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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第三十九話 期待と不安が交差する送別会の始まり

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 今日の一日の労を労う黄昏の光が窓から差し込むと心に安寧の柔らかい風がそっと流れて行く。


 人々はこの柔らかい光を見つめると今日一日に起きた出来事を思い返し、時に疲労を籠めた溜息を吐いて反省し、時に陽性な感情を籠めた瞳で光を見返す。


 俺の場合は……。色々と思い当たる節はあるけども本日は当然後者だな。


 床に就こうとして沈み行く太陽を見つめて肩の力をふっと抜き、微かに口角を上げて見送ってあげた。



 クソ真面目な相棒が重い腰を上げて俺の冒険に帯同してくれると決断してくれてから数日が経った。


 俺の場合はしがらみも、制限も無く冒険に出る事が出来たのだが里の要職に就いている彼の場合は違う。


 里の最重要機関である賢鳥会に許可を得て初めて冒険に旅立つ事が出来るのだ。


 本日は待ちに待ったその結果発表の日。


 以前、この里から出て世界の広さを知ったセフォーさん曰く。



『五つ首が倒れ次の復活まで百年の期間がある。恐らくお前達が望む結果を与えてくれるだろう』 と。



 僅かに口角を上げて前向きな結果を与えてくれるとのお墨付きを頂けた。


 だが、これはあくまでも予想であって結果では無い。


 見通しは良いけども万が一不許可されてしまったらハンナと一緒に冒険が出来なくなるんだよなぁ……。


 折角クソ真面目なアイツが顔を真っ赤に染めてついて来てくれるって頑張って伝えてくれたのに……。



「ふぅっ……」



 陽性な感情に早くも陰りが見え始め、もう全然見えなくなってしまった茜色の光へ向かってちょいと暗い溜め息を吐いてやった。



「ダン、どうしたの??」



 居候先の居間擬きに設置されている大きな机。


 俺の真正面の席からシェファが不思議そうな声色で俺に話し掛けてくる。



「え?? あぁ、ハンナの奴遅いなぁって」


 薄暗い闇が漂う外の景色から視線を外し、可愛げに首を傾げている彼女の瞳を直視して話す。


「きっと色々釘を差されているんだと思う」


「俺と違ってハンナはこの里を守るって使命を与えられているからなぁ――。はい、了解しました。それではいってらっしゃい!! とはいかないよな」



 俺の場合は冒険に旅立つ己の断固たる決断を要されたが、彼の場合は決断と了承の二つを要する。


 期待に胸を膨らませて冒険に出て野垂れ死にしようが、見知らぬ地で家庭を持とうが、たった一代で大金持ちになろうがそれはそいつが当然に持つ権利だ。


 本来であれば制限を受ける事も無く本人の自由意思によってその権利を行使できる。



 自由意思という言葉を聞くと何ら制限を受けず好き勝手に行使出来るように思えるが、人と人が生活する社会という世界の中ではそうはいかない。



 大人に成長してからは公共の福祉を害さぬ限りある程度好き勝手に行動出来る様になるけどそれには責任という行動の結果の重圧が付き纏う様になる。


 温かな家庭を鑑みず冒険に出る事は許されないし、己に課された責務を放棄して出発する事も許されない。


 子供の時分はやれ早く帰って来い、だとか。早く寝なさい――、だとか。


 大人のそれと比べると随分可愛い制約を受けて行動を縛られるが、大人になってもそれとは全く形も責任の大きさも違う形だが様々な制約を受けるんだよねぇ……。



 自由に見えてその実、大人ってのは不自由なのかもしれないな。


 自分の意思を好き勝手に行使出来ないのだから。



「戦士長が言っていたけど多分良好な結果を出してくれるって」


「それはあくまでも予想だろ?? 結果を受け取るまで安心出来ないって。なぁ、そうでしょう?? クルリちゃん」



 俺がいつも使用している台所で小気味良い包丁の音を奏でている彼女のきゃわいい背に問う。


 おぉ――……。動きに合わせてプルンっと動くお尻ちゃんがまた可愛いわね!!



