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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第三十話 決戦の幕は切って落とされた その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




 真夏の空に浮かぶドス黒い雲が急いで北へと流れ、地平線の彼方から強き風が吹くと肌に纏わり付く湿気が刻一刻と強まる。


 夏の嵐を予兆させる自然現象が生じると被害を最小限に収める為、人は雨戸を閉めて筋交いを打ち家屋が雨風に煽られて倒壊しないように備える。


 悠久の時から続く自然現象に人は抗う術を持たない。


 迫り来る嵐から大切な生命、財産を守る為に必要な行動に移るのだ。



 では、仮に抗う術を持っているとしたら人はどのような行動に移るのだろうか??



 勇気を振り絞り荒れ狂う嵐に立ち向かい、大量の体力を消費して空に浮かぶ雲を霧散させて生まれ故郷を守る。


 うん、守るべき物がある者は恐らくそのような行動に移るだろう。誰だって大切な物は失いたくないからね。


 しかし、これはあくまでも神に等しき力を持つ者のみがすべき行動である。


 強風で揺れる壁に心を揺らされ、空高い位置から降り注ぐ豪雨が屋根を叩けば心に矮小な恐怖感が生まれる。


 ちっぽけな力しか持たぬ者は堅牢な殻に閉じ籠り、只々恐ろしい嵐が過行くのを願うばかり。


 カラカラに乾いた砂の大地で伏せて待つ俺達の心の中にもそれと似た感情がポツポツと芽生え始めた。



「「「……」」」



 死を振り撒く真の恐怖が直ぐそこまで迫っているのに逃げられない、抗えない、叫べない。


 皆一様に息を顰めて静かに呼吸を続け、五月蠅く鳴り続ける心臓を必死に宥めていた。



「まだ時間があるし。そこまで気負わなくてもいいって」



 左翼側の崖の淵付近で伏せて待つ俺の左隣。


 瞳の中に微かな恐怖の色を滲ませている軍鶏の里の男性に一言声を掛けてやる。



「あ、あぁ……。それは分かっているけどさ。ほら、逃げられない恐怖って結構堪えるなぁって……」


「この場に居るだけでお前さんは立派な戦士さ。怖いのは一人だけじゃない……。皆等しく恐怖に抗う為に強き心を胸に抱いているんだって」



 左手で彼の肩をポンっと優しく叩き。



「お――い!! 地上部隊は大丈夫か――!!!!」



 渓谷内の左右の側面に身を顰めている武士共へ最終確認を取った。



『大丈夫だぞ――!!!!』


『いつでも来いって感じだ!!!!』



 五つ首から身を隠す為に大きな岩を設置してあるから叫び声がくぐもって聞こえるや。


 だけど、あの超絶むさ苦しい雄叫びには遮蔽物の意味は余り意味を成さないようで??



