第四十一話 新天地を求めて
お疲れ様です。
禽鳥の国編、最終話の投稿になります。
それではごゆるりと御覧下さい。
新たなる門出に相応しい陽光が空高い位置から降り注ぎ地上で暮らす者達の体温を静かに温める。
その高まった熱を冷まそうとして地平線の彼方から訪れてくれた優しき風が肌をそっと撫でると大変心地良い感触に包まれ、自然と口角が上向いてしまう。
そよ風に揺られてサァっと鳴る草の音、何処からともなく聞こえて来る鳥達の歌声と鼻腔に届くちょっとだけ強い土の香。
風光明媚な景色と環境が俺の心を温めてくれるのか、将又これから向かう先に待ち構えている恐ろしくも愉快な冒険がそうさせているのか定かでは無いが。
どちらか一方の要因であると断定するのならば恐らく新たなる冒険が最たる要因であろう。
俺はその為に重い腰を上げてこの大陸に渡って来たのだから。
「え、えへへっ。ハンナちゅわん、もう直ぐ出発だねっ」
ある程度の荷物の確認を終えると、確認作業に勤しむ相棒の頼れる背中へと向かって声を掛けてやる。
「あぁ、そうだな」
んまっ!! 冷たい声だこと。
俺に構うなって感じだもんね。
「あのなぁ……。さっきから何度荷物の確認をしてんだよ。そっちは俺がもう既に調べ終えたんだぞ??」
「ふんっ。備えあれば憂いなしと言うだろ?? 不必要な位の確認作業が丁度いいのだ」
「そうですかぁ――っと」
青空の下で忙しなく作業を続けている彼を尻目に広大な大地に寝っ転がって青空を見上げる。
小さな綿雲が遅々足る動きで西から東へと流れ、青の中に確認出来る白はその一点のみ。
おぉ――……。本日も綺麗な空ですなぁ……。
まるで俺達の出発を祝ってくれているように燦々と光り輝く太陽と、新たなる道を用意してくれた静かなる空に思わず心を奪われてしまう。
だけど、この突き抜ける様な美しい空も今日で見納めか。
此処に到着してからはや三月以上が経過、客観的に言えばまぁまぁの期間だが主観的に見るとそれだけの日数を過ごしたとは思えない程にあっと言う間に過ぎてしまった。
美しい砂浜だが実は大変危険な死が漂う砂浜で横着な白頭鷲と出会い、ゴッリゴリの筋肉を愛でる様に育む軍鶏の里の人達と知り合い、里の違いを越えて悪しき脅威を打ち倒した。
たった数十文字の中に収まる簡素な冒険だけど、ここで得た経験を親切丁寧に文字に書き起こした本を売ればきっと飛ぶように売れるだろうさ。
だが、これはあくまでも冒険の序章に過ぎない。これからも俺の……。いいや。
『俺達』 の冒険は続いていくのだから。
「ふぅむ……。数日間分の着替え、熱射に備えての外蓑、現金と荷物を入れる背嚢。必要な物は全て揃っているなっ」
長ったらしい確認作業を終えたハンナの満足気な横顔を見つめると陽性な感情がジャブジャブ溢れてきやがる。
有難うな、相棒。俺の旅について来てくれて……。
「どうした?? 俺の顔に何かついているのか??」
俺の視線に気付いたハンナが不思議そうな顔でこちらを見下ろす。
「あ――……。昨日の夜遅くまでクルリちゃんとヤってたのか知らねぇけどさ。頬に唇の跡がついてんぞ??」
見透かされるのは癪だったのでいつも通り揶揄ってやると。
「ッ!?」
彼が慌てた所作で右手の甲で思いっきり頬を擦ってしまった。
ハハッ、図星だったのね……。
「あのなぁ……。今日から約十日間飛び続けるんだぞ?? 少し位体力を温存しようと思わないのかね??」
二人が過ごし易い様にと考えて態々外に出て眠ってやったってのに。
あ、勿論友人の家でですよ??
