第二十三話 雲泥万里 その身に刻め その二
お疲れ様です。
後半部分の投稿になります。
地上付近に思わず目を瞑ってしまう一陣の猛烈な風が吹き荒れ、大量の砂塵が舞うと同時。
「――――。これ以上……。仲間を傷付けはせん!!!!」
背に届いたのは痛みでは無く戦士長の魂の叫び声が届いてしまった。
様子を確かめる為に振り返るとそこには巨大な扇鷲が懸命に翼を広げ、恐ろしい攻撃から俺達を必死に守っている姿を捉えた。
稲妻の息が彼の背を焦がし、襲い来る激しい圧が彼の体を吹き飛ばそうとするが……。セフォーさんは大地に鉤爪を突き立てて俺達を庇い続けていた。
「なっ!? 何してんだ!! あ、あんたが動けなくなったらどうやってアイツに勝てばいいんだよ!!」
「仲間を守るのも俺の務めだ。うぐっ!?」
「戦士長殿!!!!」
五つ首の攻撃が止み、扇鷲が力無く翼を下ろすと堪らずハンナが駆け寄る。
「だ、大丈夫だ。自分で飛べる位の体力は残っている……」
震える翼を必死上げ、そして五つ首と対峙した。
「「「コロロ…………」」」
や、野郎……。こっちがもう反撃する力は残っていないと判断しやがったな!?
満身創痍の此方を捉えると目元をニィっと細めやがった。
「撤退だ……。この状態では奴には勝てん」
セフォーさんが断腸の思いで俺達に退却を告げる。
こちらの戦力は翼が傷付き飛べるのが精一杯の扇鷲と白頭鷲。それに矮小な力を持つ人間一人のみ。
空から戦を司る神が降臨しない限りこのままじゃ九割九分……。いや、十割俺達が負ける。
彼の判断は正しいな。
「ハンナ!! 撤退するぞ!! 飛べるか!?」
傷付いたシェファを抱えて彼の背に叫ぶ。
「何故撤退せねばならぬのだ!? 二名の戦士を失い……。戦士長まで傷付けられて!!」
こ、この分からず屋め!!
「馬鹿野郎!!!! ここで死にたいのか!?」
随分と離れた位置にいる五つ首へ向かって歩み出そうとする彼の前に出て叫ぶ。
「俺に生き恥を晒せとでもいうのか!?」
「その通りだ大馬鹿野郎!!!!」
「こ、この!!」
「ッ!?」
奴に勝てない悔しさ、己の無力さ、そして仲間を失った悲しみ。
様々な感情が籠った彼の拳が左の頬を襲う。
「――――。いいか、よく聞け」
顔を元の位置に戻し、悔恨の表情を浮かべている彼の目を確と捉えて口を開いた。
「ハンナの戦士としての誇り、矜持は大切だと思う。だがこの戦いは是非を問わぬ戦いだ。生存する為の戦いの前ではそんなものくだらねぇ障害でしかない。敵に背を向ける?? 死に恐れて逃げる?? 上等じゃないか。生きていればヤリ返せる機会があるのだから。それに俺達の後ろには輝かしい命が沢山控えている。頼む……。ハンナ。お前は決して死んではいけない存在なんだ。それを……。理解してくれ」
俺が静かに頭を垂れると。
「――――。分かった」
両の拳を痛い程握り締め、撤退の意思を見せてくれた。
「済まない。後で幾らでも殴られてやるからさ」
「あぁ、顔の形が変わるまで殴り続けてやる」
「ははっ、そうだな。セフォーさん!! 飛べそうかい!?」
ハンナにニっと笑みを送ると鋭い瞳で五つ首を注視している彼の横顔へ向かって叫ぶ。
「鷲の里まではなんとかな」
「結構!! よっしゃ!! ハンナ!! 後ろに向かって……。前進しようぜ!?」
俺達は何も戦いを放棄した訳じゃない。
体勢を整え、あの化け物と再び刃を交える為に下がるのだ。
「了解した!! 乗れ!!」
「おう!!!!」
傷付いたシェファを抱いたまま彼の背に乗ると。
「戦士長殿!! 行きましょう!!」
「あぁ!! 分かった!!」
二人が巨大な翼をはためかせて空へと舞い上がった。
五つ首は俺達の背を狙うかと思われたが……。
「「「キシシッ……」」」
奴は口元を歪に曲げて此方を只見上げるだけ。
そして脅威が去って行くと判断した五つ首が地上に横たわるバケッドの遺体の足元を咥えた。
な、何をするつもりだ??
「「「グッッオオ……」」」
一つの首が遺体の爪先から太腿へ向かって口を滑らせて下半身を全て飲み込み。そのまま天高く持ち上げ彼の亡骸を喉の奥へと送り込んでしまった。
「「ッ!?」」
喉元がグニィっと膨張し、続いて喉の中腹付近が柔らかく膨らみ彼の亡骸が本当にゆっくりと……。
遅々とした動きで奴の胃袋へ向かって行く様が此処からでも確認出来てしまう。
ク、クソ野郎が!! 敢えて見せびらかす様に食いやがって!!!!
「「「コココ……」」」
嬉しそうに喉を鳴らし、彼の遺体を食い終えて次に向かったのは俺達が設置した野営地だ。
そこで酒の入った竹筒を見付けると口で器用に咥え、先程の要領で天に掲げると勢い良く飲み干してしまう。
「「「ヒグッ……」」」
勝利の美酒と御馳走は美味いか!? ああんっ!?
今に見てろよ!? 絶対、テメェの首は俺達が刈り取ってやるからな!!!!
ほろ酔い気分で微かに体を揺らす五つ首を憎悪に塗れた瞳で見下ろしてやった。
「奴は……。必ず殺すっ!!!!」
俺と同じ思いを抱いたハンナが激しい口調で叫ぶ。
「あぁ、俺もお前と同じ気持ちだ。二度と生まれて来ない様に鱗の一枚残さず滅却してやろうぜ……」
西へ向かって飛翔して行く彼の背に乗りながら思いの丈を放つ。
俺達を退却させたテメェの詰めの甘さが命取りになる事をその身に刻んでやるよ。
絶対に……。絶対に!! 殺してやるからな!!!!
己の無力さから生じる忸怩たる思いを奥歯で噛み締めて粉砕して圧倒的な力に変える。
心に湧く憎しみと殺意。仲間を失った悲しみと絶望。
全ての負の感情を全部力に変えて……。お前の首を撥ね飛ばしてやる。命乞いをしようが泣き叫ぼうが決して攻撃の手は止めない。
必ずやテメェの存在をこの世から消し去ってやる!!
俺達は決して折れない鋼の決意を胸に秘め、勝利へと続く敗走を開始したのだった。
お疲れ様でした。
話の都合上、これから少々雰囲気が暗くなりますが何んとか明るい雰囲気に努めて執筆しますので。その点については予めご了承下さいませ。
さて、本話でも触れた通り。五つ首に負けて敗走した訳なのですが……。彼等がこれからどうやって五つ首を倒すのか。そのプロットを現在執筆しているのですがこれがまた難しくて。
日常生活にも支障きたす程に悩んでおります。
ブックマークをして頂き有難う御座いました!!
五つ首討伐作戦のプロット執筆の嬉しい励みとなりました!!!!
それでは皆様、お休みなさいませ。