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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第五十八話 野生の掟 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 雲一つ見当たらない清く澄み渡る夜空に浮かぶ星達の煌めきが怪しく光る満月を装飾する。


 思考と感情を持つ生物がその夜空を見上げれば思わず感嘆の吐息を漏らしてしまう程に今宵の夜空は美しく、友と語らうのに誂えた様な景色だ。


 その状況に合わせたのか将又酒の力によるものなのか。


 広大な大地の上の片隅では四人の大蜥蜴達が焚火を囲んで軽快な笑い声を放っていた。



「ギャハハ!! 大丈夫だってぇ。俺達四人が力を合わせれば何も怖いものは無いっ!!」


「そ――そ――!! この依頼を達成すれば新鋭四人組の噂が瞬く間に王都に広がって次々と依頼が舞い込んで来るからさ!!」


「あはは!! そうだな!! 飢餓鼠討伐の噂を聞いた美女達が俺達の体を求めて押し寄せて来るかも!?」


「だなぁっ!!」



 彼等の笑い声と同調する様に焚火が軽快に弾けると火の粉が美しき夜空へと舞い上がって行く。



「はぁ――……。俺はお前達が羨ましいよ。何でそこまで陽気でいられるんだ」



 陽性な感情が渦巻く中。


 一人の大蜥蜴が巨大な溜息を吐き、不規則な軌道を描いて夜空へ舞い上がって行く火の粉を見上げて呟く。



「何ビビってんだよ。たかが畑の農作物を荒らす飢餓鼠の討伐じゃねぇか」


 陽性な感情を持つ個体が弱気な彼の心を労わる様に肩を叩く。


「飢餓鼠は縄張りから出ないって言われているし。それなのに王都の近くまで接近している事自体が可笑しいと思わないのか??」


 その手を優しく払うと今も騒いでいる彼等に問うが。


「「「全然??」」」



 陽性な感情を持った三名は分からないといった感じで同時に首を傾げてしまった。



「縄張りを出た個体は『はぐれ』 と呼ばれていてさ。はぐれの討伐に出た者の中には帰らぬ者となった人もいるらしいし」


「それはソイツが弱かった所為だって。俺達は強いし、更にぃ!! 腕利きの手練れが四名も揃っているっ!! 恐れる事は何もなぁいっ!!」



 一体の大蜥蜴が嬉しそうに喉を鳴らして大きな曲刀を仰々しく縦に振った。



「よっ!! 力自慢っ!! 頼りにしてるぜぇ!!」


「おうよ!! お前達と組むのはこれが最初だけど……。これからも長い付き合いそうになりそうだな」


「宜しくぅ!!」



 二体の大蜥蜴ががっしりと握手を交わすと。



「――――。うん?? 今……。何か変な音が聞こえなかったか??」



 臆病で慎重な個体が徐に立ち上がり、彼等の背後に広がる小麦畑へと視線を送った。



「はぁ?? 気の所為だろ」


「い、いや。気の所為じゃないって……。ほら、耳を澄ませてみろよ」



 臆病な個体に勧められた通り、酒の力によって陽性な感情を心に纏っている彼等が耳を澄ませると途端にその表情が変化。



「「「……ッ」」」



 強張った顔色に染まると各々が得物を手に持ちその時に備えた。



「何かが……。こっちに向かって来ているな」


「あ、あぁ。この小麦同士が擦れ合う音は間違いない」


「いいか!? 絶対に離れるなよ!? 個では無く集となって立ち向かうぞ!!」


「「「おうっ!!!!」」」



 四人の大蜥蜴が真正面に広がる小麦畑へと向かって臨戦態勢を整えると、暗き闇から本当に静かに巨大な鼠が姿を現した。



「……」



 異様に発達した二本の前歯、薄汚れた灰色の体毛、ドス黒い大きな鼻は獲物の匂いをかぎ取ろうとして常時ヒクヒクと細かく動いている。


 小麦畑から半身を覗かせた個体は、齧歯類特有の前傾姿勢に特化した四つ足の姿勢で彼等を大きな瞳で捉え続けている。


 警戒態勢を継続させている飢餓鼠の様は彼等の緊張感を否応なしに高めさせ、互いに動かずただ時だけが経過していった。



「こ、この野郎……。俺達の姿をじぃっと見て何を考えてやがるんだ」


「どうする?? 切り付けて退治しちまうか!?」


「いや、後ろの小麦畑に逃げられたら厄介だ。向こうが飛び出て来るまで……。ッ!?」



 大きな曲刀を持つ個体が静かに指示を出した刹那。



「キシャァァアアアア――――!!!!」


 彼等の様子を窺い続けていた飢餓鼠が勢い良く小麦畑から飛び出して一体の大蜥蜴に襲い掛かった。


「こ、この野郎!! 力自慢の俺に向かって勝負を挑むとはイイ根性してんじゃないか!!」


「ギシャァッ!!!!」



 両刃の剣を持つ彼が襲い掛かって来る飢餓鼠の前歯を受け止めるが、その衝撃は相当なものなのか。



「うぉぉおお!? 何て力だ!!」



 大蜥蜴の巨躯を後退させ、地面に二本の線が強烈に刻まれた。



「ハハッ!! 後ろががら空きだぜ!!」


 飢餓鼠の大きな背に向かって曲刀を振り翳すが。


「ギィッ!!!!」


「どわっ!?」



 強力な尻尾の一撃が曲刀を持つ手を跳ね飛ばし、続け様に彼の胴体へ強烈な尻尾の一撃を見舞った。



「くそ!! 三方向から仕留めるぞ!!」



 小麦畑へ吹き飛ばされた仲間を見送ると一体の飢餓鼠を三体の大蜥蜴が見事な連携で取り囲み。



