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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第五十一話 神々の舌を唸らせる甘味

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 常軌を逸した熱波の直撃を受けた喉の奥が焼け爛れると異様な渇きを生じさせ、大地と木々の焼け焦げた匂いが鼻腔を擽る。


 体中を襲う激しい痛みそして所々に感じる軽度の火傷のひりつく疼痛。


 体全体がこのままでは危険な状態に陥ってしまうと叫んでいるが痛みを感じるという事はこの世に生を受けているという証拠になる。


 蹲っちまうような痛みに感謝するのはちょいとお門違いかも知れませんが、それでも感謝しよう。



「よ、良かったぁ……。生きてる……」



 取り敢えず身近にあった物体にヒシと抱き着き人知れず生の喜びの声を上げた。



「さっさと離れろ」


「あぶちっ!?」



 どうやら俺がしがみ付いていた硬い物体は横着で我儘な白頭鷲ちゃんだったみたいですね。


 後頭部に迸って行った痛みがそれを如実に証明していた。



「何も殴る事無いだろ」



 恋人に悪口を言われて機嫌を損ねた女性の様に唇とムゥっと尖らせて立ち上がる。



「人の了承も得ずにしがみ付く方が悪い」


「じゃあ許可を得たら抱き締めてもよいと??」


「その許可は一生拒絶してやる。ふぅ――……。しかし、物凄い威力だったな」



 端整な顔が煤に塗れて台無しになっている彼が徐に立ち上がると俺の背後へと視線を送る。


 その視線を追って振り向くと酷い惨状を目の当たりにした。



「おっわぁ――……。酷い有様じゃん」



 爆心地からここまで凡そ百メートルは離れているのだが、この位置からでも天へ向かって高く昇って行く特濃の黒い煙が木々の合間を縫って確認出来る。


 爆発の中心から外側に向かって同じ方向に傾いた木々、所々に残る燻ぶった小さな火、鼻の奥をツンっと刺激する焼け焦げた匂い。そしてここまで人体を容易く吹き飛ばす爆風の威力がその恐ろしさを物語っていた。


 綺麗な森にこれだけの被害を及ぼしたのにも関わらず俺達が生きているのは幸運の加護があったおかげなのかも知れない。



 偶には俺の言う事も聞いてくれるじゃん。


 有難うよ、幸運の女神様。そして可能であれば毎回願いを叶えておくれ。


 青き空へ立ち昇って行く黒い煙を見つめつつ天空に住まう気紛れ屋な幸運の女神様にそう呟いてやった。



「さてと、荷物を取りに行ってから帰るか」


「残っていればの話だがな」



 でしょうねぇ……。方々に散らばっているのならそれを回収すればいいのですけども。


 爆風によって粉々になって使用出来なくっている可能性が高いし。


 今回の依頼の報酬を元に新しい生活雑貨を買い集めようかな?? それともこれも必要経費として報酬に上乗せ出来るのかしら??


 嫌らしい銭勘定をしつつ熱気が籠る森の中を爆心地の方向へ向かって行くと予想通りと言いますか、当たり前と言いますか。


 酷い惨状を目の当たりにした。



「すっげぇ……。地面が抉り取られているぞ」



 自爆花が群生していた大地はすり鉢状に深く凹み、その中心から外円までの距離は凡そ数十メートル。そして凹みの高さは建築物の二階建ての高さ程。


 あの小さな植物がこれだけの威力を放つとはよもや思わないって。



「世の中には俺が知らない不思議が蔓延っているのだな……」


 ハンナが黒く焼けた大地の底を眺めながら話す。


「荷物は後で探して、生活必需品は帰ってから買い揃えよう。そしてぇ!! いよいよ実食の時がやって参りましたよ!!」



 腰にぶら下げている革袋の中から自爆花の種子を取り出すと仰々しく天に向かって掲げてやった。



「ほぅっ!! それが自爆花の種子か!!」



 燻ぶる煙が立ち込めるこの場所でも甘い匂いを捉えたのか、ハンナの青い髪の毛が微かにふわぁっと浮き上がる。



「すっげぇ良い匂いだろ。この匂いだけでも癒されちゃうけど実際に食べたらどうなる事やら……」


 相棒に一つの種子を渡し終えるともう一つの種子を手に取る。


「食べる前に言っておくけど絶対に噛むなよ??」


「分かっている。頭部が爆散する恐れがあるからな」


「なら結構!! それではぁ……。頂きますっ!!!!」



 大いなる期待を籠めて大変馨しい香りを放つ種子を勢い良く口の中に迎えてあげた。



「カラコロ……。ンゥッ!?!? んまっぁぁああああ――――いっ!!!!」



 お、お、おいおい。何だい!? この幸せな甘さは!?!?



 先ず舌に感じたのは砂糖をこれでもかと煮詰めた様な飴の強烈な甘さだ。とんでもねぇ甘さに舌がびっくりするが唾液とその甘さが混ざり合うと白桃の爽やかな甘さに変わる。


 舌で種子の硬い感触を楽しみつつ素敵な甘味に感謝していると味が再び変化。


 今度は柑橘系の爽快な甘味に変わり鼻から涼し気な香りがふっと抜けて行く。


 まだまだ味わい足りない舌が活発な動きをみせて種子を舐めて行くとお次は粘度の高い甘味のお出ましだ。


 この粘度を例えるのなら……。そうだな、アケビといった所か。


 舌に纏わり付く全然嫌じゃない粘度の高い甘さが口内に広がり、その甘さが上顎にへばりつくかと思いきや。


 夏の風物詩である透明度の高い西瓜の甘味が粘度で参りかけた舌を潤してくれた。


 まだまだ飽き足らず種子を舐め回すと、種子ちゃんの機嫌がちょっと悪くなっちゃったのか。甘味が酸味のあるサクランボの甘味に変わる。


 これまでずぅっと甘さが続いていたのでこの酸味が実に嬉しい。


 俺の気持ちを汲んでくれたのかこの酸味ある甘さに矮小な変化が生じ、熟した林檎の糖度の高い甘さに変わり暫く舐め続けていると最初の舌が驚いた甘さに戻った。



 す、すっげぇ……。


 この世のどんな飴よりも美味いぞ、この自爆花の種子は……。



「う、う、美味過ぎるっ」



 七色に変わる甘さと美味さに思わず両の瞳からホロっと嬉しさの雫が零れてしまった。



「あぁ、本当に美味だ」



 ハンナもこの甘さに参ってしまったのか。今まで見た事が無い高さの髪の浮き上がり具合でこの美味さを表現していた。



「ふぉのいらふぃ。受けてふぉかったな」


「ふぉうだな。危険過ぎるふぃゆうが分かったふぃがするふぉ」


「ふぁふぁ!! ふぁともにふぁなせふぉ!!」


「ふぉういう貴様ふぉこそな」



 幸せな甘味を享受しつつ相棒の肩を仰々しく叩いてやる。


 そしていつまでもこの甘味が消えません様に!! と。決して叶わぬ願いを心の中で唱え、俺達は森の酷い有様を捉えつつ有限である幸せの甘味を楽しんでいた。




お疲れ様でした。


現在、後半部分の編集作業中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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