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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第三十一話 烈火の応酬

お疲れ様です。


週末の深夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。




 戦士達の熱き魂が戦場の空気を震えさせて熱を高めると、それに呼応した者共が猛々しい叫び声を放ちつつ悪しき塊へ向かって磨き上げた武をぶつける。


 常に死と隣り合わせの地上部隊が鍛えに鍛えた体を駆使した近接攻撃を繰り出し、崖の上からは夏の大雨を彷彿とさせる夥しい矢の雨と様々な属性の遠距離魔法が放たれ。


 更に高高度からは二体の傑物の雷撃が襲い掛かる。



 当初の作戦通り地、空、高高度の異なる三点から死力を尽くして攻撃を与え続けているが……。



「「「……ッ」」」



 五つ首は唯一の弱点である肝心要の首だけは出すまいとして懸命に防御態勢を維持し続けていた。


 五つ全ての首を器用に折り畳んで体を丸め強固な鱗の装甲を前面に押し出した理に適う鉄壁の構え。


 鋼よりも硬い鱗の強度を生かした、というよりも丸まる事で内側の筋肉で鱗を外側に張り出すって感じだよな。


 あの牙城を切り崩すのには相当な体力と火力を要しそうだ。



「ダ――ンッ!!!! さっきからずぅっとアイツ動いていないけど!! このまま攻撃し続けてのいいのか――!?」



 渓谷の左翼側。崖の淵で矢を射続けている鷲の里の者が俺に向かって指示を請う。



「頼む!!!! 今の内に相手を弱らせておかないといけないからなぁ――!!!!」



 微かな綻びを見せる黒き鱗の合間に照準を絞り、彼に倣って力一杯弦を強く引いて矢を射る。



「「ッ!?」」



 剥がれかけた鱗の合間に俺が放った矢が命中すると鉄の鏃が美味そうに奴の肉を食み。その痛みで僅かに巨躯が揺れ動いた。


 大量の矢が突き刺さった背中からドス黒い血が滲み出ると重力に引かれて側面へと零れ落ち。



「おらぁぁああああ――――ッ!!!!」


「食らいやがれ!!」


「オッッ!!!! ォォオオオオ――!! フゥゥウウ――ンッ!!!!」



 火食鳥、軍鶏の戦士達で構成された地上部隊の熱き魂が籠った近接攻撃が血に塗れた鱗に直撃すると溢れ出た血液が周囲に飛び散り、美しい茶の大地を穢した。



 あ、あはは……。狭い渓谷内なのによくもまぁあれだけ強力な攻撃を与えられるもんだ。


 五つ首の巨躯と渓谷の側面の狭い隙間から轟く戦士達の覇気ある雄叫びと強烈な打撃音に思わず唸ってしまった。



 俺達が心血注いで考え準備した作戦はアイツに対して有効であると、目以外の場所から確認出来る出血の量がそれを証明してくれるが……。



 ど――も腑に落ちないというか、上手く行き過ぎているというか……。



 考え抜いた作戦が順調に行われている事自体は喜ばしい事なのだが、ここまで見事に嵌ってしまっていると逆に不自然に映る。


 約三百の戦士達が放つ攻撃によって確かに装甲は弱まり出血の確認も出来る、しかし絶命にまでは至っていない。



 奴が反撃出来ない以上、俺達が依然優位である事は変わりないが……。



 異様なまでの違和感が胸の中で生じるとそれが渦巻き、言い表しようのない不安感が生まれてしまった。



「や、野郎……。いつまで丸まっているつもりだ」


 俺の直ぐ隣。


 軍鶏の里の者が大弓の弦を引き、奴に狙いを定めながら硬い唾を飲み込む。


「いつまでって……。そりゃあこの攻撃が止むまでだろ」


「はは!! それは無いって!! これだけの人数が居るんだぜ?? 攻撃の手が緩む事はあるかも知れないけど、絶える事は有り得ないだろ!!」


「それもそうか……。じゃあ左翼側は右翼側の勢いに負けない様に……」



 激しい汗を流す無頼漢共に引き続き攻撃の指示を出そうとした刹那。


 胸に渦巻く不安感の正体が理解出来た。


 いいや、理解出来てしまったと言った方がしっくりくるな。



「どうした?? ダン。便意を催した男児みたいな顔を浮かべて……」


「総員!! 撃ち方止め――――ッ!!!! 


