第三十二話 鎧袖一触 されど抗う戦士達
お疲れ様です。
本日の投稿になります。
頭が体に送る数々の指示は時に分かり易く、時に不明瞭となって体の表面に現れるのが通説だ。
今回の指示は本当に分かり易くて助かるよ。
何せ長時間続く戦闘により喉の奥に熱砂を捻じ込まれた様な異常な乾きが口内に痛みを生じさせ、右手の指先を美味しく食む弦を放つとその勢いで深紅の液体が飛び跳ねて頬を濡らして恐怖心を誘う。
そして失ってしまった体力の回復を努めようとして呼吸が荒振り疲労で歪む視界が矢の照準を狂わせているのだから。
頭の指示を受け止めた体が痛みと疲労という大変分かり易い違和感を通じて、あの脅威から距離を取り今直ぐにでも此処から立ち去りなさいと警告を放っていた。
しかし、こんな所で頭の中に存在する無意識の臆病に従って弱音を吐くのは論外。
俺達の後ろには美しい輝きを放つ何物にも代えがたい素晴らしい命が控えているんだ。
逃げるな……。恐れるな……。個では無く集で立ち向かえば恐れるものは何も無い。
己に強くそう言い聞かせると枯渇寸前の体力と気力を振り絞り体中に感じる痛みを我慢して攻撃を継続させるが……。
それでも三つ首は俺達を皆殺しにしようとして血に塗れた三つの首をがむしゃらに振り回していた。
「クァァアアア――――ッ!!!!」
三つ首が下半身を器用に使い、ぬぅっと体を持ち上げると左翼側へ向かって毒の息を放射しようとして巨大な口を開く。
や、やっべぇ!! 一旦退避だ!!
「ラジスアータ先生――ッ!! ど、毒の息が吐かれますよ――!!」
巨大な岩に身を隠してずぅっと後方で俺達の様子を見守り続けている彼に指示を出した。
「キシッ。分かっているさ……」
「クァッ!?!?」
彼の体から深緑の魔力が滲み出ると毒の息が旋毛風によって遥か上空へと舞い、攻撃が通用しないと理解した三つ首が元の位置へと下がって行く。
「おっしゃぁぁああ――!! 攻撃の手を緩めるなよ!!!!」
「「「おぉうっ!!!!」」」
この機会を待っていました!!
そう言わんばかりに岩陰に身を隠していた者共が一斉に姿を現し、血で塗れた漆黒の鱗へと攻撃を再開した。
総戦力をぶつけて二本の首を刎ね飛ばした事はいいけどよぉ……。
「げ、元気過ぎるのも大概にしろよなっ!!!!」
普通はさぁ!! 致命傷に至る傷を負ったんだから倒れなきゃおかしいでしょう!?
しかも!! 可燃性抜群の神酒をたらふく飲んで炎の息を吐いても内側から爆発しないしっ!!
器用に喉元を抑えて息を吐いてるってか!? テメェの体の構造は一体どうなってんだよ!?
「ダン!! 四の五の言っていないでさっさと弓を撃て!!」
右隣り。
鷲の里の青年が大粒の汗を流しつつ叫ぶ。
「わ――ってるよ!! おらぁっ!! 極上の矢を食らいやがれ!!」
震え続ける左手で照準を絞り出血が目立つ鱗へ矢を射る。
「ギッ!?」
おっほぅ!! 命中!!
