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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第九十八話 闇が蔓延る魔窟 その一

お疲れ様です。


週末の夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。




 青く澄み渡った空に浮かぶ太陽の光さえも飲み込んでしまう闇が蔓延る洞窟の前に到着すると外気温は猛暑であるのにも関わらず体中の肌が一斉にサァっと泡立ってしまう。


 その最たる原因は洞窟の中の闇から届くこの得も言われぬ感覚の所為だろうさ。


 乾燥した空気の中に微かに混じる気持ちの悪い感覚。


 この気持ち悪い空気を敢えて言い表すのならそうだな、粘度質な泥とでも言おうか。


 目に見えぬ粘度質な空気が洞窟の中から外に向かって漂い、生物の肌に一度付着したら手で払おうとしても中々剥がれてくれない。寧ろ、払う度により一層肌に染み込み体内に侵食してしまう。


 表層面からでは無く内面からこの気持ち悪い感覚を捉えると危機管理能力を発動した体がそこに入るなと体全体に警告を放つ。



 その指示に従って踵を返すのが賢者の選択、危険上等と高を括って突入するのは愚者の選択だ。



 勿論俺は何のしがらみも受けていないのなら前者を選択します。


 俺は死すら厭わない恐れを知らぬ戦士じゃないし。帰り道が約束されていない死が蔓延る前人未踏の未開の大地に向かう大馬鹿野郎では無いからね。だが依頼を受けて此処に来た以上、目の前に広がる闇に向かって足を踏み入れなければならない。


 断頭台を目の前にした死刑囚の様に何て俺はツイていないんだと嘆きたい気持ちは重々に理解出来るが……。


 賢明な選択肢を取ろうとする自分も居れば愚者の選択を取ろうとしてしまう興味心旺盛な自分も居る。


 世の中の不思議と危険を咀嚼する為に俺は狭い世界を抜け出してこの広い世界に出て来たのだから。



「ふぅむ……。いきなりナニかが襲い掛かって来る様子は無いな」


 洞窟の入り口の脇から奥の闇をじぃっと窺いつつ誰とも無しに話す。


「その様だな」


 俺は洞窟の入り口の右脇から、そして相棒は左脇からほぼ同じ姿勢を取りつつ様子を窺っていた。


「奴等は洞窟の奥で待ち構えていると聞いた。入り口付近で襲い掛かって来る訳無いだろう」


 はぁ……。これだから生温い環境で育って来た御坊ちゃんだと言われるんだぜ??


「よぉ、隊長。それはあくまでも人伝えで聞いた話だろ?? 前回、前々回はそうだったかも知れないけど。俺達の時に限って不意打ちをブチかましてくる恐れもあるんだぞ」


「あぁ、その通りだ」


「隊長。入り口のド真ん中で突っ立て居ると敵の良い的ですよ??」



 ハンナの後方で警戒心を強めたままこわぁい眉の角度で洞窟の真正面に立つ彼をトニア副長が咎める。



「ふんっ!! 狙われてもこの剣で跳ね返すから心配ご無用!!」


 隊長が左腰から刃厚の太い長剣を引き抜き、ちょいと大袈裟に天に向かって掲げた。


「ここで立ち往生していても問題は解決せん!! お前達!! 俺について来い!!」


「あっ!! ちょっと!!」


 グレイオス隊長が沢山の荷物が入った背嚢を背負い直し、俺の背に続けと言わんばかりに鼻息荒く洞窟の中に突入を開始してしまった。


「あ――あ、行っちゃった。ハンナ、トニア副長。俺達も続こうぜ」


「了承した」


「えぇ、分かったわ。言う事の聞かない男の子の世話を焼かなきゃいけないからね」



 彼女が溜息混じりにそう話すと。



「副長!! 聞こえているぞ!!」


 洞窟の奥まった位置から怒号が壁に乱反射して入り口付近まで轟いた。


「だから!! 敵の位置を自ら知らせてどうするんだよ!!」


 ったく!! 待ち伏せされているかも知れないって言ったでしょう!?


