表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
874/1227

第四十三話 大陸一の大都会

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 本日も頭上から降り注ぐ太陽の光は強烈であり地上で暮らす者共の事情を一切考えず一方的にそして無慈悲に照らし続けている。


 阿保みたいに強い光の熱量が大地を煮沸させその上で二本の足を懸命に動かす生命体を苦しめ、風が舞い上げた細かな砂塵が呼吸を阻害。


 ただ普通に歩くという行為を継続させているだけなのに強き光と舞い続ける塵芥が体全身から大量の汗を誘発させ、これ以上の歩行は危険であると体が物言わずとも疲労という分かり易い形で現在の状況を知らせてくれた。



 ったく……。少し位遠慮したらどうだい??


 俺達はあんたと違って自然の摂理に付き従う生命体なんだぜ??


「……ッ」


 人の心情を一切察する事無く、明る過ぎる笑みを振り撒く太陽を一睨みして此方の事情を伝え終えると蜃気楼が立ち込める地平線へと視線を戻した。



 海風香るあの街から白頭鷲ちゃんの背に跨り、王都シェリダンまである程度の距離を稼いでからは徒歩で移動を始めた。


 このクソ暑い中の移動は困難を極めるも環境に順応する為には必要な犠牲であると己にそう言い聞かせて本日も終わりなき道を進んでいるのだ。



 飛んで移動する素晴らしい手段を持つ俺達がどうして態々疲労が高まる徒歩で移動しているのか、それには先程の環境順応という名分もあるが最たる要因は……。



 周囲の目だ。



 巨大な街ならば見ず知らずの者が入って来たとしても目立つ事は無い。しかし、翼長数十メートル越えの白頭鷲が突如として空から飛来したら人々は一体どんな反応見せるだろうか??


 驚きを分かり易く示す為に大きく目を見開いたり、余りの衝撃で腰を抜かしてしまったり、果ては白頭鷲に捕食されると思って逃げ惑う市民も居るかも知れない。


 角が立つ真似や異様に目立つ行為をよそ者がすれば街の人達は恐らく好ましくない感情を胸に抱くであろう。


 見知らぬ土地、街でよそ者が目立つ行為は御法度。


 円転滑脱を目指して大変慎ましい行動を心掛ける様に務めるのが文明社会の処世術なのですが……。


 どうやら俺の相棒はそれに納得していないらしい。



「全く……。何故無駄に長い距離を歩かねばならないのだっ」



 大変分かり易い憤りを籠めた台詞を吐いて微妙に整地されていない街道の端を無感情な足取りで進んで行く。



「何度も言っただろ?? 俺達は旅人で見知らぬ人から見ればよそ者だって。自分の庭で見ず知らずの飼い犬が暴れ回っていたら誰だって嫌な顔の一つや二つを浮かべるでしょう??」


 頑是ない男児を言い聞かせる母親の優しい口調で説いてやる。


「ふんっ。嫌な顔を浮かべるくらいなら受け流せばいいのだ」


「受け流せない程の洗礼を受けたらどうすんだよ。いいか?? 前にも言ったけど郷に入っては郷に従えだって」



 疲労を滲ませるハンナの肩をポンっと軽く叩いてやった。



「それは重々承知しているが……。それ程までに俺の魔物の姿は目立つか??」



 いやいや……。普通に考えてみなさい??


 一階建ての家屋よりもデケェ鳥が空から降りて来たら誰だってビビるからね??