解き放った矢が鱗と鱗の間に突き刺さり、肉の合間から深紅の液体が噴き出して地上で奮闘を続ける者達に降り注いだ。
地上部隊と崖の上の部隊、そして高高度からの雷撃。
この三点同時攻撃を続けるも三つ首は攻撃の手を緩める事無く、隙あらば俺達を皆殺しにしようとして機を窺い続けている。
真っ赤に燃える瞳に捉われたら恐れを知らぬ戦士でさえも刹那に体が硬直してしまうだろう。
しかし、俺達は恐れでは無く。漆黒の死すらも恐れぬ光の戦士だ。
奴が放つ常軌を逸した圧に怯える事無く、直撃すれば即死を免れない息の攻撃にも耐えて攻撃の手を緩める事は無かった。
「火矢を食らいやがれ!!」
鷲の里の青年が覇気ある声を上げると弦を放ち奴の背後へ火矢を穿つ。
「シィィ……」
「あぁ!! 畜生!! 何で刺さらないんだよ!!」
「適当に狙うんじゃなくて鱗が剥がれている位置を良く狙え!! そこが唯一矢が刺さる場所なんだから……。よっ!!!!」
指示を出しつつ軍鶏の里の皆さんが懸命に、そして親切丁寧に拳で叩いて弱らせた装甲目掛けて矢を射る。
「ギィィッ!?」
「おぉ!! 刺さった!!」
「だろ!? 奴の攻撃手段は五つから三つに下がった。地上部隊に援護を送りつつ、適宜攻撃を与え続ければ勝てるんだよ!!」
「おうよ!! この戦い、絶対勝とうな!!!!」
彼がニッと明るい笑みを浮かべると血で塗れた指を器用に扱い再び弦を引いた。
二つの首を失い奴の攻撃力は確かに下がった。
一番厄介な毒の息は健在だが、烏一族の方々がそれを封じてくれるので細心の注意を払えば問題無い。
そして火炎、稲妻の息は奴の首が再生しない限りもう二度と俺達に向かって放射される事は無い。
残るは氷結と風刃の息なのだが岩の影に隠れて直撃を回避すれば良いだけの話。
相手の攻撃を躱し続け、俺達が死に物狂いで攻撃を与え続ければ確実に勝てる戦いなのだが……。
心の奥底でグルグルと回り続けるこの気持ちの悪い感覚はきっとアレを危惧しているのだろう。
そう、白熱熱線の存在だ。
この戦いが始まり一度たりとも放っていない奴の最大最強の攻撃であり俺達が最も警戒しなければならない威力を持つ超厄介な代物。
一度放たれれば劣勢を跳ね除け、一気に形勢が傾く攻撃だってのに……。
奴は撃てないのかそれとも撃つ機会を窺い続けているのか。
憎悪の黒き炎が渦巻く瞳の奥を見つめるがその意図が掴めず言い表しようのない不安感が徐々に膨らんで行く。
ハンナも俺と同じ思いを抱いているのか。
「……」
つい先程まで頻繁に攻撃し続けていたが警戒心を更に高めて高高度から鋭い鷲の瞳で奴の一挙手一投足を監視していた。
「ダン!! 手が御留守だぜ!!」
軍鶏の里の者が威勢の良い声を放ち俺に矢を撃てと催促する。
「分かってるって!! 今から奴のお目目ちゃんを狙ってぇ……」
そこまで話すと一気に冷たい汗が体中から吹き出してしまった。
「「「……コォォッ」」」
三つ首が攻撃の手を止め、体全身を震わせながら力を溜めている姿を捉えてしまったのだから。
や、や、やっべぇ!!
アイツ、撃てないじゃなくて盤面をひっくり返す為に機会を窺っていやがったのか!!!!
ここで最大最強の奥の手を放つのね!!
「や、野郎共ぉぉおお――――!!!! 退避だ!!!!! 直ぐに後方へ向かって走りやがれ!!!!」
弦を引いていた手を素早く離し、地上部隊並びに両翼側の戦士達へ向かって退避命令を放つ。
「はぁっ!? 何でだよ!! 相手が攻撃して来ない絶好の機会じゃねぇか!!」
「その通りだ!! 今こそ一気苛烈に攻める時!!」
この機を逃して堪るものかとして地上部隊と右翼側から抗議の声が上がる。
「馬鹿野郎!! 死にてぇのか!? 今から奴は白熱熱線を放つんだよ――――!!!!」
「「「ッ!?」」」
白熱熱線。
その単語を掬い取った者達の顔色が一斉にサっと青ざめた。
そりゃそうだ。作戦開始前に耳にタコちゃんが出来る位にあの威力の恐ろしさを言い聞かせてやったのだから。
「退避――!! 退避しろぉぉおお――――!!」
地上部隊はベルナルドさんの指示で退却を開始し。
「岩陰に隠れても無駄だ!! 可能な限り地平線の彼方まで走りやがれ!!!!」
両翼側の部隊には俺が指示を出す。
「あ、あぁ!! 分かった!! 奴の攻撃が収まり次第再び攻撃を……。ッ!?!?」
軍鶏の里の青年が俺に向かって叫んだ刹那。
「「「コォォオオオオ――…………」」」
三つの首から光の筋が放たれ、体の真正面で常軌を逸した熱量を放つ光球が形成されていく姿を捉えた。
ち、畜生!! 遂に勝負に出やがったか!!
これが決まれば乾坤一擲となり俺達は盤面をひっくり返す事が出来なくなるけどよ!!
