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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第四十五話 期待膨らむ夜道

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 この星の影によって面積の大半を侵食されている三日月から淡い光が大地に降り注ぎ地上で暮らす者達の心を怪しく照らす。


 まるで光り輝く宝石を散りばめた様な夜空に浮かぶ沢山の星達の煌めき、王都内の歩道脇に設置された松明の柔らかい橙の明かり、そしてこれから女性と一緒にお出掛けするという大人の情事……。


 基!! 大人の事情が俺の心を更に怪しい色に染めてしまった。



 ぬ、ぬふふっ……。大都会で初めて知り合った女性とお出掛けかっ。


 これで心が湧かない奴はいないでしょうね!!



「相棒!! 今日は何を食べたい!?」


 俺の右隣り。


 大人の時間に突入したのにも関わらず、絶える事のない人と馬車の往来が行われている大通りを無感情な瞳で見つめている彼の肩を仰々しく叩いてやった。


「貴様……。シェファにあれだけこっぴどく指導されたのにまだ懲りていないのか??」



 前言撤回。


 女の子と出掛ける事に心湧かない奴は少なからず存在する様ですね。


 俺が浮かれているのに対し、ハンナはさも面倒臭そうにこの待機時間を過ごしていますもの。



「全然?? シェファとドナちゃんはあくまでも別人ですので」



 あの惨劇からかなりの日数が経過しましたので心の傷も多少は塞がっているのですよ。


 それに恐ろしい思い出を素敵な思い出に上書きする為にも熱い一夜を過ごさなければならないのだっ。



「ふんっ。それより宿の手配はどうする??」


「何処の店が安いのか……。じゃあ無くて。俺達の様なよそ者が使用すべき宿、飯屋、娯楽施設等々。それを聞く為に彼女を誘ったんじゃないのか」



 勿論これは超建前ですっ。本音はぁ、女の子と遊びたいからでぇぇすっ!!



