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第二話 数多蠢く意思を持った生物達 その二

お待たせしました!! 本日の投稿になります!!


ごゆっくり御覧下さい。




「ねぇ!! 御飯食べに行こうよ!!」


「えぇ――。まだお腹空いていな――い」



 悪戯に鼓膜を刺激する人間達の耳障りな会話。



「おっとぉ!! ごめんねぇ!!」


「此方こそ!!」



 主要道路を行き交う馬主達の軽快な声と蹄の音。



 何処に視線を送っても必ずといっていい程、人の姿を捉えてしまう。


 流石に空へ視線を向ければ美しい青のみが映るけどね。人は空を飛べる訳じゃないし。


 空を飛べる知り合いは居るけども、アレは人間じゃあないか。



 アレクシア達、元気にしてるかなぁ。


 機会があれば蜂蜜を奪いに行こう。


 空に浮かぶ大自然の切れ端を眺めていると憤りが霧散するかと思いきや。逆の結果に至ってしまった。




 はぁ――……。


 うっっっっとぉぉおおしぃいいいい!!!!



 何なの!? コイツら!!


 私の行く手をずぅっと阻みおって!!



 西門から初の王都潜入を果たしたものの……。幾重にも重なった人の壁によって自由な歩行は妨げられ、道路に出て追い抜こうとすると。



「お姉さん!! 御免ねぇ!! そこ、馬達が通る場所だからぁ!!」



 おっと。


 交通整理を行うあんちゃんに釘を刺されてしまった。




 前を歩く人間達の速さが紫陽花の上を這うナメクジ級に遅いから抜かそうとしているのに。


 何で追い抜かす事が叶わぬのか、甚だ疑問が残るわね。


 まぁ……。


 道沿いに立ち並ぶ店先に並べられた品々が丁度良い暇つぶしになるから幸いだけども……。



 母さんやい。


 良くもまぁこの街に意気揚々と出掛けられたわね??


 私の服やら、自分の気に入った服を時折出掛けては満足気な顔を浮かべて持ち帰って来たし。


 大陸を渡ってでも服を買いに来るその根性。素直に尊敬するわよ。




『ほっほ――。この服屋の品揃え、良さげじゃない??』



 先頭を歩くユウが店先に並べられた見本として飾ってある服を見つめる。



 御免、多分。


 この服ユウが着たら胸がエライ事になるからお薦めはしないわよ??


 胸元が開いて作られていないのに、バルンッ!! っと開いた作りになっちゃうから……。



『駄目です。主要大通り沿いの店は値段が張るとレイド言っていました。購入するのであれば、南西区画。或いは南東区画が狙い目だそうです』


『よぉ、カエデ。なんでそこが狙い目なの??』



 真正面から向かい来た姉ちゃんを避けつつユウが念話を送る。



『集客が望める大通り沿いの店は場所代が高くつきます。そして、集客が望めない人通りの少ない場所であれば安くなる。つまり、土地代を加味すれば品が安くなると考察出来ますからね』



