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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第七十七話 大切な御話 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




 体温とほぼ同じ位の素肌に大変優しいぬるま湯に浸かり目的も無く静まり返った水面を漂う。


 微睡とも熟睡とも受け取れるこの不明瞭な感覚が非常に心地良く、一切の思考を停止させて身を委ねていた。


 それから暫くすると体に感じていた重さが全て消失。


 体の質量が消失して魂だけの存在となって宙に漂い、俺は終わりなき流浪の旅へと出掛けてしまうのだろうか??


 そんな下らない妄想さえも掻き立ててしまう程に体が、そして魂が現実と虚構の狭間をユラユラと行き交う。


 物凄く心地良い感覚なんだけど……。このままこの不思議な感覚に身を委ねてしまっても大丈夫かと憂慮を胸に抱く自分も居る。


 己に課された使命を果たす、この世に生を受けた者としての役目を全うする。


 現実世界で呆れる程に山積されている課題から目を背けても良い事は何も無い。


 この世に生を受けて二十六年の中で培った経験と知識が不明瞭となった己の体の形をものの見事に再形成させると体に重さが復活。



 それと同時に消失していた筈の五感も戻って来た。



 背に感じるのは少々硬めの土の感覚、肌を撫でるそよ風が心地良く、鼓膜を刺激する木々の葉が擦れ合う小気味良い音が心を潤し、瞼を閉じたままなのに闇の先から仄かな光を感じる。


 味覚は……、残念。口の中に何も含まれていないので無味ですね。


 そして最後の五感である嗅覚を確かめるべくスンッと、鼻から矮小な空気を吸い込むと。



 ん――……。爽やかなんだけどその実、ちょっと甘い匂いがするな。


 強いて例えるのならまだ熟していない林檎の香りって感じだ。


 どちらかと言えば好みの匂いを嗅ぎつつ、他の五感をもっと刺激しようとして寝返りを打つと。



「あ、もう……。急に動いたら駄目じゃないですか」



 右頬にムニっとした大変柔らかい感覚が広がり、自然の音の中に聞き覚えのある女性の声色がそっと響いた。



 あっれ……。俺って今、夢を見ているんだよな??


 夢の世界での出来事はいつも不明瞭なのに今受け取った感覚は物凄く明瞭だったんだけど……。


 俺好みの感触をもっと堪能しようと考え百八十度寝返りを打ち、物凄く良い匂いを放つ柔らかいお肉ちゃんにヒシと抱き着いた。



「ちょっ!! も、もう……。ダンさんって意外と寝癖が悪いんですね」



 頭上から降って来た女性の声と左頬に感じる柔らかな触感、そして眼前に広がる素敵な匂い。


 どうやら俺は見知らぬ女の子に膝枕をされて眠っている様だ。


 夢の中で寝るってのも可笑しな話だが受け取っている感覚からしてそれ以外の方法で説明するのは困難だからね。



 五感がものの見事に働いている、自分に都合の良い夢、そしてここは法も倫理も公共の福祉も一切存在しない世界。


 折角なら、どうせなら、そのついでに等々。



『だ、駄目ですよ。自分勝手に行動しちゃ』


『何を言うんだ。ここは己が望む様に動ける素敵な世界なんだぜ?? 今、動かなきゃいつ動くって言うんだ』


『それでも!! 倫理観は大切にすべき……。いったぁぁああい!!』



 最後まで下らねぇ倫理感に抗っていた善の心の尻を思いっきり蹴飛ばしてやり、善と悪の相対する心を持つ自分に体の良い言い訳を聞かせてやると……。


 右手をひょいと上げてきゃわい子ちゃんの果実をそっと掴んだ。



「ひゃぁっ!?」



 んぅ!! 大き過ぎず且小さ過ぎず!! そしてぇ……。張りよぉぉしっ!!


 芸術点の高い双丘の片割れを掴みその柔らかさを堪能しているととんでもねぇ痛みが全身を駆け巡って行った。



「おふざけはそこまでです!!!!」


「アバババビビッ!?!?」



 な、何ッ!? 巨人が使用する馬鹿デケェ鞭でブッ叩かれた様なこの感覚は!?


