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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第八十九話 御坊ちゃま集団との実力の差 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 行政に携わるお偉いさんから受け賜った話の内容によると俺達はキマイラ討伐の為、それ相応の名家出身の御坊ちゃま達と鍛える事となっている。


 王族を守る任務に就く王都守備隊は暗殺を未然に防ぐ為にも信頼が第一。つまり、ある程度の地位が必要となる。


 庶民生活と乖離した贅沢な世界で生きて来た彼等に果たして激務が務まるのだろうか??


 それがこの話を受けて先ず頭に浮かんだ考えだ。


 朝食を食べる暇も無くベッドから跳ね起きて仕事先に向かい、大量の汗を流して生産活動に携わり、汗と汚れに塗れたナリで家路に就く。


 我々庶民が避けては通れない社会生活の理は労働提供側の彼等にとっては外の世界の出来事に見えるだろう。


 時間を気にする事無く優雅に起床して使用人が用意してくれた朝食に手を付け、午前の温かかな光を浴びつつ紅茶を啜り、来客があれば世の経済状況の憂いを題材にしてまるで他人事の様に解決策を模索する。


 まぁこれはあくまでも一庶民である俺が勝手に想像した名家の生活場面の一部なのですが、恐らくこれに似た生活を送っているのでしょう。



 贅沢な生活の中で暮らしていた御坊ちゃま達の体は、それはもう華奢な体躯でひ弱な筋力であり、その腕から放たれる剣技は蟻も思わずふわぁぁっと欠伸を放ってしまう程に頼りない。