「オォォッ!! フゥゥウウウウ――――ンッ!!!!」



 叫び声だけで汗に塗れて妙にテッカテカに光る筋肉の塊が想像出来てしまう雄叫びが耳に届いた。



「はは、皆元気良過ぎだろ……。イロン先生――!! そっちも大丈夫――!?!?」



 左翼側の地上付近で身を隠す火食鳥さんへ叫んでやる。



『大丈夫で――す!! 皆さんが戦闘を開始したら岩を蹴り飛ばして地上部隊も戦闘を始めますね――!!!!』


「はぁ――い!! よっしゃ!! 俺達も張り切って用意しようぜ!!」



 左翼側で伏せて待機する軍鶏の里の雄達に激励を飛ばし、もう間も無く相棒達がやって来るであろう南の方角へ視線を移した。



「全く……。ダンは人間なのに俺達よりも肝が据わってら」


「あはは。肝が据わっているっていうよりも、守るべき者があるから恐怖に立ち向かうんだよ」



 いつも通り飄々としている様に見えるけど本当は俺だって怖いさ。


 人の目が無ければスタコラさっさと地平線の彼方へ逃げ出そうとして足が微妙に震えているし。


 でも、俺達の後方で恐怖に震えている人達が控えているって思うと尻尾を巻いて逃げる訳にもいかねぇんだよ。


 それと……。奴は大切な仲間の命を奪った。


 例え頭を下げようが、違う大陸に逃げようが俺達が何処まででも追いかけて必ず息の根を止めてやる。


 それがお前の罪なのだから……。


 心に浮かぶ矮小な恐怖が憎悪に飲み込まれると漆黒の塊に変化。


 それを己が力の糧として逸る気持ちを抑えつつ南の空へ視線を送り続けていると……。



「――――。見えたッ!!!!」



 遠い位置で二つの黒き点が空を自由に舞い、地平線の切れ目から放たれる五色の線を華麗に回避している姿を捉えた。



「お、おいおい……。この距離から相手の攻撃が見えるって……」


「あぁ……。異常過ぎるだろ!!」


「落ち着け!! 奴に立ち向かうのは個では無く三百の猛者共だ!! 怖いのは当たり前だ!! 恐れるな!! 前を向け!! そして勝利を掴み取るんだ!!」


「お、おぉっ!! 俺達は負けねぇぞ!!」


「そうだ!! 絶対勝ってみせるっ!!」



 刹那に揺らいだ士気を高める為、敢えて大声を放ち左翼側の戦士達を鼓舞した。


 始まる前から下を向いていちゃ話にもならねぇからな……。


 五つ首の呆れた攻撃力を目の当たりにした右翼側でも動揺が広がったのか。



「戦士達よ!! 魂を振るい立たせろ!! 烈火の炎は何人にも掻き消せはせぬ!!」



 ベルナルドさんが隊の士気の異変を一早く察知して鼓舞させた。


 流石だぜ……、ベルナルドさん。


 ハンナの代理で崖の上の隊と地上部隊を率いているけどひょっとしたらアイツより統率力があるんじゃないの??


 軍鶏の里を一手に纏めている彼の手腕に思わず舌を巻いていると遂に魔の手がそこまで迫って来た。



「「「シャァァアアアア――――ッ!!!!」」」


「「「っ!?」」」



 鼓膜の奥の奥を震わせる五つ首の咆哮が放たれると大地が震え、渓谷の中央から空へと向かって稲妻の息が放たれる。



「ハァッ!!!!」


 ハンナが地上から迫り来る眩い光を空中で巧みに躱し、宙で急激に方向転換すると姿の見えない五つ首へ向かって急降下する所作を見せた。


「「シィアッ!!!!」」


 それを迎え撃つ為、火炎の息がハンナの頭部目掛けて放射されるが。


「甘いぞ!!」


 俺達の魂を奮い立たせる覇気のある声を放ち、火炎の息の真横を通過。


「これは……。俺の魂の叫びだ!! 受け取れ!!」



 恐らく鉤爪で五つ首本体へ攻撃を加えたのだろう。



「「「ギィィッ!?!?」」」



 俺達の直ぐ下から苦悶に満ちた恐ろしい声が轟いた。



 す、すげぇ……。攻撃を躱す処か反撃まで与えちゃったよ……。


 きっと避けてばかりだと勘付かれると思って攻撃を与えているのだろう。



「ハンナ!!」


 空を舞うシェファが渓谷内へと急降下してほぼ直角に曲がる箇所へと向かって鋭い飛翔を開始。


「分かった!!!!」



 ハンナもそれに続き、突風も恐れ戦く速度で渓谷内に侵入。


 その刹那……。



『後は……。頼んだぞ!!!!』



 白頭鷲の鋭い瞳が崖の上で待機し続けている俺に向かってそう言い放った。



 勿論分かっているさ!! お疲れさん!! 相棒!!


 少し休憩してろ!! 後は作戦通りに事を進めるのみっ!!!!



