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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第六十一話 襲い掛かる野生の力 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




 意気揚々と強力な力を持つ二体を追って行った相棒よりも今は己の身を案じましょうかね。


「よぅっ!! お前さんの相手は俺だ!! 宜しくぅ!!」


 威勢良く右手を上げて此方に注意を引き付けてやると。


「……ッ」


 ハンナの背を追う事を諦めた個体が静かに振り返り、警戒心を高めた黒き瞳で俺を捉えた。



 う、うぅむ……。


 あの馬鹿げた突進力を止める術を持たない俺は距離を取って矢を射続けて仕留めるべきか。それとも超接近戦に移行して短剣と長剣で体を刺突すべきか……。


 実に判断に迷うな。


 今は矢の射程距離だし、取り敢えず一発放ってみるか!!!!



「とりゃっ!!」


 物は試し、そう考えた俺は飢餓鼠の眉間に向かってシェファの父親から譲り受けた大弓から矢を放ったが……。


「ヂュッ」



 それはもう通用しないと言わんばかりに逞しい筋力が積載された尻尾が宙で矢を叩き落としてしまう。



 すっげぇな……。あの尻尾。


 骨格標本で見た尻尾の骨は蛇腹状になっており複雑な角度で攻撃を放てると予想できるし、積載されている筋力の重さを考えると恐らくアイツの意思で自由自在に操れる筈だ。


 遠距離からの攻撃は鞭の様にしなる尻尾で無効化され、接近戦を挑めば剣の一撃を受けても折れぬ二本の前歯が襲い掛かって来やがる。


 それに加えて逞しい足から繰り出される常軌を逸した突進力。


 只の鼠だと高を括って挑めば俺の体はアイツのお腹ちゃんの中にすっぽりと収まってしまいますね。



「ふぅ――……。遠距離からチマチマと攻撃するのはどうやら諦めた方が良さそうだな」



 右手に持つ大弓を地面の上に置き、背に担いでいた矢筒を外すと大弓の脇に添える。


 そして左の腰から長剣を抜剣して中段に構えた。


 重装備から軽装備へと移行。これが恐らく正解だろう。


 ハンナの様な腕力を持たぬ俺は奴の攻撃を真正面から受け止める事は出来ない。そして付与魔法も使用出来ぬ。


 相手の攻撃を躱し続けて耐え忍び、刹那の隙を見出して剣の切っ先を体に突き刺してやるぜ!!!!



「さぁ、どうした!! 俺はここだぞ!? 掛かって来い!!」


 虚勢とも自己奮起とも捉えられる雄叫びを放つと。


「シャァァアアアア――――ッ!!!!」



 俺の心意気に反応した飢餓鼠が何の工夫も無く真正面から突撃して来やがった!!


 予想通り過ぎて欠伸が出ちまうよ!!



「ふんっ!!!!」


 一直線に向かい来る軌道を読んで右方向へ回避。


「ヂュゥッ!!」


 呆れた突進力を相殺する為に地面に着地した飢餓鼠の左側面へと向かって鋭い一歩で接近してやる。


「食らえぇぇええ――ッ!!!!」



 万力を籠めて柄を握り締め、ぽっかりと空いた脇腹目掛けて剣の切っ先を突き出してやった。


 鉄が肉を切り裂く生々しい手応えを掴み取るまで後少し!!


 剣の切っ先が薄汚れた灰色の毛の合間を穿った刹那。



「ヂュァッ!!!!」


 地面からせり上がって来た尻尾の強撃が剣を弾き飛ばしてしまった。


「いでっ!?」



 こ、この超接近戦でも尻尾の脅威は消えないのかよ!!


 予想だにしていなかった一撃を受けた剣が無情にも俺から随分と離れた位置へ吹き飛ばされてしまった。



「シィィ……」


 己の体に攻撃を加えようとした敵性対象を捉えると黒き瞳がドス黒い憤怒に染まって行く。


「あ、あはは。いやぁ――……。今日は本当に良い夜ですよねぇっ」



 や、や、やっべっ!! 剣を手放しちゃった!!!!