 あぁ、そう言う事。



 それは当然、御飯にも当て嵌まる訳だ。


 この通り沿いの飯屋は高く、そして裏通り。若しくは人気のない場所は安いのか。


 参考になったわ。



『でもさぁ……。この人の多さは流石に堪えるよな。おっと、御免よ――』



 ユウが顔を顰めつつ、ぎょっとした顔を浮かべる兄ちゃんを難なく躱す。



 今の兄ちゃん。


 絶対ユウの胸を見てビビっていたわね。



 有り得ねぇって顔していたもん。



『同感です。これならまだイスハさんの所の稽古がマシに思えますよ』


『その辺の一人や二人の人間をぶっ飛ばせば、私達に道を譲るんじゃない??』



 恐れ戦き、私達に道を譲る人間共か。


 はっはぁ――。


 随分と気分が良い光景じゃあないかね。


 だが、まぁ……。それは不可能ね。



 人間に捕縛されたら御飯が食べられ無くなっちゃうし。



『目立つ行為は止めろって言われたろ??』


『わ――てるわよ。冗談だって。――――――――。カエデ、どうしたの??』



 ユウの直ぐ後ろを歩いていたカエデが可愛いあんよを止め、古ぼけた店の前でじぃぃぃぃっと中の様子を窺い始めた。



『え――っと、何々?? 本屋じゃない』



 店先に立て掛けられている看板には。



『西大通り書店』 と簡素に書かれていた。



 その脇に並ぶ文字には、あなたに新作を――やら。


 初夏に相応しい恐怖体験を是非この一冊で!! 等々。



 人の興味を引く様な文字の羅列が描かれていた。



『カエデ、気になるのですか??』



 蜘蛛がカエデの隣に立ち、彼女の視線を追いつつ話す。



『気になる』



 欲しがっていた玩具を強請り、母親が子供の腕を引っ張ろうが。売り場から決して離れようとしない子供みたいな目を浮かべているわね。



 カエデは本が好きだものねぇ……。


 そりゃあ大好物が目の前に置かれたら誰だって足を止めようさ。


 私でもおにぎりやらパンやら。ユウの母ちゃんの手作りスープを置かれたら必ず足を止める。


 だけど!!



『カエデ!! 後で付き合うから、今は御飯を食べて力を付けるのよ!! もう直ぐ中央屋台群に到着するから!!』



 そう!!


 魅惑的な香りが徐々に近付いて来ているのを私の鼻が捉えてしまったのよ!!



 目測……。じゃあないな。


 鼻測で後ニ十分足らずで街の中央部分に到達する予定だ。


 ここで足を止める訳にはいかぬ。


 腹が減り過ぎて己の苛立ちを誤魔化す為。その辺に掃いて捨てる程居やがる人を襲う前にも、移動を開始する必要があるのよ。



『分かりました。後で寄ります』



 ふん、す……。っと。


 大変悲し気な鼻息を漏らして、先頭を歩くユウに続いた。



 今の物悲し気な顔。


 流石に気の毒ね。後でちゃんと付き合おう。


 私も友達付き合いが上手になって来たものさ。




 苛立ちと焦燥感を抱かせる速度で進んでいると、左手にぽっかりと開いた空間が出現した。




 だが、その空間には男女達が犇めき合い。この通りよりも移動が困難であると傍から見ても容易に察してしまった。


 そして、そのずぅっと後ろに立派な銀の支柱の上に乗り。今も正確に時を刻み続けている大きな銀時計を視界が捉えた。



『あれが……。レイド様が仰っていた、銀時計ですか』



 昨晩。



 街道を逸れ、何処まで続く平原の上で焚火を囲みながらボケナスが言っていた言葉が頭の中を過って行く。



『西大通りをずぅっと進んで行くと、立派な銀時計が見えて来る。それが見えたらもう直ぐ街の中央に到着する合図だと捉えて貰っても構わないよ』



 ふぅむ。


 ボケナスが話す通り、立派な銀時計ね。


 その下で蠢く男女は余計だけどさ。



『なぁ。やたら若い男女が目立たない?? あそこ』



 広場の前を通過しつつユウが話す。



『そうねぇ……。二十代から三十代の男女が多いのは理解出来るけども……』



 彼女達、又は彼等は昼間だってのに何やらワクワク感を満載した顔で会話を交わしているのだ。



「ねぇ!! 君達暇!?」


「えぇ――。どうしようかなぁ――」


「御飯食べに行こうよ!! 俺達が奢ってあげるからさ!!」


「本当――?? 嘘付いたらヤだよ??」



 けっ。


 飯に釣られて……。やっすい女め。


 私は初対面の男に飯で釣られる程安くはないっ!! うむっ。断言出来るわ。



 明るい空の下に似合わない下らねぇ空気から逃れ、もういい加減この速度で歩き飽きたと辟易していると……。


 急にその動きが止まってしまった。



『あいたっ。ちょっと、ユウ。急に立ち止まらないでよ』



 ユウの逞しい背中に鼻頭をぶつけちゃったじゃん。



 ――――。


 ってか。ユウの匂いってすっげぇいい匂い……。刹那に接触しただけだってのに、御鼻ちゃんがもうお代わりを所望しているし。


 もう一回さり気なくぶつかってみるか??



