第十七話 里の戦士達 その一
お疲れ様です。
本日の前半部分の投稿なります。
良く晴れ渡る空の下に素敵な気分を抱いたまま放り出されたらその者は一体どんな反応を見せてくれるのだろうか。
眩い光を放つ太陽を見上げて感嘆の吐息を漏らす者。
太陽の光を観客の拍手代わりに浴びて人によっては耳障りな曲調の歌を歌い出す者。
音程のずれた鼻歌を奏でながら軽やかな歩調で目的地へと向かう者等々。その者の性格によって反応は様々だ。
俺の場合は……。
「あはは――んっ。ふふっふ――んっ。今日は本当に気分が良いのさ――」
誰しもがアイツは陽気な気分であろうと確知出来てしまう程、大胆に口を開き陽性な感情を籠めた歌を奏でていた。
例に挙げた行動に酷く似た行動を取る。それは即ち大変素敵な気分に包まれている証拠なのだ。
そりゃあそうだろう。
念願叶ってハンナと一緒に行動出来る様になったし??
「おはよう、ダン。聞いたぜ?? 暴兎を討伐したって」
「おはよう!! あぁ、快刀乱麻を断つ勢いで撃退してやったさ!!」
里の者達も俺の事を認めてくれる様になったし!?
誰だって自分の功績が認められれば浮かれちまうよ。
右足を軸にクルンっと綺麗に一回転。
素敵な舞いを披露した後に里の者へビシッと指を差して己の活躍を少々装飾して話す。
「お、おぉ。そうか。嬉しいのは分かるけど余り浮かれない様にな」
「はいは――い!! 有難うね――!!」
苦笑いを浮かべて里の通りを進んで行く彼に自分でもちょいと気色悪い所作だなぁっと思える動きで手を振って見送ってあげた。
「浮かれない様に、か……」
軽やかな歩調から一転、普通の歩調へ戻して小さく呟く。
横着な相棒、鷲の里と軍鶏の里の人々から認められ。本日からハンナが日々受けている里の戦士の厳しい稽古に顔を出させて貰える許可を頂いた。
勿論、これには幾つもの条件が与えられている事を忘れてはいけない。
『俺の訓練に顔を出すのは構わんが、絶対に他の戦士の邪魔をするなよ!? 後、勢い余って稽古に参加するのも駄目だ。戦士は栄えある地位にある。貴様の様なチャランポランで大馬鹿で、貧弱な者が戦士達とじゃれ合っていようものなら里の者に示しがつかんからな!!』
早朝の稽古に出掛ける前にこっぴどく説教じみた口調で参加条件を付与されちまったからなぁ……。
まぁ従いますよ?? でもさ、基本的な訓練ならさり気なぁく参加してもいいよね??
訓練に参加させて貰える口実を頭の中に思い描いて、里の通りを歩いていると。
「……」
一人の女性が音も無く正面から現れ、無言のまま俺の前に立ち塞がった。
黒みがかった茶の髪。
女性らしい長い髪では無く、後ろの髪は肩にちょこんと当たる程度の長さ。少し鋭い目付きで鼻筋は美しく整い、顎から流れている線は思わず触れてしまいそうになる程に完成されている。
背も高く全体的にスラっとした印象を与えてくれるね。
そんな彼女が一切口を開こうとせず、只々無言を貫いて俺を見つめていた。
「え、えっと……。お早うございます」
美人の部類に属す彼女へ向かって俺が慎ましい挨拶を送ると。
「……っ」
本当に小さく頷いて初めての反応を見せてくれた。
彼女から続け様に何か言葉が出て来るかと思いきや……。
「「……」」
大変気まずい空気が俺達の間に流れ始めてしまった。
う、うむ……。一体この人は俺に何の用があるのか。それとも他に用事があるのか??
何気無く周囲を見渡すが、彼女の瞳は俺だけを捉え決して外そうとはしない。
「あ、あの。何か用ですか??」
「見てる」
ちょっとキツイ印象を与える口元から放たれた美しき声色に思わず首を傾げてしまう。
「はい?? 見てる??」
「そう。ダンを見てる」
う、うん。それは理解出来ますよ?? 先程から瞬きもしないでじぃぃ――っと俺の顔を直視してるので。
俺が問いたいのは、何故君は俺を見ているのか。その理由なのです。
続け様に問おうとした刹那。
「ダン、こんな所に居たのか」
居候先の家主兼俺の相棒が後方からやって来た。
「あ、あぁ。お疲れさん。御米を分けて貰って帰ろうとしていたんだけど……」
お腹が空いてちょいと不機嫌な口調の彼に訳を説明する為に振り返る。
「むっ……。シェファ、ダンに何か用か??」
シェファさん??
「ハンナが認めた男。ちょっと珍しいから見てただけ」
そう話すと滅茶苦茶静かな足取りで里の東方面へと歩いて行ってしまった。
何気無く行われた所作だけど、すげぇな。全く行動の起こりを察知出来なかったぞ……。
「別に俺は認めた訳では無いのだがな」
「そういうのを悪足掻きって言うんだよ。所で、今の人は誰」
ふんっと鼻息を漏らしてシェファの背中を見送るハンナの肩を抓りながら言ってやる。
「里の戦士の一人シェファだ。ちょっと独特な性格でな?? 食べ物、生物等。興味があるモノを見付けるとあぁして直視して観察する癖があるのだ」
「え?? ちょっと待って。俺って食べ物として捉えられているの??」
里の戦士である事は出で立ちと所作から何となぁく理解出来たけど、後半部分の不穏な部分に噛みついてやった。
「それは本人に聞いてみろ。午前の訓練には顔を出すのだろう??」
「あ、あぁ。見学させて貰うよ」
「言っておくが……。絶対に迷惑だけは掛けるなよ!? 貴様の尻拭いだけはしたくないからな!!!!」
ま、まぁっ!! この子ったら!!
お母さんは授業参観をして、あなたがちゃあんと真面目に訓練を受けているのか確かめなきゃいけないのよ!?
「あのねえ!! 迷惑を掛ける前提で話すのは止めよう!? 俺がお前と暮らす様になって迷惑かけた事あるか!?」
「山ほどある!! 夜中に貴様の鼾と寝言で起こされ、折角焼いてやった汎用虫は不味いと吐き出す始末。まだまだあるぞ!?」
こ、この!! 家事全般を担当するお母さんを怒らせたらどうなるのか。それをキチンと骨の髄まで分からせてやる!!!!
普段は静かな里の通りでギャアギャアと口喧しく言い合いを続けて目的地へと歩み続ける男二人。
彼等の事を良く知らない者が見れば単なる口喧嘩に見えよう。しかし、彼等を良く知る者が見れば。
『あぁ、はいはい。本当に仲が宜しい事で』
やれやれと言った温かな吐息を漏らし、朗らかな笑みを浮かべて陽性な感情を振り撒く彼等の背を見送るのだ。
彼等の口喧嘩とそれを温かく見守る里の者達。
それは良く晴れた空の下で誂えたかの様に酷く美しく映ったのだった。
お疲れ様でした。
一万文字を超えてしまった為、分けての投稿になります。
後半部分は現在編集作業中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。