 腰から短剣を抜いて静かぁに距離を取ろうとしますが。



「ギィァッ!!!!」

『この糞野郎が!!!!』



 そう言わんばかりに飢餓鼠が上半身を天に向かって勢い良くグワッ!! と伸ばして襲い掛かって来るではありませんか!!!!



「や、止めて!! 俺の体を齧ろうとしないで!!!!」



 岩をも齧り取ると言われている逞しい前歯の攻撃を回避する為に左方向へ向かって飛び退くが、怒り狂った飢餓鼠は俺の回避行動を粗方予想していたのか。



「ヂュッ!! ヂュゥゥウウウ――!!!!」


 地面の上で激しく転がり続ける俺の体を美味しく食もうとして大きな御口を開いて襲い掛かって来やがった!!


「ウ、ウォォオオオオ――――ッ!!!!」



 く、食われて堪るものか!!


 未来永劫回り続ける独楽もビックリ仰天する速度で地面の上を転がり続けて襲い掛かって来る前歯を回避。



「カチッ!! カチッ!! カチチッッ!!!!」



 馬鹿げた大きさの口が上下に勢い良く閉じる度に鳴る乾いた音が俺の心臓をキュッと窄めてしまう。



「お腹が減っているのなら小麦でも食べてなさいよ!! ほら、向こうに沢山生えているでしょう!?」



 何の遠慮も無しに襲い掛かって来る黒き塊に対して、平衡感覚が狂う速度で回転しながら叫んでやるがそれでも攻撃は止む事は無く。


 寧ろ美味そうな御馳走が目の前からスルスルと逃げて行く様に憤りを覚えてしまった飢餓鼠の攻撃は更に苛烈な物へと移行してしまった。



「ギシャァァアアアア――――ッ!!」


「うぐぇっ!?」



 強烈な尻尾の一撃が腹部を捉えると出したくもない呻き声を放ってしまう。


 て、鉄の胸当てで上半身を固めておいて正解だったぜ……。


 生身でこの一撃を食らったら恐らく傷付けちゃいけない臓物がヤられちまっただろう。


 腹の上に大の大人が二階建ての建物の上から降って来た様な強烈な痛みが生じると俺の回転を停止させてしまった。



「シュルゥゥ……」


 ジリジリと距離を詰める飢餓鼠対し。


「や、止めろ……。こっちに来るな!!!!」



 地面の上で情けなく尻餅を着いたまま後退を開始した。


 刻一刻と互いの距離が縮まって行くと心臓の拍動が五月蠅く鳴り響き鼓膜を強烈に振動させる。


 死の恐怖が舌を乾かし、月光を浴びた黒き塊を捉えると思わず身が竦み正常な思考を阻害させてしまう。



 ふ、ふぅ――……。落ち着け……。勝利の栄光を掴み取るまで残り後少しなんだ……。


 荒ぶる心の水面を鎮め、一切の凪を消失。


 奴の一挙手一投足を見逃すまいとして強き心を保持したままでいると。



「ギィィアアアア――――ッ!!」



 漸く御馳走を平らげる事が出来ると確信した飢餓鼠が勢い良く上半身を夜空へと伸ばし、強烈な後ろ足を駆使して飛び掛かって来た!!



「これを……。待っていたんだよ――――ッッ!!!!」


 先程の尻尾の強撃によって弾き飛ばされた剣を掴み上げ、素早く柄を大地に突き立ててやると。


「グゥッ!?」


 上空から襲い来る飢餓鼠の腹部に剣の切っ先が直撃。



「どうだ?? 剣の味は?? 美味いだろ??」


「カッ……。カカッ……」



 剣の切っ先から柄まで全て自身の体に収めてしまった飢餓鼠に対し、ずっしりと重たい体に覆い被されながらそう言ってやった。



 右手に絡みつく血の生温かい感触、徐々に生の輝きが失われつつある黒き瞳。


 勝利を確信した俺は右手に掴んでいる剣の柄を手放して飢餓鼠の体の下から脱出しようとしたのだが……。



 野生の闘争本能は時に人が想像し得ない動きを見せると思い知らされた。



「ヂュゥゥウ゛ウ゛――ッ!!!!」


 飢餓鼠が最後の力を振り絞って両前足で俺の体を拘束すると逞しい前歯を左の肩口に突き刺して来やがった!!