『いや……。止まらなきゃいけない理由が出来たから止まったんだよ』



 信じられない。


 そんな瞳で真正面を見つめるユウが話す。



『理由?? それは一体……』



 彼女の脇を抜け、人の隙間から正面を覗き込むと…………。



「いらっしゃぁあああい!! 当店自慢のパンを食っていきなよ!!」


「初夏に相応しいさっぱりとした果実の飲み物!!!! お薦めですよ!!!!」


「疲れた時はコレ!! そう!! あまぁぁい砂糖菓子さ!! 舌が蕩けて泣いちゃうよ!?」



 グルんっと湾曲した道路の向こう側に素敵で、麗しい、この世の楽園が待ち構えていた。


 無数の木製の屋台が立ち並び、その輪の中を人が蠢きながら流れている。



 此方から歩いて来た七割の人はアレの中に入るのを遠慮してか、将又目的地が違うのか知らぬが。円の外周を沿う様に左右へと流れ、残りの三割はアノ蠢く波へと突入する為。


 真正面で今も汗を流しつつ、馬の往来を整理している兄ちゃんの指示を待ち続けていた。



 街のド真ん中にこ、こんな楽園を作りおって。



 そりゃあ、馬車達も困惑するだろうさ。


 あれを回避して態々迂回しながら東へ、北へ、南へと向かわなければならないのだから。



『すっげぇ人。あたし達、今からあそこに突入しなきゃならないのか??』



 熱気がムンムンと溢れ続ける波を見つめながらユウが話す。



『わ、私は今直ぐにでも駆けつけたいわ!! あぁ……。早く、馬を止めなさいよ……』



 気が付けば道路と歩道の境目に立ち、最前線で突入準備を整えていた。



「すいませ――ん!! 止まってくださぁい!!」



 さぁ……。


 素晴らしい戦いの幕開けよ。



「皆さん!! どうぞ、お進みくださ――い!!!!」



 交通整理のあんちゃんからお許しの声が放たれた刹那。


 私は誰よりも機敏に行動を開始し、道路を一瞬の内に横断し終え。


 屋台の店主達と人が繰り広げる熱き戦いへと身を投じた!!



『ぎぃぇ!! お、おいおい!! すっげぇ熱気だな!!』



 ユウが叫ぶのも理解出来るわね。




 方々で立ち昇る店主達の声。


 そして、屋台群から迸る馨しい香り。


 あ……。はぁっ…………。


 駄目ぇ。


 頭が蕩けちゃうぅ……。



 まだご飯を食べてもいないのに体が満足しかけてしまったわ。



 全く。


 母さんめ。



 この素敵な天国を教えてしまったら私がいつまでも帰って来ないと考え、この歳になるまでだんまりを決め込んでいたのか。


 それとも何か!?


 あんにゃろうは自分一人でここを満喫していたのか!?



 許すまじ。


 愚かな母親め。いつか私の逆鱗に触れた事を後悔させてやる……。


 まっ。


 当然返り討ちにされるから出来ないけどね!!



『よぉ。どの店にするか決めた??』



 むっ。


 私とした事が……。



『まだよ!! 今、私を誘う悪い子ちゃんを捜索中なの!!』



 数多溢れる香りの中にひっそりと身を隠す悪い子の尻尾を探す。



 この香りはぁ……。甘くて馨しいけど、ちょっと違う。


 醤油が焦げた香りも捨てがたいけど、なんか違うわね。



 くそう……。


 どこにいるのよ!! 私の探し求めている悪い子ちゃんは!!




『早くして下さい。暑くて死んじゃいそうです』


『その通りですわ。男共の視線が鬱陶しくて、苛々しますし』



 軟弱者二人の意見は無視!!


 今は私の嗅覚と直感を信じるのよ!!



 さぁ……。御出でなさい?? 悪い子ちゃん……。



 円状。


 左右に挟まれた屋台の合間を流れる人の流れに乗って、嗅覚を最大限に活用していると。



『う、うんぬぅううううう!!!!』



 き、き、来たぁぁああああ!!


 遂に私の願望を叶える悪い子の香りの尻尾を捉えたわよ!!



『びっくりしたなぁ……。もうちょっと静かに声を出せよ』



 ふん。


 これが声を出さずにいられるかっての。



 油と……。うん。大蒜さんの香りだ。



 人の波を華麗に避けつつ、その香りの下に到着した。



「いらっしゃい!!!! 暑い季節に負けるな!! 当店自慢の唐揚げを是非どうぞ!!」



 唐揚げ……。


 ふぅむ……??


 初めて聞く名ね。



 油で何かを揚げるのか??



 白の鉢巻きを額に巻いた店主の手元に視線を送ると、一口大に切り分けられた肉を……。


 フツフツと煮え滾る油の中に投入するではありませんか!!



 成程ぉ!!


 カラっと揚げるから唐揚げかぁ!!



