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第五話 海竜さんの王都散策 その三

引き続きの投稿になります!!


それではどうぞ!!


「有難うございました――」



 司書さんから嬉しい言葉を背に受け、閉館時間を知らせる為だろうか??



 心地良い鐘の音が乱反射する室内を出ると。



『おっそい!! 出て来るのに何分掛ったのよ!!』



 深紅の髪の女性がムンっと腕を組み、此方を迎えてくれた。


 夕焼けに生える深紅の髪が少しだけ羨ましく見えてしまいますね。



『彼が中々起きなかったのです。私に不備はありません』


『ふぅん。んで?? レイドは??』



 ユウがいつもと変わらぬ快活な笑みを浮かべつつ問う。



『間も無く出て来るかと……』



 そう話し、クルリと振り返ると。



『ごめん!! お待たせ!!』



 まだ眠気の余韻が残る顔でしたけど。


 私達の姿を見付けるや否や。


 飼い主を見付けた飼い犬が如く、ぱぁっと明るい顔に変化し。此方に向かって懸命になって駆けて来た。



『遅い!! 何処で道草食っていた!!』



 マイの冗談半分の一撃がお腹にめり込む。



『いてぇ!! もう少し優しく殴れ!!』



 普通。


 そこは殴るなと命令するのですよ?? ちょっとだけ答えが違いますね。



『レイド様ぁ。早く行きましょうよぉ』



 お腹を抑え顰め面を浮かべる彼の右腕にアオイがやんわりと女性も羨む体を絡めると。



『あ、うん。そうですね』



 若干嬉しそうな顔で致し方なく。そんな感じでアオイから距離を取った。



 ふぅむ……。


 何でしょうかね。


 先程まで心地良い空気が心の中に流れていたのに。皆と合流した途端に雷雲が立ち込めて来てしまいましたよ。



 もうちょっとはっきり断って下さい。


 アオイの性格を加味したらまぁ……。仕方がないのかなぁっとは思いますけど。



『ん?? カエデ、もう行くのか??』



 私の後ろ姿を見付けたユウが声を掛けて来てくれる。



『えぇ。晩御飯用に美味しいパン屋に寄る予定ですので』



 王立図書館に来る前、彼が教えてくれた店へと向かい。ちょっとだけ早足で進み始めた。



『カエデ!! 待ちなさい!! それってあそこでしょ!?』



 私も……。


 彼女みたいに燦々と輝く太陽を顔に浮かべられたら。そんな思いを湧かせてしまう笑みを浮かべるマイが隣に並び。


 軽快な口調で口を開いた。



『あそこ??』



 店名までは伺っていませんので。これ以上は答え難いですね。



『此処に来る前に美味しそうな匂いを放つ店を見付けたのよ!! その名も……』




『ココナッツ!!!!』




 もう間も無く見えて来るであろう店先に向かって、ビシッ!! と指を指すのはいいのですが。



 通行人が何事かと思ってぎょっとしていますよ?? もう少し慎ましく行動しましょうね。



『流石、そういう所は見逃さないんだな』



 最後方からレイドがマイへと向かって声を掛ける。



『あたぼうよ。この二日間で大まかな店の特徴を捉えたわ。後は値段、そして……』



『『量、だろ??』』



 今度はユウとレイドが声を合わせ、見事に声が合ったな!! そう言わんばかりに手をパチンと交わした。


 ユウの性格が羨ましいです。


 私も、彼女の様に豪快に手を差し出したらレイドは応えてくれるのかな??


 試しに想像してみましょう。





 ――――――――――。



 止めれば良かった。




 飼い犬に向かって、飼い主が急に手を振り翳すと。


 今から怒られちゃう!!


 そんな感じで身構えちゃいますよね??



 同じ構えを彼も取ってしまいましたので。



 私ってそんなに怖いのかな??


 自分では誰よりも優しいと考えているのですがね。



 東に浮かび始めた暗き空と同じ空模様が心に浮かんでいると、件のお店が見えて来た。



『よぉ、レイド。あの店は何がお勧め??』



 ユウが彼の肩をポンっと叩いて話す。



『それは勿論!! クル……』

『クルミパン以外で頼むよ』



 ふふ。


 私と同じ事話しているね。



『ん――。種類豊富だし、どれも美味しいけど……。あっ、そうだ』



 何か思いついたのかな??


