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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第四十二話 国に入ってはまずその法を聞く

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 遥か彼方の地平線から風が押し寄せて大地の上に転がる砂塵を舞い上げると、細かな砂と塵が目に飛び込み矮小な痛みを生じさせる。


 馬鹿正直に口を開いて呼吸をすれば砂塵をもろに吸い込んでしまうので唇を微かに開けて器用に呼吸を続けて体内に籠る熱を必死に逃そうとするが。頭上から降り注ぐ直射日光が大地に反射してフードの中に隠し込んだ顔面を温めてしまう。



 我が故郷を旅立ち本日で約三月が経過。



 本来であれば秋の香りが漂うってのにこの大陸ときたらどうだい??


 遥か頭上から燦々と光り輝く太陽が大地を馬鹿みたいに温め、肌が潤う湿度は何処へやら。カラッカラに乾いた空気が目と鼻の粘膜を悪戯に刺激してしまう。


 乾燥した空気と細かな砂塵、更にカンカンに照り付ける太陽の光。


 温暖湿潤に慣れてしまったこの体にはちょいと厳しい自然の洗礼を浴び続けて相棒の後に続いた。



「よぉ、ハンナ。どうだ?? 初めて違う大陸に上陸した感想は」


 街を目指して歩き始めた時と何ら変わりない速度で歩き続ける彼に問う。


「暑さに驚いているのが正直な感想だな」


「俺もそう感じているよ。この外蓑が無ければ今頃熱射にヤられていたかも知れないぞ??」



 被っているフードを外し、何気なく太陽を見上げると。



『ギャハハ!! 俺様はまだまだ元気一杯だぜ!!』



 衰え知らずの太陽の眩い笑みを捉えてしまい、彼の笑みから逃れる様に再び外蓑のフードをしっかりと被った。


 元気過ぎるのも大概にしろよ?? こちとらまだお前さんの暑さに慣れていないんだから。


 体中の皮膚から汗を流し、額から零れ落ちて来る鬱陶しい汗粒を乱雑に拭き取り疲労感を籠めた溜息を流しているとハンナがふと歩みを止めた。



「むっ、あそこか」


「おう!? 漸く到着したのか!?」



 足を止めて街の影を眺めている彼の脇を通り抜けると久し振りの文明の形を捉えた。



 俺達の右手側には広大な海が広がり、それと反対方向の左手側には背の低い草々が生える乾いた大地が何処までも続いて行く。


 その丁度中間、俺の体の真正面に文明の匂いが漂う人口建築物が見えた。



「へぇ!! 結構大きそうな街じゃん!!」



 大陸の端の街だから草臥れ果てた街を想像していたけど、きっとあそこは漁業が盛んなのだろう。


 海沿いに作られた街が俺達に提供してくれる海の幸を想像すると今から涎が止まりませんよ!!


 しかも親切丁寧に街へと続く街道も見えて来たしっ!!



「よっしゃ!! ハンナ!! 俺について来い!!」


 不格好な街道に足を乗せると少々暑さにやられて辟易した表情を浮かべている相棒に手招きをしてやった。


「五月蠅いぞ。聞こえているからもう少し静かに話せ」


「は――いはいはいっと」



 いい加減聞き飽きたけども一日に数回聞かないと逆に落ち着かない相棒の溜息が俺の背を押す。


 その勢いに乗るって訳じゃないけど、他人から見たらアイツは絶対に浮かれているに違いないと断定出来る所作の歩みで街の入り口へと到着した。



「んぉぉおお!! 結構広い港町じゃん!!」



 俺が予想した通りの街の様子を捉えると暑さと気怠さで参っていた体に活力が生まれる。


 街道から続く道はそのまま街の主大通りとなり、木造建築物の群で構成された街を貫通してずぅっと奥に見える海にまで続いている。


 街の入り口には厩舎が備えられ、馬達の軽快な嘶き声が時折響くと心に陽性な気分が湧く。



「いらっしゃいませ――!! 一度当店の品を見て行ってね――!!」


「今日は鯵が安いよ!! ほぉらっ!! 獲れたてピチピチだっ!! 今なら一匹銅貨一枚だよ!!」



 大通り沿いには日用雑貨、金物を扱う店。そして港町の特産品である海の幸が氷の箱に詰められて並べられており各店の店主達が太陽の明るさに負けまいと陽性な声を出して客の気を引いていた。