 屋台の前には既に十名程の人の列が出来ているので、その最後方にキチンと並んだ。


 ふっ。


 今の所作、玄人ならではの機敏さだったわね。



『あのな?? あたし達を置いて行くのはどうかと思うぞ??』


『へ?? あ、あぁ。御免。夢中になっていたら、つい』



 額に汗を浮かべ、むぅっと顔を顰めているユウに謝意を述べた。



『ふむ。唐揚げですか。うん、いい匂い』



 小さい御鼻ちゃんをクンクンっと可愛く動かして匂いを嗅ぐその姿。


 ほら、今通過していった男が見惚れていたわよ?? 



 隣にいた彼女らしき人に誰を見ているのよ!! って怒られているし。


 カエデも罪な人よねぇ。



『レイド様はご所望されるのでしょうか??』


『あぁ、どうすんだろ。聞いてみれば??』



 ユウが一々反応しなくてもいいのに、蜘蛛に返事を返す。


 無視しなよ。


 ――――――――。


 虫なだけに……。



 今の言葉、後でユウに話そう!!


 絶対笑ってくれそうだもん!!




『では……。こほんっ。レイド様っ。今、どちらですかぁ??』



 あっめぇ声と共に、御主人様に遊びを強請る子猫みてぇな鳴き声で念話を送る。



 きっしょっ!!


 てめぇの声も私の頭の中に響くんだ。ちょっとは遠慮しろい。



『今、宿屋を探しているよ……』



 うん??


 何だか、声に覇気が無いわね。


 気の所為か??



『よぉ、レイド。どうした?? 声に元気が無いぞ??』



 ユウも私と同じ気持ちを抱いたのか。


 相手を労う声色で問う。



 こういう優しさはユウの取り柄よね。素晴らしい限りだわ。



『あ、あぁ……。ちょっと与えられた仕事の量が多くてね。宿はもう取ったから。そこで早速仕事を進めるよ』



『そっかぁ。じゃあ、あたし達は適当に散策して、御飯を食べてからそっちに向かうなぁ!! お土産買っていくからぁ!!』


『了解。近くまで来たら教えて。迎えに行くから……』



『――――――。だとさ』



 やれやれ。


 そんな感じでユウが話す。



『体力馬鹿のアイツが辟易する仕事量って……。一体どんな量なのよ』



『さぁ?? カエデ。レイドは今、どの辺りにいるか分かる??』



 クルリと振り返り、ふぅっと。


 額に浮かぶ汗を白のローブの袖で拭う彼女に問うた。



『少々お待ち下さい。すぅぅ…………。ふぅ――…………』



 瞳を閉じ、集中力を増してボケナスの力の波動を掴み取る。



『…………。居ました。街の南南西ですね。主要大通りから少し入った位置に居ます』



『ふぇ――。すげぇな。集中するだけで力を掴み取れるなんて』



『イスハさんの所で鍛えた御蔭と、レイドが強くなっている御蔭です』



 カエデが強くなっているのは理解出来るけども。


 アイツが強くなっている、か。


 今一掴めないわねぇ。


 出会った頃からずぅっと私の圧勝だし。


 まっ!! 多少は認めるわよ?? 私の攻撃を真面に食らっても生きているもん!!



 中々いないわよぉ?? 私が全力でぶん殴って原型を留めている野郎なんて。



「お待たせしました!! お嬢ちゃん達!! 何個お求めで!?」



 時は来た!!


 待ち望んでいた店主の声に、ボケナスの顔なんか速攻で霧散してしまった。



 唐揚げは一袋に五つ入っている。


 ユウ達の分を合わせて四袋だから……。



「っ!!」



 私は威勢良く、五本の指をバッ!! と広げてやった。



「五つだね!! 毎度あり!! 直ぐに揚げちゃうからねぇ!!」



 うむっ!!


 宜しく頼むわ!!



 特濃で黒いタレに漬け込んだ一口大に切り分けた肉さんを指で掬い上げ、白い粉を纏わす。


 あの粉は……。



『あれは小麦粉です。小麦を粉末状にした物で栄養価も高いですね』



 ほぅ。


 小麦粉を纏わせて揚げるのか。


 勉強になるわね!!



 白いドレスを身に纏い、いざ!! 舞踏会場へ!!