「目立ち過ぎるわ。俺とハンナは見慣れたもんだけど、こっちの大陸の人から見ればきっと空から悪魔が魂を貪りに来たって感じるんじゃないのか」


「ちっ、よその社会とは面倒なものだな」


「そう腐るなって。ほぉぉらっ、もう直ぐ俺達がドン引きする位に大きな街に到着しますからね――!!!!」



 地面から立ち昇る蜃気楼で朧に揺れていた大きな黒き影。


 それが漸く形を確固たる物へと変化させ、俺達の前に巨大な城壁となって現れた天辺を指してやった。



 高さは目測で約二十メートル、といった所か。所々傷付いた立派な石造りの城壁が南北一杯に広がりその存在感を俺達に知らしめている。


 背の高い城壁の下にはこれまたデカイ両開きの城門が備えられており、街道から続く道は開かれている城門へと続く。


 城壁で隔たれた中と外からは絶え間なく人、馬、大蜥蜴達が続きその区切りが見えない程だ。



 すっげぇ……。ある程度の人の多さは予想していたがまさかこれ程までとはね。



「「……」」



 人と魔物達の濁流を前にすると俺とハンナは彼等の動きに呆気に取られ一旦足を止めてしまった。


 閑静な環境に慣れ過ぎた所為か、今からあの人波の中に突入するかと思うとそれ相応の覚悟を要されるんだよねぇ。



「っとお!! 兄ちゃん達!! そこでぼぅっと突っ立ていたら馬に撥ねられちゃうよ!!」


「あ、ごめんなさいね」



 俺達の後方から小気味良い車輪の音を奏でながらやって来た馬車に道を譲り、取り敢えず街道からちょっと離れた位置まで移動した。



「よぉ、相棒。心の準備は出来ているか??」


「出来てはいるが余りの人口密度でもう既に吐きそうなのだが……」



 でしょうね。


 里の戦士と呼ばれ、体力も膂力にも自信がある彼の顔には辟易という文字がくっきりと刻まれているのだから。



「我慢しろって。じゃあ取り敢えず、先日決めた通りに職業斡旋所のシンフォニアに寄ってみる??」



 まだまだ金は持っているけどいつか活動資金は尽きてしまうからね。


 余力がある内に食い扶ちを探さなければ文明社会の中では生きていけないのだ。



「あぁ、了解だ。先導を頼むっ」


「お任せあれっ!! さぁ行くぞ!! 里の戦士よ!! 我につき従え!!!!」



 真正面から押し寄せる文化の活気と人波に対して億劫になる弱気な心を捨てて気を確かに持つと、この大陸最大の規模を誇る王都シェリダンに記念すべき第一歩を踏み出した。



「いらっしゃいませ――!!!! 今日はジャガイモが安いよ――!!」


「さぁさぁ御覧下さい!! これこそ当店御自慢の切れ味抜群の包丁さ!! どんな料理もこれ一本で御茶の子さいさいってね!!」


「危険な旅には武器防具が必要不可欠っ!! 当店の装備は他所とは一味違うぜ!!!!」



 う、うぉぉ……。勢いそのままで足を踏み入れたのはいいけども、人の多さと活気にもう既に圧倒されてしまいますよ。



 東側の巨大な城門から王都へお邪魔させて頂いたのですが、城門から続く道はこの街の主大通りとなり中央の道路は主に馬車の往来に使用され。


 大通りの脇には歩道が併設されており数えるのも憚れる人々が多様多種な表情を浮かべて歩いている。



「ねぇ、もうちょっと安くしてよ」


「無理無理っ!! これが底値だもん!!」


 陽性な感情を浮かべて店主と会話を交わす者もいれば。


「……」


 無言を貫き己が目的地へと突き進んで行く者もいる。



 俺の生まれ故郷のアイリス大陸で最大規模を誇る王都レイモンドと似た活気なのだが唯一違う点といえば、街を占めるのは普通の人間では無くて大多数の大蜥蜴の姿である事だ。


 彼等の背の高さと巨躯も相俟ってか、終始圧倒されっぱなしになっちまうよ……。



「ふむ……。この街もどうやら大多数の大蜥蜴が占めている様だな」


「だろうね。しっかしまぁ――……。何んと言いますか。皆等しくデケェから圧倒されるよな」



 相棒と共に興味津々といった感じで歩道沿いに併設されている店々を眺めつつ街の中央へと歩んで行く。



「体は人の姿の俺よりも大きいが、魔力や武は大した事が無いな」


「それでも御立派な筋肉が詰まった尻尾の直撃を受けてみろ。それ相応の痛さを感じちまうだろうさ」


「当たらなければ良いだけの話。五つ首の脅威と比べたら雲泥の差だ」


「あれと比べたら駄目だろ。相手の攻撃範囲外から攻撃を予測して、隙を窺い懐に入って攻撃を加えるのが無難じゃないのかな??」


「無難過ぎてつまらんっ」



 左様で御座いますかっと。


 と、言いますか。何故俺達は彼等と戦う前提で話を進めているのだろう?? 俺も相棒の悪い癖に毒されているのかもしれない。


 もうちょっと明るい話題に転換して楽しい気分で街中散歩に興じるとしましょう!!