 人口建築物と空気を震わせる活気ある声が心を温めてくれますけども……。



 そんな事等どうでもよくなる生命体が街の中を跋扈していた。



「よぉ――。調子はどうだい??」


「あぁ、観光客相手に毎日四苦八苦しているさ」


「ははっ、そりゃ結構。んじゃ俺は明日の漁の準備があるから」


「おう!! そっちも元気でな!!」



 黒みがかった深い緑の鱗に覆われた巨躯とそれを支える逞しい二本の足、足元から頭の頂点までの高さは恐らくニメートル程度であろう。


 爬虫類特有のギョロっとした縦に割れた瞳孔の瞳に、二又に別れた舌が時折鋭い牙が生え揃った口から覗く。


 蜥蜴が二足歩行で歩けばきっとあぁして歩くんだなぁっと、人並みの感想を抱かせる所作で活気溢れる街の中を右往左往。


 己の感情と同調する様に大きな尻尾をブンッと強く振ると生鈍い空気の音が生じた。



「お、おい。ハンナ、見ろよ。大蜥蜴が街中をうろついているぜ」


 呆気に取られたまま右隣りで俺と同じ方向を見つめている彼の肩を叩く。


「驚いたな……。あれが大蜥蜴リザードと呼ばれる魔物か」


 彼もまた驚きを隠せないといった表情で街の中を見つめていた。



「ん?? 見かけない顔だけどお前さん達は旅人かい??」



 馬車の御者席に跨り、巧みに手綱を操りながら街から出て来た大蜥蜴さんが俺達を見付けると声を掛けてくれる。



「え、えぇ。旅すがらこの地に訪れました」


「へぇ、そうかい。この街は漁業が盛んでね?? ほら、見てみろよ!!」


 彼が嬉しそうに喉をキュキュっと鳴らして後方の荷台へ指を差すのでそれに素直に従い視線を送る。


「おぉ!! 色とりどりの魚達ですね!!」



 青の色が強いブダイ、刺々しい背広を持つカサゴ等々。


 俺の生まれ故郷でも獲れる魚達が氷の箱の中にしっかりと保存されていた。



「氷の魔法で箱を作って、昔ながらの方法で新鮮な魚を保存。これから内陸に売りに行く所さ」


「これだけの暑さだと魚の足もはやいですからねぇ……。この街に訪れるのは初めてなんですけど。酒場は何処にあります??」


「あはは!! 兄ちゃん、到着と同時に酒かよ!!」



 陽性な笑い声を放ち、鱗で覆われた太腿をペチペチと叩く。



「酒飲みの兄ちゃんに良い店を紹介してやるよ。このまま街の大通りを進んで行くと左手にヨボヨボの爺ちゃんが経営する雑貨店が見えて来る。そこを左折して暫く進んだ場所にある『ラッタルト』 って店が安くてお薦めだぜ??」


「おぉ!! 助かりますよ!!」



 ラッタルトね。覚えておきましょう。



「じゃっ!! 俺はそろそろ出発するわ!!」


「あ、は――い!! 気を付けて下さいね――!!」



 軽快に右手を上げて俺達に別れを告げた商人に軽やかに手を振ると。



「よぉしっ!! 相棒!! 景気良く歩いて行こうぜ!!」



 高揚感に突き動かされる様に大股で港町へとお邪魔させて頂いた。



「貴様……。いきなり酒場に行くとは何を考えている」


「何も考えずに行く訳じゃないって。いいか、ハンナ。郷に入っては郷に従えって言葉を知っているか??」



 おぉ――……。すれ違うどの個体の大蜥蜴も俺よりデケェや。


 正面からノッシノッシと歩いて来る大蜥蜴とすれ違うと改めてそのデカさに驚いてしまう。


 街の大通り沿いに併設された歩道を歩く観光客や地元の方々は皆一様に陽性な顔を浮かべており、それぞれが思い思いの時間を有意義に過ごしている。


 ここがどういった街なのか知りたいのであれば住民達の顔を見れば自ずと理解出来る。


 定説通りであればこの街は本当に良い街であると容易に判断出来るな。



「よそ者はその土地のしきたり、慣習に従うべきという言葉だ」


「それ位は知っているか。俺達は旅人であり、彼等にとってはよそ者だ。よそ者が我が物顔で自分達の縄張り内をうろついていたら目を付けられる恐れもあるし、よそ者だからといった理由で相手にされない場合もあるっ」



「先程の商人は軽快に言葉を交わしてくれたぞ??」



「誰しもが優しい訳じゃないって意味さ。そこで、だ。俺達がよそ者であり、何も知らない事を良い事に滅茶苦茶な値段を吹っ掛けて来る店もあるんだ」



 ここまで話せばもう分かるよな??