 弓を下げ、左翼側の戦士達に指示を出す。


「はぁっ!? 何でだよ!! 今が絶好の好機じゃねぇか!!」


「そうだぞ!! ここで手を緩めたらそれこそ不味いだろ!!」



「馬鹿野郎!! 今は俺の指示に従え!! 部隊の半分、五十名は後方に下がって体力の温存に務めて矢の補給作業に取り掛かれ!! 残り五十名はこのまま撃ち続けるんだ!!!!」



「だから何でそんな事をするんだよ!!」


「説明は後でする!! 兎に角俺の言う事を聞け!!」



 苦い顔を浮かべて渋々後方へ下がって行く者共へ叫んでやった。



「――――。馬鹿者!! 何故部隊の半数を後方へ下げた!!!!」



 左翼側の戦況を空高い位置から見付けたのだろう。


 ハンナが上空から舞い降りて鋭い瞳で俺を見下ろす。



「ダンゴ虫だよ」


「「ダンゴ虫??」」



「そうだ。ダンゴ虫は己の身に降りかかった危機から逃れる為、体を丸めて強固な外皮で身を守る。そして、危機が去ったら丸まりを解除して再び歩き出す。お前達も見た事があるだろ?? 何気無く手の平に乗せたダンゴ虫がそっと体を開いて歩き出した姿を」



 俺が端的にこの状況を説明してやると。



「成程……。反撃の機会を窺い、今は守に徹しているという訳だな??」


 ハンナが納得した顔を浮かべ、大きな白頭鷲の頭を一つ上下に揺れ動かした。


「その通りだ。奴の弱点は五つの首。その首を刎ねぬ限り俺達に何度も攻撃を加えて来るんだ。今は一旦攻撃の手を休め、奴の弱点を誘い出さなきゃこっちの体力が先に尽きちまうんだよ!!!!」



 これが違和感の正体だ。


 俺達の体力は無限では無い。それに対して先の戦闘、そして今回の作戦のこれまでの経緯からして奴の体力はほぼ無尽蔵に近い。


 有限対無限。


 馬鹿でも容易に理解出来てしまう圧倒的差が此処に来て戦場に悪影響を与え、作戦変更を余儀なくされちまうとはな……。



「分かった!! 向こうの部隊にも伝えてくる!!!!」


「頼んだぞ!!」



 ハンナが神々しい翼をはためかせて宙に浮かぶと、鋭い飛翔で対面の右翼側へと飛翔して行った。



「だ、だけどよぉ……。半分の攻撃で地上部隊を援護出来るのか??」


「それは臨機応変に対処するしかねぇな。どの道このままじゃいつか俺達の体力が底を付いて詰んじまうよ」



 野郎め……。考えてこの行動に移ったのかそれとも偶発的に危機察知能力という本能が働いたのか。


 いずれにせよその全貌は窺い知れぬがよくもまぁ可燃性の酒を飲んだ後で行動に移れたもんだ。その点だけは褒めてやるよ。


 左翼、そして指示が行き渡った右翼側から放たれる攻撃が微かに収まったと判断したのか。



「「「キシィィ……」」」



 五つ首がゆぅぅっくりと丸まりを解除。


 血走った瞳が戦場で激しい汗を流す戦士達の姿を捉えた。


 これまで受けた攻撃の数々により大きな目には憎悪で燃え盛る漆黒の炎が揺らめき、巨大な口からは憤怒の白き息が零れて美しい大気を侵食。


 その姿は今から怒り狂った反撃が始まるであろうと俺達に容易に想像させてしまう姿であった。



「あ、相変わらずおっかねぇ顔してら……」


「腰が引けてるぞ。それに漸く弱点を露出してくれたんだ。野郎共――――!!!! 今こそ好機!! 地上部隊を援護しつつ可能であれば奴の目を狙いやがれぇぇええ――!!」