間違っても雌の大鷲ちゃんの家には泊まりません。何せ……。俺の心に深く刻まれたトラウマを呼び覚ましてしまいますからっ!!!!
これから冒険に旅立たなきゃいけないってのに俺の体を無理矢理拘束して、服を剥いで、そして……。
うぅっ、思い返さなきゃ良かった。温かなお日様の下だってのに全身の肌が一斉に鳥肌になっちゃいましたもの。
「風に乗ればそこまで飛翔する力は必要ないからな。力を使用するのは精々天候が荒れた時と突風が吹き荒れた時くらいなものだ。そういう貴様は厚手の服を用意したのか??」
「んっ……」
ちょいとボロッちい背嚢へ向かって親指をクイっと差してやる。
温かな空気が漂う地上と違い、空高い位置は自分が考えている以上に寒い。ただ浮かぶだけならまだしも今度の航海……。じゃなくて、航空は大鷲ちゃんに跨っての移動となる。
正面から吹き荒れる強き風が体温を奪い、薄い空気が悪戯に体力を消耗させてしまうのは目に見えている。
そうならない為にも服を着込んで寒さに備え、白頭鷲ちゃんのふわっふわの羽毛の中にモゾモゾと潜り込んで十日間を過ごすのだ。
「里の皆が好意でくれた服がたぁくさん入っておりますので御安心を」
向こうの大陸でどんな服装が流行っているのか知らんけど、当面の間は頂いた服装だけで過ごせそうだ。
「それなら大丈夫そうだな。後は……。皆が来るのを待つだけか」
出発予定時刻は本日の午前十時頃、だったのだが。
何を考えたのか知らんが遠足を翌日に控えて居ても立っても居られない白頭鷲ちゃんはそれよりも二時間程出発時刻を早めてしまったのだ。
お前さんはそれでいいかも知れないけど、里の皆やシェファが迎えに行っているイロン先生。セフォーさんが迎えに行っている軍鶏の里の皆さんはその時間に合わせて俺達を見送ってくれるんだからね??
予定を早めるのは一向に構わないけども、いい大人はもう少し人の事情を汲んで行動すべきなのですっ。
「お前さんの到着が早過ぎたんだよ」
心急く思いで里と空を交互に見つめている彼に溜息混じりにそう言ってやった。
「ダ――ンッ!! ハンナ――!!!!」
噂をすれば何んとやら。
里の方角から沢山の人達の軽快な足音と愉快な話し声が聞こえて来た。
「今日から旅立つって聞いたから仕事そっちのけで来てやったぞ!!」
「お前さんが抜けた穴は痛いけど、全然!! 全く!! これっぽちも気にしないで楽しんで来いよ!?」
「あ、あのなぁ……。もう少し旅立ちの日に相応しい言葉があるだろ??」
農作業を続ける内にいつの間にか太い絆で結ばれてしまった仲間達に若干引きつった顔で無理矢理笑みを浮かべてやる。
「ダンにはこれ位の言葉でいいんだよ」
「そ――そ――。あんまり優しい言葉を掛けるとすぅぐ調子に乗るんだからなぁ」
「こ、この野郎!! 誰が有頂天万歳だこら!!!!」
「あはは!! いてぇって!!」
俺を揶揄して来た大馬鹿野郎に飛び掛かり、彼の髪の毛を思いっきりクッチャクチャに乱してやった。
「はは!! 元気そうでなによりだ」
「ふむっ……。気負ってはいなさそうだな」
俺達のむさ苦しい明るさを捉えて若干呆れ顔を浮かべるシェファの父親と、いつも通り物静かな里の長のヴィンドさんが随分とゆったりとした歩調でやって来た。