 お肉さんが沸々と煮える油の中に身を投じた瞬間。



『あっ……。ふぁぁっ……』



 頭がそして、体が蕩ける音が奏でられてしまった。


 ジュワァっと弾ける油の音と、風に乗ってふわりと届くすんばらしい香り。


 駄目。


 見ているだけで腰が砕けちゃいそう……。



『あのお肉は鶏肉ですね』


『鶏肉を揚げた奴なら食べられそうだな!! うん、いい匂いだ!!』



 牛肉が御法度で、余りお肉を食さないユウも満更でも無い表情を浮かべてしまう。それがあの料理の破壊力を物語っていた。



 いいわよぉ……。後少しぃ。



 素晴らしい手際の良さで、五人前の唐揚げを揚げ終え。


 余分な脂を落とし、紙袋の中に手際よく詰めていく。


 その姿は正に職人芸だ。



「お代は二千ゴールドになります!!」



 二千、か。


 えぇっと。紙幣で渡せばいいのかしら??


 取り敢えず。


 御釣りの無い様に渡すと。



「毎度あり!! アツアツだから気を付けて食べてね!!」



 店主が満面の笑みで紙幣を受け取ると、此方に紙袋を五つ渡してくれた。



 ほっ。


 上手く支払えたわね。


 何分。


 初めての経験だからちょっと戸惑っちゃったけども……。何て事なかったわ。



 颯爽と二つの紙袋を受け取り、移動を開始した。



『どこで食べる??』



 ユウが人の多さに再び顔を顰めつつ私に問う。



『ここの外周。つまり、人の波から抜け出て。馬が通る道路を渡った先の外周沿いにベンチが置かれていたでしょ?? そこに腰かけて頂きましょう!!』



 私は見逃さなかったわよ??


 あれはそういう目的で併設されているのだから。



『そういう所だけはしっかり見てんだな』


『えへへ。まぁね!! ほら!! あそこから抜けられるわよ!!』



 屋台と屋台の間がぽっかりと開き、そこから人が出入りしている所を見付ける。



『分かったから引っ張るな!!』



 ごめんね!! ユウ!! 


 早く食べたくて抑えきれないのよ!!



 我が友の腕を引っ張り、素晴らしい速さで道路を通過。



「飛び出すのはお止め下さぁああい!!」



 交通整理員の姉ちゃんの声を無視し。


 四人掛けのベンチが開いていたので颯爽と腰を下ろし、これでもかと期待感を籠めた瞳で紙袋を開いた。



『わ、わ、わぁっ!! すごぉい……。香りだけで頭が蕩けちゃう』



 袋を開けると、熱々の蒸気と共にとんでもない香りが鼻腔を通り抜け。


 頭の中に直接染み込んで来た。



 すっご!!


 何て強力な香りなのよ、コレ。



 香りだけでこうなっちゃうんだから、口に入れたら……。発狂しちゃう??



『んおっ。本当だ、いい匂いだな!!』


『お腹が空いた体が素直に反応してしまいますね』



 我が友人達も。



『あら、良い香りですわね』



 基!!


 一部を除いた我が友人達も今から始まる食に期待を寄せた笑みを浮かべている。



 ふふ、そうだろう。そうだろう??


 私が選んだ食べ物だ。


 決してハズレは無いのだよ。



 見ていても食欲が満たされる訳ではない。


 では、早速……。頂きますっ!!



『はむぅっ!! はっつ!!!! ふぁっちぃいい!!』



 カラッカラに揚げた唐揚げさんを口に入れたら、とんでもない攻撃を舌に加えてきた!!


 熱から逃れる為、一口大に切り分けたお肉を口の中でコロコロと転がし。


 必死に冷ましてあげると……。



『あふぁらぁらん……。大蒜と胡椒が絶妙だよぉ……』



 丁度良い熱に冷めたお肉を噛めば、じゅわぁっと肉汁が溢れ出し。


 舌と体が塩加減と大蒜の味に。



『合格だ!!』 と。


 満場一致で満点を叩き出してくれました。



 噛めば噛むほど胃袋がもっと寄越せと叫ぶ。


 私は無我夢中で唐揚げを食らい続けた。



『バッフォッ!! ファッムゥッ!! ンホホォォオオオン!!!!』


『発情期の猿か』



 隣で呆れた顔で私の顔を見つめながらユウが揶揄してもそれに反応する事は一切無く。


 この世に生まれた事を両親に感謝しつつ、とめどなく溢れる食欲に身を委ねながら至宝と呼んでも差し支えない唐揚げさん達を体の中に取り込み続けていた。



最後まで御覧頂き有難う御座いました。


唐揚げ。


週に一度や二度、ホカホカ御飯に添えて食べたいですよね。


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