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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第二十三話 雲泥万里 その身に刻め その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 見上げんばかりの馬鹿げた巨躯の先に生える恐ろしい五つの頭達から放たれる火炎の赤、稲妻の黄、猛毒の黒紫、氷結の淡水、風刃ふうじんの薄緑。


 五つの首がそれぞれの相手を狙い済まして空へ向かって異なる属性の息を放つが、彼等は持ち前の飛翔能力と決して折れぬ勇気を心に抱いて回避し続けていた。



「「「グォォオオ――――ッ!!!!」」」



 空を軽やかに、そして自由に舞う的に己の攻撃が当たらぬ事に痺れを切らしたのか。


 五つ首から放たれた雄叫びが大地を轟かし名一杯の力を籠めた息を里の戦士達に放射するが。



「おらぁっ!! もっとよく狙って撃てよ!!!!」


「甘いっ。私はここよ??」


「ぜぇっ……。ぜぇっ……。まだまだイケるぜ!!」



 恐ろしい威力を持つ息は大空を舞う大鷲達の影さえも捉える事は無く、虚しく空の彼方へと消え行く。


 そして放射し終えた隙を狙い。



「はぁっ!!!!」


「ずぁぁああああ――――ッ!!!!」



 扇鷲と白頭鷲が地面スレスレを飛翔して五つ首の胴体の側面、正面の腹、そして尾を鋭い爪で切り裂く。


 正面から扇鷲が襲い来たかと思えば、攻撃の繋ぎ目を感じさせない素晴らしき速さで白頭鷲が左右から襲い来る。


 攻撃に特化した二体に攻撃を絞れば迎撃は容易いのだが……。上空にはその二体に匹敵する攻撃力を持つ三羽の大鷲が鋭い瞳で睨みを効かせて飛翔し続けている。



 燕の速さを超える素晴らしき飛翔で敵の攻撃を攪乱させ、それぞれの頭の思考に迷いを生じさせ、その隙に乗じて攻撃を加える。



 素晴らしい作戦と戦士達の勇気ある行動に思わず感嘆の吐息を漏らしてしまった。



「はぁ――……。すっげぇ戦いだな……」



 広大な平地の中にポツンと立つ大きな岩陰に隠れ、ハンナ達と五つ首の攻防を観察しながら素直な感想を述べる。


 大空の中を自由に舞うシェファに風刃の息が襲えば。



「そっちじゃない」


 彼女が直角に急上昇して回避。更に捻りを加え、五つ首目掛けて急降下する所作を刹那に見せると。


「ギシャァァアアアア――――!!!!」



 火炎の吐息がシェファ目掛けて放たれた。



「遅い……。戦士長。隙、出来た」


「分かっている!! せぁぁああっ!!!!」



 中央の首が上空に向き、更に他の首が四名を狙い続けている中。彼は勇猛果敢に真正面から突撃を開始。



「ふんっ!!!!」


「「「グゥッ!?!?」」」



 巨大な鉤爪で五つ首の腹部へ一撃を加えるとそのまま大空へ向かって羽ばたき。



「ゴァァアアアア――――ッ!!!!」


「甘いっ!!」



 怒りの火炎を空で躱すと旋回を続けて敵の注意を引き付けていた。



 鷲の長所である飛翔能力と鉤爪による雷撃。


 己の長所を最大限に活用出来る作戦に思わず舌を巻いてしまった。


 正に理に適った作戦なのだが……。唯一の欠点がある。それは……。



「ちっ……。何て装甲を装備しているんだよ」



 ずぅっと遠くにいる五つ首の黒き鱗を観察するが離れた位置でも出血を確認出来ていない。


 子供が大人に対して拙い力で引っ掻く様に、鉤爪の攻撃は精々鱗の薄皮一枚を削っている程度であろう。


 夜明けと共に作戦を開始し、今現在の時刻は太陽が一日の中で一番高い位置に昇る刻。


 つまり真昼になっても奴は血の一滴すら流していないのだ。



「このままじゃジリ貧になって焦っちゃうよな……。俺にも何か出来る事は……」