「はぁ……。世話の焼ける人だわ。二人共、行きましょう」


「了解っす――」



 ヤレヤレといった感じでトニア副長が肩を落として洞窟に突入して行くので俺達も今一度気を引き締めて闇が蔓延る洞窟の中に記念すべき第一歩を踏み出した。



 四人の軽快な足音と無駄にデカイ大蜥蜴ちゃんが背負っている背嚢の中の荷物の擦れ合う騒音が洞窟の内の壁に反射して四方八方へと拡散されて行く。


 しっとりと湿った両壁の間の感覚は意外に広く、闇に包まれているのに不思議と閉塞感は感じ無い。


 足元に転がる岩に生える苔を食らって生きているのか小型の虫があちこちで蠢き。その虫を糧に生を持続させている蝙蝠達が天井にぶら下がり俺達の様子をじぃっと見下ろしている。


 足を踏み入れてから暫くの間は入り口から届く光で何んとか視界が確保出来ていたが……、一歩また一歩と進む度に視界が徐々に狭まって行く。



「っと。これ以上は明かりが無いと辛いな。松明に火を点けるからちょっと待ってくれ」


 歩みを止めて背嚢を下ろす所作を見せるが。


「それなら心配ご無用よ」


 トニア副長が手の平の上に光球を生み出すとその明かりが闇を打ち払い俺達の進むべき方向を照らしてくれた。


「へぇ、そんな事が出来るんだ」


「何事も訓練よ。さぁ進みましょう」



 明かり役兼先導役を買って出た彼女の背に続き、緊張感を高めたまま進んで行くと漸くこの得も言われぬ空気を放つ正体を捉える事に成功した。



「お、おいおい。何だよ、あれは……」



 洞窟の突き当りの壁の前に周囲の闇を凌駕する漆黒が宙に渦巻き静かに佇んでいる。


 光球の明かり程度ではあの闇を払う事が叶わないのか。此処からでは闇の中がどうなっているのか理解に及ばない。


 闇の渦の直径は凡そ二メートル強。


 大の大人が優に入れる大きさの黒き渦がそこに確かに存在しているのだが……。真面な神経を持っている奴ならアレに触れようとはしないだろう。


 普通に考えてみろよ。


 何も無い所に黒い渦が渦巻いているんだぞ?? 触れようと思う処か即刻立ち去るって。



「ほぅ、あれが奈落の遺産と呼ばれる代物か……」


 ハンナがいつも通りの口調で興味深そうに黒の渦の奥を見つめる。


「私も初めて見るけど、中々に興味をそそられる代物ね」


 トニア副長も辛抱堪らんといった感じで鼻息を荒げた。


「よし!! お前達!! ここでじっとしていても無駄だぞ!! 突入準備を整えるぞ!!」


「へいへい。直ぐ隣に居るからそう叫ばなくても聞こえていますよっと……」



 まるで仲の良い友人とお出掛けする時の様に高揚した声を上げたグレイオス隊長の言葉を皮切りに各自が必要最低限の荷物及び装備の準備を開始した。


 ロシナンテの店主が心血を注いで制作してくれた防具を身に纏い、各関節を動かして不具合が無いか確かめてみるが……。



「ふぅむ……。新品なのに使い古した装備の様に体に馴染むな」


 全く違和感なく体が動かせる事に驚いてしまった。


 すっげぇ……。流石大枚叩いて買っただけはある。生きて帰れたのなら礼を述べに行きましょうかね。


 この装備で命拾いしましたよ――って。


「ハンナ、そっちはどうだ??」


 服の下に生の略奪者の甲殻を利用して制作した胸当てを装備した彼に問う。


「問題無い」


「そっか。――――。所、で。グレイオス隊長さんよ。お前さんはほんと――にその装備で突入するつもりかい??」



 己が持ち込んだ荷物の中からたぁくさんの装備をえっさほいさと身に着けている彼に問うた。



「勿論だ!! これは俺が王都守備隊に入隊して初めて貰った給料で購入した鎧と兜なんだぞ!?」


 あ、うん。俺が聞きたいのはそうじゃなくてね??


