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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第七十一話 精霊が住まう森

お疲れ様です。


週末の深夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。




 空は俺達の出発を祝う様に爽快に晴れ渡り目が痛くなる程の光沢のある青色が空一面に広がる。


 その中に浮かぶ太陽も満更では無い表情を浮かべて巨大な森の前で静かに佇む俺達に興味津々といった視線を送り続けていた。


 彼の笑みに照らされた森の緑は、それはもう美しく映り可能であれば時間が許す限り見つめていたいけどもそうはいかん。


 和やかな景色を捉えて緩み始めた気を引き締め直し、改めて大地に足を突き立てて正面に広がる緑を受け止めた。



 暴兎が棲んでいた森と違って生の森は比較的に安全性が高いのか俺の体は躊躇せずに涼し気な影が漂う森へと進もうとしている。


 しかし、それはあくまでも外見的な判断であり。森の真の正体を知る頭は本当に足を踏み入れても良いのかと俺に最終決断を迫っていた。


 森からサァっと吹く風が汗ばむ体の熱を冷まし鼻腔に届く清らかな香りが心を落ち着かせてくれるが……。



「う、うぅむ……。相棒、本当に入るのか??」



 森に潜む何かに怯えて尻窄む訳じゃないけども、左隣りで静かに佇む相棒に最終判断を委ねた。



「当然だ。俺は貴様と違って臆病では無い、さっさと入るぞ」


 ま、まぁっ!! この子ったら!!


「お母さんにそういう言葉使いは良くないと思うわよ!!」


「俺の母親はとうの昔に他界した」


「あはは、ダンさん行きましょうか」



 双肩にずっしりと重みを与える背嚢の紐をぎゅっと握り締めて、揚げ足を取るのが大好きな白頭鷲とウォッツ君と共に記念すべき生の森へ第一歩を踏み出した。



 リーネン大陸特有の乾いた大地はしっとりと湿った土へと変わり、足の裏から感じる感触が柔らかい物へと変化。


 肌を突き刺す強き日の光は立派な木々の影によって遮られ、大地に深く根を下ろす木の幹から伸びる枝には鳥達が羽を休めて上機嫌な歌を奏でている。


 森の清らかな香りと湿った土の香が鼻腔に届くと強張っていた肩の力がふっと抜け落ちて緊張感が解れてしまう。


 まだ安全な場所だとは言え、この森は幾人も帰らぬ者を排出して来た。


 風光明媚な景色を満喫しつつ呑気に散歩気分で進みたいですけどもここは一つ、気を引き締めましょうかね。


 両手で両頬をパチンと叩き、俺達の前に躍り出たウォッツ君の背に続いて進行を続けた。



「二人共本当に仲が良いですね」


 俺とハンナの少し前を進む彼が軽快な笑い声と共に話す。


「コイツとの絆は互いの魂同士でふかぁく繋がっているからね。それだけ深ぁく繋がっているっていうのに全然認めてくれないんだもんっ」


 無表情且無感情の面持ちで歩く相棒の肩をちょこんと突く。


「止めろ、気色悪い。それより新装備の調子はどうだ??」


「おう!! 寸法も完璧だし、以前装備した胸当てよりも驚く程軽いよな!!」



 服の下に装備している胸当てにドンっと右の拳を当てて胸を張ってやった。



 前回の依頼で俺達は飢餓鼠を討伐して、その死体を吐き気を堪えながらロシナンテへと運び素材を生かした装備を作ってくれる様に依頼。


 トゥインの里へ出発する前にその装備を受け取る為に彼の店へ訪れた。



『待っていたぜ!! 二人共!! 骨は物好きな野郎が全部持って行っちまったけど飢餓鼠の皮を利用した防具が出来たぞ!!』



 キッラキラに光らせた瞳を店主が浮かべると耐衝撃に優れた飢餓鼠のなめした皮と鉄の板を合わせた胸当てを俺達の前に差し出してくれる。



『普通の胸当てに比べると鉄の厚さは半分程度だが、飢餓鼠の皮が衝撃を吸収する為強度は二倍以上に強くなっている!! しかも重さは半分ときたもんさ!!』



 胸と背を守る為に合板同士を紐で接合して頭からすっぽりと被って装備したのだが、成程。彼の言った通り重さは全然気にならなかった。



『試しに俺が太い棍棒で思いっきりブッ叩いても鉄の部分が全く凹まなかった。刺突にはちょいと弱いかもしれんがそれを補って有り余る防御力だぞ!!』


『有難う御座います!! それで……。お代は幾ら程で??』


『二つで金貨一枚だ!!』


 工賃込みでもそれはちょっと高過ぎるのでは!?


