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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第七十三話 森の中枢にて

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 体に纏わり付く強烈な湿気は西へ進めば進む程高まり、湿気を大いに含んだ大地が足の裏にしがみ付き俺達の体力を悪戯に削る。


 湿度の高い空気が体温を高めて大粒の汗を誘発すると俺の歩みに合わせて肌を伝い大地に零れ落ちて矮小な染みを形成した。


 体力にはまぁまぁ自信がある方だが……。


 まるで透明な壁に阻まれている様なある程度の抵抗力を持った重い空気と常に襲われてしまう危険性を孕んだ危険区域の中を、緊張感を高めたまま四日も進めば流石に参っちまうよ。


 体力の回復に努めようとするが木の幹の上では満足のいく熟睡は出来ず。更に!! 深夜に聞こえて来る夜行性の黒蠍の移動音が心に不安感を与え。


 闇夜の死神に捕らえられた憐れな飢餓鼠の断末魔の叫び声が精神を疲弊させこの四日間は真面に眠れなかった。


 きっと俺の顔は大病を患った患者さんから同情を誘う程に酷いモノへと変化しているのだろうさ。



「あ、相棒。そろそろ見えて来た??」


 顔を上げるのも面倒なので後方へ流れ行く地面の茶を捉えながら先行する彼の背に問う。


「先程から何度その台詞を吐いた。もう聞き飽きたぞ」


「だ、だってさぁ。予定では聖樹の麓に到着してもおかしくない距離を歩いているんだぜ?? それなのに見えて来ないんだからしょうがないでしょう??」


「この湿気と貴様の寝坊と歩みの遅さが日程を遅らせているのだ。口を閉じて黙って歩け」



 こ、この野郎!! 少しは相棒の気持ちを汲みなさいよね!!


 ここでいつもなら横着な台詞を吐いた彼の背にしがみ付き文句の一つや二つを吐くのですが、生憎その様な体力は残って居ませんのでね。


 致し方なく忸怩たる想いを胸に秘めてクソおもてぇ両足を交互に動かし続けていた。



「そろそろ休憩するか??」



 額に浮かぶ汗をクイっと拭うついでに、夥しい量の葉と枝に遮られて微かに零れ落ちて来る太陽の光を見上げて問う。


 森全体が薄暗く感じるのは地上に降り注ぐ光が少ない所為だろう。


 森に入った時よりも暗くなっているのは中枢に近付いている証拠なのですが、可能であればスカっと晴れ渡った空を拝みたいものさ。



「いや、腹は減っていない。それに……。アレを捉えながら飯を食う勇気は無い」



 アレ?? 歩みを止めたハンナの隣に並び彼の視線を追うと。



「う、うわぁ……。何だよ、あの無残に食い散らかされた死体は……」



 俺達の数十メートル先に先日会敵した飢餓鼠と同じ位の大きさの死体が大地の上に転がっていた。


 周囲へ刹那に注意を払って脅威が無い事を確認すると死体の亡骸に接近して観察を始めた。



「――――。一方的にヤラれたって感じだな」



 飢餓鼠の大きな腹は見事に切り裂かれており戦闘の名残か、それとも食事の跡なのか。大量の血液が飛び散り美しい緑を侵食して凄惨な現場をより恐ろしいものへと昇華させている。


 体内に大量の毒を注入された影響を受けた肉は顔を顰めたくなる腐敗臭を周囲に撒き散らして清純な大地に溶け落ちていた。


 腐ったドロドロの肉の合間から覗く頭蓋骨には一筋の線が刻まれており、今にも破裂してしまいそうな大量の腐敗性の空気を含んで膨れ上がった目玉が内側から肉を圧迫。


 大量の血と臓物の残り滓、そしてほぼ皮と骨だけの存在になり果ててしまった飢餓鼠の死体を捉えると思わず背に冷たい汗が流れて行った。



 ひでぇ食い散らかし様だな……。


 生きる為に食うのは当然な行為だが、もう少し綺麗に命を召し上がる事は出来ないのだろうか。


 風光明媚な景色の中に無残に横たわる死体を見つめていると何だか無性に虚しい気持ちが湧いて来た。



「周囲の足跡を見る限り、恐らくその通りなのだろう」


 ハンナが地面に刻まれた飢餓鼠の足跡、そして……。複数の尖った穴を見つめて話す。


「黒蠍の節足が刻んだ足跡は皆一様に尖っているけどさ。その大きさは初めて見るぞ」



 此処に至るまで嫌という程見て来た奴等の足跡の大きさは精々俺の手の平を目一杯広げた程度。


 しかし、今俺達の目の前に存在している沢山の足跡は人の足よりも二回り程大きな物であった。



「単純な足跡の比で考えると……。この足の持ち主の大きさは俺達が見て来た黒蠍の数倍にも膨れ上がるのか」


「お、おい。それってぇ……」


「あぁ、恐らくここはもう既に生の略奪者ライフイーターの縄張りなのであろう」



 何で嬉しそうに話すんだよ。ここは大変硬い生唾をゴックンと飲み干す場面でしょう!?



