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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第八十八話 王都守備隊第一隊 その二

お疲れ様です。


週末の深夜に後半部分の投稿を添えさせて頂きます。




「うっはぁ――……。こりゃまた壮観ですなぁ……」



 王門から続く白を基調とした石畳が荘厳な造りの城へと続き、その脇には色とりどりの季節の花が咲き乱れている。


 小さな街なら余裕ですっぽりと収まってしまうのでは無いかと此方に錯覚させる広さの中には暑さを感じさせない美しい景観が広がり、その中でも否応なしに目立つ大層御立派な造りの城が俺達を歓迎してくれた。


 王門を越える高さの石作りの城は不動の構えを取り地上の者達を威圧する厳格さを身に纏う。


 直方体の造りの城の左右には塔も併設されておりそれに拍車を掛けていた。



 王族が暮らすに相応しい立派な城。



 それがあの建物に持った素直な感想だ。


「物凄く立派な造りですよね。いやぁ……。国王様が苦労した訳だ」


 石畳の上を進むフライベンさんの後ろに続いて素直な感嘆の息を漏らす。


「お褒め頂有難う御座います」



 美しき花が咲き乱れる庭園の中央に達すると道が左右に別れ。


 左側に続く道の先には木造作りの二階建て家屋が確認出来て、右に続く道はなだらかに下って行きその先は湾曲しており終わりが見えない。



「あの建物は??」


 左の道の先に見える家屋を見つめつつ問う。


「王宮に務めている者が執務に追われて家に帰れない時に使用する宿舎ですよ」


 ほぅ、言い方は悪いけど従業員用の家屋って所か。


「右の道はどこまで続いているのだ??」


 ハンナが右の道の先へ視線を送る。


「城の裏手に存在する訓練場まで続いております。その道中に兵舎がありますので、ダンさん達が主に使用する道は右の道のみと考えて貰って構いません」



 成程、あの先に王都守備隊の方々がいらっしゃるのですか。


 王宮内の主な地図を頭の中に叩き込み、石畳の脇を飾る花達に見送られながら城の正面に辿り着いた。



「此処から先は一切の私語を慎む様にお願いしますね」


 フライベンさんが城の門に手を掛けるとこれまでとは比べ物にならない程に冷たい口調で俺達に釘を差す。


「わ、分かりました」


「それでは……。ようこそ、王家の城へ」


 彼が荘厳な出で立ちの城の扉を開くとちょいと大袈裟な口調で俺達を招いてくれた。



 城に足を踏み入れて先ず目に飛び込んで来たのはやたら明るい赤が目立つ絨毯だ。


 一体幾らするのだろうと思わず銭勘定が働いてしまう絨毯は正面門から真っ直ぐ進み、その先には木製の扉が確認出来る。


 上部を支える石柱が広い空間の中に幾つも確認出来、室内の扉は正面と左右に三つ確認存在していた。



「ゼェイラ様は右の扉の先に居られます。どうぞ、此方へ」



 引き続き彼の後に続いて右手側の扉へと続き、その扉を潜り抜けると俺達庶民がほっと肩を撫で下ろしてしまう慎ましい広さの廊下が迎えてくれる。



 ふぅ……。これくらい狭い方が肩が強張らなくて助かりますよ……。


 カツンカツンと、一人の大蜥蜴と二人の男の乾いた足音が廊下に響き渡り。その音を奏でながら幾つかの扉を通過。


 左に直角に曲がり、暫く進んで見えて来た右手の扉の前でフライベンさんが歩みを止めた。



「ここが王都守備隊を統括する執政官、ゼェイラ様の執務室です。くれぐれも粗相の無い様にお願いしますね」


 繰り返し俺達の所作に注意を続ける彼に一つ大きく頷いてみせると。


「ゼェイラ様。御二人をお連れしました」


 彼が静かな環境を害さぬ音量で扉を三度叩いた。


「――――。入れ」


「はっ、畏まりました。それではお入りください」


「し、失礼しますね……」



 フライベンさんの促される所作に従い、大変滑らかに動く扉を開いてお偉いさんの執務室にお邪魔させて頂いた。



 左右の壁際には仕事で使用するのか夥しい量の資料と思しき本と種類が本棚に整然と陳列されており、正面奥の窓から光が差し込み肩が凝る造りの部屋の全体を良く照らす。


 そして、天高い位置から降り注ぐ陽光を微かに浴びた女性が俺達の姿を捉えると微かに口を開いて第一声を放った。



「よく来てくれたな。歓迎するぞ」



 黒を基調とした清楚な制服に良く似合う闇夜を彷彿とさせる黒き髪を清潔感溢れる姿に纏め、端整な鼻筋は顔の中央を滑らかに走る。


 口調は厳しいが声色は物腰柔らかく人に警戒心を与えない。


 静かに立ち上がる所作、そして纏う空気は人の上に立つ者として相応しいものであると即刻看破出来てしまうものであり。俺と相棒は彼女の言葉に従い前へと進み。



「初めまして、ダンと申します」


