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第八話 束の間の喧々諤々

お疲れ様です。


本日の投稿になります!!


それでは、御覧下さい!!




 どこの世界にこんな馬鹿げた長い机を制作する家具店があるのだろうか??



 家一件が余裕で収まりそうな広大な空間の中央に置かれている、大変お値が張るであろうと。素人目にも明瞭である机と広大な空間に圧倒され続け。


 庶民的価値観が五臓六腑の芯にまで染み込んでしまっているこの体は、部屋の容積並びに家具その他諸々から算出される卑しい銭勘定を続けていたが……。


 ざっと見繕った数字は、桁違いの物であると結果が出ましたね。



 デカ過ぎる室内に、それに誂えた様な長机。常軌を逸した机の上に並べられた上流階級の方々が使用する食器。




 これだけの品を用意しろと言われたら一体どれだけの汗水を流せばいいのやら……。流し続けてる間に干からびて死んじまうよ……。



 余計なお世話だと思われますが、他所の家庭場事情を憂慮する想いで長机の前に静かに座り。


 燭台の上で揺らめく柔らかい炎が今から始まるであろう素敵な食事の雰囲気を怪しく装飾していた。



「どうかなさいました??」



 蝋燭の炎の向こう側。


 万人が納得する笑みを浮かべているシエルさんが此方を見つめつつ話す。



「あ、いえ。広いなと考えておりました」



 この空間は庶民にかなり堪えますね。


 椅子だけでも片側十席を越えていますもの。



「慣れてしまえばどうという事はありませんよ??」



 慣れ、ねぇ……。


 庶民的感覚が体の芯まで染み付いているので、それを払拭して慣れるまでには数年。若しくは数十年以上掛かりそうですよ。



「シエルさんは此処でいつも食事を済ませているのですか??」


「出先で無ければ、そうですね。此処で済ませています」


「えっと……。家族構成を御伺いする訳ではありませんが、お一人で済ませているので??」


「時に友人と、時に一人で。その日の状況によって変わりますね」



 ふぅむ……。


 地位ある人だからな、それ相応の方々を此処に招いて食事をする事もあるだろうし。


 当然と言えば、当然か。


 この話の流れに乗じて、誰と食事を交わしたのか尋ねてみようか??



「その……。食事を良く交わす方はどういった方がいらっしゃるのでしょうか??」



 本当に苦手ですよ。


 こうして情報を探るのは。


 全く。


 レフ准尉も酷な仕事を押し付けてくれたもんさ。



 此方の心情を悟られまいと、一口分の水をコクンと飲み終え……。



 いや、水も美味しいな。


 建物、家具も超豪華で。コップにも美しい銀の装飾が施され、挙句の果てに水まで高級だとは。


 大変恐れ入ります。



「先程から質問ばかりですけど…………。そちら側の誰かから依頼でもされたのですか??」


「ゴフッ!!」



 正中線のド真ん中を射貫いた質問に思わず水を吹き出しそうになってしまった。



「大丈夫ですか??」


「ゴホッ!! オフッ!! え、えぇ。大丈夫です」



 此処で慌てる様では、諜報員にはなれませんね。


 咽る喉を抑え、机の上に高級なコップをゆるりと乗せ。再びシエルさんを正面に捉えた。



「ふふ。御安心下さい。その手の質問は慣れていますからね」


「慣れている??」


「レイドさんも周知の通り、私は人よりも少々裕福でそれなりの地位に就いております」



 これが、少々??


 桁外れと呼ぶべきでは??



「中には邪な考えを持ち、私に接近しようとする者もいます。そういった方々の瞳は決まって濁っています。心の汚れが瞳に現れているのですよ」



「つまり、シエルさんの財産を狙って接近を画策する者ですか」



「その通りです。私の両親は幼い頃に他界し、マリーチア家に養子として迎え入れられました。そこからは英才教育を受け続け、今日に至ります。飢えずに育てられた事には感謝しています」



