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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第三十八話 真面目な彼から送られた予期せぬ言葉

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




 誰が為に流す汗と自分の目的の為に流す汗の色は全く逆の意味合いであると再認識して額から零れ落ちて来る幸せな汗を手の甲で拭い、柔らかい吐息を漏らす。


 自分の目標に向かってひた進む事は喜ばしいのだが……。


 無計画のまま我武者羅に突き進んでも結局はとんでもねぇ高い壁にぶち当たり容易に跳ね返されてしまうという現実の非情さに直面していた。



 う――む……。果たしてこれは船と呼べる代物なのだろうか??



 左右対称が基本中の基本だってのに絶妙に歪んで右方向に傾いてしまっている船体、船首に鷲の姿をあしらった木製の装飾品を取り付けてあるがそれも何処か傾いて見えるしぃ。


 居候先の玄関前で腕を組み、ウンウンと唸りながら船擬きを眺めていると。



「ダン――、お疲れさ――ん」


 顔見知りの青年に声を掛けられた。


「よっ、お疲れ」


「な、なぁ。ここ最近何か熱心に作っているけど。それって……。もしかして、もしかすると船??」


「正真正銘、真正の船だよ。見たら分かるだろ」


「ギャハハ!! それは船じゃねぇって!! そうだなぁ……。強いて言い表すのなら超カッコいい棺って感じだし!!」



 こ、この野郎!! 棺に乗って海を渡れってか!?



「いいんじゃないのぉ?? ほら、どうせ海の藻屑となるんだからその棺を使用すれば一石二鳥だし??」


「テメェ……。優しいダンちゃんでも我慢の限界があるんだぞ!!!!」



 右手に持つ木材の端材を投擲する振りを見せると。



「あはは――!! じゃあまた明日な――!! 遅れるなよ――!!」



 右手をシュっと軽やかに上げて夕日に向かって駆けて行ってしまった。


 ちぃっ!! 人が真面目に努力しているのに笑いやがって!!



「だけどまぁ……。棺にも見えない事は無いよな……」



 怒りを鎮めて改めて冷静に見ると彼の話した通り、心血注いで制作した船が死神様に届ける棺に見えて来てしまった。



 船には乗った事はあるが、作った事は無い。


 ズブの素人が手を出しちゃいけない事は分かっていたけども、全くの零から始める作業がここまで厳しいとは思わなかったぜ……。


 どうせなら造船技術も学ぶべきだったかなぁ……。


 一か月以上制作を続けていても一向に上手くなる気配は見られ無いし、このままじゃいつか雌の大鷲ちゃんに捕まって無理矢理所帯を持たされる羽目になるかも知れぬ。



『おとうさ――んっ!! おかあさんが御飯をつくってだって!!』


『はいはい……。お母さんは戦い以外は不器用ですからねぇ』



 軽快な足取りでやってきた我が子の姿を想像すると温かな感情が湧く一方でもう一人の俺が本当にそれでいいのかと問うて来た。


 ここで腰を据えて温かな家庭を築いてもいいが、未だ見ぬ危険と不思議が俺に向かって手を振っているんだよ。


 さぁ、こっちにいらっしゃいってね。



 雌の大鷲ちゃんに取っ捕まる前に是が非でも船を完成せねばっ!!



 自己発奮を促しつつも己の経験不足を呪い、ちょっとでも触れようものなら崩れてしまいそうな船を物悲し気な瞳を浮かべて見下ろしていると。



「今戻ったぞ」


 白頭鷲ちゃんのちょいと疲れた声が耳に届いた。


「よ――っす。お帰り――。今日はちょっと早かったじゃん」


 額に浮かぶ汗を拭いつつ訓練帰りで腹ペコのハンナを迎えてやる。


「あ、あぁ。訳あってな」


「訳?? よっこいしょっと」



 居候先の玄関の扉を開き、居間擬きに設置されている椅子に腰かけて話す。



「セフォー殿が早めに解散したのだ」


「ふぅん。今から張り切っていても五つ首は直ぐ復活する訳じゃないし……。きっと分別付けろと頭が固いお前さんに教えたかったのさ」


「ふんっ」



 疲労、呆れ等々。


 ハンナが負の感情を籠めた鼻息を漏らすといつもの位置に腰掛けるので。



「今日の夕飯はぁ、産み主不明の卵焼きとホッカホカの御飯。そしてぇ新鮮な葉野菜ですよっ!!!!」



 予め用意しておいた夕食を手際よく机の上に並べてやった。


 うふふ、お母さんが一生懸命真心籠めて作った夕飯をたぁんとお食べなさいっ。


 礼も言わずいつも通り用意した夕食にガッつくかと思いきや。



「……っ」



 彼は乾いた喉を潤して箸を持つが……。そこから一切動こうとはしなかった。



「ん?? どうしたんだよ。大好きだった女の子に振られて落ち込む思春期真っ盛りの男子の姿を醸し出して」


 その様子を見かねて問うてやる。


「――――。そ、その……。何んと言うか……」


「はぁ?? 言いたい事があればハッキリ言えよ、気色悪い。いただきま――っす!!」



 うほっ!! 今日の御米ちゃんも最高に美味いなっ!!