『たっか!! 店長ぉ……。こちとらしがない請負人ですぜ?? も――ちょっと色を付けて欲しいなぁ』



 これからも御贔屓に利用させて頂く事を条件に銀貨七枚まで値切り今に至るのです。



「くれぐれも防具に頼った行動を取るなよ?? 防具はあくまでも装備者の油断を補う為の物だ」


「へいへい。分かっていますよ――っと」



 呑気な返事を返して引き続きウォッツ君の背に続いて大変心地良い空気が漂う森を西へ向かって進み続けた。



「しっかし……。予想とは裏腹に物凄く心地良い森じゃないか」



 ふぅっと柔らかい吐息を漏らして木々の合間から大地に降り注ぐ日の光を見上げる。


 出来ればこのまま豊かな緑をおかずにして呑気な散歩を続けていたい気分だ。



「まだ森の入り口ですからね。森の中枢に近付く程に湿度と危険度が上昇します」


「敵性生物と会敵する恐れがある場所まで歩いてどの程度だ??」


 俺とは真逆の行為を求めるハンナが少し興奮気味にウォッツ君に問う。


「そう、ですね……。飢餓鼠と小型の黒蠍が生息する地域までは先日御話した通り徒歩で三日程度かかります。ですから本日から三日間は安全に過ごせると思いますよ」



 思います、ね。


 はぐれの例もあるし森に足を踏み入れた以上、命の安心安全は保障されていないのよねぇ。


 それ相応の注意を払いつつ進まなければ俺の命なんてあっと言う間に消失してしまう可能性が高いのだ。



「相棒。頼むから敵性対象が現れるまで大人しくしていろよ??」


 力が有り余っているワンパク小僧から目を離す訳にはいきませんっ。


「喧しいぞ。それ位の事は理解している」



 どうだか……。


 木の影からひょっこりと顔を覗かせた憐れな飢餓鼠ちゃんへ向かって俺が目を離した隙に剣を掲げて意気揚々と向かって行きそうですもの。



「よぉ、ウォッツ君。ただ歩くだけでも暇だしさ。ちょっと質問したい事があるんだけど」


 俺達を先導している彼の背に問う。


「質問ですか?? 僕に答えられる範囲ならお答えしますよ」


「昨日の訓練中にさ、里の人達が王都守備隊の選抜試験について話していたんだけど……」



 ハンナとルドニスちゃんが元気溌剌にワンパクをしている時に彼女の姿を捉えた里の人達が何気なく発した言葉がちょいと気になっていたんだよね。



「あぁ、ルドニスは受けるつもりと言っていましたけど。恐らく採用には至らないでしょうね」


「その試験を受けて合格した人は他にいるの??」


「僕達が暮らす里からは排出されていませんが、北の里に住む者が試験に合格して今も現役で王都守備隊の一員として活躍していますよ」



 ほぉ、そうなんだ。


 俺は大蜥蜴ちゃん達が行政を司っているからてっきり同種族だけで政治体制を固めると思っていたのに……。



「大蜥蜴達が実効支配する国ですからこれまで他種族の者が王政の一部を担う事はありませんでしたが、現国王は能力のある者を積極的に採用する政策をとっている為。そして彼女の類稀なる実力が王都守備隊を統括する執政官の目に留まった。ラタトスクとして史上初の快挙で大勢の人達が湧いたのは確かですね」


