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第六話 謁見という名の事情聴取 その二

お疲れ様です!! 本日の投稿になります!!


それでは、御覧下さい。




 大口を開け、大変美味そうにパンを頬張りつつ軽快な足取りで歩道を行く男性。


 砂糖菓子の甘みに打ちのめされ、口元をくにゃくにゃと揺れ動かしながら東へと進んで行く女性。


 夕刻に差し掛かった西大通りには本日も素敵な笑みが溢れかえっていた。



 この笑みを守る為に粉骨砕身任務に携わっている訳なのですが……。


 出来る事なら皆様の元気を一割程分けて頂けませんかね??



 こちとら二日間ほぼ徹夜で起きていますので、体力が底を尽きかけているのですよ。



 気を抜くと直ぐにでも眠っちまいそうだ。


 馬車に撥ねられぬ様、左右に十分に注意しながら道路を横断し。




「すいませ――ん!!!! 指定箇所で横断してくださぁ――い!!」




 カッコいい汗を流す交通整理員の女性さんに対して、申し訳ありませんでしたと素敵な角度で一つ頭を下げ。


 我が部隊の本部へと続く茜色と黒が丁度良い塩梅に混じり合った細い道へと足を踏み入れた。



 えぇっと……。


 レフ准尉に報告すべき事は……。報告書に書き上げた不帰の森の中の様子と、ウマ子に付ける荷馬車か。


 後者は簡単だからどうとでもなるとして、前者を上手く説明出来るかな??



 万全な体調ならまだしも、この状態じゃあねぇ……。



「っと……」



 まるで地面が豆腐みたいに柔らかく感じ、思わず足を取られてしまいそうだった。


 傷が目立つ民家の壁に手を当て、己が体を支える。



 ふぅ。


 絶不調ですが、それも残り数時間で解放されるんだ。気合を入れて本日を乗り越えましょう!!



 奥歯をぎゅっと噛み締め、項付近にずぅっと立ち尽くして待機している横着な睡魔を振り払う様に歩を進め。我が隊の本部へと到達した。



「レイドです!! 入ります!!」



 傷が目立つ木目の扉をノックするのと同時に開き、これまた大分痛んだ木の床を睨みながら入室を果たし。



「報告書をお持ち致しました!!」



 レフ准尉の足元を捉えたので、随分と重たい足を止め。


 軍属で在る者はこうすべきだ!! と。颯爽とした所作で面を上げた。





「「…………」」



 黒のズボンに、夏の暑い季節に着用する濃い灰色の半袖のシャツ。


 シャツのボタンを閉じようとしていたのか。



『開かれたまま』 の状態である服の前に手をあてがいながら、特に表情を変えずに此方を見つめている。



 軍人らしく整った体躯に、後方勤務に携わる者に相応しい白い肌。


 そして、黒の下着を内側からやんわりと押し上げる標準的な標高を誇る双丘。



 うん。


 上官の許可が出るまで入室するのは駄目でしたよね。



「あ――。レイド二等兵。貴様は指導教官から何を教わったんだ??」


「し、し、し、失礼します!!」



 回れ右!!


 速攻で彼女に対して背を向け、右手と右足。そして、左手と左足を交互に動かしながら数秒前に居た扉の前へと移動を果たした。



 やっちまったぁ……。


 いつもみたいにだらしなく椅子の上に座っていると考えたのに!! 何で今日に限って着替えているんだよ!!



 頭を抱え、己の愚行を猛省していると。



「――。入ってよし」



 痛んだ木の扉越しに准尉の声が届いた。



「失礼します……」



 きぃっ……と。


 軋む音を奏でる扉を恐る恐る開け、再び木の床に視線を落としつつ。


 いつも通りに椅子へと着席する彼女の下に到達し、直立不動の姿勢で立ち尽くした。



「おほん。言い訳を聞こうか」



 静かに話すものの。


 その語尾には隠しきれぬ憤りが隠れていますね……。



「はっ!! 二日間の激務により、体力が枯渇し!! 注意を怠った結果であります!!」



 喉の奥から声を振り絞り、周囲の空気を震わせる声量で弁解を開始した。



「ふぅん。それで?? 私の地肌を見てどう思った??」


「はっ!! 後方勤務とは思えぬ、大変整った体躯であり!! 透き通る肌は世の男性を魅了するに相応しい物と判断しました!!」


「馬鹿正直に話すな!!!! もっと包んで話せ!!」


「いでぇっ!!」



 みぞおち付近に拳がめり込むものだから、思わず声が出てしまいましたよ。


 後方勤務の割には素晴らしい拳を御持ちで……。



「ったく。夏服が支給されたから試着していたのに……。急に扉を開けるな」



 やれやれ。


 そんな感じで大きな溜息を吐き、然程表情を変えずに足を組みつつ此方を見上げた。



「夏服、ですか」


「お前さんにも届いているからな。それより、んっ」



 さっさと件の品を渡せ。


 此方に向かって手を差し出すので、鞄を開き。




 どうですか??