 ぱっと明るい顔になって口を開いた。



『あそこの店、パンが美味しい事で有名なんだけど。店員さんも可愛いって評判なんだ』



『――――――――。ふぅん??』



 可愛い。


 その言葉にこの場に居る全員がほぼ同時に反応した。



『訓練生時代、休みになるとそれ目当てで同期の奴らが足げに通っていてさ。俺も付き合いで何度か訪れてね?? そのお陰であの店のクルミパンは絶品だと知れたんだよ!!』



 ふ、む……。


 嘘を付く癖も見られなかったし。今の言葉に嘘偽りはありませんね。


 第一。


 彼はそういう目当てでお店には通わないか。


 私の考え過ぎでしたね。



『さぁ!! 到着よ!! 皆の者ぉ!!!! 私に続けぇええええ!!』



『はぁ……。全く、アイツは初見の店だってのに物怖じしないんだから……』



 やれやれ。仕方がない奴。


 そんな感じで彼が溜め息を吐き。それでも満更でもない表情を浮かべ、彼女の後に皆が続いた。



「いらっしゃいませ――!! ココナッツへようこそっ!!」



 わっ。


 本当に可愛らしい人ですね。



 明るい栗色の髪を後ろに纏め、小さい三角巾を頭に被る。


 薄い緑色の前掛けを着用し、肌色の長いスカートがまたこの店に良く合う。


 くるんと丸みを帯びた御目目に誂えた様な弧を描く眉。


 女性である私が可愛いと思うのだ。世の男性はどんな顔を浮かべるのだろう??



 店内に居た男性客に視線を送ると。



「有難うございましたっ!! 又のお越しをお待ちしております!!」


「……」



 彼女の笑みに視線を、そして思考を奪われ。御盆の上に乗せたパンの存在を忘れてただ魅入っていた。



 男の人を魅了する笑み、か。



 では、彼の場合はどうだろう??



 店内の入り口に積み重なっている御盆を手に取り、小麦の香りに包まれた店内でさり気なく彼の視線を追ってみた。



「おぉっ……。このパンも美味そうじゃないか。いや!? 大好物を敢えて買わずに我慢して次なる機会に備える手も捨てがたい、か??」



 はぁっ。


 良かった。



 彼女の笑み処か、パンの美しい丸みに視線を奪われていましたね。


 彼らしいと言えば、彼らしいですね。



『ユウ!! これ!! 私のお薦め!!』


『これ以上食ったら腹が壊れちまうよ』


『そんなちゃちな量じゃ駄目よ!! 食って食って食いまくるのっ!!』


『だ――!! 止めろ!! 乗せるな!!』



 申し訳ありませんね、騒いでしまって。



 マイとユウの絡みを微笑ましい表情で眺める看板娘さんに心の中で詫びを述べ。


 クルミパンと、その脇に並べられていた小豆の餡が詰まったパンを御盆に乗せ。彼の下に進んだ。



『カエデはそれだけ??』



 私の御盆の上に乗せられた三つのパンを見て彼が話す。



『これで十分です。今日は余り動いて居ませんので』



『そっか。ん!! やっぱりクルミパンは外せないか!!』


『お薦めと言っていたので、気になりました』



 本当は……。


 彼の好みを味わってみたいと思ったのが本音ですね。


 彼が感じた味覚を私の舌も感じたいと申しておりますので。



『じゃじゃ――ん!! パンの山ぁでぇすっ!!!!』




 良く倒さないで積み重ねられましたね?? と。


 自然の法則を無視した山を築き上げたマイの御盆を先頭に。会計用の横に広い机の上に各自が取捨選択したパンを乗せた。



「あ、お会計ですか??」


「えぇ、宜しくお願いします」



 幾らだろう??