「長居は無用だなっ!! よ、よぉしっ。疲れた体に鞭を打って進みましょう!!」


「臆病者め……」



 彼の代わりに鉄よりも硬い生唾を飲み込み、腐り果てた飢餓鼠の死体の脇を通り抜けて再び西進を開始した。



 それから数時間の間。


 俺達は必要最低限の会話に努めて通常の警戒態勢よりも更に強固な態勢を固めて進む。


 その道中、生の略奪者の毒牙に掛かった憐れな死体を何度も確認出来た。


 うだるような湿気と死の香りが漂う不穏な空気の中を慎重な歩みで踏破して行くと、突如として眼前に変化が現れた。



「うん?? おい、何だよ。あの無駄に背の高い草の群れは」



 もう見飽きた木々の幹の代わりに突如として出現した背の高い草を指す。



「俺に聞いても無駄だと思わないのか??」


「あ、あのねぇ。疲れて苛々するのは分かるけど俺に当たるのはお門違いだからね」


 歩みを止めてジロリと睨んで来た相棒に釘を差す。


「ん――……。取り敢えず進んでみるか?? ここで足を止めていたら襲われちまう可能性もあるし」


「あの草むらの中で襲われるかも知れんがな」



 だから!! そうやって人の不安感を煽る台詞を吐かないで!!


 道中何度もそう言って来たでしょう!?



「ちっ、まあいいや。細心の注意を払って進もうぜ」


「了承した」



 食料が減って軽くなった筈なのに森へ入る前よりも随分と重たく感じてしまう背嚢を背負い直すとうっそうと生い茂った草むらに突入を開始した。



「う、うん……。予想していたけども全く先が見えんな」



 進む度に草の葉が頬に触れ、ちょいとぬかるんだ土が進行の速度を阻む。


 視界が捉えるのは葉の緑と草の隙間から見える微かな相棒の姿のみ。


 ここで襲われたらあっと言う間に全滅してしまいそうだ。



「あぁ、だが……。何だ?? この清らかな感覚は……」


「清らかぁ?? お前の五感は腐ったの?? 全然涼しくもなければ爽快な空気も感じねぇんだけど」


 俺の右隣りを進む彼の横顔を睨む。


「気温や湿度の話をしているのではない。マナの変化だ」



 あぁ――。確か、魔物が生きて行く為に必要なモノだっけ。



「先程までは異常なまでに濃いマナであったが……。ここから先から漂って来るソレは全く異なる」


「お――い、普通の人間である俺にも分かり易く説明してくれよ」


「そうだな。強いて言うのであれば……。空気の純度が高いといえば良いのか」



 純度、ね。


 それを感知出来る術を持たぬ俺にとってそこまで重要では無さそうだ。


 頻りに首を傾げる相棒と共に草むらを分けて進んで行くと、高密度の高い草の合間から一筋の清らかな光が差し込んで来た。



「お、おぉう!? もう直ぐ抜けるぞ!!」


「この不思議な感覚の正体を確かめるとするか」



 疲れた体に鞭……。じゃなくて。鋭利な剣を突き立てて発奮を促し、これ以上は進ませんぞと躍起になるぬかるんだ土の手を振り払って別れを告げると遂に草むらの中から脱出する事に成功した。