 そう考えて、岩陰からそ――っと顔を覗かせると。


「グゥゥオオオオオオ――――!!!!」


「どわぁぁああ――――!?!?」



 砂塵を舞い上げて地上付近を飛ぶハンナ目掛けて放たれた火炎の息の余波が岩を直撃した。


 あ、あぶねぇ……。直ぐに顔を引っ込めなかったら今頃頭皮が全部燃えている所だった……。



「馬鹿者!! そこで待機していろ!!」


 ハンナが飛翔を続けながら俺に向かって叫ぶ。


「分かっているって!!!! 相棒!! そのまま攻撃し続けろよ――――!!!!」



 白頭鷲の大きな背に向かって喉が張り裂ける勢いで声援を送ってあげた。



「ふぅ――……。岩ちゃん、有難うね?? 助かったよ。ん――……ッ」



 カチカチの岩にお礼の口付けをやんわりと放つと。



『触れるな!!!!』

「アッチィィイイ!!!!」



 火炎の息を浴びて体表温度が急上昇してしまった岩ちゃんに手痛い反撃を食らってしまった。


 この大きな岩をアツアツにしてしまう程の熱量を帯びているのか、あの火炎の息は……。


 アレが直撃したらきっと人の身では骨片一つも残らないだろうさ。


 火炎の息を浴びて苦しみ悶える己の姿を寒気がしやがる。その脅威に常に晒されている彼等はもっと恐ろしい感情を抱いて戦っているんだよな。



 願わくば……。早期決着を付けて欲しいがそれは叶わぬであろう。



 扇鷲と白頭鷲の鉤爪の攻撃を受けても装甲は傷付かず尚且つ各首から放たれる息も劣る事を知らない。


 そうなると一つの不安材料が頭に浮かぶ。



 そう、体力面の不安だ。



 化け物級の攻撃を躱し続け更に攻撃の手を止めずに彼等は数時間以上戦い続けている。


 五つ首は正に底無しの体力を備えているが、それに対しハンナ達には体力の限界値という概念がある。


 このままではいつか誰かの体力が底を付き、そこから綻びを生じて隊の全滅へと繋がってしまう。


 不安と危惧と憂慮。


 幾つもの負の感情が胸の中一杯に広がり、戦闘開始時からずぅっと五月蠅く鳴り響く心臓を宥めて空を見上げていると杞憂が現実のモノへと変わってしまった。



「ゲホッ!! はぁっ……。はぁっ……」



 執拗に追い続けて来る黒紫の猛毒の息を躱していたバケッドの飛翔が微かに揺らぎ始めたのだ。



「お、おい!! バケッド!! どうした!?」


「な、何でも無いさ……。ちょいと胸が苦しいだけだ」



 他の息と比べて猛毒の息は大気中に漂いそれを吸った者の体を蝕む。


 左右の翼から生じる猛烈な風である程度は霧散出来るが……。常にそれを躱し続けるバケッドには他の者に比べて多くの毒を吸引してしまう。



 それが積み重なって動きが鈍くなっちまったのか!!



「だったらもっと速く飛べ!!!! 直撃されちまうぞ!!!!」


「わ、分かっている。でも……。これ以上は……」


「シィィアア――――ッ!!!!」



 バケッドの背後に迫り来る黒紫の猛毒の息。


 これ以上の回避が困難だと判断した彼は地上へと急降下、そして……。



「ぜぇぇっ……。カ、カヒュッ……。指先が動く限り、最後まで抗ってやるよ!!!!」



 人の姿へと変わり、右足に括り付けていた戦鎚を右手に持つと勇猛果敢に五つ首へ向かって突撃を開始してしまった!!



「や、止めろ――――ッ!!!!」



 な、何を考えていやがる!! 動けなくなったら下がれよ!!


 思わず岩陰から飛び出して彼の大きな背に向かって叫んでやった。



「「ゴァァアアアア――――ッ!!!!」


「だぁぁああああ――――ッ!!!!」


 バケッドが正面から襲い来る稲妻の息と風刃の息を間一髪回避すると。


「ぜぁぁああ――ッ!!!!」


 両手で戦鎚の柄を力の限り握り締めて、五つ首の胴体へぶち込んだ!!