「ほぅ……。その者はかなりの実力者なのか。是非とも一度手合わせを願いたいものだ」


 ハンナが随分と嬉しそうな笑みを浮かべて話す。


「ハンナさんでも手こずると思いますよ?? 彼女の実力は折り紙付きですから」



 いつか時間が出来たらべらぼうに強いラタトスクちゃんについてリフォルサさんに問うてみようかな。


 各機関に強い繋がりを持っていそうな彼女なら知っていそうだし。



「じゃあ……。この生の森に纏わる面白い話とか無いの??」



 続け様にウォッツ君に問う。



「面白い話ですか?? ん――……」


 俺の問いを受けると右手の人差し指を唇に当てて考え込む仕草を見せる。


「――――。生の森には、昨日も話した通り精霊が住むと言われています」



 あぁ、そう言えば言っていたな。


 確か、その精霊ちゃんは愉快な話が好きだって言っていたよね。



「生命に満ち溢れた生の森には矮小な虫、木々の枝で羽を休める鳥、飢餓鼠に黒蠍等々。それはもう多様多種な生物が存在しています」



 でしょうね。


 視線をちょっと動かすだけで木に止まった若しくは地面の上で動いている小さな虫が見つかりますもの。



「生命に満ち溢れたこの森には精霊が住むと言い伝えられており、我々と同じく森の中枢へ向かって行った者の中でその声を確かに聴いたという証言も出ていますね」


「そんな眉唾ものの話を鵜呑みにする奴はいるのか??」


「あはは、相棒。一見信憑性も欠片も見当たらない話だけどさ……。ほら、見てみろよ。これだけ沢山の立派な木と生物が住んでいるんだぜ?? 精霊ちゃんがここに存在していてもおかしくないだろ」



 伝承、言い伝え等々。


 古き時代から現代にまで伝わる大多数の話は長きに亘る時代によって装飾され、経年劣化して話の本質に違いが生じる。


 ウォッツ君が話してくれた精霊の正体はもしかしたら超自然的な現象では無くて。普遍的な自然現象が捻じ曲がって伝わった可能性もある。


 しかし、それでも古き時代から伝わる逸話の中には本質が一切変わらないものもあるのだ。


 今回の場合は果たしてどちらなのか。


 それを確かめるのもまた冒険の醍醐味って奴さ。



「ダンさんの仰る通りです。森の精霊は楽しい話と雰囲気を好み、森に足を踏み入れた者達の会話に耳を傾けているそうですよ」



 ほほぅ!! それは良い事を聞いた!!


 森の精霊ちゃんを楽しませる為に早速実践を開始しましょう!!



「ハンナちゅわぁん!! 今の話、聞いた!?」



 彼の背に素早く移動すると逞しい体を思いっきり強く抱き締めてやった。


 ん――……。新装備の所為でちょっと硬いのが残念ねっ。



「止めろ!! 気色悪い!!」


 相変わらずの馬鹿力め!!


「んぎぎぃ!! 今日こそは離さんぞ!! お前さんが俺に対する態度を改めるまではっ!!!!」


 俺の両腕を必死に引き剥がそうとしている横着な相棒に対抗してやった。


「あはは!! 御二人共いつもそんな事をして遊んでいるんですか??」


 ウォッツ君の軽快な笑い声が静かな森に響きシンっと静まり返った森の奥へと流れて行く。


「その通りッ!! こいつが俺を小馬鹿にするといつもこうやって態度を咎めてやっているんだよ」


「いい加減に……、しろ!!!!」


「うぉっ!?!?」



 ハンナが万力で俺の拘束を解除すると勢い余って後方へ向かって跳ね飛ばされてしまった。



「も、もうっ……。他愛の無い絡みを嫌がるのは彼氏として失格よ??」


「こ、この大馬鹿者が。我々は現在依頼を達成する為に行動中なのだぞ!? 危険が蔓延る森の中でふざけた態度を取るのは了承出来んな!!」



 げ、げぇっ!? 左の腰から抜剣するのは駄目ですって!!



「わ、分かった!! 俺が悪かったからその切れ味鋭い剣を収めて下さぁい!!!!」



 処刑執行人も思わず顔をサッと青ざめてしまう怒気に塗れた表情を浮かべている彼から四つん這いの姿勢で可愛らしくお尻をフリフリと振りながら距離を取っていると。



『――――。クスッ』



 ほんの微かに。


 例えるのなら静謐な環境下で紙が捲れる音と等しき小さな物音が何処からともなく聞こえて来た。


 俺が聞こえたって事は当然この二人にも聞こえたのだろう。



「「……ッ」」



 陽性な感情が一変、至極真面目な顔色を浮かべて周囲を窺っていた。



「よ、よぉ。今の声?? 笑い声?? 聞こえたよな……」


「あぁ。女性の……。本当に小さな笑い声にも聞こえたぞ」


「ダ、ダンさん!! ほ、ほら!! やっぱり精霊は居たんですよ!!!!」



 い、いやいや。実体の無い者が空気を震わせて笑い声を放てる訳ないからね??


 俺達が鋭い視線を浮かべてもその精霊の影さえも見付けられないって事はぁ……。



「ゆ、ゆ、幽霊じゃん」



 よもや足を踏み入れて数時間後に超自然現象を経験するとは思わなんだ。


 き、きっと人に憑りつこうとする邪悪な幽霊だし!! 末代まで祟られる恐ろしい怨念の持ち主だし!!!!


 実体がある奴なら物理攻撃は通じるが、実体の無い幽霊相手に俺達はどうする事も出来ん!!



