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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第九十七話 いざ行かん、素敵な恐怖が待ち構えている地へ

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 頭上に光り輝く太陽が首を傾げながら物珍し気に俺達の姿を見下ろしている。


 彼若しくは彼女が不思議そうな表情を浮かべている理由は恐らく、俺達が良く晴れた日に相応しく無い面持ちを浮かべているからであろう。


 快晴の日には光が羨む程のニッコニコの明るい笑み、土砂降りの日にはあからさまな辟易した顔、猛吹雪の日には顔面の全部の皺を浮かべる顰め面。


 その状況に見合った表情を浮かべるのが感情と意思を持った生物の特徴なのだが、晴れた日に心が沈んでしまう出来事が起これば誰しもが俺と同じ表情を浮かべる筈だ。



「ふぅ――……。ったく、馬鹿みたいに晴れやがって」



 まだ一日が始まったばかりだってのに重労働を終えた時の様に疲労を籠めた重い吐息を漏らし、恐妻が待ち構えている家に帰る夫の様にガックシと双肩を落とす。


 そりゃあ誰だって自分の命が失われてしまうかも知れない恐ろしい場所にこれから向かうと分かり切っているのなら、例え良好な環境下でも辟易しちまうよ。



「もう少し控え目に輝けないのかい??」



 王宮内に存在する広い訓練場の中央でドカっと胡坐を掻いて座りつつ青き空を見上げて太陽を睨みつけてやる。


 恐らく心優しい太陽ちゃんは俺の心の空模様を見透かして気分を良くしてやろうとしてピッカピカに光っているのだろうが……。


 それは俗に言う要らぬお世話という奴だ。


 どうせなら俺の心の空模様と同じ様にどんよりと曇り、若しくは雨が降って欲しかったのが本音さ。



「奴等と対峙するのにこれ以上無い手向けでは無いか」


 俺とは真逆の表情を浮かべているハンナがふっと静かに言葉を漏らす。


「お前さんにとってはこれ以上無い餞別かも知れねぇけどよ。俺にとっては有難迷惑さ」


「気を強く持て。我々は死がそこに存在する危険な戦地へと向かう。その心の持ちようではここに帰って来る処か漆黒の闇に飲まれてしまうぞ」


「わ――ってるって。それまでにちゃあんと心の態勢を整えておくから」


 少しだけ鋭い角度で俺の態度を咎める彼を見上げてそう言ってやった。


「それよりも……、段取りは理解しているよな??」


「貴様だけならまだしも、三名を乗せて飛翔するのは初めての事だ。力加減が難しそうだぞ」



 俺の言葉を受け取るとハンナが腕を組んで気難しそうな表情を浮かべる。



「奴等が居る場所はここからお前さんの翼で飛んで約半日の場所だ。現着後、必要な物資並びに装備を整えて奈落の遺産……、だっけか。そこへ突入。恐ろしい牙を研いで待ち構えているキマイラちゃんを討伐若しくは満足させて帰還。口で説明する分にはものすご――っく簡単な仕事内容だけどさ。それを実行する俺達にとっては正に生死を別つ難しい仕事内容なんだよねぇ」



 夥しい数の敵に囲まれて増援が望めない絶望的な状況に追い込まれた兵士達でさえも俺達の依頼内容を聞いたらまだ自分達の方がマシだと口を揃えて言うだろう。


 包囲網の一点を突破して逃亡を図れる彼等に対し、俺達は逃亡を許されていない状況なのだから。



「今の自分よりも一つ強くなれる絶好の任務だ。逸る訳では無いが俺は高揚しているぞ」



 でしょうね。


 今日も朝早くから訓練場で一人静かに剣を振っていましたから。



 今直ぐにでも白頭鷲の姿に変わって飛び発ってしまいそうな相棒から視線を外し、必要な装備及び物資が入った背嚢に背を預けてぼぅっと空を見上げていると鼓膜が驚いちゃう大声が広い訓練場に轟いた。