「あのさぁ。咄嗟に動けない時の事を考えてもう少し軽装にしたら?? ほら、胸当てだけとか」


「どうだ!? 似合っているだろう!?」



 俺の言葉を一切合切無視し、さぁ崇め讃えろと言わんばかりに無駄にカッコイイ仕草を取って初給料で購入した鎧を堂々と披露する。



「この分厚い装甲は剣を弾きッ!! 例え間近で矢を穿たれたとしても貫く事は叶わないだろうさ!!!!」


「あっそう。お前さんが窮地に立たされても俺は助けないからな」


「容易に鉄を貫く強力な攻撃が襲い掛かって来たらどうするのだ」


「隊長、私からも進言させて頂きます。今直ぐそのふざけた鎧を脱ぎ捨てなさい」


 トニア副長がまるで汚物を見る様な冷たい目で兜の奥を睨みつけるが。



「ヤダッ!!!!」


 当の彼は全く聞く耳を持たず、意気揚々と突入の準備を整え終えてしまった。



「そこまで言うなら止めやしないさ。よし、皆。準備はいいな??」


 俺の言葉を受け取ると全員が静かに首を微かに上下させ肯定の意を伝える。


「それでは皆様、大変危険な旅の始まり始まり――っと!!!!」


 皆の意思を受け取り、緊張感と高揚感が混ざり合う何とも言えない感情を胸に抱いて奈落の遺産に突入を開始した。



「――――。ふぅん、こっち側はこうなっているのか」



 洞窟の行き止まりに存在していた漆黒の渦の中に一歩足を踏み入れると洞窟内の凹凸の激しい壁面とは違い。あからさまに誰かの手が加えたであろうと判断出来る直角の岩壁に挟まれた通路に出た。


 垂直に立つ壁に沿って天井へ向かって視線を向けるが、トニア副長が翳す光球ではとてもじゃないけど払えない闇がずぅっと上方に存在している。


 その事からして恐らく物凄く高い位置に天井があるのだろう。


 晩秋の季節を予感させる湿度が少なく乾いた空気の中に紛れる粘度質のナニかは依然健在。


 いや、寧ろその粘度を増したと捉えるべきか。


 背後に存在する黒の渦は消失する事無く今も静かに佇んでおり、入り口と出口の役割を果たしていた。



「進むぞ」


 グレイオス隊長が緊張感を増した口調を放ち、俺達の先頭に躍り出る。


「おうよ。ってかさ……。このネチャネチャした空気って何??」


 服の上から腕を擦りつつ誰とも無しに話す。


「マナの濃度が濃いから恐らくそう感じるのだろう」


 ハンナが険しい瞳を浮かべて正面奥の闇を睨みつけながら言う。


「これがマナの濃度ねぇ……。ルクトの場所とは百八十度違う性質だから驚いちまっているよ」


「これだけ濃いと外の世界に悪影響を及ぼす可能性があるわね」



 周囲と前後の様子を細かく確認しながらトニア副長が話す。



「悪影響?? 例えば??」


「例えば……、そうね。生物の本質を変えてしまうとか姿形を変えてしまうとか。有り得ない妄想かも知れないけど、これだけの濃度を外の世界に垂れ流すのは感心出来ないわね」



 生物の本質を変えてしまう。


 その言葉を受け取ると、数か月前に受け賜った依頼内容がふと脳裏を過って行った。



「なぁ、ハンナ。あの自爆花もひょっとしたらこの空気を受けて変質したのかもよ」


「俺も今その事を考えていた所だ」


 あらやだっ、私達相思相愛なのねっ。


「お、おいおい。お前達、あの危険極まりない自爆花と戯れてきたのか??」


 鉄製の鎧をガチャガチャと鳴らしながらグレイオス隊長が問うて来る。


「戯れも何も……。とあるモノ好きちゃんからの依頼でさ。自爆花の種子を採取して来て欲しいって依頼が舞い込んで来たんだよ。その依頼をこなす為に森に足を踏み入れ、命辛々自爆花の実を採取して来たのさ」



 今も目を瞑れば思い出せるぜ、あの至高の甘味を……。


 機会があればもう一度賞味したいですけども、自分の残りの人生とアレを天秤に掛けるべきなのか少し躊躇しちゃうよなぁ。



「い、いやいや!! 嘘を付くなよ!! アレを採取しに行った大勢の者達が帰って来なかったって話を聞いた事があるんだからな!?」


「そんなに俺達の事を嘘つき呼ばわりするのなら試しにシンフォニアのドナって受付嬢に聞いてみなよ。嘘じゃないって分かるからさ」


 心外だ。


 そう言わんばかりにちょいとキツイ眉の角度で兜の奥を睨みつけてやった。


「ふんっ。気が向いたら足を運んでお前の嘘を白日下に晒してやる!!」



 何で直ぐにバレる嘘を付かなきゃならんのだ。


 ヤレお前さんは嘘つきだ――、ヤレお前さんはいつぞやは俺を見殺しにした――等々。


 時と場所を考えて発言しろよと思われる台詞を垂れ流す大蜥蜴ちゃんの相手をそこそこにしていると、トニア副長が不意に足を止めた。



「行き止まりね」


「んっ?? お――、確かにものの見事に行き止まりですな!!」



 触れても居ないのに屈強な岩質であると即刻判断出来る岩壁が俺達の前にそそり立ち通せんぼをしている。


 ふむっ、此処に来るまで一直線だったし。他に通路と思しき場所は確認出来なかったので本日はお暇させて頂きましょうかね!!