 舌に感じる御米の仄かな甘味が口角を緩めてしまうじゃあありませんかっ。



「き、貴様ッ!!!!」


「ある程度の事は理解してやれるけど、俺はハンナじゃねぇんだし。伝えたい事があれば想いを言葉に乗せて相手にキチンと伝えなさい」


「う、うむっ。じ、実はな……」



 普段は四角四面の彼が顔を朱に染めて机の上に視線を落とす。


 やだ、これってもしかして……。



 告白ぅっ!?



 いやいやいやいや!! 俺はそっちの気はまっったく無いからね!?


 例えお前さんが超絶美男子でもそっちの世界に足を踏み入れる予定は無いから!!



「ハ、ハンナ!! 待て!!」



 意を決して口を開こうとしている彼に待ったの声を掛けた。



「は??」


「い、いや。お前さんが俺の事を手籠めにしようとしているのは理解出来る。誰だって好いた人と一発ヤりたいと思うからな。だ、だけど……。俺は申し訳無いけど女の子が大好きなんだ!! そっちの世界に旅立つ予定は無いんだよ!!」



 机の上に箸を置き、彼に対して親切丁寧に頭を下げて丁重にお断りしてやった。



「貴様……。何を勘違いしているのだ??」


「勘違い?? へっ?? 俺と一発やりたいと思ったんじゃないの??」


「あ、阿保か!!!!」


「じゃあ何で告白前の男児みたいに顔を真っ赤に染めていたんだよ」



 は、はぁ――……。良かったぁ。ハンナがそっち方面に興味がなくて。


 卵焼き食べよ――っと。



「ふぅ――……。ダン、俺が今から言う事をしっかりと聞け」



 何故命令形?? 俺は君の下僕でも、飯炊きでも、奴隷でも無いんだからね??



「今回の戦いで俺は自分の力不足を痛感した。もっと強ければ多くの命を救えたのに救えなかった……。結果的には奴に勝利出来たが負の感情が湧かないと言えば嘘になる」



 真面目一色の瞳でこちらを直視するので俺もそれに応える為、食べかけの卵焼きを自分の皿の上にそっと静かに置いた。



「この情けない両手から零れ落ちてしまった命。同じ失敗を繰り返さない為にも俺は更なる高みへ昇る必要がある。しかし……。強さには尺度という概念がある。俺がこの里で満足した強さを得たとしてもそれは違う場所では矮小な物に映るかも知れない。貴様も西の砂浜で痛感したであろう??」



「あぁ、砂蟹のデカさと非常識の連続で己の知識不足と弱さを知ったな」



 こっちの大陸に渡って来て今まで培ってきた常識、強さは一切通用しない事を痛感した。


 恐らくこれから先に待ち構えている冒険にも俺の強さ、常識は通用しない。それを覆す為には己の知識を高め強さの尺度を知る必要がある。


 本当に理不尽過ぎる冒険の連続だが……。それが物凄く楽しい。


 向こうの大陸にずぅっと居続けていればこうしてハンナと知り合う事も無かったし、砂蟹も暴兎も、そして五つ首とも会敵する事は無かった。


 沢山の危険を体験してそれから一つずつ強くなり賢くなり冒険者としての経験値を積み上げて行く。


 これぞ正に冒険の醍醐味じゃないか。


 今はその冒険の真っ最中なので俺は止まる訳にはいかないのさっ。



「そ、そうだ。場所が違えば強さの尺度も違う。俺は激しく悩み、考え抜いた末にある答えに辿り着いた。それは……」



 それは?? 


 もうちょっとで言いたい事が言えますからねぇ――。頑張って続きを述べましょうねぇ――。


 椅子の背もたれに体を預けて余裕を持って待機していたが……。


 好きな男の子に告白する女児の様に顔を真っ赤に染めている彼から己の耳を疑う言葉が出て来た。



「そ、それは……。新たなる強さを求め、自分の強さの価値を知る為。そして今よりも一段階強くなる為にッ!! き、き、き、貴様と共に新たなる世界へ旅立とうと考えているのだッ!!!!」



































「――――――――。はっ??」



 え?? う、嘘……。本気マジで言ってるの??


 相棒から放たれた余りにも唐突な言葉に思わず体が硬直してしまった。



「あ、あの船ではどうせろくな航海が出来ぬだろうし……。それに弱い貴様を守ってやれる戦士が旅には必要だと思うぞ」


「こ、この……」


「この??」


「大馬鹿野郎がぁぁああ――――!!!!」



 心の奥から沸き起こる衝動に突き動かされ、机を飛び越えてハンナの体にしがみ付いてしまった。



「な、何をする!!!! 止めろ!! 気色悪い!!」


「あはは!!!! 嫌だね!! ぜぇぇったい離さんぞ!!!!」



 俺と一緒に旅をしてくれる。世界の広さを知ろうとしてくれる。そして共に危険を体験してくれると言ってくれたんだぞ!?


