末或いは考えを持つ様で?? その法則に従い彼に向かって声援を送ったのですが……。
現実は理想とは真逆の冷酷な真実を突き付けて来やがった!!
「どわぁっ!?」
「むぅっ!?」
「何よこれ!!!!」
俺達が佇んでいた場所の狭い通路の壁が左右から突如として襲い掛かって来たので、圧し潰されない様に両手両足で石作りの壁を押し返してやった。
『ククク……。さぁ、ハンナ。彼等が懸命に抗っている間に的を射貫かないと彼等は壁に挟まれて圧死してしまうわよ??』
ち、畜生!! 卑怯にも程があるだろう!?
「お、おっめぇぇええ――!!!! ハンナぁ!! 早く的を射貫けよ!!」
両手の力だけではとてもじゃないけど岩の強力な圧を押し返せないので片方の壁に背を預け、両足の力を死ぬ思いで稼働させて常軌を逸した圧に抗ってやるが……。
「畜生!! 全然押し返せない!!!!」
しかしそれでも壁は俺達の体を圧し潰そうとして躍起になり刻一刻と狭まって行く。
「く、くぅ!! 何て圧だ!!」
「こ、このままじゃ……。圧し潰されて……」
一般人よりかは数倍も力強い三名の力を以てしても壁の圧を抑え込む事は叶わず、俺達の御先祖様が静かに暮らす世界へ旅立つ秒読みが始まってしまった。
「ふん……。弓を使用するのか」
ハンナが俺の弓を手に取り、不慣れな所作で弦をゆるりと引く。
「お、おい。ダン。ハンナは弓を使用した事があるのか??」
その様子を捉えたグレイオス隊長が鎧の合間から大粒の汗を垂れ流しながら問うて来た。
「訓練で使用した事はあると聞いたけど……。日常生活や戦いの中では使用した事無いぞ……」
鍛える事が大好きな白頭鷲ちゃんは、時間を見つけては剣を振っているし。傍から見ても彼は三度の飯より剣術が大好きだと窺える。
俺がたまぁに剣を振っていると頼みもしないのに横から口を出して来るのだが、弓の練習をしている時は一切口を出してこないし。
「う、嘘だろ?? まるっきりの素人があれだけ離れた距離にある的に矢を当てるなんて不可能じゃないか……」
兜の奥の瞳が絶望の色に染まって行く。
「い、今は相棒の力を信じるだけさ。や、やい!! さっさと矢を撃てよ!! これ以上通路が狭まったら的に当たらなくなっちゃうでしょう!?」
己の輝かしい命を守る為、全身の筋力を最大稼働させながら叫んでやった。
「喧しいぞ。ふむ……。弓を持つのは久しいからな」
ハンナが矢を手に取り、中々に御立派な筋力を稼働させて強く弦を引いて的に狙いを定めた。
「先ずは一射……」
そして勢い良く弦を放つと鏃が空気の壁を鋭く切り裂きながら美しい放物線を描き、俺達は心急く思いで矢の軌道を見守った。
「――――。ふ、ふっざけんな!! 全然的に届いていないじゃねぇか!!!!」
彼が放った矢はそれはもう感嘆の声が漏れてしまう程の美しい放物線を描いて俺達の頭上を通過して行ったのだが……。
的の随分と手前に着地してしまい鉄製の鏃は美味しそうに地面の砂を食んでいた。
「ダンの言う通りだ!! ちゃんと的を狙え!!」
「五月蠅いぞ。久々に弓を手に取ったのだ。多少の誤差は致し方ないだろう」
あ、あれが多少!?
「テメェの目は節穴かよ!! 多少処か可能性を見出せない位の残念な飛翔……。うぐぇっ!?」
相棒の横着を咎める為に一際強く叫ぶと壁の圧が更に増してしまい、通路の幅は人がやっと通れる程の狭さに変化してしまう。
やっべぇ!! こ、このままじゃ本当に圧し潰されてしまうって!!
「ハ、ハンナちゅわん。わ、悪い事は言わねぇ……。さっさと的を穿て。そうじゃないとこの通路が俺達の血と臓物で溢れ返っちまうぞ……」
これ以上はもう無理!! 全身全霊の力で押し返してはいるが、筋力の筋の一本一本が震えて変な音が鳴っているもん!!!!
熱き脂汗が頬を伝い、惨たらしい死を想像した冷たい汗が背を伝って行く。
「三人の臓物を回収するのは手が折れそうだな」
一人だけ生き残る事を想定するな!!!!
「ふぅ――……。よし、この一射に全てを賭す」
ハンナが集中力を高めて魔力を上昇させると一陣の風が舞い上がり狭い通路に心地良い微風が駆け抜けて行く。
「シェファ、技を借りるぞ」
シェファ?? 俺の体を性的に食らい尽くした彼女の名をここで出すのは一体何故かしら??
彼を中心にして吹く風が一層強まり、目も開けられない程の砂塵が俺達を襲う。そして全身に纏っていた風を矢に集約させると腹の奥にズンっと重く響く魔力の圧が放たれた。
「舞い上がれ風よ。そして射殺せ、風の矢よ!! 風切烈破!!!!」
お、おぉ!! あの技はシェファが五つ首に対して使用した奴じゃないか!!
