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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第十八話 戦士達の休息日 その二

お疲れ様です。


週末の深夜に後半部分の投稿をそっと添えさせて頂きます。




 心躍る楽しい遠出には持って来いの温かな光が頭上から降り注ぎ体を温めてくれる。空高い位置に居るってのに光の強さのお陰で寒さは微塵も感じ無い。


 いつもは俺達の視界を妨げる雲はどうやらお休みのようで?? 本日の空模様は嘘のように晴れ渡っていた。



「ふぅ――。風が気持ちいいや」



 俺の頬を優しく撫でて通過して行く風の感触が大変心地良く、五感の内の一つ。触覚に神経を集中させる為、静かに瞳を閉じた。


 白頭鷲の大変触り心地の良い羽がお尻ちゃんを喜ばせ、いつもとは百八十度異なる優しい速度の風が日頃の疲れを拭い去ってくれるようですね。


 一際強い風がビュゥっと鳴り響くと同時。



「ダン――!! 見えて来たよ――!!」



 巨大な白頭鷲と並んで飛ぶ小柄な鷲が俺に向かって叫ぶのでそれにつられて瞳を開けた。



「おぉっ!! あれがカスピオ山か!!」



 今がどれだけの高度で飛んでいるのか不明瞭だが、俺達と同じ高さの目線に山の頂がある。


 三百六十度に広く裾野が広がる形状で山の麓には広大で緑豊かな森林が広がっていた。


 遠い昔、人々は自然を神と例えて信仰していたと聞く。俗に言う自然崇拝って奴だ。


 これだけ立派な山を見つめると遠い昔の彼等が自然を神として崇めたのも強ち間違いじゃないのかもと考えさせられるよな。



「山の麓に薬草があるから――!! 私について来て――!! シェファちゃん!! 降りようか」


「分かった」



 普通の大きさの鷲がもう一頭の有り得ない大きさの大鷲へ話し掛けた。



 クルリの大鷲の姿は初めて見るな……。


 両翼の翼は全体的に黒っぽい色をしており、翼の上部や可愛い尾っぽの一部は白い。


 大変立派な嘴は黄色く、逞しい筋肉を備えた両足の先にある足も黄色い。白頭鷲の彼と同じく鋭き瞳を持ち、今もその瞳で近付いているカスピオ山を捉え続けていた。



「なぁ、ハンナ。シェファもかなりの大きさだよな」


 フッサフサの羽を大変やさし――く撫でつつ話す。


「あぁ、俺と同じ古代種の血を引くからな。後、勝手に羽を触るな」


 もう、俺とハンナの仲なのだからちょっと位なら触ってもいいじゃない。


「男性と女性で羽の色が違うとかはないの??」



 里の戦士であるラーキー、バケッド、シェファは同じ大鷲って言っていたし。


 大鷲の魔物の姿を見るのは初めてだったから気になっているんだよね。



「男女で大差は無い」


「って事は同じ羽の色か」



 空高い位置から螺旋の軌跡を描いて地上へ降りて行く大鷲の羽を見下ろしつつ呟く。



「人間の姿と同じ様に大鷲の時も大きさ等個体差が見られる。それを見分けて声を掛ける事だな」


「了解――。ってか、俺達も降りようぜ?? 置いて行かれちまうよ」



 相棒と仲睦まじく会話を続けていると二人の姿はもうやっと視界が捉えられる範囲の限界まで高度を下げてしまっていた。



「了承した」


「分かっていると思うけど……。ゆっくり降りろよ!? 俺は今!! 確実にそう言ったからな!?」


 コイツの場合、ここでしつこい位に釘を差しておかないと絶対いつも通り有り得ない速度で下降しちゃうもん。


「それは……。聞けぬ相談だなっ!!!!」


「バ、バカ野郎!! 九十度は駄目だっていっつも言っているだろうがぁぁああ――!!」