 俺達はてっきり社会生活とはまるで正反対のぬるま湯に浸かった者達のおままごとに付き合うかと思っていたのだが……。



「「「……っ」」」



 訓練場の上に整然と並んでいる彼等の体躯は街中で良く見かける大蜥蜴達の体より一回り大きく、女性の胴と同じ位太い腕には幾つもの傷跡が確認出来る。


 上に立つ者として相応しい万人を受け付ける青眼は何処へ。


 俺達が合流する事が気に食わないのか両の眼は血走り、怒気に塗れた吐息が空気に触れると白みそれが等間隔に放たれると此方の心がキュっと萎んでしまう。



「「「フゥッ……。フゥゥ……」」」



 何か切っ掛けがあれば殴り合いの喧嘩が勃発してしまいそうな雰囲気に固唾を飲み、俺達は何を言う事も無く彼等の様子を窺い続けていた。



「え、えっと。先程の自己紹介の続きをさせて頂きますね。彼の名はハンナと申します。俺も彼もこの大陸出身では無くて、北のアイリス大陸出身です」



 数十名を超える筋骨隆々の隊員達を前にしておずおずと口を開いて最低限の自己紹介を終え。



「それでぇ……。今から俺達は何をすればよいのでしょうか?? それと荷物は何処へ置けば宜しいので??」



 腰の低い御用聞きの様に遜った態度を醸し出してこれから俺達が取るべき行動を問うた。



「荷物は訓練場に続く階段脇に置け。その後、お前達の実力を見定める為に我々と一戦交えて貰うぞ」


「へ、へいっ!! 分かりやした!! ほ、ほら。ハンナ、荷物を置きに行こうぜ」


「……ッ」



 数十を超える血走った瞳を全て受け止め不動の姿勢を貫いてる彼の肩を強引に掴んで階段脇へと移動をする。



「お、おい。もう少し優しい態度を醸し出しなさいよね」


 いきなり横っ面をぶん殴られても知らねぇぞ。


「奴等が先に喧嘩腰の態度を表したのだ。俺はそれに応えたのみ」


「あのねぇ……。合流と同時に大喧嘩に発展するのは勘弁してくれよ?? これから俺達は彼等と共に此処で生活しなきゃいけないんだから」



 なだらかな坂道へと続く階段の脇に背負っている背嚢を置き、動き易い恰好に素早く着替えると元居た位置に駆け足で舞い戻って来た。



「お待たせしました!! 俺達の実力を見定めると御伺いしましたが……。それは一体どういう方法で??」


「俺達隊員と一対一で徒手格闘を行う。取り決めは……、そうだな。金的以外は全て了承しよう。付与魔法は一切禁止。己の体のみで戦い、有効打を先に与えた方の勝ちだ」


「分かりました。よぉ、ハンナ聞いていたか??」



 俺より微かに遅れて合流を果たした彼に問う。



「あぁ、理解した。その徒手格闘は何戦行えばよいのだ??」


「一戦でも構わんが……。そちらが満足するまで行っても良いぞ」



 王都守備隊の隊員が口元を歪に曲げて俺達を見下ろす様な態度を放つと、それが気に食わなかったのか。



「ほぅ、それなら俺は…………。約四十戦無敗で徒手格闘を終えそうだな」


 ハンナが彼の態度を鼻で笑い飛ばし、さり気なく全勝宣言をしてしまった。


「い、いや!! これは比喩ですからね!? あくまでも比喩!! こいつは昔っから相手を挑発する癖がありやして。へへっ、所謂いわゆる誰構わず噛みつく狂犬って奴でさぁ。彼の無礼は謝りますので、徒手格闘は一戦を所望させて頂いても宜しいですかね??」



 下っ端のチンピラ紛いの態度と言葉で彼等を必死に宥めるが時既に遅し。



「上等じゃねぇか!! 俺達相手に無傷で済むと思うなよ!?」


「その通りだ!! 貴様の整った顔を滅茶苦茶にしてやるからな!!!!!」


「フゥッ!! フゥゥウウウウッ!!!!」



 訓練場に居るほぼ全員の大蜥蜴ちゃん達が激昂に駆られ、涼しい態度を取り続けているハンナに噛みついてしまった。



「じゃ、じゃあ先ずは俺が出ます!!」



 このままでは他愛の無い手合わせが殺し合いに発展してしまう。


 そう考え、殺伐した空気を和ませる為に一役を買った。


 も、もう嫌!! 何で俺がこんな損な役割を担わなきゃならないんだよ!!!!


 誰かこの横着な白頭鷲ちゃんに手綱を付けて下さい。とびっきり頑丈でしかも飼い主の命令を絶対に受け付ける奴をね!!



「よし!! ダンの相手を務めるのは……。ラゴス!!!! お前が出ろ!!」


「えっ?? 俺っすか??」



 大変宜しく無い雰囲気の中で比較的冷静を保っている彼がきょとんとした顔を浮かべる。



「そうだ!! 早く訓練場の中央へ向かえ!!」


「うっす。おっしゃ、ダンと言ったか。取り敢えず軽く手合わせをしようや」


「お、おう。宜しく」



 彼はどうやら周りの空気に流される質では無さそうだ。飄々とした態度を崩さず、我が道を行くって感じだし。


 彼と共に訓練場の中央に到着すると対峙する形を取り俺達の実力を試そうとする徒手格闘の始まりの合図を待った。



「二人共!! 準備はいいか!?」


「あ、はい!!」


「いつでもいけや――っす」


「ラゴス!!!! お前はもう少しやる気を見せろ!! では、両者構え!!」



 合図役の隊員さんの怒号が鳴り響くと両腕を微かに上げて戦闘態勢を整えた。



 ふぅっ、取り敢えず始めようとしますかね。


 これはあくまでも俺達の実力を見定めるモノであり、相手を打ち倒す必要は無い。


 先に有効打を与えたのなら追撃を行わず慎ましく勝利を宣言し、逆に与えられたのなら大袈裟に倒れて相手を気分よくさせてあげましょう。



「始めぇ!!!!」


 開始の合図が鳴ると同時にラゴスと呼ばれる隊員が襲い掛かって来るかと思いきや。


「ふぅ――。格闘戦は苦手なんだよなぁ」



 彼は渋々といった感じで構えを取り特に警戒心を抱く事無く俺を見下ろしていた。


 自分から攻め込まず、見に回る型なのかしら??


 攻撃大好きっ子である相棒と無理矢理組手を組まされている俺も受けの型だし、どちらかが動かぬ限り戦いの鐘の音は鳴らないか。



「おっし!! ラゴスさん!! 此方から向かいますよ!!」


「あぁはいはい。いつでも好きな時にどうぞ。あ、それと敬称不要だから」



 それでは皆様のご期待に応えられる様に誠心誠意実力を発揮させて頂きますね!!!!