「「「ッ!?」」」



 ドンッ!! と。肉が弾け飛ぶ生々しい音が離れた位置でも聞き取れる豪快な一撃。


 五つ首の巨躯が微かに揺らぎ、彼は追撃を試みるが。



「「ギィィ……。シャァァアアアア――――ッ!!!!」」


 二つの頭の口が開き、猛々しい毒牙を彼の首元へと打ち込んでしまった。


「うぎやぁぁぁぁああああああ――!!!!」


 毒牙、そして蛇の咬筋力の威力を証明する様に断末魔の叫び声が戦場にこだまする。


「バ、バ、バケッド――――!!!! こ、この野郎!!!!」


「馬鹿っ!! 止せ!!!!」



 上空でその様子を捉えたラーキーがハンナの制止を振り切り地上へと急降下。



「放しやがれ!!!! この糞野郎がぁぁああ――――!!!!」



 戦士の雄叫びを放ち、大鷲の鋭い鉤爪でバケッドに絡みつく二本の首に攻撃を仕掛けるが。



「ゴルァァアア――――ッ!!!!」


「わぁぁああああああ――ッ!?!?」


 中央の首から放たれた火炎の直撃を受け。


「……」



 そのまま地面に落下すると一度、二度。


 あの美しき空へ向かって羽ばたこうとして藻掻くがそのまま息絶えてしまった。



 う、嘘だろ!? たった一度の隙を見せただけで二名がそ、即死するなんて……。



「ラーキー!! バケッド!!!! ゆ、許さんっ……。貴様は絶対にぃぃいい!! 許さん!!!!」


「二人の仇を……!!!!」



 ハンナとシェファが地上の惨状を捉えて激昂する。


 二人の体から淡い緑の強烈な光が放たれると立って居られない程の猛烈な風が迸った。



「「あぁぁああ――――ッ!!!!」」


「「「グゥッ!?!?」」」



 前後左右、そして上下。


 あれだけ大きな体の鳥の姿が目で追えない程の飛翔速度で舞い続け、鋭い鉤爪で五つ首の装甲を剥していく。


 だが、それでも……。



「ち、ち、畜生……!! 何で傷付かないんだよ……」



 強固な鱗の装甲は微かに傷付く程度。奴から血の一滴すら勝ち取れなかった。



「ハンナ!! シェファ!! 力を抑えろ!! 無駄な体力を消費するな!!」



 上空で冷静に攻撃を躱し続けているセフォーさんが己の命の炎を消費して飛び続ける二人を制止する。



「殺す!!!! 貴様は……。俺が殺す!!!!」


「二人の仇は私が取る!!!!」



 攻撃の繋ぎ目が見えない素晴らしき連続攻撃は正に圧巻の一言に尽きるが、五つ首はそれを物ともせず憎悪に塗れた十の瞳で二体の飛翔を捉え続け。


 そして……。



「「「ググゥッ……。アァァアアアアッ!!!!」



 己に纏わり付く二人の攻撃が遂に奴の怒りを買ってしまった。



 巨大な体の先に生える五つの各首から光の筋が放たれて巨躯の中央へと向かう。


 五つの光の筋が一点に集約されると地表面の砂が風圧によって消し飛び、空に漂う雲が霧散してしまう衝撃波が生じた。



「う、嘘だろぉぉおお――――ッ!?!?」



 い、一体何をしようっていうんだよ!!!!


 後方に吹き飛ばされまいとして岩に必死にしがみ付き五つ首の様子を窺う。



「「「「「グ、グゥゥゥゥッ……。ゴァァアアア――――ッ!!!!!」」」」」



 五つ首の体の正面に集約された光の筋が巨大な光球へと変化。


 そこから一筋の猛烈な熱を帯びた白熱の光の筋が現れ、五つ首がその熱線を周囲へ我武者羅に振り回しやがった!!



 光線の先端が大地に触れると瞬時に切り裂かれ、地面と平行に薙ぎ払われると俺の身を守ってくれた岩が真っ二つに切断。



「う、うわぁぁああ――――ッ!!!!」



 恥も外聞もかなぐり捨てて叫ぶと地面に伏せて白熱熱線を回避。


 その余波がハンナ達を襲う。



「ぐあっ!?」


「うぐぅっ!?!?」



 直撃こそ免れたものの白熱熱線の威力は凄まじく。両者の翼の羽を瞬く間に焼き焦がしてしまった。


 な、何て威力だ。


 大地に深く刻まれ、呆れた熱量で焼け焦げた地面の底は見えず。熱線の直撃を躱したってのにハンナ達の羽を焼き焦がしてしまうのかよ……。



「くっ、うぅっ……」


「ふぅっ……。ふぅぅっ!!!!」



 二人の魔力が尽きたのか、魔物の姿から人の姿へと変わり地面に片膝を着いて正面に居る五つ首と対峙する。



「ハンナ!! シェファ!! そこから逃げろ!!!!」



 く、くそう!! 二人共動けるか!?


