第八十二話 溶け合う心と体 その二
お疲れ様です。
後半部分の投稿になります。
厳しい冬を越えて漸く訪れてくれた心安らぐ春の陽光。
生命に満ち溢れた世界にしようと大地を温めてくれる光の温かさは何物にも代え難く、この世に生を享受した者達はその光を受け取るとすべからく感謝の意を抱いて空を見上げる。
俺もその例に漏れず体に届く光の温かさを大切に噛み締めながら微睡と覚醒の狭間を行き来していた。
この不思議な感覚は精神の世界に訪れた時に起こる特有の感覚なのだが、本日はそれに加えてもう少し不思議な感覚が身を包んでいた。
何故か知らぬが足は大地を掴んでおらず宙に浮いている時の浮遊感を捉え、太くて硬い縄みたいな感触が体中を取り巻く。
そよ風が吹けば俺の体はその風に合わせてぷ――らぷらと揺れ動き。
「ん――……。中々良い光景ですね」
女性の喜々とした声が響くとそよ風よりも大きな振れ幅で体が揺れてしまう。
一体俺の身に何が起きているのか??
怖いもの見たさじゃないけども、現状を確かめる為に恐る恐る重たい瞼を開いた。
「……」
「あ、ダンさん。お早う御座います」
「おはよう」
起床とほぼ同時に放つべきである台詞を、『眼下』 でニッコニコの笑みを浮かべている人型の聖樹ちゃんへ向かって話してあげた。
「現在ダンさんの体内の魔力の安定化、並びに魔力の源の固定化を図っていますので暫くはこちらの世界で意識を預かりますね」
「有難う御座います」
「ふふっ、そう畏まらなくてもいいんですよ??」
畏まらなくてはいけない理由が俺にはあるので大変遜った口調でそう話しているのです。
それを汲んで頂けたら幸いかと。
「どうして??」
俺の心の声を読んだ聖樹ちゃんが可愛らしく首をキュっと傾げる。
何故って……。
心地良い睡眠を享受していて目覚めたらどういう訳か、蚕の繭みたいに体全体に太い蔦が絡みついて宙に吊るされていたら誰だって警戒しますよ??
「安心して下さい。ダンさんの態度次第で安全安心に過ごせますから」
安心する処か自分は物凄く不穏な気配を察知して恐怖と畏怖の念が心に渦巻いております。
「そんなに怖がる事はありませんよ。ハンナさんから伺ったかと思いますけど、二日後に王都へ帰還するのですよね」
「えぇ。受け賜った依頼は失敗に終わったと伝えなきゃいけないですから」
依頼人であるジュッテちゃんには申し訳無いが聖樹ちゃんの許可が下りない限りあの薬草を採取する事は出来ないのだ。
頑是ない彼女の願いを叶えたいのは山々だが……。この美しい森を守る為にも厳しい掟を守らなければならないのです。
「その事について、なんですけど……」
微笑ましい陽性な表情から一転。
聖樹ちゃんが少し曇った表情に変化すると無意味に体を揺らして俺から視線を外してしまう。
「ダンさんが約束を守ってくれるのなら『ケルト草』 を譲渡しても構いませんよ??」
何ですと!?