 案の定、横着な白頭鷲は俺の慎ましい願いを完全完璧に無視すると緑広がる森へと向かって急降下を開始。



「キャァァアアアア―――――!!!! 落ちるぅぅうう!!!!」



 こちらも毎度御馴染女々しい叫び声を放ちつつ羽にしがみ付き。



「ふんっ!!」


「おぶげっ!?」



 ハンナが巨大な翼を開いて速度を相殺させると硬い地面に勢い良く投げ出され体中に味わいたくも無い痛みを感じ取ってしまった。



「こ、この野郎っ!! いい加減に学習しやがれ!!」



 森の中に出来た広い空間に佇む白頭鷲の黄色い爪先を思いっきり蹴飛ばしてやった。



「あはは!! 相変わらず仲が良いわね――」



 既に人の姿へと変わり、開けた空間と森の境目に生えている草を採取しているクルリが軽快に声を上げる。



「降りる度に生死の境を味遭わなきゃいけないこっちの身を考えろって……。んで?? それがお目当ての品かい??」


「そうそう。この森のこの辺りにしか生えていなくてねぇ……」



 クルリがそう話すと肩から掛けている鞄に刈り取った薬草の束を静かに入れる。


 鼻をスンスンと動かして嗅覚を強めると、彼女の診療室で嗅いだ事のあるあの独特のキツイ匂いを捉えた。



「そのやたら目立つ緑の薬草の名前は??」



 余り長い間嗅いでいると鼻の粘膜をヤられてしまう恐れがあるので可能な限り口呼吸に頼って息を吸い込んで尋ねた。



「あ、これ?? 消し去り草だよ」



 また色んな意味に捉えられそうな不吉な名前の薬草だな……。



「多分、だけど。痛みを消し去るって意味で合っているよね??」



 緑豊かな森の中で腕を組み、訝し気な表情を浮かべてそう問う。



「よ、よ――しっ!! 薬草の採取は終わったから山の麓まで行こう!! その近くに温泉があるからねぇ――!!」


「あ、おい!! 人の質問に答えてから行きなさいよね!!」



 陽光差す素敵な森の中へ向かって慌てて進んで行く彼女の背に叫んでやった。



「ダン、細かい男は嫌われるよ??」


 シェファがちょいと目元を尖らせて話す。


「俺の体に塗りたくっている草が劇物だったら洒落にならないでしょう??」


 俺は至極真面な質問をしているだけなのです。


「安心しろ。クルリの薬の知識は豊富だ。間違いは滅多に起こらん」


「その滅多に起こらない間違いが偶発的に俺の身に起きたらどうするんだよ……」



 彼女の背を追って進み始めた二人に続き、素敵な空気が漂う森へ歩みを進めた。



 ふぅん……。こっちの森も中々良い場所じゃないか。


 背の高い木々が生え揃う南の森と比べて普遍的な高さの木々が生え揃い、枝と枝の間から心安らぐ木漏れ日が大地の緑を優しく照らしている。


 鼻腔を優しく擽る緑の香り、肌にしっとりと吸い付く清らかな空気。そして野生の鳥達の澄んだ歌声。


 この森は大変素敵な環境が広がっていると体はそう判断するが……。こっちの大陸に渡って来てから何事にも疑り深い心は。


『安心するのは時期尚早だ』 と。


 猜疑心に満ちた瞳を浮かべて周囲を窺っていた。



 南の森にはとんでもなく強い兎さんがいたし、この森にもあの超生命体に匹敵する生物が存在しているのかも知れない……。


 油断は禁物だぞ。


 列の最後尾でおっかびっくり周囲の様子に細心の注意を払っていると、俺の心を見透かしたのか。



「安心しろ。この森には暴兎の様な危険生物は生息していない」


 ハンナが逞しい背中越しに言葉を発した。


 普通なら友人の一言にホッと胸を撫で下ろす場面なのですが。


「お前さんの安心は安心出来ないんだよ」



 相変わらず鋭い瞳の色を浮かべて周囲に注意を払い続けていた。