「態々御足労頂き有難う御座います」
里の長と賢鳥会の構成員の二人を前にしたハンナが静かに跪くと頭を垂れる。
「堅苦しい挨拶はせずともよい。今日は二人の晴れ舞台だからな」
「はっ……」
「ハンナ、ダン。向こうの大陸はここと違って乾いた大地と肌を刺す熱射が待ち構えている。幾ら頑丈な体でも大自然には勝てぬ。それを努々忘れぬ事だな」
「ヴィンドさん!! 助言有難う御座います!!」
「いい加減頭から手を離せよな!!」
仕事仲間の頭をワシャワシャと撫でながら柔和な笑みを浮かべている彼に感謝の意を伝えてあげた。
「ダン、ちょっといいか??」
シェファの父親が俺に手招きをするので。
「よいしょっと……。どうかしました??」
「はぁ――……。やっと離れてくれた」
横着な野郎の頭をパッと放して彼の下へと歩んで行く。
「これは俺が狩りで使用する弓だ。持っていけ」
大きな背中から弓を外すと武骨な顔に似合わない柔らかい笑みを浮かべて俺に差し出してくれた。
「い、いやいや!! これは大事な物なのでは??」
彼に無理矢理連れていかれた狩りで使用した場面が頭の中にふと浮かぶ。
あの馬鹿デカイ鹿を一撃で葬る威力の弓。
狩りを生業とする彼にとって仕事道具は何よりも大切な物の筈なのに……。
「旅の駄賃として受け取ってくれればよい」
「は、はぁ……。それなら……」
彼から弓を受け取り、左手で弓の握りをしっかりと保持して照準を定め。右手の指で弦を引くと……。
「――――。結構硬いですね」
まだ弦を緩めている状態なのに今まで使用したどの弓よりも強固な反応が弦から帰って来る事に驚いてしまった。
「俺が使用する弓はちょっと癖があってな。腕の筋力だけじゃなくて、右半身の筋肉を全部使用する感覚で弦を引くんだ」
ほぉ、成程……。
「こんな……。感じですかね??」
彼の指示通り右半身の筋力を総動員する形で弦を引くと、感覚的なものだが先程よりも軽く感じ取る事が出来た。
「まだまだ甘いが筋は良い。体に馴染むまで何度も繰り返すといいさ」
「有難う御座います!!」
彼から受け取った弓を背負い、俺に向かって差し出された超カッコイイ右手を力一杯握り返してあげた。
「お――い!!!! 今帰ったぞ――!!」
「連れて来た」
和気藹々とそして名残惜しむ様に別れの挨拶を交わしていると南の方角からセフォーさんの軽快な声、そして南南東の方角からいつもと変わらぬシェファの声が届いた。
「ピピピィッ!!!!」
『見送りに来たよ!!』
「ピピピャッ」
『居なくなると寂しいなっ』
「ム、ムゥッ……」
「わはは!! ダン、ハンナ!! 見送りに来たぞ!!」
「ベルナルドさん!? ピョン太達!! それにピー助まで!!!! あはは!! 有難うよ!!」
セフォーさんの背中から勢いよく降りて来た息子達に特大の声を放ち、俺の足元に駆け寄って来た五羽のヒヨコちゃんを両手で掬いフワモコの羽毛に頬ずりをしてやる。
「ピャァッ!!」
『狭いんだから止めろよ!!』
「ピピッ!!!!」
『くすぐったいって!!!!』
「駄目ですぅ――!! お母さんは寂しいんですからねぇ――!!」
この柔らかい羽毛が暫くの間感じられないと思うと寂しいのですぅ!!
少し位大目に見なさいよね!!