「……」



 素晴らしい動きを見せてくれた相棒に一つ頷き、物音を一切立てずに崖の淵からそ――っと顔を覗かせた。



「「「シュルルゥ……」」」



 おっほぅ!! 見てる見てるぅぅ!!!!


 渓谷内に設置した祭壇擬きに添えられた新鮮なお肉ちゃんと十個の酒樽に視線が釘付けじゃあないですか!!!!



 先程まで戦闘中だったのにも関わらず、大好物を捉えた五つの首が嬉しそうにのたうち蠢き。心に浮かぶ感情を分かり易く表す。



 よ、よし……。いいぞ、俺の思った通りじゃないか……。


 ほ、ほぉらっ。お前さんの大好物の血が滴る新鮮なお肉ちゃんと扱い方を間違えたら即刻爆散してしまうお酒ちゃんですよ――。


 だ――れも見ていないからたんとお食べなさいっ。



「コアッ!!!!」



 心急く思いでその様子を見守り続けていると、辛抱堪らんといった感じで一つの首が勢い良く肉に齧り付いた!!



 っし!! 出だしは好調ッ!!!!


 奴が一口大……。と言っても一つの肉片は犬程度の大きさなのですが。俺達が態々食べ易い様に切り分けた肉を美味そうに御口ちゃんの中に迎い入れ。



「「コココッ……」」



 ゴックンと飲み終えると美味そうに喉を鳴らした。


 ささっ!! 長旅でお疲れでしょう??


 当店御自慢の阿保みたいに強いお酒でも飲んで旅の疲れを癒して下さいなっ。



 大きな祭壇擬きに積んであった肉が次々と奴の胃袋へと消えて行き、固唾を飲んでその様子を見守っていた者共が心急く思いで酒樽に熱き視線を注いだ。



『『飲め……。飲めッ!!!!』』



 口には出さずとも雰囲気で察知出来てしまう幻の声が渓谷内にこだまする。


 その声に従ったのか、それとも酒の甘い誘惑に負けたのか。


 真ん中の首がキュゥゥっと目を細めて酒樽へと視線を送り、そして遂にその時が訪れた。



「ゴァッ!! ングッ……。ングゥッ……」



 の、飲んだ!! あはは!! 飲んだぞ!!!!


 酒樽へ勢い良くデカイ顔を突っ込み、呼吸をする間も惜しんで勢い良く喉の奥へと酒を流し込んでいる。


 酒の味が大変にお気に召したのか。



「「「シュルルルルゥ……」」」



 肉をがっついている首以外の二つの首が酒樽に顔を突っ込み、中央の首と同じ所作で飲酒を開始した。



『ダ、ダンッ!! 飲んだぞ!!』


『シッ!! 静かにしろ!! 十個全部飲み終えるまで我慢するんだ……』



 先程まで沈んでいた瞳に輝きが戻った戦士を宥め、逸る気持ちを抑えつつ五つ首の様子を見守る。



「「「コココッ……」」」



 ゴックゴクと渓谷内に響く嚥下えんげ音が続くにつれて五つ首の黒き鱗に覆われた太い尻尾が震え始め、心なしか首の動きが陽性な感情を帯びて無作為にうねり始める。


 そして飲酒の量が増えると憎悪に塗れた目がトロオンっと緩み始めた。



 その姿はさながら休日前夜に浴びように酒を飲んで酔っ払うだらしない夫、って所か。



 だが、残念だな。


 お前さんに待ち構えているのは素晴らしい休日じゃなくて死という惨たらしい現実なんだよ!!


 酒と肉、肉と酒。


 交互に訪れる幸せを咀嚼して飲み込み、まるで桃源郷の様な夢見心地を堪能していると遂に酒樽が最後の一本となった。



『よ、よしっ。野郎共……。準備しろ……』



 伏せていた状態からしゃがみ状態へと移行。


 左手に弓、右手に矢を持ちその時に備えた。



 拝啓、何処かにいるかもしれない幸運の女神様へ。


 俺達は今から命の保証のない超絶危険な作戦行動に移りますので幸運の加護を付与してくだせぇ。


 そしてどうか、ど――か!! 一回でもいいから俺の願いを聞いて下さいっ!!


