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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第二十九話 戦士達の決起

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 空の中を自由気ままに飛ぶようなとても心地良い浮遊感が体を包み込む。


 どこぞの横着な白頭鷲さんじゃないけども俺の背には生憎空を飛ぶ為の翼が生えていない。


 では何故この不思議で心地良い感覚が起こっているのか?? それを確かめるべくそっと目を開くと……。



 おぉっ、どういう訳か空中散歩の途中だったのね。



 飛ぶことが叶わない憐れでちっぽけな人間が雲一つない空を飛翔する。現実世界では有り得ない事が起きていますので俺は夢を見ているようですね。


 ここ数日間は真面に眠れなかったし、丁度良いや。


 このまま何のしがらみも無い無垢な世界を堪能しましょう。


 とぉっても高い位置から降り注ぐ陽光が体を温め、前方から向かい来る丁度良い塩梅の風が体を優しく撫でて後方へと流れ行く。


 横着な白頭鷲さんもこんな優しい感じで空を飛んでくれれば俺も毎度毎度死ぬ思いをしなくて済むのになぁ。


 大空の中を漂う綿雲の様に宙を漂いあてもなく自由気ままに飛び続けていると、ふと妙な香りを掴み取った。



 何だ?? この素敵な匂いは……。



 背筋の肌がサァっと泡立つような男の性欲を誘う甘い香り、全然気にならないけどどうしても鼻腔が捉えてしまう汗の酸っぱい香り等々。


 俺好みの香りを全部詰め込んだ香りが徐々に微睡み始めた俺の意識を現実の世界へと引き戻してしまった。



「ふわぁぁ――……」



 馬鹿みたいに口を開いて少し土臭い空気を胸一杯に取り込み、俺と同じくそろそろ起きようかなぁっと起床の準備を整始めた太陽ちゃんが眠る東の空へと視線を送る。


 夜が明けそうで明けない宵の刻。


 黒と深い青が混ざり合う空には一片の雲も見当たらず、今日は本当に良く晴れる一日だぞと知らせてくれた。



 さぁ――って、いよいよ始まるんだな……。



 一大決戦に相応しい天候になると予感させてくれる空から胡坐を掻いて座る己の太腿へと視線を移すと。



「ピィィ……」


「ピョロロォ……」


「ったく……。俺の太腿は布団じゃねぇって」



 そこには五羽のヒヨコちゃん達が身を寄せ合い、随分と安心しきった寝顔で素敵な睡眠を享受していた。


 さっき感じた香りはこの子達じゃなくて……。



「すぅ……」



 俺の左肩を枕代わりにして眠る雌の大鷲ちゃんでしたね。


 端整な口元が微かに開いて空気を取り込むと胸が静かに、ゆっくりと上下する。安定した寝相を求めたのか。



「んっ……」



 俺の左腕に甘く腕を絡めており、少しでも身動きをすればその余波が彼女の体に伝わり起こしてしまうかも知れない。


 シェファが誘導作戦を開始するのは今から数時間後。


 これまで蓄積された疲労を少しでも解消して貰う為にはまだ眠っていた方が良いよね??