「「「オオオオォォオオオオ――――ッ!!!!」」」



 弓を掲げ左翼側の部隊を鼓舞すると、俺の想いに応えてくれた猛々しい雄叫びが戦場に轟いた。



雷鳴穿ライトニングスティング!!!!」


 眩い光を放つ魔法陣から放たれる轟雷が黒き鱗を焦がし。


「「「くらぇぇええ――!!!!」」」


「「「シュルルッ……」」」



 逞しい腕に引かれた弦から放たれる矢が肉を食もうとも奴はそれを意に介せず、怒りに燃える瞳で戦場に存在する戦士達の姿を一人一人冷静に捉えそして……。



「「「クァァアアアアッ!!!!」」」



 馬鹿げた巨体を上方へグッと伸ばして戦場に立つ戦士達を捉え、五つの首の口がほぼ同時に開くと異なる属性の息が猛烈な勢いを伴って戦場に放たれてしまった!!



「か、躱せぇえええ――!!!!」


 左手に掴んでいた弓を下ろすと咄嗟に後方へと下がり岩陰に身を顰めて氷結の息を回避。


「どわぁぁああああ――ッ!?」


「あっぶねぇ――!!!!」



 右翼側の部隊の者達も咄嗟の判断で襲い掛かる風刃の息を躱した。



 ふ、ふぅ――!!


 どうやら神酒の効果は覿面の様だな!!


 五つ首から放たれた息は前回の戦いよりも心なしか威力が抑えられている気がするし、それにまだまだ酔っ払っているのか。



「クォォオオ……」


 無作為に上下左右に動く頭では照準を定めるのに苦労しているのか、各首の動きは精彩を欠いていた。


「野郎共!! 攻撃を再開するぞ!!」


「「「オウッ!!!!」」」



 沸騰寸前にまで温まっていた戦場の熱が氷結の息によって丁度良い塩梅に下がりひんやりとした岩に手を添え、冷涼な空気を胸一杯に取り込むと移動を開始。


 再び黒き憎悪を見下ろせる位置に身を置くと思わず背筋に冷たい汗が流れ落ちてしまった。



「「シェアァァアアアア――――ッ!!!!」」」



 げ、げぇっ!! 地上部隊に火炎と稲妻の息を放射するつもりかよ!!


 五つ首を前後左右から挟撃する形で絶え間なく攻撃を与え続けている二つの部隊へと向かい、恐ろしい火炎の朱と稲妻の黄色の閃光が今にも放射されてしまいそうな最低最悪の光景を捉えた。



「イロン先生――!! ベルナルドさ――ん!!!! 身を隠せ――!!!!」


 二つの地上部隊を統率する両者へ向かって喉が張り裂ける勢いで叫ぶ。


「分かっています!! 皆さん!! 私達は岩陰に身を顰めますよ!!」


「俺達は直角に曲がる渓谷の影へ向かって下がるぞ!!」



 俺が声を出すよりも早く二つの部隊が敵に背を向け、安全地帯へと向かって行動を開始。



「「「シュルルルゥ……。ァァアアッ!!!!」」」



 五つ首が彼等の背を捉えるとニィっと目元を細め、無作為に動く二つの首から火炎と稲妻の息が放射されてしまった!!



 や、やっべぇ!! 間に合うか!?



