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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第六十話 事前準備は滞りなく済ませましょう その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿なります。




 心温まる茜色の光。


 人々はそれを捉えると有限である今日という日の終わりが近付いていると理解して各々の目的地へと向かって行く。


 ある者は今日一日の仕事を終えて朗らかな笑みを浮かべて家族の待つ家へ。


 ある者は腹を空かせた家族の胃袋を満たす為に買い物へ。


 またある者は己に課せられた使命を果たすべく、緩んだ気持ちを引き締めて恐ろしい化け物が待つ場所へと向かうのだ。



「綺麗な夕日だけどさぁ――。俺の心はこの温かぁい光と違って物凄く不穏な空色なんだよねぇ――」



 塵一つ含まれていない空の空気を胸一杯に取り込み、黒と青がせめぎ合う憂鬱な空へと向かって重苦しい息と共に愚痴を解き放つ。


 数多大勢の人間達の願いを聞いて来た星達にとって俺の愚痴は余程迷惑に聞こえたのだろう。



『もう少し真面な台詞を吐きやがれ』



 星達が光り輝き始めるのには随分と早い夕空に浮かぶあわてんぼうちゃんの星達が俺の愚痴を耳に捉えると顔をギュっと顰めてしまった。



 そりゃ俺だって愚痴を言いたい訳じゃないのよ??


 心の安寧を保つ為にど――しても愚痴を言わなきゃいけないんですよっと。



 大変座り心地の良い白頭鷲ちゃんの背に生える羽毛を座布団代わりにして体を弛緩させ、傍から見ても大変怠惰な姿勢であると判断出来てしまう姿で恐ろしい野生生物が待つ地へと向かっていた。



「よ――。そろそろ見えてきそう――??」



 王都を飛び立ってから数時間の間、一言二言しか話していない白頭鷲ちゃんの後頭部へと声を掛けてやる。



「予定ではそろそろ見えて来る筈だ。到着後は夜営地の準備、農園の巡回警備等々。やる事が山積されている。今直ぐにでもそのふざけた態度を改めろ」



 猛禽類特有の鋭い瞳がクワッ!! と見開いて俺を捉える。



「今更凄んでもビビリませんからねぇ。んぉっ!! 見えて来たじゃん!!」



 空高い位置から地上へ落下せぬ様、四つん這いの姿勢で相棒の背を器用に移動して目を凝らすと俺達の目的地である農園が見えて来た。



 これまで見て来た背の低い草が生え揃う広大な大地とは違い、相棒の生まれ故郷であるマルケトル大陸でよく見かけた湿潤な大地の上に人が手を加えたであろうと容易く看破出来る農地が確認出来る。


 自然の中に出来た人口の四角の一辺は凡そ数百メートル以上であろうか。


 空高い位置からでも簡単に視認出来るという事はそれだけの規模を誇っている。


 恐らくこの地域が他の大地と違って肥沃なのは遠方の北側にドンっと腰を下ろして鎮座している背の高い山の御蔭であろう。


 山からの清らかな水の流れが大地を削り、そこまで幅の広く無い川が農園の北側から東側へ向かって湾曲する様に流れていた。


 そして……。農園の所有者達の頭を悩ませている飢餓鼠が生息していると言われている森が東のずぅっと先に見えた。


 アイツ等は森を抜けて、大地を進んで川を渡り、そしてこの農園という楽園を見付けたのだろう。



 ここには苦労をしないでも手に入る餌が大量に存在する。



 味を占めた三頭のはぐれが今も農園の何処かに居るのではないかと考え、キュゥっと目を細めて見下ろすがその影さえも確認する事は叶わなかった。



「空からじゃ見付けるのは難しいみたいだな……」


「自然の掟は厳しい。奴等はその厳しい掟の中で生きて来た言わば強者だ。俺が放つ魔力、圧、そして強さを敏感に感知して何処かに潜んでいるやも知れぬな」



 俺は物凄く強いんですよって強調する必要あった??



「生きるか死ぬかの瀬戸際に身を置いていればそれ位の敏感さは必要、か。んっ!? お、おい。農園の東側を見てみろよ」


 件の地面へと向かって指を差してやる。


「ほぉ……。どうやら飢餓鼠とやらは聞いた通り、食欲旺盛な様だな」



 農園の東端。


 茶の小麦が美しく生え揃う中に歪な『円』 を捉えてしまった。


 多分、というか奴等が好き勝手に食い散らかした跡だろう。



「お、おいおい。あの事件があって約十日前だってのにこれだけの面積の農作物を食ったのかよ……」


「大蜥蜴一体を骨の髄まで食らい仲間の死体を食らい、そこから更に農作物を思いのままに食らう。血と肉、そして穀物を食い漁ったはぐれ達は俺達の想像よりも成長しているかも知れんなっ」



 何で嬉しそうに話すんだよ……。


 ここは驚きの表情を浮かべて喉に生唾をゴックんと飲み込む場面でしょう??