 膝元と左半身に細心の注意を払い、可能な限り体を動かさずにしていると。



「――――。起きていたか」



 相棒が足音を一切立てずに現れ普段通りの口調を放つと俺達を見下ろした。



「はよ――っす。随分と早いじゃん」


「右翼側の設置を滞りなく終え、昨晩は早めに就寝したからな」


「こっちも大体そんな感じさ」



 あの大鷲ちゃんの攻撃は多大に余計でしたけどねっ。


 むさ苦しい雄共の味に飽きて、きゃわい子ちゃんを摘まみ食いしようとしたらとんでもねぇ仕打ちを受けたし。


 今度からは彼女の目の届かない所で味変をしよう。


 あんな馬鹿デカイ鉤爪に拘束され続けたら流石に丈夫な俺でも体がもたないからね。



「気負っていない様じゃん??」



 普段通りの表情を浮かべているハンナへ静かにそう話す。



「気負う、気負わない以前に俺は俺に課された使命を全うするだけだ」


「相変わらず堅苦しい奴め。そこは冗談でも私怖――いってお道化るんだぞ」


「無意味な行動は好まん」


「はいはいそうですか……。おぉ――……。夜明け、か」



 こうして彼といつものやり取りを繰り返してもう少しの間だけ安寧を享受していたかったが……。


 本日も不変である自然現象は俺達の予定、心情を一切合切無視して時を経過させてしまう。


 東の空から素敵な来光が顔に当たると温かな感情が湧くと共に、これが見納めになるのかも知れないと負の感情も同時に湧いてしまう。


 俺と同じ感情と考えを持ったのか。



「……」



 ハンナは何も言わず、只々東の地平線に浮かぶ太陽の明かりを捉え続けていた。



「綺麗だな」


 俺が静かに言葉を漏らすと。


「あぁ、美しい光だ……」



 彼もこの場に相応しい声量で呟いた。



 これが見納めにならない様にそしてこの大陸に住む全ての人々の為に俺達は決戦の準備を続けて来た。


 明日も、明後日も、そして数十年後もこうして相棒と共にあの明るい光を見つめ続けてやる。


 決して揺るがぬ決意を胸に抱いて徐々に強くなりゆく光を温かな眼差しで見つめていた。



「あ、ハンナ。こっちに居たんだ」


 ちょいと寝不足気味の顔色でクルリがパタパタと軽快な足音を立ててやって来る。


「どうした?? 何か用か??」


「別に用って訳じゃないけど……。姿が見当たらないから何処に行ったのかなぁってさ」



 ははぁん……。愛しの彼の姿が見当たらないから眠い目を擦って戦場を右往左往していた訳ね。



「そうか」



 そんな彼女の愛くるしい仕草を全く理解していない大馬鹿野郎はたった一言で返事を済ましてしまう。



 彼の身を案じる優しい彼女、素敵な朝日、もう間も無く始まる命の保証のない一大決戦。


 ここは気の利く台詞を話して彼女の肩に優しく腕を回す場面でしょうが。


 正に恋人同士に誂えた場面だし。



「もぉっ、時間が無いのにそのぶっきらぼうな感じはどうかと思うよ??」



 ほらね?? 思った通りだ。


 クルリが頬をぷっくり膨らませると彼の腕をまぁまぁ強い感じで抓る。



「ハンナ――。クルリが心配してやって来てくれたのにその反応はどうなのさ」


「そ、そうなのか?? すまんな。気が利かなくて……」


「ううん、別に良いよ」



 ハンナとクルリが刹那に視線を交わすと。



「「……っ」」



 一方は超童貞臭く視線を外し、もう片方は思春期真っ盛りの女子みたいに頬を赤く染めてしまった。



 はぁ――……。朝っぱらか見せつけてくれんじゃん。


 俺も命の保証がされていない恐ろしい作戦に参加するんだし?? 恋人……。までとはいかぬが美女に優しく口付けの一つや二つして貰って発奮したいさ。



「あ、あはっ。ダン、何だかお父さんみたいだね??」


 自分の気持ちを見透かされた恥ずかしさを誤魔化す為か、大変柔らかい笑みを浮かべたクルリが俺を見下ろして話す。


「はっ?? 俺は彼のお母さんなんですけど??」



 全く以て心外ですっ。


 お母さんは横着でわんぱくな白頭鷲の躾に毎日四苦八苦しているというのにっ。



「いつから貴様は俺の母親になったのだ」


「ほら、足元に子供がいて。左肩に奥さんの頭を乗せて。優しいダンはいいお父さんになれると思うよ??」


「未だ見ぬ不思議の数々を全て平らげるまでは所帯を持とうとは思わないさ」



 その第一歩としてこの大陸に足を踏み入れたのだ。


 所帯を持って腰を据えて生活するのも捨て難いけど、この先に待ち構えている危険な冒険の数々とそれを天秤に量ると……。


 どうしてもそちらに傾いてしまうのです。


 いつか、そういつか……。


 この天秤が向こう方面に傾く女性が現れるまで俺は冒険を続けるのだろうさ。



「ふぅん。そんな事言っていたらいつまで経っても奥さん出来ないよ??」


「暫くはそれでい――の。俺は俺の道を歩むっ!! そしてたぁぁっくさんの危険と不思議。更にぃ!!!! 超かわい子ちゃんとお知り合いになるまで歩みを止めないのだ!!」



 徐々に黒が西へと退避しつつある空へ向かって元気良く右手を上げて言ってやった。



「そ、そっか。が、頑張ってね」


「おうよ!! こっちの大陸で粗方用件を済ませたら南のリーネン大陸に足を運ぶ予定だし。ぬふふぅ……。向こうの大陸はどんな可愛い子がいるのかしら?? 美味しそうな足ちゃんを持つ子だったりぃ、ぷっくんと膨らんだお胸を持つ子だったりぃ。え、えへへ。選り取り見取りだねっ!!」



 満面の笑みを浮かべて何気なく左肩へ視線を送ると。



「…………」


 お目目チャンがパッチリと開いている雌の大鷲と空中で視線が衝突してしまった。


「さ、さぁってと……。そろそろピー助達を起こして作戦開始の準備を始めなきゃなぁ――」



 や、やばい!! これは本格的に不味い奴ですねっ!!