 気分屋で気紛れな幸運の女神様へ慎ましい祈りを届けると。



『う――ん……。そうですねぇ。いつも無駄に頑張っているから偶には聞いてあげてもいいかなっ』



 何んとニッコリと微笑んで俺達に勝利の祝福を与えてくれではありませんか!!


 え!? 本気マジッ!?


 いつもはそっぽを向いてしまうのになんで!?



 僥倖を超える偶然な幸運の加護を与えてくれる。不意に訪れた突然の嬉しい知らせに驚きを隠せないでいた。



『あ、でもぉ。加護を与える前に先ずあの人を止めるべきでは??』



 はい?? あの人??


 彼女が指差す方へ視線を送ると……。とんでもねぇ姿をこの両目で捉えてしまった。



「……ッ!!!!」



 十個目の酒樽に大きな口を伸ばしている首目掛けて矢を射ろうとしている者がいるではありませんかっ!!!!




 ちょ、ちょっと待ったぁぁああ――――!!!!


 お母さんはまだヨシって言ってません――――!!!!




 初めて池に訪れた仲睦まじいアヒルの親子達。


『右ヨシっ、左ヨシっ。うん、大丈夫そうで……』


 危険な生物が潜んでいないか、流れは強くないか等々。


『あはは!! いってくるねぇ――!!』


『こ、こらぁぁああ!!』


 安全確認をキッチリと終えて子供に泳ぎの手本を示す前に池に向かって勢い良く飛び込んで行く我が子の背に向かって叫ぶ母親の感情を胸に抱いていると、遂にその時が訪れてしまった!!!!



「くたばりやがれっ!!!!」



 戦いの熱にあてられた右翼側の軍鶏の里の青年が勢い良く弦を放すと、五つ首の目元に向かって矢が美しい軌跡を描き直進していく。


 そして、鏃が美味そうに奴の目玉の肉を食んだ瞬間。



「「「ギィィヤヤァァアアアアア――――ッ!?!?!?」」」



 激しい出血と共に断末魔の叫び声が渓谷内に轟き、それが開戦の狼煙となった!!!!



 あ、あの馬鹿野郎!! まだ全部飲んでいないってのに!!



「え、ええい!! 野郎共!!!! 作戦開始だぁぁああ――――!!!! 好き勝手にぶっ放しやがれぇぇええ――――ッッ!!!!」


「「「「オオォォオオ――――ッ!!!!」」」」



 崖の淵に伏せて待機していた両翼側の二百名の戦士達が俺の号令に合わせて一斉に立ち上がり。



「皆さ――――んっ!! 戦闘開始ですよ――!!!!」


「「「オォォオオウッ!!!!」」」



 イロン先生が巨大な岩を蹴り飛ばして陽の下に救国の英雄ばりに滅茶苦茶格好良く出現すると地上部隊に指示を出す。


 ってか……。蹴り飛ばした大きな岩が何気なく五つ首の背に着弾しましたよ??


 その衝撃はかなりのものだったのか。



「ウグッ!?」



 あの巨体が微かに揺らいだ。



「おっしゃぁぁああ――――!!!! 掛かってこいやぁぁああ!! クソ蛇がぁあああ!!!!」


「遅れを取るな!! 皆の者……。続けぇぇええ――――!!!!」



 闘気漲る筋骨隆々の軍鶏の戦士達が刹那に見せた五つ首の隙に乗じて接近。



「おらぁぁああ!!!!」

「グッ!!!!」


 烈火の炎を帯びた拳を五つ首の右側面に叩き込み。


「こっちが御留守だぜぇええええ――――!!!!」

「ギィッ!?!?」



 左側面からも思わず目を背けてしまいたくなる威力の拳が突き刺さり。



「オッッ……!!!!」



 これはおまけだぜ!!