「う――ん……。ハンナが決断した事だから私はそれに従うけど、もしもダンと一緒に出ていったら寂しいかなっ」



 彼女が髪をフルっと振るわせ、此方に振り返って話す。


 そりゃあ想い人が期間限定であってもこの里からいなくなったら寂しいだろうなぁ。


 と、言いますか……。



「まだ付き合ってもいないのに従うって……。むふっ、何ぃ?? この送別会の後にでも告白するのぉ――??」


 クルリが何気なく発した言葉に速攻で噛みついてやった。


「へっ!? あ、あぁっ!! ち、違うって!! そういう意味じゃっ……」



 い、いやいや。赤くなり過ぎじゃない??


 熟れた林檎もドン引きする勢いで顔を朱に染めてしまう。



「いい加減付き合ったら?? いつまでもくっ付きそうでくっ付かない二人を見ているとこっちが疲れて来る」


「そ――そ――。アイツは自覚ないけど滅茶苦茶モテるからな。旅立つ前に唾付けておかないとどこぞの美女に取られちゃうぞ――??」



 俺達二人が悪戯な笑みを浮かべてクルリを揶揄ってやると。



「も、もう!! 二人共酷いよ!! 私はその時が来たらちゃんと言うもん!!」


 今度は真っ赤な溶岩さんからお墨付きを貰える顔の赤さ加減で己の決意を叫んだ。


「どうだか……」


「言い辛いのならお母さんが告白する様に言っておきましょうか?? あの子はそっち方面に超絶怒涛に疎いからねぇ……」


「何だかダンの事が本当にハンナのお母さんに見えて来たよ……」



 全員がほぼ同じ意味の溜息を吐いたとほぼ同時。



「――――。今戻ったぞ」



 この家の真の家主がいつも通りに扉を開いて帰還した。



「どうだった!?」


 それとほぼ同時。


 飼い主が帰宅した姿を捉えた甘えん坊の犬の様に彼の下へと駆け始めてやった。


「っと……。う、うむ。二年という制限付きだが賢鳥会から旅の許可を貰えたぞ」


 彼の口から俺の望む言葉が出ると。


「いぃぃいいやっほぉぉおお――――いっ!! あはは!! やったな!! 相棒!! これで俺と楽しい冒険が出来るんだ!!!!」



 隙だらけのお腹ちゃんにヒシと抱き着いてやった。



「止めろ!! 気色悪い!!」


「あいだ!!」



 いつもより三割増した腕の力で速攻拘束を解除してしまう。


 んもぅ……。水を差すのはもうちょっと楽しんだ後にして欲しいものねっ。



「ハンナ、良かったじゃん」


「う、うん。おめでとう……、ね??」


「シェファ、クルリ。暫くの間里を留守にする。その間、俺の代わりに里を守ってやってくれ」



 ハンナが二人に対して静かに頭を下げる。



「うん!! 頑張って皆を守っちゃうもんね!!


「任された。その代わり先日頼んだ通り、ちゃんと『お土産』 を持ち帰って来て」


「あ、あぁ。了承した……」



 シェファが鋭い瞳で彼に念を押す。


 ってか、お土産を買って来いなら分かるけども。お土産を持ち帰ってって微妙に使い方が間違っていない??


 まぁ、ちょっと酔っ払っているから思考がクニャクニャになっているのでしょう。


 シェファがコップに半分残っていた果実酒をクイっと一気に開けると、それを見届けたハンナが俺の右隣りに着席した。



「ではリーネン大陸での行動を予め決めておくか」



 彼が静かに古ぼけた地図を取り出すと随分と寂しい空間が目立つ机の上に置く。


 あぁ、早く御飯が出来ないかなぁ――……。


 このままじゃいつか辛抱堪らんって感じで腹が鳴っちまうよ。


 心急く思いで今も腕を揮い続けているクルリの背へと視線を送った。



「我々は必要な物資を用意して此処から発ち、風に乗って時計回りの要領でリーネン大陸北東部から上陸する。そこから王都シェリダンへ足を運べとセフォー殿から助言を頂いた」