それはあくまでも決まればの話さ!! 此処を耐え抜いて貴様の残りの首を全部刎ねてやるからな!?
「馬鹿!! 早く逃げろ!!」
素早く弓を背負うと、大地がそして空が震える程の熱量を放つ三つ首に怯えて身が竦んでいる青年の腕を掴んで無理矢理後方へと引っ張ってやる。
「う、嘘だろ……。あ、あ、あんな威力の攻撃をここで放つのか!?」
「いいから早く……。げぇッ!?」
彼の瞳に絶望の色が色濃く広がり、恐怖で震える唇を懸命に動かして言葉を放つと……。
遂にその時が訪れてしまった。
「「「クゥゥオオ……。アアアアァァァァアアアア――――ッ!!!!」」」
「「ッ!?」」
目も開けていられない閃光が迸ると大地に鋭い亀裂が走り光の筋が天へと向かって立ち昇って行く。
渓谷の合間から迸る一筋の光から放たれる呆れた熱量が肌を焦がし、常軌を逸した攻撃の圧が大地を震わせ、光の筋が雲に届くとその雲が瞬時に霧散。
「ちっ!!!!」
「相変わらず厄介!!!!」
上空で俺達の様子を見守り続けていたハンナとシェファが命辛々白熱熱線を躱すとその光の柱が恐るべき速さで俺達の方へと傾いてしまった。
「もうだ、駄目だ。間に合わねぇ……」
猛烈な勢いを伴って直上へと立ち昇る光の柱の直径は先の戦闘よりも縮んでいるが……。それでも脅威である事には変わりない。
この世に存在する生命体を容易く滅却出来てしまう桁違いの熱量を放つ光の柱が此方に傾くと彼は抗う事を諦め、恐ろしくも美しく映るあの光を只静かに直視していた。
「に、逃げ……!!」
俺が言葉を放つよりも早く白熱熱線が左翼側に襲い掛かり目の前の彼が光の中へ消失。
「うわぁぁああああああ――――ッ!!!!」
馬鹿げた白熱熱線の威力によって足元の大地が崩壊すると俺の体は崩れ行く瓦礫と共に渓谷内へと沈んでしまった。
崩れる大地の音が鼓膜を震わせ、その轟音と同調する様に体に襲い掛かる猛烈な痛みが加速的に増加する。
上下左右に転がり続けどちらが天でどちらが地なのかさえも不明瞭になり、漸く体が停止したかと思うと首を傾げたくなる痛みが体全体を襲いやがった。
「い、い、いてて……。おい大丈夫か!?」
転がり続けながらも彼の腕を放す事は無かった。
右手の中に確かに残る温かな肉の感触を受けて静かに目を開くと……。
「あ、ぁぁっ……。ああああああああああああ――――ッ!!!!!」
俺が掴んでいたのは確かに彼の右腕だ。
鍛え抜かれた逞しい腕は今も健在であり健康的に焼けた肌の色は例え胴体から切り離されたとしても色褪せる事は無かった。
鼻の奥を悪戯に刺激する肉の焼け焦げた香りを放つ黒き切断面からじわっと滲み出た血液が乾いた大地の上に滴り落ち、彼が数十秒前までこの世に生きていた事を証明した。
く、クソ野郎がぁぁああああ!!!!
温かな感情を持つ人間を簡単に殺しやがって!!!!
「テメェェエエエエ――――ッ!!!! 絶対に許さねぇぞ!!!! さっさと立ち上がって掛かって来やがれ!!!!」
「「「……」」」
夥しい量の岩石と土砂の下敷きとなり、そこから脱出しようとして藻掻き苦しむ三つ首へと魂の雄叫びを放ってやった。
彼の亡骸を地面に置くと背から弓を外し、大地に横たわる矢を手に取り。奴の首が瓦礫の隙間から擡げて現れるのを待つ。
確実に射殺す!! 絶対にぃぃいいい!!!! ぶっ殺してやるからな!!
己自身の鼓膜が震える程の拍動の激しい動きと出血が目立つ左腕。
そして頭部から零れ落ちて来る血液が左目に染み込んで照準を狂わせるがそれでも奥歯を噛み砕く勢いで姿勢を保持した。
畜生……。あぁ、畜生!!
今の一撃で一体どれだけの命が失われたのか。考えただけでも怒りで頭が狂いそうだ!!