 そう言わんばかりに無駄にデカイ筋肉をバルンバルンと震わせている肉の塊が宙へと舞い。



「フゥゥウウウウ――――ンッ!!!!


 素敵な回転数の回し蹴りを中央の首に叩き込んだ!!!!



 あ、あはは……。まるで物理攻撃こそ至上なり!! って攻撃の連続だな。



「こっちも負けていられるか!! 野郎共……。撃てぇぇええ――――!!!!」


「「オォォォオオオオウッ!!!!」」



 真夏の豪雨よりも激しい矢の雨が降り注げば。



「風よ逆巻け、そして立ち塞がる者を切り裂くのだ!!!! 風刃烈破ウィンドウスティング!!!!」


「我々の前に立ちふさがる悪しき者を焼き払え……。火球連弾ファイアコンセクティブ!!!!」



 大木を切断する風の刃と大地を燃やす烈火の火球の連弾が空から襲い掛かり。



「ムゥゥ……。ウゴァァアアアア――――ッ!!!!」



 大人の体の大きさを優に超える岩石が馬鹿げた速さで崖の上から投擲され、全ての攻撃が五つ首の体に命中した。



「「「ギィィイイイイッ!?!?」」」



 予想だにしていなかった突然の攻撃に慌てふためく五つの首。


 反撃しようにも絶え間なく続く攻撃に一分の隙も見当たらず、奴は初めて防御態勢を取った。



「い、いいぞ!! 皆!! そのまま攻撃を続け……」



 このまま押し通ろうとした刹那。



「ググゥ……。アァァアアアア――――ッ!!!!」



 一番厄介な奴のお口ちゃんがカパっと開き、左翼側。


 ちゅ、ちゅまり。俺達に照準を定めてしまった。



 や、やっべぇぇええ!!



「お、お前達!! あの首は毒を吐く奴だ!! 一旦下がって回避しろ!!」


 弓の弦を引く手を離してそのまま下がろうとするが……。


 時、既に遅し。


「クルァァアアアア――――!!!!」



 飲酒の効果によって異常な動きを見せる首が何んとか俺達に照準を絞ると、口から超濃厚な紫の息が漏れ始めてしまった。



 あ、これは駄目な奴だ……。今から下がっても間に合わねぇ……。



「く、クッソたれがぁ!! だったら抗ってやるよ!!」



 活路は後ろじゃなくて前!!


 どうせ死ぬなら皆が下がるまで時間を稼いでやるぜ!!!!


 祈る想いで弦を力強く引き、無駄にデケェ口に的を絞ると……。



「――――。キシシッ……。遅い、遅いねぇ……。攻撃に入るまでの時間が遅過ぎてぇ欠伸が出ちまうよぉ」


「キシャッ!?!?」



 濃厚な紫色の息を吐こうとした口回りに突如として竜巻が発生。


 猛毒の息は上昇気流に乗って遥か上空へと霧散してしまった。



「ラジスアータ先生ぇぇええ――!!!! 本気マジで助かりましたぁぁあああ――――!!!!」



 此方側のずぅっと向こうの崖の淵で見事な詠唱をブチかましてくれた彼に思いっきり叫んであげた。



「キシシ……。攻撃を無視しても良かったんだけどねぇ。今沢山の兵に死なれたら安全に遺体を回収出来ないしぃ……。静かになった戦場でひっそりと、そしてこっそりと肉片を回収するさ……」



 あの、すいません。心の声、ダダ漏れていますよ??