「とうっ!! は――……。進み難かっ……。ってぇ!! 何だよ!! あの馬鹿デケェ木は!?」



 背の高い草むらの代わりに出現した己の目を疑ってしまう程の巨大な幹を捉えると思わず叫んでしまう。



 樹齢数千年を優に超えるであろうか。


 巨人が長い両腕を頑張って駆使しても決して掴み切れない程の太さの大木が大地に腰を深く下ろし、その大木から伸びた枝が上下左右に伸びて広い地上に影を落とす。


 古き時代を連想させる程に成長した分厚い樹皮には幾重にも蔦が絡み合い、細かい枝と葉の間から降り注ぐ太陽の光に照らされるその姿は正に圧巻の一言に尽きる。



 この世の憎悪を全て食らい尽くして襲い掛かって来る五つ首、食べ方を間違えた時点であの世行きが確定する自爆花の実、幽霊や超自然的なナニか等々。



 この世の不思議に対面したのならまだしも、たかが木の一本の姿にこれだけ驚かされるとは思わなかったな。


 そしてこれが……。



「聖樹、なのか……」



 背負っていた荷物や身に着けていた装備一式を外して本当に踏み心地の良い大地に静かに置くと立派な樹皮にそっと手を添えて呟く。



「あぁ、やっとお前さんと出会えたよ。本当に……。へへ、すっげぇや」



 馬鹿みたいにポッかぁんと口を開いて終わりが見えない樹木の天辺を見上げる。


 まるで天空に住まう神が大地に直接植えたような神々しさも感じる程にデカイよな……。本当に圧倒されっぱなしになっちまうよ。



「この付近には敵性生物は見当たらない様だな。それに、この特異な空気は聖樹から流れているやも知れぬ」



 ハンナが俺に倣い聖樹の側に近付くと真剣そのものの瞳を浮かべて聖樹の表面を監視する。



「湿度の高いベチャベチャした空気はいつの間にか無くなってまるで秋の乾いて涼し気な空気に変わったし。数日の間ここで休んで帰るのも一考だよな」


「それにまだ薬草を探していない。俺達の任務を忘れるな」


「もぅっ、雰囲気をぶち壊しちゃ駄目じゃない。暫くの間、お世話になるから宜しくね?? 聖樹ちゅわぁ――んっ。ムチュッ」



 唇をムニュっと尖らせ、ちょいと湿って苔が生えている樹皮に熱い口付けを交わした刹那。























































『は、離れなさい!! 無礼者!!!!』


「ドッヒィッ!?!?」

「むっ!?」



 何処からともなく女性の怒った金切り声が森の中に響き渡り、思わず口から心臓が飛び出てしまいそうになった。



「ヤ、ヤダッ!? またあの幽霊さんが出て来たの!?」


 しがみ付いていた聖樹から咄嗟に離れ、警戒態勢を強めているハンナの背に取り敢えず隠れた。


『幽霊ではありません。私はちゃんとこの世に存在している物体です!!』


「だったら姿を現しやがれ!! ひ、卑怯だぞ!! ずぅっと俺達を一方的にビビらせて!!」



 全方向から聞こえて来る女性の声に対し、取り敢えず適当に宙へ指を差しながら泣き叫ぶ。



『私の存在は既に貴方達の視界に入っています。これまで培ってきた下らない常識に囚われているから見えないのですよ』



 こ、この幽霊ちゃんめ……。俺が必死こいて経験してきた常識が下らないってぇ!?



「よっしゃ!! じゃあ非常識な目で見て看破してやる!! 幽霊さんの正体はぁ……。お前だッ!!」



 地面の上をエッコラヨッコラと歩く矮小な蟻ちゃんにビシっと人差し指を向けてやった。


 その根拠はこうだ。


 この世には犬、猫、羊に大鷲に白頭鷲。その種類は数え始めたら枚挙に暇がないが多様多種な魔物が存在している。


 そして魔物は人間にとっては非常識として捉えられる魔法と呼ばれるものをすべからく使用出来る。


 ここに至るまで何度も聞こえて来た女性の小さな笑い声。決して捉えられぬ姿。


 これらから推測出来るのは、矮小な姿でその身を隠しつつ俺達を監視して来たのは他ならぬ雌の蟻の魔物って訳だ!!



 突然指を差された蟻さんは一瞬だけ。



『えっ?? 私っ??』 と。



 頭頂部に生える触角を物凄く不思議そうに揺らすとそのまま何処かへ歩いて行ってしまった。



「阿保。そんな訳ないだろう。あれは只の蟻だ、魔力の欠片も掴み取れん」


「だ、だったらお前さんはこの可愛い女の子の声の正体を当てられるのかよ!!」


「その事実に対して非常に驚いているが漸く落ち着いた所だ。この声の正体は……。俺達の目の前に立っているぞ」



 俺達の目の前??


 ハンナの背中からそ――っと真正面に顔を覗かせてみるがそこに見えるのは只の一本の木、のみ。



「あのね?? ハンナちゃん。木にはお口ちゃんがついていないからはなせないんだよ??」



 小さなお子様同士が交わす口調でそう説いてやる。



「声の正体が言っていただろう。常識に囚われるなと。そして、先程貴様が取った所作を思い出せ」



 俺が取った所作??