「え!? いいの!?」
「まだ渡すとは言っていません。これからその約束を話しますのでそれを確実に守って頂けるのなら譲渡すると言ったのです」
逸った俺を咎める口調で話す。
「あ、あぁ。ごめんね?? では……。その約束とやらを提示して下さい!!」
恐らく提示される約束は俺が中々首を縦に振らない程に物凄く厳しい条件なのだろう。
それだけの価値があの薬草、つまりケルト草にはあるのだから。
「コホン、では幾つかの約束を提示させて頂きます」
彼女が可愛らしく咳払いすると再び俺を見上げた。
「その一、ダンさんの魔力の流れ及び魔力の源は残り二日間を掛けても安定させるのは難しいので時間が出来たのなら此処へ再び足を運んで下さい。その二、治療に訪れる際には王都からお土産として幾つかの本を持って来て下さい。本の種類は問いません。その三、無理をして魔力を大量使用しないで下さい。ダンさんの魔力の容量はハンナさんの半分にも満たない。つまり、馬鹿みたいに魔力を使用すればコロっと向こうの世界へ旅立ってしまう恐れがあるのです。その四、ケルト草は此処で入手したと決して口外しない事。その五は……。えっと、ですね。そのぉ、ですね……」
はぁい、もう少しで言えまちゅからね――。頑張ってお母さんに伝えましょうねぇ――。
宙に吊られたまま頑張って母親に何かを伝えようとしている幼き娘に対して放つ台詞を心の中で唱えたのが不味かった。
「私は貴方よりも数百倍長生きしているのですよ!? 口調を改めなさい!!」
「グボェッ!?」
体全身に絡みついている太い蔦が有り得ない拘束力を発揮。
強力に締め上げられた勢いで口の中から出てはイケナイ何かが飛び出してしまいそうだった。
「ご、御免なさい……。つ、続きをどうぞ……」
素直に謝意を表して即刻降参宣言をする。
「全く……。残る最後の約束は約束じゃなくてお願い、なのかな。残り二日間、ハンナさんとの訓練はお休みにして私とここで沢山御話をしましょう」
何だ、全然簡単な約束じゃないか。
身構えてちょっと損しちゃったじゃん。
「ダンさんが想像し得る難しい約束を提示しても宜しいのですよ??」
「結構です!! その約束を全て飲み込みましょう!!」
「はい、良く言えましたね」
彼女が柔らかい笑みを浮かべると同時。
「あいだ!!」
俺の体を拘束していた太い蔦の力が緩み、ちょいと高い位置から緑の絨毯の上へと落下してしまった。
「いてて……。もう少し優しく下ろしてくれてもいいんじゃないの??」
尻に付着した土を払い今も微笑みを浮かべている聖樹ちゃんにそう言ってやる。
「これ位の高さなら大した怪我を負いませんし。それにダンさんの内に秘めたる力を鍛える為にも適度な痛みは必要なのですよ」
それは体の良い言い訳であって、人の許可を得ずに暴力を加えたらいけないのですよ??
これは普遍的な社会倫理なのですから。
「辛辣な事で……。でも有難うね。ケルト草、だっけ。大切な薬草を渡してくれて」
嫋やかに足を崩して座る彼女の隣に大雑把に足を投げ出して腰かけて礼を述べる。
「ダンさん達が信に足りる人物であると判断したまでです。もしも、約束を反故した場合は……」
分かっていますね??
そんな意味を含ませたちょっと鋭い瞳を浮かべて俺の横顔を見つめる。
「分かっているさ。こう見えても口は堅いし、カワイ子ちゃんとの約束は必ず守る律儀な男なの」
「そうだといいんですけどねぇ」
あはは、唇を尖らせると余計幼く見えるな。
現実世界の聖樹ちゃんはそれはもう立派な樹木で、荘厳という文字が似合う出で立ちだからその差異にちょっと驚いてしまうよ。
「さっきの約束の中にもあったけど、俺の魔力の源って直ぐに乱れてしまう様な不安定なものなのかな??」
真正面に映る美しき木々を見つめながら問う。
「魔力の源を固定する事によって魔力の流れは安定して流れていますが、ダンさんは数日前まで人の身でありました。その影響を受けてかそれとも私の技量が未熟な所為なのか、魔力の源を完璧に固定する作業が難しくて……」