「死ねぇぇええ!!」


「ぜぁぁあああ――ッ!!」


「ヂュッ!?!?」



 剣の挟撃が飢餓鼠の胴体を貫き。



「これで止めだぁぁああ――――!!!!」


「ギュゥッ!?」



 巨大な戦鎚の先端が飢餓鼠の頭蓋を叩き割った。


 大きな目玉が収まる眼窩がんかの隙間から血液が滲み出て、割れた頭蓋の皮膚から血液と体液が混ざり合った夥しい量の液体が噴出すると飢餓鼠は地面に静かに倒れ。



「クッ……。グクッ…………」



 二度三度、四本の足を無意味に痙攣させると絶命に至った。



「よ、よっしゃぁぁああ!! これで依頼達成だぜ!!!!」


 戦鎚を肩に担ぎ夜空に向かって右手を上げて勝鬨かちどきを上げる。


「しっかし……。すっげぇデケェ鼠だな……」



 腰に剣を収めた個体が飢餓鼠の死体をおっかなびっくり突く。



「コイツの皮と毛は高値で売れるらしいし、成功報酬に更に上乗せ出来たな!!」


「これで俺達の名声が王都中に広まる事間違いなしだぜ!!」



 飢餓鼠の死体を取り囲んで陽性な笑い声を上げていると先程飢餓鼠の尻尾の一撃を食らって吹き飛ばされた大蜥蜴が腹を抑え、痛々しい声を上げながら戻って来た。



「いつつ……。あのなぁ、少しは俺の身を案じてくれてもいいんじゃね??」


「わはは!! すまんすまん!! コイツの相手に戸惑っていたからさ!!」


「ったく。だが、取り敢えずこれで依頼は達成した事だし。今日はこのまま朝まで飲み明かそうぜ!!」


「「「賛成――ッ!!!!」」」



「さてさてぇ。俺達の武勇伝を酒の肴にしてぇ……。ん?? 何だ、お前等。びっくりした顔を浮かべて……」



 曲刀を腰に仕舞い、飢餓鼠の死体を取り囲む彼等に向かって一歩踏み出そうとしたが……。


 彼等の驚きの表情を捉えるとその場に留まった。



「お、おい。な、何だよ……。あのデカさは……」


「俺達が対峙したのはまだ若い個体なのか!?」



「テメェ等……。揶揄うのはいい加減に……!!」



 三名の驚く様を捉えた彼はいつもの揶揄いだと捉えてその場で勢い良く振り返る。



「――――。えっ??」



 そこには彼の思惑に反して想像を超える大きさの飢餓鼠が闇に紛れて佇んでいた。



 後ろ足で立っているのか、畑に生え揃う小麦から大きく飛び出た頭の高さは巨躯である大蜥蜴よりも更に高く。彼を悠々と見下ろせる位置に頭がある。


 仲間を殺された事実を捉えた大きな黒き瞳が鋭く尖り、岩をも食いちぎる前歯が感情と同調する様に素早く上下に動く。


 鼻先から左右に伸びた長い髭が怪しく蠢き、それを合図と捉えたのか。



「「キシャァァアアッ!!!!」」


 小麦畑に潜んでいた二体の飢餓鼠が小麦畑から突如として飛び出し。


「うわぁぁああああっ!?」



 曲刀を抜こうとした彼の所作よりも速く彼の両足に噛みつき、逞しい後ろ足を駆使して闇が蔓延る小麦畑へと向かって引きずり始めてしまった。



「た、た、助けてくれぇぇええ――――ッッ!!!!」


「ま、待ってろ!! 今助けて……」



 無慈悲に引きずられて行く彼に救いの手を差し伸べようとするが。



「……ッ」



 巨大な飢餓鼠が一睨みすると彼等は金縛りにあったかの様にその場から動けなくなってしまった。


 情けない三体の大蜥蜴の姿を見届け、巨大な飢餓鼠の頭が小麦畑の中に消えたとほぼ同時。



「や、止めろ――!! い、嫌だ!! 俺はまだ死にたく……。グェッ!?」



 生肉を鋭く切り裂く生々しい音が美しい夜空の下に響いた。



「ジュッ!! ジュグゥ……」


「う゛、うぁぁ……。だ、だすけで……。食われだく、ない……」


「ギュジュ……。クチャァ……」



 彼が救いを求めて声を絞り出すが生理的嫌悪感を抱かせる咀嚼音が響くと彼の声はそこで途絶えてしまった。


 意思と感情を持つ生物が発する悲痛な声の代わりに耳に届くのは、骨が裁断される乾いた音。小腸或いは大腸が腹から取り出されて啜られる耳障りな咀嚼音。そして、生肉を奥歯で美味そうに噛み砕く生々しい音。


 直ぐそこの小麦畑で仲間が食い散らかされて行く事実を捉えた彼等は。



「い、一旦引くぞ!!!!」


「あ、あぁ!! 分かってる!!」


「助けてくれぇぇええ――――!!!!」



 恥も外聞もかなぐり捨てて脱兎の如くその場から逃走してしまった。


 彼等が立ち去った後も身の竦む食の音は止む事は無く、食われゆく彼の存在はその場で数十分程度確認出来たが……。


 嫌悪感を抱かせる咀嚼音が止むと彼の存在はこの世から完璧に姿を消失してしまい、大地には彼の残り香である血の跡だけが残されていた。


 そして、彼の存在を奪い去った三体の野生動物は次なる獲物を求めて夜の闇の中に消えて行ったのだった。



お疲れ様でした。


本日はちょっと用事があって出掛けており、一旦帰宅して取り敢えず前半部分だけを投稿させて頂きました。


今から再び出掛けまして、帰宅後に後半部分の編集作業に入りますので恐らく続きは深夜の投稿になるかと思われます。



次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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