「待たせたなぁ!!!! 準備に手間取ってしまったぞ!!」


「うるさっ!! よぉ、隊長さんよ。もう少し静かに登場出来ないのかよ」


 王都守備隊の面々、そしてトニア副隊長を引き連れて此方に向かって来る彼にそう言ってやる。


「お前さんが情けない雰囲気を醸し出しているからな!! それを払拭させる為に叫んでやったんだよ」


 そんな事で気が晴れるのなら幾らでも耳元で叫んでくれ。


 そう言いたいのが山々だが。


「有難うよ、御蔭様で気分が少――しだけ楽になりましたよっと」


 本当に叫ばれたら鼓膜が破壊されてしまうので取り敢えず彼の気持ちを汲んで微かに笑みを漏らしてやった。



「よし!! 準備は既に出来ているな!? では……、我々は今からこの街に危害を齎そうとしている猛獣を成敗しに南へと発つ!!!!」


 グレイオス隊長が一際気合の入った雄叫びを上げると。


「「「ウォォオオオオオオ――――ッ!!!!」」」


 王都守備隊の隊員達が放つ叫び声は無限に広がる空に浮かぶ雲を霧散させ、大地が揺れ動いてしまうかの様な錯覚を此方に与えた。


「隊長!! トニア副隊長!!!! 俺達は御二人が必ずや帰還してくれると信じています!!」


「その通り!! 御二人ならキマイラを討てます!!!!」


「当然だ!! 俺無しではこの王都守備隊は成り立たないからな!!!!」


「有難う。私は貴方達を鍛えるという任務が残っているからね。それを途中で放棄する訳にはいかないから」



 名残惜しそうに隊員達と最後になるかも知れない挨拶を続けている二人を眺めていると、その輪から二人の隊員が抜け出して俺達の下へと向かって来た。



「ダン、ハンナ。頼む……。隊長達を必ず帰してくれ」


 飄々とした性格のラゴスが真剣そのものの表情を浮かべて腰を折り。


「僕からもお願いさせて下さい。あの二人が居ない王都守備隊なんて考えられませんから」


 ヴェスコも彼に倣い深々と頭を垂れた。



「二人の願いは出来るだけ叶えてやりたいけど……。確証は出来ないぜ??」


 軽やかに立ち上がり今も俺とハンナに頭を垂れている二人の肩を優しくポンっと叩く。


「それでもいい。あの二人は俺達にとって大切な人物であると知っておいて欲しいんだ」


「お前さん達の生活をこの目で見て来たからね。それは重々理解しているさ。それに……、俺もまだまだやりたい事が山の様に残っているから死ぬ訳にはいかねぇんだよ」



 この広い世界に数多多く存在する不思議と危険、そして俺の帰りを待ってくれている人達が居る限り逝く訳にはいかん。



「俺達は必ず四人揃って帰って来る。再び鍛えてやるから鍛錬を怠るなよ」


「は、はい!! その時は宜しくお願いしますね!!」



 ハンナが力強い瞳を浮かべてヴェスコの肩を掴むと彼は頭を上げて明るい笑みを浮かべてくれた。


 隊を纏める重要な人物が死地へ向かおうとしており彼等を守る為に共に出陣したいだろうが、己の腕では足手纏いになると分かっている。


 今彼等に出来る最大限の譲歩がこの願いなのだ。


 二人の、そして王都守備隊の総意を確かに受け取った俺は改めて決意を固めた。


 そう、必ず此処に帰って来るという事を。



「揃っているわね」


「「ゼェイラ長官!!」」



 雄臭い隊員達を掻き分けてゼェイラさんが俺達の方へと静かな足取りで向かって来る。


 漆黒の髪が歩む度に微かに揺れ、キチンと着こなしている黒を基調とした制服の胸部分もプルンっと揺れていますねっ。


 汗臭い野郎共の別れだけじゃあ何だか味気無かったし。丁度良い餞別になりましたよっと。