 彼女の瞳に捉われ続けると心臓が激しくバクバクと鳴り始め、口の中が乾いた砂を無理矢理捻じ込まれた様に異様に乾き、全身から大変ちゅめたい汗が噴き出て来る。



「今の話。もう少し詳しく話そうか」


 声、こっわ!!!!


 左側から届いた凍てつく声色に肝が大いに冷えてしまう。


「い、いや。これはあくまでも予定で御座いまして……。そして予定は未定ですのであしからずっ!! クルリ受け取れ!!」


「へっ!?」



 膝元で眠りこけるヒヨコちゃん達を彼女へ向かって放り投げると同時に安全と安心が存在する場所を求めて駆け始めた。



「誰かぁ!! 助けて下さい!! 凶悪な大鷲に狙われているんですぅ――!!」


「――――。全く、朝も早くから喧しい奴め」


「それがダンらしいよ。あ、ごめんね?? そのまま眠ってていいから」


「「「ピィッ……」」」



 彼女が五羽のヒヨコを愛しむ様に撫でると、温かな母性を享受した彼等は再び目を瞑り安らかな寝息を立て始めてしまう。


 ほぉ……。随分と手慣れたものだな。



「似合うね?? その調子なら直ぐにでも奥さんになれるよ」


「ちょ、ちょっとシェファ。揶揄わないでよ……」



 クルリが満更でも無い表情を浮かべてそっぽを向いてしまう。



「さて、私は我儘な犬に躾をしなきゃいけないから行くね」



 シェファがそう話すと大鷲の姿に変わり、徐々に明るくなりつつある空へと向かい羽ばたいて行ってしまった。



「ダンも素直になればいいのにね」


「間も無く作戦が始まる、今は気を抜くべきでは無い。奴はそういう所が甘いのだ」


 俺を見習えとまでは言わぬがせめて隊の士気を保つように心がけて欲しいものだ。


「そういう事じゃないんだけどなぁ――。ふふっ、可愛っ」


「「ピィィ……」」



 そういう事じゃない?? では一体どういう事なのだ??