「俺の目を見て今の台詞を言ってみろ」


 俺の頭よりもちょいと高い位置から美男子の顔がぬっと降りて来たので。


「ボクハ、カノジョカラジョウホウヲキキダスタメニ、サソッタンデス」



 己の厭らしい感情と淫靡な考えを見透かされない様に敢えてたどたどしい口調で話してやった。



「嘘を付くのならもっとマシな理由を考えろ」


「以後気を付けま――すっ!!」



 軽快に右手を上げて心急く思いで人の流れを眺めていると。



「お待たせ――!! 仕事が長引いちゃった!!」



 大変活発な受付嬢のドナが小走りで俺達の方へ向かって来た。



 濃い青のズボンを履き、上半身は茶のシャツを着用。右肩から鞄を下げて軽快に弾んで移動する様は彼女の性格を如実に表している。


 俺達の様に外蓑を被らないのは長時間の移動を必要としないからであろう。


 彼女の軽い動きに合わせて茶の髪が爽やかに動き、明るい笑顔と相俟って好感を与えてくれた。


 清楚な制服を脱ぎ捨てて私服に着替えるとより活発さが前面に押し出された雰囲気になるな。



「お疲れ様でした」


 はぁっ、はぁっと息を切らして到着した彼女に静々と頭を下げてあげる。


「あのクソ野郎共の所為で仕事が長引いて大変だったわ!!」


「はは、そりゃ大変だったね」



 腕を組んでプリプリと可愛らしい怒りを表現するドナにそう話す。



「まぁね。後、申し訳ないんだけど。レストとミミュンも一緒に行きたいって言ってたから……」


 彼女が話し終える前。


「こらこら。仕事仲間を置いて駆け出すのは良くないわよ??」


「もう!! 置いて行ったら駄目じゃん!!」



 受付三人娘の内、残る二人がヤレヤレといった感じで俺達と合流を果たした。



「この二人も一緒に行くけど構わないわよね??」


「勿論!! 大勢で騒いだ方が楽しいからさ!!」


「おぉ!! 私と同じ考えじゃん!!」



 ドナが右手をスっと上げるので。



「今日は皆で騒ぎましょう!!」



 右手を合わせてパチンと軽快な音を奏でてちょいと早い宴の始まりを告げてやった。



「所で……。ドナさんは今から何処へ向かう予定??」


「敬称は結構。私達が良く通うお肉屋さんに行こうかって話が出てさ。あ、こっちね――」



 ドナが東方向へ向かって歩みを進めるので俺達も彼女を先頭にして移動を開始した。



「その店はすんごいお肉とお酒が美味しくて。しかも!! 安い!!」


「庶民に誂えた様な店、だと??」


「そういう事」



 お腹が膨れ尚且つ財布にも優しい店か。


 店の場所を覚えておけばこれからここで生活して行く上で役に立つかもな。地元民御贔屓の店に連れて行ってくれるのは本当に有難い事さ。



「しっかし、あのクソ蜥蜴には腹が立ったわね!!」



 まだ先程の余韻を引きずっているのか眉間に皺を寄せて正面を睨みつけている。


 その皺の深さをもう少し抑える事は可能かい??


 俺達の正面から歩み来る人達がちょいと驚いた顔を浮かべているので……。



「あぁいう客って多いの??」


「たまぁに出て来るって感じかな。俺達は地元じゃ名の知れた者達なんだぞ――って田舎者丸出しで歯向かって来るから余計に質が悪い。仕事中じゃ無かったらテメェ等みたいな者は吐いて捨てる程居るんだぞって言ってやるんだけどね」



 よそ者が事を荒立てても何も良い事は無い。それを理解していない田舎者は一定数存在しますからねぇ。



「所でさ、あの大蜥蜴に絡まれていた時に。『ラタトスク』 って聞き覚えの無い単語が出てきたんだけど??」



 あの時からずっと気になっている事を問うてみる。



「北の大陸出身のダン達は知らないか。私達はラタトスクって魔物なのよ。ここから西へ向かって行くととんでもなくデカイ森があるの。そこから東西南北に広がる一帯に私達ラタトスクは住んでいる。要は私達もダン達と同じ地方出身って事ね」



「アイツがドナを見下した理由は地方出身って事と、大蜥蜴に比べて少数な魔物である事。それと……。力が劣るって事かな」



「おぉ、正解っ。魔物の姿に変われば素早く動けるけど……。あの蜥蜴の膂力に比べると大分劣っちゃう。でもね?? 付与魔法を使用すれば大蜥蜴にも負けない力を発揮する事が可能となるのだ!!」



 ドナが胸をムンっと張ってそう話す。


 うふふっ。清楚な制服より装甲が脆弱な私服に着替えた所為か、より淫靡にお胸が揺れましたわね??