「夜営地は何処に設営する」


 ハンナが農園の上をゆるりと旋回し続けなら問う。


「そうだな……。被害が最も顕著に表れている東端に設置しようか。ほら、あそこに数本の木々が生えているのが分かるか??」


 農園から少し東側に生えている木々に向かって指を差す。


「強い陽射しは木の影でやり過ごして、食事もそこですればいいだろ」


「あぁ、そうだな。ではあそこへ向かって……」


「ッ!!!!」



 はっは――!! 残念でしたぁ!!


 お前さんの癖は全てお見通しなのさっ!!


 ハンナが木々に向かって顎をクイっと下げる所作を見せるとほぼ同時に彼の背に生える大きな羽を両手でがっしりと掴んだ。



 これなら余裕とまではいかないけど、死を感じる急降下には耐えられるもんね!!!!


 そう何度も女々しい声を上げる訳にはいきません。



「降下するっ!!!!」


 しかし詰まる所、俺は悲鳴を上げなければ彼の降下に耐えられぬ様だ。


「ヒィィヤァァアアアア――――ッ!!!!」



 大馬鹿野郎がいつもより気合を籠めた瞳を見せると常軌を逸した加速度が体に襲い掛かり、視界が驚く程に狭まって行く。


 視界の端がじわぁっと黒く滲み、今何処へ向かっているのかさえ不明瞭になってしまう。


 人の意識を容易く絶ち切る加速度が始まってから数秒後。



「フンッ!!!!」


「ンゴベッ!?」



 神々しい翼がズバッ!! と大きく開かれて常軌を逸した速度を相殺すると俺の体は草の匂いが跋扈する大地へ投げ出されてしまった。



「テ、テメェ……。何でいつもより気合を入れて降りたんだよ」



 俺の体に覆い被さって来た荷物の山を押し退け、息も絶え絶えに立ち上がって燃え盛る瞳で馬鹿野郎を睨んでやる。



「俺の速度に慣れて来た貴様は次の行程へ進むべきだと考えたからな」


「と、言う事はだよ?? 今まではお遊びでこれが本気だと??」


「俺の速さに限界は無い。これでもまだ抑えている方だ」



 それはよう御座いましたね――。そして俺の体はテメェの体と違って飛ぶように出来ていないので次からは気を付けやがれ。


 恐るべき破壊力を備えている鉤爪を大地に突き立て、丁寧に毛繕いを継続させている白頭鷲を他所に木々の根本へ荷物の運搬を開始した。



「ふむ……。夜営の準備が整うまでに少し農園の様子を確かめに行くか……」


「夜飯を食ってから夜間警備を代わる代わるしてぇ、互いに休憩しながらはぐれを探す。打合せ通りに行動したいのは理解出来るけど少しは手伝えや」



 人の姿に変わった彼の背に拳をトンっと当てて言う。



「それは貴様の役目だ。少し出て来る。そこで大人しく待って居ろ」


「そっちこそ余り遠くに行って迷子にならない様にね」


 見知らぬ土地に来て興奮冷め止まぬワンパク小僧へ説く母親の口調で話してやった。


「ふんっ……。相変わらずの減らず口め」



 ハンナが憤りを籠めた鼻息を吐くとそのまま夕日を受けて静かに佇む小麦が待つ農園へと歩いて行ってしまった。



「ふぅ――……。静かで心地良いや」



 風がさぁっと吹けば小麦達が仲良く踊り出すと心に陽性な感情を与えてくれる音を奏で、柔らかな西日が安寧をもたらしてくれる。


 鼻腔に届く土の香と少しだけ埃っぽい空気を胸一杯に取り込むと肩の力をフッと抜いて周囲へ視線を送った。



「……」



 う、うん……。静か過ぎて逆に不気味ですね。


 これまで都会の喧騒の中で過ごして来た所為か、それとも姿の見えないはぐれの幻影の所為なのか。


 人が持つ想像力の高さがこの静けさを悪い意味に捉えてしまい、心に矮小な恐ろしさを生み出してしまった。



「よ、よしっ!! 俺も警備の道順を覚えなきゃいけませんからねっ!! ちょっと早過ぎるけど相棒の背を追おう!!」



 自分に体の言い訳を放ち、最低限の装備を整えるともう全然見えなくなってしまった相棒のカッコイイ背を求め。目に見えぬモノに追われている小心者全開のギクシャクした情けない歩き方で小麦が生い茂る農園へと突撃して行った。



お疲れ様でした。


もう間も無く連休がやって来るのですが……。台風七号が本州へと接近しております。このままでは週末辺りに最接近する予報となっており、有意義な連休が台無しになってしまう可能性が出てきましたね。


予報はあくまでも予報ですのでどう転ぶか分かりませんが……。


今日はこのままプロット執筆に戻ります!!



それでは皆様、お休みなさいませ。


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