 大弓を担ぎ、両足が千切れても構わない勢いで二人の下へと駆けて行く。



「く、くそっ。私が……。私が二人の仇を取るんだっ!!」



 シェファが震える足を必死に御して立ち上がろうとすると。



「「「ククッ……」」」


「あぁっ!?」



 敢えて威力を抑えた風刃の息が彼女を襲った。


 や、野郎!!!! なぶり殺しにするつもりだな!?



「シェファ!! き、貴様ぁっ!! 里の戦士を愚弄する気か!?」


 怒りに震えるハンナが静かに立ち上がると。


「絶対に……。殺すッ!! 貴様は……。俺が殺す!!!!」


「ッ!?」



 ドクンっと心臓の拍動にも似た音が彼の体から放たれ、復讐の火炎が彼の体から滲み出た。



「ふぅぅうう!! ふぅぅうううう!!!!」



 真っ赤に燃える瞳、悪鬼羅刹も慄く殺意。


 ハンナの突然の変化に五つ首も驚いたのか。



「「「グルゥゥ……」」」



 彼から距離を取り、あの変化に警戒態勢を取った。


 戦いが始まって漸く後退しやがったな!?


 そしてぇ……。勝利を目の前にして相手を良い様に嬲るのは最悪の手って事を教えてやるよ!!!!



 正射必中を心掛けろ……。


 絶対にこの一矢は外さんっ!!



「くらぇぇええ――――!!!!」



 指先一つの動きさえも見せず地面に横たわるシェファの前に立ち塞がり、大弓で五つ首の目を狙い。


 万力を籠めて矢を穿ってやった。



「「「ギャァアアアアア――――ッ!?!?」」」



 よっしゃああああ!! 直撃ぃっ!!


 火炎の息を吐く頭の左目に矢が直撃すると断末魔の叫び声が地に轟いた。


 巨躯を覆う鱗は強固だが目玉までは守れなかった様だな!? このまま全部の目玉を穿ってやる!!



「ダン!? 何をしている!! 下がれ!!」


 真っ赤な瞳で俺を捉えたハンナが叫ぶ。


「お、お前その目は……」



 彼の美しい瞳は朱に染まり、驚きを隠せない表情を浮かべて此方を見つめる。


 ハンナの身に何が起こったのか分からんが今はそんな事を気にしている場合では無い!!



「「「ウ、グゥゥ……」」」



 左側面から数えて二つ目の頭が中央の頭の目玉に突き刺さった矢を抜く。だが、まだ奴はこれまでの体力の消費と初めて受けた痛みで狼狽えている。


 この機を逃して堪るかってんだ!!



「俺が奴の注意を引いている間に攻撃しろ!! 勝機はここしか無い!!」


 大弓の弦を名一杯引き、比較的動きが矮小な一番左の首の右目に焦点を絞った。


「あ、あぁ!! そうだな!!」



 彼が静かに立ち上がると剣を手に取り、静かに構えた。



「舞え、氷結の刃よ……。そして敵を討て……。第三の刃。氷旋斬ひょうせんざん!!!!」



 彼の体から素晴らしい圧が放たれると剣芯に淡い水色が宿る。



「「「ゴォォ……。ウグァァアアア――――ッ!!!!」」」



 ハンナの馬鹿げた魔力の圧に反応したのか。


 左目からかなりの量の出血を見せる中央の首が彼の体を焼き尽くそうとして大きく口を開けた。


 ま、不味い!!



「ハ、ハンナ!! そこから……」



 火炎の息の射線上で力を溜めている彼の背に向かって叫ぶ。



「「「ゴァァアアアアアア――――!!!!」」」



 大地を焼き焦がす熱量の火炎の息がハンナに迫る。


 しかし、彼はそれでもその場から動こうとはしなかった。



 右手で柄を握り締め、相手に背が見える程にまで腰を捻り、只々力を溜め続けそして。



「その程度の火炎で我が刃を受け止められるのか!? 迸れ、我が剣よ。そして……。悪しき心を消滅させろ!!!! はぁぁああっ!!!!」



 素早い所作で剣を振り抜くと真冬が訪れたのではないかと錯覚させる凍てつく冷気が周囲に霧散。


 剣から迸る氷結の刃が火炎の息を切り裂き、中央の頭に直撃した。



「「「ギャァァアアアア――――ッ!?!?」」」



 瞬時に頭部が氷結し、その痛みが他の頭に伝播したのか。鼓膜をつんざく痛烈な叫び声が空気を震わせた。



 す、す、すっげぇ!!!!