「それでじゃ……。行くぞ!!」



 重心を微かに落として下半身に力を籠めると己の影をそこに置き去りにする勢いで大地を蹴り飛ばしてラゴスの間合いを突破。


 そして己が最も得意とする間合いに身を置いた。



「はっやっ!!!!」



 そりゃどうも!!


 相手との体格差を加味したら中間距離じゃ話にならないし、俺はこの間合いで戦う事しか選択肢は与えられていないのでね!!


 予想外の速さに目をひん剥いて驚いている彼に対して挨拶代わりの一発を見舞ってやった。



「あっぶねぇ!!」



 おぉ!! しっかりと防御してくれましたね!!


 ラゴスの左脇腹目掛けて放った拳が彼の腕で塞がれると中々心地良い肉の感触を拳が捉える。


 腕の筋力の装甲は見た目通り中々のモノだな。一発でブチ抜くのは俺の攻撃力じゃあ無理そうだ。



「まだまだ行くぞ!!」



 左が駄目ならお次は右ですよ!!


 相手が攻撃態勢に入るよりも速く右側面へと移動して再び同じ攻撃を仕掛けると。



「そう何度も同じ攻撃を食らって堪るかよ!!」



 この攻撃を予想していたラゴスが俺の顔面目掛けて右の拳を打ち下ろして来た。



 むふっ、引っ掛かったな!?



「残念でしたっ。そして……。俺の勝ちだな!!」



 膂力に頼った上空からの攻撃を紙一重で回避。


 ぽっかりと防御の隙間が出来た彼の右脇腹へ向かって左の拳を突き刺してやると期待通りのお肉の感触が己の拳を喜ばせてくれた。



「ウグェッ!?」



 奇襲に備えて出払った兵士がいない本陣の防御網は脆弱であり、俺の拳は相手の大将の首を容易く刈り取り先ずは一勝を掴み取る事が出来た。



「いでで。あのなぁ……。もう少し手加減して打てよなぁ」


「そっちも手加減してくれよ。本気で力を籠めて拳を打ち下ろして来ただろ」



 痛そうに顔を顰めて右脇腹を抑えているラゴスのそう言ってやる。



 只筋肉だけを鍛えているのであれば先程の鋭い攻撃の軌道は有り得ない。そして武の道に身を置き激しい研鑽の中で得た攻撃力の高さに思わず背中に冷たい汗が浮かびそうになってしまったが……。


 生憎、こちとら毎度毎度死ぬ思いをして相棒の呆れた攻撃を回避していますのでね。あれ以上の攻撃を放たない限りビビらないのさっ。


 只、それでも一直線に俺の弱点へと向かって迫り来る攻撃の圧は中々のものであった。


 ぬるま湯に浸かった御坊ちゃま集団。


 この評価を今一度見直す必要がありそうだ。



「本当は俺だって手加減してやりたんだけどさぁ、周りの目があるしっ」


「まっ、それは兎も角。有難うよ、手合わせしてくれて」


「おう!!」



 握手を求めて右手を差し出すと彼は顰め面を何んとか通常の顔色に戻して手を取ってくれた。



「お、おいおい。今の動き見たかよ……」


「速い、というよりもまるで流れる水の様に滑らかな動きだったな」



 俺とラゴスを囲む隊員達からどよめきに近い声が響く。


 む、むふふ……。馬鹿げた強さのハンナと組手をしている内に俺は知らず知らずの内に強くなっているのかも!!


 それにルクトちゃんのおかげで魔物の姿に生まれ変わった所為か、人間だった時よりもかなり身体能力が増加された気がする。


 ラゴスの拳が遅く見えたのは恐らくこれらが影響している結果だったのだろう。



「ラゴス下がれ!! 次は……。ハンナ!! お前とヴェスコだ!!!!」


「あぁ、分かった」


「はい!! 宜しくお願いします!!」



 これにてお役目御免っと。


 少々荒ぶる呼吸を一つ整えると俺達を囲む隊員達の輪の中央からその一部に加わる為に移動を開始した。



お疲れ様でした。


現在、後半部分の編集作業中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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