 えっと……。物凄く良い匂いがする聖樹にしがみ付いて熱い接吻キスを交わした。


 その後、物凄い剣幕の女性の金切り声が届いたんだよね。


 混乱する中で頭を必死に動かして様々な情報を書き集めて行くと、漸く彼が言いたい事が理解出来てしまった。



「――――。う、嘘だろ。木、木、木が喋ったぁ!?」



 そう、これには驚かずにはいられなかった。


 驚きの余りにその場でペタンと尻餅を着き威風堂々と大地に聳え立つ聖樹を見上げた。



『漸く気が付きましたか』


 人間で言えば溜息として捉えられる溜息混じりっぽい口調でそう話す。


「え、えぇ。驚き過ぎて未だに信じられないですが……」



 俺のお尻ちゃんに頑張ってしがみ付く土を振り払い、ハンナと肩を並べて聖樹さんと相対した。



「えっとですね。俺達が此処に来た理由は……」


 見上げていてばかりでは話は進まない、そう考えて聖樹の下へ来た理由を説明しようとすると。


『貴方達がここに足を踏み入れた理由は既に理解しています』



 彼女の言葉が俺の言葉をあっさりと断ち切ってしまった。



「ん?? 何で知っているんです??」


『この広大な森は私の領域。何処に隠れていようがその姿を確実に捉え、交わされた会話は全て私の耳に入るのですよ』


「ぶっ!! あはは!! 木なのに耳がある訳ないでしょう!? 聖樹さんって中々面白い冗談を放つんですね!!」



 俺のドツボに嵌った冗談を受けてケラケラと笑っていると。



『話は最後までちゃんと聞きなさい!!』

「ゴヴォバ!?!?」



 何処からともなく空から降り注いで来たまぁまぁ太い木の蔦に強烈な一撃をブチかまされてしまった。



「い゛ったぁぁああ!! ちょ、ちょっと!! いきなり人の頬に攻撃を加えるなんて駄目じゃない!!」



 痛む右頬を抑えつつ聖樹ちゃんをキっと睨んでやる。



『揚げ足を取る方が悪いんです!!』


「ダン、貴様は少し黙っていろ……。つまり、我々がこの森に足を踏み入れて此処に来るまでに交わされた会話は全て聖樹殿に聞こえていた。そういう訳か??」


『その通りです。会話だけでは無くて貴方達の姿形もしっかりと見えていますからね』


「目が無いのに??」



 再び立ち上がり首を傾げて問う。



『分かり易く説明すると頭の中に直接その光景が浮かび上がる、と説明すればお馬鹿な貴方にも理解出来ますか??』



 馬鹿、付ける必要あった??


 先程のビンタのお礼じゃ無いけども、こっちもちょいと揶揄って見ましょうかね。



「ふぅむ。と、言う事はぁ……。俺達が用を足している時もじぃっと様子を窺って一人一人の大きさを確かめていた訳ですね!! 三人の中で誰が一番立派で大きな……」



『しません!!!!』

「ンヴッ!?」



 太い木の枝から舞い降りて来た木の蔦が俺の首に絡み付きグイグイと締め付けて来る。


 それならまだしも……。上空に引っ張り上げるのは勘弁してくれませんかね!?



「コ、コッヒュッ!!」



 じ、じぬぅぅうう!! このままじゃ広大な森の中で首吊り自殺に擬装されちゃうってぇぇええ!!



「俺の友人が粗相を働いてすまん。そろそろ気絶してしまうから放してやってはくれぬか??」


『言葉は選んで使用して下さい!! 次は命を奪いますよ!?』


「あいだっ!?」



 命を張ってでも笑いを取りに行く場面じゃないし、揶揄うのは此処までにしましょうかね。



「いたた……。交わされた内容の全てを聞いていたのなら話は早いかな。俺達はとある子供の父親の怪我を一日でも早く治す為に此処へ薬草を採取しに来ました。その薬草は聖樹さんの麓にあるとお聞きしたんですけど……。その薬草は何処にあるのか教えてくれませんか??」



 大変痛む首を抑えつつ立ち上がると御立派な幹を見つめつつ問うた。



『貴方達が探し求めている草は私の後方に生えていますよ』


 彼女の声に従い、上空からの蔦の来襲に備えて恐る恐る木の後方へ移動すると……。


「おぉっ!! ウォッツ君が言っていた通りの形だな!!」



 地面から立派な茎が生えそこから三又に別れている若草の姿を捉えた。


 しかもかなりの広範囲に渡って群生しているし!! 選り取り見取りの取り放題じゃん!!