「ハンナと申す」



 ちょいと散らかっている執務机の上で固い握手を交わした。



「私の名はゼェイラ=オクストップ。王都守備隊を統括する者だ。これからの予定を話す前に先ずは礼を言わせてくれ。危険な任務に帯同してくれて有難う」



 お、おぅ。よもやお偉いさんがいきなり頭を下げるとは思いませんでしたよ。



「い、いえいえ。自分達は与えられた依頼を請け負ういつまでもうだつの上がらない雇われ人ですので頭をお上げ下さい」


「礼には礼を、それが我が家訓だからな。よし、では早速話に入るとしよう」



 彼女が大変高価な椅子に腰かけるとこれまでとは打って変わって大変鋭い視線を俺達に向けた。



「貴様等は既に周知の事実だと思うが……。この街に未曾有の脅威が訪れようとしている」


「英雄王シェリダンがかつて打ち倒したキマイラ、ですよね」


「その通りだ。王都に魔の手が現れ住民達の命が脅かされる。それを未然に防ぐ為、お前達に白羽の矢が立った。奴等の力は強大であり命の保証が得られない危険な任務に兵士を送ったのなら……」



 ゼェイラさんがそこで言葉を止めると。



『これ以上説明しなくても理解出来るな??』



 そんな意味を含めた視線を俺に送る。



「自分達の役割は人身御供である事。そして人に軽々しく話せない内容である為、守秘義務が課せられている事も理解しておりますので御安心下さい」


「理解が早くて助かる。これが軍部の連中だったらそうはいくまいて……」


 重苦しい溜め息を吐いて背もたれに体を預ける。


「自分達の依頼内容について王都守備隊の方々は御存知ですか??」


「あぁ、知っているぞ」


 そうなりますと……。


「しかし、大丈夫ですかね。我々よそ者がいきなり訪れて彼等の任務に取って代わろうとしても……」



 与えられた任務に忠実で国家に忠誠を誓った彼等では荷が重いとして俺達が呼ばれた。


 彼等の心境は恐らく腸が煮えくり返る程に真っ赤に燃えているだろうから。



「案ずるな。隊員の誰かが文句の一つでも言ったのなら私が直接制裁してやる」



 彼女がそう話すと右手の拳をギュっと握って大変硬そうな拳を作る。


 鉄拳制裁、ですか。


 躾には持って来いですけどそれは問題の根本を解決していないので可能であれば最終手段として履行して下さい。


 手痛い仕返しが我が身に降りかかって来る恐れがありますので。



「は、はぁ。分かりました」


「よし!! それでは初顔合わせと行くか」



 ゼェイラさんがちょいと勢い良く椅子から立ち上がると大変凛々しい所作で扉へと進んで行くのでそれに続き、涼し気な空気が漂う廊下へと出た。


 あれ?? フライベンさんがいないや。


 案内を務めると言っていたけど……。自分の仕事に戻ったのかしらね。



「自分達は第一隊に所属すると伺いましたが彼等の実力は如何程のものでしょうか??」


 堂々と廊下を進んで行く彼女の背に問う。


「悪くはないが良くはない、それが私なりの感想だ」



 可もなく不可もなく、ね。


 馬鹿げた力を持つキマイラ相手にその実力は不相応だろうし……。外部に頼らざるを得ないのも仕方がないのかな。


 心情お察ししますよっと。


 彼女に従い城を出ると兵舎並びに訓練場へと続く道に進み、なだらかな坂を下って行くと大変広い空間が御目見えした。



「ふぅ!! まだまだ――!!!!」


「あぁ!! 掛かって来い!!」



 乾いた茶の訓練場の上では今も王都守備隊と思しき隊員達が汗を流して己の技と体を鍛えており、彼等の熱気は遠くで見ている此方にも伝わる程だ。



「ほぉ……。中々良い空気では無いか」



 鍛える事が大好きな白頭鷲ちゃんがこの雰囲気を捉えると同時に高揚した声を漏らす。


 ゼェイラさんの先導が無ければ真っ先に駆け出して行きそうだよなぁ……。


 なだらかに下って行く道沿いに兵舎と思しき建物が複数確認出来、その前をゆるりとした速度で通過。



 背の低い草が生い茂る斜面に作られた階段を下ると訓練場に到着した。



「集合!!!!」


「「「はっ!!!!」」」



 ゼェイラさんの姿を捉えると王都守備隊の面々が訓練場の中央から土埃を巻き上げて駆け始めると俺達の前に集結。



「二列横隊!!!!」


「「「はいっ!!!!」」」


 瞬く間に一糸乱れぬ隊列が形成された。


「う、うぅむ……」



 俺達の前に出来た列の隊員達の出で立ちは街中でよく見かける大蜥蜴ちゃん達よりも一回りも二回りも大きく育まれた筋肉の鎧を纏い、体には訓練で受けた傷だろうか。緑の鱗には戦士足る者が刻みし無数の傷跡が目立つ。


 先程まで行っていた訓練の影響を受けた体は微かに上下し、大きな口から覇気のある息を漏らし血走った両目で俺とハンナを捉えていた。



 い、いやいやいや……!! 俺が想像していた姿とは真逆の出で立ちじゃないですか!!