「お疲れ様です。お忙しい中、態々見送りをしに来てくれたのです??」


 俺とハンナの前に立ちいつもと何ら変わりない冷静さを醸し出す端整な顔にそう話す。


「まぁそんな所だ。私が貴様等を危険に巻き込んだ張本人だからな、せめて見送りだけはと思って執務を切り上げて来たのだ」


「有難う御座います。奴等が潜む場所まではハンナの翼で凡そ半日。そこから突入を開始して戦闘を始める予定なのですが。十日以上俺達が帰って来ないのなら……」


「了解した。その際にはリフォルサに伝えておく」


「えぇ、宜しくお願いしますね。よし!! 相棒!! 超豪快にお前さんの真の姿を披露してやれ!!」



 しんみりとした雰囲気で出発するよりも仰々しく派手に出発した方が景気良く映り、彼等の不安を少しは払拭出来るだろう。


 そう考えハンナの肩を勢い良く叩いてやった。



「ふんっ、貴様に言われずとも分かっている。では……、そろそろ出発するぞ!!」



 彼の体から強烈な光が放たれると俺からは見慣れた姿の巨大な白頭鷲が出現。


 俺にとっては見慣れ過ぎて特段珍しく映る訳では無いが、初見の彼等には少々刺激が強過ぎた様ですね。



「す、す、すっげぇ!! ハンナ!! それがお前さんの魔物の姿なのかよ!!」


 縦に割れた爬虫類特有の瞳孔を更にキュっと尖らせて素直な驚きを表し。


「でっか!! そしてこっわ!!!!」


 翼を確かめる様に動かしているハンナから一歩下がって叫ぶ者も居れば。


「あの目力ヤバ過ぎだろ……。人を食う目付きしてんじゃん」


 完全完璧に撤退する意思を見せる者も居た。



 大地を切り裂く殺傷能力の高い鉤爪を備え、人の行動を容易に縛る鋭い眼力に、岩をも砕く恐ろしい威力を秘めた嘴。


 更に更に夏の嵐を軽く凌駕する風を巻き起こす翼も備えているときた。


 そりゃあこんな化け物を目の当たりにしたらビビるのもやむを得ないよね。



「よう!! ハンナ!! 宜しく頼むな!!」


「凄い……。何て力強い魔力なの」


 グレイオス隊長とトニア副長が必要な物資と装備を運んでハンナの足元へと歩み来る。


「荷物は背に乗せて飛翔を始めたら背に生える羽の根元を掴む。慣れるまでは悪戯に背の上を動かない事、これを守ってくれよ??」



 物珍し気にハンナの翼を見上げている二人にそう話す。



「よぉし!! ハンナ!! 世話になるぞ!!」


 グレイオス隊長が豪快にハンナの背中側から乗った事に対し。


「よ、宜しく頼むわね」


 トニア副長は恐る恐る己の歩みを確かめる様に彼の背に上って行った。


「うぉ!! すっごいフカフカするな!! 高級羽毛布団もこの感触には勝てぬだろう!!」


「荷物の忘れ物は無いな??」


 ハンナの羽を優しく撫でている隊長に問う。


 余り執拗に撫でると彼の機嫌を損ねてしまうので御遠慮下さいませ。


「あぁ、これで全部だ」


「うっし。ハンナ、南へ向かって飛んでくれ。目的地付近に到着したら地面の地形と渡された地図を比較して知らせるからな」


「了承した。では……、行くぞ!!!!」



 ハンナが神々しい翼を大きく上下に動かすと砂塵が舞い上がり、訓練場の上に居る隊員達がその風と砂埃を避ける様に腕を翳す。



「隊長――!!!! 絶対帰って来て下さいね――!!!!」


「トニア副長!! 隊長が馬鹿な真似をしない様に見張って下さいよ――!!」


「えぇ、分かったわ」


「お前らなぁ!! 帰って来たら覚えておけよ!?」



 そうそう、こういう笑いが混ざり合う見送りが俺達にお似合いだよな。


 翼が一度上下に動くとふわりと白頭鷲の体が浮かび上がり、二度動かせばかなりの高度へと上昇する。


