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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第六十九話 ラタトスク達の里 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 我が物顔を浮かべて地上で跋扈する猛暑とは真逆の冷涼な空気が漂うお空の御機嫌はどうやら少々不機嫌な様で??


 いつもはスカっと爽快に晴れ渡っている空には鼠色の分厚い雲がかなりの広範囲に広がり地上へ降り注ぐ光を決して通すまいとしていた。


 ただそれでもお空の機嫌は怒り心頭の状態では無く、恋人が待ち合わせ時間に遅れている程度の憤り。


 土砂降りの雨が降り出す様な不穏な気配は見せぬがどうせなら新しい冒険の始まりに相応しい空模様にして欲しかったものです。


 だがまぁ……。分厚い雲の絨毯の上を飛翔している俺達にとって不機嫌な空色は余り意味を成さないんだけどね。



「方位よ――し。進行方向よ――しっ。相棒!! このまま真っ直ぐ飛んでくれ!!」



 飛び発ってから鋭い嘴を閉ざしてほぼ無言を貫いている白頭鷲ちゃんの羽毛の根元をちょいと強めに叩いてお前さんが向かっている方向は正しいと伝えてやった。



「太陽の位置はしっかりと捉えている。貴様に一々言われずとも分かっているぞ」


 猛禽類特有の鋭い瞳がキッと尖って俺を捉える。


「だから睨んでも怖く無いって。それよりもトゥインの里を見付けたら打合せ通り、本当に静かに下降するんですよ??」



 横着でごくつぶしの白頭鷲の事だ。


 段取りを無視していつも通り馬鹿げた速度で下降してしまう恐れもある。


 その事を見越して大変太い釘を差してやった。



「何度もしつこいぞ。里の者に警戒心を抱かせる訳にはいかんからな」



 そう、正に相棒が今話した通り。相当な魔力の強さを持った馬鹿デカイ白頭鷲が突如として空から舞い降りて来たら誰だって警戒するでしょう。


 警戒ならまだしも地面に降り立ったとほぼ同時に攻撃が襲い掛かって来る可能性もある。


 俺達は決して貴方達に危害を加えない安全且安心出来るよそ者ですよ――っと優しい所作で伝えなければならない。


 この事は重々承知していたのですが、出発前に活発受付娘さんから大変手厳しい言葉を頂いたのですよ。



『いい!? 耳をかっぽじってよ――く聞きなさい!! ダン達が向かう里は幾つも点在する里の中でも重要な役割を担っているの。そこで粗相を働いたら二度と生の森に入れなくなる処か、あんた達を手助けした私達が実家に帰省出来なくなっちゃうの!! 何があっても里の人達の指示に従え。例え生の森への入場許可を貰えなくても食い下がらず大人しく帰って来い!!!!』



『側頭部に不必要な沢山の穴が出来る位にその話は聞いたから……』



 目くじらを立てて今にも襲い掛かって来そうな彼女を必死に御しながら、その事はもう何度も伺いましたよと伝えた所。



『こ、このっ!! 私が親切丁寧に説明しているのが気に入らないって言うの!? 大体ねぇ……!!』


『違いますぅ!! ちゃあんと話は聞いていますからぁ!!』



 女の子とは思えない腕力で俺の胸倉を掴み上げ、頭では無く体に叩き込んでやるという姿勢を見せてくれたのだ。


 出発前に負傷するのは頂けないと考え、それからは一切口開かず彼女の口撃を無抵抗のまま浴び続けて居た。


 その間。



『ふむっ……。武器屋で調達した新しい防具と保存食、そして日用品は全て揃っているな』



 ハンナは我関せずといった様子で用意した物資や食料の最終確認を行っており。


 唯一無二の相棒が窮地に立たされていても手を差し出そうとしない姿勢に腹を立てた俺はその仕返しとして暴力上等なラタトスクちゃんから解放された後に彼の尻を思いっきり蹴飛ばしてやった。


 勿論?? その後に酷い仕返しを受けましたけども……。



 ドナの小言で鼓膜がキンキンと痛み、相棒の逆襲によってズキズキと痛む脳天。



 本来であれば新しい冒険に相応しいスカッ!! とした心の空模様で出発したかったのですが。俺の心の空模様は俺達の眼下に広がる鉛色の空が一杯に広がり、ズゥンと重たい気持ちのまま王都を発ったのです。