魔物には人体が当然持つ心臓が備わり、それに加えて魔力の源という第二の心臓とも呼べるものがある。
五臓六腑と等しき重大な臓器を固定させるのだ。それ相応の技術が必要となるのだろう。
「聖樹ちゃんは俺みたいな人間を魔物に変えた事はあるの??」
「いいえ、初めて経験ですよ?? 第一、私が生まれてから一度たりとも此処に人が来た事がありませんので。そして母は一度だけそういった経験をした事があると言っていたのでその方法を教えて貰いました」
ふぅん、先代の聖樹は人間を魔物に作り変えた事があるのか……。
「成程ねぇ。これからもお世話になりますね」
聖樹ちゃんに向かって改めて静々と頭を垂れた。
「いえいえ。その際にダンさんの記憶が私の中に流れ込んで来ますので先程の約束を破ったのなら即刻看破出来てしまいますのであしからず」
う、うぅむ……。俺の頭の中にある真実をまざまざと直視されればどう頑張っても誤魔化しが効かないのか。
嘘も方便とはいかないよね。
「その通りですっ。はぁ――……。ダンさん達が此処に居るのも後二日間、か」
聖樹ちゃんがフっと溜息を吐くと物寂しそうに宙へ視線を送る。
「何も今生の別れになる訳じゃないんだし、それに治療の為に戻って来るからさ」
「そうなんですけど……。こう、何んと言いますか。友人から預かっていた出来の悪い子犬が突然いなくなった喪失感とでもいいましょうか。自分の家の中で自由奔放に暴れ回っていた子犬に手を焼く必要が無くなり、ホっと息を付く一方で目の回る忙しさが無くなってしまった事に寂しさを感じるのですよ」
え、っと。その出来の悪い子犬ってもしかして俺の事??
「その通りですっ。私の了承も無しに荷物を広げ、勝手に寝床を作り。果ては危険な場所へと赴き酷い怪我を負って帰って来るのですから」
うむ……。どの言葉にも言い返せないのがとても歯痒いですね。
「ダンさん達は良いですよね――。自分達の思う所へ好きな時に歩いて行けるのですから」
聖樹ちゃんが巨大な溜息を吐いて足元に生える背の低い草を見つめる。
「そうだなぁ。それは確かに羨ましく見えるだろうね」
彼女には人体に当然備わっている足という存在が無い。
生まれた時からその場所に居続けなければならなず、それに加えて聖樹にはこの森を守るという使命が与えられている。
根無し草の様に漂う俺が羨ましく見えて当然だろう。
「そうです、羨ましいです。私にも足が生えていたらダンさん達と色んな世界を見に行けるのに」
聖樹ちゃんが人差し指をピンっと立てると俺の脇腹を突く。
「さっきの約束のお返しじゃないけど、俺も聖樹ちゃんと一つの約束をしていいかな??」
横着な指をやんわりと払い、ムスっと眉を顰めている彼女の顔を捉えて話す。
「約束??」
「これからも俺の事を友人として捉えてくれるのなら世界中を旅して見て来た、経験して来た事をお土産として持ち帰って来るよ」
魔力の固定が終わってはい、さようならじゃあ本当に寂しいし。それと何より友人が一人寂しく森の中に佇んでいるのは放っておけないから。
「い、いいんですか!?」
沈んでいた顔に眩い光が舞い戻ると端整な顔が距離感をちょっと間違えた場所まで近付いて来る。
「う、うん。ある程度時間が出来た場合に限りますけど……」
突然の急接近に目を白黒させていると。
「やったぁ――!! あはは!! 有難う御座います!!」
「ちょっとぉ!!」
己の感情を一切の装飾無しに炸裂させて抱き着いて来た聖樹ちゃんに押し倒されてしまった。
「こ、こらっ。お母さんを押し倒したら駄目じゃないの」
俺の体の上で喜々とした表情を浮かべている彼女に対してやんちゃ盛りの子供をあやす口調でそう話す。
「だって嬉しいんですもの。人間はこうやって感情表現を表すのでしょう??」
「それはそうだけどさ、感情と意思を持って社会生活を営む生物は適度な距離感というものを保つ習性があるの」
お分かり??