 火食鳥の一族で構成された部隊には此処からでもその熱を感じる事が出来る火炎の息が迫り、軍鶏の一族で構成された部隊には地が轟く稲妻の息が襲い掛かる。


 致死性の二つの息がもう間もなく彼等のうなじを捉えようとした刹那。



「キシシ……。我々烏一族の結界は中々の硬度を誇るのですよ?? 皆さん、結界の準備を」



 右翼、左翼側から腹の奥にズンっと重く響く圧が放たれると彼等の背を守る形で大きな結界が渓谷内に展開された。


 よ、よし!! これなら大丈夫……。


 渓谷内の幅一杯に広がる分厚い結界が展開されて胸を撫で下ろそうとしたのだが……。それは時期尚早であると思い知らされた。



「「「ギィィアアアアアア――――ッ!!!!」」」



 二つの息が結界に着弾する前に地が轟く雄叫びが放たれると二つの息の太さ、そして速さが増して猛烈な威力を伴って結界に衝突。



「おわぁぁああ――――ッ!?!?」



 目も開けていられない閃光、それから微かに遅れて体の芯を揺るがす衝撃波が崖下から発生するとその衝撃で体が後方へと吹き飛ばされてしまう。



「ゴホッ、ゴホッ……。お、おいおい。何て威力なんだよ……」



 渓谷内に籠っていた重たい爆炎が晴れ、その中から現れた惨状を目の当たりにすると妙に硬い生唾をゴクリと飲み干す。


 結界が張られていた位置の岩肌が湾曲する形で抉り取られその表面は黒く焼け焦げており、奴の攻撃力の凄まじさを物語る様に岩肌の表面から白き湯気が立ち昇り嫋やかに揺れていた。



「う、うぅ……」


「畜生……。何て奴だ……」



 直撃こそ免れたものの二つの息の余波を受けて傷付いた地上部隊の隊員達が痛々しい声を上げ、負傷した箇所を抑えて弱々しく立ち上がる。



 可燃性の神酒をあれだけ飲んだってのに火炎の息を吐いても体内から着火しないとなると……。直接経口に炎を捻じ込むか、それとも腹に穴を開けて着火させるしかないな。


 しかも、飲酒の効果で威力が弱まっていた筈なのにたった一撃。


 そう、たった一撃で約半数の地上部隊が負傷してしまい戦力が減少してしまった。


 俺達が地上部隊を援護して時を稼ぎ、一度崩れた部隊を立て直さなきゃ負けちまうよ!!



「「「シシシッ……」」」


「地上部隊を援護する!!!! 皆!! 五つ首へ向かって……。ヘッ!?!?」



 万力を籠めて弓を手に取り指示を放ち。


 負傷した地上部隊を満足気に見下ろしているクソ野郎に向かって弦を引いて狙いを定めると思わず首を傾げたくなる光景を捉えてしまった。



「皆さん!! 今こそが好機ですよッ!!」


 イロン先生が燃え盛る真っ赤な魔力を身に纏い素晴らしい脚力で未だ黒煙が立ち昇る戦場を駆け始めると。


「そのとぉぉおおおお――り!! 皆の者!! 俺に続けぇぇええ――!!!!」


 それに呼応する形でベルナルドさんが眩く光る拳を突き出して五つ首の真正面から突撃を開始した。



「い、いやいや!! 二人共!! そいつの息は連発出来るから一旦下がりなさいよ!!」



 勇猛果敢とも自殺願望とも見える突撃を見せる二人に向かって叫ぶと、想像し得る最悪な予想が現実のものとなってしまった。



「「シャァァアアアアッ!!!!」」



 先程と同じくイロン先生には火炎の息、そしてベルナルドさんには稲妻の息を放射しようとして二つの首の巨大な口から怪しい光が零れ始めてしまう。


 やっべぇ!! られる!!!!



「野郎共!! 二つの首へ集中砲火しろ!! 二人を援護するんだ!!」


「「「了解ッ!!!!」」」


 左翼、右翼両側から矢と魔法の援護射撃がされるが。


「「ゴァァアアアア――――ッ!!」」


「「ッ!?」」



 奴は両翼から受けた攻撃で顔を顰めるも己に向かって突進してくる二人に向けて強力な息を放射してしまった!!!!