 誰だよ!? 木剣で戯れる御坊ちゃま集団って揶揄したのは!!


 ゴッリゴリに鍛えられてるじゃん!!


 筋肉の塊達に睨みを効かされると思わず後ろ足加重になってしまった。



「第一隊、集合完了しました!!!!」


「うむ。先日も話した通り、今日から彼等がこの王都守備隊第一隊に加わる。他の隊員達と同じ様に接する様に。これは命令だ」


「はっ!!」


「よし、話はそれだけだ。その二人の処遇は任せる。煮るなり焼くなり好きにしろ」


「それはどの程度まででしょうか!!」


「足腰が立たなく……。いや、血の一滴が体内に残らない程度にしろ」


「分かりました!!!!」



 ちょ、ちょっと!? 鍛えるのは聞いていましたけどシゴキに近い仕打ちを受けるとは聞いていませんでしたよ!?



「ゼ、ゼェイラさん!!」



 いきなり現れたよそ者が己の縄張りを我が物で歩き回り、それに加えて俺達がキマイラ討伐に赴くのを快く思っていない隊員もある程度存在するだろう。


 大変物騒な感情を胸に秘めて猛りに猛っているあの筋肉達に囲まれればどうなるのか??


 それが分からない程、俺は愚かでは無い。


 美しい黒の髪を揺らしつつ己の執務室に颯爽と戻ろうとする彼女の背に向かって慌てて叫んでやった。



「はははっ、安心しろ。彼等はお前達と違って脆弱だ。例え襲い掛かって来たとしても、類稀なる力を持つお前達ならぬるま湯に浸かったボンクラ共を一蹴出来るだろうし」



 あ、あ、煽っちゃ駄目だって!!!!


 彼女が鼻で笑い王都守備隊の方々に視線を送るので、俺もそれに倣って大変ぎこちない所作で首を動かした。



「「「……ッ!!」」」



 う、うぉぉ……。皆さん怒り心頭って感じですねっ。


 緑色の鱗に覆われた鼻には怒りの皺がくっきりと浮かび上がり、岩よりも硬そうな拳がプルプルと小刻みに震えている。


 ほ、ほら!! 煽ったらこうなるって目に見えていたでしょ!?



「休息日は追って知らせる。今日から互いに切磋琢磨して高みに昇れ、以上だ」



 ゼェイラさんが足早に立ち去ると大変気まずい沈黙が流れ始め、それは秒を追う毎に重苦しいものへと変化。


 縄張りを荒らされた猫とよそ者の猫が裏路地で対峙する様に、俺達の間に一触即発の空気が漂い始めた。



「……」


「あ、あはは。皆さん、本日からお世話になるダンと申します。よ、よ、宜しくお願いしますね」



 闘志にも殺気にも判断出来る鋭い視線を体の真正面で正々堂々と受け止めている相棒に対し、俺は初対面に相応しく遜った挨拶を放った。


 確実に最悪に近い形であると判断出来る初顔合わせを終えた俺達は言葉を交わす事無く、広大な訓練場には一陣の風がびゅぅっと虚しく舞う。


 風により舞い上がった砂塵が俺達の物々しい雰囲気を捉えるとヘコヘコと頭を下げて何処かへ向かって流れて行く。


 俺もあの砂塵の様にこの場所から離れられたらどれだけ楽だろう。


 だがそれは決して叶わない願望なので先程よりも更に後ろ足加重になりながら硬い生唾をゴックンと飲み干し、筋骨隆々の王都守備隊第一隊の隊員達と対峙し続けていた。




お疲れ様でした。


本来でしたら昨日の日付が変わる頃に投稿しようと考えていたのですが……。パソコンの更新が突如として始まり、洒落にならない程重くなってしまい。更新を続ける為に再起動をしたのですが。


更新が終わるのに二時間程掛かってしまい投稿を断念せざるを得ない状況になってしまいました。


あの突如として始まる更新、何んとかなりませんかね?? 私が使っているPCが古い所為もあるのですが一度更新が始まったら中々終わらないのですよ。


そろそろ買い替えの時期が来たのかなぁっと思う次第であります。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座いました!!


いよいよ始まる新しい話の執筆活動の嬉しい励みとなりました!! 本当に有難う御座います!!




それでは皆様、良い週末をお過ごし下さいませ。

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