 気が遠くなる痛みが生じると素敵な匂いと柔らかな感触が一気に遠ざかり土の匂いがする大地の上を有り得ない速度で転がり続け、それが漸く停止すると本当に静かに瞼を開いた。



「はぁっ……。はぁっ……。やっぱり男の人はけだものですねっ。不用意に近付くなと母が教えてくれたのも納得出来ますっ」



 背の中央まで届く薄い緑色の長髪をフルっと動かした後に乱れた髪を細い指で大切に直し、そのついでに一繋ぎの白い服の胸元を真っ赤に染まった端整な顔のままで整えて行く。


 顔の中心をスっと通った端整な鼻筋に三日月も思わずハンカチを唇で食んで嫉妬する美しい弧を描いた両の瞳。


 誰しもが彼女を捉えたらこう話すだろう。



『中々の美人さん』 だと。



「あぁっ!! やっと起きましたね!!」


 多大なる痛みを受けて覚醒した俺と目が合うと翡翠の瞳がキュっと縦に開く。


「お早うございます」



 立派な大人が取るべき挨拶を放ち、俯せの姿勢から正座の姿勢へと移行して見ず知らずの女性に頭を下げた。



「全然起きないから心配していたんですけど、起きてくれたので嬉しいです」


 はぁ……。俺も寝起きで貴女みたいな美人の眩い笑みを拝見出来て光栄ですよ??


「び、美人って……。これはあくまでもダンさんの想像した姿であって。現実の私と乖離した姿なのですけどね」



 想像?? 現実との乖離??


 一体全体このねぇちゃんは何を言っているのだろう??


 取り敢えず首を傾げたまま状況を確認する為に周囲へ視線を送った。



 俺の背後には美しい泉があり矮小な風を受けて水面が微かに揺れている。背の高い木々が太陽の光を遮り幾つもの光の筋が地上へと降り注ぎ緑の景色を昇華。


 この景色に値段を付けるのだとしたら王族もドン引きする程に高価なものとなるだろう。



「――――。えっと、初対面で唐突な質問を許して下さい。此処はどこ??」



 俺と彼女を取り囲む景色を三百六十度堪能した後、今俺が聞くべき質問を問うた。



「此処ですか?? 私とダンさんの精神世界ですよ」


 はい?? 二人の精神世界??


「えぇ、そうです。私の姿はダンさんが勝手に想像したといいますか……。恐らくこういう姿なんだろうなぁっという心に浮かぶ幻影が目に見える形となって表れているのですよ」


 はぁ、透き通った声色に良く栄えた笑みですね。


「ふふ、有難う御座いますね」


「どういたしまして。続けての質問します、何故貴女は俺の心の声が聞こえているのです??」



 思わず心臓がキャァッと頬を赤らめてしまう笑みを浮かべる彼女に至極真面目な表情で問う。



「ですから二人の精神世界ですって言ったじゃないですか」



 貴方は馬鹿なのです??


 そんな呆れにも似た笑みを浮かべる。



「だから。いきなり訳も分からない場所に連れて来られて尚且つ精神の世界と言っても理解出来る訳ないでしょう??」


 このふざけた超常現象を俺の頭でも分かり易く説明してくれ。


「分かりました。ダンさんの空っぽの頭でも分かり易く説明致しましょう!!」



 ムンっと両手に可愛い拳を作りちょっと荒い鼻息を放つ。


 御免、空っぽって単語を付け加える必要ありました??