そんな感じでお腹の上に乗る柔肉さんに説いてやる。
「私は……。その社会生活から外れた場所に存在していますからその必要はありませんよ……」
おっとぉ?? 何だか急に俺好みの怪しい雰囲気に変わり始めましたねっ。
聖樹ちゃんの柔らかい曲線を描く頬は微かに朱に染まり、己の感情を隠し切れぬ両の瞳は徐々に熱を帯び始めていた。
「……っ」
初めて人の体を得た彼女はこれからどうしたらよいのか、その判断に迷っている感じだ。
異性の体の上に跨り熱を帯びた意味深な淫靡な視線を向けるこの行為ッ!!
こ、こ、これはちゅまり!! そういう事と判断しても宜しいのですよね!?!?
心に沸々と湧く男の性に従い彼女の頬へ向かって手を伸ばそうとするが……。
相手は俺の数百倍もの長い期間生きて来た言わば人生の大先輩であり。しかもラタトスク達から聖なる存在として捉えられている存在だ。
俺みたいなちっぽけな人間……。基、魔物が迂闊に手を出してもいいのだろうか??
微かに残った理性がもう少しよく考えて手を出しましょうねと不埒な俺を躊躇させてしまった。
「温かい……。ダンさんの心が手を通して伝わって来ます」
中途半端な位置に留めていた俺の手を彼女が優しく手に取り、己が頬に添えるとちっぽけな理性が立ち処に霧散。
「いいのかい?? ここが最終分水嶺だぞ??」
正常な判断を下せないと理解した俺は聖樹ちゃんに此処から先に進むべきかの判断を委ねた。
「ダンさんの記憶を覗いた時、親しき男女はこうして別れを名残惜しむ事を理解しました。それに母は何事も経験であると私に教えてくれた。人の体の不思議、互いの肌を温める感触。そして……、男の人の逞しさ。そのどれもが初めての経験ですので少し怖いですけど……。貴方となら」
ほんの少しの恐怖と多大なる興味心が混ざり合った女の表情を捉えた刹那に男としての本能が炸裂。
相手に警戒心を与えない速度で上体を起こすと勇気を振り絞り己が本心を伝えてくれた彼女を抱き締めた。
「聖樹ちゃん……」
「――――。私の真名は、ルクト=ルナファレト。心許した者にしか伝えない真実の名です」
「有難う、大切な名前を教えてくれて……」
体の内側から燃え滾る熱量をどうしたらいいのか理解出来ずに只々硬直しているルクトの頭をそっと優しく撫でてあげる。
「い、いえ。こういう時にこそ伝えるべきと判断したまでですから」
「そっか。それじゃ……、頂きます」
「ふふっ、私は食べ物じゃありま……。んっ」
俺の手を誘う様に潤んでいる唇にそっと己の唇を合わせると本当に優しい気持ちが湧いて来た。
生まれたての雛鳥の羽毛の様に柔らかい彼女の唇はほんの微かに震えていた。
「ふぅっ。いきなり呼吸を阻害されたので驚い……。んんっ!?」
互いの好意を確かめ終える優しい口付けを終えると、何者にも侵されていない真っ新な雪原の様に白く透き通った首筋の肌を甘く食む。
「やっ……。ちょ、っと。ダンさん……」
熟れた林檎の様に朱に染まった彼女の唇を食み甘く囁く。
「ルクトこのまま……。最後まで行くぞ??」
「は、はいっ。お、お手柔らかにお願いします……」
ルクトの体の微かな震えはいつの間にか消え失せて男に全てを委ねる女の柔らかさに変化。
燃え滾る欲情の赴くまま俺は彼女を求めそして彼女もまた俺の体を求めてくれた。
「いっ……」
緑の絨毯の上で愛の序章を奏で始めると彼女は俺を受け止めた痛みで顔を刹那に歪めるが。
「大丈夫です。そのまま……、続けて下さい」
弱々しい笑みを浮かべて俺の体を強く抱き締めてくれた。
その健気な姿を捉えると一切の理性が消失。俺は自分の欲望の赴くままに彼女の体を貪り始めた。
男女間の普遍的な愛の営みは何度も行った事があるが……。ここが精神の世界なのか将又ルクトとの魂の距離が近い影響か。