 へぇ。


 養子だったんだ。


 それは初耳だな。



「現在の御両親は何処へ??」



「――――――――。遠い、遠い世界へと旅立ってしまいました」



 今まで僅かに口角を上げていたのだが……。


 ふっと寂しい目を浮かべ、机の上に視線を落とした。



「亡くなられたのですか。お悔やみ申し上げます」



 不味いな。


 他人の痛みをほじくり返すのは好きじゃないよ。



「――――。レイドさんは孤児院で育ったのですよね??」



 暫しの沈黙の後。


 哀しき記憶に別れを告げる様に、先程まで浮かべていた澄んだ瞳へと移り変わって此方を見つめた。



 何でそれを知っているのかと問いたいですが。


 まぁ、此方の身辺調査なんて既に終わっているだろうさ。



「えぇ、そうですよ。野を駆け、虫を追いかけ続け、街でも有名なやんちゃ坊主として育ちました」



 胸を張って言う事じゃありませんけどね。



「うふふ。真面目な性格ですのに、幼少期は暴れん坊さんだったのですね」



 口の前に小さく両手を合わせて、お上品に笑う。


 どこぞの龍にも見習って貰いたい所作です。



 まぁ、でも。


 アイツがこんな仕草を取ったら熱でもあるんじゃないかと揶揄ってしまいそうだな。



「頭を叩かれて成長しましたよ。それで、ですかね。訓練所でも芳しくない成績でしたから」



 さぁ、これは御存知ですか??


 さり気なく此方から情報を提供してみると……。



「まぁ……。そうなのですか……。大丈夫ですよ、レイドさん。成績云々よりも、残した結果の方が大切ですから」



 あっれ……。


 知らなかったのかな?? それだったら己の恥部を曝け出した様なものじゃないか。


 そして、態々親切ご丁寧に慰撫して頂き感謝します。



「あ、いや。普通の成績を残して卒業しましたよ?? いや――。ふぅっ。今日の夜は蒸しますねぇ!!」



 自分の至らぬ所を敢えて曝け出してしまい、羞恥による熱が顔を火照らせる。


 片手で熱を冷まそうとパタパタと仰ぐのだが……。



「体力が枯渇するまで走行させられる卒業試験……。その歴代記録を塗り替えての成績が普通、ですか。謙遜なさらずとも宜しいのですよ??」


「――――――――。はぁ……。申し訳ありません。参りました」



 そこまで知られていたらもうお手上げです。


 早めに降参しよう。


 これ以上アレコレと腹の探り合いを行っていたら余計な情報を与えそうだし。




 騒がしく動く手の動きを止め、膝の上に礼儀正しく両手を乗せて頭を垂れた。



「ふふ。随分とお早い降参なのですね??」



 小さく、しかし魅力的な丸みを帯びた唇をコップに密着させ。


 行儀良くお水を飲み終えて話す。



「こういった腹の探り合いは本当に苦手なのですよ。誰にでも掘り下げられたくない過去は一つや二つあります。それを掘り当て、まざまざと見せつける者にはなりたくありませんからね」



 真正面から意見を衝突させ、砕け散った互いの意見。


 矮小な意見が無数に散らばる中、その中からたった一つの光り輝く互いの真の答えを探し拾い得る方が俺は好きだよ。



「この御時世、情報の管理はお金よりも大切です。数多得られる情報の中に潜む汚職、贈収賄、殺人……。この黒く歪んだ醜い部分こそが人の本質なのです。夜空に浮かぶ黒があるからこそ、美しい月の光がより強烈に映るのです。 黒は光を求め、妬み、羨む。それらを救うのが光の務めなのです」



「――――。自分の考えは真逆ですね。人の本質は光、だと思います。清き心を持っているからそこ悪しき心を憎み、それに苦しむ者を救おうとするのです。光がより強烈に輝けば、黒を払拭する事が可能になります」