 そしてハンナが一際強く翼を動かそうとした刹那。



「……っ」



 俺達の様子を自室から隠れて見下ろしているレシーヌ王女へ目配せをした。


 あはは、やっぱり覗いていましたね。


 今日も頭からすっぽりとシーツを被っており、その表情の詳細は分からないがどうやらハンナの姿に興味津々の御様子だ。



「行って来ますね――!!」


 王女様に右の拳を形成してグっと突き上げて男らしい別れの所作を見せてやると。


「っ!!」



 恥ずかしがり屋ちゃんはあっと言う間に部屋の奥へと姿を消してしまった。


 本当は間近でハンナの姿を見たい筈なのに、あぁして部屋の中からコソコソと眺めなければならないのは俺としても心苦しい。


 早く彼女に掛けられた認識阻害を解除してあげたいがその前に、目の前に立ち塞がる障害を取り除かなきゃならない。


 沢山の危険と不思議な御話を土産として持ち帰って来ますので暫しの間、お待ち下さいね。



「おっしゃ!! 相棒!! この二人にお前さんの飛翔能力を見せてやれ!!」


「言われずとも分かっている!! さぁ……、行くぞ!!!!」



 猛禽類特有の鋭い瞳が更に激しく尖るともう何度も経験した常軌を逸した加速度が体に襲い掛かって来た。



「うぉぉおおおお!? ハンナ!! もう少し抑えてくれ!!」


「そ、その通りよ!! 荷物を抑えなきゃいけないのにこの速度は……」


「あはは!! 二人共!! この程度まだまだ序の口だぜ!? そうだろ!?」



 あっと言う間に王都の上空を通過した彼の横顔に向かって叫んでやる。



「その通りだ。俺が本気を出せば地上に影響を及ぼす恐れがあるからな」


「今は結構だ!! 俺達と荷物が落ちない速度で飛翔しろ!!!!」


「ふんっ……。了承した」



 グレイオス隊長の苦言を彼が渋々受け止めると、のんきな空中散歩を堪能出来る速度に変化した。


 さぁ……、いよいよ古代に交わされた契約と対峙する時か。恐れは確かにあるがそれを越えた先にある危険と不思議を見てみたい自分もまた存在する。


 怖いもの見たさといえば確かにそうだが、今回の場合は俺達の行動如何で王都に危険が及ぶ可能性がある。


 生半可な行動は控え、直ぐ後ろに死があると考えて行動すべきだな。


「ふぅっ……」


 少しの恐れと疲労を吐くと背に視線を送るとあれだけ大きい王都が今や親指の爪程度の大きさに変化してしまった。


 大勢の人々そして俺達の帰りを待っている人の為に全身全霊をもって抗ってやるさ。


 地平線の彼方に消え行く王都の影を見つめつつ人知れず決意を固めたのだった。




























 ◇




 無限に広がる空の高さは想像するのも億劫になる程高く。もしもその天井に到達したのなら天空に住まう神々は口を揃えてこう諭すだろう。


 人と魔物の足は空に住まう我々の地を踏む為では無く、大地を掴む為に存在するのだと。


 遥か先の地平線まで続いて行く広大な母なる大地は不変の雄大さを保ち、俺達に向かって優しく手を招いて見上げている。


 その手に招かれて進んで行きたいのは山々だが今現在は高度数百メートルを優に超える高さに居ますのでね。


 立って歩くという普遍的な行為はもう暫くお預けだ。



「ん――……。左手のずぅっと先にまぁまぁ大きな丘があるからぁ。そろそろ右手に規模の小さな街が見えて来る筈」



 手元の地図と周囲の地形を照らし合わせていると、俺の予想通り人の文化の営みが微かに感じられる小さな街が見えて来た。


 うむっ!! 進むべき方角も合っているし、順調に進んでいるな!!