 そんな意味を含ませてハンナに向けて片目をパチンと瞑ってやる。



「成程……。酒場で情報を入手しようという考えか」


「その通りっ!! 情報提供してくれる代わりにある程度のお礼をさせて貰うけどね。おっ、この店っぽいな」



 街の入り口で出会った商人さんが教えてくれた通り、左手側にちょいと寂れた店が見えて来る。


 軒先に並べられているのは誰もが見向きもしないであろう草臥れた金物や料理器具だ。



「いらっしゃいませ――。当店の……。ふわぁぁ――……」



 街中を跋扈している大蜥蜴達の張り艶のある鱗と違い、少々色褪せて萎んだ鱗を持つ大蜥蜴が椅子に腰掛け。欠伸を噛み殺してお店当番をしながらぼぅっと街の主大通りを眺めていた。



 へぇ……。人間と同じで大蜥蜴も年を取ると肌が萎むんだねぇ……。


 森羅万象に通じる理を確とこの目に刻みその足で主大通りを左折。


 大人気の大通りと違って小さな安息が蔓延る裏通りを進んで行くと、『ラッタルト』 と書かれた看板が見えて来た。



「あの店か。それじゃあ、お邪魔しま――すっ」


「もう少し自分の身の振り方を考えて行動しろ……」



 ハンナの溜息を背に受け、よそ者が本来取るべき姿とは真逆の所作でラッタルトの扉を開いた。



「「「……っ」」」



 威勢よく入って来た俺を捉えた客達の視線が刹那に集中するが。



「それでさぁ、聞いてくれよ」


「だからさっきから聞いているだろ??」


「ぷっはぁ!! んめぇ……」


「お、おいおい。お前さんちょっと飲み過ぎじゃないか??」



 脅威とならないと判断した彼等は普段通りに酒を飲み、慎ましいおかずに舌鼓を打ち始めた。


 ふぅむ……。広くも狭くも無い室内ですが、客層を見る限りゴロツキ共がこぞって使用する店じゃないか。


 店内に方々に設置されている机の合間を縫って進み、入り口から向かって正面奥で静かに佇む店員らしき人物が居るカウンター席へと足を運んだ。



「――――。いらっしゃいませ、注文を受け賜ります」


 相も変わらずの大蜥蜴の縦に割れた怪しい瞳が俺を捉える。


「この席に座って良いかな??」


「どうぞご自由に御使い下さい」


「有難う!! お――い、ハンナ!! こっちこっち!!」



 たどたどしい足運びでこちらにやって来る彼に手を振る。



「ふぅっ、漸く一息つけるな」


 俺の右隣りに腰掛けるとちょいと長めの吐息を吐く。


「じゃあ取り敢えずお水を貰えるかな?? ほら、喉が乾いちゃって」


 俺が軽快にそう話し掛けると。


「当店は酒屋です。お水が飲みたければ裏手の井戸をご使用下さい」



 うはっ、早速やって来ました!! よそ者への洗礼っ!!



「この店は水も……。むぐっ!?」

「じゃあ店員さん?? 店長さん?? のお薦めの酒を一杯貰おうかなぁっ!!」



 要らぬ言葉を発しようとした相棒の横着な口に手で蓋を被せてやる。



「私はこの店の店長ですよ。それでは少々お待ち下さい……」



 店長さんが俺達に対して静かに頭を下げると左手側に見える扉へ向かって、大きな巨体にも関わらず大変静かな足取りで消えて行った。



「貴様!! 何のつもりだ!!」


 ハンナが俺の手を乱雑に振り払って叫ぶ。


「あ、あのな?? さっき俺がキツク言ったでしょう?? よそ者はよそ者らしくしなさいって。ここで事を荒立ててもなぁぁんにも良い事がないの」


「ふんっ!! それは重々承知しているが、客に水の一杯も出さない店もどうかと思うぞ!!」



 誰にでも分かり易い憤りを周囲へ放ち、ムスっとした顔のままで腕を組んでしまう。



「まぁそう怒るなって。ある程度情報を入手したら街に繰り出して飯でも食べに行こうや」


「あぁ、分かった」



 うふっ、飯と聞くと機嫌が直ったな。


 眉間の皺の深さがいつもより数センチ低くなったし。



 店内の床に刻まれた誰かさんの爪の跡、カウンター席の引っ掻き傷や壁の細かい染み。そして美味そうに酒を飲む大蜥蜴ちゃん達に何気なく視線を送り続けていると店長さんが先程と同じ静かな足取りで戻って来た。