「あはっ、残念だなぁ。行き止まりならしょうがないよね!! じゃあ皆さ――ん!! お帰りは此方ですよ――!!!!」



 本日初めてのかも知れない満面の笑みを浮かべて踵を返そうとした刹那。



『ワハハハ!!!! 誰が帰って良いと言った!!!!』


「「「ッ!?!?」」」



 鼓膜からでは無く頭の中に直接言葉をぶち込まれた様な感覚が広がった。



「誰だ!? 何処にいる!?」



 その言葉擬きを受け取った俺達は互いに背を預けて全方位に注意を向けるが、その姿を捉える事は叶わなかった。


 い、今の声は一体……。



『貴様等の頭の中に直接言葉を聞かせている。これは念話という一種の魔法だ』


 念話?? 聞いた事がねぇな。


 だが、それよりも……。


「えっと、今は亡きシェリダンちゃんとあんた達キマイラとの契約を履行しに来たんだけど……。俺達はこれからどうすればいいのかな??」


 姿形が見えぬ豪快な男の声質を放つ者に対して問うた。


『ワハハ!! せっかちな奴め!! 今からそれを説明してやろうと思った所だ!!』



 ごめんなさいね、せっかちで。



『俺の名はジェイド!! その小さな頭の中に刻み込んでおくがいい』


 了解しました、ジェイドちゃん。しっかり聞いていますので続きをどうぞっ。


『俺達は強い奴が好きだ。弱い奴を倒しても心には響かんからな。その強さの尺度を量る為にお前達には試練を受けて貰う!!!!』


「試練?? 別にそれは構わないけど、もう少し声量を落として貰えます?? 五月蠅過ぎて頭が破裂しそうなんですけど」


『できん!!!!』


 あっそう。それなら我慢しますから早く試練とやらを話しやがれ。


『俺達に相応しい力を持つかどうか。それを試す為に今から四つの試練を受けて貰う!! それを見事通過したのなら……。俺達が直々に相手をしてやる』



「「「ッ!!!!」」」


 頭の中に響く男の声色が一段と低くなると、何処からともなく強力な力の波動が体の中を駆け抜けて行く感覚を捉えた。



「お、おいハンナ。今の……」


「あぁ、素晴らしい力だな。遠い位置から放たれたであろうにも関わらず俺達の体に影響を及ぼすのだから」


『では早速始めよう!! おい!! モルトラーニ!! 貴様の出番だぞ!!』


『はいは――いっ、任されました――』



 野太い男性の声の次は男にも女にも捉えられる中性的な声色が再び頭の中に響く。



『ごめんねぇ、お兄さん達。五月蠅かったでしょ??』


「まぁね。モルトラーニさん、だっけか。今の人の声を四六時中聞かされていると思うと不憫で仕方がねぇよな」



 ここ最近ずぅっと大蜥蜴ちゃん達の激しい鼾を強制的に聞かされて来たから分かる。


 鼓膜が辟易する音は長時間聞くべきでは無いと。



『あはっ、そうそう!! お兄さん分かる人だね!!』


「そりゃど――も。それで?? 俺達は今から試練を受ける訳なんだけど、具体的には何をすればいいのかな??」


『僕が担当する第一の試練、それはね?? 今からその壁を取り払うからその通路の先にある部屋に来てくれた時にまた説明するよ』


「ふぅん、そっか。じゃあ早速始めようとしますか!!!!」


『おぉっ!! 元気一杯だっ!! それじゃあ待っているからね――!!!!』



 軽快な声がぷっつりと止むと俺達の前に立ちはだかっていた巨大な壁が騒々しい音を立てて地面の底へと沈んで行ってしまった。


 おいおい、一体どういう仕組みなんだよ……。



『あ、そうそう!! 通路が暗いから壁に立てかけてある松明に火を灯しておいたからね!!』


「ははっ、随分と律儀なんだな」


『お兄さん達が早く死んじゃったらつまらないしっ。精々僕達を楽しませてね!!』



 楽しませて、か。



「よぉ、相棒。今の会話からして……」


「仕組みは理解出来んが何処からか覗かれているな。壁といい、念話といい、全く不思議なものだな」


「その意見には激しく同意するさ。さて!! グレイオス隊長さんよ、これから死が直ぐそこにある危険な場所に足を踏み込む訳なんだけどぉ……。何か言う事はあるかい??」



 普段の明るい雰囲気を打ち払い思わずほぅっと唸りたくなる圧を纏う彼の背に問うた。



「負傷したら手を貸し、立てなくなったのなら肩を貸す。そしてもしも命絶えて向こうの世界に旅立つようなら強烈な張り手で目を覚まさせてやる。俺達の帰りを待つ人の為、生きて帰る。それが俺達に与えられた使命であり役目だ。これを反故する事は俺が許さん!! では、行くぞ!! 戦士達よ!! この手に勝利を掴まんが為にッ!!!!」