「相棒!! 方角はそのままでいいぞ――!!」


 ちょいと使い古された地図を見下ろしつつ朝早くから飛翔を続けているハンナに強く叫んでやった。


「あぁ、了承した」



 普段通りの冷静な口調のハンナに対し。



「いや――!! まさか空を飛ぶ日が来るとはよもや思わなかったな!!!!」


 グレイオス隊長は新しい玩具を買って貰えた頑是ない子供の様に陽性感全開の口調を放ち、物珍し気に目まぐるしく変わりゆく大地の光景を捉え続けていた。


「よぉ、隊長。あんまり燥いでいると地面に向かって落下しちまうぞ」



 陽性な感情丸出しにしている彼の背に向かって叫ぶ。



「大丈夫だって!! 数時間も座り続けているからもう慣れたからな!!」


「グレイオス隊長!! ほら、あそこ!! 飢餓鼠の群れが確認出来ますよ!!」


「おぉ!! 本当だ!! きっと森から森へと移動しているんだろう!!」



 ちょっとだけお茶目なグレイオスならまだしも、馬鹿真面目なトニア副長まで浮足立つなんて……。


 まぁ俺も初めて空を飛んだ時は彼等の様に高揚感丸出しでぇ……。じゃなかった。


 砂蟹を掴んだ相棒の足に無理矢理しがみ付いて空を飛んだんだよな。


 こうして背に跨って悠々と飛べる様になったのは彼とある程度信頼関係を構築してからだ。


 いきなり安全安心の空の旅を満喫出来るのは運が良いんだぜ??


 そう言いたいのをグッと堪えて呆れにも、陽性にも捉えられる溜息を吐いて彼等の背を眺めていた。


 それから暫くの間は特に何かが起こる事も無く素敵な風の手解きを受けて飛翔を続けていたが……。



「むっ……。見えて来たぞ」



 相棒が一際硬い口調でそう話すと俺達の間に硬い空気が漂い始めた。


 ハンナが目的地と思しき場所の上空に到着するとそこを中心にして旋回を開始。



「あそこか……」



 グレイオス隊長が鋭い視線で大地を見下ろして硬い口調で言葉を放った。


 極度に乾いた乾燥地帯の中に確認出来るなだらかに下る窪地。


 ここからじゃその底を確認出来ないが恐らく、あの窪地の中心にキマイラが住まうであろう奈落の遺産がある筈だ。


 南の方角に広がる砂漠地帯、東方向の先に見える砂丘に西方向に連なる岩山。



「あぁ、地図に記された場所の地形と一致するぜ」


 手元の地図と地面に広がる地形を確認しつつ口を開いた。


「ハンナ!! 窪地から少し離れた位置に着陸してくれ!!」


「了承した」


 グレイオス隊長の指示に素直に従ったハンナが旋回を続けながらゆるりと降下して行く。


「よぉ、いつもみたいに馬鹿げた速度で降下しないのかよ」


 揶揄いというよりも呆れた口調で白頭鷲の横顔にそう言ってやる。


「背に乗せられている荷物が落下してしまう恐れがあるからな」



 はいはい、そう――ですかっと。


 俺以外の人物が乗っているから今日は借りて来た猫みたいに大人しくしているのだろうさ。


 俺一人の時は目玉が後頭部から飛び出る程に苛烈な勢いで降下していくもの……。


 毎度毎度こうして安心安全な速度で降りてくれたら楽だろうなぁと考えていると、相棒の鋭い鉤爪が数時間振りに大地を食んだ。



「ふぅっ!! 到着っと!!!!」



 相棒の背から慣れた所作で大地に降り立ちグゥンっと背伸びをする。


 うむっ、照り付ける太陽の強さは不変であり。ただじっと立っているだけでも汗が出て来るほどに暑いですな!!


