第二十二話 戦士達の実力
お疲れ様です。
本日の投稿になります。
不退転の意思表示を明瞭に表明して戦場に立ち尽くす我々に向かい、不穏な影が暁の光を背に浴びて刻一刻と接近する。
こちらに向かって近付くにつれて朧に揺れ動く影の姿が確かな物へと変化。
巨大な胴体から伸びる五つの首は獲物を探し求める様に怪しく蠢き、漆黒の鱗からはドス黒い瘴気が溢れて新鮮な空気を侵し、燃え盛る火炎の様な憎悪に塗れた十の瞳が俺達を捉え続けている。
奴から放たれる腹の奥に重く響く膨大な魔力の圧、常軌を逸した殺気で体中の肌が泡立ち。心の奥底に封印した弱気な心が一刻も早く奴の進行方向から逃れよと叫ぶが……。
生憎それは了承出来ない。
我々が引けば里の皆が虐殺され夥しい数の骸がこの大陸に築き上げられてしまうから。
何処までも青く広がる広大な空、豊饒な大地には緑が息吹く。
我々は自然から力と命を頂いて今日これまで生きて来た、己の命を賭してでもこの大陸は守る価値がある。
そう……。死は恐ろしくない。
だが、心残りが無いと言えば嘘になる。
不愛想な俺を労わってくれた里の者達、そして俺を生んでくれた両親には感謝してもしきれない。向こう見ずな俺を気にかけてくれたクルリともっと会話をしたかった。
そして。
「ハ、ハンナ――!!!! 絶対負けるんじゃねぇぞ――!!!!」
いつの間にか俺の心に土足で、無断で侵入してしまった新たなる友と冒険をしてみたかった。
馬鹿なアイツと共に旅をするのは本当に楽しいと思う。
下らない冗談で俺の心を辟易させ、突拍子も無い行動で目を白黒させ、無駄に近い距離感が苛立ちを募らせる。
ふふ、楽しい姿を想像すると何故か負の感情を醸し出している自分の姿ばかりが出て来るな。
想像しただけで笑えるという事は、それだけアイツの存在が俺の心に強く影響を与えているという事に繋がるのだろうさ。
全く……。
これから一大決戦が始まるというのに俺の心を乱しおって。
「五月蠅いぞ!! 激しい戦いになるから貴様は後方待機だ!!!!」
暁の光から後方へと視線を変えて叫んでやる。
「お、おぉう!! 俺は絶対お前達が勝つって信じているからな!? 頑張れよ!!!!」
「分かったからさっさと行け!!」
「ま、まぁっ!! お母さんが折角心配してあげてるのに!! そういう態度を取るのね!? いいわ、分かった。今日の晩御飯は抜きだからね――!!」
最後に下らない冗談を放つと駆け足で後方へと向かって行った。
「全く……。奴の所為で緊張感が台無しだ……」
分かり易い辟易した溜息を漏らす。
「ふふ、その割には嬉しそうだよ??」
右隣りのシェファが正面を見据えたまま揶揄する。
「そ――そ――。ってか、アイツのお陰で緊張が少し解れたな」
「だなぁ。これから命のやり取りをやるってのに……。ふっ、あはは!! は――……。笑わせてくれるじゃん」
「ラーキー、バケッド。陽性な感情を抱くのは構わんが決して気を抜くなよ??」
流石、戦士長殿。
俺が叱る前に緩んだ隊の士気を引き締めてくれましたね。
「勿論理解していますよ――っと。あの常軌を逸した圧を受けて気を抜く奴の気が知れませんって。それに……。もう直ぐ俺達の間合い入りますから」
ラーキーが話した通り、馬鹿げた巨躯がもう間も無く戦闘領域へと侵入する。
つい先程までは単なる恐ろしい影だったが今では奴の鱗一枚一枚を認識出来てしまいそうだ。
「それなら構わん。皆……、作戦は理解しているな??」
戦士長が緊張した口調で俺達に問う。
「全員が空へと舞い奴の目を翻弄する。これは体力と根気が必要になる作戦だ。決して焦るな、武功を求めて逸るな……。俺達は英雄になる為に此処へ来たのではない。俺達の目的は……。奴を倒す、只その一点のみ!!!!」
戦士長が一際強い口調で話すと。
「「「ギィィイイヤァァアアアア――――ッ!!!!」」」
戦闘領域に侵入した五つ首が暁の空へと向かって雄叫びを放った。
いよいよ、決戦が始まる……。ここからは一切気を抜くなよ!? 刹那の油断が死に直結するからな!!!!