「おおぅっ!!!!」



 多くの戦士達を屠って来た武士さえも思わず道を譲ってしまうであろう圧を纏った彼に続いて新しく出来た通路に突入を開始。



「油断するなよ!? いつ何処から攻撃が襲い掛かって来るか分からないからな!!」


 指揮官の役割を果たすグレイオスの隊長が力強い声を出して隊員達の士気を保っていたがそれは精々数分程度で止んでしまった。


 それもその筈。



「――――。お、おいおい。あれって大蜥蜴ちゃん達の遺骨じゃんか」



 壁に掛けられた松明の怪しい炎の明かりがずぅっと先の通路で横たわっている無数の骸を照らしたのだから。


 地面の上に無造作に横たわる遺骨を捉えるともう既に此処は奴等の縄張りの中であると自覚させ、背筋が一斉に泡立った。



「ゆ、許さんぞ。俺達の先輩達を亡き者にしやがって……」


「グレイオス隊長の仰る通りです。彼等の無念は我々が晴らしてやりましょう」



 現王都守備隊の二人が一際厳しい声を出すと慎重な足取りで遺骨が散らばる付近へと進んで行く。



「ちょっと待ちなよ。この先は罠が張られている可能性が高いぜ」


 分かっているだろうとは思うがそれでも二人の背に声を出さずにはいられなかった。


「敵が近くにいる雰囲気は微塵も感じ無い。つまり、彼等は通路に仕掛けられている罠に引っ掛かり……」


 グレイオス隊長が慎重な足取りで遺骨付近の土を踏んだ刹那。


「いぃっ!?」



 左右の通路から鋭い勢いで槍が飛び出し、そしてこれはおまけと言わんばかりに上空の闇の中から無数の矢が降り注いで来やがった!!!!



「あっぶねぇ!!」


 鼻先を掠めて行く槍の穂先が心臓の寿命を縮め。


「きゃあっ!?」


 天から降り注ぐ鏃が頬の産毛をそそり落すと思わず下着を濡らしてしまいそうだった。



「甘いぞ!!」


 ちょいと気色悪い声を出した俺に対してグレイオス隊長は左右の壁から突き出て来た槍を御自慢の膂力を生かした剣技で薙ぎ払い。


「狙いが甘いわね」


 トニア副長は天から降り注ぐ矢を巧みな剣技で払い除け。


「ふんっ、児戯に等しいな」


 我が相棒は剣を使わず身の熟しだけで両者を完璧に回避してしまった。



 う、うん。流石は武の道に身を置くだけであって皆さん御達者ですわねぇ。


 まぁ俺も女々しい悲鳴を上げてしまったものの回避出来たからヨシとしましょうか。



「何だ!? もうお終いか!? 大した事ないな!!」



 地面に散らばる遺骨の先に抜けると攻撃の手が止み、グレイオス隊長が鼻息荒く天へ向かって吠えた。



「まだ先に続いています。試練と呼ばれている以上、この先にもっと危険な罠が待ち構えている可能性が高いでしょう」


「だろうな!! お前達!! 怪我はないな!?」


「無論だ」


「右に同じで――す」


「よし!! ではついて来い!! 俺が引き続き先導する!!」


「隊長――。意気揚々と進んでいるのはいいけどよ、背に一本の矢が刺さっているぜ??」


「俺は気にせん!!!!」



 左様で御座いますか。では引き続き俺達の壁役を宜しくたのんます、グレイオス隊長。


 慎重な俺が先頭で進んで行くとかなりの時間を消費する必要がありますし、それに例え罠が発動して左右の壁から槍が突き出して来てもその立派な鎧の装甲が守ってくれると思いますので。


 緊張感によって岩よりも、鉄よりも硬くなった生唾をゴクリと飲み込んで前進を再開させた。


お疲れ様でした。


現在、後半部分の編集作業中なのですが……。これから食事を摂る事もあって次の投稿は深夜か明日になるかと予想されます。


それまで今暫くお待ち下さいませ。

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