 南の方角から吹く風は一切の湿気を含まず風の中に紛れている小さな砂の群れが鼻腔に侵入すると思わず顔を顰め、風本来の役割である暑さを和らげる機能は既に消失。それどころか暑さを増す要因の一端を担っている様に感じられてしまう。


 空から降り注ぐ太陽の光を直に吸収した大地の熱さが更に気温を上昇させていた。


 王都周辺もそれなりの暑さだが……。この一帯の暑さは慣れていない者にとってちょっと過酷だな。


 背嚢の中から外蓑を取り出して素早く着込むと窪地の底へ視線を送った。



「ん――……。あそこから中に入れそうだな」



 窪地の底の中央にが屈強な岩石が確認出来、そこがくり抜かれる形で地下へと続く穴が形成されている。


 恐らく、あの先に奈落の遺産と呼ばれるモノが存在するのだろうさ。



「よぉ、相棒。準備は出来たか??」


「あぁ、滞りなく済んだぞ」


 人の姿に変わり外蓑を被って既に突入準備を整え終え、俺と同じく窪地の底を険しい視線で睨みつけていた。


「うっし。グレイオス隊長、トニア副隊長。今からあそこへ突入するぞ」


 背嚢を背負い直して振り返る。


「こっちも準備万端だぞ!!」


「右に同じ」


「ふぅっ……。さぁって相棒?? 記念すべき第一歩を俺と仲良く……」


「行くぞついて来い」


 んなっ!?


「ここは仲良く歩調を合わせて坂を下って行く場面でしょう!?」



 俺の言葉を無視してなだらかな斜面に沿って下って行く相棒の背に慌てて続いて行く。


 も、もう!! たった一人の大切な相棒の言葉を無視してっ!!


 偶には俺の気持ちを汲みなさいよね!!



「うぉっ……。砂に足が取られそうだ」


 人の姿から大蜥蜴の姿に変わったグレイオス隊長がおっかなびっくり坂を下って行く。


「その姿からじゃないですか?? 人の姿になれば多少なりとも楽になるかも知れませんよ」


「いや、このままで行く。さぁってこの日の為に今日まで鍛えて来たんだ。四人揃って無事に帰るぞ」


「その意見には賛成さ。俺達の帰りを待っている人をがっかりさせる訳にはいかねぇからな」



 若干緊張気味のグレイオス隊長の言葉を受け取ると御茶らけていた感情が心の隅へと引き下がり、その代わりに大変クソ真面目な性格ちゃんが心の中央にドンっと腰を据えて座ってしまった。


 口をぽっかりと開けて俺達を待ち構えている洞窟のお口ちゃんの先には大変恐ろしい実力者達が待ち構えている。


 彼が言った四人揃って帰るという言葉。


 その言葉通り、最善の結果となるように粉骨砕身この身を捧げますよっと。


 全く水分が含まれていないカラカラに乾いた砂に足を取られつつも、俺達はもう間も無く手の届く位置に近付いて来た漆黒の闇が蔓延る洞穴へと向かって進んで行ったのだった。





お疲れ様でした。


多忙の日々が漸く明けてからというものの、文字を打つ感覚が未だ戻らず。投稿速度がやや遅れてしまって申し訳ありません。


自分なりに工夫して頑張っているんですけどこればかりは……。更に背中の筋肉が痛むので今週の週末を利用していつもの炭酸風呂へ向かおうかと考えております!!


風呂に行く暇があれば文字を打てよという読者様達の愛の鞭が届きましたのでプロット作業に戻りますね。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!!


執筆活動の嬉しい励みとなりました!! 本当に嬉しいです!!



それでは皆様、お休みなさいませ。


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