「理解しているのなら結構。そろそろ雲の下に出て地上の様子を確認しようぜ」



 朝早くに王都を発ち今はお昼を少し過ぎた時間。


 相棒は速度を抑えて飛翔しているがいつの間にか大陸から海に出ていました――となっては労力の無駄遣いになるし。



「了承した」



 彼が眼下に広がる分厚い灰色の雲に向かって嘴をクイっと下げると、俺の予想とは裏腹に大変優しい角度で下降していく。



「いつもそれ位の速度で降りてくれれば楽なのになぁ――」


「……」



 自分に不都合な話だけ聞く耳を持たない便利そうで不便な相棒の大きな耳に向かって愚痴を零すとほぼ同時に灰色の雲の中へ突入を開始。


 質量を帯びた様に見える厚い雲によって視界が遮られてからその数秒後、雲の絨毯を易々と突破して何処までも続く大地を捉えた。



 ふぅむ……。王都周辺と同じくこっち方面の大地も背の低い草が生える乾いた大地のようだな。


 見慣れた大地を捉え、何か変わった地形が無いかと忙しなく視線を動かしていると俺達の進行方向にちょいと首を傾げたくなる大きさの森が見えて来た。



「お、おいおい。何だよ、あの馬鹿デケェ森は……」



 視界の端から端まで広がる深緑の森を捉えると心に浮かんだ言葉をそのまま口から出してしまう。



「東西南北へ広がる一辺の森の長さは……。ざっと見積もって数十キロといった所か」



 ハンナが猛禽類特有の鋭い視線で地上に浮かぶ緑の水面を見つめる。


 空の上から俯瞰して見てもその広さに圧倒されてしまう。ならば地上に降り立ち改めて眼前で捉えたどう見えるのか??


 恐らくその面積を考えるのを止めてしまう程に広大に映るのだろうさ。



「どうする?? 下見として森の上空を旋回するか??」


「いや、その所作を里の人達に捉えられたら疑われるからこのまま静かに着陸……。んっ!? お、おいおい!! あれじゃね!? ドナ達が言っていたトゥインの里は!!」



 刻一刻と森へ近付いて行くと森の東側から少し離れた位置に人口建築物が密集している場所を捉えた。


 普遍的な家屋が大地の上に立ち並び意思と感情を持つ者達が里の中を通っている道を思い思いの方向へ進んでいる。


 低空で飛行している所為か。



「「「……ッ」」」



 俺達が空から見下ろしている事に気付いた里の者達がハッとした表情を浮かべると何処かへと駆けて行き、又ある者は急いだ様子で家の中へと入って行ってしまった。



「見付けたのは良いが……。里の者達は慌てた様子だな」


「そりゃこんだけデケェ鳥が突然飛来するんだぜ?? 驚かない方が無理があるだろ」


「それもそうだな。では、里の南側へ向かって下降するぞ」


「宜しく!! 勿論、本当にゆっくりした速度で降りろよ!!!!」



 俺の忠告を受け取ると里の上空を旋回していたハンナが里の南側へ向かって大変ゆっくりした旋回を描きつつ下降して行く。


 その間。



「おぉ――い!! 早く来い!!」


「ま、待ってくれよ!! 急に武器なんか用意出来ねぇって!!」


「取り押さえる準備をしておけよ!?」



 両手に武器を構えたラタトスクちゃん達が家屋からゾロゾロと出て来ると俺達の下降付近目掛けて集結。



「よいしょっと……。ど、どうも!! 皆さん初めまして!! 俺の名前はダンと言います!! 俺達は決して貴方達に危害を加えません。そしてちょっとお尋ねしたい事がありますのでどなたか話を聞いて頂けませんか」



 相棒の背から素早く大地に降り立つと、俺達の前に集まった数十人の男性達へ向かって万人が納得するであろう当たり障りの無い笑みを浮かべてほぼ満点の自己紹介を終えた。



 ふふん、どうだい?? 俺の処世術は??


 相手に警戒心を与えない陽性な笑みと口調、そしてたった数秒で自己紹介を済まして己の素性を端的に伝え終えた。


 誰しもが腕を組んで満足気にウンウンと頷くであろう初対面に相応しい挨拶を告げたのですが……。



「「「……」」」



 どうやら彼等はそれでも警戒心を解いてくれないようですね。


 剣、弓、槍等々。


 多様多種の武器を手に持ったラタトスクちゃん達に、一斉に包囲されてしまいましたもの……。


 人の姿の者も居れば魔物の姿、つまりラタトスクの姿で武器を構えている者も確認出来た。



「え、えっとぉ……。御安心下さい。お、俺達は決して怪しい者じゃないんです」



 不審者の約七割が放つであろう嘘臭い台詞を吐き、敵意が無い事を示す様に両手をパっと上げる。



「――――。空から突如として巨大な獣が降りて来て怪しい者では無いと判断する馬鹿がどの世に居る」



 ごもっともです!! 俺も貴方達の立場なら必ず警戒しますもの!!