「ダンさん、少し前に自分に起きた事をよく思い出して下さい。説明するのは現実世界での出来事を思い出してからです」


「少し前に起きた事?? ん――……」



 両目をキュっと瞑り、その出来事を探る為に記憶の海へ向かって深く潜って行く。


 少し前でしょ?? つまりぃ……。



『あっ……。ダン、いいよ……』



 一糸纏わぬ生まれたままの姿で顔を赤らめて体を貫く快感に身を委ねている女性の姿を思い出すと。



「ブフッ!? ば、馬鹿じゃないですか!? そ、そんな卑猥な記憶を思い出さないで下さいよ!!!!」


「ドッブグ!?」



 上空から太い蔦が襲来。


 俺の左頬に強烈なビンタをブチかまして来やがった。



「な、何するんだよ!!」


 捻じ切れる寸前まで移動してしまった首を元の位置に戻して叫ぶ。


「女性の裸よりももっと思い出さなきゃいけない大切な記憶があるじゃないですか!!」


 顔を真っ赤に染めてプリプリと可愛らしく怒る。



 へいへい……。理不尽な暴力を受けない為にも大人しく従いますよっと……。



「ふぅ――……。すぅ――……」



 精神を集中させて再び記憶の海に潜って行くと、決して失ってはいけない相棒の顰め面が出て来た。



 ハハ、相変わらずおっかねぇ面してら。


 アイツと出会ってからは毎日が楽しくてしょうがない。


 相棒の顰め面は生まれ故郷を発ち、南のリーネン大陸に渡った後も健在でいい加減にしないと顔面がその形になっちまうぞと揶揄しても直す気配は見られ無いし。


 帰郷したらきっとクルリちゃんに叱られるぞ。



『もうちょっと優しい顔をして!!』 ってね。



 彼と共に幾つもの依頼をこなし、俺達は依頼人と街の人達から得た信頼によって新たなる依頼を受ける事となった。


 そう……。聖樹の麓に生えると言われている薬草の採取だ。


 俺と相棒はウォッツ君と共に森へと入り、そして……。そしてぇ……!?!?



「――――。ヤ、ヤダッ!? 俺ってもしかして死んじゃったの!?」



 現実世界で最後に見た光景が頭の中にパァっと浮かび上がると思わず立ち上がって叫んでしまった。


 そうだ、そうだよ!!


 右肩に蠍の毒針が刺さって……。


 つまり!! 俺の目の前にいるカワイ子ちゃんは俺の魂を迎えに来た死神ちゃんなのかしら!?