 この馬鹿げた量をたった一人で仕上げたのですよ??




 ちょっとだけ満足気な表情を浮かべて片方の紙の山を机の上に乗せた。



「誤字脱字が無いか、確認するからそこで待ってろ。時間が掛るから……。夏服の試着でもしたら??」



 そう話し、手元の報告書を手に取り。続け様に背後の部屋へ向かって指を指す。



「備蓄室に置かれているのですか??」


「いんや。棚の下」




 あの、ですね。


 支給された品をぞんざいに扱うのは宜しくないですよ。



 まぁ、粗相を果たした俺には厳しく話す権利は与えられていませんけどね。



 素早い速度で眼球を左右に動かす彼女を尻目に無造作且、乱雑に木の床の上に置かれている数着の夏服を手に取る。




 ほぅ……。


 中々良い材質じゃあないか。



 衝撃に耐えられる様に若干の荒い目は目立つが素晴らしい裁縫が施されている。


 汗を吸収し易く通気性を加味した材質。


 そして、キチンとした折り目が目立つ襟。



 右肩の腕章は縫い付けられていないので、後で縫おうかな。



「――――。ふむ。誤字脱字が少々目立つが……。まぁ、許容範囲だな」



 ある程度読み終え、ふぅっと息を漏らしながらレフ准尉が言葉を漏らす。



「有難うございます」


「所、で。この報告書で気になった箇所が幾つかある。私の質問に答えろ」



 いつもの飄々とした感情は消失し、軍属足る者の厳しい声色になって此方に問いかけた。



「了解しました」



 彼女の正面に立ち、此方も厳しい口調に相応しい姿勢で答えた。



「不帰の森の内部の様子、そして……。遭遇したオークと魔物について。貴様なりの感想を端的に述べろ」



 やはり、その点に付いてですよね。



「はっ。不帰の森へと突入を果たし、オークを撃退後。周囲の木々と同程度の体高を誇る魔物を発見しました。彼等は常軌を逸した力を駆使し、オークと対立。その姿はまるで……」



 カエデから教わった通り、少々大袈裟にミノタウロスさん達の様子を述べ。


 続け様にルミナの街。そして、蜘蛛の里からファストベースまで経緯を説明した。



「――――。そして、ファストベース到着後。指令書をクーパー大尉に渡し、王都へと帰還を果たしました」



 俺が説明し続けている最中。


 レフ准尉は報告書から一切目を離さずに傾聴されており。



「――――――。成程、ねぇ……」



 此方が話し終えると、ふぅっと大きく溜息を吐き背もたれに体を預け。


 やれやれ……。


 そんな感じで天井を仰ぎ見た。



「何か不審な点でも??」


「いんや。お前さんの報告書は良く書けているよ。只、これで一つの疑念が確信に変わったなぁっと考えただけさ」



 疑念が確信に??



「あの森の中の様子を知ったお前さんになら話してもいいだろう。上層部の連中は森の中に魔物が潜んでいると最初から決めつけて、平地に防衛線を張り巡らせた。勿論、森周囲にも少なからず兵を配置しているが。それは平地に比べ極僅か。私にはこれがど――も腑に堕ちなかった。何故だか分かるか??」



「それは、恐らく。奴等が不帰の森を西から東へと抜け、王都南部から北上して急襲される虞があるから、でしょうか」



 多分、こういう事でしょうね。



「正解。奴等が突如として出現した約二十年前から、森の中から奴等が現れたという報告は一切得られていない。では、何故。上層部の連中は森の中に魔物が居ると知っており、平地に戦力を集中させたのか」



「――――。誰かがその情報を既に入手していた線が濃厚ですね」



「その通りさ。まっ、凡その目星は付くけどねぇ――」



「イル教……。でしょうか」



 この情報を提供したのがイル教なら、当時から相当な影響力を与えていたという確固たる証拠だよな??


 つまり、軍が創設された時から既にある程度の力を握られていた事になる。



「十中八九そうじゃない?? どうやってその情報を入手したのかがこの問題の論点だ。大昔から立ち入り禁止区域に指定されている不帰の森の中に誰かを忍ばせて情報を得たのか。 将又、それすらしないで情報を得ていたのか。私達がアレコレ想像しようが所詮は机上の空論に過ぎないけど、お前さんを森の中へと突入させたのはあくまでも魔物が存在すると確証を得たかった。その線が濃厚だ」



 確証ねぇ……。


 レフ准尉の仰る通りなら、俺の命は最初から軽視されていたと捉える事が出来ないか??