互いの体と魂を混ぜ合わせて文字通り一つになった快感が体の中を突き抜けて行く。
人生の中で一、二を争う快感が消失すると俺は柔らかくて温かな彼女を抱き締めたまま力無く地面に横たわった。
「――――。よっ、大丈夫だった??」
体を弛緩させて俺に身を委ねている彼女に問う。
「え、えぇ。まぁっ……」
未だ熱が冷め止まぬ顔は仄かに赤く染まり、目が合うと己の羞恥を悟られぬ様に端整な顔を俺の胸に埋めてしまう。
「どうだった?? 初めての経験は」
嗜虐心を多大に誘う仕草を取ったルクトの淡い緑の髪を撫でつつ問う。
「痛みと得も言われぬ不思議な感覚が混ざり合った感覚でしたね」
「あはは、そっか。所で……。申し訳無いんだけどさ」
「どうかしました??」
「えっと、ですね。こういった行為は物凄く久し振りだったのか。もう一人の俺はまだまだ満足していない御様子なのですよ」
俺が彼女の頭を撫でつつそう話すと。
「――――。あ、あぁ。確かにそうみたいですね」
ルクトが視線を動かしてソレを確認すると呆れにも似た表情を浮かべた。
「まだ熱が治まりませんのでもうちょっと落ち着いてからお願いしますね」
「一度燃え上がった熱を冷ますのは勿体ないさ。このまま……。二人で何処までも燃え上がろうぜ」
「やっ……。ちょっと……。駄目です……」
愛の序章を奏で終えて鎮まった体に再び熱を灯し、俺達は終章まで一切休む事無く演奏を続けた。
二つの魂が完全に瓦解して境目が消失した魂は完璧に一つの形となり、太陽の光さえも凌駕する強力な光を放つ。
俺達は互いの体力が尽きるその時まで愛という名の輝かしい光を放ち続けていた。
生も根も尽き果て、混ざり合った互いの魂が分離するまで一体どれだけの時を要したのだろう??
俺達は気が付けば何も言う事も無く、何をする事も無く只々互いの体を抱き締め合い緑の香りが漂う緑の絨毯の上に溶け落ちていた。
「――――。ダンさん、起きていますか??」
俺の上に覆い被さる様に横たわり体を虚脱させているルクトが静かに問う。
「な、何んとか生きているよ」
「ふふ、大袈裟ですね」
「そりゃそうさ。ここまで激しく求めたのは初めてなんだし……」
彼女の背に手を添え、緑の間隙を縫って上空から零れ落ちて来る陽の光を見上げて話す。
こっちの世界に来てどれだけの時間が経過したのだろう??
精神の世界での太陽の角度は不変だから時間の経過が曖昧だな。
「現実世界ではもう間も無く二日が経過しますよ。東の空が白み始めて素敵な雰囲気が森には漂っています」
俺の心の声を汲み取ったルクトが柔らかい笑みを零してそう話す。
「じゃあそろそろ向こうへ帰る準備をしなきゃね」
俺達は二日間も互いの体を求め合っていたのか……。何気に自己最長記録を更新ですねっ。
「帰る??」
「え?? うん、王都に帰る為に準備をしなきゃいけないし。それに相棒がいい加減起きろとそろそろ蹴りを入れて来る頃だからさ」
この人は一体何を言っているんだろうと可愛く首を傾げている彼女に話す。
「まだ時間は残されていますし、それにハンナさんはこの二日間泉の側で静かに暮らしています」
へぇ、アイツも空気を読めるようになったんだ。
良い傾向じゃあありませんか。
「そっか。じゃあ、相棒と帰還の準備を……」
彼女の双肩に手を添えて上体を起こそうとするが。
「駄目ですよ??」
ルクトが俺の手をやんわりと払うと女の表情へと変化。
「私の話をちゃんと聞いていましたか?? 私はまだ時間はあると申したのです」
本当に遅々足る所作で上体を起こして俺を見下ろした。
口から零れる淫靡な息は男の思考を阻害する様に甘く、その目の色は獰猛な肉食獣の様に鋭く光り俺の体を捉えては離さなかった。
う、うん。はっきりいって物凄く不穏な気配がしますね!!