「一時は本当に駄目かと思いましたが私の治療とそしてダンさんの持ち前の呆れた頑丈さによって一命を取り留めましたよ。後、私は死神ではありません」



 そ、そっかぁ……。良かったぁ。


 そして先程受けた猛烈なビンタが次なる記憶を思い出させた。



「その可愛い声色と唐突な蔦のビンタ。ちゅ、ちゅまり俺の目の前に居るのは……。聖樹ちゃん??」


「大正解です!! 漸く全て思い出した様ですね!!」



 うっはぁ……。笑った顔が可愛いのなんの……。



「か、可愛いとか言わないで下さい。私の外見はダンさんが勝手に想像した物を拝借しているだけなのですから」


「えぇっと、つまり。なんやかんやあって聖樹ちゃんは俺と精神を繋げてこうして会話しているって事で合っているのかな??」


「その通りです。では、今からダンさんが倒れた後に起こった出来事を話して行きますので静聴して下さいね」



 了解しました。


 彼女の前で静かに座して親切丁寧に静聴する姿勢を取った。



 人の姿の聖樹ちゃん曰く。



 俺は生の略奪者から致死性の猛毒を受けて倒れてしまい、その毒を受けたのなら本来であれば直ぐに死を迎えるのだが……。


 針を素早く抜いて注入される毒液を矮小に阻止した事、そして相棒が馬鹿げた速度で死に体となった俺を担いで森を駆け抜け聖樹ちゃんの下へと運び治療を受け続けた結果。



 九死に一生を得たそうな。


 自分の強運と頑丈さに改めて感謝しますよ。



「――――。そして私が聖なる力を与えて体内の毒素を消失させたのです。理解して頂けました??」


「えぇ、全て完璧に理解したよ。有難うね?? こんなちっぽけな人間を助ける為に力を尽くしてくれて」



 相棒なら兎も角、まだ知り合って間もない彼女が俺を助ける義理も無いってのに。



「ダンさんとの会話は楽しいですからね。その機会を消失させるのが憚れただけです」



 ハンナは自分から色々話す質じゃないからねぇ。



「彼は今もダンさんの側を付いて離れて居ませんよ?? 本当にダンさんの事が大切なんだと思います」



 ほっほう、それは良い事を聞いた。目が覚めたのなら思いっきり揶揄ってやろう。



「怒られても知りませんよ?? しかし……。ダンさんの精神世界に来てから体を動かす感触を初めて知ったのですが……。体を持つのは不思議な感覚ですよね」


 聖樹ちゃんが己の右腕を上げたり下げたり、筋肉の稼働を確かめる様に肩を静かに回す。


「普段は木の姿だから当然か……。その体の柔らかさにも驚いたんじゃない??」


「えぇ、本当に驚きました。これだけ柔らかいと不便ですよね。大地から素敵な力を頂けませんもの」



 人間としてはそっちの感覚の方が常識外れで、共感してあげられないのが申し訳無いね。



「どう?? その姿は気に入ったかな??」


 まだ不思議そうに己の体を見下ろしている彼女に問う。


「ん――……。もうちょっと背が低くても良かったかなぁ??」



 聖樹ちゃんはものすごぉく背が高いからねぇ。きっとそれが影響しているのでしょう。


 彼女の姿をマジマジと眺めていると……。ふと天才的なひらめきが脳裏に過って行った。



 ここは俺の精神と彼女の精神が混ざり合った世界。


 それは即ち心の中に浮かぶ光景、例えば……。人の姿や動物等を自由に思い描けるという事に繋がるのではないだろうか??


 聖樹ちゃんが人の姿である事はそれを如実に証明している。


 つまりだよ!? 俺が想像すれば理想的な光景が目の前に広がる訳だ!!



「すぅ――……。ふぅぅううんっ!!!!」



 両手にぎゅっと力を籠めて遠くに描かれている矮小な文字を見つめる様に。両目に渾身の力を籠めて彼女の美味しそうな体を捉えた。



「な、何ですか。急に怖い目で見つめて……」


「ふふふっ……。いいかい?? ここは想像すれば何でも自由に具現化出来る大変便利で理想的な世界だ。自分に都合の良い世界に作り変える事も可能なのさ」



 さぁ――……。服よ、透けろぉ……。


 そして俺の目の前で素敵な裸体を晒すのだ!!!!



「あ、貴方は本当に馬鹿なのですか!? わ、私を誰だと思っているのです!!!!」



 うふっ、顔を真っ赤に染めて両腕で胸元を隠しちゃって……。


 そっちがその気なら違う所を透かしてやるだけだしっ。


 四つん這いの姿勢で彼女の背後に回り込むと、プルンっと丸みを帯びたお尻ちゃんに強烈な色目を向けてやった。



 く、くそう!! な、中々透けて来ないな……。


 俺の強力な性欲よぉぉおお!! さぁ……。大いなる力を与え給え!!!!



 彼女の己を守ろうとする自己防衛本能を軽く凌駕する性欲を生み出すと、ほんの僅かだが聖樹ちゃんの服が徐々に透けて行く。


 白い服が透け始め美しく艶のある緑色の下着が見えて来た刹那。



「ちょ、ちょっと!! 駄目!! 見ちゃ駄目です!!!!」


「デビチッ!?!?」



 頭上から襲い掛かって来た太い蔦が脳天を叩くと目玉が前方に飛び出してしまうふざけた衝撃が迸った。



「べ、別に良いだろ!? これはあくまでも想像の姿なんだから!!」


 痛む頭を抑えて素直な憤りを放つ。


「だとしても身分を弁えなさい!! 私は貴方の百倍以上生きているのですよ!?」


「身分も何も……。夢の世界だから少し位良い思いをしたいのが男の性ってもんさ」



 ふっと溜息を吐き、だらしなく地面に座って天を仰いだ。



「大鷲のシェファさん?? でしたっけ。彼女にこっぴどく指導を施されたのに全く懲りていませんねっ」


「あれ?? 何でシェファの事知っているの??」



 天高い位置から降り注ぐ光からまだまだ顔が赤い彼女へ視線を向ける。



「ダンさんと私の体と精神は強く繋がっています。貴方が眠っている間にダンさんの記憶が濁流の様に私の中に流れ込んで来まして……。大変失礼かと思いましたが全てを見てしまいました」


 申し訳なさそうに項垂れて話す。


「別にいいよ。聖樹ちゃんに比べれば大した経験をしていないし」



 数千年以上生きる彼女にとって俺の二十六年は刹那的なものに映るだろう。


 それから何かを汲み取るものは皆無の筈さ。



「そんな事ありませんよ?? 若くして両親を亡くして、それでも挫ける事無く強く生きて。海を渡りハンナさん達と出会ってあの恐ろしい五つ首と対峙する。そしてこの大陸に渡って来て経験した不思議は本当に輝かしく感じましたから。私は正直羨ましいですよ」



 羨ましい?? ちっぽけな人間の冒険が??