「――――。お待たせしました、当店自慢の蒸留酒で御座います」


 酒飲みじゃない者でも思わず唸ってしまう美しい琥珀色の液体が注がれた木製のコップを俺達の前に置いてくれる。


「有難う!! 一杯幾ら??」


「銅貨五枚で御座います」


「じゃあ……。はい、どうぞ!!」



 懐に大切に仕舞い込んである財布から銅貨十枚を取り出すと彼に手渡し、早速この店の名物である蒸留酒を口に含んだ。



「んっ!! 辛いけど美味い!!」



 恐らく大麦の蒸留酒であろう……。舌に重く感じる酒の辛みと鼻から抜けて行く酒の香が堪りませんな!!



「有難う御座います」


「なぁ、店長さんよ。ちょ――っとお尋ねした事があるんだけどさぁ」



 後ろの客達に聞こえぬ様、本当に小さな声で彼に問う。



「私で答えられる範囲ならばお答えしましょうか」


「ありがとっ!! じゃあ先ず、この街の宿屋の値段の相場を教えて??」


「宿屋で御座いますか……。観光客相手にでしたら銅貨二枚が相場で御座いましょう」


「それじゃあ次は王都シェリダンについて色々聞きたいんだけ……」



 俺が続け様に問おうとすると、彼が注意して見ないと本当に分からない程に右手の親指と人差し指を擦り合わせた。


 あぁ、はいはい。これ以上は有料ってね。


 懐から財布を取り出して彼に銀貨一枚を手渡すと。



「……っ」



 彼の口元が微かに上向いた。


 ははっ、冷静そうに見えて意外と顔に心の空模様が顔に出ちゃう人なのかもね。



「続きをどうぞ」


「実は、俺達はとある島からやって来た冒険者なんだけどさ。王都シェリダンに立ち寄ったら……。そうだな、日銭を稼ぎたいと考えているんだけど。何か良い情報は無い??」



「シェリダンでしたら……。そうですね。規模が大きな街ですし、職業斡旋所に足を運んでみたら如何ですか?? 私の友人が数ある斡旋所の中でも『シンフォニア』 という斡旋所を好んで使用していましたよ」