目を白黒させるヒヨコちゃん達から放たれる抗議の声を無視し続けてちょっと大げさな愛情を送り続けていると。
「ムゥゥッ!! ムゥン!!!!」
「ギィアッ!?」
ピー助が形態変化を遂げて俺の顔面を両手でガッチリと拘束してしまった。
「や、止めろ!! 首が捻じ切れるだろうが!!!!」
「ムゥゥ……??」
『本当に捻じ切ってやろうか??』
獰猛な野獣を優に超える猛々しい吐息を吐いて俺の首をキュっと九十度に近い形に曲げてしまう。
「わ、悪かったって!! これ以上は本当に不味いから!!」
「フンッ……」
は、はぁ――……。良かった。痛んだのは首の筋程度で骨に異常は無さそうだ。
と、言いますか。何で旅立つ前から負傷しなきゃいけないんだよ……。
ズキっと痛む首の筋をやさし――く解していると、ハンナと別れの挨拶を済ませた超目付きの悪い火食鳥のイロン先生がやって来た。
相も変わらず地獄で過ごす悪魔も引き腰になってしまう程の目力で御座いますね。
「ダンさん、今日でお別れだと思うと寂しいですね」
「今生の別れになる訳では無いですけど……。寂しくないと言えば嘘になります」
彼女の目は直視すると心臓が萎んでしまうので、イロン先生の奥の景色に焦点を合わせて話す。
「ふふっ、シェファも今日一日ずっと元気なかったもんね??」
イロン先生の右隣り。
「……」
先程から一切口を開かず地面の石に向かって視線を落としているシェファの体を爪先で突く。
「これには訳があるの」
「「訳??」」
「「ピピ??」」
イロン先生、そして俺の足元のピョン太達と共に首を傾げる。
「死なない程度に痛めつければ負傷を理由に旅を遅延させる事が出来る。その決断に迷っているから元気が無いの」
あらあら……。俺の意思を一切合切無視して超重傷を負わせようとしていたから元気が無かったのねぇ。
「あ、あのねぇ。旅立ちの日に血の雨を降らせてどうするんだよ。どうせなら綺麗な花びらを空から落として祝ってくれって」
「そんな器用な真似は出来ない」
左様で御座いますか――っと。
鷲の里の者達、軍鶏の里のヒヨコちゃん達とイロン先生等々。
こっちの大陸に渡って知り合ったかけがえのない大切な宝物達と別れを惜しむ様に心温まる会話を続けていると。
「ハンナ!! はぁっ……。はぁっ……。間に合ったぁ――……」
俺の相棒の愛しの彼女であるクルリが大きな風呂敷を抱えてやって来た。
「クルリ!! 大丈夫か??」
ハンナが額に大粒の汗を流す彼女へ近付き相手を真に労わる口調で問う。
「う、うん。渡す物を纏めていたから遅れちゃった。はい、これ!!」
「これは??」
「消し去り草から作った薬草と、その……。えっと……。お昼に食べて欲しかったからおにぎりが入っています……」
「そ、そうか。後で有難く頂こう」
「「……ッ」」
そろそろ出発しなければならない。もう少しだけ同じ時間を過ごしたい。
彼と彼女の相対する想いと感情が絡まり合い切なくも美しい恋人達の姿が映し出されてしまった。
「なぁ、ハンナ」
「な、なんだ」
「こういう時こそ相手をやさし――く抱き締めて耳元で安心させてやる言葉を囁くんだぜ??」
恋の先輩である俺が一向に行動を取らない馬鹿野郎に助言してやる。
「そ、そうなのか!? いや、しかし……。大勢の人の目がある場所でそういった行為は憚れるというか……」
「も、もう!! 暫く会えなくなるんだからいいでしょ!?」
「うぉっ!?」
ほぼ童貞が行動するよりも早く、しびれを切らしたクルリがハンナの体にヒシとしがみ付く。
「ハンナ……。気を付けてね??」
「う、うむ。留守を頼んだぞ」