「うん、中々良い足捌きだね」


 シェファが静かに振り返り俺の足元を見つめて話す。


「あ、これ?? 夜鷹のハインド先生から教えて貰った足捌きだよ。何でも?? 森での隠密行動の極意は木と同化する事なんだってさ」



『いいか!? お前達!! 生を感じさせる音を一切生じさせるなっ!! 木と同化、森と心身共に一体となる事を心掛けろ。これは鉄則だ!!』


『あ、はい。耳にタコが出来る程にそれは聞かされているので分かっていますけど……』


『それなら結構!! では次に……』


『いやいや。せめて姿を現して指南して下さいよ』



 ハインド先生は中々姿を現してくれないから本当に森と対話を続けている様な気がしたんだよね。


 森の木々との会話も面白いとは思うけども、喋る木なんて世界中どこ探しても見つからないし。


 自分の有り得ない妄想と夜鷹とのかくれんぼの訓練の光景を思い出していると。



「あの先が温泉だよ!!」


 列の先頭を行くクルリから発せられた陽性な声が静かな森の中にこだました。


「おぉっ!! すっげぇ良い場所じゃん!!!!」



 背の高い山の頂へと向かってなだらかな傾斜が続いている地面を進んで行くと森の木々が減少。


 その先に現れた細い木々に囲まれた広い空間の中に心が湧く白き湯気がまるで妖艶な踊り子の様な嫋やかな動きを見せて俺達の手を誘う。


 清らかな空気が漂う森の空気は温泉特有の硫黄臭に侵され、独特な匂いが鼻を突くが周囲の風光明媚な景色と心に湧く陽性な感情によって少しも気にならない。


 いや、寧ろこの場に酷く誂えた香りとでも言おうか。



「この温泉は私のお父さんとその友達が地面を削って、岩と石を敷き詰めて造ったんだよ」



 なだらかな斜面から平坦になった場所で大きな風呂敷を広げつつクルリが話す。



「へぇ……、そうなんだ。これだけ立派な温泉だ。かなりの労力を割いただろうね」


「あはは、それがさ。お父さん達は直ぐにでも浸かりたかったらしくてね?? 一か月も掛からない内に完成させたんだって」



 人間も魔物も己の欲を満たす為には多少の犠牲も厭わないってか。



「よっぽど温泉が好きなんだな」


「時間を見付けては友達とか、お母さんと一緒に浸かりに来ているし。さぁ!! 皆さん!! 御風呂の前にご飯を頂きましょうか!!」



 温泉好きの娘さんが風呂敷の上に置いたお弁当の前で仰々しく両手をバッと開く。



「大賛成さ!! ほら、ハンナ。食おうぜ!!」


「そんなに大きな声を出さぬとも聞こえている……」



 我が相棒の肩を景気良くパチンと叩き、大変美味しそうな匂いと視覚効果を生み出しているお弁当の前に座った。



 うぉぉ……。すげぇ、本当に美味そうじゃん。



 今俺達がお尻を着けているカスピオ山も思わず嫉妬してしまう程に立派な三角形を誇る白米のおにぎり、胃袋がキャアキャア騒いでしまう綺麗な焼き目の入ったお肉、そして葉野菜と大根の漬物が脇を飾る。


 これぞ正しくお出掛けの食事に適したお弁当を前にすると口内に涎がジャブジャブと溢れ出て来やがった。



 自分以外が作ってくれた料理を食べるのは久々だなぁ……。


 横着な白頭鷲と行動を共に続ける限りこんな僥倖は滅多に訪れないだろうし、しっかりと味わいましょうかね!!



「時間が無かったから余り上手に作れなかったけど……。皆の口に合えば良いかな」


 クルリがえへへと笑いながら俺達に箸を手渡していく。


「いやいや、見事なもんだよ。そうだよな?? ハンナ」


「戦士の体作りに必要な栄養が全て揃っているが……。可能であればもう少し肉を多めに入れて欲しかったな」



 またこの子は……。素直に相手を褒める事が出来ないのかしら??