弱き自分を完全に追い出し、改めて強き自分を戒めて戦闘に備えた。
「恐れるな!! 戦士達よ!!!! 我々は勝利する為に此処へ来たのだ!! その手を敵の血で染めろ!! 決して敵の生存を許すな!! 勝利の凱歌を奏でる為……、輝かしい命を守る為……。今、ここでぇぇええ!!!! 敵を討てぇぇええ――――ッ!!!!」
戦士長殿が奴の雄叫びに勝る声量で叫ぶと。
「「「「ウォォォオオオオオオ――――ッッ!!!!!!」」」」
俺達戦士が彼以上の魂の叫びを放った。
「さぁ、行くぞ!! 戦士達!! 俺に……。続けぇぇええ――――!!!!」
「「オォォオオオッ!!!!」」
戦士長が魔物の姿に変わり、空へ向かって美しい軌跡を描いて飛び発つと俺達も彼に倣い純粋無垢な空へと飛び発った。
「各員に告げる、自分を標的とする首だけに注意を払え!! それ以外の首の対処は仲間に任せろ!!!!」
隊の先頭を飛翔するセフォー殿が激しい声で指示を出し、地上で構える奴を中心として全員が旋回行動を開始する。
「「「シュルル……」」」
五つ首が粘度の高い液体を纏わせた二又の舌を覗かせ、殺意に塗れた瞳で俺達を見上げる。
俺を捉えたのは……。
「……ッ」
ほぅ、右側面から数えて二番目の頭か。
かなりの速度で旋回行動を続けているのに一切視線を切らずに俺の一挙手一投足を舐めるように見つめている。
「野郎……。もう勝ち誇った様な顔をしやがって」
「あのニヤケ面を叩き潰してやりてぇな」
「気持ち悪い奴。私の事ずっと見ている」
ラーキーは左端の頭、バケッドは左から二番目、シェファは右端。
そして……。
「攻撃に逸るなよ!! 先ずは敵の様子を窺い、隙を見出すのだ!!」
「シシッ……」
戦士長殿は中央の首か。
厭らしく口角を上げてラーキーを見上げ、敵を見下すような目でバケッドを捉え、御馳走を目の前にした様な逸る瞳でシェファを見つめ。
戦士長殿を捉え続けている奴は確固たる殺意を持っていた。
賢鳥会で指南して頂いた通りそれぞれの頭が独自の意思を持っており、各頭は会話をせずともある程度の意思疎通を可能とする。
前回の戦いでそれは立証済みだ。
そして五つ首は空を飛べぬ以上、俺達に対して攻撃を加える為には遠距離攻撃が必要不可欠になる。
地対空の攻撃を躱しつつ敵の隙を見出して空からの雷撃を打ち込み、徐々に敵を弱らせて頭を刈る。
至極簡単な図式にも思えるがその実、ジリ貧な戦いになるだろう。
どちらが先に体力と魔力の底を付くのか。
この死闘の勝敗を決定付けるのはその一点であろう。
鷲の姿へと変わり、只飛ぶだけなら数日間は変わっていられるが……。敵の攻撃を躱し、此方から攻撃を加え、更に殺意と憎悪を浴びせ続けられればそれは叶わない。
もって一日……。いや、半日にも満たないかも知れない。
だが、例え鷲の姿に変われなくとも人の身で奴の首を刎ねてやる。
四肢が引き千切られようとも口で加えた剣で乾坤一擲の一撃を加えてやる。
俺達に敗北は許されない。是が非でも勝利をこの手に収めなければならないのだから……。
「「「「「……」」」」」
風が慄く速さで旋回行動を続けていると、俺達が攻撃してこない事に痺れを切らした五つ首の各頭が徐に口を開いた。
「来るぞ!!!! 備えろ!!!!」
戦士長殿が緊張感溢れる声色で叫ぶと同時。
「「「「「シィィアア――――!!!!」」」」」
各頭の大きな口から想定外の威力の攻撃が放たれた!!