 へぇ、そうなんだ。


 彼に頷きつつチビリと酒を口に含む。



「王都の人口は現在八十万人を超えていますので、その斡旋所には大なり小なり様々な仕事が次々と押し寄せてくるそうです」


「そこで働けば取り敢えず飢え死にはしないと??」


「えぇ、その通りで御座います。簡単な審査を通れば仕事にありつけますよ」



 八十万人の人口を抱える街にはそれ相応の問題が次々と生じ、それの対応に追われる為に人を雇い問題解決に当たらせる。


 恐らく、審査が簡単なのもその所為なのだろうさ。



「それじゃあ次に。大蜥蜴さん達に絶対してはいけない行為ってある?? ほら、例えば立派な尻尾を踏むのは駄目とか。かっこいい鱗をみだりに触っちゃいけないとか」


「その様な行為は特にありません。私達はそちらの彼と同じく魔物であり、人の姿に変われますので普通の人間と接するように接してもらっても構いません」


「そっか。じゃあ次はぁ……」


「……っ」



 あぁ、はいはい。指をコネコネ合わせなくても渡してあげますからねぇ――。


 彼のおねだりに対して再び銀貨一枚を渡してあげた。



「王都シェリダンにまで通じる詳細な地形が描かれた地図ってあるかな??」


「御座いますよ。確か……。この席の下に……」



 床へ向かって静かに腰を下ろした店長さんの姿が見えなくなると、ハンナが小声で話し掛けてきた。



「おい、地図なら俺が持っているだろう」


「それは古い情報だろ?? その地図を入手してからどれだけ時間が経過したと思っているんだ。俺達が必要なのは古い情報じゃなくて最新の情報なのっ」



 人と魔物が意識と感情を持つ動物である以上、社会は絶え間なく流動する。またその動きに合わせて情報も濁流の様に流れて動き続ける。


 生まれ故郷であるアイリス大陸に居る俺の友人が数年前の情報を頼りに安全と思しき街道を進んでいたら野盗と遭遇。


 命辛々逃げ出したのは良いが、荷馬車に積んでいた物資現金等々身ぐるみ全て剥されてしまい途方に暮れていた。


 たかが数年前の情報を頼りに行動しただけで財産を失う破目になったのだ。


 人の野盗ならまだしもこの大陸には人のそれよりも数倍上の膂力を持つであろう大蜥蜴が跋扈する。


 戦いを生業としない個体でもアレだけのデカさを誇るのだ。俺達がある程度の力を持っていたとしても大群で襲われたら無傷では居られないだろう。


 未開の土地で無知識は死に直結する。


 それはハンナの生まれ故郷で痛感したからな。俺達の知らない情報を入手出来るのなら金に糸目は付けねぇぜ。



「お待たせしました。私の友人の商人が地図を置いてしまわれたようで……。ちょっと使い古されていますがそれでも宜しいのなら」



 店長さんが机の上に一枚の地図を置いてくれる。


 ふむっ……。俺達が持つ地図と地形や大陸の様子はほぼ同じだが、こっちの地図は商人が使用していたお陰か。大陸の要所の街がキチンと記載されているね。



「有難う!! この地図上で気を付けないと速攻で死んじまう場所ってあるかな??」


「えぇ、我々大蜥蜴でも滅多に訪れない場所は多々ありますよ。例えば……。ここ、王都シェリダンから東へ向かった所にある森には飢餓鼠きがねずみが棲み付いていまして」



「「飢餓鼠??」」



 ハンナと共に声を合わせて問う。



「常に腹を空かせている大きな鼠ですよ。成体の大きさは……。そうですねぇ。お客様より少し小さい位でしょうか」



 店長さんがキュウっと目を細めて俺の体を見下ろす。



「い、いやいや。デカ過ぎでしょ」



 一メートル越えの大量の鼠と会敵したら洒落にならん。



「飢餓鼠は王都から西へ向かった先にある広大な森林の中にも生息していると言われています。鼠が餌を食い、それを追い求めて大型の捕食者が集う。森の中は危険が蔓延っていますのでもしも足を踏み入れる際には重装備と大勢の仲間を揃える事をお薦めしますよ」



 御安心下さいませ。


 急用が無い限りそんな危ない場所に足を踏み入れませんので。


 俺は安全安心を求めたのだが。



「ほぅ……。中々に興味をそそるな」



 危険という言葉が強さを求めるクソ真面目な白頭鷲ちゃんのナニかを刺激してしまったのか。


 喜々とした瞳で王都の東と西に存在する森を見下ろしていた。



「大陸南端には何があるのか分かるかい??」


 蒸留酒をクピッと口に含んで話す。


「大陸南端は熱砂と険しい山々が存在するとしか聞いた事がありませんねぇ。何分、ここからかなり離れた距離ですので」



 そっか……。俺が冒険に出るきっかけとなったあの地図の情報はもっと下って行かないと入手出来そうにないな。



「他に何か聞きたい事は御座いますか??」


「ん――……。王都内で絶対に気を付けなきゃいけない事ってある??」


 嫌らしく親指と人差し指を擦り合わせている彼に銅貨五枚を手渡して問う。


「北の大陸、アイリス大陸を御存知ですか??」



 えぇ、勿論。俺の生まれ故郷ですので。


 彼の問いに静かに頷いてやる。



「向こうの大陸では法体制が整えられており、こちらの大陸でも法が我々を支配しています。いわゆる法治国家という奴ですね。この国は一人の国王が絶対的な権力を持っておりますが、現国王様は大変心の広い御方です。我々庶民の立場を鑑みて様々な法体制を布いて下さっておりますので」



 いや、俺が聞きたいのは国の成り立ちじゃなくて王都内での禁則事項なのですけど??