「でもそれは武に通じている人だけの話よ。私達は人の姿に変われる程度の魔力しか持っていないから」



 列の後方からレストさんの物静かな言葉が届く。



「じゃあドナ達は普通の魔物であって武に通じている訳じゃない、と??」


「そういう事。戦うのを義務付けられている戦士じゃないし。私は地元の風景に飽きたからこうして王都にやって来て。レスト達も大体似た理由でこっちに来たのよ」



 ドナの言葉を受けて後方にチラっと視線を送ると、レストさんは小さく頷き。ミミュンさんは……。



「本日もご利用有難う御座いました――!!」


「はわっ……。あのお店のパンって美味しいんだよねぇ……」



 間も無く閉店するパン屋を名残惜しそうな瞳で見続けていた。


 きっと彼女は景色に飽きたのではなく、大変素敵な匂いに釣られてこの王都に来たのでしょう。



「でもさぁ……。正直ダン達の強さには驚いちゃった。あの大蜥蜴相手に無傷で勝っちゃったからね」


「偶々だよ、偶々。そうだろ?? 相棒」


 口を紡いだまま静かに歩き続ける相棒へと視線を送る。


「あぁ、そうだな」


「ダンは口煩いけど、ハンナさんは物静かって感じだね」


「何で俺には敬称を付けないでハンナには付けるんだよ」



 心外だ。


 そう言わんばかりに腕を組んで言ってやる。



「だってなんかそんな感じだし?? あ!! ここを曲がるよ!!!!」



 っと、いきなり曲がるから行き過ぎてしまう所だったじゃないですか……。


 大通りに比べて随分と細い道へ向かって方向転換した彼女を追う様に薄暗い道を北上して行く。



 大通り沿いの家々はまぁまぁ御立派な造りが目立っていたがこの道沿いの家の造りは庶民に対して何処か親近感を与えてくれる。


 丁度良い感じに経年劣化した外壁、軒先に乱雑に置かれている箒や桶。くすんだ硝子の中から聞こえて来る温かな家族会話等。


 俺の様な庶民に誂えた場所であると物言わずとも景色を通して教えてくれている様だ。


 そしてこの親しみを覚える道を北上して暫くすると、お腹が空く香りが乾燥した空気に乗って鼻腔にふわぁっと届いた。



「ギャハハ!! もっと飲めってぇ!!」


「これ以上は無理だよぉ。明日も仕事があるんだからぁ」



 ほぉ、ここはどうやら我々庶民がこぞって使用する飲食店が立ち並ぶ区域なのだろう。店内を照らす柔らかい橙の明かりが暗い道をやんわりと照らし、そこから酔っ払い達の燥いだ声が溢れて来る。


 当然、行き交う人……。じゃなくて大蜥蜴達の様子も陽性に変わり。



「よぉ!! 兄ちゃん!! 今日も暑かったよなぁ!!」


「お、おぅ。涙まで枯れ果ててしまいそうな暑さだったよね」


「涙は枯れねぇだろ!! ほぅら!! 笑えばジャブジャブ溢れて来るし!!」



 彼が無駄に元気な笑い声を放つと大きなお目目ちゃんから大粒の涙がツツ――っと緑の鱗で覆われた頬を伝い落ちて行く。



「よっしゃあ!! 野郎共!! 次の店行くぞ!!」


「「「おおうっ!!!!」」」



 あはは、いってらっしゃいませ。そして飲み過ぎには注意して下さいね。


 まぁまぁな酔っ払い達を見送ると引き続き北へ向かって歩み出した。



「早速酔っ払いに絡まれたわね」


「この区域はそういう場所じゃないの??」



 俺の左隣りを歩くドナに問う。



「その通りっ。地元の人達が良く利用する飲食店街だよ。私達はこの街に住み始めて今年で五年経つんだけどさ、住み始めたばかりでも利用させてくれて……。私のお気に入りの場所の一つなんだ」


「へぇ、そうなんだ」



 店によっては一見さん御断りって場所もありそうだし。そういった意味では万人を受け止めてくれるお店は貴重なのかもな。



「ドナがこの場所に私達以外の人を誘うのは珍しいのよ??」


 ハンナの後ろを静かに歩くレストさんが意味深な視線をドナに送る。


「そうなの??」


 ちょいと首を傾げてドナの横顔を見つめると。


「私は今日お肉を食べたい気分だったの!!!!」



 あらあら、あっと言う間に頬が朱に染まってしまいましたねぇ。


 各店舗から放たれる橙の明かりに照らされた彼女の赤らんだ顔は可愛げに映り、早足で移動していく様がそれに拍車を掛けていた。


 活発そうに見えてその実、意外と恥ずかしが屋さんなのかも。



「さ、先に行くからっ」


 あらまっ、先行しちゃった。


「きっとダン達が助けてくれて本当に嬉しかったんだと思う」


「俺達が手を出さなくても誰かが救いの手を差し伸べたのでは??」



 今回は偶々俺達が厄介な奴に絡まれたけど、善意ある者なら注意の言葉を一つや二つ掛けるだろうし。



「う――ん……。どうだろうねぇ」



 ミミュンさんが小さな腕を組んで深く考える姿勢を取る。


 しかし、真面目そうに考えている様に見えてもクリクリの丸い瞳は通りの左右に併設されている飲食店を掴んでは離さないでいた。



「ほら、私達って先程の会話でも出て来たけどこの大陸じゃ少数の部類入る魔物なの。人口に占める割合は大蜥蜴が七割で、人とラタトスクその他の魔物が残りの三割。大多数を占める大蜥蜴達の中には私達がこの街に住む事でさえよく思っていない者達が居る。その人達の反感を買うのは憚れるから……」



 後は言わなくても分かるわよね??