 火炎の息を切り裂く処か、頭を凍らせちまったよ!!!!



「「「ウググ……ッ!!!!」」」



 五つ首が痛みから逃れようと四つの首が激しくうねり、俺達から後退して行く。


 この機を逃す手は無いだろ!?



「これは……。ラーキーとバケッドの痛みだ」


 弦を張り詰め、猛毒の息を吐く頭の右目に焦点を絞り。


「その身で受け取りやがれ!! クソ野郎が!!!!」



 刹那に停止した目玉に向かって穿ってやった。



「「「ギィィアアアアアア――――ッ!?!?」」」



 おっしゃあ!! 二射目も命中ぅ!!


 俺とラーキー達の魂が籠った矢は見事右目に突き刺さり、氷結と矢の痛みで五つ首が激しく悶絶。


 その痛みはかなりの効果があったのか。



「「「グ、グ、グゥ……」」」



 体全体を痙攣させ、その場から動こうとはしなかった。



 い、いける!!


 このまま押し通ればれるぞ!!!!



「ハンナ!! 今だ!! 奴が弱り始めた今が……」



 弓を構えつつ彼の背に叫ぶが。



「はぁっ……。はぁっ……」



 先程までの猛々しい圧は霧散。


 己の剣を地面に突き立て、立っているのがやっとの状態になっていた。



「お、おい!! ハンナ!! どうした!?」


「や、喧しい。こ、呼吸を整えているだけだ……」



 あの氷結の刃を放つのに相当の体力を消費しちまったのか!!


 ど、どうする!? 俺一人じゃ全部の目玉を打ち抜けないし、それに……。



「うぅ……」



 まだ息のあるシェファを大地の上に寝かせて置く訳にもいかないし。空で千載一遇の機会を窺っているセフォーさんに彼女を一旦戦場から離脱させて……。



 い、いやいや!! そんな事をしている暇はねぇ!!


 今ここでらなきゃ俺達が逆に殺されちまう!!!!



「ハンナ!! 立て!! ここが勝負所なんだよ!!」


「貴様に言われなくてもそ、そんな事は分かって……」



 自分の不甲斐無さに苛立ちを募らせた彼が叫び、震える足を御して立とうとした刹那。



「「「グォォオオオオオ――――ッ!!!!」」」


 態勢を立て直した五つ首がけたたましい雄叫びを放ち。


「「「シャァァアアアア――――ッ!!!!」」」



 俺とハンナに向かって稲妻の息を吐こうと狙いを定めてしまった。



 く、クソが!!!!


 ど、どうする!?



 俺の足じゃ初撃を回避するので手一杯だし、回避したとしても身動きの取れないハンナとシェファが奴の攻撃の餌食になっちまう!!


 どちらか一方を庇い、戦場から離脱させるのが賢明な判断だよな!?



 このちっぽけな命一つで未来に希望を残せるのなら……。本望だ!!!!



「くっ……!!!!」



 大弓を背負うと地面に横たわり懸命に立ち上がろうとし続けている彼女の体を腕の中に仕舞い込んだ。


 こういう時こそ命を張るのが男って奴だろ!?



「ダ、ダン。私を置いて……。逃げなさい……」


 シェファが険しい瞳を浮かべて必死の形相で俺を睨みつける。


「嫌だね。女の子を置いて逃げるのは男として失格だろ」


「ば、馬鹿!! こんな時に男も女も関係ないっ!!」


「へへ、俺は正真正銘の馬鹿なのさ」



 覚悟を決め、土と傷に塗れた彼女の顔を確と両目に焼き付けた。


 本当は滅茶苦茶怖いさ……。直ぐそこに死が迫っているんだからよ……。


 でも、大丈夫。安心しろ。彼女達さえ生き残っていれば必ずや奴の首を刈り取ってくれるのだから。



「「「ゴォォアアアア――――ッ!!!!」」」



 背から五つ首の咆哮が放たれると彼女の体を力一杯に抱き締めた。


 女を抱き締めながらこの世に別れを告げる。ふふっ、我ながら大した最後じゃないか。


 皆、今まで有難うよ……。本当に世話になったな……。



 背に迫り来る眩い閃光と大地が震える程の圧。


 体に襲い掛かる猛烈な痛みを想像して今の今まで世話になった人達に細やかな別れの言葉を心の中で唱えた。




お疲れ様でした。


現在後半部分の編集作業中ですので、次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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