「う、うぉぉおお――!!!!」
万物を氷結させる冷たい氷結の息がラーキーの軌跡を追い。
「あっぶねぇなあ!!」
直撃したら死は免れない毒の息がバケッドを追随。
「……ッ!?」
鋭い剣先を彷彿させる風の刃の息がシェファの頬を掠め。
「くぅっ!?」
戦士長殿には灼熱の火炎の息が迫り。
「ふんっ!!!!」
俺には真下から稲妻の息が襲い掛かって来た。
各頭から放たれる息の威力、速さは報告されていたモノよりも二回り程上回り。
その威力と速さに不慣れな俺達は戦いから一歩遅れる事になってしまった。
あ、危なかった……。刹那にでも視線を切っていたら直撃は免れなかったぞ……。
「初撃は回避する事が出来たけどよ――!!!! あの速さ!! 不味いんじゃないの!?」
尾の先が少しだけ凍っているラーキーが叫ぶ。
「それに威力も聞いていたよりも上。避けられない事は無いけどジリ貧になって負ける可能性も出て来た」
頬から微かに血を流すシェファが戦士長へ問う。
「作戦は変わらん!! この状況下で真正面から立ち向かっても確実に負けるからな!! 先人の知識を信じろ!! このまま避け続ければ必ず光明が見えて来る!!」
「その通りだ!! ハンナ!! まだまだイケそうか!?」
バケッドがいつも通り快活な声で問うて来る。
「勿論だ。今の一撃で速さは見切った。後は……。角度の変化と攻撃時間だ」
先人達の戦いの報告によると息による攻撃は最長数十秒程続くと聞いた。
五つ首から放たれた初撃は威力に任せた攻撃。
恐らく一撃で戦場を制圧しようと考えていたのだろう。その攻撃を俺達は間一髪回避する事に成功した。
ここから導き出される答え、つまり次なる攻撃予測は……。
「戦士長殿!! 恐らく奴は攻撃の威力を絞り、俺達に攻撃を当てて来ようとするでしょう!!」
そう、この予測に行き着くのだ。
当て気に逸り、馬鹿の一つ覚えの様に今の攻撃を続けてくれれば対処は容易いのだが。ある程度の知識を持つ五つ首は愚者の選択はしない。
確実に俺達の息の根を止めようとする攻撃を企てるであろう。
「あぁ!! その通りだ!! 各員、攻撃に備え……」
戦士長殿が警告を放つとほぼ同時。
「「「「「キシャァァアアアア――――!!!!」」」」」
五つ首が俺達へ向けて二度目の攻撃を開始した!!
「うぉおおっ!? こ、この野郎!! 何が何でも俺に当てるつもりだな!?」
氷結の息が空を自由に舞うラーキーの軌跡を執拗に追い回す。
先程は数秒間で攻撃は停止したが、二撃目は此方の予想通り威力を絞り当てる事に特化した攻撃へと変化した。
当然その攻撃は他の者にも襲い掛かる。
「ちぃっ!! どこまでも追って来やがって!!」
「蛇はしつこい生き物」
「くっ!! 威力は抑えられているが持続時間が厄介だな!!」
猛毒、風の刃、火炎。
異なる属性と威力の息が彼等の軌跡を追う。そして俺にも攻撃の手が加えられた。
「キシャァァアア――――ッ!!!!」
雷鳴轟く稲妻の息が放たれると同時。
「ふんっ!!!!」
澄み渡った空の直上へと昇り。
「はぁぁああっ!!!!」
俺の体を穿とうとする稲妻の息を空高い位置で回避。そして体を捻りながら地上へと急降下。
「ぐっ……。ぅぅうう!!!!」
体に襲い掛かる加速度と敵の魔力の余波を浴びながら矮小な石が点在する地面付近へと到達。
地上スレスレを飛翔して敵の真正面から突貫を開始した。
「馬鹿野郎ぉぉおお――!! 真正面から突っ込むな!!」
俺の飛翔を捉えたラーキーが叫び。
「コァァアアアアッ!!!!」
こちらの鋭い動きを追って稲妻の息が正面から襲い背の羽を焦がす。
襲い来る網膜を焼く眩い光の明滅が心に灯る勇気の火を揺らし、背から届く焦げた匂いが心に恐怖という感情の芽を咲かせてしまう。
恐ろしいまでの威力を伴った稲妻の息は戦士の心を容易くへし折る威力を備えている。
少しでも速度を遅らせればこの息の餌食となり俺は帰らぬ人となるだろう。
しかし……。直撃さえ免れればどうという事はない!!