 へぇ――……。古い地図だけど結構しっかり描かれているな。


 リーネン大陸の全体図は南北に伸びた長方形で海岸側は概ね平坦だが、所々で入り組んで険しそうな場所がある。


 大陸西側に大きな山とそこからちょっと東に離れた位置に広大な森林、大陸の中央は平地、そして南部には険しい山々の図が描かれていた。


 俺達が上陸予定の北東箇所は大陸から出っ張った半島があり、その地形は空からでも見間違える事は無さそうだ。



「何でセフォーさんが向こうの大陸の情報を知っているんだよ」



 男らしい太さの指を器用に扱い大陸の中央へと動かしている彼に問うた。



「彼も俺と同じ様に強さを求めて旅をした事があり向こうの大陸に訪れたそうだ。続けるぞ、リーネン大陸の大半は背の低い草々が生え揃う乾燥地帯だが大陸南端一帯は熱砂が広がり真面な装備と物資が無ければ行動出来ないそうだ」



 つまり……。


 俺がこの冒険に至った最大の動機である地図に記されていたバツ印はその熱砂を抜けた先に居るのか……。



大蜥蜴リザードと呼ばれる魔物が跋扈する大陸であり、彼等が大陸を実効支配している。王都シェリダンは大陸一の街であり経済、政治、文化が栄え。それを求めて大陸各地から人が押し寄せて来るので情報収取には持って来いだそうだ」