 身元不明になる程のグッチャグチャになった遺体の一部を持ち帰っていいという条件を飲んで参戦して貰いましたけども……。


 もうちょっと慎ましく己の願望を話すべきだと思われます。



「私達烏一族が猛毒の息を防いであげる。だから君達は心置きなく遺体になっておくれ……」



 くすんで汚れてボロボロになった黒の外蓑を頭から被り、その奥から思わず背筋がゾクっとする薄ら笑いを浮かべた。



「お、おぉ――し!! 野郎共!! 毒だけ!! は怖くない!! 各首の息に気を付けて引き続き攻撃を続けろ!!」


「「「オォォオオ――――ッ!!!!」」」



 一旦は綻びを見せた左翼側が息を吹き返し、再び激しい攻撃の雨を降らせる。



「せぇぇええええ――――いっ!!!!」


「ギィアッ!?」


 異常なまでに前蹴りに拘る火食鳥さん達の烈火の攻撃。


「オッホッ!! ホッフゥゥウウ――――ンッ!!!!」


「グゥッ!?」



 全てを己の拳に乗せた軍鶏達の筋肉任せの肉弾戦、更に崖の上からの夥しい攻撃の嵐に五つ首は防戦一方として首を器用に折り畳み丸まってしまう。



 反撃の隙を窺おうにも顔を上げれば。



「そのまま丸まってろ!!!!」


「ギシャッ!?!?」


 鋭い矢が纏まって襲い掛かり、それでも尚攻撃を仕掛けようものなら。


「ドォォオオオオ――――ッッ!!!!」

「アグッ!?」



 ムッキムキの筋肉の塊から放たれる一撃が強制的に首を元の位置に戻してしまう。


 更に……。更にぃぃいい――――!!!!



「――――。俺の一撃は誰よりも重いぞ!?!?」


「「「ギィィヤアアアア――――ッ!!!!」」」



 超高高度から白頭鷲の恐ろしい鉤爪が急襲。


 五つ首はなす術も無く地、空、高高度からの攻撃を受け続けていた。



 い、い、イケル!!!! これなら絶対にイケルぞ!!!!


 絶え間なく続く烈火の攻撃の嵐が勝利を予感させた。



「ハンナ!! シェファ!!!! そのまま攻撃を続けてくれ!! 俺達も……。続くからよ!!」



 万力を籠めて弦を引き、巨大な体を丸めて己の殻に閉じこもり拙い隙間から俺達の様子をじぃっと窺っている五つ首の目に目掛けて矢を射って叫んでやった。



「ギィィウッ!?!?」



 よっしゃあ!! 通算三つ目の目玉、頂きました!!!!



「あぁ!! ここで一気にケリをつける!!」


「ダン達も攻撃の手を止めないでね!!!!」


「おうよ!! そのつもりさ!!」



 再び空高く昇って行った二人に力強く拳を握り、勢い良く掲げてやった。



 さぁ……って。お前さんはここで俺達に成す術も無く殺される運命なんだ。


 それを大人しく受け止めやがれ!!!!


「「「……。ククッ」」


 不敵な笑みを浮かべて相も変わらず丸まり続ける巨大な黒き塊に向かい、全部隊がなりふり構わず集中砲火を浴びせ続けていた。



お疲れ様でした。


本文でも触れた通り、遂に戦いが始まってしまいました。


ここから先の話はタイトルにも記した通り筆者にとっても戦いの幕が切って落とされてしまいましたので気が抜けません。なるべく皆様のご期待に添えられる様な話に仕上げたいと考えております。


因みに本話で登場して毒の息を防いでくれた烏の先生は、現代編で訪れたあのお化け屋敷の地下研究者の父親になります。第二部で現代編の主人公達と絡む予定ですので次回の登場は相当先になりますのであしからず。




さて、いよいよ本格的な梅雨シーズンが始まりましたね。


この梅雨が明ければ夏へ突入し、うだるような暑さが待ち構えていると思うとちょいと億劫になってしまいます。


今の内に体力を温存出来ればいいのですが……。そんなに人間の体は上手く出来ていないので夏バテにならないように注意しましょうかね。



それでは皆様、お休みなさいませ。


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