俺は……。里の戦士なのだぞ!? 恐れるな!! 前を向け!!
「これが……。戦士の力だ!! 受け取るがいい!!!!」
五つ首の真正面から左側面へ抜ける間際。
「はぁっ!!」
左足の鋭い鉤爪で五つ首の胴体を切り裂き、速度を保ったまま広い空へと上昇した。
「ギィッ!?!?」
ふっ、やはり俺の予想通りだな……。
攻撃を当てようとして各頭が執拗に追跡してくるが、自分の攻撃を違う頭に当てるのは憚れるのか。各首と攻撃の角度が重なり合うと一旦攻撃の手を止めるのだ。
俺を追うのは右側面から二つ目の頭。
つまり、奴の攻撃範囲の死角へと飛翔して此方が攻撃を加えれば良いのだ。
「成程!! その手があったか!!」
今の一撃を見たバケッドが軽快に叫ぶ。
「あぁ、その通りだ。可能であれば全員が動きを合わせてアイツの攻撃の手を緩めさせたいが……。奴はまだまだ体力が残っている。このまま敵の体力を消耗させ、一気苛烈に敵を殲滅するぞ!!」
「シュアァッ!!!!」
再び襲い来る稲妻の息を空で回避、五つ首の左側面へと移動して奴の攻撃を中断させると。
「ふんっ!!」
俺と同じ要領で戦士長殿が五つ首の右側面の体を鋭い鉤爪で攻撃した。
「ギィッ!?!?」
「ふぅ――……。確かに出来ない事は無いが……。この攻撃方法では奴の装甲を薄皮一枚削るのが精一杯だな」
「えぇ、戦士長殿が仰る通りです」
俺と戦士長殿が攻撃を加えた位置に刻まれたのは微かな擦り傷程度。
腰を入れて雷撃を打ち込みたいが、その隙を狙われたら最後だ。
「よっしゃ!! 俺達が攻撃を引き付けるからハンナと戦士長はその要領で攻撃を続けてくれ!!」
「こう見えて避けるのは結構得意なのさ!!」
「ハンナ、任せた」
ふっ……。軽く言ってくれる。
相手の懐に侵入するのはかなりの労力と勇気を要するのだぞ??
「俺とハンナが引き続き敵を攻撃する!! ラーキー、バケッド、シェファは可能な限り他の首の攻撃を引き付けてくれ!! ハンナ!! それでいいな!?」
「了承しました!! 必ずやあの分厚い装甲を穿ってみせます!!」
「頼もしい台詞だな!! では……。攻撃開始ぃぃいい――――!!!!」
「「「オォォオオオオオオ――――ッ!!!!」」」
戦士から放たれる猛々しい咆哮が美しき空に響き、戦士達の心を熱く鼓舞する。
それは微かな勝利を予感させる物であるがまだ確固たる勝利は遥か先の頂に存在する。
僅かな間違い、微かな油断、許し難い驕りが生じれば勝利への道は閉ざされ惨たらしい死が己が身を襲う。
骸に成り果てて地面に墓標を築くのか、将又勝利を手中に収め友と共に勝利の凱歌を奏でるのか。
それは俺達の行動如何に委ねられているのだ。
決して緊張の糸は緩めぬ、決して闘志の炎は絶やさぬ!! そして必ずや貴様の命を此処で葬る!!!!
身が竦む恐怖が襲い来る中、俺は最大限にまで集中力を高めて空に美しい軌跡を描き。輝かしい勝利が待つ頂きへと目指して勇猛果敢に五つ首へと突貫を開始したのだった。
お疲れ様でした。
先日ダウンロードした地球防衛軍6の追加コンテンツなのですが……。
相変わらず難し過ぎてクリア出来ていないのが現状ですね。空から襲い来る痛過ぎる青蜂の攻撃、地上からぶっかけられる青蟻の酸。
もう正直勘弁して下さいってのが本音です。
アーマー値が圧倒的に足りないのは自負していますが、そこを腕でカバーするのがEDF隊員だと思うんですよねぇ……。もうちょっと上手く扱えるように頑張ります。
それでは皆様、お休みなさいませ。