「分かってる。浮気しちゃ駄目だから」
「俺がそんな器用な事を出来ると思っているのか??」
「ふふっ、ううん。私はハンナの事を世界で一番信用しているよ……」
ハンナがクルリの頭を柔らかく撫でると彼女は甘えた子猫の様に更に彼の体へ深く体を埋めてしまう。
深く愛し合った恋人達の姿はこの時に酷く誂えた様に映り、周囲でその姿を見つめる者共は時間が経つのも忘れてただ魅入っていた。
「――――。そろそろ行くぞ」
「うんっ、分かった」
クルリがハンナの体から名残惜しそうに離れると。
「んっ……」
ほんのりと赤らんだ顔をクイっと上向きして静かに瞳を閉じた。
「い、いや。だからな?? 人の目がある所では……」
「ん――――っ!!!!」
はは、ほぼ童貞のハンナよりもクルリの方がよっぽど肝が据わってら。
「ぎゃはは!! ハンナ――!! クルリちゃんにチュってしないと行かせないからなぁ――!!」
「そうそう!! 愛しの彼女があつぅぅい接吻を強請ってんだぞ!? 男ならそれに応えてやれよ!!」
「「「そうだそうだ!!!!」」」
「そうだぞ!! 後、物凄く羨ましからその場所を代わりやがれ!!!!」
これに乗じろと言わんばかりに皆と共に今にも卒倒してしまいそうに顔を赤らめているハンナを揶揄ってやった。
「喧しいぞ!! ふ、ふ――っ……。分かった。クルリ、いいんだな??」
意を決した彼が接吻を強請り続けている顎下の彼女へと問う。
「いいよ。ほら、おいで??」
「あ、あぁ……」
「「……っ」」
二人の唇の距離が零になった刹那。
「おめでとぉぉおおおお――――!!!!」
「ひゅぅ!! ハンナ!! 旅から帰って来たらクルリと式を上げろよ!?」
「まぁっ!! ふふっ、その時は是非呼んで下さいね!!」
「おぉ!! 何とめでたい!! その日は軍鶏の里全員で祝福しに行くぞ!!」
「「「ピピピピィ!!!!」」」
空を舞う鳥達が何事かと思ってその飛翔速度を緩めて地上を見下ろす程に、万雷の拍手が地上で盛大に奏でられた。
この場に居る全員の祝福を受けて顔を真っ赤に染める恋人達の姿は本当に美しく映る。
むさ苦しい雄共の盛大な声で見送られるのもいいけどさ、互いに愛を与え合う恋人達の姿もまた乙な物だよね。
「えへへ、皆有難うね!!」
「で、では出発する!! ダン!! 行くぞ!!」
「あいよう!!」
魔物の姿に変わったハンナが背に昇り易い様に神々しい翼を下げてくれるので地上に置いてある荷物を彼の背へと運び終えると、胸一杯に空気を取り込み俺達を見送ろうとして集まってくれた彼等に向かって叫んだ。
「皆――――!! 絶対帰って来るからなぁ――!! 行って来まぁぁああ――すっ!!!!」
「「「いってらっしゃ――――い!!!!」」」
全員から威勢の良い言葉と嬉しい心を頂き、そのお返しとして大きく手を振ってやる。
あぁ、畜生。こんなに別れが辛いなんて……。
分かっていたけど胸が張り裂けそうに痛い。
両目から零れ落ちそうになる温かな雫を懸命に堪えていると。
「――――。いってらっしゃい。お父さん」
「「「「ッ!?!?!?!?」」」」
シェファが放った意味深な台詞に対して老若男女問わず、彼女の顔と俺の顔に驚きの視線を素早く送った。
「ば、馬鹿野郎!! たった一日……。じゃなかった!! 数日間だけで出来る訳ねぇだろう!!」
「ううん。確実に出来ている筈」
柔らかい笑みを浮かべて己が腹を優しく撫でるシェファの姿を捉えると自分でも容易に理解出来る程に顔から血の気が失せてしまった。
う、嘘でしょ?? そんな簡単に次の世代を担う輝かしい命は出来ないんだよ??