「有難う御座います!! じゃあ早速……!!」



 陽性な感情丸出しで探し求めていた薬草に駆け出したのだが。



『私は存在を教えただけで誰も採取して良いとは言っていません』


「どわっ!?」



 地面からそして上空から突如として出現した蔦に進行を阻まれてしまった。



「い、いやいや!! これだけ生えているんだから少し位取って行ってもいいじゃん!!」


『邪な心を持つ者が己の利益を優先して人の家にある物を勝手に奪って行く。それは貴方達人間や魔物の世界では盗人の行為として周知されています』


「じゃあ聖樹さんにとって無意味だろうけど、金銭を譲渡すれば採取しても構わないの??」


「それは不可能です。貴方達が薬草を採取して私的に利用した場合、この聖なる地へ邪悪な心を持った者達が大挙して来る恐れがありますからね。私はこの森の守護者。森に害為す存在を無視出来ないのですよ」



 聖樹さんの話す事も一理あるかな。


 平穏に慎ましく暮らしていたのに薬草の存在を知った者共が我が物顔で美しい森を穢し始める。


 森の生物は駆逐され、緑が破壊され、清純潔白な森の存在は消失してしまう可能性が高い。


 俺達に薬草を譲渡したばかりに森が消失してしまったら悔やんでも悔やみきれないだろう。


 そのたった一度の過ち犯さない為にも彼女は慎重にならざるを得ないのだ。



「そっか……。そう易々と薬草は入手出来ないですよね」


 蔦の壁から踵を返し、元の位置に戻ると御立派な幹を見上げて矮小な溜息を吐く。


『その通りです。荷物を纏めて今直ぐ立ち去る事をお薦めしますよ』


「ん――……。ここまで来るのにかなりの体力を消耗しちゃったし。ここで暫く暮らさせて貰おうかな!!」



 柔らかい土の上にドカっと腰を下ろす。



『は、はぁっ!? 私は今帰れと申したのですよ!?』


「はは、まぁいいじゃないですか。これだけ素敵な空気が漂っているんだ。薬草は貰えないかも知れないけどこの世の不思議をまだまだ堪能していたいからね。相棒、野営の準備を始めようぜ」


「あ、あぁ。了承したが……」



 驚いた声色を放った彼女を無視して運んで来た荷物から野営設置の道具を取り出した。



 この世に喋る木なんて居ない。


 そう高を括っていたが……。俺の考えや常識は聖樹さんと出会って速攻打ち砕かれてしまった。


 この世で稀にしか存在していない喋る木との出会いは恐らくこれで最後になるかも知れない。


 その素敵な出会いをたった数十分程度で切り上げるのは勿体無いし、聖樹さんには俺達の事をもっと深く知って欲しい。


 今は互いの間に溝があるかも知れないが会話という意思疎通行為を繰り返す事によってその溝を埋め、信頼を通じてお互いの絆を深めたいからね。



「すいませ――ん!! ここ使ってもいいですか――??」


『駄目です!! 私からもっと離れて下さい!!』


「んもう、ケチなんだからっ。じゃあ適度に離れた位置に色々置いてっと!!」


『そこも駄目です!! 蟻達の通り道ですから!!』



 あ、あはは。こりゃ相互理解までに相当時間が掛かりそうだな。


 荷物一つ置くだけで色々文句を言われる始末だし。


 やれそこは駄目、やれもっと離れろ等々。


 俺の短い生涯の中で恐らく二度と起こらないであろう木に叱られるという摩訶不思議な現象を大切に噛み締めながら野営の準備を着々と進めて行った。





お疲れ様でした。


漸く森の中枢に到達出来て私も彼等同様ホッと一息ついている次第であります。勿論、これからちょいと色々な問題が起きますのでそれを書ききるまでは安心出来ないんですけどね……。



先日の体調不良は日に日によくなっています。本日は食欲が完全復活した為、がっつりチキンカツカレーを食してきました!!


またチキンカツカレーかよと呆れた溜息を吐いた読者様もいらっしゃいますでしょう。


お馴染みの店に入ると何故か決まって同じメニューを頼んでしまう。人は沢山の選択肢を与えられても似たような選択肢を選択してしまう生き物らしいのでそれは致し方ないのではと考えております。


まぁ偶には野菜カレーやらハンバーグカレーやらを注文しますが何だか舌が満足してくれないんですよね……。あの不思議な感覚は中々説明し辛いです。




沢山の応援をして頂き、そしてブックマークをして頂いて有難う御座います!!!!


投稿する時にPV数とブックマークを確認させて頂くのですが、読者様達の温かな応援が本当に体に染み渡りました……。


ですがここで安心してはいられません。彼等の冒険を書き終えるその時まで安心の二文字は排除して只管に書き続けようと考えております!!



それでは皆様、厳しい残暑が続きますが体調管理に気を付けてお休み下さいね。


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