「あ、あぁ!! そうだ!! 私ったらうっかりさん。忘れ物を思い出しちゃったゾ」


 四つん這いの姿勢を解除すると森の出口へと向かって慎ましい速度で歩み始めるが。


「目に穴が開く程に荷物を調べたからその心配は無い。くだらん事に恐れをなして逃げ出すのは了承出来んな」



 相棒の右手が俺の襟を食み、強制的に森の中枢へと運ばれ始めてしまった。



「イ、イヤァァアア――――!! 幽霊となんか会いたくないぃ――!!」


「ダンさん、幽霊じゃ無くて精霊さんですよ。声が聞こえたって事は僕達を優しく迎えてくれた証拠じゃないですか」


「何でお前さん達はそう自分に都合の良い方向に考えるんだよ!! 万が一幽霊と会敵したら全滅するだろ!?」



 呪殺を打ち払う知識を持ち合わせていない俺達はなす術もなく森の養分になっちまうし!!



「安心しろ。そうなったら貴様を置いて我々は退却する」


「安心の意味がちげぇだろうが!! 大体なぁ!! 幽霊と会敵したらお前でも絶対漏らすぞ!?」


「それよりも強大な敵と対峙した事がある俺には幽霊の相手等造作も無いっ」


「あぁ、そうかよ!! じゃあ何でクルリちゃん達と怪談話をした時微妙にビビっていたんだ!? ああん!?」


「そ、それは関係無いだろ!!!!」



 こうしてギャアギャア騒いでいたら陰湿で根暗な幽霊さんは俺達の明るさにビビって近付いて来ないでしょうね。


 しかし、この先には恐ろしい生物が待ち構えている為。邪を打ち払う明るい会話が可能なのは残り数日間。


 それまでにさっきの笑い声の原因を突き止めてやる!!


 相棒の手を乱雑に払うとそのまま肩を並べて森の中を進み続け。邪を寄せ付けぬ為に野生生物の鼓膜を辟易させる声量を一人放ち続けていた。

























 ◇




 恐ろしい野生生物が棲むと言われている生の森へ足を踏み入れて進む事本日で三日目。


 森の素敵な香りを含んで乾燥した清々しい空気は何処へやら。森の中枢へ近付けば近付く程湿気が強まり、数日間雨が降り注いだかの様にジトっとした空気が俺達を包み込む。


 上空から降り注ぐ太陽の光は相も変わらず森の木々に遮られており気温自体は低いのだが湿度が高過ぎる為か。長時間の移動には不向きな空気へと変化してしまっている。


 まぁ裏を返せば湿度の変化は確実に森の中枢へと近付いている証拠。


 それに顔を顰めてしまう程でも無いのでここは我慢の一択でしょう。



「ふぅ――……。あっつ」



 額から零れ落ちて来た汗の雫を右手の甲でクイっと拭い、俺達を先導してくれているウォッツ君の背に視線を向けた。



「そろそろ休憩しますか??」


 俺の愚痴にも近い言葉を受け取った真面目な彼が歩みを遅らせて静かに振り返る。


「いんや、大丈夫。このまま西進してくれ」


「そう、ですか。無理はいけませんよ?? 間も無く……。危険区域に差し掛かりますので」


 彼が一際厳しい表情を浮かべてちょいとだらしない姿で歩く俺に釘を差す。


「ここまで三日間か。段取り通り事が進んでいるな」



 ハンナが普段通りのこわぁい角度の眉ままで話す。


 予定通り事が進む事に諸手を上げて喜ぶべきなのか、将又森の気候にもう少し体を慣らすべきだったのか。


 それは定かでは無いが確実に危険区域に接近している事は確かだ。


 広大な面積を縄張りとする飢餓鼠、それを食らう小型の黒蠍、その奥には生の略奪者と呼ばれる恐ろしい生物がドンっと腰を据えて待ち構えている。


 それだけならまだしも!! 俺達の周りに憑りついてしまった幽霊擬きの存在が否めない。



 ほらぁ……。何処からともなく俺達に向けられている視線を感じ無いかい??