 これが嬉しくない訳がない!!


 俺がこの旅に彼を何度誘おうと思ったか……。共に危険を乗り越えようと何度願おうとしたか……。



 だが、彼にはここでやるべき事が山の様にある。人の人生を俺の判断で狂わせるのは憚られたので誘おうとしても誘えなかったのだ。



 嬉しさの余りに両の目から溢れ出る涙が止まりませんよ……



「むっ!? 貴様……。泣いているのか??」


「あ、あぁ。そうだよ。嬉し過ぎて泣いているのさ……。俺が何度お前を誘うおうと思ったのか知らねぇだろ……」


「す、すまん……」


「誘ったとしてもどうせ戦士の責務がぁ――とか抜かして断られると思っていたし。それが怖かったんだぞ……」


「つ、次から善処しよう……」



 絶妙に汗臭い匂いを放つ相棒の体をヒシと抱き締めながら俺達は心の中にある意思、考え、答えを交換し続けた。


 彼の一つ一つの温かな言葉が心にじわぁっと染み、俺の言葉を受け取ると彼もまた心を温めてくれる。


 むさ苦しい男共が床の上に転がりながら体を密着させて互いの意見を交換する何とも言えない景色。


 状況を知らぬ者がこの珍妙な様子を見れば。



『まぁっ!! そういう事っ!?』



 きっと口に両手を当てて驚くであろう。


 勘違いされる姿を解除する事無く、これからの予定について話し合っていると……。



「ハンナ――!! 夕飯作り過ぎたからお裾分けに来ちゃった――!!」


「ついでに来た」



 軽快な声を上げてクルリとシェファが何の遠慮も無しに家の扉を開いてしまった。


 あ、あららぁ。見付かっちゃったっ。



「……っ!?」


 俺の予想した通り、顔をサッと青ざめて両手で口元を抑えるクルリ。


「ふぅむ……。非生産的な行為に及ぼうとする雄同士はそうやって絡むのか」


 一方の雌の大鷲ちゃんは興味津々といった形で俺とハンナを見つめていた。



「ち、違うんだ!! クルリ!! これには訳があって!!」


「あんっ……。も、もぅっ……。誘ったのはそっちでしょう??」


 俺を跳ね除けようとする相棒の手に抗い、頑張って彼の体に絡んでやる。


「う、嘘だよね?? ハンナ……。嘘、だよね……」


「あ、当たり前だ!! 貴様!! いい加減離れろ!!!!」


「やんっ!! そこはダメぇ――――!!!!」



 茫然自失となって顔を真っ青に染める女性、その彼女に想いを寄せられる男性は彼女と正反対に顔を真っ赤に染めて俺を跳ね除けようと必死に藻掻いていた。


 もう間も無く地上には夜が訪れ空には美しい星達が煌めき始めるのだが、俺達の陽性な声を受け取ると途端にその輝きに陰りが生じてしまう。


 あの家からはいつも喧しい声が放たれ私達の輝きを損なうのだ、と。


 あはは、御免よ?? 本当は粛々と静々と喜びを表現したんだけどさ。それは無理なんだ。


 相棒と共に世界を股にかけて旅立てると思うと我慢なんて出来ねぇさ!!!!



「ハンナ――――!! これからも宜しくなぁぁああ――!!!!」


「喧しいぞ!! 近所迷惑だろうが!!」


「ぜぇ――ったい嫌っ!! 叫ばずにはいられないもんねぇ――!!!!」


 心の行くまま気の行くまま己が心の声を素のまま放ち、里中に響き渡る声で陽性な雄叫びを放ってやった。




お疲れ様でした。


さて、本話でも触れた通り彼はこれから横着な白頭鷲さんと新たなる冒険へと旅立ちます。


新たなる大陸へ目指す二人、これから更に加速する危険な冒険を是非とも楽しんで頂ければ幸いで御座います。




皆さんの今日の夕飯の献立は何でしたか?? 私は光る画面に文字を打ち込みながら冷やし中華を頂きましたね。


あの何とも言えない酸っぱさが食欲を湧かせてくれたのですが……。ちょっとパンチ力が足りない気がしたので追加として先日購入したお茶漬けをシメの一杯として頂きました!!


あ、勿論野菜も摂取していますよ?? 偏った食事は健康に良くありませんからね。


間も無くやって来る夏に備えて体調面はしっかりしていないと連載処の騒ぎじゃありませんので……。




そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!!


執筆活動の嬉しい励みとなりましたっ!!!!



それでは皆様、お休みなさいませ。


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