 俺の視線の意味を理解したのか。



「コホン、少々話が逸れましたね」



 店長さんが一つ咳払いをすると話を続けてくれた。



「法を犯す行為。例えば、窃盗、強盗、殺人を犯せば裁判にかけられその結果罰せられれば投獄されます。人の財産生命を利己的な理由で犯さない事、公共の福祉を脅かさない事。普通に生活していれば執行機関に拘束される事はありません」



 成程ね。慎ましく生活していれば御咎め無しって事か。



「有難うね!! 助かったよ」


「いえいえ。こちらこそ有意義な情報交換が出来て嬉しいです」



 でしょうね。満足のいったホックホクの顔を浮かべていますもの。



「それじゃ俺達は本日の宿を探して来るよ!!」


 コップの底に残っていた蒸留酒をクイっと飲み干してやる。


「宿のお薦めですが……。大通りを海へ向かって進み、右手に食料品店を扱う店が見えて来たらそこを右折。暫く歩いた先にある宿屋をお薦めします」


「おっ、何々?? これはタダで教えてくれるのかい??」


 店長さんに意味深な笑みを送ってやる。


「ふふ、私の親切心ですよ」


「そりゃ結構。よっしゃ!! ハンナ!! 早速宿を取りに行こうぜ!!」



 椅子から軽快に立ち上がると相棒の肩を強く叩いてやった。



「喧しいぞ」


「それじゃ御馳走様!!」


「またのお越しをお待ちしております」


「その時はもっと酒を安くしてね!!!!」


「えぇ、地元民価格で提供させて頂きますよ」



 柔らかい店長の笑みを受け取り店を出ると、その足で彼が勧めてくれた宿屋へと向かう。



「ふ――!! これで粗方の情報は入手出来たって訳か」


「かなりの出費だったがな」


「自分の命に関わる事だからあの程度で済めば安い物さ」


「それにしても……。貴様の大陸の通貨が使用出来るのは少し驚いたぞ」


 あ――、そっか。


 ハンナは知らないのか。


「俺が住んでいた大陸にこっちの通貨制度が流れてきたんだよ」


「ほぅ、それで……」



 納得がいったのか。


 相変わらず難しい顔を浮かべつつ静かに頷いた。



「取り敢えず宿を取って、一日二日休みつつこの暑さに慣れたら王都へ向かって移動しようぜ!!」


「それは一向に構わんが何故貴様は先程から女ばかりに視線を送っているのだ??」


「え?? だって男の子だもん」



 大通りに戻って来ると人と大蜥蜴の波が復活。


 行き交う人々の中にきゃわいい子がいないかついつい目で追っちゃうものね。



「シェファにあれだけこっぴどく痛めつけられたのに……。貴様のその性格は死なないと直らないらしいな」


「まぁねぇ――。うっひょう!! あの子見てみろよ!!」



 大通りを挟んで向こうの通りを歩いている女性を指差す。



「大きなお胸ちゃんが歩みに合わせてプルンっと跳ねてぇ……。し、しかも!! 陽射しが強い所為か!! どの子も肌が健康的に焼けて男心を誘う褐色加減じゃね!?!?」



 いいよねぇ……。日に焼けた肌、その肌に薄っすらと浮かぶ汗。


 肩口から零れた汗の雫がお胸ちゃんの谷間にムニュっと侵入して行く様を思い描くともう!! 辛抱堪りませんな!!


 見知らぬ土地の先々で出会う美しい女性達……。


 これぞ正に冒険の醍醐味と断言しても過言ではないでしょう!!!!



「知らんっ。先に行くぞ」


「あぁ!! 置いて行くなよ!! 単独行動は駄目!! 絶対!!」



 無表情な足取りで宿へと向かって行くハンナの背に向かって駆け出しながら叫んでやった。



 兎に角、これで必要最低限の情報は入手出来た訳だ。


 後は王都に立ち寄って、流れ的に情報を入手していけば自ずと大陸の情報も集まるでしょう。


 微妙に機嫌が悪い彼と街行く褐色美人ちゃん達。


 首を痛めてしまうのではないかという勢いで忙しなく両者へと視線を動かしつつ、王都内での行動を思い描いていた。




お疲れ様でした。


さぁ、いよいよ新しい冒険が始まりました。連載再開となり私もそれなりに気合が入っているのですが最近の猛暑で既に夏バテ気味ですよ……。


その為本日の夕食は光る箱に文字を打ちつつ、冷やしうどんをチュルチュルと啜っていましたね。


もっと体力の付く物を食べろよと、光る画面越しに皆様の声が届きそうな気がしますが今日はこれがベストだと考えた結果なのです。



連載をお休みしている間、正直誰にも見向きもされないと考えてしましたが……。先程PVを確認させて頂いた所、沢山の読者様から気にかけて頂いていた様で本当に嬉しかったです。


これからも皆様のご期待に応えられる様に頑張って投稿を続けさせて頂きますね。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座いました!!


萎んでいる体に嬉しい励みとなりましたよ!!!!



それでは皆様、体調管理に気を付けてお休み下さい。



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