「私は人間と魔物と会話を交わせますが……。この世の不思議を経験しようとしても足が生えていないのでそれは叶いません」


 少しだけ悲し気な表情を浮かべて言う。


「俺の記憶は見たけど感想はまだまだ聞いていないでしょ?? 折角記憶を共有出来たんだからその時の俺の心情を語って。んで、沢山の不思議を経験したらまた此処に戻って来るよ」



 彼女は聖なる森の中枢から動けない。


 そう動けないのだ。


 自分の意思に反して何処にも行けず只傍観を続けるのは苦痛なのだろう。その痛みを少しでも和らげてあげられるのなら。


 そう考えて彼女の小さな肩をポンっと優しく叩いてあげた。



「い、いいんですか!? あはっ、楽しみがまた増えちゃいました」



 物悲し気な表情から一転、高揚感丸出しの姿へ。


 俺よりも長く生きているのに俺よりもよっぽど感情豊かで驚いてしまいますよっと。



「ま、聖樹ちゃんに比べたら俺の寿命なんて短過ぎるから大した情報量を得られないと思うけどね」



 人は長く生きて八十年、魔物は千年、そして聖樹ちゃんは桁違いの一万年。


 こうして比べると人の寿命が短命であると理解出来てしまう。俺と相棒の素敵な旅も……。そうやって考えると後少しなんだよな。



「あ――……。えっと、ですね。その事について大切な御話があるんですよ」



 大切な御話??