 女性の考えは一手二手先を読む戦いよりも難しく、全てを理解する為には素手で霞を掴み取る様な。男にとってそれは不可能に近い事象なのかも知れん……。



「ギヤァァアア――――!! シェファ!! 鉤爪で拘束しちゃ駄目だって!!」


「少し静かにして。皆寝ているんだから」



 阿保の絶叫は完全完璧に無視。


 我が子を愛しむ様に軍鶏の里のヒヨコ達を撫でる彼女を視界に捉え、腕を組みつつ幾ら思考を凝らそうがその答えは深い霧の中に包まれ一向に姿を現さなかった。































 ◇




 何処までも広がる青き空の下。


 乾いた大地の上に決して折れる事の無い鋼の魂を持った約三百の戦士達が集結し、作戦開始を今か今かと待ち侘びていた。



「「「……」」」



 その時に備えて軽く柔軟を続ける者。己の得物の強度並びに切れ味を確認する者。湧き立つ魂の鼓動にあてられぶつけようのない熱量をその場で誤魔化す者。


 大勢の者達が放つ熱気は凄まじく、大空を自由に舞う鳥達がこの場を避けて地平線の彼方へと飛翔し青の中に浮かぶ雲も。



『っと。へへっ、こりゃ失礼しやした!! どうぞ続けてくだせぇ』



 いつまでもうだつの上がらない御用聞きの様にヘコヘコと頭を下げて通り過ぎて行った。



 はは、戦闘が始まっていないってのにすっげぇ圧だな……。


 歴戦の勇士もこの無言の圧を受ければきっと踵を返して逃げ帰っちまうだろうさ。



 彼等の正面に立つ俺とハンナ、そしてシェファは巨大な熱気の塊を真面に浴び続けており。否が応でも魂の、そして体内の熱を温められ続けていた。



「さぁって……。これ以上待たせると隣同士で殴り合いが始まりそうな雰囲気だし?? 作戦総指揮の任を担う総大将ハンナ様の有難い御言葉を皆に聞かせてやってくれ」



 左隣りでカチコチの表情を浮かべている彼の右肩をポンっと叩き、血気盛んな戦士達の前へ移動させてやる。



「あ、あぁ。そうだな……。コホンッ」


「「「……ッ」」」


 俺の所作、そして相棒の小さな咳払いを捉えた猛々しい者共が口を閉ざし。彼の一挙手一投足を見逃すまいとして鋭い視線を向けた。






「――――。今から数時間後、我々は凶悪な生物と対峙する事となる。奴の力は強大であるが恐れを知らぬ三百もの戦士達が一堂に会した。その事実だけは素直に喜びたい」



 彼の澄んだ声色は大変通り易く、空気の壁の合間を縫って各隊の戦士達の耳に届いた。


 優れた指揮官に必要なのは統率力、指揮能力は勿論の事。声も必要だと考えられている。


 幾ら御託を述べようが心に響かなかったらそれは無意味だし。その点に付いてハンナは優秀な指揮官であると断定出来る。


 皆一様に彼の言葉を聞き逃すまいとして集中しているのが良い証拠……。



「ピィピッピ……」

『眠いぃ……』


「ピピピャ!! ピャッ!!」

『馬鹿野郎!! 起きてろよ!!』


「ムゥッ……」



 基、筋骨隆々の人型に形態変化したピー助の肩に留まるたった数羽を除き彼の言葉を真剣な眼差しで受け止めていた。




「奴の力はこの目を、体を以てして理解している。屈強な戦士でさえも慄く力の差。そこから生まれる恐怖は計り知れない。しかし、俺が今尚闘志衰えぬ事無くこの場に立っているのは他ならぬお前達の御蔭だ」



 作戦開始前は五十名の試算であった人員はその六倍である三百名まで膨れ上がり、彼等の闘志そして決意が俺達の魂を鼓舞してくれた。


 この作戦に参加してくれた者達の中には家族、恋人を持つ者がいるだろう。


 帰り道は用意されていない悪鬼羅刹が蠢く地獄へと続く片道通行。


 その険しい道を俺達と共に歩んでくれようとした彼等には本当に頭が上がらねぇよ……。



「もう間も無くこの戦場は死が蔓延る恐ろしい場所へと変貌を遂げてしまう。今、お前達の隣に立っている者は帰らぬ者となるやも知れん。奴の力はそれだけ強大なのだ」



 ハンナの言葉を受け取ると隊の者達が刹那に視線を交わし、互いの顔を己の心に映す。


 きっと……。見慣れた顔を捉えるのがこれで最後かも知れないって理解したんだろうさ。



「俺と共に鍛えた仲間は先に逝ってしまった……。この胸には彼等の無念、悲しみが渦巻き今も俺を苦しめている」



 彼が物悲し気な表情を浮かべてふっと視線を落とす。



「奴から見れば個の力は矮小な物に見えるであろう。だが、戦士達の呼吸が戦場を温め、鍛え抜かれた体から放たれる圧が隊を鼓舞すれば例え小さな火であっても。それが一つになれば猛炎となり恐るべき烈火をも凌駕するであろう!!」



 悲しみに満ちた表情を切り捨て、ハンナが燃え盛る火炎の如く口調を強めると。



「「「……ッ!!」」」



 それに応える形で戦士達の瞳に炎が宿った。



「今は亡き戦士達を弔う為、この大陸に真の安寧を取り戻す為!! そして!! 存在する為に俺達は今日この場に集結した!! 戦わずして我々は死なない!! 今こそ里の違いを越えて唯一つの目標へ向かって突き進むのだ!!」



「あぁ!! その通りだ!!」


「俺達は決して負けない!!」


「絶対に、絶対にぃ!! 平和を勝ち取ってやる!!!!」



 相棒の熱にあてられた戦士達の熱き呼応が方々で上がる。


 さぁ……、総大将。シメの言葉でこの隊の連中の魂を揺さぶってくれ!!!!




「武器を手に取り立ち上がれ!! 選ばれし栄えある戦士達よ!! 黒き恐怖を打ち倒す為に……。勝利の雄叫びを上げろぉぉおお――――ッ!!!!」



「「「ウォォオオオオオオオオオオ――――――――ッッ!!!!!!」」」




 は、ははっ。すっげぇ……。大地が震えているよ……。


 戦士達の雄叫びが空を轟かせて堅牢な大地を震わせる。この呆れた熱量は留まる事を知らず空高い位置で休んでいる神々を叩き起こす程だ。



 難攻不落の牙城を崩す為に綻びを必死に模索して、その一手が見つからない事に頭を悩ませた。


 苦労の末に微かな光明が見え、拙い光の筋を手繰り寄せて勝利という名の栄光を掴み取る。


 元々詰んでいた盤面が今じゃどうだい?? 形勢逆転とまでは言わないが五分と五分の状態にまで戻っているじゃないか。



 俺達の苦労は決して無駄じゃ無かった……。


 ラーキー、バケッド空の彼方で見てくれているか?? 俺達は……。勝つぜ。


 そして満面の笑みを浮かべてお前達に勝利の報告をしてやるよ!!!!