 人は誰でも善なる心を持っている。


 マイ達が良い例だな。


 例え、種は違えども。人を好いてくれている。


 本当……。


 喜ばしい限りさ。




「ふむ……。その考えだと、悪を根絶やしにする必要がありますよ??」



「その悪が今、西からこの世に蔓延ろうとしているのです。我々は人々の光となって奴等を根絶やしにする為。日夜任務に携わっているのです」



「それは当然だとして。悪しき心に染まった人々はどうするおつもりなのですか?? まさか、命を奪うとでも??」



「その為に法があるのです。法が悪しき心を罰し、悔い改めさせる。刑罰は一種の光と呼称しても差し支えないと」



 目には目を歯には歯を。



 これを例にすると、殺人を犯した者はその命を以て罪を償う事になる。



 究極の罰はこれなのですが……。法が整備されている今日、裁判を経ずに極刑を与える訳にもいかない。


 それが例え……。極悪人であってもだ。




「刑罰で罰してもその者の心は救われません。悪しき心を救うべきは光を与える事です」


「その光こそが……。シエルさんだと??」




「いいえ、違います。光は……。信じる事です」





 穢れ無き澄んだ瞳で、俺の瞳の奥を直視して話す。


 その声色には、絶対的な自信が含まれており。尚且つ、人に説得力……。いや、安心感か。


 心が、この人を信に値すべきであると断定してしまう力が声色。そして瞳には宿っていた。



 皇聖と呼ばれ、この国最大規模の教団を従える者の片鱗を垣間見た気がしましたよ。




「信じる?? 信じて救われた事等、自分は一度もありませんよ。寧ろ、その行為が憎いと思った事もあります。拙い希望に縋り、祈り、待った所で手元に残るのは無残な結果だけです。心が救われる?? 現実世界には余り意味が無いですね。所詮この世は力を持った者だけが生き残るのですよ」




 幼少期。


 何度祈った事か、そして。何度無駄な行動だと思い知らされたか。



 それをこの人は……。光を信じる??


 無意味な行動をして救われる訳ないだろう。



「現利益を求めるのもまた宗教上の側面にあります。しかし、我々の究極の目的は人々の心の救済です。人々から背を指され、嘲笑されても我々は信仰心を折る事は無いでしょう」



「でしたら。救ってみせて下さいよ。シエルさんの信仰心でこの大陸を」



 そんな事、無理に決まっている。


 アイツらに対抗出来るのは力を持つ者だけだ。


 信じる心は二の次。


 戦う為には武器防具、食料等。例えを上げ始めたら枚挙に遑が無い。これら全てにおいて必要なのは、そう。金だ。



 結局、行き着く先は金という文明の利器なのさ。



「勿論。その為に我々は行動しているのです」


「人々の心を救い続ける事で、あの醜い豚共に対抗出来るとでも??」


「えぇ、その通りです」



 自分の信仰心を一切曲げる事無く、澄み切った表情で俺の考えを拒絶する。



 そんな事出来る訳がない。


 不可能を可能にする手立てを伺おうとした刹那。




「シエル様、宜しいでしょうか」



 扉の向こう側からエアリアさんの声が届き、熱を帯び始めた心を鎮めた。



「どうぞ」


「失礼致します。お食事を御持ち致しました」



 彼女の後ろから数名の給仕の女性が現れ、瞬く間に素晴らしい食事が目の前に配膳された。




 食欲をググんっと湧き起こす茶色のソースが添えられた一枚肉。


 高級料理店御用達の小麦をふんだんに使用したであろう、可愛い丸みを帯びたパン。そして、根菜類が浮かぶ琥珀色のスープ。


 この料理をお店で注文したら一体幾ら吹っ掛けられる事やら……。



「さ、レイドさん。私達の舌戦も此処までにして食事を始めましょうか」


「そ、そうですね。では、御言葉に甘えて……。頂きます」



 膝の上に手を置き、食に。そして料理に携わった全ての人に感謝を述べ。


 大きな皿の上に乗せられているパンを一つ取り、一口大に千切って口に運んだ。



「…………。大変、美味しいですね」



 お上品な空間を穢さぬ様、小さな声でそう話す。



 く、くそう。


 美味いぃ!! と、叫びたいのに叫べないこのもどかしさ!!



 何だよ、このパン。


 滅茶苦茶美味いじゃないか……。



 適度な硬さと柔らかさが同時に存在し、咀嚼すればする程唾液がこれでもかと湧き続け。


 微糖な旨味を与えるパンと絡み合い、馨しい小麦の香りがふわぁぁっと鼻から抜けて行く。


 ココナッツのパンも美味しいけど……。ここのパンはちょっと存在する場所が違うな。



 端的に言えば、一段階上に位置して居ますね。


 庶民が食すべき物では無い事は確かだ。こんな美味いパン毎日食べていたら普通のパンが食べられ無くなっちゃうよ。



「気に入って頂けて嬉しいです」


「いや、こんなに美味しいパンを食べたのは初めてですよ」


「普段は何を食されているのですか??」



 普段、か。


 ん――……。



「任務中ですと、大量の古米を使用した料理やら。水で戻した乾物、カチカチのパンに妙にしょっぱい干し肉。この街ではあの中央屋台群で購入した食事や、北大通沿いに店を開いているココナッツというパン屋で購入したパンですね」