「か、帰り支度の話でしょ?? 結構いい加減に広げてあるから纏めるのに時間が掛かりそうだよね」
「ふふ、そういう意味ではありません。私と共に過ごす時間はまだ残されているという意味です」
あ、あぁ成程。俺の予想通りそっちの意味でしたか……。
「えっと、申し訳無いけどね?? もうかなりヘトヘトで体力が小指の先の爪程度にしか残されていないのです」
燃え滓程度に体内に残っていた熱が再燃してしまったルクトの恍惚に塗れた顔を捉えて恐る恐る話す。
「それは貴方の主観です。私はまだまだダンさんの熱を受け止めきれていません」
い、いやいや!! そっちこそ俺の話を聞いて下さいよ!!
「そ、それもルクトの主観じゃないのかなぁ」
俺の腹の上で怪しく蠢く彼女の手をやんわりと払う。
「この二日間行われて来た愛の歌。最初は戸惑っていましたが……。漸く慣れて来た所です。時間が許すその時まで共に……、愛の歌を奏でましょう……」
「で、ですから!! もう体力が……。んぐっ!?」
彼女を腹の上に乗せて最終最後まで抗っていたが。
「駄目……。ここに居る時だけ、貴方は私の物なのですから……」
横着で淫靡な唇に口を塞がれてしまい女の香を直接体内に流し込まれてしまうと悔しいかな。
『ったく……。しょうがねぇなぁ。最後の一回だぞ――』
草臥れ果てて眠っていたもう一人の俺が、休日のお父さんがベッドの上で起き上がる様に遅々足る所作で起床してしまった。
「ほら、元気になった」
ルクトがほんの少し距離を取って俺の下半身の変化を捉えると怪しい笑みを浮かべる。
「これは……。そ、そう!! 朝だから!! 朝だから仕方がないの!!」
「ここで暮らしている時も朝一番は驚く程に元気でしたからねっ」
「だから覗かないって言ったで……!!」
「五月蠅い口にはお仕置きが必要ですね」
「んぶむっ!? ひょ、ひょっと!! 撫でちゃ駄目らっへ――!!!!」
愛を求める女性の下で悶え打つ男の姿は傍から見れば滑稽に映るだろう。
だが夢にも思わないだろう?? たった二日間で初心な女性が妖艶な大人の女性へと成長するなんて。
全身を使って俺の体を貪り食らい続ける彼女の激しい攻撃に耐えるが……。
「ふぁ、ふぁなひて!! 肉でおふぉれちゃう!!」
「駄目です。まだまだ私は満足していないのですから……」
「ふぃぁぁああ――――ッ!?!?」
親猫に甘える子猫の様な柔らかく遅い手の仕草が全身の快感を高め、俺の感度を引き出した頃合いを見計らうと甘えが一切消失してしまった野獣の如く激しい動きで男を屈服させてしまう。
俺のちんけな防御策はこの強烈な淫靡の連続攻撃の前では最早紙屑同然。
最終最後まで抗っていた男としての尊厳は恐らくそう長くもたないであろうと、短時間で急成長を遂げた彼女に身を以て分からせられてしまったのだった。
お疲れ様でした。
次の御話で彼等は森を去り王都へと戻ります。その数話後に新たなる依頼が舞い込むのですが……。
その進捗具合が中々宜しく無いのが現状ですかね。
時間を見付けては書いて、行き詰って休憩して。そしてまた書いて……。その繰り返しを続けている次第であります。
そして、ブックマークをして頂き有難う御座いました!!!!
中々筆が進まず意気消沈している体に嬉しい知らせとなり、執筆活動の励みとなりました!!!!
頑張って書きますので彼等の冒険をこれからも温かい目で見守ってあげて下さいね。
それでは皆様、お休みなさいませ。