「おぉ!! でかしたぞ!! ダン!! 帰って来たら俺の娘と式を挙げろよ!?」
「い、いやいやいや!!!! 出来ている前提で話を進めるのはおかしいから!! ハ、ハンナ!! 行こうぜ!!!!」
鋭い瞳で俺の顔を捉え続けていた白頭鷲ちゃんの背中をポコンと叩いてやる。
「ふんっ、無責任男が……。では皆の者!! 行って来る!!!!」
ハンナが風の力を纏い巨大な神々しい翼をはためかせると地上に大量の砂塵が舞う。
「ハ、ハンナ――!! 絶対帰って来てね――!!!!」
「あぁ!! 待っていてくれ!!」
「ほら、お父さんの旅立ちだよ?? 一緒に見送ってあげようね」
シェファが己の腹を撫でつつ俺の顔を優しい瞳で見つめる。
「や、止めなさい!! そんな事言ったら余計旅立ち辛いじゃん!!!!」
「「「あはははは!!!!」」」
彼等の笑い声を背に受けてそれを力に変えると澄んだ空気が漂う上空へと瞬き一つの間に到達。
笑いなのか、それとも名残惜しさなのか。
その両方にも捉えられる涙を拭うと静かに言葉を漏らした。
「泣いているのか??」
「これは嬉し泣きだよ。俺達はこんなにも愛されているんだってな」
辛い事、悲しい事、そして心温まる楽しい事。
この大陸で得た経験は絶対無駄にならないし、俺の心の中で眩い輝きを放つ宝石の様に存在している。
誰にも渡したくない大切な宝物達を胸に抱き締め、今から新たなる冒険へと旅立つ。
ふふ……。俺は本当に恵まれているよな。
悲しみに満ちた感情では無くてこうして温かな気持ちを抱いて旅立てるのだから。
「ふぅぅ――。さぁ、行こうか相棒」
「あぁ、了承した」
「い、言っておくけど!! この旅は長くなるからね!? 最初から飛ばしたらぜぇぇったい体力が持たないからね!?!?」
左右の翼にグッ!! と力を籠めてしまった白頭鷲ちゃんに釘を差す。
ま、まぁ……。絶対聞きやしないけどさ!!!!
「それは……。無理な話だなっ!!!!」
「ギィィイイイイヤァァアアアア――――!!!!」
「「「ダン!! ハンナ!! いってらっしゃ――――いっ!!!!」」」
天空に住まう神々からの使いを彷彿とさせる凛々しい姿の白頭鷲が常軌を逸した速度で空に浮かぶ三日月型の雲を掻き消して南へと飛び立つ。
湾曲する雲から一筋の線となって飛翔して行く様はまるで弓の名手が放った飛矢だ。
一度放たれた飛矢は標的に突き刺さるまで決してその速度を緩めず、射手の断固たる決意、そして地上から美しい飛翔を見上げている者達の想いを乗せてひた進んで行く。
ある者は心急く思いで見送り、またある者は温かな感情で矢の飛翔を見上げていたが。
青く澄み渡る空から一人の男の悲鳴が地上に届くと皆一様に口を開いて陽性な笑い声を放った。
その陽性な声、そして朗らかな笑みはこの場に酷く誂えた様に映り。禽鳥の国に残った彼等は時間が経つのも忘れて笑い転げ、飛矢が空に描いた冒険の第一歩となる軌跡が消えるまで温かな瞳を浮かべて見送り続けていたのだった。
最後まで御覧頂き有難う御座いました!!!!
この御話をもちまして禽鳥の国編は終了しまして、次話からは『大蜥蜴と砂の王国編』 の連載を開始させて頂きます!!
過去編は大雑把に四つの長編パートに分けて投稿させて頂くつもりなのですが、その第一歩を書き終えて漸く肩の荷が下りた感じですね。
文字数約三十万越えの長編でしたが、如何でしたか??
過去編の主人公は現代編の主人公とかなり違う性格なので好みが分かれるかなぁっと考えており。それが皆様のお目に適うか、それだけが心配の種ですね。
次の長編パートもかなりの文字数になりそうなので心して取り掛かろうと考えております。
頼もしい相棒と続ける新たなる冒険を是非堪能して頂けたら幸いです。
活動報告にて次の投稿予定日を掲載してありますのでお時間がある御方は一度ご覧下さい。
そして最後にこれは私からの切なるお願いなのですが……。
読者様達の応援を力に変えて執筆活動に繋げようと考えていますのでもし宜しければブックマーク、評価を頂けないでしょうか??
どうか何卒宜しくお願い致します。
それでは皆様、次は『大蜥蜴と砂の王国編』 で御会い致しましょう!!!!