「うぁぁああああああ――――ッ!?!?」



 皮膚を切り裂き飛び散った生温い血液が左の頬に付着し、気が遠くなる痛みが肩口から全身に迸って行く。



「こ、こ、この死にぞこないがぁ!!!!」



 死ぬ気で腰から短剣を引き抜いて柄を握り締めると飢餓鼠のがら空きになっている顎下へ向けて刺突。


 一撃ではこの野生の闘争本能を断ち切る事は叶わないと考え、何度も分厚い皮膚へ向けて突き刺してやる。



「ギュッ!?」


 一度刺すと飢餓鼠が驚愕の鳴き声を放ち。


「グゥッ……!?」


 二度刺すと体全身の力が刹那に揺らぎ咬筋力が微かに緩んだ。



 こ、この機を逃したら確実に殺される!! 


 このまま一気苛烈に勝負を決めてやらぁぁああ――――!!!!



「ずぁぁああああ――――ッ!!!!」



 直ぐ後ろに迫る恐怖に飲まれまいとして喉が裂ける勢いで叫び、負の感情に染まろうとする心を勇気で満たして己を奮い立たせる。


 手の届く位置まで近付いて来た勝利を掴み取る為に眼前の黒き塊へ向かって何度も短剣を突き刺してやった。


 厚みのある短剣の刃が肉を切り裂くと生鈍い感触が右手一杯に広がり、鉄製の刃を肉から引き抜くとせいの生温い朱の雨が顔面に降り注ぐ。


 互いの生存を賭けて戦闘本能を衝突させる様は正に野生の一言に尽きる。


 夜空では無数の星達が煌めき美しい月が輝き、地上では獰猛な獣と武器で身を固めた人間が剥き出しの感情のままで暴れ狂う。


 顔面に降り注ぐ生を感じさせる生温かい血の雨が漸く止み、魂が抜け落ちた抜け殻の肉体を押し退けた。



 そして、血と生臭い獣の匂いが混ざり合った空気から逃れると新鮮で清らかな空気を胸一杯に取り込んだ。



「すぅ――……。ふぅっ……。今回は俺の勝ちだったな」


「……」



 生の輝きを一切消失させてもまだ微妙に温かい飢餓鼠の体に手を添えて話す。


 今回は俺が勝てたがそれはコイツよりも俺の知識が勝っただけ。もしも俺の知識よりも野生の闘争本能が勝ったのなら俺が殺されていた。


 自然ってのは本当に気紛れで、時に厳しくて、偶に優しい。それを改めて思い知らされたよ……。



「いつつ……」



 痛みと恐怖を通して自然の摂理を教えてくれた飢餓鼠から手を離すと左肩の痛みが体の中に広がって行く。


 痛みで蹲っている様じゃ相棒に鼻で笑われちまうし……。



「止血して助太刀に参りますかっ!!!!」



 ハンナ、こっちは勝てたぜ?? 


 相手をたかが鼠だと高を括って立ち向かえば手痛いしっぺ返しが来るから気を付けろよ??


 まだまだ酷い痛みを生じさせる患部に手を添えると焚火の側に置いてある荷物の塊へ向かって随分と弱々しい足取りで向かって行った。




お疲れ様でした。


さて、本日から御盆休みが始まった方は多いかと思います。


皆様は一体どのようなお盆休みを過ごす予定でしょうか?? 私の場合は……。そうですね。


取り敢えず部屋の掃除は今日終えましたので明日は買い物に出掛けようと考えております。


連休二日目で大賑わいする街に出掛けるのは億劫ですが、台風が迫って来ていますのでこの機会は見逃せませんね。


人混みに紛れてフラフラと色んな店に足を運び、歩き疲れた体をチキンカツカレーで労わってあげようかと考えております。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!!


夏の暑さで参っている体に嬉しい知らせとなり、執筆活動の励みとなりました!!



それでは皆様、引き続きお盆休みを満喫して下さいね。


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