 そんな感じで口を閉じた。



「この大陸は一応法治国家だけど、古い慣習や仕来りまでには深く及んでいないのか」


「そういう事。法は便利なものだけど私達の身分まで守ってくれていると言われたらそれは疑問が残る。でも差別は駄目だって法は一応存在するのよ?? それを覆せない程に慣習が強い。それが私達を取り巻く現状なの」



 ふぅん……。所変わっても人を卑下する奴等は居るのね。


 胸糞が悪くなる話だがこればかりはどうにもならんだろう。それは人や魔物が感情を持つ生物だからだ。


 幼い頃からそういった教育を受けて育てばそれが当たり前だと認識してしまう。一度確立された常識を覆すのには相当な力技でなければ変えられないのだから。


 今回の場合は俺達が力でねじ伏せてやった。


 アイツ等もこれに懲りて次からは粛々と過ごし、そして他の種族に対して差別の目を向けない様にしてくれればいいんだけどね。



「じゃあレストさん達はどうして大蜥蜴達が跋扈する街で職業斡旋の仕事に就いているんだい??」



 これは当然浮かぶ疑問だ。


 今までの話を統合して考えると彼女達は逆の立場、つまり仕事の需要側なら納得出来るけど。供給側に身を置く事自体に疑問を感じたのだ。



「流石というか、何かダンって良い所に着眼点を置くわよね」


「よその土地で生きて行く為に得た処世術さ」


「私達がこの職業に就けたのは私達と同じラタトスクの人から働かないかって誘われたの」


「へぇ、じゃあその人は相当な地位に就く人なんだ。ミミュンさんもそんな感じ??」


「うんっ!! そうだよ!! 後、私達にも敬称は要らないから!!」



 了解であります。


 何だかミミュンの笑顔ってコロコロに太った柴犬みたいだな……。


 丸みを帯びた顔がニコっと笑うと余計そう見えるのかも知れない。



「その人は一体どんな人……」


 続け様に質問を投げ掛けようとすると、この場に物凄く良く似合う怒号が真正面から届いてしまった。


「こらぁぁああ――!! いつまでダラダラ歩いているのよ!! さっさと入るよ!!」



 はは、すっげぇ声量。


 ここが飲食店街で良かった。閑静な街中であの声量が発せられたらきっと家の中の住人達は顔を顰めるだろうから。



「お待たせ。この店かい??」



 さぁ、どうだい?? 私が選んだ店は??


 満足気に両手を腰に当てて店の入り口の前に堂々と立つドナに問う。


 店の名前はえっと……。『ルサック』 か。


 入り口上部に掲げられている看板には店内から放たれる大量の煙と食事の汚れで黒ずんだ文字でそう書いてあった。



「そうよ!! お肉、お酒、その他諸々ぜぇんぶ美味しいんだから!!」



 でしょうね。


 店内で焼かれて肉汁弾けるお肉の小気味良い音、酒を片手に友達と笑い合う陽性な声。そして全開に開かれている窓からお腹が空く香りが分厚い煙に乗って漂って来ますので。



「この店の唯一の弱点は服に匂いが染み付いてしまう事ね。ダン達は別に気にしないでしょ??」


 俺達が着用する衣服に視線を送る。


「男の子は服の汚れ、匂いを気にしないからね。ドンっと来いって感じさ!!」


「結構!! それじゃあ行くわよ!! 私について来い!!」



 ドナが大海原へと出航する歴戦の船長宜しく威勢の良い声を放つと両開きの扉を開けて煙の中に突入してしまった。



「わ――い!! 久々だねぇ――!!」


「味も雰囲気も素敵なんだけど……。どうも匂いがねぇ……」



 続け様にミミュンが陽性な足取りで入って行ったのに対してレストは若干億劫に扉を開く。



「よっしゃ、相棒!! 明日からの仕事に備えてジャンジャン食おうぜ!!」


「あぁ、そうだな」


 彼の肩を軽快に叩き、俺達も恐ろしい量の煙を今も吐き続けている扉へと突貫して行った。



お疲れ様でした。



最近は忙しくてPS5を起動する時間が無かったのですが、何んと地球防衛軍の新たなDLコンテンツが配信されたと聞いて早速ダウンロードしました!!


最初の方は無難な難易度なのですが進んで行くにつれて、これ……。絶対にクリアさせる気はねぇだろと思える凶悪な難易度へと変貌を遂げてしまいました。


最高難易度であるインフェルノでは速攻で倒されてしまい、まだまだ鍛え足りないぞと教えられた気分ですよ……。


まだ前回のDLコンテンツも最高難易度ではクリアしていませんし、どうしたものかと頭を悩ませております。



明日も暑くなる予報なので熱中症に気を付けて下さいね。


それでは皆様、お休みなさいませ。


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