 何を話そうとしているのか問おうとした刹那。



「うっ……。何、これ……」


 体全体の力が抜け落ちてしまい地面の上に寝転んでしまった。


「間も無く覚醒する予兆ですよ。その感覚に身を委ねて下さい。ダンさんが覚醒してから大切な御話をしますね」



 もったいぶらないで今此処で話を聞こうとするが猛烈な眠気に抗えず、巨大な鉄球を括り付けられた様に重たい瞼を閉じた。


 白い靄が眼前一杯に広がり、頭上から光の手と思しき光が差し込んで来たのでそれを掴むとその手は俺の右手を確かに掴みそのまま空へと引っ張り上げてしまった。



 それから一体どれだけの時間が経過したのだろう。



 気が付けば五感が全て元通りとなり、いつもと何ら変わりない目覚めという感覚を覚えてしまう。


 理想的な目覚めと言えば美女からのあつぅい接吻なのですが……。


 どうやらそれは叶わぬ様ですね。



「ダンッ!! 起きたのか!? 起きたのなら返事をしろ!!!!」


「――――。へへっ、わりぃな相棒。待たせちまって……」



 毛布の上で寝転ぶ俺の上体を抱えて必死に叫ぶ彼にそう言ってやった。



「よ、良かった!! ほ、本当に……!!!!」


「ぐぇっ!! お、おいおい。野郎に抱き締められるのは勘弁して欲しいんだけど」



 それに脇の骨が砕けそうだから放しておくれよ。


 こちとら病み上がりなんでね。



「あ、あぁ、すまん……」


「ふぅ――。しっかし良く寝たな!! まるで夜飯をすっ飛ばして次の日の昼食が始まる直前までぐっすり眠った感覚だぞ!!」



 上体を起こしてグゥンっと体を伸ばして話す。



「貴様は五日間眠り続けて居たからな。恐らくその所為だろう」


「い、五日も!?」



 寝過ぎというかそれは睡眠では無くて昏睡だろう。



「聖樹殿。本当に有難う、この恩は決して忘れないぞ」


 安堵の表情を浮かべているハンナが聖樹ちゃんへ視線を向けて話す。


『構いませんよ。ダンさん、どうですか?? 新たなる目覚めは』


「快調過ぎて自分でもドン引きしているよ。強いて言うのであれば物凄く腹が減った、かな??」



 五日の間何も食していないのだから当然だよな。



「俺が飯を作ろ……」

「結構!!!! 寝起きでいきなり虫を口に捻じ込まれたくないからな!!」



 精神的苦痛トラウマを呼び起こす出来事は勘弁して欲しいものさ。


 栄養を取る為に必要とか抜かしてあの汎用中擬きを持って来るに違いない。



「さぁってと、寝起きに相応しい御飯を作りましょうかねぇ――」



 俺達の寝床で良い感じに散らばっている荷物へ向かって進もうとするが聖樹ちゃんが待ったの声を掛けて来た。



『ダンさん先程の大切な話についてなのですが……』



 おぉ!! そう言えば言っていましたね!!



「あ、ごめん。寝起きだから忘れていたよ」



 えっと……。鍋はあっちで食料が保存されている背嚢は……。うっそだろ!? かなり減ってんじゃん!!


 大飯食らいのごくつぶしの白頭鷲ちゃんめ。


 俺が目を離した隙にムシャムシャと勝手に食っていたな?? 後でお母さんが叱ってあげなくちゃ……。



「ダン。聖樹殿の話を聞け」


「ん――?? どうした??」


 相棒が真剣そのものの声色で俺の背に話し掛けて来るので洗い残しの跡が目立つ鉄鍋に伸ばそうとした手を止めた。












































『ダンさんは……。えっと、驚くかも知れませんが……。もう貴方は既に人では無いのです』


「――――――。はい??」



 聖樹ちゃんの声を受け取ると思わず思考が停止してしまうが。



「こらっ、俺を驚かそうとしても駄目だぞ」


 直ぐにそれは冗談であると判断して、腰に両手を当てて呆れた笑みを浮かべてあげた。


「冗談の類では無い」


『ハンナさんの仰る通りです。私達は掛け値なしの真剣な話をしようとしているのです』


「「……ッ」」



 明るい雰囲気が一切合切消失したクソ真面目な相棒の顔、そして有無を言わせない真剣さを身に纏う聖樹ちゃん。



「ま、またまた御冗談を!! ほ、ほぉら!! どこからどう見ても人間ちゃんの姿でしょう!?」



 真面目一辺倒の二人の放つ固い圧が場の雰囲気を一転させてしまう様を捉えると双肩から生え伸びる己の腕を無意味に動かしてやる。



「真剣な話だ、良く聞け。貴様はもう人では無くこれからは我々と同じく魔物として生きて行くのだ」


『これから説明する事をよく聞いて下さい。ダンさんが倒れ私は……』



 二人が真剣な面持ちのままで必死に説明するがその殆どは驚きの余り中々頭に入って来なかった。


 彼等が話す常識外れの話を完全完璧に理解したのは日が沈み、月が大欠伸を放つ頃になってからだった。





お疲れ様でした。


こんな遅い時間の投稿になって申し訳ありませんでした。


さて、本話でも触れた通り彼はこれから人ならざる者として生きて行く事となります。その説明は次話以降に掲載しますので今暫くお待ち下さいませ。




先日購入したアーマードコア6なのですが……。時間が出来た隙間時間に遊び、漸く二周目の後半までこぎつける事が出来ました!!


最初の方は操作方法に不慣れであり、立ち塞がる強敵に四苦八苦していましたが、一周目に苦戦したあの全方位超強ホーミング野郎ことバルテウスも武装が充実しているのでスパっと倒してサクサクプレイを満喫しています。


基本アセンブリを作成してミッションに合わせて細かい武装の変更をしているのですが、それだと飽きてしまうので敢えていつもとは違うアセンブリで出撃したりしていますよ。



そんな暇があるのなら書け。



真冬の軒先に出来た大きな氷柱よりも冷ややかな読者様達の視線が光る画面に届きましたので、これから少しプロットを執筆して寝ますね。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!!


クタクタに搾れた体に嬉しい知らせとなり、執筆活動の励みとなりました!! これからも皆様の期待に応えられる様に精進させて頂きます!!!!



それでは皆様、引き続き良い休日を過ごして下さいね。

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