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第八話 御風呂場での空騒ぎ

前話が短めでしたので、引き続きの投稿です。

この話は御風呂場じゃなくてもいいかなと考えたのですが。

どうせだったらとの考えに至りまして……。何気に初めて狂暴龍主点で始まる回です。


それでは御覧下さい!!





 ユウの部屋を出て、長い廊下をのんびりした歩調で進んで行くと突き当りに柔らかい木目の扉が現れた。


「あそこが風呂だ」



 右隣り。

 ちょっとだけ土汚れが目立つ顔の彼女が話す。



「誰かが御風呂の用意をしてくれるの??」



 これだけデカイ屋敷に住んでいるのだ。

 使用人の一人や二人、居てもおかしくないでしょ。



「いんや。源泉掛け流しの風呂だぞ。ちょいと離れた位置に掘った所から湧くお湯を直接引いているんだ」



 源泉掛け流し。

 その言葉が私の心をぐぅっと鷲掴みにしてしまった。


 体力には自信がある私でも、飛びっぱなしでこの大陸に訪れた為か。

 実は結構疲れているのよね。温泉に浸かって、体力を回復させましょう。




 海を越え、大陸を横断し、目的地付近の森に到達。

 美味い物を求めて到着したのは良いが、待ち構えていたのはソレとは真逆の者であった。

 売られた喧嘩を買うのは当然だとして。

 予想外の者が私の喧嘩に割って入って来た。


 あの時。



『余計なお世話だ!!』 



 と、止めておけば良かったなと。今でも後悔が残るわね。


 そうすればアイツは今も馬鹿みたいに南へと向かい、今頃辟易しながら茨の森を西へと迂回。

 オークに追っかけられながら目に涙を浮かべつつ逃げ回っている事であろう。


 そして、何より……。私に出会わなければ。






 彼は人間のままであった。






「ふふん、ふん――っと」


 鼻歌を口ずさみつつユウが服を脱ぎ始める。


「随分と機嫌が良いわね??」



 脱衣所の中で彼女に倣い、私もお湯へ入る為の正しい姿勢の準備に入った。



「そう?? 普通だけどな」


 う――む……。

 怪しいわね。


 私も女の端くれ。

 こういう時。機嫌が良いとなると……。


 男か??


「そう言えばさ。アイツ……。うぎゃぁっ!?!?」


 さり気なく、そして日常会話の流れでアイツの事を問おうとしたら……。


 ユウが服を脱ぎ捨て現れたそれは、巨人も尻尾を巻いて逃げるであろう常軌を逸した巨大な二つの山。


 窮屈な場所から解放されて大変御満悦なのか。

 風呂から流れて来る湿気を含んだ空気の中で激しい自己主張を続けていた。


「どした??」


 此方に振り向くと、左右にプルンと揺れ。その余波でおまけと言わんばかりに上下に揺れやがる。


「ユ、ユウ。お願い……。ソレ、仕舞って??」


 な、何と恐ろしい物体なんだ。

 同じ女性なのにこれ程の恐怖感を植え付けるのか。


「はぁ?? 服を着たまま入れって言うのかよ」

「出来れば頼む。それは……。この世に解き放ってはいけない代物なのよ……」



 服、又は下着が恐らく拘束具の役割を果たしているのだろう。

 普段から抑制されていた力が解き放たれた今、馬鹿げた力をこれ見よがしに世の女性達へと向けるのだ。



 そして、その矛先は私に向けられている。



 恐ろしや……。あぁ、恐ろしや……。



「馬鹿な事言っていないで、入るぞ」

「あ、あぁ。うん。そうね……」


 ユウが歩く度に。



『お前の力はその程度か??』



 と、物言わずとも私の胸へと問いかけて来る。


 売られた喧嘩は必ず買う私でも、アレに挑む勇気は無い。ってか、この喧嘩を買う女性は存在するのだろうか??