 銀の匙を使用し、琥珀色の液体を口に含み。


 しっかりと飲み終えてから話した。



「あっ、そのパン屋さんは見た事ありますよ」



 シエルさんがお上品にパンを千切りつつ話す。


 美しい所作に倣い、此方も二つ目のパンを頬張りつつ言葉を続けた。



「物凄く美味しいですよ?? 店員さんも元気良くて、その笑みに誘われて来るお客さんも居る位ですからね」



 さて!!


 この食事の主役さんと相対しましょうかね!!



 右手にナイフ、左手にフォークを手に取り。


 口の端から唾液が零れるのを抑えつつ、切り分け始めた。



「店員さん……。女性の方、ですか??」


「そうですよ。いつも元気に笑みを与えてくれて。元気がない時、仕事でヘマをした時。心が沈んでいる時。あの笑みに救われる人も居るかと」



 やわらかっ!!!!


 嘘でしょ!?


 ちょっと力を入れただけて切れちゃったよ!!



「ふぅむ……。女性店員さん、ですか」



 どれどれ!?


 味の方は……。



 程よく中まで焼けたお肉さんに膨大な期待を抱き、御口に含んであげた。




 ――――――――――。





 ふ、ふ、ふますぎる……。


 何だよぉ、これ……。


 俺が今まで食って来た肉は何だったんだよぉ。



 噛む必要も無いくらいに柔らかく、むぎゅっと肉を圧縮すればじゅわりと肉汁が溢れ出し。舌がゴボゴボと苦しそうな声を上げて溺れてしまう。


 ソースの絶妙な塩加減と、本当に小さな果実の香りが肉とまた合う!!



 少々卑しい様ですが、相手の食事の速さに合わせる事なく。あっと言う間に平らげてしまった。



「如何ですか?? お肉の味は」



 大好物をがっつく我が息子に向ける、ちょっとだけ呆れた。しかし、どこか優しい声色でシエルさんが問いかけて来る。


 その声を受け、暫くぶりに面を上げると。



「もう最高ですよ!! こんな美味しい肉、今まで食べた……」

























『グルルルルゥゥゥゥ…………』



 え??


 嘘でしょ??



 夜の帳が降り、漆黒に包まれる窓の外。


 深紅の龍がギリギリっと歯を食いしばり。鋭い龍の爪で窓硝子にへばり付き、俺の手元。並びに食事風景をじぃぃっと眺めつつ嘯く声を上げている。



『これが、真の憎悪だ……』



 そう言わんばかりに深紅の龍の瞳には地獄の炎でさえ生温い温度の炎が宿っていた。



 あの瞳に睨まれたら、狂気的で恐ろしい笑みを浮かべる悪魔も大絶叫を上げつつ尻尾を巻いて地獄の果てへと全力疾走で逃げ出すであろう。




 な、何でアイツが此処に居るんだ??


 さ、さ、流石に見間違いだよな??



 両手でゴシゴシと目を拭き、改めてその箇所をじぃっと睨みつけると。




 ――――――――――――。



 ほら、居ない。



 きっと心の何処かで皆に対して後ろめたい思いが幻影を見せたのだろう。


 こんな美味しい御飯を俺一人で食べて申し訳無いって。



「どうかされました??」



 此方の様子を不思議そうに見つめていたシエルさんが小首を傾げて問う。



「あ、いや。今窓……。わっ!!」



 いけね!!


 スプーンを落としちゃったよ!!