 やれあそこの店が扱う食い物は美味そうだ、やれあそこの店の武器は駄目だ。


 お互い興味を持った店に視線を送りそれを話題の種として会話に弾んでいると。



「よぉ!! そこの兄ちゃん達!! 当店自慢の三日月糖バルナを食べていかないかい!?」



 バルナ??


 聞き覚えの無い単語を掬い取ると足を止め、今し方俺達を誘ってくれた大蜥蜴の店主が店番をするお店の前にお邪魔させて頂いた。



「うちの店直営の荘園で獲れた果実さ!! ほぅらっ。この黄色い三日月は美味そうに映るだろう??」


「見た目は綺麗だけど味はどうなの」


「甘い!! 美味い!! 安い!! の三拍子揃ったうちの三日月糖は他所の店には負けないよ!! ささ、一つ銅貨一枚でどうだい??」



 銅貨一枚、か。


 それなら買っても構わないでしょう。



「じゃあ、俺とコイツ用に二つ下さい」


「毎度ありっ!!」



 三日月糖と呼ばれた果実は沢山の細長く湾曲した棒状の物体が一房に纏まっており。


 俺が銅貨二枚を支払うと、店主がその内の一つを大きな手を器用に動かしてもぐと俺に渡してくれる。



「柔らかい皮を剥いて食べてくれよ!!」


「ほいほいっと……。んぉっ!! 綺麗な色じゃん!!」



 湾曲した果実の頂点の皮を指で摘まんでちょいと力を入れると驚く程簡単に皮が捲れ、その中から食欲を誘う柔らかい白濁色の身が現れた。


 香りも良くて見た目も良い。


 どこぞの誰かさんが満面の笑みで提供してくれた汎用虫とは大違いですよ……。



「それじゃ……。はむっ……。ほぉむ……。んんっ!? んまい!!!!」



 前歯でサクっと実を寸断するとあまぁい香りが口内に溢れ出し、それから遅れて爽やかな甘味とトロっとしたまろやかな舌触りが心に安寧をもたらしてくれた。



 うっま!! 初めて食べる果実だけど……。これなら十本は軽く食べられそうだな!!


 相棒も三日月糖の美味さに満足したのか。



「ふむ……。良い味だっ」



 咀嚼を続けている内に青い髪の毛がふわぁぁっと浮き上がってしまった。


 ハハ、どうやら彼のお眼鏡に適ったようですね。



「ごっそさん!! 美味かったよ!!」


「皮はこちらで片付けるよ」



 店主に皮を返したついでに俺達の当面の目的地が何処にあるかを尋ねてみた。



「ちょいと尋ねたいんだけど、職業斡旋所の『シンフォニア』 って何処にあるのかな??」


「シンフォニア?? あぁ、このまま真っ直ぐ進んで行くと街の中央にぶつかる。その北西側に店を構えているよ」


 ふぅん。結構目立つ場所にあるんだな。


「兄ちゃん達は遠い街から来たんだろ??」


 さっすが人を見る商売に携わっているだけはあるね。


 俺達の所作や言動からよそ者と看破したのだろう。


「御名答。食い扶ちを探す為にそこへ足を運ぶ途中だったのさ」


「そっか。じゃあ良い事を教えてあげるよ」



 ほぅ?? 聞きましょう??



「この街には色んな職業斡旋所があるけど、その中でもシンフォニアは簡単な仕事から命が幾つあっても足りない仕事まで幅広い依頼を請け負っているんだ。慣れない内は簡単な仕事を請け負って、街の情報を粗方入手したら羽振りの良い仕事を選べばいいさ」



「俺達の様な田舎者が足を運んじゃいけない斡旋所ってある??」



「あぁ、あるよ。その場所の名は……」



 彼が耳打ちする様な仕草をするので右耳を上方に傾けてあげる。



「『ライツェ』 って名前さ。この街に住む者ならその名を聞いたら思わず一歩引いちゃう程に悪名高き店なんだよ。扱う仕事は要人警護だったり、野生動物討伐だったりと名目上の聞こえは良いけど……。裏では人を殺める汚れ仕事を請け負っているらしいんだ」