 ざっと見繕って……。四千くらいかな?? マイが馬鹿みたいな量を築き上げてしまいましたので。



 頭の中で丼計算を果たし。



「えっと……。クルミパン五つに、レーズンパン三つ……」



 彼女が細い指で並べられているパンを丁寧に数え終え。


 私が待ち望んでいる正解が発表された。




「全部で二千ゴールドになります」


「え!?」



 彼女の言葉を聞くなり、彼がぎょっとした顔を浮かべてしまった。


 そりゃあ驚きますよね。


 私の計算の半分以下でしたので。



「もう間も無く閉店ですので、特別割引ですよ」


「いや、しかし……」


「何度かこの店に来てくれましたよね?? ほら、あの愉快なお友達方と」



 素晴らしい所作で紙袋の中にパンを詰めながら彼女が話す。



「覚えていたのですか??」


「ふふ、愉快な方々でしたからね。嫌でも覚えてしまいますよ。確かお名前は……」



 何かを思い出す様。


 顎に指をちょんと当てる。



「う――ん。思い出せません」


「思い出さなくても結構ですよ。アイツの場合、思い出すだけで増長しますからね」




「皆さん本当に元気の塊でしたからねぇ。それを精一杯宥めて……。レイドさんも大変だなぁって考えていまし……」


 そこまで話すと、ハッ!! っとした表情を浮かべてしまった。






 そりゃあそうでしょうね。


 彼の友人達の名前は思い出せないのに、彼の名を覚えていたのですから。




「「「…………」」」



 看板娘さんの表情を見付けてしまった三名の女性が瞬時に恐ろしい物へと豹変した。


 皆さん、お仕置きはもう少し待って下さいね。宿に帰ってからでも出来ますから。




「あはは。あの三人は本当に馬鹿なんですよ。俺が何度止めろと言っても止めやしないし。はい、お会計お願いします」


「あ、は、はいっ!!」



 彼から慌てふためき紙幣を受け取り、大粒の汗が浮かぶ額を袖で拭った。



『良かった。割引して貰えたよ』



 彼が財布を仕舞いつつ、誰とも無しに話す。



『そうね……』


『だな――……』



 マイが彼の右側。


 そして、ユウが左側へとさり気なく移動し。



『何だよ、二人共。お得だなぁって思わないのか??』


『えぇ、それはもう……。お得でお得でぇ……』


『危篤になっちまうってねぇ!!!!』



「ぎぃぃぇっ!!!!」



 マイの左手が彼の右側の臀部を食み。


 ユウの右手が彼の左側の臀部を食む。


 力強い二人の指力、ですか。想像するだけでお尻がムズムズしますね。



「どうかされました??」



 彼の顔を見た看板娘さんがカクンと首を傾げる。


 彼女の丁度死角だからあの悲惨な状況が確認出来ないのか。まぁ、あの二人はそれを見越してあの立ち位置に移動したのでしょう。



「ひ、ひえ。お気になさらず……」



 彼にはもっと厳しい躾が必要ですよね。此処では無い何処かで繰り返す虞がありますので。



『マイ、ユウ。もっと力を籠めて下さい』


『カエデさん!?!?』



 ふふ、お馬鹿さんには口で言っても分かりませんからね。


 これ位しないといけません。



『ユウ!! 行くわよ!?』


『おうよ!!』


『や、やめ…………!!!!』



「……………………っ!!!!!」



 大声を出すまいと人差し指を噛み締め、零れ落ちそうになる涙を堪え、必死にその場へと留まる。


 その姿を見付けた看板娘さんは何が起こっているのか理解出来ず、素敵な笑みを零し彼と日常会話を続ける。


 そして、その姿がもう一名の逆鱗に触れ。


 黒き着物を見に纏う女性が裾から鋭利な鉄製のクナイを取り出すと、彼は自分の紙袋だけを手に取り。逃げ帰る様に店を後にしてしまったのだった。




最後まで御覧頂き有難う御座いました!!


中途半端な位置で区切って申し訳ありませんでした。パン屋さんの店名をどうしようかと迷ってしまいまして……。


さて!!


次話は皇聖さんとの謁見の御話になります。それでは次の御話でまたお会いしましょう。

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