「ば、馬鹿野郎――――!!!! 何で突っ込んで行ったんだよ――!!」



 朱と黄色に飲み込まれて姿が見えなくなってしまった二人へ叫ぶ。


 主力である二人が欠けると地上部隊の士気が低下。並びにその余波が各隊へと伝わり、全滅する懸念が……。


 胸を締め付けられる痛みを我慢して各隊へこれまで以上の奮起を促そうと口を開いた。



「み、皆!! 二人が居なくても俺達が……。は、はぁっ――!?!?」



 そりゃ誰だってあの恐ろしい炎の中から無傷の状態で火食鳥が出現したら驚かずには居られないだろう??




「――――。火ノ鳥奥義…………。烈火焔月脚れっかえんげつきゃく!!!!」




 彼女の真正面から放たれ続けている火炎の息の中からイロン先生が地獄の炎すらも生温く感じる猛火を身に纏い、まるで不死鳥の如く火炎の息を切り裂いて出現。


 そして爪先に備わる常軌を逸し過ぎて逆に全然驚かなくなってしまった鋭い爪に力を集約させ……。


 五つ首の中央の首の喉元に突き刺した!!!!



「ゴフッ!?!?」



 強烈な威力を纏った爪が黒き鱗を破壊すると大地の砂が微かに揺れ動く程の衝撃波が迸り、それから少し遅れて力一杯生肉を掴んだ時の生鈍いニチャッとした音が響く。



 す、す、すっげぇ!! 五つ首の喉元に穴を開けちまったよ!!


 その衝撃は見た目通り凄まじいようで??



「「「ギギィィヤァァアアッ!?!?」」」



 五つ全ての首がその痛みを誤魔化そうとして悪戯に各首を上下乱舞させた。


 そして、この隙を逃す手は無いと。



「――――。ふ、ふぅ……。中々に素晴らしい攻撃であったぞ!!!!」



 あんたの腕は一体どれだけの太さがあるのですか?? と。思わず問いたくなる太い腕の合間からギラリと彼の瞳が怪しく光った。


 魔力を纏って明るく光る野太い両腕を体の前に翳して稲妻の息の攻撃に耐え抜き、その大防御の構えを解いたベルナルドさんの口からムッフゥゥ――と猛烈に雄臭い息が零れ落ちる。



「そしてぇ……!! イロン殿が作りし千載一遇の好機は決して見逃さん!! ずぁぁああああ――!! 迸れ我が筋肉ッ!! 飛び散れ汗ッ!! 剛腕無双撃ぶつりこそさいきょう!!!!」


「イギヤァァアアアア――――!?!?」



 ベルナルドさんが文字通りの物理攻撃を仕掛ける為。


 五つ首の巨躯に飛び乗りドンっと腰を落とすとイロン先生が開けた穴に無理矢理両手を捻じ込み、馬鹿げた広背筋と腕力でその傷口を無理矢理広げて行く。



「ふんぬぅぅうう――ッ!!!!」



 ミリッ……、ミリッ……と。


 思わず顔を背けてしまう生々しい音を立てて徐々に左右に開いて行く傷口。


 そして傷口が首の両淵に達すると俺達が渇望していた光景が漸く訪れてくれた。



「「「「ギャァァァァアアアアアアア――――ッ!?!?!?」」」」



 空に浮かぶ雲を霧散させる程の断末魔の叫び声が戦場に響くと中央の首が激しく吹き飛び、生々しい傷口から夥しい量の深紅の雨が噴き出して地上と戦士達の頭上に降り注いだ!!



 は、はは……。やった……。やったぞ!!


 遂に一本の首を撥ね飛ばす事に成功したんだ!!!!!



「「グ、グゥゥ……。シィィアアアア!!!!!」」


「「ッ!?」」



 今にも事切れてしまいそうな痙攣を見せる四つ首だが、この痛みを与えた二人の勇士に容赦のない攻撃を加えようとして二本の首が左右から襲い掛かった!!



「不味い!! 皆!! 二人の援護を……」


「――――。我々の存在を忘れては困るぞ!!」


「ギィッ!?」



 ったく……。本当に頼れる存在だぜ!!