「はぁ……。はぁっ……」
震える足を必死に制し、巨大な鉛を括り付けられた様に重みを増した両腕を上げていると。
「「「シ、シィィ……ッ」」」
至る所から出血が目立つ三つの首が瓦礫を掻き分けて現れやがった!!
「死ねぇぇええ――――!!!!」
「「「ギィィヤァァア――――ッッ!?!?」」」
懸命に生き永らえようとする超生命体の目に矢が着弾すると断末魔の叫び声が戦場に轟く。
そうだ、それが痛みだ!! 俺達が受けた心の痛みはそんなもんじゃねぇぞ!?
テメェの命を以て償いやがれ!!!!
「まだまだ殺し足りねぇ!! コイツも食らいやがれ!!!!」
地面に転がる矢を拾い、二射目の照準を定めた刹那。
「グルァァアアアアッ!!!!」
「何っ!? うぉぉおおおっ!?!?」
風刃の息が正面から襲い掛かり、俺の体は容易く後方へと吹き飛ばされてしまった。
「あ、あぐ……。うぁぁ……」
地面に着弾した風の刃が大量の石礫を巻き上げるとその直撃を受けた体内から鳴ってはいけない乾いた音が鳴り響き、気の遠くなる痛みが全身を襲った。
い、今の一撃で何本の骨が逝きやがったな……。だ、だ、だけど。命が続く限り俺は決して諦めねぇぞ……。
怪我はいつか治る。だけど失われた命は決して戻って来ないんだ!!!!
「カ、カヒュッ……」
折れた脇腹の痛みに耐え、直ぐそこに転がっている火矢に手を伸ばしたが……。
「シュルルゥゥ……」
地面で芋虫の様に蠢く俺に向かって氷結の息が狙いを定めてしまった。
畜生……。どうやらここまでのようだな。
「さぁ俺はここだぞ?? ちゃんと狙って撃てよ、クソ雑魚蛇野郎が……」
敢えて体の正面を奴に翳して不敵な笑みを浮かべてやる。
「「「ゴォォオオオアアアア――――ッ!!!!」」」
俺の笑みが癪に障ったのか、血が湧きたつ雄叫びを放つと激しく首をうねらせて口を開き。俺の命を奪おうとして淡い水色の光が巨大な口から零れた。
へ、へへっ。どうやら俺の人生はここまでの様だな……。
たぁくさんの女の子と楽しい思い出、この世に数多存在する素敵な不思議、死と隣り合わせの危険な冒険等々。
まだまだやりたい事は山程あるが運命とは皮肉な物さ。
身構える前にこうして突如としてやってくるのだから……。
巨大な口から零れる光が一際強く光り輝くとたった二十五年というちっぽけな人生の短さを呪いつつ両手を痛い程握り締めた。
「――――。俺の相棒に……。手を出すなぁぁああ―――!!!!」
「ギャァァアアッ!?!?!?」
高高度から目を疑う速度で白頭鷲が降下。
鋭い鉤爪で氷結を吐く首の根元を切り裂くと。
「これで止め……。射殺せ、風の矢よ!! 風切烈破!!!!」
「「ッ!?!?」」
地面に降り立ち人の姿に変わったシェファが風を纏った矢を射り傷ついた首を刎ね飛ばした。
す、すげぇ……。幾ら装甲が弱まっているってのにたった二撃で奴の首を刎ねるのかよ……。
「ダン!! 大丈夫か!?」
人の姿に変わったハンナが慌てた様子で俺に駆け寄る。
「あ、あぁ。何んとか……。でも今の一撃で隊は総崩れだぞ……」
白熱熱線を受けてボロボロに崩れた崖の上、全く姿の見えない地上部隊に視線を送って話す。
威力が抑えられていたとはいえ地形を変える程の攻撃が放たれたのだ。被害の損害は計り知れないな……。
「奴の首は残り二本だが……」
「あぁ、だけどかなり厳しいよな」
最大戦力であるハンナとシェファの体力は底を尽き、地上部隊を援護する崖の上の部隊はその姿を確認出来ず。それに渓谷内の惨状からして地上部隊も崖の上の部隊と同様にかなりの痛手を負ったであろう。
殲滅まで残りたった二本。しかし、その二本が途轍もなく長い道のりに感じちまうよ。
「「ウ、ギギィ……」」
「シェファ。空を舞えるか??」
ハンナが痛みで震える二つ首から一切視線を外さず、肩を大きく上下させて荒々しい呼吸を繰り返しながら問う。
「今までと同じ速度で飛ぶのは無理。今の一撃でかなりの体力と魔力を使い果たした」