 らしい、ね……。


 つまり地元の人でもそのライツェって職業斡旋所が何をやっているのか分からない訳だ。



「仕事の羽振りは良いかもしれないけど、まず間違いないなくヤバイ仕事だから請け負うのは止めておいた方が身の為だぞ」


「有意義な情報を有難うね!!」


「どういたしまして!! またうちの店で買ってくれよ――!!!!」



 よそ者に対して優しい対応を見せてくれた店主に軽快な笑みを浮かべて店を後にした。



「――――。と、言う訳で。俺達はこのままシンフォニアに向かうとしますか」


 大蜥蜴ちゃん達が形成した流れに沿って歩みつつ相棒の左肩をポンっと叩いてやる。


「あぁ、そうだな。しかし時間的に大丈夫か?? 日が傾き始めたのだが……」



 ハンナがいつの間にか床へ就こうとしている太陽の姿を捉えて話す。


 無駄にデカイ街での移動と観光の所為で結構時間を食っちまったな。



「一日中の営業は難しいかも知れないけど夕方位までなら大丈夫だろ。それに今日は下見って感じで仕事の依頼を受ける訳じゃないんだし??」


「それもそうだな。むっ、あの店の肉は中々良い品質だな」



 食いしん坊な白頭鷲ちゃんから御墨付を頂けるお肉ちゃんに後ろ髪惹かれる思いで別れを告げ、相も変わらず一向に減らない人々の流れに沿って進んで行くと漸く街の中央へと到着した。



 東西南北から続く主大通りが中央で交わり、その中心には巨大な大蜥蜴を模った石造が設置されていた。


 何だろう?? あのデカイ石造は……。


 左腕を肩口まですっと上げて水晶を持ち、逞しい右手には殺傷力の高そうな剣を持っている。


 王都の中央に設置されているという事は恐らく超有名人の姿を模した石造なのだろう。


 その石造を中心として馬車は左回りでそれを迂回して目的地へと進んで行く。


 そして歩行者達はというと。



「は――い!! それでは進んで下さいね――!!」



 交通整理を生業とする大蜥蜴さんの指示に従い、馬車の途切れ目を狙って大通りを横断して進んで行く。


 俺達が進んで来たのは東大通りであり三日月糖を扱う店主から教えて頂いたシンフォニアの店は北大通りを跨ぎ、西大通りに面している位置にある筈。


 大粒の汗を流す彼の指示に従って人の流れに沿って進んで行くと漸く目的地へと到着した。



「ふぅ!! やぁぁっと着いたな!!」



 どちらかと言えば真新しい木目の立派な木造二階建ての建築物の入り口上部には立派な木製の看板が掲げられており、その中に『シンフォニア』 と威風堂々足る文字で店の名を歩行者達に知らしめていた。


 夕暮れ時であるのにも関わらず開かれっぱなしの両開きの扉の向こう側からは大勢の雄共達の声が漏れており、俺達に陽性な感情を与えてくれる。



「まっ、取り敢えず入ってみるか」


 ここでぼぅっと突っ立ていても仕事が舞い込んでくるわけじゃねぇし。


「そうだな」


「それでは……。お邪魔しま――っす!!」



 俺達の知らない何かがあそこに待ち構えている。


 そう考えると不思議な経験を期待する陽性な感情と、恐怖を危惧するちょっとばかりの不安が入り混じった何とも言えない感情が胸に湧いてしまった。


 さてさてぇ?? 大陸最大規模の街の職業斡旋所には一体どんな依頼が舞い込んでいるのでしょうかねぇ。


 今から大変お強い白頭鷲ちゃんを連れて向かいますのでどうか温かな感情で迎えてくれれば幸いで御座います。


 初見にも関わらずまるで通い慣れた店に訪れる様に軽やかな歩調で騒々しい店内にお邪魔させて頂いた。




お疲れ様でした。


もう少し書こうかなと考えておりましたが体調不良からの片頭痛が猛威を振るってしまい、本日の投稿はここまでとなりました。


中途半端な所で区切ってしまい申し訳ありません。今日はこのままプロットを書かずに眠りますね。



ブックマークをして頂き有難う御座います!!


しっかり眠って体調を整えて、次の投稿はもう少し長く書けるように頑張ります!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