「お疲れ、ハンナ」


 シェファが微かに口角を上げて此方側に戻って来た彼に労いの言葉を送る。


「う、うむ。俺は戦士長の様に人を鼓舞するのは上手くない」


「謙遜するなって。ほら、隊の連中を見てみろよ」



 熱気冷め止まぬ隊へ向かって顎をクイっと向けてやる。



「やってやるぜぇぇええっ!! 俺達なら絶対勝てる!!」


「その通りだ!! この鍛え抜かれた体で敵の肉を穿ち、骨を砕く!!」


「ムゥゥッフゥゥウウンッ!!!!」



 むさ苦しい筋肉をバックンバックンと無意味に動かして燃え上がる感情を誤魔化す軍鶏の一族。



「キシシ、流石ですねぇ……。我々烏一族の心を揺さぶるとは……」



 冷静沈着の烏一族も彼等の熱、そしてハンナの演説に感銘を受けたのか。内側から溢れ出る感情を誤魔化し切れずに肩を震わせ。



「全くその通りです。彼の言葉はこう……。胸に刺さる物がありましたからっ」



 火食鳥の一族も嬉しそうに喉を震わせ、攻撃力に全振りした鋭い爪を大地に突き立てていた。



「第一段階は待ち伏せなのにここまで士気を上げても良かったものなのか……」


「はは、安心しろって。作戦の段取りは耳が痛い位に聞かせてあるからさ」


「う、うむ……。では、シェファ。奴を迎えに行くぞ」


「分かった」



 ハンナとシェファが魔物の姿に変わると。



「シェファ!!!! 気を付けて行くんだよ!?」


 火食鳥のイロン先生から激励の声が飛び。


「キャァァアア――!! ハンナさぁぁああ――ん!! カッコイイ!!」


「気を付けて帰って来て下さいねぇ――!!!!」


 相棒には黄色い声援が飛びやがった。



 ちっ、こんな時まで一々モテやがって……。



「う、うむっ」


「おら、さっさと行って来いや」



 黄色い声援を受けて若干狼狽えている相棒の足を蹴ってやる。



「ふんっ、貴様に言われずとも分かっている。戦士達よ!! 俺とシェファが必ず奴をこの地へと導く!! 暫しの間、牙を研ぎ待機していてくれ!!」


「「「オオォォッ!!!!」」」


「シェファ!! 行くぞ!!!!」


「分かった。ダン、行って来るね??」



 大鷲の鋭い瞳が俺を捉える。



「気を付けて行って来いよ?? シェファの最初の任務は誘導だ。無理をする必要はないんだから」


「うん、じゃあ行って来ます」


「行ってらっしゃい」



 母性溢れる声色で大鷲の翼を一つ優しく撫でてやった。



「俺に続け、シェファ!! 奴をこの地へと導くのだ!!」


 白頭鷲が神々しい翼をはためかせて空へ舞うと。


「ハンナは私の後輩なんだから私の後ろについて来なさい」



 それに続く形で大鷲が彼の軌跡を追い、大空の中をエゲツナイ速度で飛翔して行ってしまった。



 はっや……。もう姿が見えなくなっちまった。


 そんなに速く飛んだら作戦開始時刻よりも随分と先に到着してしまいますよ??


 初めての御使いに向かう息子と娘の意気揚々とした後ろ姿を見つめる母親の温かな瞳を浮かべて、地平線の彼方へと消えて行った彼等の美しい軌跡を静かにいつまででも見つめていた。




お疲れ様でした。


次話からは五つ首戦第二ラウンドが始まるのですが……。プロットが難航しているのが本音であります。


これでいいのか?? それともこっちの結末の方がいいのか。


多種多様な選択肢が生まれ、取捨選択に悩まされていますよ……。


今月中には新しい大陸での冒険を始めたいので何んとかこの危機を乗り越えようと考えております。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!!!!


今本当に参っているので執筆活動の嬉しい励みとなりました!!!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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