 ユウの母ちゃんもデカイのに、それの一回り上だもん。

 きっと、世の中の女性の胸を吸収して成長しているのよ。そうじゃなきゃ説明がつかん。




 彼女が風呂へと続く扉を開くと。


「おぉっ!! すっげ!!」


 私の想像より二つ上を行く大きさの御風呂が現れた。



 石造りの四角い風呂には今も並々とお湯が注がれ、もうもうと蒸気を放っている。

 その奥、木の壁の上には小窓がありその蒸気を外へと放出。

 洗い場にはちょっとだけ汚れが目立つ桶と、体を洗う為の石鹸。



 正に完璧と呼んで相応しい風呂場がそこにはあった。


「先ずは体を洗って――と」


 手拭いにお湯を染みらせ、石鹸でゴシゴシと泡立てる。


 それは普通の所作。

 だが、彼女はそこから考えられない行動へと移った。




「よいしょっと……」

「ね、ねぇ」


「ん――??」

「あんたの胸ってさ。持ち上げないと下側洗えないの??」


「は?? あ――、そうだな。普通に洗ったら洗い残しが出来ちゃうし……」

「そ、そう……」



 そう話すと。右手で呪物を持ち上げ、下側を丁寧に洗い始めた。



「そう言えばさ――」

「何??」


 己の体を洗いつつも、ユウの一挙手一投足に釘付けになってしまう。

 今からは……。

 あぁ、腕か。安心したわ。


「レイドってさ。結構……。優しいよな」


 また唐突ね。


「そう?? 普通じゃない」


 んぉっ!! 桃尻を洗うのか!?


「普通かぁ?? 普通の人間だったらあたしに食べ物を与えようと思わないだろ。しかも、最後にとっておいたパンだぞ??」


「あんたが腹を空かせて。会話が成立しないと考えたんじゃない??」

「あ――。そっちの線もあったか……」


 お次は可愛いあんよですか。



 ユウって日に焼けた肌だけど、結構肌理が細かいわよね。

 しかも、馬鹿げた力持ちだってのに女の子らしい体格しているし。

 世を混沌へと導く武器を持っている処か、肌も綺麗で可愛い顔なんて……。卑怯過ぎるだろ。



「あんまりアイツに対して優しい顔しない方がいいわよ」

「何で??」


「何でって……。アイツだって男でしょ?? 勘違いしたアイツが、いつ私達に毒牙を向けるのか分かったもんじゃないわ」

「警戒し過ぎだって。襲い掛かって来たとしても、跳ね返せばいいじゃん」



 お先。

 そう話して、湯船へと浸かった。



「躾が大事なのよ、躾が。――――。あっはぁ――……。いい湯ねぇ……」


 ささっと体を洗い、湯船に浸かった刹那。

 言葉が自然と漏れてしまう。

 此れこそ、風呂の醍醐味かも知れないわね。


「だろぉ?? 身も心も、溶け落ちてしまいそうさ」

「そうねぇ。――――。ひぃっ!!!!」



 何気無く、右を見たら血の気がサっと引いた。



「どした――」



 拘束から解き放たれたアレが何んと、プカプカと浮いているではありませんか!!



 何で浮くのよ!!

 おかしいだろうが!!


「あ――、これ?? 外に出るとおめぇし、風呂の中は浮くから助かるんだぁ」

「そ、そ、そうよね。う、浮くと助かるわよね……」


「マイは今はその……。クスッ。その姿だけど、さ。元の姿だとどれ位だった??」

「今の笑い声は一度だけ、見逃してあげる」


 私が拳を握ってそう話すと。


「はは、わりぃ」


 快活な笑みを浮かべてくれた。


「も、勿論この倍以上の大きさだったわよ?? それはもう世の女性が羨む程に大きかったの!!」

「ふぅん。まぁ、今はそうじゃないから幾らでも言いようはあるわな」



 はい、死刑執行しまぁ――す。



「デカイからって偉い訳じゃねぇんだぞ!!」


 右手に力をこれでもかと籠め、呪物に乾坤一擲を見舞ってやった。


「いてっ!! んだよ、叩く事ないだろ」

「へ?? あ、あぁ。うん。そう、ね……」



 今、私。

 胸を叩いたのよね??