 俺の喉元へ向けて鋭い剣の切っ先を突き付けている一人の男性が荒い鼻息のままそう話す。



「け、警戒するのは当然でしょう。ほ、ほらハンナ。さっさと人の姿に戻れ」



 俺の背後で丁寧に毛繕いを続けている大馬鹿野郎に釘を差す。


 と、言いますか。呑気に毛繕いをしてんじゃねぇよ!! 俺達完全に包囲されてんだぞ!?



「あぁ、了承した」


 大馬鹿野郎の体から強き光が迸ると世の女性が感嘆の吐息を漏らしてしまう美男子が現れた。


「珍しい種の魔物、か。我々が住む土地に一体何の用があって来たのだ」



 うん、今から話しますから切っ先をちょっと下げて貰えますか??


 口を開いただけで剣の先が喉元にプツッと刺さってしまいそうなので……。



「俺達は訳合ってここから随分と遠くに見えるあの森へお邪魔させて頂こうかなぁっと考えていまして」



 右手の人差し指でツツ――っと剣の切っ先を逸らして俺がそう話すと。



「な、何だと!? 貴様等……。生の森を穢す輩なのか!?」


「この場で殺す!! そこから動くなよ!?」


「その通りだ!! ヤッちまえ!!!!」



 俺達を取り囲む男性達の雰囲気が一気に物々しいものへと変化してしまった。



「いだっ!! ちょっと誰ですか!? 俺の尻を槍で突いたのは!!!!」


「貴様等、鎮まれ。まだ殺すのは早い……。コイツが言った訳を聞いた後でもいいだろう」



 えっ?? 俺が話した訳が気に入らなかったら俺達ここで殺されちゃうの??


 まだまだたぁくさんの美女達とお出掛けしたいからむさ苦しい男達に囲まれて死ぬのは本望じゃないんですけど。



「ふ、ふぅ――……。貴方達が守る神聖な森へ入る訳は……」



 無意味に高まって行く緊張を解す為に一つ大きな深呼吸をすると事の顛末の一から十まで詳細に話していく。


 ここで一つでも話を端折ったら酷い目に遭う可能性が高いので慎重にならざるを得ないでしょう。


 頑是ない子供の純粋な願い、横暴で横柄な活発受付娘の了承と巨大な街である程度の権力を持つ色気のある美女さんからの許可。



「――――。と、言う訳でして。俺達は生の森へ薬草の採取に訪れたのですよ」



 その一つ一つを丁寧に説明し終えると両手を上げたまま警戒心全開の瞳を浮かべている真正面の男性に対して一つ大きく頷いた。



「お前達が此処へ来た理由は理解した。だが、生の森へは爪先でさえも入れさせんぞ」



 まぁ、当然そうなりますよね。


 あの森は貴方達にとって聖域みたいなものですから。



「えっと、この里の族長である娘さんのリフォルサさんから一通の手紙を受け取りまして……。これをベベズさんに渡して頂けないでしょうか??」



 ここで初めて彼女の名を出し、相手に警戒心を抱かせぬ所作で右肩から掛けてある鞄の中から一通の便箋を取り出すと。



「何!? リフォルサと知り合いなのか!?」


 先程からずぅ――っと俺の首元に剣の切っ先を向けている男性の顔色が驚きの表情に変化。


「え、えぇ。訳合って知り合う事になりまして。彼女がこれを族長に渡す様にとの言伝も承っております」


「おい!! 確認して来い!!」


「は、はいっ!!」



 一人の若い男性が俺から手紙を奪い取ると物凄い勢いで里の方へと駆けて行ってしまった。



「確認を終えるまで動くなよ?? 動いたら命は無いと思え」


「分かりました……」



 動こうにも動けないって……。少しでも変な動きを見せたらかたぁい鉄が俺の体を穿ちそうだし。


 手の平にじわぁっと汗が浮かぶ一触即発の空気が漂い始め俺達はなす術も無く只々無抵抗を貫いていた。




お疲れ様でした。


現在、後半部分の編集作業中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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