 高高度から襲い掛かる白頭鷲の鋭い鉤爪が一本の首の攻撃を防ぎ。



「ハンナ!! この好機を逃す手は無い!!!!」


 大鷲が稲妻を吐く首の根元を鉤爪で捉えると、弱った装甲の綻びを見付けて鋭い嘴で首の肉を深く切り裂いた。


「あぁ!! その首……。貰い受けた!!!!」



 白頭鷲と大鷲が懸命に翼を上下に動かして必死の抵抗を見せる四つ首の動きを抑え付ける。


 激しい抵抗を受けるも二羽の鋭い鉤爪が首の肉を食み、恐るべき力で肉の深い位置に爪を突き立て。そして……。



「「「ウギィィアアアアアア――――ッ!?!?」」」



 異なる位置から侵入した神をも射殺す鉤爪が二本目の首を無理矢理切り裂き、大量の出血の雨が再び戦場に降り注いだ。



「貴様は死すべき存在だ!! 我々の力を見誤った事を後悔して漆黒の奈落へと落ちろ!!!!」


 ハンナが最後の抵抗を見せる千切れた首を空へと持ち上げて気迫溢れる瞳で三つ首を見下ろす。


「その通り。ラーキーとバケッドの仇は私達が討つッ!!!!」



 再び高高度へと飛翔して行く白頭鷲と大鷲の力強い飛翔が全部隊の心を震わせた。


 は、はは……。見事過ぎて言葉も出ねぇや……。



「皆さん!!!! ここが勝負所です!! 一気呵成に勝負を決めますよ!!」


「その通りだ!! 軍鶏一族よ!! 魂を奮い立たせろ!! 恐れず前を向け!! さすれば勝利の光は我等の手の中にッ!!」


「「「「ウォォォオオオオオ――――ッ!!!!」」」」



 二つの首が消失した事実、そしてイロン先生とベルナルドさんの鼓舞が地上部隊の士気を青天井まで引き上げ。



「野郎共ぉぉおお――――ッ!!!! ここが正念場だ!! 指が千切れようが、腕が使えなくなろうが攻撃の手を緩めるな!!」


 髪と髪の間から顔に向かって滴り落ちて来る粘度の高い血液を男らしい所作で拭い取り腹の奥から雄叫びを放つ。


「「「「オォォウウッ!!!!」」」」



 そして俺の鼓舞を受けた両翼の戦士達が三つ首へ向けて攻撃を再開させた。



「「「ウ……。ウギィィ……」」」



 地、空、高高度から絶え間なく続く攻撃により奴は防御態勢を取る暇も無く徐々に装甲を削られ弱って行く。


 地面の上でのたうち回りドス黒い血を撒き散らしていた二つの首は黒き霧へと変わり消失。失われた首があった傷口からは未だに夥しい量の出血が確認出来た。


 最高潮にまで達した戦士達の士気に対し、奴は首を二本も失い戦力も士気も下がっている。



 か、勝てるぞ……。これなら絶対に勝てる!!



 悪しき力が徐々に萎んで行く黒き憎悪の塊と、戦場に響く戦士達の熱き咆哮が確固たる勝利を予感させる。


 そして俺達はもう間も無く手中に収めるであろう勝利という輝かしい未来を勝ち取る為。


 己の魂を極限にまで高めて究極の悪に立ち向かっていったのだった。




お疲れ様でした。


帰宅時間が遅くなり、眠い目を擦りながら文字を打ち続けてつい先程本話を投稿出来る事が出来ました。


起きてから投稿するのもいいかなぁっと考えたのですがどうせなら出来立てホヤホヤの状態で召し上がって欲しかったので超深夜の投稿になりました。



本日の昼は曇り、そして今は窓の外からシトシトと雨の音が響いております。雨模様が暫く続き更に台風の影響もあって再び大雨の予想となる地域もあると聞きました。


その地域にお住いの方は細心の注意を払って行動して下さいね。



それでは皆様、引き続き良い週末を過ごして下さい。

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