 硬い物を叩くと、手にじぃぃんと痺れにも似た感触が残る

 今、私が右手に感じているのは正にその感触だ。

 何でやわらけぇ物を叩いたのに、硬い感触が残るのかしら??


「この戦いが終わったらマイ達は南に抜けるんだろ??」

「その予定ね。アイツ、任務の途中だし」


 確か……。

 あぁ、ルミナって街に書簡を届けるんだ――って言っていたわね。


「ふぅん。そっか」

「ユウも一緒に来ない??」



 正直、そっちの方が私としても嬉しい。

 此方に来て初めて出来た同性の友人だ。ここでお別れってのも寂しいもん。



「行きたいのは山々なんだけど、さ。ほら、あたし。一応族長の娘じゃん。それがほいほいと里を出る訳にはいかんのよ」


 あ――、成程ね。


「じゃあユウの父ちゃんに聞いてみればいいじゃん」

「ん――……。そう、だな」


 それでも踏ん切りがつかないか。


「マイの場合はどうだったんだ??」

「私?? 母さんに行って来ます!! って言って出てきた」

「おいおい。お前さんの力からして、それ相応の家柄だろ??」



 流石、大魔の血を引く者ってか。

 力を解放していないのに看破されちゃっていますなぁ。



「放置主義なのよ、うちの家系は」



 父さんも父さんで結構適当な所があるし。

 母さんは……。すっげぇ怖いけど、私がやりたい事に対して文句を言った事は無い。

 それはきっと私の事を信用してくれている証拠であろうさ。



「羨ましいよ。はぁ――……。どうっすかなぁ――」

「言い難いなら私が言ってあげようか??」

「いんや。あたしが直接言う。こういう事は、ちゃんと自分の口から言わないとな」


「へぇ――。意外ねぇ。ユウってこういう時、まごまごしてそうなのに」


 一歩踏ん切りがつかないと、その場に留まってしまいそうな性格と言えばいいのか。


「うっせぇ!! あたしの事、まだよく知りもしないくせに!!」

「おわぁっ!? 何すんだ!! 放せ!!」


 背後から抱き留められ、体を拘束されてしまった。



 こ、この背中に当たっているのが……。呪物か。

 こえぇ……。



「お?? 何だ、マイ。お前さん意外と肌スベスベじゃん」

「意外は余分だぁ!!」


 僅かに自由が効く右腕でユウのお腹ちゃんを殴ってやる。

 

「効かね――」


 ちっ。

 水中だから五割減ね。


「マイは、さ。レイドの事どう思ってんだ??」

「はぁ?? 何よソレ」


「いいじゃん!! 女同士なんだし、教えてくれよ!!」

「分かったから!! 胸、くっつけんな!!」


 飲み込まれたらどうすんだよ!!


「別に……。特に異性としては意識していないわね」

「ほうほう」


「ほら?? あれじゃん。私を庇ってしまってあぁなったんだから……。私が責任を負う訳なのよ」

「責任??」


「うん。もうアイツは人として生きられないから、その責任よ」




 人から異形の存在として捉えられ、迫害を受けるかも知れない。

 化け物として扱われ、虐げられる。

 人として、魔物としても中途半端な存在。




 どちらにも居場所が無いのなら、誰かがその居場所を提供しなければならない。

 その役目を担う責任が私にはあるのよ。


「へぇ――。頭空っぽそうに見えて、ちゃんと考えてんじゃん」

「誰が空っぽだぁああ!!」


 龍の姿へと変わり、呪物に食らいついてやった。


「いってぇええ!! 放せぇえ!! 血が出る!!」

「ふぁなふぁんぞぉ!!」


 てか、離せないのが本音ね。

 今離したら暴れ回っている肉が私の体を飲み込んでしまうだろうし。


 窓の外に浮かぶ三日月。

 美しく柔らかい顔を浮かべている月も私達の行動を見下ろし、何処か微笑んでいる様にも見えてしまった。


続きます。

ブックマークして頂き、有難う御座いました!!

日々精進させて頂きます!!

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