 安心したのも束の間。



 元の位置に手を戻す際に粗相を犯してしまった。



「今、拾いますね」



 床の上に寂し気に転がるスプーンへ手を伸ばそうとするが。



「レイドさん。拾わなくても結構ですよ」


「え??」



 彼女が目配せをすると、俺の背後に立っていた給仕の女性が無言で進み来て。



「新しい物を御持ち致します」



 床の上のスプーンを拾い上げ、無音の歩みで部屋を出て行かれてしまった。



「あれが彼女達の仕事なのです。彼女達から仕事を奪う事はいけませんからね」


「給仕役の彼女達は……。シエルさんとエアリアさんみたいに白のローブを羽織っていませんが……。イル教の信者なのですか??」



 己の醜態を誤魔化す様に水を口に含んで話す。



「違いますよ。彼女達は給仕、それとシエル様を警護する役目を担っています」



 此方から向かって右側の壁に立つエアリアさんが話す。



 ずっと立ちっぱなしで疲れないのかな??



「成程……。だから、か」



 先程出て行かれた女性。


 そして、今も扉付近で空気と同化する様に立つ女性。



 等しく体の軸に一本の太い線が入っている。



 安定した重心に、いつ何処からでも襲われても対処出来る様な位置取りに身を置いていますからね。



「何か気になる点でも??」



「スプーンを拾って頂いた方も、そしてあちらの女性も素晴らしい筋が通った体をしています。緩み無い気の構え、咄嗟に動けるように上半身の力は抜くも軸足の力は抜いていない。教えた方もそうですが、それを実践する彼女達に感心しているのです」



 エアリアさんにそう話すと。



「――――――――。有難うございます」



 扉付近に佇む給仕の女性が静かに頭を下げてくれた。



「触れもしないでそこまで看破するなんて。流石は現役の兵士ですね」


「普通ですよ、普通」


「宜しければ……。除隊して警護の仕事に就きませんか?? それ相応の給料は約束しますよ??」



 シエルさんが食事を終え、静かに机の上に手を乗せて話す。



 パン、余っていますよ??


 お土産用に貰っていこうかしら……。



「有難い誘いですが……。まだまだ未熟者ですので」



 これでイル教の警護の仕事に就きました――。


 なんて、師匠に言ってみろ。



『こ、こ、このぉ!! 大馬鹿弟子がぁああああ!!!!』



 十本に増えた体で全身余す所なく殴られちまうよ。


 きっと耐える事は叶わず。遠い世界へと旅立ってしまうのさ。



 五つ目のパンを食べ終え。


 シエルさんの前に寂しそうに横たわり。此方を誘う様に見つめているパン達へちょっとだけ卑しい視線を送っていると。




「所、で。先程、窓を見つめていましたけど……。どうかされたのですか??」



 深い闇が何処までも続く窓の外をエアリアさんがじぃっと睨んだ。




「誰かが見ていた気がしたんですよ。ぼぅっと……。空気と同化する様に佇んで……」


「おほん。レイドさん?? そういった御話は明るい内に話すべきですよ??」



 シエルさんが小さく咳払いをしてしまった。



「あはは。シエル様はそういった類の御話が苦手なのですよ」



 ほぅ。


 それは良い事を聞いた。


 先程の舌戦の延長戦、じゃあ無いけど。海竜さんから御伺いしたこわぁい話をお披露目しましょうかね。



「これは……。任務地で訪れたルミナの街で生活を営む漁師さん達の間で、昔から伝わる実話です」


「ちょ、ちょっと?? レイドさん??」


「あの街の漁師はふかぁい霧が出ている時には、決して漁に出ないのです…………」



 大きな目を更にぎょっと大きく丸めて此方の顔を今にも泣きそうな顔で見つめるシエルさん。



 きっとカエデも俺達が怖がる顔を見たいが為に、怖い話をしたのでしょう。


 話し手だけにしか分からないこの高揚感。


 ちょっと楽しいかも。



 おどろおどろしく話を続けていると、エアリアさんも興味津々といった感じで席に着き傾聴し始め。


 オチに近付いて行くと背後で待機していた給仕役の女性がいつの間にやら俺の視界に入り。




『もうその辺で』 と。




 大変恐ろしい瞳でジロリと睨んでくるものの。せめて、オチだけでもと。


 そう考えた俺はカエデさんの御話を最後の最後まで貫き通したのでした。



最後まで御覧頂き、有難う御座いました!!



ブックマークを、そして評価して頂き有難う御座いました!!!! 滅茶苦茶嬉しいです!!


これからも続く第二章の執筆に向けての励みになります!!



それでは、皆様。体調管理に気を付けて良い週末をお過ごし下さい。




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