「そうか……。ダン、どうする?? 一旦立て直すのが賢明だぞ」
白熱熱線を受けて散り散りになった地上部隊を集結させ、崖の上の部隊を両翼側に再結集させる。
そして動ける者とそうで無い者の取捨選択を行い、負傷者は後方部隊へと送る。
これら全ての行程を続けている内に恐らく奴は瓦礫を跳ね除け、威力は抑えられているが再び最強技である白熱熱線を放つ恐れがあるよな……。
危機と好機は表裏一体。
つまり、奴が動けぬ今こそが二度と訪れないかも知れない千載一遇の大好機なのだ。
しかし……。
俺達に残された攻撃の手段は限界寸前の戦士達とちっぽけな力を持つ人間の二つのみ。
後一押しで勝利を手中に収めるのにはちょいと力不足だ。
何か……。そう、何か後一手があれば完璧に奴の滅却出来るってのに。
ハンナの険しい瞳、そして苦しそうに藻掻く二つ首からふと視線を外すと。
『あのぉ――……。こんな物が落ちていましたけど??』
「――――。はは!! 冗談!! 俺達三人で奴をぶち殺そうぜ!!」
幸運の女神様からの素敵で最高な贈り物を捉えてしまった。
おいおい、本気かよ!?
完璧な脚本過ぎて逆に恐ろしくなってくるぜ。
「その方法は?? 俺達の力では例え傷付いた装甲であっても……」
「あれを使うんだよ!!」
相棒の肩を強く叩き、俺達の大分後方で一人寂しく横たわっている一つの酒樽を指差してやった。
逸る気持ちを抑えきれずに軍鶏の里の青年が矢を射りこの戦いが開幕してしまった。
それから引火する事も無く、蓋が開く事も無く。超完璧な状態で現存している事自体が幸運なのさ。
「俺が酒樽を運んで来る。二人はそれまで奴の攻撃の手を引き付けてくれ!!」
「ある程度接近したら俺が鷲の姿に変わり、酒樽を奴の直上まで運んで投下。酒樽を咥えたらそのまま火矢若しくは火の魔法で酒樽を爆発させ体内から爆散させる、咥えずとも爆発させて奴の装甲を弱める算段かっ!!」
「その通り!! 流石相棒!! 俺の考えを見事に汲んでくれたな!!」
ちょいと汗臭い体に抱き着き、大変痛む頬をスリスリと擦り付けてやった。
「止めろ!! 気色悪い!! 戦いの最中だぞ!!」
もぅ――……。こういう時だからこそ許すもんじゃないの??
「作戦は理解した。後は実行あるのみ」
決意を籠めた強き瞳でシェファが一つ頷く。
「おうよ!! さぁ……って、最終局面だ。俺達でこの戦いの最後を華々しく飾ってやろうぜ!!!!」
「了承した!! シェファ!! 気合を入れろよ!?」
「私の前に出ないで。何度言わせる気??」
各々が自分の役割を理解してそれぞれの方角へと向かって駆け出す。
その目は確固たる勝利を第三者に予感させる程に力強く、恐怖や怯え等。負の感情は一切見当たらなかった。
「「シャァァアアアア――――ッ!!!!」」
「おせぇ!! 当たるか!!」
「シェファ!! 避けろ!!」
「五月蠅いっ!! いい加減しつこい!!」
最後の抵抗を見せる二つ首の猛攻が始まるも彼等は決して臆する事無く、全てを飲み込む漆黒の闇でさえも容易に打ち払ってしまう眩い光を放ち。己が役割を果たす為に最後の行動を開始したのだった。
お疲れ様でした。
皆様の温かな応援のお陰で何んと……。ブックマーク三百件を超える事が出来ました!!!!
投稿前に確認させて頂いたのですが思わず拳をグッと握り、天井へ思いっきり掲げてしまいましたよ!!
この場を借りて言わせて下さい。本当に有難う御座いました!!
活動報告にもう間も無く始まる新たなる冒険と、此度のお礼を投稿させて頂きましたのでお時間がある御方はチラっと見てやって下さい。
そして、ブックマーク三百件突破を記念してこの後直ぐ番外編にて。
~とある日、とある宿屋にて~ を投稿させて頂きます!!
本編には一切絡まない日常系の御話なので、飲み物片手にのんびりとした感じで御覧頂ければ幸いです。
それでは皆様、お休みなさいませ。