 死んで帰還を果たせないのなら、森の中には恐ろしい怪物が潜んでいると。


 帰還を果たしたのなら状況を説明させる為。


 全く。


 危険を顧みないのが仕事だとしても、せめて忠告くらいは与えて欲しかったよ。




「魔物が居ると分かった以上。戦力を森には向けず、前線に配置出来る。これで後顧の憂いは無くなった。そう考えているのでしょうか??」



 不帰の森の中は魔物が跋扈し、奴らを抑え付けてくれる。そして、全戦力を前線に投下出来る事も視野に入れる事が可能になったのか……。




「だろうねぇ――。まっ、後は私が諜報活動を繰り広げてお前さんに最新情報を横流ししてやるよ」



 本来であれば、結構です!! と声を大にして話すのだが。


 マイ達の存在を脅かすやも知れぬ情報だ。


 聞き逃す手は無い。



「有難うございます」


「ん?? いつもなら耳障りな声を上げて怒る所なんだけど??」



「昨今の戦いは情報が命、ですからね」


「はっは――!! お前さんも随分と私に飼い馴らされてきたじゃないか!! どうだ!? 今度時間があったら本部に連れて行ってやるよ。んで、二人仲良く諜報活動に勤しもうじゃあないか」



 ニヤリ、と。


 大変厭らしい笑みを浮かべ、此方の腹をツンツンと突く。




「それは結構です。自分はまだ果たさなければならない責務が残っていますので」


「相変わらずクソ真面目な奴」



 それが軍属足るものの本来の姿です。



「それが任務に臨むべき態度ですからね。レフ准尉、次なる任務に備えて所望したい事があるのですが。宜しいでしょうか??」


「ん――?? 何??」



 緊張感が解けたのか、それとも最初から緊張感の欠片も持っていなかったのか。


 この際どちらでも良いですけど。


 もう少し真面目な姿勢で返事を下さいよね。



 細い顎をクイっと上げ、飲みかけの紅茶を飲み干し。


 主婦の午後の一休みを演じる上官に向かい、ちょっとだけ厳しい瞳を向けながら所望内容を話す。




「此度の任務について道中、補給がままならない場所もあったので任務に荷馬車を帯同させて頂く許可を頂けないでしょうか??」



 荷台に乗せるのはほぼアイツの為の食料ですけどね。



「ずぅっと馬の背に乗るのも疲れるし。いいよ、明日の任務出発に間に合う様に手配しておいてやる」


「有難うございます」



 こういう所は有能ですよねぇ。


 流石、後方勤務の方って感じです。





「それより、さ」



 意味深な笑みを浮かべて此方を見上げる。



「どうされました??」



 まだ何か質問でもあるのかな。



「出発しなくて良いの?? ほら、シエルちゃんと楽しい逢瀬をするのは夕方五時からだろ??」



 レフ准尉が壁際に立っている時計を指すので、何気なく。


 通常通りの速さで視線を追い。短針と長針の角度を確認した。



 ――――。


 うん。


 指定時刻まで残り、三十分ですね。



 この街は驚く程、大変広いのです。


 ここ北西区画から指定された住所まで通常の歩行速度ですと、一時間は掛ります。


 つまり、俺にはこれから馬鹿みたいに走れという責務が与えられた訳だ。



「教えて下さいよ!!!! 間に合わないじゃないですか!!」


「私の着替えを覗いた罰だ。さぁ、走れよ――。彼女を怒らせたら資金援助を断られてしまうかもねぇ――」



 く、くそう!!


 言い返せないのが腹立たしい!!



「ちゃあんと事情説明を果たして、尚且つ。シエルちゃんの色んな情報を入手してきてね??」


「分かっていますよ!!」



 支給された夏用の軍服を無造作に鞄の中へと捻じ込み、颯爽と扉へと向かった。



「性癖でも構わないからね――。後、任務へ出発する時に補給物資を渡すから明日の午前八時までに馬を連れて顔を出せよ――」



「了解です!! 後、ぜっったいしませんからね!!!! 如何わしい事は!! 失礼しますっ!!」



 真面目かと思いきや、不真面目。


 もっと真面な上官に巡り合いたかったのが本音ですね!!



 外へと躍り出るや否や。


 残り滓の体力を発熱させ、のんびりと歩く御主人様に物足りなさを覚える散歩中の犬も思わず足を止めて羨む速度で駆け始めた。



最後まで御覧頂き、有難うございました。


明日に投稿に続きます!!

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