「ふぅん……。大体でいいけど、その王都の人口は分かるか??」


「セフォー殿が王都へ訪れたのは約五十年前だが……。その時は五十万人を超えていたそうだ」



「「「ご、五十万人……」」」



 ハンナ以外の者が口を揃えて大規模な数字を言葉にする。



「貴様の生まれ故郷のアイリス大陸の王都レイモンドの方がもっと多いだろう??」


「あ、あぁ。でも滅多に訪れ無いし、それに俺の生まれた街もそこまで大きくないからさ。それだけのデカイ街に不慣れなんだよ」


「古い情報だからもっと増えている可能性もあるよね??」



 シェファが静かにそう話す。



「恐らくな。戦士長はそこで得た情報を頼りに行動しろと助言してくれた。俺はそっち方面には疎いから情報収集は貴様に一任するぞ」


「りょ――かい、そこは任せてくれ。ある程度情報が揃ったらさ……。大陸南端に一体何があるのか調べても構わないか??」


「そうか……。お前が旅に出たきっかけだったな」



 その通りっ。


 そんな意味を含めて今も地図を険しい瞳で見下ろす彼の肩を指先でちょこんと突いてやった。



「ダンが旅に出たきっかけって何??」


「あぁ、実はさ……」



 地元のゴロツキ共がこぞって押し寄せる酒場に現れた傷だらけの名も無き男。


 あの人から託された地図の話をしてやると。



「へぇ……。そんな事があったんだ」


 クルリが美味しそうな湯気を放つ御米ちゃんを机の上に置き。


「私だったら捕らえた人間をもっと痛めつけて逃げられない様にするけどね」



 シェファが普段通りの口調でちょいとおっかない台詞を放った。



「いや、あの時は本当にびっくりしたよ。地図はもう燃やしちゃったけど頭の中に入っているから問題無い。各地の情報収集を行うついでに南一帯の情報も集めておくか」


「それが無難だな。ふぅ――……」



 ハンナが大きな溜息を吐くと椅子の背もたれに体を預ける。



「どうした?? 相棒」


「向こうの大陸に居る猛者、新たなる強さを求めて旅立つのはいいが。長きに亘って大陸を離れるのは初めての事だからな」



 ははぁん。


 とどのつまり初めての経験で緊張しちゃっているんでしょう。ここで普通に揶揄っても面白く無いしぃ。



「ほぉん?? それはちゅまり愛しのクルリちゃんから離れるのが寂しい、と??」


「ば、馬鹿者!! 誰がそんな事を言った!!」



 くはっ、図星を付いちゃったみたいですねっ。


 馬鹿みたいに顔を真っ赤に染めて俺の顔をキッと睨む。



「顔にそう書いてあるんだよ。クルリもハンナが居なくなっちゃうと寂しいよね――??」


 額に汗を浮かべて着々と俺達の送別会の準備を進める彼女を揶揄う。


「へっ!? う、うん……。素直に寂しいけど……。ハンナが決めた事だからさ」


「う、うむっ……。暫く留守を頼む……」


「わ、分かった」



 あらまぁ……。結婚したてなのに暫く離れなきゃいけない新婚ホヤホヤの男女みたいな雰囲気を醸し出しちゃって……。



「く、暗い話はもうお終い!! はい!!!! これからは送別会の始まりだよ!!!!」



「「おおぉぉっ!!!!」」



 机の中央にドンっと置かれた本日の主役を捉えると俺とシェファが陽性な声を上げた。



 肉厚なお肉ちゃんの表面は食欲がグングンと盛り上がって来る程に美しい焦げ目が目立ち、そこからじわぁっと溢れて来る肉汁が更に食欲を刺激する。


 脇を飾るのは産み主不明の卵焼き、葉野菜の炒め物、そして俺達が汗を流して収穫した御米ちゃん達だ。


 勿論!!!! 食事の席を彩るお酒も忘れてはいけませんっ。


 鼻腔を擽る食達の香り、肌からジワジワと染み込む陽性な雰囲気と馨しい酒の香!!


 これこそ宴に相応しいものであると五感が満場一致で合格点を叩き出してしまった。



「じゃあ皆っ!! お酒を持って!!」


 クルリの言葉に従い、各自が木製のコップを手に持ち。


「今日はハンナとダンを見送る会!! しんみりとした感情じゃなくて、笑って見送ってあげよう!! それじゃあ……。乾杯っ!!!!」


「「乾杯ッ!!!!」」



 各々がコップを合わせ終えると馨しい酒の香りを放つ魅惑的な液体を喉の奥へと送る。



「んっ、んっ……。ぷはっ!! んまいっ!!!!」


 舌を唸らせる酒の辛みと遅れてやってくる果実の香りが堪りませんなっ!!!!


「烏の里から送ってくれた酒だ。何でも神酒を失った我々に対しての厚意らしい」



 へぇ、そうなんだ。


 いつか機会があれば向こうの里にもお邪魔しようかなっ。



「さてさてぇ……?? お肉ちゃんの味はどうかなぁ――っと」



 ナイフとフォークで肉厚のお肉を切り分けて取り皿に移し、そして口内にジャブジャブと溢れる唾液が零れない様に口を開いてお肉ちゃんを迎えてあげた。



「――――。んまぁっ!!!!」



 前歯でサクっとお肉を裁断すると舌が驚いてしまう程の肉汁が口内に溢れ出し、肉の塊を奥歯へと送って幸せの咀嚼を続ける。


 丁度良い塩梅の塩加減、噛めば噛む程旨味が溢れ出す肉が頭と心を一瞬で鷲掴みにしてしまった。



「美味いっ!! 美味いぞ――!!」


 肉の脂に参りかけた舌を救う為に男らしく米をかっこみ。


「んっ……。んっ!!!! ぷはぁっ!!」



 御口ちゃんの中に残る矮小な米粒の欠片を果実酒で一気に流し込んであげた。


 肉、米、酒、そして……。



「あはは!! も――、ダン。がっつき過ぎだよ」


「その気持ちは分からないでもない。凄く美味しいから」


「貴様……。俺の服に何かが飛んで来たぞ」



 友人達の笑みが更に効用を高めてしまう。


 宴会に相応しい雰囲気と食材達の力によって口元が緩みっぱなしになってしまいますよっと!!



「悪い悪い!! ほら!! ハンナももっと食え!!」


「言われずとも食っている!! もっと離れろ!! 気色悪い!!」


「まだまだお代わりはあるからねぇ――!!」


「父が差し入れてくれた肉だからどんどん食べて」


「あれ?? シェファ、全然飲んでないじゃん」


「徐々に調子を上げていくから問題無い」



 各席から放たれる笑い声がどこまでも心を温めてしまう。


 俺達は酒の席に誂えた陽性な笑みを振り撒き、馬鹿みたいに口を開いて呆れた声量の笑い声を放ちつつ胃袋が限界を迎えるまでこの幸せを詰め込んでいった。




お疲れ様でした。


本日は朝から所用で出掛けており先程帰宅して投稿させて頂きました。


当初の予定ではもう一話書けるかなぁっと考えていたのですが、この後も急に出来た予定が詰まっている為それはちょっと難しくなってしまいました。


投稿の為に一時帰宅してとんぼ返りでまた出掛ける。


忙し過ぎて正直体が参ってしまいますよ……。



そして、ブックマークして頂き有難う御座います!!


執筆活動の嬉しい励みとなりました!!



それでは皆様、引き続き良い週末をお過ごし下さいませ。

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