「お母さんは貴方をそんな子に育てた覚えはありません。クルリちゃんが頑張って作ってくれたのよ?? ちゃあんとお礼を言いなさいっ」


 子供の横着を咎める母親の口調で早くも焼き目が美しい肉を己が取り皿に収めてしまった白頭鷲にそう言ってやった。


「ダンの言う通り。ハンナはもう少し恋人を褒めるべき」



「べ、別に付き合っている訳では無いぞ!?」


「そ、そ、そうだよ。シェファちゃん。私達は幼馴染であって、そのぉ……。うん。そういう関係じゃあないんだし」



 おやおやぁ?? これはこれは……。


 思春期真っ只中の男女間における甘酸っぱい関係を匂わせちゃってぇ。


 シェファの何気ない一言が彼等の太くも甘く切ない関係を露呈させてしまった。



「あるれぇ?? 俺もてっきり二人は付き合っているかと思っていたんだけどぉ??」



 こういう時は外野がちょいちょいと背中を突けば案外上手くいくもの。


 そう考え、戦士らしからぬ頬の染め具合を見せているハンナを揶揄ってやった。



「や、喧しい!! 俺は食うぞ!!」


「あ、こら!! 御飯を食べる前に礼を述べなさいっていつも言っているでしょう!?」



 男らしく肉に齧り付いた彼へ向かって叫んでやる。



「そ、それじゃあ私達も頂こうか。頂きま――す!!!!」


「頂きますっ!!!!」



 正直じゃない戦士よりも更に頬を朱に染めているクルリの声を合図に素敵な昼食会が始まった。


 先ずはおにぎりさんを頂きましょうかねっ。


 麗しい輝きを放つ三角の頂点に優しく齧り付くと……。



「はぁっ……。この瞬間が堪らねぇ……」



 御米本来の優しい甘味が口内に広がると日々の厳しい農作業の労力が報われる気がしますよ。


 丁度良い握り具合とちょいと強い塩気が汗を失った体に嬉しいね。



「んっ……。美味しい」



 シェファもどうやら大層気に入った様で??


 いつもは無感情にも映る瞳の色が新しい生き物を見付けた時の子供の様にキラッキラに輝いていた。



「良かった、口に合って。ハンナ、どう?? 美味しい??」


「あ、あぁ。悪くない……」



 好物のお肉を咀嚼しつつハンナがいつもと変わらぬ口調で答える。


 あはは、コイツ……。口調は冷静にと努めているが、その実。滅茶苦茶喜んでいるな??



 相棒と一つ屋根の下で暮らし始めて気付いた事がある。



 不躾で横着な白頭鷲ちゃんは美味しい物を食べた時、又は本当に嬉しい事があると青い髪がフワァァッっと盛り上がる癖があるのだ。


 それは魔物の姿の時にも見られ、俺がさり気なく彼の毛の艶を褒めた時に頭部の毛がフワっと逆立ったのです。


 体に染み付いた濃い癖は隠そうとしても中々隠せないからねぇ……。


 その事をクルリも知っているのか。



「え、えへへ。良かった」



 彼の髪の盛り上がり方を見付けると本日一番の笑みを浮かべた。



「んっ、この肉は何??」


「それは野兎の肉だよ。御隣さんが御裾分けでくれたんだ」


「ハンナ、もう少し味わって食えよ……」


「喧しい。俺は体を作る為に食わねばならぬのだ」



 自然溢れる環境の中に人と魔物の陽性な会話と笑い声が響く。



「「「……??」」」



 普段は鳴る事のない音を捉えた森に住む動物達が何事かと考え足を止めて、警戒心を高めるが。



「あ、ハンナ。口に米粒付いてるよ??」


「むっ……」


「違う、こっち……。ほら、取れたでしょ??」


「あ、あぁ……」


「わはは!! おいおい!! 恐れを知らぬ戦士が米粒取られただけで顔を真っ赤に染めるなよなぁ――!!!!」


「や、喧しいぞ!!」



 異物達が奏でる音は我々に危害を与える物では無いと判断するとその場から立ち去って行った。


 天然自然の中で奏でられる思考と感情を持つ生物達の音は暫くの間、鳴り止む事は無く。全てを受け止める大らかな森と山が顔を顰めるその時まで続けられたのだった。



お疲れ様でした。


次の御話で日常パートが終わり、いよいよ禽鳥の国編の終盤へと突入します。


気合を入れてそのプロットを執筆しているのですが……。最後の最後をどうしようかなぁっと考えている日々が続いております。




先程、といっても数時間前の話なのですが。何気なくスマホを弄っているとなんと……。地球防衛軍のダウンロードコンテンツが配布されている事を知ってしまいました!!


早速ダウンロードしてプレイしたのですが……。いやいや、あの青い蜂、強過ぎでしょ。


難易度はインフェルノでプレイしているのですがあっと言う間に体力を削られて負けてしまいましたよ。もう少しアーマー値を鍛えてリベンジしましょうかね。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!!!!


ブックマーク三百件に達しましたのなら日頃の感謝を籠めて後書きにて、現代編の彼等の日常パートを執筆しようかと考えております。


ささっと書く予定ですので余り深く考えないで御覧頂ければ幸いです。



それでは皆様、良い週末をお過ごし下さいませ。


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