「……っ」



 木の影から体の半身を覗かせた髪の長い女性がニィィっとおっそろしい笑みを浮かべている様子。


 俺の背にしがみ付き耳元で呪詛を囁いて呪殺しようとする悪霊。


 誰かの影に潜んで漆黒の闇の中から殺意に塗れた深紅の瞳で睨みつける女性の霊等々。



 障害物の多い森の中は呆れる程に身を隠せる場所があるからね。その何処かから絶対に俺達の様子を窺っている筈だ……。



「ダン。いい加減幽霊の存在を否定したらどうだ??」


 俺の挙動不審な様を捉えた相棒が溜息混じりに話す。


「いいや!! 居るね!! 絶対居るもん!! ほら、集中すれば何処かから見られているって感じるだろ!?」



 取り敢えず身近な木の影に向かって指をビシっと指してやる。



「それは妄想、若しくは気の所為という奴だ。人の頭は実在しない存在を勝手に生み出す。それが貴様のふざけた妄想の正体だ」


「だ、だったら数日前に聞こえた女の笑い声と。昨日の夜に聞こえた呆れた様な溜息の音を説明して見ろよ!!」



 右手に拳を作り、ハンナの左肩をまぁまぁ強い力でポカンと叩く。



「――――。ウォッツ、どうだ?? 間も無く到着するか??」


 む、無視ですか!?


「えぇ、丁度この辺りが……。安全に引き返せる限界点です」



 彼が静かに歩みを止めると一本の巨大な木の幹に刻まれている一筋の線を見つめた。



「そこにある線は里の者が刻んだのかい??」


「その通りです。この木の先へ進めば命の保証は無い。そういう意味を籠めてあります」



 俺達よりも先にここへ到着した者達が残してくれた有難い警告、ね。


 幽霊や超自然現象的な事象を憂慮するよりもここから先は現実的な危険が恐ろしい牙を剥いて襲い掛かって来るので気持ちを切り替えるべき。


 人の想像力の豊かさを呪いつつも物理攻撃に対する備えを始めた。



「相棒、装備は万全だな??」



 背負っている背嚢の中身を確認しながら問う。


 保存に適したカチカチのパン、極限まで乾燥させた干し肉に精米してある米と生活必需品。


 これだけで飢えは十日間は余裕で耐えられそうだ。



「あぁ、勿論だ」


 俺の所作に倣って己の背嚢の中を確認する。


「よっしゃ!! ここまで案内有難うね!! 俺達は予定通り聖樹へ向かって進んで行くよ!!」


 背嚢を背負い終えるとウォッツ君に向かって右手を差し出す。


「これ以上の進行は危険だと判断したら即刻引き返して下さい。ダンさん達とまた色んな話がしたいですからね」



 友情の印として固い握手を交わすと陽性な笑みを浮かべる。



「それと……。ダンさん達が探し求めている薬草と呼ばれる物は確かに存在すると言い伝えられています。聖樹の麓、そこの地面から一本の茎が生え三又に葉が別れて生えていると聞いた事があります」



「有難う!! たぁくさんのお土産話を持ち帰って来てあげるからそれまで待っていてくれ。相棒!! 行こうぜ!!」


「分かった。世話になったな」


「本当に危険ですからね!! 細心の注意を払って進んで下さいよ――――!!!!」


「はいはぁ――い!! 行って来ますね――!!」



 最後の最後まで俺達の身を案じてくれた心優しきラタトスクちゃんに威勢よく右手を振って命の保証が無い危険地帯へと足を踏み入れた。



「ん――……。まだこれといって危険な感じはしないな」


 俺達を取り囲む多くの木々、地面に生え揃う背の低い草、そして湿度の高い空気。


 数分前と何ら変わりのない景色を捉えつつ話す。


「刻一刻と危険度が増して行くのだろう。これから先は私語を慎め。何処から襲い掛かって来るか分からんからな」


「へいへい……。仰せのままにっと」



 強面白頭鷲ちゃんに太い釘を差されるとその指示に馬鹿正直に従う振りを見せてさり気なく鼻歌を口ずさむ。


 あ、明るい雰囲気を維持していなきゃ絶対怨念達が忍び足で近寄って来るし。それを遠ざける為にも多少の物理的危険は厭わんぞ……。


 最初は真面目一辺倒の彼も気にもならない小さな鼻歌だったがそれはいつしか相棒の鼓膜を辟易させる程の音量まで上昇してしまい。彼から手痛い指導を受けるその時まで鳴り続けていたのだった。




お疲れ様でした。


もう少し書いて投稿したかったのですが、連日の無理が祟り体調を崩してしまった為ここまでとなりました。


食欲減退、気怠さと体の芯に残る疲労。そう夏バテって奴です。


最近の寝不足と冷たい物ばかり摂取していたのが恐らく最たる原因かと。


今日は大人しく眠り明日に備えます。


読者様も体調管理には気を付けて下さいね??




それでは皆様、良い週末をお過ごし下さいませ。

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