矢に風の力を纏わせて勢い良く弦を解き放つと鼓膜を鋭くつんざく切り裂き音が鳴り響く。
そして先程のふざけた放物線とは違い、風の力を纏った矢は的へ向かって一直線に飛翔。
「ふむっ。まぁまぁな精度だな」
彼の思い描いた通りの軌道を飛翔した矢は見事的を射貫き、的が砕け散る乾いた勝利の音が通路に響いた。
『あ、はぁっ……。やっぱり素敵ぃ』
「ランレルさんよぉ!! 注文通り的を射貫いたぞ!! は、早くこの罠を解除してくれ!!」
相棒の勇士を捉えて悦に浸っている一人の女性に向かって叫んでやる。
『あ、御免なさいね。忘れていたわ』
そのおっちょこちょいで三名の命が失われてしまうのですよ!?
「ふ、ふぅ――!!!! 助かったぁ……」
重低音を響かせて元の位置に戻って行く壁を捉えると情けなく地面に倒れ込んで宙を仰いだ。
「ハンナ!! お前は弓も上手く扱うのだな!!」
「えぇ、見事な腕前だったわ」
「普段は剣を使用しているが受けた訓練は嘘をつかん。俺はそれを実行したのみ」
恥ずかしがり屋の白頭鷲ちゃんが二人の賛辞を受け取ると微かに頬を朱に染める。
「それを一射で撃ち抜けばもっと格好良かったのに。それにシェファの矢の方がもっと強かったぜ??」
己の荷物を纏め、背嚢を背負いつつ相棒に言ってやる。
「ふんっ、何とでも言えばいい」
左様で御座いますかっと。今度はもうちょっと上手く褒めてあげるからそれまで弓を練習を絶やさない様にねっ。
「よぉ、ランレルさんよ。次も奥に向かって進めばいいのかい??」
『ねぇ、ハンナぁ。やっぱり私の所においでよ。今の姿を見てもっと惚れちゃったっ』
いい加減に諦めなさいよと思わず突っ込みたくなる台詞をグッと堪え、恋する乙女の声色を放つ彼女に問う。
『え?? あ、うん。そのまま進んで構わないわよ。あの通路を抜けたら直ぐに第三の試練を受ける場所が見えて来るから』
了解しやしたっと。
残す試練は後二つなのだが……。その先に待ち構えている恐ろしい獣の姿を想像するとやる気に支障が出てしまう。
このまま踵を返しても絶対に見逃してくれないし、順調に試練を通過したとしても一騎当千の力を持つ英雄と同程度の力を備えた獣が粘度の高い唾液を口から零して待機している。
行きはよいよい帰りは怖いとは良く言うけれども、今回の場合は行くも帰るも地獄と言う言葉が良く似合うよなぁ。
「ふぅっ……。さぁ残す試練は二つのみ!! 気合を入れて行くぞ!!」
天に向かって力強く右腕を掲げたグレイオス隊長が大胆な歩法で新たに出現した通路の入り口へと向かって進んで行く。
「へぇ――い。分かりやしたぁ――」
注意散漫だと忠告するのはもう飽きたので取り敢えず適当に返事を返して彼の後に続く。
「ダン!! もう少し気合の籠った返事をせんか!!!!」
「気合どうこうで解決出来るのなら幾らでも叫んでやるよ。ちょっとでも体力を温存する為に俺は敢えて声を落としているのさ」
彼の鎧の左肩付近を優しくポンっと叩いて通路の奥へと進む。
「あ、こら!! 隊長である俺が先頭を進むんだぞ!! 勝手に前に出るな!!!!」
「うっす。引き続き壁役を宜しく頼んます」
「俺を囮に使うんじゃない!!」
じゃあ一体どうすればいいんだよ……。
矛盾という言葉が異常なまでに似合う台詞を吐き、俺達は鉄製の鎧の隙間から憤りをプンスカと放つ彼の姿を大変冷ややかな瞳で見つめていたのだった。
お疲れ様でした。
帰宅してから食事を摂ってポチポチと文字を打っていたのですが……。何だか最近一気に寒くなった気がしませんか??
少し前までは薄手の上着だけで良かったのに今は厚手の上着が必要ですし。
寒い季節には温かい食べ物が食べたくなる。その法則に従い、本日の昼食は贔屓にさせて頂いてるラーメン屋に足を運ぼうかと考えております!!
勿論、一押しの四川ラーメンを食べますよ!! トロっとしたチャーシューに辛みのある豚骨ベースのスープに良く絡む縮れ麺。
葱ともやしのアクセントにピリっとした辛みが舌を喜ばせ、脳を蕩けさせてしまうのです。
想像したら物凄く腹が減って来ました……。
こんな時間に夜食を食べてしまうと更に太ってしまうので本日はこのままプロット作業に戻ります!!
そして、ブックマークをして頂き有難う御座いました!!
滅茶苦茶嬉しいです!!!! これからも読者様の期待に応えられる様に頑張りますね!!
それでは皆様、お休みなさいませ。